prologue
これはとある少女が、いずれ起こる戦争へ巻き込まれる第1歩。
愛する兄と守るべきモノをこの腕に抱く為に、少女・大鳥母禮は故郷を立つ。
しかし彼女は知らない。
この先にある戦火の先に、自身が求めるべき真実と生、どうしようもない愛がある事など。
色は匂へど、散りぬるを。今ここに命という花は無惨にも散って逝った。
我が世誰そ、常ならむ。そう、永遠の生など無論なくとも、まだ生きたかった。
有為の奥山、今日越えて。しかし誰かはこの世は無常だと知っている。だからこそ殺せる。
浅き夢見じ 酔ひもせず。だから貴様らは夢心地を抱いて眠れ――そう高らかに嗤いながら。
「ぐあッ!」
暗闇の中で、次々に上がる悲鳴。同時に押し入れの隙間から口元を押さえて恐怖に怯える幼子。
「“荒れる時代はやがて地を喰らい、やがて何もかも血に染める”」
そう誰かが暗闇の中で、そう愉快に嗤って嘯く。
「何故、何故……お前がッ!お前がッ!」
上がる失望の声。しかし彼に絶望を与えた誰かは不気味に口端を歪ませるだけ。
次の刹那、暗闇の中で更に黒で染めるように、赤い血飛沫が舞う。
そうして、この乱世の中。今日も人が死んで、たった1人の少女の運命がいとも容易くねじ曲げられた。
そうなる事を、この誰かは分かっていながら。
しかしこの時に疼いた血がまたいずれ訪れる戦火の中で儚く“彼ら”を導き照らす『最後の希望』になる事など、幾ら聡明な誰かにも分からない。
◆
「沈姫、お前は会津に残れ」
どうして?――と彼女は彼を見上げると、彼は優しく笑う。彼女は疑問と同時に寂しさを窺わせる声音でそう返す。
しかし、彼女の兄である彼のその笑顔の裏には彼なりの苦肉な覚悟が秘めてある。
「俺は大鳥家の当主として、果たすべく義務がある。だが時代が変わった時には――……」
そう言って彼――彼女の兄である大鳥敬禮は姿を消した。
幼い少女はその先の言葉を聞く事はなかった。
何せ自身が産まれた家の宿命も幼いながらも知ってもいたし、兄がしないのであれば当主でなくとも自身でするつもりでいたのだ。
ただあの時は、どうしても苦しそうに笑った彼が心配で愛おしくて、けれども我侭が赦されるのならば寂しくて。
かといって、それが一体なんだというのだろう?
今は乱世。幸福と笑って答えられる者が少ないこの時代故に、秩序の代弁者である自分らには民を守る義務がある。だからこそ何も変わらない。
「……時代が変わったら、か」
ふと家の門の外を見れば、そこは16年生きてきた美しい故郷である会津の風景を懐かしむ視線で見渡す。
と同時に門へと向き直り、その場に彼女は平伏し、重々しい声音で彼女は言う。
「ご先祖様。これより大鳥母禮は東京へ参ります」
そう断言してはは1拍。立ち上がり、再び門へと背を向けると共に母禮は小さく呟く。
「時代が変わった時には必ず」
そんな決意にも似た誓約は、またこの暗がりの中に消えた。
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お久しぶりです、織坂一です。
Twitterでも報告致しましたが、Will I change the Fate?~Requiem~の第3章公開に先駆けて、第一部にあたるこのWill I change the Fate?をこちらでも連載を始めました。
その掲載に至る経緯は語りませんが、恐らく第二部であるRequiemを深く知る為には、欠かせないだろうというのも理由の1つです。
カクヨムに掲載している部分と違って、一部改良してありますがこちらの修正版も楽しんでいただけると幸いです。
ほぼ毎日更新の予定なので、ハチマキ締めて頑張ります