私はニートじゃない。就職活動中なんだ!
先日のeスポーツ大会、STAGE:0に影響されて描きたくなってしまいました。
「今月は、本当にこれで最後だからね」
呆れたような、悲しむような、哀れむような。
読みにくい声色で母は、私に札を一枚手渡す。
ゼロの数は4つ。
家計が苦しいことは私だって理解している。だが、これは必要経費なのだ。
「ん。ありがと」
リビングを出て部屋に戻るなり、充電器からスマホを抜き、イヤホンを挿し、アプリを開く。
毎日幾度となく繰り返してきた洗練された動き。
何も考えなくても勝手に指が動くほどだ。
リーグ・オブ・ロワイヤル。
今世界的に人気なスマホゲームで、賞金の出る大会で稼ぐプロプレイヤーもいるアプリだ。
といってもルールは簡単で、ユニット3枚とスペル5枚の8枚でデッキを組み、場に出したユニットを操作して相手の陣地にある2つの城を先に落とした方が勝ち。
ただユニットをぶつけ合うだけでなく、戦況を見極めて様々な効果のスペルを使うことで相手との駆け引きを味わえるというわけだ。
さて、このリーグ・オブ・ロワイヤル、通称LoRだが、先程言った通り賞金の出る大会がある。
世界大会にもなれば億単位の賞金が出るそうだ。
元々LoRが好きだった私が、この話を聞いたのが確か高校2年生の時。
ゲームでお金が稼げるなんて最高じゃないか!!
そう思った私は善は急げでその年の高校生大会に同じ高校のゲーム仲間と参加した。
すでにプロとして活躍する選手もいる中、私たちのチームは4位になることが出来た。
その大会は賞金が出るのは3位からだったので賞金をもらうことこそ出来なかったが、私の実力でも通用することがわかった。
そこから、私はのめり込むようにプレイ時間を重ねていった。3年生になる頃には学校に行く時間も惜しいと思い、高校を中退してLoR。
もちろん親には反対されたが、それを押し切って半ば強引に高校を辞めた。
その結果が今の生活で、食事と睡眠以外はほとんどの時間を自室でLoRに費やしていた。
その結果、私の実力は着実に上達していっていた。
だが、そこである壁にぶち当たる。
私はいわゆる無課金勢というやつで、余り強力なユニットを持っていない。
もちろんそれでも何体かは持っていた。それでも課金勢とのレベル差の前ではどうしても勝てなかった。
私はバイトはしてこなかったし、するつもりもない。そんなことをしている暇はないのだ。
少々気が引けたが先行投資と自分に言い聞かせて母に5000円貰いに行った。
母は渋りながらも出してくれた。初めて引いた課金限定ガチャでは強いカードが沢山出て感動したのを覚えている。一度あの感動を覚えると、もう私の中から罪悪感は消えていて、定期的に金銭をせびるようになっていた。
そして先日のアップデート。ついに新たな最高レアユニットが実装されたとあっては、冒頭のシーンになるのも仕方のないことである。
私は早速ゲーム内のショップ画面を開き、課金ガチャを購入。
今では少しも躊躇することなく1万円を消費できるようになっていた。
ガチャを回した結果は果たして大当たり。
新キャラを引き当てることに成功し、早速プレイ。
流石最高レアだけあってかなり強い。すごく強い。
順調に勝ち続けて私のランキングもなかなかに上がっていった。
それでも3回に1回は負けてしまうのは、まだこのユニットを使いこなせていないからだろう。
3週間後、全国大会のオンライン予選がある。
これは会場には行かず、ネットを介して家で予選に参加し、上位500名が本選に出場でき、その優勝者と準優勝者がペアを組んでアメリカで行われる世界大会に参加する権利が得られる、というものだ。
3週間以内に、このユニットを軸としたデッキを考えて、練習しておかないとな。
そう私は気合を入れ直した。
オンライン予選当日。準備は万端だった。新デッキも完成し、体調も整え、スマホの充電もバッチリだ。
予選では何度も繰り返し対戦を行い、勝つと増え、負けると減っていくポイントで順位を決める。
長時間のプレイに慣れている私は有利だと言えよう。
予選開始1分前。大丈夫。準備はした。やれるだけのことはやった。予選突破は確実だ。そう自分に言い聞かせなければならないほどには緊張していた。
それにしても、こんなに緊張したのは高校受験以来かもしれないな。
2日が過ぎ、予選が終わった。集計が終わり結果が出るのは明日だ。
流石に今日はゲームをやらずに寝るとしよう。
翌日。起きると同時にアプリを開き、結果画面へ移動する。
結果聞く人のボタンを押すと、そこにはさも当然と言うように、予選突破おめでとう!の文字が……なかった。
私の順位は51241位。かすりもしない。
「う……ああぁぁぁぁぁ」
声にならない叫びを上げる。これでは、一体私は何のために高校を辞め、LoRに明け暮れていたのか。
ふと、ランキング4位のプレイヤーの名前が目に入った。
見覚えのある名前だった。高校時代、一緒にチームを組んで大会に参加したあのチームメイトだった。
「は……はは」
もう笑うことしか出来なかった。我ながらバカだと思う。プロにも通用したと思っていたが、本当に思っていただけだったらしい。
だが。自分に才能が無かったとわかっても。
もう、今更戻れないのだ。私が今となっては無駄になった2年間は、もう戻らない。戻れない。
夕食の席。いつもはゲームの話などしない父親も、私が予選に落ちたことは知っていて、優しく、とても優しく話しかけてくる。
「なあ、もうこんな引きこもり生活はやめないか。高校中退でも雇ってくれるところは探せばいくらでもあるんだから」
何を言っているんだ。まるで私がニートであるかのように言う。
確かに私の今の実力や才能では億単位の賞金を稼ぐプロプレイヤーになるなんて無理なのかもしれない。
それでも。
私は父に、微笑みながら言った。
「何言ってるの、お父さん? 私は今、就職活動してるじゃない?」
拙い文章をお読みくださりありがとうございました。私もゲームは大好きですが、実体験ではありませんのでご安心を(笑)。
作中のアプリの元とさせて頂いたゲームやプロゲーマーを否定しているわけではありません。むしろ尊敬してます。ごめんなさい。m(_ _)m