サイレンス・アマリリス
提灯の光に揺らめく女性──『ロゼリア・シルヴェストリ』と名乗った彼女は、名前とは裏腹にどうみても日本人だ。少なくとも、東アジア系の人種であることは間違いない。肩にかかる程度の髪は、周囲の宵闇に負けず劣らず黒く──それでいて、濡れたように艷やかだ。年は成人しているかどうかといった風に見える。
「それにしても失礼だよ、君は。ボクのどこを見ればお化けと勘違いするんだい?」
「顔……かな」
「本当に失礼すぎない!?」
「や、この世ならざる美貌的な意味でさ」
「そ……そう? 褒めてくれるのは嬉しいけど、流石にそれは言い過ぎじゃないかな」
「うん、よく見返したらそこまででもなかったよ」
「それはそれでひどいよ!」
白を基調とした着流しに、これまた白い羽織を着こなして……ところどころにあしらった花の柄がなければ、まるで死装束だ。そしてなにより、この年齢にして『ボク』である。いわゆるボクっ娘と言うやつなのだろうが、実際に前にしてみると、なんともむず痒い。
「…っ! ん、んんっ……ごほんっ!」
考えてみると、一人称とは不思議なものだ。年齢、家柄、場所、時と場合によってこれほどコロコロ変わるものもないだろう。しかし十歳を過ぎても『俺』『ボク』などを使用する女性は、大抵の場合、創作物などに影響を受けた痛々しい人物という印象だ。
「…っ……っ、ぅぐぐ…!」
好きなキャラクター、あるいは好きな俳優さんなどが演じる、現実ではそうそう有り得ない所作を真似る──そう、憧れは時に自分の『イタさ』を忘れさせるのだ。それでも十代半ば程になれば、過去の汚点として葬られることがほとんどだろう。しかし彼女は十代後半……もしかすると成人しているかもしれない年代だ。彼女が自分を『ボク』と呼び続けるのは、いったいどのような理由なんだろう。興味が尽きない。
「はぅ…! うぅっ…!」
…というか、さっきから彼女……うーん……wstrフュホイJKLP;。:、mんbvcxzrせtヂュv日jんkm;lkjhgcfxdzrcゔybんkm;lxdfcgvbhkm;l,:hvbんmxfcvhbkjncvhbkjん;mlんjhjvgchfvbんkljbkhvgcvbn。
「──うわぁぁぁっ!?」
「もしかして僕の心、読んでる?」
「な、なに、今の思考──はっ!? い、いや…」
やっぱり読まれてるよね。なんだなんだ、歴史から抹消された種族とか言われながら、こんなところに居ちゃうんだ。まあルーチェの言から察するに、あまりよろしくない事情があるのは間違いないだろうけど。勘違いとはいえ、ルーチェがいきなり僕を拘束しようとした事実を考えれば──ロクなことにはならなさそうだ。
「僕、そろそろ寝なきゃ。じゃね」
「ま、まま、待ってよ! ちょっとひどいんじゃないかな!」
「いや、心を読まれるってあんまり愉快じゃないし…」
漫画やアニメじゃあるまいし『心を読まれるくらいなんでもないさ。一緒にいよう』なんて、口が裂けても言えはしない。そしてそんな感情すら読まれてしまうのだから、一緒にいればいるほどお互いが不幸になるだけだ。ならばさっさとお暇した方がいい。ああ、心配しなくても、君がそういう種族だってことは吹聴したりしないからさ。じゃねっ。
「──逃がすもんかぁ…!」
「ぬぐぐ…! ね、年齢を考えて行動してくれないかな」
脱兎のごとく逃げ出そうとした僕に、全身でしがみつく彼女。幼児が足にしがみついてくるのと似ているが、大の大人がしていい行動ではないだろう。人の目はないにしても、もう少し外聞というものを考えた方がいいぞ。
「ボクにはわかる! 君は良い人だ!」
「確かに僕は良い人だけど、限度はあるんだよね」
「──不愉快な気持ちが、ボクに読まれて……それでボクが悲しむから! 逃げようとしてるんだろ?」
「わかってるんなら放してくれよ。お互いにとってよくないのはわかるだろ」
「…その思いやりの心だって読める。そう思える人は貴重だから、だから……むしろボクは嬉しいんだ」
「いや、僕が不快だって部分は解決してないんだけど」
「我慢してほしい」
えぇ…? というか、心を読める人ってこう……なんて言えばいいんだろう。もっとアンニュイな感じにならないのだろうか。シニカルでひねくれ者で、ピカレスクかつ偏屈者なイメージなんだけど。なんだこのアグレッシブさは。さとり妖怪でも見習ってほしいものだ。
「他人に勝手なイメージを持つのはよくないよ。これがボクなんだから……ああ、君にはもっとよく知ってほしいな」
「…あのさ、出会って数分しか経ってないんだぜ? 僕に執着する意味がわからないんだけど」
「さっき言ったよ。君みたいに思ってくれる人は貴重……ううん、はっきり言うと初めてだ。友達になってほしい──そう思うのは自然だろ? この街へ来るまでに五つの村へ寄ってきたけど……ボクが心を読めるって知ったら、例外なく追い出そうとしたしね」
「…同情を誘おうったって、そうはいかないぜ。そんなこと聞いたくらいじゃ、僕の心は揺らがない」
「めちゃくちゃ同情してるけど!?」
「くっ……なんて厄介な能力なんだ」
なんて可哀相な娘なんだ。友達になってほしいというのなら、友達になってあげたい気持ちはある……しかし、しかしだ。彼女と友達になるということは、喜怒哀楽の全てが見透かされ、些細な感情の機微も把握されるということだ。履いている下着の色から、手持ちのエロティカルな諸々、そして性癖の全てを詳らかにされるということだ。
──そして過去の全てを暴かれるということでもある。他人、友達、恋人、家族……段階によって知られてもいい、知ってほしい情報は変わるものだ。少しずつ距離を埋めながら、互いを知っていく過程こそが、信頼と信用を厚くするのだ。それをすっ飛ばして全てを知られてもいいなんて、初対面ではどうしても思えない。心苦しくはあるが、それが偽らざる本音だ。
「ちょ、ちょっと勘違いしてるよ? ボクが読むのは『心』。『記憶』じゃない。君が年がら年中、過去を思い返してるとかならともかく…」
「そうなのかい?」
「そもそも、人の思考なんて常に漠然としたものだよ。言葉にする段階で、ようやくはっきりと形作られるんだ。わかりやすくいうなら、ボクが読むのは雨垂れや耳垂れがつくような、短い感嘆の感情がほとんどさ」
「うーん…」
「そういう意味でも、君は珍しい人だよ。常に思考を巡らせて、発する言葉を先に考えてから口にする。とても理路整然とした思考形態だ」
雨垂れや耳垂れ──要はビックリマークやハテナマークが付く類の、ふとした驚きや疑問が、彼女の読心のほとんどを占めるということか。確かに、日常でいちいち過去を思い返しているような人物はあまりいないだろう。
しかし人間は唐突に記憶が湧き上がることもあるし、プルースト現象なるものだってある。音、匂い、味覚などと紐付けられていた記憶が、それらによってフラッシュバックする現象を指すものだが──例えば、そうだ。
食パンを食べる時に、いつもエロいことを考えていたとしよう。その際、いつも同じ音楽を聞いていれば……人はその全てを関連付ける。
つまりその音楽を聞いただけで、食パンの味とエロスが鮮明に思い返されるのだ。そして彼女は、いつでもその記憶を覗き見ることができる。とんだ変態だ。
「いわれのない誹謗はやめてくれないかな!?」
「でもさ、僕は君のことを何一つ知らない。そんな人に心を読まれて、どんな気持ちになるか……わかるだろ?」
「う、で、でも…」
「誰だって平等じゃないんだ。君のそれはハンデとも言えるし、長じているとも言える。でも捨てられるものじゃないんだろ? なら上手く付き合っていかなくちゃ。嫌がる人間を追い求めるより、君を心から受け入れてくれる人を探す方が、きっといいさ」
「──そんな『いつか』より、ボクは目の前を優先したい」
「…やめてくれ。これ以上は、嫌いになる」
「っ…!」
誰とでも友宜をかわせる──そんなのは夢物語だ。人間である以上、どうしたって合う合わないはある。僕はその許容が広い方だけど、今回ばかりは厳しいものがある。
「…ごめんね」
「なんでもするよ…! おっぱいだって触ってもいいから…!」
「オーケー、今から君と僕は友達だ」
「嘘すぎない!?」
「そんなことないさ」
「──ボクの切実な願いとか……思いとか! おっぱいより下なの!?」
「いいや、違う。君の切実な願いや思いが、おっぱいと共に響いたんだ」
「イヤすぎる!」
「君の言葉が、想いが、僕に届いたのは事実だよ。心を読むだけじゃ、読まれるだけじゃ響かない……言葉にして初めて届くものがあるんだ。僕の心を変えさせた、自分を誇って胸を出せばいい──じゃなかった、胸を張ればいい」
「欲望ダダ漏れだよ!」
でもさ、『なんでもする』じゃなくて『おっぱい触ってもいい』の部分を拾っただけでも、結構な譲歩だと思うんだよ。そこは僕の自制を褒めてほしいものだ。高校生の時の僕なら、迷わず前者を選んでいたことだろう。
「え、えっと……触ってもいいとは言ったけど、今すぐとは言ってないよ。友情ってそんなすぐに育めるものじゃないから、その──もう少し仲良くなってから、ね?」
「…」
「…ダメ?」
「いいよ。ただ利息はトイチね」
「なんの利息!?」
「十日ごとに0.1おっぱいが加算されて、それを元おっぱいにも含める……いわゆる雪だるま式ってやつだね」
半年も経てば五倍以上に跳ね上がる、恐ろしい計算方法である。しかし約束した以上は、守ってもらう他ないだろう。条件を後付けしてきた以上、何かを差し出すのは当然の話だ。友人だからこそ、こういう部分はきっちりすべきなのだ。貸し借りをなあなあにして、一方が得ばかりする関係は、いずれ破綻してしまうものだ。
「じゃ、改めて……僕は沙羅双樹。よろしくね」
「うん、よろしく。さっきも言ったけど、ボクは『ロゼリア・シルヴェストリ』。親しい人はロゼって呼ぶよ──い、いい、いまっ! 『親しい人なんているの?』って思ったよね! ひどいよ!」
「親しい人なんているの?」
「口にまで出した!」
「…ああ、家族とかか。ごめんごめん、思い当たるのが遅かったね」
「謝りどころに物申したい…! 合ってるけど、合ってるけどさ…!」
「とにかくよろしくね。ゼリ」
「なんでそこ!? ロゼでいいじゃないか!」
「や、あんまり親しくなるのが早いとおっぱいも増えないし…」
「増えなくていいよ!」
さて、そろそろいい時間だし、戻るとしようかな……はて、そういえばロゼはどこに泊まっているんだろう。というかよく考えたら、素性と現状くらいは聞いておかないと、ルーチェと出会った時に一悶着ありそうだ。
「…! ルーチェ……『ルーチェ・ルミナリア』?」
「ああ、うん。知ってるのかい?」
「…ボクたち“イニマ”で知らない人はいないだろうね。そもそもとして『ルミナリア一族』自体、すごく有名だし」
「ふぅん…? そうなんだ」
「むしろ原種なのになんで知らないの? …というか、原種がこんなところにいる時点でおかしいけどさ。どうやって来たの?」
「ん? そうだね…………ほい。理解できた?」
「できるか!」
「えぇ…? せっかく今日一日を振り返ったのに…」
「あ、あのねぇ……双樹はさ、早送りとスキップだけで映像が理解できるのかい? 頭の方は普通の人と大して変わらないんだよ? 他人が体験したことを理解しようとするなら、同じくらい時間がかかるものなの!」
「うーん……意外とショボい能力だね」
「失礼な!」
「ちょっと待ってね。わかりやすくかいつまんで、頭の中で纏めるから」
「いや、それ結構すごい…」
道をてくてくと歩いていたら、光と共に周囲が変化して──そこは見知らぬ大森林。よくわからない植物に捕まって、助けてくれたのは可愛らしくも頼もしい浮葉の子。会話している内に理解できたのは、未来だか平行世界だかといった荒唐無稽な現実。
湯屋での一件、コタ君との出会い、桃千代たちとの出会い、そして混浴。様々な大きさのおっぱい。ラリカの異常な食欲と、質量保存の法則を無視した胃袋の謎は、そういえばまだ聞いていなかったな。
狂方病の一件と、それに付随する諸々の事情。ルーチェとの出会い。大きさの割に柔らかかったこと。そして人々を救うために中央へ向かった三人との別れ──再会の約束。寝付けずに外へ散歩に出かけ、今に至る。
「…へぇ。『ルミナス』の三人が来てるのか」
「ルミナス?」
「チーム名だよ。彼女たちの」
「──ああ、そういえば有名なんだっけ」
「有名も有名さ。“解放者”の直系が二人……なのに、もっとも実力が高いのは浮葉の子。色んな意味で、有り得ないチームだよ」
「…」
「…っ! べ、別にわざとわかりにくく言ってるわけじゃないよ! 意味深な方がカッコいいとか、思ってないから! やめっ、あっ……そんな風に思わないでほしいな!」
「…」
「い、Eもないよ! Dカッ──ってなに考えてるんだい!?」
今の状況をはたから見れば、ロゼが一人で喚いているだけの異常者にしか見えないな。まあそれはともかく、解放者やらなんやらの説明をさっさとしてほしいものだ。いちいち情報を小出しにしたところで、カッコよさには繋がらないぜ。そういうのが許されるのは、週刊雑誌の引きくらいのものだ。
「だから違うって!」
「それで、解放者っていうのは?」
「…もう。ええと、解放者っていうのは──つまり異世界の核を解放した人間のことだよ。『エアズハート』『黄金林檎』『ロホ・アラーニャ』『ヴィス』……無機物、生物、非物質と様々だけど、それらを壊した人間は、例外なく強大な力を体に取り込めるんだ」
「ふむふむ」
「そしてその強大な力は、遺伝する。『ルミナリア』『クルトクルン』『サンタクロス』……このあたりの姓を持つ人間は、生物としての格が違うんだ」
「『シルヴェストリ』は?」
「…っ、そ、うだね……うん、シルヴェストリも、そうだよ。一族なんて言うほど人数はいないけどね……あのさ、ちょっと察しが良すぎないかな」
「勘がいいとはよく言われるね。しかしなんというか……ジャンプ漫画並みに血統が重要そうだねぇ」
「ジャンプ? …へぇ、週刊雑誌……ははぁ……面白そうだね」
「…今はないのか。ちょっと残念」
「一度、文明が崩壊しかけてるからね。残ったものも多いけど、失われたものも沢山ある」
…さらっと驚愕の事実を聞いてしまった。第三次世界大戦がどうのとフルが言ってたけど、それに関係しているのだろうか。どこかの学者が『第三次世界大戦は核の撃ち合い、第四次世界大戦は石の投げ合い』だと言っていたが、流石にそこまでは衰退しなかったのかな。
「そうだね、人類はそこまで馬鹿じゃない……と言いたいところだけど、たぶん異世界の発見がなければそうなってたんじゃないかな」
「なるほどねぇ…」
「そう、それで──話を戻すけど、血統についてさ。解放者の血を引く人間は、身体機能も能力も高くなる傾向にあるし、直系ともなると間違いなく強者として生まれることになる。血統から外れた人間が、受け継ぐ人間に勝ることは稀だ」
「ふぅん……そうなると、フルはどうなのかな? さっき『フリット』の名前は出てこなかったけど」
「そう、だから『有り得ない』って言ったのさ。一般人が解放者の血族を打ち負かすことはあるけど……それは前者が一般の枠組みで天才と呼ばれ、後者が血族の枠組みで無能だった場合くらいだよ。原種で言うなら、大人が幼児に負けるくらいの珍事さ」
「へぇ……あれ、でもフルは──自分のこと、かなり強いって言ってたけど」
「かなりなんてもんじゃない。フル・フリットは、解放者本人である『ルーカス・ルミナリア』と引き分けるほどの、世界有数の実力者だ」
…なるほど。『フリット』は解放者の血を引いていない……けれど『フル』は世界有数の強者。そこから導き出される答えは、ただ一つ。きっと母親が一夜の過ちを犯してしまったんだろう。薄い本よろしく『ああっ、だめ、私には愛する夫が…!』みたいなシーンがあったのかもしれない。
「だいぶ失礼なこと考えてるよ!?」
「え、でも種違いか腹違いか取り間違いくらいしかないような…」
「そういうことじゃないんだよ。地球には『解放者の血を引く浮葉』はいないし、異世界でも確認されてないんだ」
「…つまり、浮葉って種族には──フル以外に『絶対的な強者』がいないってことかい?」
「だね。まあ浮葉って種族自体、平均的な身体能力が高いから強者は多いけどね」
つまり“ダストパイル”の解放者はいない……ってのは違うか。入口が解放されてる時点で、誰かしらがそれを成したのは確かだ。だとすればその解放者が子供を作らなかった、あるいは作る前に死んでしまった線が濃厚だろうか。でもそれだとフルの説明がつかないし…
「ま、そのあたりは本人に聞くしかないんじゃないかな。本人が知っていれば、だけどね」
「…」
「やだな、わざわざ質問したりしないさ。詮索屋は嫌われるって言うしね──ふぁぁっ!? 『じゃあ君は嫌われるしかないじゃん』って……ひどすぎるよ!」
「…」
「──っ! つ、都合が悪くなるとエッチなこと考えだすのやめてくれないかな!」
「…」
「せめてボクを出すのはやめてくれ! ──っていうか胸のボリュームがおかしいんだけど!? あ、あ、ちょっ、そんなとこまで…!」
うーん……今までの人生でそういう思考と無縁だったとは思えないんだけど、妙にウブなのは何なんだ。男なんて、起きてる時間の四分の一くらいはエロいことを考えてるもんだ。それとも、人と関わらずに育ってきたとでもいうのだろうか。
「…ふ、ぅっ……はぁ、んっ……ん、その通りだよ。ボクたちの種族は一般に認知されてない……というか、むしろ秘匿されてる。異世界“セクシュ”の奥で、ごく少数がひっそり生き残ってるだけだしね」
「セックス?」
「セ・ク・シュ!」
「うーん……じゃあなんでロゼはここにいるんだい? ルーチェの反応から考えると……ああ、そうだ、『生き残りか!』なんて言ってたし……見つかったら面倒なことになるんじゃないの? 穏やかな接触とはいかなさそうだよね」
「…外の世界に、憧れて。父さんや母さん以外の心に触れたくて。どれだけ危険があっても、どれだけ悪意にさらされても──未知への憧れには勝てないんだ」
「…」
「──なんでおっぱいのこと考えてるの!?」
「や、なんかちょっと恥ずかしくなったからさ」
「おっぱいの方が恥ずかしいよ!」
「じゃあ君は、常に恥ずかしいものをぶら下げて歩いてることになるね」
「うぐぅ…!」
しかし『危険にさらされても』ということは──もしかして、ルーチェに見つかったら本気でまずいんじゃなかろうか。殺される……なんてことは流石にないよね? そもそも、何をもってロゼたちの種族を危険と判断してるんだろう。心を読む能力……まあ迫害されるには充分すぎるっちゃすぎるけど、危険かと言われれば、首をかしげるところだ。
「…色々とあるのさ」
「──ロゼ。隠し事はナシって約束しただろ?」
「してないけど!?」
「そうだっけ? ま、言いにくいことは言わなくてもいいさ。僕の方は強制的に知られちゃうわけだけど、言いにくいことは言わなくていいよ」
「ぅぐっ…! ………本当に気にしてないのは助かるんだけど、それならわざわざ皮肉ることないじゃないか。意地悪だな、君は」
その年で頬を膨らませるのはどうかと思うが……それより、聞きたいことが一つだけある。ルーチェが戻ってきた時、どうなるのかってことだ。どう足掻いても争いになるというのなら、会ってほしくはないんだけど。
「さてね、あっちの出方次第さ。でも、そうだね……いい機会だし、先祖の恨みをここで晴らすのもいいかな──」
「…」
「──なんてね、冗談さ。罪悪感から逃げるために百年も引きこもったんだろうし……傷口に塩を塗り込むような真似はしないよ」
「──」
「…っ! あ、ご、ごめん……悪意を吹き込もうとか、そんなんじゃなくて…」
「本人のいないところで否定的なことを言うのも、聞くのも嫌いなんだ」
「う、うん……ごめん」
「利息。トイチから、カラス銭にするからね」
「うん……えっ、それはおかしくないかな!?」
「え? …ああ、ごめんごめん。カラス銭じゃなくてカラスおっぱいか。一日一割だから……半年も経てばいつでも揉み放題だぜ。やったね」
「勘弁してほしいんだけど!」
正直、彼女たちの邂逅には不安しか残らないが……まあなるようになるだろう。なるようにしかならないとも言える。もし諍いが決定的なものになってしまった場合は──ああ、その場合は……強い方につくとしよう。
「ひどくない!?」
「水は低きに流れ、人は易きに流れるものさ」
「それ迎合しちゃダメな言葉だよ!」
…ま、二人がどうなっても友達は友達だ。知らない友人同士の仲を取り持つのも、友達の努めってやつだろう。ルーチェが戻ってくるまではまだかかるだろうし、それまでにもう少し色々と聞ければ、妙案でも思いつくかもしれないし……頑張りますかっと