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闇は懺悔し愛された  作者: 日々夜
2章 闇は聖なる僕と共に眠る
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2章 闇は聖なる僕と共に眠る 8

 なんでこんなことになってしまったのだろう。ファランはベッドに横になりつつ頭を抱えた。

 最初は神殿の長椅子で寝ようと思っていたのだ。いつも昼寝をしている場所だし、床で寝るよりはましだ。毛布にくるまってしまえばきっとどうにかなるだろう、と。

 しかし予想通りというかなんというか、ナガレに猛反対された。女神に不敬だし、風邪でも引いたらどうするのだ、と。

 その結果、最悪の状況がファランに訪れた。

 居心地の悪さに身じろぎした途端、背中に人肌を感じてぞっと鳥肌が立つ。今背後にいるのはよりによってクロフォードだ。

 確かにファランのベッドはセミダブルだし、ナガレのベッドよりはなんとかなるかもしれないけれど、何が悲しくて男と背中あわせに密着しなければいけないのか。

 これでは眠れるものも眠れない、と言いたいところではあったのだが、そこはさすがに疲労が頂点に達していて、いったん横になってしまえば起き上がることも難しかった。過去の資料を漁る名目でベッドを抜け出そうと思ったのにできそうにない。

 ファランは観念して目を閉じた。呪文のように平常心平常心と唱えていればきっと眠気も訪れてくれるだろう。

 しかしその時背後で身じろぎする気配がした。クロフォードが寝返りを打ってこちらを向いたのだ。ぞっとする生暖かい呼吸が首筋にかかって、声にならない悲鳴があがった。

 なんでこっちを向くんだあの男は。せめて反対を向いてくれと心の中で叫ぶ。ちょうどクロフォードがこちらを向くと、体格差でファランは抱きすくめられるような体勢になってしまう。もう今にも顔を覆って泣きたくてたまらなかった。こんなところ絶対にナガレには見られたくない。

 しかもさらに最悪なことが起きた。

「祭司様、起きていらっしゃいますか?」

 突如明瞭な声で呼びかけられた。これは寝ぼけてのことであるはずがない。

 まさか、と最悪の可能性がファランの脳裏をよぎり、思わず震える体をかき抱く。本能から恐怖がこみ上げた。油断すれば確実にヤられる。

 どうにかして逃れなければ。しかしクロフォードと壁にがっちり挟み込まれてしまって身動きすらできない。せめて逆側だったら、ベッドから転がり落ちることもできたのに。後悔しても今更遅い。

 だからといってこのまま何もしないのでは、ファランに貞操の危機が訪れてしまう。そんなことはもっと冗談じゃない。

「あの、実は祭司様に、お伺いしたいことが、ありまして」

 もしよければ少し話を聞いてもらえないだろうかと、声の調子を落として打ち明けるクロフォードは、案外まともな感じだ。しかしそう言って油断させる腹積もりかもしれない。

「お、お話でしたら今日は夜も遅いですし明日ではだめでしょうか」

 警戒は解かずそう促してみたものの、返ってきたのは沈黙のみで、様子がおかしい。とりあえず今のうちに、手の中に護身用の印を描いておく。呪文と違って印は、簡単な魔術を準備しておけば無詠唱に近い状態で発動できるのが利点だ。

 いざとなったらこれを押し付けて気絶させようと思った矢先。

「ナガレくんについて、なのです……」

 どきっとした。まさかこの状況でクロフォードからナガレのことについて言い出されるとは思わなかった。

 真面目な話なのだろうか。でも、あえてこの状況でそれを言うか? 自問してみても、相手がクロフォードだと言うことを考えるとなんとも言えない。とにかくこの男は不器用で、やることなすこと常識外れだが、いたって生真面目だ。それはこれまでのやりとりでもわかる。

 今回の件もそういう生真面目さと世間ずれの結果だという可能性はある。話を聞いてみないことにはなんとも言えない。

 それでもし、クロフォードとナガレの関係がファランの予想通りだったとしたら。昼間はナガレが起きているから、ファランとしてもそんなことは絶対に本人には聞かれたくはなかった。

 だからといってこの状況で真面目な話を聞くというのは、あり得ない。

「とりあえずお話というなら起きませんか」

「それでは祭司様がお疲れではありませんか? 私はこのままでも構いません」

 こっちが構うんだ! と叫びたくても叫べないのがもどかしかった。意味のわからない気遣いはしないでほしい。けれど事実、疲労困憊で起き上がるのはとても億劫だ。

 ファランは半ばヤケになって諦めた。

「わかりました。私が答えられる範囲でならお答えいたしましょう」

 ほっとクロフォードが安堵するような息を吐き、それがまた首筋にかかってゾワっとファランの全身に鳥肌が立った。

「実は」

「あの、その前に反対側を向いてもらえませんか」

 言いかけたところで止められて、クロフォードが首を傾げる。本当にこの男はどこまで鈍感なのか。

「首、あなたの息がかかってくすぐったいんですよ……」

 なんでこんなことを言わなきゃいけないんだ。思わず首筋をさすってしまう。とてもじゃないが恥ずかしくてたまらない。

 しかもふざけたことにクロフォードは、さらにファランの気に触ることを平気で言ってのけた。

「ああ、だからさっきから首筋がほんのり赤くなってらっしゃるんですね」

「ち、ちがいます! これはこんな狭いベッドに二人だから暑いだけです!」

「大丈夫です。祭司様の弱点は、決して他の方には口外致しません」

 全力で否定するファランを見て、笑いを堪えながらクロフォードは背を向ける。最悪だ。屈辱以外の何物でもない。完全に勘違いしているではないか。

 こんな男大嫌いだ。やっぱり話なんて聞きたくない。

 ファランは頭から毛布を被り、未だ肩を震わせるクロフォードを軽く蹴っ飛ばした。

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