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セラフィン・バニー 5

作者: 葛城 炯
掲載日:2008/12/20

 長耳ウサギはバニーガール。メイドもいる?

 惑星調査員であるオレはセラフ星に来ている。

 惑星調査員同士の武勇伝である「現地の材料でハンバーグを作って食べる」というコトに関しては貴重種候補のキョクハヤブサ、さらには貴重種当確かもしれない兜マグロのステーキなぞも食すことができてかなり満足している。

 当初の材料候補であるウサギ島の長耳ウサギは……狩猟許可を得ているにもかかわらず、未だに仕留めていないというか仕留めるつもりもなくなっている。

 何故かというと……見た目がバニーガールだからだ。

 カメラを通してみればちゃんと耳が長いだけのウサギに見えるのだが、肉眼では小さなバニーガールそのもの。

 精神感応能力だかなんだか知らないが、迷惑きわまりない。

 とはいえ……

 その中の1人、いや1匹であるセラに懐かれているのは……孤独に耐えなければならない惑星調査員という職にあるモノの1人としては得難いとも思っていたりもしているのは否定しがたい事実だ。

 ……オレは一体誰に遠慮して回りくどい言い回しをしているのだろう。


「……まいったね」

 ここ数回、宇宙食以外のモノを口にしては体調を崩している。その原因を探るべくその時々に食べた食材を再検査してみたのだが……何も原因はない。

 昨日の兜マグロのステーキにも何も原因物質はなかった。

 となれば原因は1つしか思い浮かばない。

 ヌル・アレルギー。

 原因が食材にあるのではなく、普段食べている宇宙食にある。宇宙食以外のモノに対して発生するアレルギー。

「惑星調査員も……この星が最後かね」

 このアレルギーを治す方法は1つ。宇宙食を食べずにすむ環境に居続けること。つまりは宇宙食に依存しなければならない職には就くことができなくなる。

 つまりは「時が来た」ということ。

 それだけだ。


 その日も朝の仕事を、じゃなくて朝にしかない仕事を終えて外に出てみると……何やら騒がしい。

「みっ! みみっ! みーっ!」

 セラが仲間のバニーガールを追いかけている。

「どした? セラ。追いかけっこか? って、あーっ!」

 オレの言葉が感嘆符で終わったのは事態を把握したが故。

 数日かけて干していた小魚の開きが地面に散らばっている。さらにはあちこちと囓られている。干し場をみれば角竹で作った柱の1つが倒れている。

 どうやら、夜中に吹いた風か何かで柱が倒れ、バニーガール達、じゃない長耳ウサギがこれ幸いとばかりにほぼ干し上がっていた小魚の開きを失敬。それをセラが見つけて開きを守ろうと追いかけっこ。

 ……そんなところだろう。

 ちなみにだ。長耳ウサギは実体としては耳が長いだけのウサギだが食性としては雑食。主食は草なのだがなんでも食べる。草を食んでいるオオバッタなんかも見つけては囓っているし(これは主食である草を守っているとも言えなくもない)、ハンバーグやらステーキの端っこのみならず、イヌやネコやウサギに食べさせたら命が危うくなる香味野菜の一種も平気で食べる。というか好物らしく時折セラにせがまれたりもしている。

 蛇足だが、仕草としてはネコに近い。手首とかの構造からすればリスに近いとも思えるのだが。

 兎に角だ。

 小魚の開きは全滅。追いかけ回していたセラは申し訳なさそうにしょんぼりしている。

 ……まぁ、それは焼いた小魚の開きのおこぼれに預かろうとしていたのに、仲間に邪魔されたという失望からかも知れないが。

「み〜」

 頭を垂れて謝罪するセラの頭をぽんぽんと軽く叩く。

「仕方ないさ。終わったことだ。また獲りに行けばいいさ」

 慰めると……コッチが言っていることの内容を論理的には理解はしていないだろうが、感覚的には理解できるようで、にっこりと笑顔で顔を上げる。

「みっ! み!」

 精神感応能力があるというのはいいことだなと思ってしまう。

「んじゃ、昼頃に……ん?」

 ふと下を見ると……長耳ウサギの子どもがいた。

「なんだ?」

 ぼーっとした雰囲気でじーっと見上げている。

「……これが欲しいのか?」

 あちこち囓られた中から比較的原形を留めているのを目の前にかざす。と、コクコクと小さく頷く。

「こんなんで良ければあげるよ」と、手渡すと両手で受け取り、ペコリと頭を下げてささっと走り去った。そして途中で立ち止まっては振り返ってコクコクと頭を下げてはまた走り出す。

「ははは。なんかそんなに大層なモノじゃないけどな。ん?」

 あれ? 変だな?

 何かが変だともう一度、長耳ウサギの子どもを見ると……ウサギだった。

 いや、長耳ウサギはウサギなのだが、見た目はバニーガールのハズだ。だが、今手渡したのはウサギの姿のまま。

「つまり? ……子供のうちは精神感応能力がまだ無いのか?」

 問い掛けても誰も応えるモノはいない。セラを見ると「み?」ときょとんとしているだけ。

 まぁいいか。

「さて、新しいのを作ることにしたから……ほれぇっ!」

 地面に落ちている小魚の開きを集めてまとめて草原に放り投げる。

 ……と、思わぬコトだったのかバニーガール達は一瞬戸惑っていたが、直ぐに開きを奪うようにして持ち去っていった。

「ま、電磁麻酔銃を持って追いかけたりもしたからな。せめてもの罪滅ぼし……ん?」

 心の中の小さな棘抜き取るために手荒くプレゼントした時、鋭い視線に気づいた。

 「……アレは?」

 視線の先を探ると……小高い丘の上。そこにローブを纏ったバニーガール、じゃなく女王のような姿があった。

 素早くテレスコープゴーグルで確認すると……長毛種っぽい長耳ウサギ。

「長毛種だから……ローブを纏っているように見えたのか?」

 女王の横にあの子どもが辿り着くと……女王は深々と礼をするかのように頭を下げ、草の中に姿を消した。

 ……ウサギなのだから歩く時は四つん這い。礼をしたように見えたのはただ単に歩き出すために屈んだ所為だろう。

「アレは……オマエ達の長か?」

「み?」

 セラに尋ねてもやはりきょとんとするだけ。

 ま、野生動物なのだから気にしないでおこう。



 そんなこんなで近くの岩浜で小魚獲り。

 潮の干満の差はかなりあって、小魚は潮溜りに取り残されて結構ある。まるで生け簀状態。少なくともこの星を離れる時までは魚には苦労しなくてすみそうだ。

「セラ。燻製って食べたことがあるか?」

 セラは籠の上で辺りを見渡している。まるで見張り番気取り。その様子に思わず声に出して聞いてみた。

「み?」

 意味としては「それは何?」だろうか?

「食べたことがないだろう?」

 そりゃそうだ。火を使ったことがない野生動物が燻製なんぞを食べたことがあるわけがない。

「今日獲ったので作ってやるよ。んまいぞ〜」

「みっ!」

 美味しいというところ辺りは理解しているようで嬉しそうに微笑む。

 ……我ながらバカな会話をしているとは思う。

「ん? どした?」

 何気に振り返ると浜への降り口辺りにあの子ウサギがいた。コクコクと頭を下げている。

「魚、欲しいのか?」

 コクコクと頭を下げる。ならばと捕まえた中から小さな兜マグロの稚魚っぽいのを一匹選んで放ってみると……両手で捕まえて立ち上がろうとしたのだが、それでも子ウサギには大きすぎたようで転んでしまった。と、今度は口で魚の尾っぽ辺りを咥えて……こちらに運んでから両手で差し出した。

「それはおまえに上げたつもりなんだが……」

 なんかイヌにボールとかを投げた時のようだなと思いつつ、セラを見ると……ゼスチャーで何かを伝えようとしている。

 下を見れば……何かを訴えるかのようにぼーっとしたような視線でじーっと子ウサギがオレを見つめている。

「……ん〜。干したのが欲しいのか?」と言葉にすればセラは飛びっきりの笑顔でオレを見ているし、下の子ウサギもコクコクと頷いている。

 ……なんか、言葉の通じない外国にいってボディランゲージで会話しているようだ。

 コイツらにそんな高度な知能があるのか? と、疑ったのは一瞬。まぁ、イヌやネコでも人間で5〜3歳ぐらいの子ども程度の知能はあるという説もある。長耳ウサギにも同じ程度にはあるのかも知れない。気にしないでおこう。

「わかった。できたらコイツを進呈しよう」と声に出すと朧気には理解できたようでコクコクと頭を下げてから降り口辺りに移動してコッチを見ている。

 早く帰って干そうと言いたげだ。

「確かにそろそろ帰るつもりだったけど先導していただけるので?」

 それから子ウサギはオレ達の先を歩いては何度も振り返っていた。



 獲った小魚を捌いて開きにして干す。

 兜マグロの稚魚は4つに下ろした。

 柱を2本立てて紐を渡しただけの干し場は修復する時間がないので、まだ立っている方の柱に開いた小魚を入れた籠を吊すだけ。

 その籠を子ウサギは何か魔法の籠かのようにじーっと見ていた。

 見ていたからって早く干し上がるというわけではないぞとは思うのだが。ま、野生動物にとっては不思議な工場見学みたいな感じなのかも知れない。

 キョクハヤブサ除けに建てたラティスもあるし襲われることはないだろう。上空を見上げても姿は見えない。

 オレはそれから柱を修復するためにセラと共に角竹を取りにいった。



 夕暮れ時に数本の角竹と角竹の葉材で籠に編んだのを担いで戻ると……子ウサギは相変わらずじぃっと小魚の開きとかが入った籠を見ていた。

 両手で草を持って食べながらだったが。

「そんなに見ていてもまだ生乾きだよ」

 説明しても判るわけがない。

 1つ手にとって、見せてみる。

「ほら。まだ生に近い。干したのが欲しいんだろ? また明日な」

 明日になってもでき上がるとは限らないが、実物を見せて言葉にすると子ウサギは納得したようでコクっと頷くとささっと草の中に走っていった。で、変わらず何度か振り返っては何度も頭を下げている。

「あれは……癖なんだろうな?」とセラに問い掛けてみてもセラに判るわけもなく「み〜」と困り顔で鳴くだけ。

 そりゃそうだ。

 元から会話が成立しないのはオレも自覚はしているさ。



 次の日。

 仕事を終えてタラップを降りるとあの子ウサギとセラが並んで出迎えてくれた。というかセラが子ウサギの毛繕いをしようとしているようなのだが、子ウサギはなんか嫌がっているようで小さく逃げているようにも見える。

 だがその視線の先は……柱。

 籠が掛っていないのが悲しいのか、随分と物憂げな視線だった。

「ああ、籠か? また柱が倒れて別な誰かに横取りされないように仕舞ってあるだけさ」

 着陸船の台所から籠を取り出して柱にかけると……驚いた後にほっとしたような視線で……やはりじーっと籠を見ている。

 オレは子ウサギを放っておいて干し場の修復に取り掛かった。


 昼前には干し場の修復が終わった。

 さて、昼飯にしようかと見れば……やはり子ウサギはじーっと籠を見ていた。

 やはり、両手で草を持って食べながらだが。


「はいはい。判りました。もうちょっと待っていな」

 オレは数枚の開きと切り身を取って着陸船の台所へと向かった。



「はい。お待たせ」

 子ウサギの前に置いた皿の上にあるのは兜マグロの切り身の燻製2つ。

「とっておきのチップで燻したヤツだ。味も良くなるが香りも良いだろ?」

 ハンバーグに飽きたら腸詰めを作ったりもする。ま、都合良く手頃な腸が手に入るとは限らないから、大抵は干し肉の燻製とかになるのだが。オレとしては既に血眼で動物を狩猟するつもりもない。

 帰りは荷物を軽くしたいが故に使ってしまうのが一番。

 子ウサギは暫く鼻をひくひくさせていたが……不安げな瞳でオレを見上げた。

「食えるのか? と言いたげだな?」

 仕方ないので少し千切って自分で囓ってから差し出す。

 オレが囓ったのを見てから少しは安心したのか、ちょこっと囓る。

 と、ビックリ眼でオレを見上げた。

「ふふふ。美味いだろ?」

 言ったことが判るのかコクコクと頷く。いや多分、それは単なる癖だろうけど。

 もう一口囓ろうとしてオレの指ごと囓ったのはちょっとだけ怒りたかったが、相手は野生動物。しかも子どもだ。それに「ごめんなさい」というかのように傷口を舐めているし。

「ははは。気にするなこんなのは薬ですぐに直る。じゃ、遠慮無くコイツを持っていきな。昨日、帰り道を護衛してくれた御褒美ということで」

 子ウサギは千切っていない方の燻製を受け取ると飛ぶようにして、いや、ウサギだから跳ぶのは当然なのだが、草むらへと消えていった。


 ……その後でオレはセラに引っかかれて咬み付かれた。

 どうやら先に子ウサギに与えたのが気に入らなかったらしい。まるで飼い猫が新しい仔猫を家に入れた時のような反応。

「怒るなよ。まったく……」

 もちろん、セラ様にも食べていただきました。

 食べると機嫌が良くなるのは……人間も一緒だなとは思う。



 次の日。

 仕事を終えて外に出ると……あの子ウサギが少し離れた場所でオレを見ていた。

「どした?」と声に出すと……少し離れて振り向きコクっと頭を傾げる。そしてもう少し離れてはコクっと頭を下げる。

「……ついてこいと言っているのか?」

 オレの肩に登ったセラに尋ねると「みっ!」と頷く。

 ま、することもない。

 ウサギに引かれて散歩としますか。


 連れて行かれた先にあったのは……草原の溝。

 溝の両側にはセラ達が常食としている多肉質の草が生えているのだが、溝に生えているのは背の低い芝のような草。そして溝の両端は更に低くなっていて、溝に沿って鳥たちが飛ぶには苦労はしないだろう。

 もし、溝の中にいる時にキョクハヤブサに襲われたら隠れる場所がない。

 常食の草でも長耳ウサギの姿を隠しきれる高さではないのだからこの溝では一溜まりもないだろう。

「この溝は? おや?」

 ふと見れば……溝の向こう側に女王の姿。いや? ここ数回見かけた女王とは少し姿形が違う。

「あれは……向こうの女王か?」とセラに尋ねたところで論理的な答が返ってくるわけではない。それでも「みっ!」とは応えてはくれたが。

 ……よく見れば、女王の周りにバニーガール。いや、長耳ウサギ達が群れを成している。

「ふむ? ……おわっ!」

 驚いたのは……いつの間にかオレの周りにもバニーガールが、いや、長耳ウサギ達が群れとなっていた。

「何が? ……え?」

 横を見れば……見慣れたほうの女王の姿。

 溝を挟んで向こうの女王とこちらの女王とで静かに睨み合っているようだ。

「何が? どうした?」

 多分オレの呟きが切っ掛けとなったのだろう。

 女王達が「みーっ!」と短く鳴き合った。

 直後。

 こっちと向こうの草むらから長耳ウサギの子ども達、つまりはバニーガールと感じられない子ウサギたちが一斉に溝へと進んでいった。

 その数……数十匹? いや百匹は越えていたのではないだろうか?

 子ウサギたちは溝の中でじゃれ合って……いるのではなくとっくみあいの喧嘩をしているようだ。

 コッチと向こうのバニーガールは見ているだけ。

 「みっ!」 「みみっ!」

 応援しているのか脅しているのか騒がしく鳴き合ってもいたのだが。

「運動会? それとも……何かの儀式か?」

 しかし……こんな見晴らしの良い場所で子ウサギたちが群れていたのでは、キョクハヤブサのいい餌食になってしまう。

 と、心配して見上げると……案の定、キョクハヤブサの姿。いや群れかが上空で突入のタイミングを伺っているっ!

「危ないぞっ! おいっ!」

 オレの言葉を気にもせずにセラ達は子ウサギを見ている。

 仕方なしにオレは電磁麻酔銃の出力を最大限に上げて構える。

 ……オレはいつから長耳ウサギ達のボディガード役になったんだ?

 と、一羽のキョクハヤブサが襲ってきた。

 溝にそって滑空し子ウサギたちを狙っている。

「くっ!」

 狙いを定めようと銃を構えたが、如何せん速すぎる。

 だが……オレの銃は必要なかった。

「みっ!」と女王達が低く小さく、しかし鋭く鳴くとキョクハヤブサは地面に激突して転がった。

 素早く子ウサギたちがキョクハヤブサに群がる。翼を広げたらオレの身長を凌ぐであろう巨大な猛禽類のキョクハヤブサに小さな子ウサギたちが群がり引掻き、咬み付いている。

 それでもキョクハヤブサに勝てるわけではない。バサバサと羽ばたき、鋭い爪を持った足で蹴飛ばし、嘴で子ウサギたちを威嚇して……溝の端まで逃げると這這の体で逃げ出した。

「一体……なんだこれは?」

 オレの疑問に応えるモノはいない。

 見渡すと……子ウサギはもちろん。他のバニーガール達も何事もなかったかのように帰って行った。

 その場に1人、いや1人と1匹残ったオレとセラは暫く立ち尽くしていた。

 そして徐ろに思い出した。

「あーっ! ビデオに撮影するのを忘れたっ!」

 これでは惑星調査員として失格だ。


 その夜。

 昼間見た光景が忘れられずに色々と考えてなかなか寝付けずにいた。

(何かの儀式だろうか?)

 なんの儀式だ? 蜜蜂が分蜂するように野生動物にも色々な儀式がある。それでも何か異常だ。

 いや? 異常というのはオレの中の常識を起点にした場合の表現だろう。

 この星、この島の長耳ウサギ達にとっては「年中行事」とか「月例行事」なのかも知れない。

 それでも……もし次に招待されたらビデオで撮影しようとは考えている。


 そして……変な夢を見た。

 闇の中にふわりと浮かぶ夢。

 着陸船の上空に浮いている。ゆっくりと上へと浮かび上がる。

 足元に……ウサギ島が見える。

『人間。オマエ達の目的はなんだ?』

 誰かから呼ばれる。声の方向を探すと……正面に小さく浮かぶ影。それはあの女王だった。

(オレの目的? 仕事で来た。この惑星を調査するためだ)

『そうか? 我らの仲間を食べるために来たのでは無かろうな?』

(いや。そんな……)

 暫く考えたが、嘘をつくのは良くない。どうせ夢だ。

 夢の中ぐらい真っ正直に過ごそう。

(確かに。狩猟許可は得ている。だが、もうその気はなくなった。誓ってもいい。アンタ達の仲間は食べない)

『ほぅ。正直じゃの』

 女王は笑った。鋭い威厳のある視線のままで。

(聞きたいのはそれだけか? それじゃ、オレは眠らせて貰うよ)

『待て。正直者には褒美が必要じゃ。何か欲しいモノはあるか?』

(欲しいモノ?)

 暫く考える。物質としては欲しいモノはない。というか実物ウサギの見た目バニーガールの女王に貰えるモノなど……1つあった。

(オレが欲しいのは情報だ。あの儀式はなんだ? なんのための儀式だ?)

 女王は笑った。柔らかい視線で。

『あの儀式か? アレは交わりの儀式』

(交わりの儀式?)

『さよう。我らは進化の過程でメスばかりとなってしまった。何故か? それは判らぬ』

 (おいおい)と心の中で呟く。呟く間に何かを聞き漏らしてしまった。

『……そして相手の血を啜ることで遺伝子を我がモノととするコトができる。幼き頃に別の個体から遺伝子を貰う。そして我がモノとする。それで初めて成体となる。成体となってからでも血を啜れば相手の力を我がモノとできる。姿の一部を我がモノとし、相手の意志が判るようになり、さらには相手に幻を見せることができる。見ただろう? キョクハヤブサが我が気迫で地に転がった様を』

 ……確かに。

『アレは我と向こうの女王とが放った気迫。極めれば……』

(極めれば?)

『一撃で脳を破壊できる』

(いっ!?)

『ははは。その域に達するコトはごく稀じゃ。我はできぬ』

(それにしても凄いですね。その姿は……歴戦の証ですか?)

 女王の姿形は羽根のローブを纏っているかのよう。

 今の話からすれば、羽根の数だけキョクハヤブサを倒したことになる……のかな?

『確かに。相手を倒すということは我が身体が変化するというコト。理解が早いのう』

(ははは。生まれ付いての正直者ですので)

 ……真っ赤な嘘だが夢の中。虚偽申告罪には問われまい。

『ふむ? かなり素直じゃのう?』

 それでも訝られた。

(ええ。それだけが取り得ですから)

 開き直る。どうせ夢の中だ。

『ははは。ならば心配することは無かったかもの』

(心配? ですか?)

『我が末娘は幼い。まだ儀式にも参加できぬ。他の娘も女王としては育たなんだ』

(それは残念ですね)

『我らは群々で長を決めておる。そなたに……』

 ゆっくりとオレを指す。

『我が群の行く末を委ねよう』

(はい? それはどういう意味で……ぅわっ!)

 言葉ともに相手の姿は消えた。オレの身体は真っ逆さまに落ちていった。

 ベッドから落ちて目が醒めた。

「寝落ちかよ。全く……」

 まだ夜明けには程遠い。風が強くなっていたが気にせずに二度寝へとベッドに潜り込んだ。



 その朝。

 空模様が変だなと思っていたら直ぐに暴風雨になった。気温も結構下がっている。

 外に出てみたらセラが巣穴の所で仕方なさそうに微笑んでから穴へと隠れていった。オレの遊び相手ができないのが残念だとでも言いたげだ。

 少しだけ不安になったが……まぁ他のバニーガール達の姿も見えないし、皆で穴に籠もる天気なのだろう。


 ……とはいえ、昼頃にはやはり不安になり、外へと出た。

 タラップを降り、セラの巣穴を覗く。

「セラ、いるか?」と呼び掛けると……「なぁに?」と言いたげな顔で出て来た。

「大丈夫だとは思うが……香味野菜食べないか?」

 別の理由をつけて誘ってみると「みっ!」と鳴いて膝に乗ってきた。やはり身体は濡れて震えている。

 ケージへと運び乾いたタオルを数枚入れる。台所から香味野菜の切れ端を持ってくると……セラが固まっていた。

「どした?」と声をかけてもビックリ顔のまま固まっている。

 暫くしてから「みっ! みみっ!」とタオルを指して鳴く。

「……タオル、初めてだっけ?」

 どうやらふわふわして触れると暖かく感じて、何か変わった動物だとでも思っているのだろうか?

「ただのタオルだよ」と包んでやると……ビックリ顔のまま固まっていたのがやがてほんわかした表情になった。

「どうだ? 文明というのも良いだろう?」

 ……などとセラの未知との遭遇場面を楽しんでいると、何かドアを叩く音。

「んん? 他のウサギか?」

 ドアを開けると……そこにいたのはあの子ウサギ。

 なにやら真剣そうな面持ち。……に見えるのはあの変な夢の所為だろう。

「どした?」と問い掛けると……タラップを降りて草むらから何かを引き摺り出そうとしている。

「ん? なんだ?」

 引き摺り出したのは魚。小さな兜マグロだった。

 小さいといっても燻製にしたヤツよりはデカい。

「オマエ……これを捕ってきたのか?」

 コクコクと頷く。

 この暴風雨の中で海岸に降りて……波にさらわれなかったのが不思議なぐらいだ。それよりもあの斜面を重い魚を咥えてここまで来たというのだろうか?

 見れば……シッポの付け根辺りはボロボロ。子ウサギの口元には兜マグロの血肉がついている。

 どうしてそこまでして?

 どんな事情だろうか?

「それを……オレの所に持ってきたということは、燻製にして欲しいのか?」

 コクコクと頷く。

「待ってろ」

 オレは子ウサギと兜マグロを抱えて着陸船へと戻った。


 素早く捌いて……いや? するべきコトは違うだろ?

「ほれ。これを持っていけ」

 前に作った燻製の残りの2つを皿に載せて差し出す。

 子ウサギはセラのタオル攻撃の前に固まって戸惑っていたが、燻製を前にしてオレと燻製とを交互に見ている。

「今持ってきたのは直ぐに燻製にはできない。この天気だから、干すのもできない。だからこれを持っていけ。オレの分は今持ってきたので後で作るさ。もちろん、作った中から一切れは進呈しよう」

 言葉が判るはずもないのだが、それでも感覚的には理解したようで、もう一度コクっと頷くと一切れ咥えて、ドアへと向かっていった。

 ドアを開けるとささっと草むらへと走る。

 今度は一度も振り返らずに消えていった。



 次の日。

 昨日の暴風雨が嘘のような快晴。

 セラと共に外に出てみると……あの子ウサギがいた。 草むらの中でゆっくりとこちらに向かっている。何やら泣いているような……

 そして手には昨日上げた燻製があった。

 着陸船まで近づき……両手で燻製を差し出す。

「それはオマエに上げたんだけど……」

 ふるふると頭を横に振って、大事そうにタラップへと燻製を置き、トボトボと歩き去ろうとした。

 要らなくなったということだろうか?

「どうした? 何があった?」

 尋ねても振り返って力なく項垂れるだけ。

 気になってセラと共に後をついていくことにした。


 歩きついたのは小高い丘。

 その先の砂の斜面に巣穴があった。

 ロープ・スコープで覗き込むと……あの女王の姿があった。

 ローブを纏ったバニーガールの姿ではなく鳥の羽根のような毛で覆われた長耳ウサギの姿で。

 ……亡くなっていた。


 亡くなってもまだ威厳を感じるのは……あの夢のせいかも知れない。

 子ウサギはと見れば……近くで穴を掘っている。

 泣きながら。一生懸命に掘っていた。

「葬るのか?」


 オレは電磁麻酔銃の銃床にナタを装着してスコップとして穴を掘った。

 何故か一生懸命に掘っている。

 オレが隠れるほどの深さに掘った時、横で小さく「みっ!」と声がした。

 見れば女王の亡骸と……巣穴から運び出してきたらしい品々。

 小さな綺麗な石や色んな実。あの小さなラグビーボールみたいな実もあった。更には前任の調査員が落とたらしいボールペンのキャップやフタ。

「全部、一緒に?」と問えばセラが「みっ」と頷く。

 女王の亡骸を穴の底に置き、品々を横に並べる。

 と、上から見たこともない実が落ちてきた。

「セラ、落とすなよ」と見ればセラは首を横に振っている。

「ん?」

 穴から首を出して見れば……

「いっ! 何?」

 バニーガール達が何かの品を手に集まっている。

 そして穴の中に投げ入れては後に順番を譲る。

「こんなコトが?」

 野生動物でも仲間が死んだ時に花を摘み、遺体を覆うことがある。でもそれはゾウとかで稀に見られる光景。

「……コイツらに社会性が?」

 考えてみれば……仲間の死を嘆くことは他の動物でもそれなりにはある。組織的に狩りをすることは珍しくはない。

 長耳ウサギ達はある程度の社会性を持っているのだろう。

 バニーガール達の献品が終わり、セラの「みっ!」という声に促されてからオレは穴を埋めた。

 埋め終わってから近くにあった石を墓標として置く。

 それが合図だったかのようにバニーカール達は草の中へと姿を消していった。



 その日。

 色々と考えていたが、考えてどうなる訳でもない。

 オレは……惑星調査員としての仕事はこの星を最後に終わる。

 ならば……するべきコトがある。



 角竹を切り、葉板材を担いで溝へと向かった。

 オレはいつまでもいられない。

 群の長を任されたのであればキョクハヤブサから子ウサギを守らねばならないのだろう。

 いずれはこの星を立ち去らねばならないのならば、この場所でキョクハヤブサに子ウサギが襲われないようにするべきだ。

 いや、しなければならない。

 いつの間にか降り出した雨や強くなっていく風を気にせずにオレは角竹と葉材で頑丈な壁を溝の中に作った。

 三角に組み立ててその中も通れるようにする。

 上にキョクハヤブサが留まれないように葉材は敢えて上に伸ばし尖らせておく。

 ソイツを2つ。溝の両端近くに組み上げた。

 これで……滑空して襲うキョクハヤブサは溝の中にいる子ウサギたちを狙うことはできない。

 作業が終わったのは夕方だった。



 その夜。

 風雨の中で要らぬ作業をした所為かオレは熱を出した。

 全く。

 要らぬ作業に精を出して風邪を引くなんて……惑星調査員として失格だ。

 まぁいいさ。

 この星が最後の仕事なんだから。

 セラとあの子ウサギはケージの中でタオルにくるまりながらも心配そうに見上げている。

 気にするな。こんなの文明の利器であるクスリを飲めば直ぐに良くなるさ。



 翌朝。

 熱は引いたみたいだが、まだ頭はぼーっとしている。

 仕事を終えて……外に出るとセラが心配そうに見ている。草を食べながらだったが。

「ははは。気にするな。兜マグロの……」


 あれ? 何か変だ。

 セラはケージの中に子ウサギといたはずだ。

 子ウサギの姿もケージにはない。

 いつの間に出た?

 いや。オレが出さない限り外に出ることは……


 仕事場に戻って日付を確かめる。

 ……兜マグロの大群に襲われたのが3日前。

 頭の中には……それより多くの記憶がある。

「ヌル・アレルギーでうなされて……寝込んでいたのか?」



 記憶と記録の差異に戸惑う。

 オレの記憶はハッキリとしている。

 だが機械の記録も明白だ。

 こんなことは初めてだ。



 悩むオレの視界を何かがゆっくりと通り過ぎ……干し場へと歩いている。

 それは……子ウサギ。いや、エプロンドレス姿のメイドのような印象のバニーガール。

 干し場に着くと……柱の上に掛けてある籠をじーっと見つめている。

 ぼーっとした視線で。

「オマエ……あの子ウサギか?」と声に出すとコクっと頷いたが、肯定の意味ではなく「何でしょう?」という意味だと思う。

 誰も判るはずもない。

 セラですら「み?」と問い返すだけ。


 ふと、気づくと……丘の上からローブを纏ったようなバニーガールが女王のような視線で微笑んでいた。

「死んでない? 生きている?」



 何処までが現実?

 何処からが夢?



 慌てて溝に行ってみると……三角ラティスが1つだけ組み上がっていた。

 全てが夢ではない。

 だが、どこからが夢なのか?


 間違いないのは……1日、仕事をすっぽかしたということだけだ。


「……違約金を取られるな」

 それだけは間違いない。



 読んで頂きありがとうございます。

 何気に長くなりました。

 投票、感想など戴けると有り難いです。

 画像は、まるかた氏の「バニーさんと緑芝」です。イメージに合っていたため、掲載の許可をいただきました。

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