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苦手な方はご注意ください。

ライギョマン

作者: 松ノ木下

ライギョマンとは、ライギョ釣りをこよなく愛し、ライギョ釣りに情熱の全てを注ぐ者達の事である。


 

 -1995年8月早朝-

 山梨県大鶴郡天竜村

 天竜湖


 チュンチュン…チュンチュン


 バシャ!!


「きた!大きいぞ!」


 バシャバシャバシャ!!


 プツン…


「あーあ…また切れちゃった…」


「おい!坊主!」

「???」

「ここで釣りをしとると危ないで!ここは怖~いオバケが出るんや!」

「え?オバケ?…」

「そうや。だからこの辺の水草のあるとこで釣りしたらアカン!えー子やから、あっちの水草のないとこで釣りしーや!あっちの方がデカイのおるで!」

 そう言って、僕の頭を優しく撫でてくれた、大きくて力強い手を僕は今でも忘れない。


挿絵(By みてみん) 


 - 2017年11月大阪某所 -


「とうとう自称怪魚ハンター達も全滅やね?いよいよ俺のゴーゾースティックの出番て分けや!ガッハッハッ!」

 -スイスltd 野久保剛造-

(浪速の豪腕。自信プロデュースのゴーゾースティックから繰り出す豪快な釣りで掛けた獲物は逃がさない。映画監督としての一面も持つ。)


挿絵(By みてみん)


「でも自称怪魚ハンターだけならまだしも、世界をまたにかける倉田さんのワイルドスコーピオンが歯が立たなかったのは、どうかと?」

 -マッディツイスター代表 赤井琢磨-

(ブラック赤井の異名を持つ愛知の巨人。その風貌からは想像もつかない繊細な駆け引きで数々の大物を仕留める。赤井作のマイルカントリーは柔よく剛を制す名竿。)


挿絵(By みてみん)


「まー、いよいよ我々ライギョマンの腕の見せどころちゅーわけやね。」

 -フィットネス代表 泉和夫-

(神戸の重鎮。元バスプロ、彼製作のパイソン77は天下3剛竿に数えられる逸品。)


挿絵(By みてみん)


「ここからが正念場や。」

 -飯見文明-

(知る人ぞ知る、ライギョ界の大御所、ミスターライギョマン。彼を慕う人間は数多い。彼所有のサーペントファイティング707も天下3剛竿の一本である。)


挿絵(By みてみん)


「まー、とりあえず手始めに、この俺、野久保剛造とゴーゾースティックがお相手させてもらいますわぁ~!軽~く捻り潰しますよ~来年の夏にはみんなでBBQですわ~ガッハッハッ!」


「ミイラ取りがミイラにならへんように頼むで?」


「飯見さんとサーペントファイティングの出番はないさかい、大船に乗ったつもりでいて下さい!ガッハッハッ!ほな準備に取り掛かりまっせ。」


 バタン


 剛造は部屋を後にした。


「まーなんにせよ、剛造が片を着けてくれるにこしたことはありませんよ。泉さん。」

「でも何か嫌な予感がするな?飯見さん?」

「まー、とりあえずお手並み拝見てとこや。」


 僕の名前は上田三郎30才。身長168センチ体重60キロ、性格控えめ、趣味2ちゃん、天竜村役場勤務、30年間彼女なし、

 僕の住む天竜村は東京都心から車で三時間半の山合にある。電車は通っておらず、最寄り駅からバスで一時間以上も掛かる。主な産業などは特になく、寂れたゴルフ場兼スキー場が一軒あるだけだ。宿泊施設なども当然ない。標高も1000近くあり、まさしく陸の孤島と呼ぶに相応しい。しかし、近年、田舎暮らしに憧れる、都心からの移住者が増え、人口は増えつつある。

 

 そんな天竜村だが、実はある秘密がある。


 人口4200人、村の八割を山林が占め、主な産業は林業と養蚕、そんなとりわけ何の変哲もない村に、突如、村を二分する大騒動が巻き起こった。

 僕の生まれる10年前、1978年、今からちょうど40年前、国が天竜村に放射性物質の処理場の建設を村に迫った。

 処理場が出来ると潤う、政治家や建設業者らにそそのかされ、村人の半分は建設に賛成し、反対する住人と対立した。

 最初のうちは話し合いで解決しようとしていた賛成派であったが、一向に話が進まなく、業を煮やし、ついには暴力団を仲介して、反対派の家に嫌がらせを始めた。この嫌がらせに、あるものは村を去り、あるものは賛成派へと加わった。しかし、村長ら反対派の気骨溢れる何人かは、脅しに一切屈指なかった。この村長らの行動に反対派へ回る村人も増え始めた。そして月日は流れ、村人の7割が反対派へと転じたある日その事件は起こった。村長の突然の死である。警察は村長の死を自殺と断定。これに意を唱えた、反対派の村人が結集し、建設業者の建物や、賛成派の政治家の家を襲撃した。世に言う天竜騒動である。死傷者まで出し、全国的に取り上げられた事件なので、ご記憶の方もいるのでは?

 その後、国が介入し、多額の金を積んで、反対派を説得し、処理場は完成した。


 天竜湖脇に建設された処理場であったが、バブル崩壊、阪神大震災による電力事情の変化により、廃墟と化した。しかし、それは建前の話で実際には放射性事故を起こし封印されたのであった。

 この事実は一部の関係者を除き極秘扱いとなった。


 そして天竜湖は地図から消された。


 放射能処理場が完成し程なくすると、村人の間である噂が囁かれるようになる。

 "天竜湖にはオバケが出る"と

 奇しくも少年時代に出会ったあの人の言葉が現実のものとなった。もしかしたら、あの人は、このことを知っていたのかもしれない?


 全国の行方不明者数は平均して年間1000人前後である。しかし、ここ天竜村での行方不明者数は年間10人。実に全国平均の1%もの数である。5000人弱という人口を考えると、驚異的な数字である。もちろんこれは村人の行方不明者数ではない。天竜村に訪れ行方不明になった者の数である。しかし、これは全く公表されることはない。なぜならば地図から消された天竜湖で失踪した者の数だからである。この事実は一部の者にしか知らされていない。この時、僕は当然知るよしもなかった。


 あの惨劇を目にするまでは…


 - 2018年6月 -


 その日、僕は愛犬の散歩に出掛けていた。いつもは近づかない天竜湖であったが、その日は何故か足が向いた。

 当然、天竜湖に入る道には幾重にもバリケードが張られ、近づく事はできない。

 しかし、子供の頃から、天竜村の野山を駆け回り、天竜村の地形を把握しつくしている僕には、天竜湖へと続く秘密の洞窟がある事を知っていた。この洞窟は村人でも知る人間は少ない。子供の頃、毎日のように釣りをした天竜湖、懐かしさに浸りながら歩いていると、いつの間にか洞窟の入り口にたどり着いていた。

「昔と全然変わってないなぁ。」

 少年時代の記憶に浸っていると、突然愛犬が洞窟に向かって吠えはじめた。

「どうしたイギー?中には何にもいないよ!」

 ガルゥガルゥガルゥゥゥゥゥ、バゥバゥバゥバゥ! 

 すると!洞窟の中で人影が動いた。

 ???

 誰かいる…まさか?ここを知る人間は僅かしかいないはず…

「誰かいるんですかー!」

 声を上げると、走り去る足音がした。

 タッタッタッタッタッタ、、、、

「誰だー!ここは立ち入り禁止だぞー!」

 僕は思わず大声を上げた。するとイギーが走り去る影を追って洞窟に突進した。

 タッタッタッタ、、、、

「待って!イギー!そこに入ったらダメだ!戻っておいでー!」

 バゥバゥバゥバゥ…………

 イギーの鳴き声が遠退いていく。まずい!そう思うや否や、僕も洞窟に駆け込んでいた。

 イギーを追って、真っ暗な洞窟の中を進んでいくと、うっすらと明かりが見えてきた。

 くぅーんくぅーん、

 イギーの声が聞こえる。

「よーし、よしいい子だ!」

 イギーに話し掛ける人の声も聞こえた。

 おそるおそるその声の元へ近づいていく。

 段々と明かりと声が大きくなってきた。この先を曲がれば出会すだろう。僕は身構えながら、慎重に歩を進めた。

 灯りの元へ辿り着くと、身構えた僕を裏切る光景がそこにはあった。

 クゥ~ンクゥ~ン。すっかり声の主になついているイギー。

「いやー、見つかってもーた。ガッハッハッ!まさか人が来るとは夢にも思わへんかった(笑)」

 意外にも明るくお調子者そうな声の主。 

「誰ですか!あなたは?」

「俺か?俺は野久保剛造ゆーもんや」

「え?あの映画祭監督の?」

「そうや!」

「その剛造さんが、なぜこんなところに?この先には天竜湖しかありませんよ?」

「その天竜湖に用があるんや!」

「え?天竜湖に?」


「天竜湖にいったい何があると言うんですか!」

「それは今は秘密や。せや!君この村の住人やろ?この辺の地理に詳しいやろ?」

「え…ええまぁ…」

「わいを天竜湖まで案内してくれへんか?」

「え?でも天竜湖は立ち入り禁止区域になっていて、警備が厳重なはずですが?」

「警備が厳重なのは、天竜湖の回りだけやねん。天竜湖には、警備すら近付けないあるものがいる。」

「え?あるもの?」

「せや!わいはそのあるものの捕獲を政府から任されているんや。でも公にできないので、こうして洞窟から侵入しとるんやけどな!ガッハッハッ!」

「その、あるものとは?」

「それは着いてきたら分かるで!君の連れているチベタンマスティフも道中役にたちそうやしな?ガッハッハッ。」

 半ば強引な誘いではあったが、僕も興味本意に狩られ、そのあるものを見たくなった。

「わかりました。協力します。」

「助かるで!この辺は政府の妨害電波でGPSが使えないから、方向音痴のわいには厳しいねん!間違って富士山登ってまうわ!ガッハッハッ!」

 関西人独特の寒いジョークで凍りつきそうになったが、僕の心は静かに燃えていた。少年時代の思い出が詰まった天竜湖、その天竜湖が地図から消された原因となったもの。その謎がもしかしたら解けるかもしれない?僕は足早に洞窟を進んだ。

「剛造さん!急ぎましょう!」

「おーい!君!歩くの早いなー?」

「剛造さんが、遅いんですよー!」

「ところで君の名前を聞いてなかったな?」

「僕は上田三郎です。」

「なんや平凡な名前やのー?ガッハッハッ。ところで彼女はおるんかい?」

「い、いませんけど…」

「せやろなー?三郎くんは童貞やろ!」

 ギクッ…

「やっぱりなぁー!ガッハッハッ!」

 こういう関西人のデリカシーの無さはホントに嫌いだ。


 もう少し、もう少しで洞窟を抜ける。天竜湖まであと少しだ。

「剛造さん!もうすぐ出口です!」

 久しぶりの天竜湖、子供の頃の記憶が蘇り、僕の歩調は更に早くなる。

 出口の明かりが見えた!

 僕らは洞窟を抜けた。

「剛造さん!あれです!あれが天竜湖です!」

 そこには、子供の頃の記憶のままの美しい天竜湖の風景が広がっていた。湖畔に佇む真っ黒い廃墟を除いては…


「あれが天竜湖か。ヤツめ、今度の相手はひと味ちゃうぞ。」

 天竜湖を見た剛造さんの態度が一変した。凄まじいオーラだ。天竜湖にいったい何がいるというんだ?

「剛造さん、そろそろ聞かせて下さい。ここには何がいるんですか?」

「そのうち分かるで。まずは準備や」

 そう言うと剛造さんは、一本の釣竿を取り出し、準備を始めた。

「まっ、まさか魚なんですか?魚ごときの為にこんな大袈裟なことを?」

「魚といえば魚やな。」

 準備を進めるにつれ剛造さんの闘志がみなぎっていくのが分かる。

 剛造さんの闘志に圧され、僕は言葉を失い、ただただその背中を見つめていた。

 しかし、その沈黙は長くは続かなかった。

 50メートル程離れた場所でチベタンマスティフのイギーが突如けたたましい唸りを上げた!

 バゥバゥバゥバゥ!、ガルルルルゥゥゥゥ!バゥバゥバゥ!!!

 湖面に向かって吠え続けるイギー。

 何かがイギーの近くにいる!

 僕は思わず叫んだ。

「イギー!戻っておいで!早く!」

 しかし、時既に遅し。その何かが突如水面を割って姿を現した。

 ガバッ!

 バックン!

 水中に引きづり込まれるイギー。

 キャイーンキャイーン……

「いっ、イギー!」

ガシッ! 

 咄嗟にイギーの元へ駆け寄ろうとした僕の腕を剛造さんが掴んだ。

「ご、剛造さん?離して下さい!イギーが!イギーがー!」

「行ったらアカン!君もヤツの餌食になってまう!」

「でもイギーが…イギー!!」

 キャイーンキャイーン…イギーの声が徐々に小さくなる。チベタンマスティフのイギーが成す術なく、水中へと引きづり込まれた。

「イ、イギー!!!」

 僕の目から涙が溢れ出た。

「ご、剛造さん!奴が、ヤツがそうなんですね?あの怪物の正体はなんなんですか!」

「やつか?やつは雷魚や。」

「雷魚??あの?」

「そうや、その雷魚や。しかし、見た通り普通の雷魚やあらへん。放射性物質によって巨大化し、凶暴化した雷魚のオバケや。」

「そ、そんな?そんなことって?」

「あるんや!実際に君も今、目にしたやろ?これが現実や。」

 ま、まさか、この平穏な天竜村にそんな怪物が…、政府はこのことを隠し、天竜湖を地図から消したというのか?

「君の気持ちはよー分かる。必ずこの剛造様がイギーの敵を討ったる!このゴーゾースティックで!」

 剛造さんの闘志がピークに達した。凄まじいオーラだ。


「よっしゃ!いくで!頼んだでー!ゴーゾースティック!!!」

 そう言い放つと、剛造さんは、怪物がイギーを引きずり込んだ場所へと、キャストを開始した。


 なんて力強く大きな背中なんだろう。この人なら、あの怪物を倒しイギーの敵を討ってくれるにいない。そう思えていた。


 数分前までは…


「うっ、うわぁぁぁぁーー!!!、ご、剛造さーん!剛造さーーーん!!!」

 気がつくと僕は叫び続けていた。

「くっそー。なんやねんあいつ!左腕持ってかれてもーたやんけ!」

「剛造さん、早くっ!早く逃げてーー!」

 僕はその場に立ちすくみ、一歩も動けないでいた。

 数分前まであんなに力強く思えた剛造さんの背中が小さく見える。

 一瞬、たった一瞬の出来事であった。


 キャスト後すぐに姿を現した怪物。その怪物に剛造さんが鍛えあげた、ゴーゾースティックは一瞬で粉砕された。

「さ、さぶろーー!逃げろーー!」

 僕は剛造さんに突飛ばされた。

 ガバッガバッガバッ!

 グワッシィィ!!!

「ぐわぁぁぁぁ!!!」

 僕を庇い剛造さんは怪物に左腕を食いちぎられた。

 剛造さんの血飛沫がまう。スローモーションのように時が流れた。


「くそっー情報と全然ちゃうやんけ…足生えて陸に上がれるなんて聞いてへんで…」


 剛造さんは弱々しく呟いた。


「剛造さん、逃げて下さい!早く!」


「アカン…さっきの攻撃で両足骨折してもーた…さぶろーー!お前だけでも逃げろっ!」


「僕一人だけ逃げるわけには、いきません!剛造さんがこうなったのは僕のせいだ…」


「アホー!なにゆーてんねん!お前にはまだ大事な仕事が残っとる!お前はこの事を俺の仲間に伝えてくれ!」


「剛造さんを見殺しになんてできません!」


「あっかん!またやつがきた。さぶろーー!頼んだぞー!仲間に、ライギョマン達にこのことを伝えてく……」


「うっ、うわぁぁぁぁ!!!!!!」


 僕の目の前で剛造さんは、怪物に頭を食べられた…

 僕のせいだ、僕のせいだぁぁぁ!!


 ガシッ。


 咄嗟に剛造さんの元へ駆け寄ろうとした僕を誰かが止めた。


「あ、あなたは?」

「僕?僕は綾野均。千葉の蕎麦屋」

 -そばはち店主 綾野均 -

(千葉の蕎麦屋そばはちの店主。実はフロッグマンの正体は彼である。この話はまた後程)


挿絵(By みてみん)


「はっ、離して下さい!剛造さんを放っては帰れません!」


「今行っても君があーなるだけだよ?それよりも君には剛造さんに託されたことがあるだろ?」


「うううっ、剛造さん……」


「分かったら早く逃げるんだ。」


「でもライギョマン達になんて、どこで会えるのか僕には分かりません…」


「南千葉のスローイングって釣具屋に行ってごらん。そこの冨樫店長、通称トガテンを頼りな。」


「トガテン?」


「そう。彼ならライギョマン達へのコネクションが豊富なはずさ。」


「わかりました。ありがとうございました。」


 僕は後ろ髪引かれる思いで天竜湖を後にした。


「綾野くんも人がいいね~?でも、剛造くんには悪いけど、いいデータが取れたよ♪」


 - 田森正晴 -

(ロメオトラスト代表、関東で人気をはくす999999シックスナインの産みの親)


挿絵(By みてみん)


「そうですね。今の6パワーでは歯が立ちませんね?」


「うん。これから帰って新しい竿の開発だ。」


 チラっ。対岸に目をやる田森。


「おっと、お客さんは僕らだけではなかったようだね。まあいい、さあ帰ろう。」


 - 一方、対岸では -

「あーあ、力に力で対抗しようとしてどーするの?でも、見ておいてよかった。こりゃ赤井くんでも厳しいかな?」


 - 仲松宏樹 -

(Bトラスト代表、彼のプロデュースしたブリッツェンはあまりにも有名。)


挿絵(By みてみん)


「ですね。柔よく剛を制す。」


 - 来栖拓也 -

(フルハウス代表、仲松からの信頼が厚く、仲松ロッドのチューニングを任されている。)


挿絵(By みてみん)


「ブリッツェンだけだと心元ないから、念のため新しい竿もテストしようと思うんだよね?多部くんお願いね。」


「わかりました。」


 - ルアーショップ小野 店長多部 -

(言わずと知れた、ザ・ライギョロッド、ウィードヘッドマスター統括責任者)


「今度は短いのを試したいな?来栖くんもブリッツェンのブラッシュアップお願いね。さ、帰ろう。」

「「わかりました!」」


 はぁはぁはぁはぁはぁ…

 ズザザザっ…

「いてっ…くっそ。」

 転ぶのはこれで何回目だろう?

 気がつけば服は穴だらけで腕と足から血も出ていたが、不思議と痛みは感じなかった。剛造さんから託された使命感に駆られ、痛みを感じている暇などなかった。


 急がなきゃ。

 トガテンに会わなきゃ。

 会って今日あったことを全て伝えなきゃ。

 

 辺りが夕闇に包まれる頃、僕はようやく愛車スターレットターボの元へと戻ってきた。

 剛造さん…イギー…今思い出しても、怒りと恐怖で体が震える。こんなに一日が長いと思えたのは初めてだ。

 だが、今の僕には、感傷に浸っている暇などない、一時でも早く、トガテンに合い、今日起こった事を全て伝えなければ。

 しかし、僕には一抹の不安があった…

 それは、僕は首都高を運転したことがないのだ。千葉に行くためには否応なしに首都高を走らなければならない。更に僕の携帯はガラケー。スターレットターボにはナビも付いていない。あるのは国土地理印発行の関東1/100000の地図だけだ。

 一応ガラケーでスローイングの住所は分かったが、果たして無事に千葉まで辿り着けるだろうか?

 弱音を吐いてる暇はない。とにかく出発しよう!僕はスターレットターボに乗り込んだ。

 中央道を走ること一時間、ついに八王子インターが見えてきた、この先が首都高だ。ここから先は未体験ゾーン…八王子インターがまるで今日見た怪物に見えてきた…ふとユーミンの中央フリーウェイが頭の中で流れ始めた。しかし、今の僕には東京競馬場など探している暇はない。標識との格闘だ。幸運なことにこの日の首都高はガラガラで120キロペースで流れている。

「うーんいい足回りだ!オーリンズは正解だった!」

 三鷹料金所を過ぎ僕はスターレットターボの足回りを自画自賛する余裕が出てきた。高井戸出口が近づくとみんな左を走りだし、追い越し車線はガラガラに。

「みんな高井戸で降りるんだなー?よし、このコーナーをちょっと攻めてみよー!」

 チカっ!!

 アクセルを踏み込んだ瞬間、赤い閃光が目の前を走った。

「ん???なんだ?今のは?まさか…気のせいだよな?(笑)」

(しかし、実はそのまさかであった。今は知るよしもないが、後日、赤紙が送られてきた。そう、オービスである。首都高が最高速度60キロだということを知らずに、普段走り慣れている中央道のつもりで120キロで走っていた。)

 60キロオーバー…12点…

 新宿が近づくにつれ、車の数が増えてきた。田舎ではあり得ない車間に車を滑り混ませてくる。走り屋も真っ青だ…。しかしなぜか分からないが、前に入った車がハザードランプを点灯させる。

「いったいなぜだ?」

 僕はとっさに閃いた。

「くっそーこいつら、僕が山梨の田舎者だから、バカにして煽ってるんだな?」

 なんて失礼な!この用事が済んだら二度と東京なんて来てやるものか!

 そんな事を考えていたら、後ろにやけにピタリと着けてくるマークXが、ちょうど車も空き始めたし、憧れのレインボーブリッチの上でチギってやろう。アホめ!ポンコツだからって舐めるなよ?

 はい…アホは僕でした。そう覆面パトカーです。普段白黒のパトカーしか見たことがなかったので、まんまと騙されました…でも、おまわりさんがいい人で、首都高を始めて走ったことと、帰りは下道で帰る旨を話し、反省していると、今回は勘弁してもらえました。ラッキー!

 踏んだり蹴ったりで、南千葉インターを降りると、時計は夜の12時を回っていました。

 間に合わなかった…

 疲れた…

 こんなに色々なことがあったのは初めてだ。今日はこのまま車で眠ろう。明日の朝トガテンに会いに行こう。


 コンコン、コンコン、

 ん?

 コンコン、

「あのー、すいませんここ駐車禁止ですよ?」

「あっ、すいません…疲れて寝潰れちゃいました…すぐ動かします。」

「注意してもらわないと困るよ!」

「ほんとすいません。」

 警備員さんに起こされ、時計の針に目をやると、朝の8時半だった。泥のように眠った。体もあちこち痛い。よく見ると服も血まみれだ。よく昨日おまわりさんに捕まらなかったものだ…

 そんなことよりも先を急がねば。

 迷いに迷ってスローイング南千葉店に着いた時には時計は12時を回っていた。どんだけ方向音痴なんだろう…

 駐車場に車を止め、店の中に入る。

「いらっしゃいませ~。」

 全くやる気の感じられない挨拶を受ける。

「あのー、すいません。トガテンさんはいらっしゃいますか?」

「冨樫なら、今は向かいのスターボックスで来月開催されるスネークヘッドカーニバルの打ち合わせをしていますよ?お客様も参加ですか?」

「いえ、ちょっと人から頼まれて、トガテンさんに話があるんですけど。」

「なら、スターボックスに行ってみるといいですよ。」

「わかりました。ありがとうございます。」

 僕は店を出てスターボックスへと向かった。

 しかし、千葉も都会なんだなー?あのスターボックスがあるなんて?天竜村には、喫茶店など一軒しかないよ。

「いらっしゃいませ。イチメイ様ですか?」

「いえ、待ち合わせです。」

「どちらの?」

「えーと、向かいのスローイングさんの人とです。」

「じゃー、あちらの席でございます。」

「ありがとうございます。」

 僕は恐る恐る席へと近づく。

 遠巻きに席を見ると、トガテンらしき人は三人で何やら話し込んでいる。

 ちょっと怖そうな人達と…

 ただですら人見知りなのに、僕は大丈夫なのだろうか…しかしそんな事を考えている場合ではない。剛造さんの事を早く伝えなくては!

「こ、こんにちは。トガテンさん。初めまして僕上田と申します。」

 ……

 やはりビミョーな空気に包まれた。そりゃそうだ、いきなり見ず知らずの赤の他人に話掛けられて、笑顔で挨拶をしてくれる人などいない。

「もしかして?天竜湖の??」

「え??なんで知っているんですか?」

「昨日、オタクそうな人と会ったでしょ?」

 おっ、オタク?言われてみれば確かに…

「会いました!」

「その人達と、他にも俺の仲間があの場所にいたんだよ。」

「え?そうなんですか?全然気付かなかった…」


「ちょうど今その話をしてたところです。」

「この方は?」

「この方は浅井さん。マジョーラの代表でスネークヘッドカーニバルの主催。全国に仲間が大勢いるんだよ。」

「そうですか、初めまして。浅井さん。」

「初めまして、昨日は大変でしたね?でももう安心して下さい。あとは我々がなんとかしますんで。」

「ちっ違うんですよ!僕は昨日のことをライギョマンに伝えなければ!ライギョマンにはどこに行けば会えるんですか?」

「もう全国のライギョマンに連絡してありますよ!」

「えーと、あなたは??」

「俺は、マジョーラの船形です。」

「初めまして、船形さん。」 

「僕らもライギョマンなんですよ。」

 山梨出身の僕には福島弁は心地いい響きだ。しかし、怖そうな人達だと思っていたが、ものすごく紳士的で優しい人だ。

「え??てゆーか、じゃー僕がここまで来たのは無駄だったってことですか??…」

 安心して疲れがドット出た。

「いや、無駄でもないさ、こうして僕らと知り合えたんだからね(笑)」

 ぐぅ~~

「そういえば昨日の朝から何も食べてなかったんだ…」

「あっはっは。なんでも好きなものを注文しなよ!ご褒美に浅井さんがご馳走してくれるってさ!」

「あっ、ありがとうございます…」

 頼もしい仲間達と巡り会えたことで僕の目には自然と涙が溢れ出した。


挿絵(By みてみん)


 - 二週間後 -

 天竜村役場、資料保管室

 僕は村に帰ると、浅井さんから頼まれた調べ事をしていた。

 二週間、村中を調べ歩いたが、浅井さんの読み通り、怪物に結びつくような情報は一切得られなかった。不自然な程に。

「もしもし浅井さん、上田ですけど、やはり浅井さんの言った通りでした。はい、えー、そーですね。えー。」

 浅井さんと電話をしていると、突然資料室のドアが開いた。

 ガチャ!

「上田くん。仕事中に何をしているんだい?ここは課長以下は立ち入り禁止の場所だよ?」

「すっ、すいません。山田課長。祖母に天竜村ダムに沈んだ親戚の家の写真がないか聞かれて…」

「そんなものここにはないよ!早く出て行きたまへ!」

「すいませんでした。」

 浅井さんの予想はこうだ。

 恐らく、政府機関から送り込まれた人間が複数この村の住人に成り済ましている。そして、怪物に直結する資料の改竄を行っている。

 そうなると変だ?死んだ剛造さんは、政府に頼まれて、怪物の捕獲を頼まれていると言っていた。その話が本当ならば、なぜ政府の人間が怪物に関する資料を握りつぶしているのか?自衛隊でも出して駆除すればいいのではないか?極秘裏に捕獲をすすめる理由は何故なのか?廃墟のはずの核処理施設…もしかしたら、そこに何か秘密があるのかもしれない?

「上田くん!余計な詮索は命に関わるよ?」

 ギクッ……

「冗談だよ!冗談!はははっ」

 どうやら山田課長もその何かを知る人間の一人のようだ。

「うーん。上田くん気付いちゃったかな~?」

「し、嶋田所長…いらしてたんですか?」

「アホー!ここでは村長と呼べゆーてるやろ!」

「あっ、すいません村長…でも村長も関西弁は止めて下さい!」

「アホー!お前が所長言うから思わず出てもーただけやがな!」


 - 嶋田吉平 -

(天竜村村長、核処理技術者として天竜村に移住その後、村長になる。村人からの信頼は絶大)



「こんにちはー!すいませーん。そこの人~!」

 村役場の外に出ると、僕は呼び止められた。

「すいません。村役場の方ですか?」

「そうですがなにか??」

「お忙しいところ、すいません。私こういうものです。」

 渡された名刺に目をやる。


 - 多摩新聞記者 堤亮太 -


「新聞記者さんが何で僕に?」

「いやー、あなたにって訳ではなく、村の方々からお話を聞いて回ってるんですよ~」

「で?どういったご用件で?」

「もしかしたら、噂だけでも聞いた事があるんじゃないかな~と思って。」

「だから、何の噂ですか?この村はいたって何の変鉄もない村ですよ!」

「天竜湖に出る怪物の話を?」

「て、天竜湖の、かっ怪物??何をバ、バカな事を言ってるんですか(笑)ご存知の通り天竜湖は放射能汚染で地図からも消されたような場所ですよ?そんなところに生き物なんている筈ないじゃないですか!」

 僕は焦った。何故新聞記者がこの怪物の話を追いかけているんだ?

「いや~、知らないならいいんですよ~お時間取らせて申し訳なかったです」

「じゃ、失礼します。」

 僕は、そそくさと車に乗り込んだ。

 いったいあの記者はどこまで情報を知っているんだろう?


「ん~なかなか口が固い若者だね~(笑)でも当たりだな~(笑)彼は何かを知っている。さっ、仕事仕事!」


 -愛知県名古屋市某所-

 ここにある仮説を立てる男がいた。

 Bトラスト地下3階、秘密裏に建設された、対巨大生物対策釣具開発室。

「仲松さん?やはりあの巨大生物は、ゴジラみたいに放射能汚染によって産み出された生物なんですかね?」

「ははは!まさか?来栖くん、僕はそんなんじゃないと思うよ?」

「では?」

「ん~。実は、天竜湖には昔から、巨大生物伝説があったんだよ。」

「そうなんですか?」

「うん。これらは、ある人から預かっている文献なんだけど、ここには昔から、天竜湖に伝わる巨大生物の話が指し示されてるんだ。」

「こんなものがあったんですね?」

「そう。ちょっとここを見てみな?」

 手渡された文献は古びていて所々破れていた。

「ほんとだ!既に江戸時代には、あの生物と似たような絵が記されていたんですね?」

「そうなんだよ。もう一冊も見てみな?」

 手渡された文献を読んでみると、

「あれ?こっちの文献には武田信玄の埋蔵金の話が書いてあるじゃないですか?」

「そうなんだよ。この二冊から推測するとどうなる?」

「あの巨大生物は信玄の埋蔵金を守るためにあそこにいると?」

「ははは!やはりそう考えるよね?まーそんな短絡的な話じゃないんだよ、実は!う~ん?これはあくまで僕の仮説なんだけど、…」

 そう前置きして、仲松さんは語りだした。

 実は天竜湖には30年程前から、巨大生物の目撃情報が多発していた。それは放射能処理施設が完成した頃から始まっている。その後すぐに国は、放射能汚染という事で天竜湖を封印した。だが、それは建前で、実は放射能処理施設は政府が極秘裏に生物兵器の実験をしていた場所である。そして、そこから逃げ出した一匹が天竜湖で目撃され、噂になった。慌てた政府は、この情報を隠蔽し、武田信玄の埋蔵金伝説をでっち上げ、昔からそこにユーマ伝説があり、所詮は伝説だという風潮を作り上げた。そして逃げ出した巨大生物の捕獲を試みたが上手くいかず、しかも自衛隊などを出動させてしまうと、生物兵器の実験をしていた事が明るみに出てしまう可能性がある。その為、プロの釣り人に捕獲を依頼している。だが、捕獲は難を極め、釣り人は次々と巨大生物の餌食に。

「なるほど~!しかし、この文献よく出来てますね?」

 相変わらずこの人の考察力は鋭い。

「あくまで僕の仮説だけどね?(笑)」

「なんか、当たっている気がします!」

「噂では、生物兵器研究所の所長は天竜村村長の嶋田という噂も?」

「そうなんですか??」

「まー、とりあえずは僕らのやれる事をやろう。もうすぐ拳骨ハンドルと拳骨ギヤが完成する!」

 僕らの戦いも、すでに始まっている。

 僕もブリッツェンの改造を頑張らなきゃ!


「村長おかえりなさい。」

「ただいま、雪ちゃ~ん♪ただいまのツンツン♪」

「もー!セクハラは止めて下さい!それよりも、お客様がみえてますよ?」

「え?女??」

「おーとーこーでーすっ!とりあえず村長室にお通ししてあります。」

「誰だろう?」


 ガチャ。


「お疲れさまです所長。」


「なっ、中神さん…」


 - 中神浩作 -

(内閣情報調査室巨大生物兵器対策課主任)


挿絵(By みてみん)


「中神さんが何故こちらに?」


「ちょっとした噂を耳にしたんでね?」


「あっ、お、大野さんまで…」


 - 大野謙一 -

(警視庁公安巨大生物兵器対策課所属)


挿絵(By みてみん)


「所長。最近、ネストオブビーストの極秘資料が盗まれたという噂を聞いたんでね?」


「おっ大野さん、まさか!そないなことあるわけあらへんがな!ははは」


「おかしいですね?確かな情報筋からの情報なんですが?」


「中神さんまで~ほんまかんにんして下さいよ~わしをからかって楽しいですか?」


「でわ、その金庫を開けさせてもらってもいいですね?」


「だっ、ダメです!いっ、今はダメです!」


「何故です?」


「この中にエロDVDを隠していまして、さすがにちょっと…」


「かまいませんよ?」


「いや、親しき中にも礼儀あり!今はお見せできません…」


「そうですか?では、後日改めて伺うとします。ね?大野さん。」


「ですね。まー、次に来た時に中を見せられないなんてことはないようにして下さいよ!(笑)」


「あっ、あたりまえやないですか!ははは…」


「では、所長。今日はこのへんで失礼します。」


「お気をつけてお帰り下さい中神さん!」


「じゃー、頑張って下さい、しょ・ちょ・う♪」


「大野さんもお疲れさまでした。」


 バタン。


 ……


 クッソー、山田めぇー!裏切りおったなぁー!

 それよりも、あの青二才共、このワシを散々コケにしおって!!!今に見ていろ!!


 - 神戸某所、バー ジャストフィット -


「泉さん。惜しい人を亡くしましたね?」


「せやな。剛造くんにはもっともっと楽しい事が待っていたやろうに。」


「泉さん、次は僕が行こうと思っています。僕のマイルカントリーで必ずやつを!」


「赤井くん、実はその事でひとつ提案があるんや」


「なんですか?」


「剛造くんのロッド、ゴーゾースティックは知っての通りまさしく剛竿やった。しかし、一瞬で粉砕されたと聞いた。」


「ええ。だからこんどは僕のマイルカントリーの柔の力で!」


「そこなんや。おそらく、君のマイルカントリーもある程度通用するかもしれへん。でも、剛の力も必要になるんやないかな?」


「なるほど。確かに。」          


「おそらくは君のマイルカントリーである程度勝負できるやろう。でも最後必ずピックアップの場面で柔では堪えきれなくなると思うんや。」


「そうかもしれませんね?」


「最後の最後でわしのパイソンの剛の力を合わせれば、必ずヤツを仕留められると思う。せやから、今回は君と俺とで共闘してくれへんか?」


「かまいませんよ!泉さんがそこまで仰るのなら、一緒に戦いましょう!そして必ず剛造くんの敵を討ちましょう!」


「ああ、必ずヤツを倒そう。剛造くんに。」


「剛造くんに」


 チン、 


 剛造くんに献杯を捧げたマッカランを一気に飲み干し、僕と泉さんは、天竜湖へと向かった。


「いっ、泉さん!」

「う、うう……。」

「よかった!まだ息がある。」

「にっ、逃げるんだ…あ、赤井くん…俺のことは放っておけ…。」

「何をバカな事を言ってるんですか!もう少しです!もう少しで洞窟の入り口です。あそこに逃げ込めばヤツは追ってこれません!」


 クッソー何が起こった??僕は確かにヤツの力をねじ伏せていた筈。マイルカントリーは完璧に仕事をしてくれていた。なのに何故?あと少し、ほんのちょっとのとこだった筈だ?泉さんのパイソンも完璧だった。なのに何故??

 ゾクっ。。。

 何かの気配がした

 次の瞬間

 フッと泉さんの体が軽くなった。

 僕が振り返ると、泉さんの下半身が消えていた。

 何故だ?ヤツはまだ水の中にいるはず?


 なのに何故そこにいるーーー!!!


 まっ、まさか?


 そのまさかであった。確かに僕らが対峙していた怪物は水面から頭を覗かせていた。じゃ、今、僕の真後ろにいるのは???


 クッソー!やられた!怪物は2匹いたのか!総ての謎が解けた。やはり僕と泉さんは、ヤツに勝っていたんだ!

 この事を仲松くんと飯見さんに伝えなければ!このままでは誰もヤツには勝てない!


 ガっツン!


 いっ…足に火を押し付けられたような感覚に襲われた。


 間違いなく、ヤツは僕の右足に噛みついている。

 あと少し、あと少しで洞窟なのに…


「なっ、なかまつくーーーん!」

「飯見さーーーーーん!!」


 くっそー…。もうダメだ…。これで僕もお終いか…。

 たっ、頼んだぞ、僕のトローチ。彼らの元へ飛んで行って、そして知らせてくれ!

 これが僕の最期のキャストだ!


 ビューーーン


 バキバキ、グシャグシャ、ゴリゴリ、

 ゴっクン


 ………………。


「もしもし。浅井さん。上田です。今、天竜湖の様子を見に来ているのですが、洞窟の出口で、トローチというフロッグが落ちているのを見つけました。トローチには血文字で2と書かれています。僕には何のことかさっぱり分からないので報告させてもらいました。近くにはマイルカントリーという竿とパイソンという竿が転がっていました。おそらく竿の持ち主は、もう…」


「そうですかごくろうさまでした。気を付けて帰って下さい。」


 - 所変わってBトラスト -

「はい、はい、そうですか、残念でした…はい、ではまた。」

 浅井さんからの電話を受けた仲松さんの表情は暗かった。

「赤井さんが??」

 仲松さんは、力なく首を縦に動かした。

「クッソー!赤井さんまで!うううう…」

「来栖くん。感傷に浸っている暇はないよ。そろそろ僕らの出番だから。」

「分かっています。でも…」

 優しく僕の肩を叩いた仲松さんの横顔には、涙が伝っていた。  


 仲松さんが涙を流すのを僕は初めて見た。


 赤井、泉、死すという情報は瞬く間に全国のライギョマンの間に広まった。

 あるものは悲しみ、あるものは恐れおののいた。


 しかし、その死を喜ぶ者もいた。


「ついに赤井が死んだか!うっひょーーー!ざまーねーぜ!これで、これからは、このクリーム様たちの世の中だぜw w w」


「案外あっけなかったすね(笑)」


「だよなー?掛永くん!ライギョマンだかなんだか知らねーが、蓋を開けて見たらただの雑魚だったってことよ(笑)」


「次は仲松あたりが行くんですかね?」


「仲松も死んでくれるとありがたいけど、残念ながら仲松の出番はないwww」


「じゃー?」


「俺らクリーム軍団が怪物を倒すwww 」


 - クリーム軍団 -

(名古屋の鯛焼き屋が取り仕切るライギョチーム)


『政府は韓国に対し遺憾の意を伝え…』

 あーあ。毎日毎日おんなじようなニュースばかりうんざりするよ。天竜湖で大事件が起こってるってゆーのに。とりあえず2ちゃんでも見ようっと。


『本日朝6時頃、天竜村の山中で』


 ん???天竜村?


 まさか??


『竿を担いで山中を歩いていた男性二人組が熊に襲われ死亡しているのが見つかりました。』


 ほっ…てっきり天竜湖の話が漏れたのかと思った。

 でも、そりゃ熊に襲われるよ…無知にも程がある。


『遺留品から、一人は名古屋市に住む鯛焼き会社経営者の男性、もう一人は岐阜に住む無職の男性とみられ警察では更に詳しい身元の確認作業を…』


 でも、この二人はなんで釣り竿なんか担いで、山に登っていたんだろう?

 まっ、どーでもいっか。さっ、2ちゃん2ちゃんと。


 - Bトラスト地下研究所 -


 コンコン


「開いてるよー」


 ガチャ。


「仲松さん、ブリッツェンが完成しました!」


「来栖くん。こっちも、拳骨ハンドルと拳骨ギヤが完成したところだよ」


「いよいよですね?」


「んー。一度テストをしてみないと何とも?」


「そう言うと思っていました。テストにうってつけのフィールドがありますよ!」


「もしかして、葛原川ダム?」


「知ってたんですか?」


「噂は聞いてるよ。二メートル級の巨大魚が目撃されてるという。」


「天竜湖から10キロの距離で、人里離れた場所で、周遊道路もなく、周囲が断崖に囲まれ、湖面に降り立てない。そして関係者以外立ち入り禁止。巨大魚が生息していても不思議じゃないですよね?」


「生物兵器のテストフィールドにはうってつけてところかな?」


「ですね?」


「とりあえず、飯見さんが先走って一人で天竜湖に行かなければいいんだけど?一応釘は指しておいてもらったけど、あの人のことだからもしかしたら?」


「赤井さん達の敵討ちに心底燃えていそうですもんね?」


「まー、それは僕らも同じ。だろ?」


「ですね。まずは葛原川ダムの巨大魚を!」


 そして、僕と仲松さんは、葛原川ダムへと出発した。


 

 - 一方、埼玉県某所 マジョーラ本部 -


「赤井くん、剛造くん、泉さん……」


「飯見さん!研究所に忍び込んでいた仲間から連絡があって、対生物兵器用スーツの奪取に成功したそうです!」


「ありがとう船形くん。僕一人では、ここまでできなかったよ。」


「どうしても一人で行くんですか?」


「浅井さん、お世話になりました。」


「もう少し待って、仲松くん達と合流した方がいいのでは?」


「ですが、こうしてる間にも、他の仲間達がどんどん犠牲になっていってます。一刻の猶予もありません。」


「そうですか。僕らはただ黙って見送るしかなさそうですね?」


「そうして、頂けるとありがたいです。」


「わかりました。お気を付けて!」


「でわ!お世話になりました。」


 ガシッ、男達は無言の握手を交わした。


 そして飯見は、天竜湖へと向かった。


 

 まさに瞬殺!

 

 自画自賛ではあるが、ブリッツェンevoの性能がこれほどのものであるとは!

 いや?ブリッツェンevoの力だけではない。Bトラストで開発した、拳骨ハンドルと拳骨ギヤが三位一体となり、これまでとは異次元のパフォーマンスを可能とした。しかし、おいそれ易々と誰でもが扱える代物ではない。仲松宏樹この人が操ってこそ、ブリッツェンevoは本当の力を発揮する。流石としかいいようがない!

「仲松さん、楽勝でしたね!こいつが、葛原川ダムの怪物ですか?想像以上の怪物ですね?」

「楽勝って程でもないよ。でも天竜湖の怪物はこの倍以上の大きさで、足まで生えている。こう簡単にはいかないよね?」

「しかも2匹…」

「ああ。まー成るようにしかならないよ。とりあえずテストは無事終了だ。ブリッツェンevoと拳骨達、まずは合格点だ。」

 よかった!この人にそう言ってもらえると、ホントに嬉しい。苦労した甲斐があったというものだ。

「ところでこいつはどうするんですか?」

「もちろんリリースするよ。」

 ………


 葛原川ダムには、まだ怪物がいる。皆さんも挑戦してみてはいかが?


挿絵(By みてみん)


「ほ、ほんまですってー!中神さん!わしは、ほんまに知らんのです!せ、せや!山田や!山田がやったに違いない!」

「対生物兵器用スーツが紛失したとあっては、所長の管理責任が問われますね。」

「ほ、ほんまに何にも知らんのです!昨日までは確かに研究所のシェルターの中に…」

「まー、本当に知らなかったとして、その山田さんなんですが、三日程前から連絡がつかないんですよ。」

「や、山田と??あいつめー、やはり犬だったか!クッソー!」

「まあいいです。対生物兵器用スーツがどれほどの力か試すいい機会です。」

「そ、そ、そーですよね?ハハハ…いい人体実験ができますね!ハハハ…」


 ギロっ。


 ………


「所長の処遇は、この結果を見てから判断させてもらいます。」

「お、お任せ下さい!あのスーツならバッチリです!」


 今にみておれー、クソ青二才めー!わしのかわいい生物兵器共が完成したら、国家ごと転覆させて、便所の中のタン壺に頭から突っ込んでやるからのー!


「あなたが飯見さんですか?」

「せや、君が上田くんか?」

 なんだろう?飯見さんの声を聞いたとたんに、幼い頃釣りをして楽しんでいた天竜湖の風景が頭の中をよぎった。

「ふなぞーさんから、色々とお聞きしています。とりあえずマジョーラから預かった荷物は洞窟の中に隠してあります。」

「すまんのー。」


 寡黙な人だな?


「ふなぞーさんに、天竜湖まで案内してくれと頼まれています。僕が一緒に行っても足手まといなだけですが…」

「そないなことあらへん。心強いで。」

「とりあえず、細かい話は、洞窟に入ってからに。」

「せやな、よろしく頼むで。」


 天竜湖までの道中、僕はこれまで目にしてきたあらゆることを飯見さんに話した。剛造さんのこと、トローチのこと。飯見さんは、僕の話を、時折頷きながら、静かに聞いていた。話を聞くにつれ、飯見さんの静かさの中に秘めた闘志が、みるみる大きくなっていくのが、僕にも分かった。飯見さんの握りしめた拳から、血が一滴また一滴と滴っていた。

「そっか、君が剛造の最期を見届けてくれたのか。ありがとう。」

「そんな…僕はなにも…」

 なすすべなく、見届けることしか出来なかった自分が不甲斐ない。

「飯見さん、これが対生物兵器用スーツです。」

「ありがとう。君はここまででいい。あとは俺の仕事や。」

「いや!僕も行かせて下さい!足手まといは十分承知です!でも僕にもやれることがある筈です!」

 しばらくの沈黙の後

「わかった。でもいざというときは必ず逃げてくれ。」

「わかりました!」

「約束や。」

「はい!もうすぐ洞窟の出口です。」

 

 僕は何故、あの時、一緒に行きたいと言ったのだろう?



「やれやれ、ようやく尻尾を見せてくれたか(笑)」

「つつみさーん、待って下さいよー。」

「遅いぞ、タマキン!」

「堤さんが歩くの早いんすよ!デブのくせに!」


 ボカッ!! 


「いつっ…、何も殴ることないでしょー?パワハラすよ!パワハラ!」


 ボカッ!!


 - 児玉金太 -

(通称タマキン。多摩新聞記者、堤の後輩)


「さてと、鬼が出るか蛇が出るか?この洞窟の先で目にするものはいったい?」


「堤さん、そういうカッコイイ台詞似合わないすよ!デブだし」


 ボカッ!!

「おー!いいカバー!ちきしょー!釣り竿持ってくればよかった~!」

 俺達は、彼らの後を追い、洞窟を抜け、天竜湖畔へと辿りついた。

「くだらないこと言ってないで、奴らの後を追うぞ!もう見失うっちゃうじゃないか!」


「堤さーん!」


「いいから早く来い!」


「違うンですよー!堤さーん!足がー!」


「いいから早く!」


 ………


 そう言いながら、振り返った俺は言葉を失った。


「こ、こ、こっ、こだまぁーーーー!!!」


 児玉が何かに襲われていた。何なんだあれは?魚??いや、恐竜??


「児玉!待ってろ今たっ、助けに行く!」

「堤さん、どうやら、もうダメそうです…堤さんは、早くあの人達の元へ…」


 足がすくんで動けない。

 児玉は、じわじわと足から食べられていく。あまりの激痛に感覚が麻痺し、痛みを感じないのであろう。児玉は更に続けた。

「きっと、あの人達はこいつを倒すためにここへ来たんですよ…」

 わかった。もうわかったから、これ以上喋るな。

「こっ、」

 声を掛けようにも言葉が見つからない。

「つ、堤さん、い、いい記事書いて下さいね…」

 そう言い残し、児玉は息絶えた。

 あんのやろー。いつもくだらない事ばかり言って、俺を怒らせ、へまばかりして、俺の足をひっぱり。それが、どうだ?その児玉が俺の前で怪物に食べられて死んだ…この虚無感はなんだ?


『堤さんに、虚無感なんて言葉似合わないすよ!デブだし!』


 児玉よ、俺はお前のその言葉をもう一度聞きたかった。

 次の獲物は俺のようだ。児玉をたいらげ、『おかわり』とでも言いたげな顔をしながら、ヤツは近づいてくる。

 ダメだ。もう逃げられない。すまん児玉。どうやら、記事は書けそうにない。

 諦めかけ目を閉じた、その瞬間。


 ドカッ!


 バキっ!


「堤さん!今のうちです!早く逃げて!」

「きっ、君は確か天竜役場の?」

「いいから早く!ライギョマンがヤツを抑えこんでいる隙に!」


「らっ、ライギョマン??」


 横を向くとそこには、ヒーローとは呼び難い風貌の人間がいた。



挿絵(By みてみん)



 - 生物兵器研究所 -

 通称ネストオブビースト(NOB )

 監視制御室


「あーっはっはっは!食われよる食われよる!ホンマよーわめきよるのー(笑)あっ、あーあもう食べられおった~。つまらんのー?なんや、もう一人も茫然と立ち尽くしよってからに?はよ逃げーや!抵抗しーや!ねー?中神さん?」


「おそらくは部外者の一般人ですね?それよりも、最初に入ってきた二人が気になります。」


「最初の二人もどーせ大したことおまへんがな~!」


「だといいのですが?」


「んんんんーーーー????」


「おっおっおっおっ?おーーーーー???まっまさかーーー!ライギョマンやないか!クッソーあんなところにライギョマンスーツが…」


「どうやら、簡単に倒せる相手じゃなくなりましたね?」


「すっ、すんまへん。」


「NOBが開発した、矛と盾。どちらが強いか見定めさせてもらうとしましょう。」


「念のため、グレイト・ワンの準備もしておきます。」


「是非よろしくお願いします。」


「上田くん。ライギョマン言わんでもらえへんか?さすがに恥ずかしいわ」

「すいません!でも、完全にライギョマンですよね(笑)」


 しかし、驚いた。飯見さんが、ベルトを装着して、変身?した時は、あまりの恥ずかしい格好に、笑いを堪えるのに必死だった。しかし、怪物と対峙して、一歩もひけをとらないどころか、むしろ押している。剛造さんがなす統べなく殺された、あの怪物相手に!


「早く、その人を安全なところに!」


 そ、そうだった。


「堤さん!早くこっちへ!」


「す、すまない…ミイラ取りがミイラになるところだった…」


「危ないところでしたね?」


「あの怪物はいったい?」


「あれは、あの廃墟で行われている、生物実験で産み出された生物兵器です。」


「せ、生物兵器??」


「そうです。堤さんが知りたがってた秘密の答えです。」


「俺はとんでもないパンドラの箱に手を掛けていたのか…」


「堤さんのキャラだとその台詞似合わないですよ!」


 ボカッ!


「痛いなぁ~。」


「一言余計だバカ者!」


 嬉しい掛け合いだ。タマキンよ。きっといい記事を書いてみせる!あの世で楽しみにしていろよ!

「飯見さん!怪物は2匹います!気を付けて下さい!」


「気をつけーゆわれてもなー、さすがに一人だとキッツイわ~。」


 そろそろ、サーペントファイティングを使うか?

 飯見はサーペントファイティングを振りかざした!


「い、飯見さん!あぶなーい!」


 寸前のところで、飯見は身を交わした。


「そうそう、とどめは刺させてくれへんか?」


 恐れていた事が起こった。ついに2匹目が姿を表した!


「飯見さん!ここはいったん退きましょう!」


「もうちょっとだ、もうちょっとで泉さんと、赤井くんと、剛造の敵が討てるんや!」


「いくら、ライギョマン化した飯見さんでも、2匹相手では分が悪すぎます!」


「目の前に敵がいるんや!あと一撃で敵を討てるんや!黙って見ておけ!」


 僕は飯見さんの気迫に押され、言葉が何も出なかった。


 サーペントファイティング!!!


 2匹目の怪物は、飯見さんの無防備なモーションを見逃さなかった。


「あっ、あぶなーい!!!」


 バキっ!バキっ!バキっ!

 グシャグシャグシャグシャ

 ………


 僕は思わず目を伏せた…


「い、飯見さん…」

 僕は恐る恐る目を開けた。


「ふー、危なかった~!」


「まさに危機一髪ですね?」


「田森さん、これからは、もう少し余裕を持って出発しましょう(笑)」


「失礼な?綾野くんが、うんこするから遅れたんでしょ?(笑)」


「あっ、それは言わない約束でしょ~(笑)」


「あっ、あなた方は!」


「また会ったね!どうやら、すごい仲間達と出会えたようじゃない!」


「やはり、この前の!」


「そう!綾野均。しかしてその実態は!」



挿絵(By みてみん)


「綾野くん!新しいロメオシックスナインだ!使いたまえ!」


 バシっ。


「ありがとうございます!これで鬼に金棒です!」


「ちなみにこれまでのロメオとは比較にならないパワーを備えている。十分注意して扱ってくれ!」


「了解で~す!飯見さん、お待たせしました!手伝わせて下さい♪」


「足だけは、引っ張らんといてや?よっしゃ反撃の狼煙や!」


 ブリーフマンが二人にスーパーロッドが2本!なんて頼もしいのだろう!なんだか、いけそうな気がしてきた!この場にいた誰もがそう思っていたハズであった。

「飯見さーん!ついにやりましたねー!」


「ありがとう上田くん!君のおかげやで!」


「そんな、僕なんて見てるだけでしたから…」


「いやー、なかなか手こずりましたね~(笑)」


「綾野さんも、お疲れさまでした!」


「いや~、これが天竜湖の怪物ですか?噂以上の代物ですね?ロメオの研究所に持ち帰って、色々と調べてみたいですね?」


「田森さん?誰が運ぶんですか!」


「ライギョマンとフロッグマンで一匹づつ?」


「絶対イヤですよ!さすがに町中をこの格好で歩けません!(笑)」


「それもそうですね(笑)」


 それにしても、改めて近くで見るとすごい迫力だ!遠目に見ていた時とは次元が違う。五メートルはあるだろうか?重量も車一台分はありそうだ?どす黒い色にゴツゴツとした皮膚、前鰭は巨大化して前足のようにも見える。後ろ足には爪が生えていて、巨大な背鰭と丸い尾鰭がかつてライギョだった事を思わせる。大きな顎に鋭い牙、退化?したのか目はない。しかし、こんな怪物を倒してしまう、ライギョマンとフロッグマンの力は改めて凄いと思う!


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォ


 皆で勝利の余韻に浸っていると、突如、天竜湖の湖面が盛り上がった。

『『みんな下がれーーーー!』』


 飯見さんと、綾野さんが叫んだ!


 ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド


 ズバシャーーーーーン


 バキっ!バキっ!バキっ!バキっ!


 グシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャグシャ


 ………………


 さっきまで談笑していた皆から笑顔が消え、絶望の表情へと変わった。

 ライギョマンとフロッグマンがやっとの思いで仕留めた怪物の死骸が2体とも、何かに丸飲みされた。


「い、飯見さん!あれはいったい??」


「わからん。わからんが、どうやら、俺達に絶望的な危機が迫ったのは確かや…」


 飯見さん、いやライギョマンの口から絶望的という言葉が出た。おそらく、ここにいる者全てが共感したに違いない。それほどまでに、狂暴で巨大な何かが出現したのだ。


「今度ばかりは助からないかもね?」


「綾野さん…」


「君たちを逃がすのが、最後の仕事かな?」


「綾野さん!無茶だ!一緒に逃げましょう!」


「僕と飯見さんだけなら、逃げきれるが3人を連れてとなると至難の業だね?」


「綾野くん、腹くくれたか?」


「ええ、飯見さん、この3人だけでも無事に逃がしましょう!」


「綾野くん、準備OKか?」


「ええ!」


「よっしゃ、ほないこか!」


「飯見さん!綾野さん!死なないでください!」


「あほー!人間はそない簡単に死なへんで!」



 そういい残し、ライギョマンとフロッグマンは、超巨大生物の前に立ちはだかった。

 


 - 遡ること数分前NOBモニター室 -


「所長。ライギョマンスーツが、ここまで強力とは、嬉しい誤算ですね?」


「誤算やありまへんでー!わいの実力ですがなーワハハっ」


「しかし、このまま彼らを生かしてここから帰す訳にはいきません。」


「おっと、せやったせやった。余裕ぶっこいてるところへ、真打ち登場ですな~」


「グレイト・ワン。どれ程の実力か見定めさせてもらいます。」


「お任せ下さい!それでは行きまっせー!ポチっとな!」




 「いやー、参った参った…ロメオの最高傑作の9番をこう易々とへし折ってくれるとは…フロッグマンに変身してなかったら、体中の骨がバキバキにされるとこだった…」


「綾野くん!ここは一旦退こう!」


「田森さん!ちょっと深く踏み込みすぎました!もう逃げる体力も残っていません!」


「何をバカなことを!今行く!」


 ガシッ


「ダメです!田森さんまで殺られます!ここは堪えて下さい!」


「上田くん……」


「まだです!まだライギョマンが!飯見さんが残っています!」


「ライギョマンは最初の攻撃で殺られてしまっているじゃないか!」


「いいえ!あの人は、飯見さんはまだ死んでいません!必ず立ち上がってくれます!飯見さんを信じて下さい!」


「くそっ、僕にはどうすることも出来ないのか………。」


 俺は悪い夢を見ているんじゃないか?

 朝が来て、目を覚ませば、ごく普通の一日が始まり、また児玉とバカなやり取りをして、夜はキャバクラに行っておねーちゃんの尻を触り、終電を逃して、タクって、かーちゃんに怒られ……

 いやいや?またか?またいつものように現実から逃げるのか?

 堤亮太よ!

 児玉にはいつも偉そうなことばかり言っていたのに、当の本人は、自分に言い訳して、屁理屈こねて、辛いことから目を反らし、グータラグータラ生きてきた。

 お前は、児玉の死を目の当たりにして、生まれ変わろうと思ったんじゃなかったのか?

 それがどうだ?目の前にピンチの仲間がいるのに、ただ呆然と立ち尽くすだけ、それでも元ライギョマンか?

 ん??

 忘れかけていた。

 そういえば、俺も昔は一端のライギョマンだった。

 ライギョマンは、決して仲間を見捨てない。

 児玉よ!見ていろ!

 これが本当の堤亮太の生きざまだ!


「田森さん。俺にその竿を貸してもらえませんか?」

「堤さん、わかってると思いますが、あなたの腕とこの竿では、万が一にもヤツには歯がたちませんよ!」


「わかっています。自分の実力は!俺に出来るのはこれだけだ!」


 まずは、ライギョマンから救出だ!


「いけっ!」


 よし!一投目で上手く掛かった!外れるなよ?


「うりゃ!」


 ドスン。


「上手くいった!」


「堤さん!凄いじゃないすか!」


「上田くん。まだだ、後フロッグマンを!」


 フロッグマン待ってろ!今助ける!


「うりゃ!フロッグマン!掴まれ!」


「堤さん!僕の体重では、あなたがもたない!」


「いいから早く!」


「すまん、堤さん。」


 グイ……


 うっ、動かない…

 あと、五メートル近づいてバットで抜きあげないと…しかし、五メートル近づいては…四の五の考えてる暇はない!


 タタタッ。


「う、うりゃーーーー!」


 ドスン。


 やったぞ!予想通り上手く、救出できた。

 でも…こりゃ少し深く踏み込み過ぎたかな?(笑)児玉!約束守れなかった。もう少しで、お前の元へ行く。


「つっ、堤さーーーん!」


「上田くん。みんなの事頼んだ!」


 バキバキバキバキ

 グシャグシャグシャグシャ


「つ、堤さんまで…う、ううう…駆逐してやる。一匹残らず駆逐してやる!うわぁぁぁぁー!」


 ガシッ。


「まてっ!上田くん。」


「???いっ、飯見さん!!!」


「いやーよく寝たで!危うく寝過ごすとこやったわ。」


「よかった。生きていたんですね?」


「あほー!そう簡単に死なんゆーたやろ?(笑)」


「たった今、堤さんが…」


「せやな。堤さんには、すまんことした。」


「後は俺の仕事や。君らはもう逃げーや!」


「僕も最後まで戦います!」


「アホー!足手まといやゆーとるんや!お前には、もっと大事な役目を任せたいんや!えーか?無事に逃げ帰って、この事を皆に伝えるんや!そして、パチンコドライブ68を探すんや!えーな!頼んだで?」


 ポンポン。飯見さんは僕の頭を軽く叩いて振り返った。


 ん?


 飯見さんに、頭を叩かれた瞬間、途切れ途切れだった記憶が繋がった!


「飯見さん?あなたは、20年前にこの場所で少年と出会っていませんでしたか?」


「20年前?あー、初めてここに訪れた時か?そういえば、少年が釣りしとったな?」


「その少年は、僕なんです!」


「なんや!君だったんか!どうりで、君に会った時から、昔から知ってるような懐かしい気がしてたんや!」


「僕は、あの日、頭を撫でられた大きくて優しい手を忘れた事はありませんでした!」


 うんうん。飯見は何も言わずに頷いた。


「飯見さん!どうか、死なないで下さい!無事に!一緒に帰って!昔話をしましょう!」


 飯見は、ニコリと微笑むと、何も言わずに、超巨大生物に向かって歩き出した。


 僕は、凄まじい覚悟を、飯見さんの背中から感じた。

 

 まさかな~。ここまでズタボロにされるとは思わなかったで(笑)虫の息ってのは、このことやな?(笑)さてと、上田くんが、心配して叫んでるから、余裕を見せておくかな?(笑)


「上田くん!よー聞けや!これが俺のラスト一投や!今から、変身を解いて、ライギョマン変身ベルトを投げる!それを受け取ったら、振り向かずに洞窟へ向かって走れ!えーな!」


 あと一投…あと一投もってくれよ?俺のサーペントファイティング!


「聞こえてるんかーーー?聞こえてたら、返事しーや!!!」


 僕は、黙って頷いた。


「ほな、受けとれ!サブロー!あとは任せたでー!今からお前がライギョマンや!」


 ビュッ!!!


 飯見さんが、僕の元へベルトを投げたその瞬間。


 バキバキっ


 サーペントファイティングは粉砕した。

 そして、飯見さんも……


 ライギョマンベルトを受け取った僕は飯見さんとの約束通り、後ろを振り返らずに無我夢中で仲間が待つ洞窟まで走った。


 洞窟まで辿りつき、後ろを振り返った時には、そこに飯見さんと超巨大生物の姿はなかった。


 悲しかったが、不思議と涙は出なかった。今までの僕とは違う。飯見さんとの約束を果たさなければ。生まれて初めて断固たる決意をした。


「さ、皆さん。麓へ降りましょう。新たな戦いの始まりです。」


「上田くん世話になったね?」


「綾野さん、こちらこそ。」


「これから、どうするの?」


「まずは、飯見さんに言われた通り、パチンコドライブを探します。浅井さんとトガテンを頼ろうと思っています。」


「そっか、僕らも千葉に帰って、一から出直しだ!」


「あのー。お願いがあるんですけど…」


「何??」


「僕を千葉まで連れて行ってもらえませんか?どうも首都高がキライで…」


「もちろん(笑)さ、行こうか!」


 - スローイング 南千葉店 -


「浅井さんお久しぶりです。コバテンとフナゾーさんも。」


「ご苦労さまでした。」


「電話でお話した通りです。」


「飯見さん……惜しい人を失った。」


「ええ…でも今の僕らに悲しんでいる暇はありません。」


「かなり、やっかいな代物ですね?」


「はい…さっそくなんですが、パチンコドライブの件なんですが?」


「あー、パチンコドライブに詳しい人物を呼んであるよ。彼です。」


「はじめまして、鮫谷将英です。」


「上田三郎です。」


 人のことを言えた義理ではないが、実に頼り無さそうな人だな…


「鮫谷くんは、パチンコドライブの生みの親の貫徹くんの知り合いなんだ。」


「そうなんですか?フナゾーさん。」


「ああ、だから何でも聞くといいよ。」


「あれ?パチンコドライブはここにあるんじゃないんですか?」


「ここにはないねん。」


「さめやんさん。では、パチンコドライブは今どこに??」


「貫徹くんは、ライギョマンを辞めてしまい。自ら開発したパチンコドライブをある人物に託したんや。」


「その人物とは?」


「それは道中話すで!」


「道中??」


「せや、彼は滋賀にいる。」


「じゃ、さっそく行ってきます!」


「いや、俺も行くで。彼は偏屈だから、初対面の人間には決して心を開かないねん。」


「そうなんですか?では、よろしくお願いします!」



「所長、上々の成果でしたね。」


「いや~これも中神さんのおかげですわぁ!」


「グレイト・ワンはかなり強力な武器になります。だが、ライギョマンスーツの回収が出来なかったのは問題ですね所長?」


「すんまへん。でも、ただボケボケしてたわけやありません。こっちも向こう側にスパイを送り込んであります。ヤツが回収してくれるはずです!」


「あと、フロッグマン。あれは何ですか?」


「あれは、ライギョマンと似たようなものを、ライギョマン側が作ったんやないですかね?」


「あちら側にもなかなかの技術者がいるようですね?」


「そうですね。こっちもうかうかしてられませんな!」


「とりあえずライギョマンスーツの回収を取り急ぎお願いします。」


「わかりました。」


 頼んだでー!さめやん!


挿絵(By みてみん)


 ここはどこだ??

 暗い、

 狭い、

 苦しい、

 怖い、


「所長!実験成功です!」

「おー!これが新しいビーストの幼獣か!なんかえー面構えしとるように見えるなぁ!」


 誰だ?この人達は??

 僕は何かの容器のようなものに入れられているのか?


 なんだ??何か入ってきた。


「よーし!早速、B501号と戦わせてみよう!わはは!」


 え?何??何??この奇っ怪な生物は??僕を狙っているの??


 グワーー!


 こっこないで!助けて!怖いよー!あっち行けー!


 ガブっ!


 痛い!痛いよー!何で僕が食べられなきゃいけないの!助けてよー!


 ガブっ!


「なんや?えらい大人しいやっちゃのー??食べられてまうでー!」


 なんだ?この人間は??僕が食べられのを楽しんでいる??

 イヤだ!食べられたくない!


「失敗作か??」


「所長、そんな事はない筈なんですが?」


「おっ、おー?反撃し始めよった!」


 何がおかしいの?僕が虐められるのを見て、こんなに喜んで?だんだん腹がたってきた。こんなバカ面の連中におもちゃにされてたまるか!やってやる!


 バクバク!


 ギィーヤーッス!


「おー!やれば出来るやないか!」


 バクバク!


 食べたくない。でも食べなきゃ、僕が食べられる。


 バクバク!ゴクン。


「こいつ中々やりよるで!よーし!お前をグレイト・ワンと名付けよう!」


 それからというもの、僕は色々な実験器具や、怪しい薬を投与され続けた。毎日毎日。


 やめて。その薬はイヤなんだ!その薬を使われると、意識が遠退いていく…

 いっつも、意識が戻ると、僕の回りには、死骸が転がっている。

 これは僕がやっているのか??

 全然覚えていない…


「だいぶ、デカなってきたのー!そろそろ実戦投入してみるか?」


 実戦投入??何をさせられるの??

 僕は食べたくないんだ!


「よしゃ、グレイト・ワン!お前の真価を見せてみー!」


 え?あれを食べなきゃいけないの?あれは人間じゃないか?食べたくない。食べたくないよー。


 そして、薬を投与され、気がつくと、僕の横には人間の死体があった。


 僕が食べちゃったの?人間を?

 もうイヤだ。


「これでお前も立派な怪物の仲間入りや!!グレイト・ワンよ!」


 怪物になんかなりたくない。怪物になんか。


 薬を投与されて、人間を食べ、体が大きくなるにつれて、記憶が薄れてゆく。


 あと数回も繰り返せば、僕の理性はなくなってしまうだろう。


 イヤだイヤだ。

 怪物になんかなりたくない。


「さー!これが最後の薬やで!」


 そしてとうとうほんものの怪物になった。


 グレイト・ワン


 その名前で僕を呼ばないで。




「仲松さん、なんで彼がライギョマンを受け継いだんでしょう?」


「来栖くんはどう思う?」


「んー?その場に彼しかいなかったからですかね?」


「僕の考えは、ちょっと違って、彼は元々選ばれた人間なんじゃないのかな?」


「まさかー?(笑)」


「そのまさかの現実が今起こってるからね?あながちそうかもよ?」


「なるほど?じゃ、彼が真のライギョマンだとすると、飯見さん以上の力を持っている可能性も?」


「それはないと思う。さすがに飯見さんを越えるのは不可能だよ?飯見さんには、サーペントファイティングもあったしね。」


「じゃ、超巨大生物を倒すの絶望的ですね?」


「そうでもないさ。飯見さんを越える鍵を今、手に入れに行っているからね?」


「パチンコドライブですね?」


「いや、パチンコドライブではダメだ。」


「では?」


「それはいずれ分かるよ。あと、飯見さんが殺られた時とは、違って、次は僕らもいるしね!」


「そうですね。二正面作戦ですね!」


「そう。それとフロッグマンとロメオがどこまで、力を上げられるか?もキーになるよ。」


「実際に戦って生き残ってるのはフロッグマンだけですからね?」


「そう。僕らも戦闘準備に入ろう。」


「はい。」



 - 滋賀県琵琶湖湖畔 -


「さめやんさん。こんな場所で待ち合わせなんですか?」


「せやで。人目があるとまずいやろ?」


「そうなんですか?」


 あたりまえやろ?俺は今から、お前のライギョマン変身ベルトを盗むんやで?


「え?何か言いました?」


「いや、何もゆーてへん!気のせいや!」


 あぶねーあぶねー。つい口ずさんでもーた。嶋田さん、まっとれや!もうすぐベルトを取り返したる!


「おっ、来たで!彼がパチンコドライブを受け継いだ恩田くんや!」


「はっ、初めまして!僕、上田三郎と言います。」


「鮫谷さんから、話は聞いとるで、パチンコドライブが欲しいんやろ?」


「はい!」


「実は今、とある人のところに預けとんねん。」


「え?さめやんさん?話が違うじゃないですか!」


「いや、俺も初めて聞いたねん。」


「その人に会って、直接話をして欲しいんや。だから、ここまで呼んだねん。」


「その人とは?」


「デンプシー代表、大浦忠正さんや。」


「デンプシーの大浦さん?」


「せや、その人は京都におる。そこに行けば全てがわかる。」


「わかりました!」


「ほな、頼んだで!」


 恩田さんは、去って行った。


 よし!恩田くんがいなくなった今がチャンスや!ヤツはちょうど琵琶湖の方を向いている。とっととベルトを返しやがれ!このスットコドッコイがwww


 タタタタタッタ


「さめやんさん!さっそく京都に向かいましょう!」


 クルっ。


 いっいきなり振り返るなやー!おっとっとっと……


 ドッボーン!!


「あー!さめやんさんが琵琶湖に落ちたーー!大丈夫ですかー!さめやんさーん!」


「大丈夫やあらへん!俺泳げへんねん!あっぷっぷ…」


「大変だ!今助けを呼んできます!」


「い、いや、君が助けてーや!あっぷっぷ…」


「僕も泳げないんですよ!待ってて下さい!すぐ誰か連れてきます!」


 タタタタタっ


 ちょー!まってーや!あっぷっぷ…ほんまにアカンてーーー!………


 ブクブクブクブク………


 鮫谷将英リタイア。


 

 未だに僕はライギョマンに変身できないでいる。ホントに僕がライギョマンベルトを持っていていいのだろうか?飯見さんの意思を受け継いで、断固たる決意をしたが、正直自信がなくなってきた。パチンコドライブを手にしても何も変化がなかったら、フナゾーさんにでも代わってもらおう。


 パチンコドライブ。いったいどういう竿なんだろう?


 - 京都某所デンプシーラボ -


 飯見さん。川丘商事時代のご恩は忘れません。今の俺があるのは、飯見さんのおかげです。どこの馬の骨ともわからない俺に、誰よりも先に目を掛けてくれ、そして引き上げてくれた。必ず、飯見さんの敵を討ちます。


 ここがデンプシーラボか?大浦さんてどんな人なんだろう?なんか緊張してきた…とりあえず入ろう。


「すいません。恩田さんの紹介で大浦さんに会いにきた上田と申します。」


「いらっしゃいませ。お話は伺っております。こちらへどうぞ。」


 キレイな受付嬢さんだ。とてもいい匂いがする。


 スゴい、電子ロックなのか!


 ピピピピピ、ガチャ。


「社長、上田様をお連れ致しました。」


「ありがとう。」


「上田様、中にお入り下さい。では、失礼致します。」


「はじめまして、上田三郎です。」


「はじめまして、大浦忠正です。そんなに固くならずに、こっちへどうぞ。」


「はい。」


 スゴい!なんだここは?色々な竿や、世界中の怪魚、ハイテクな機材、並みの研究施設じゃないのは、僕でもわかる!


「話は、各方面から聞いとるよ、飯見さん…惜しい人を無くした。」


「はい。最後まで勇敢な人でした。」


「あの人らしい最期やね。」


「ええ」


 大浦さん、物静かな人だが、内に秘める何かを感じさせる人だ。どこか飯見さんと似たような雰囲気がある。


「さっそくですが、パチンコドライブを受け取りに来ました。」


「あー、あの竿ならあそこだよ。」


 指差された方を向くと、


 ???


 バラバラに分解され、何かの実験装置の中に入れられているパチンコドライブがそこにはあった。


「バ、バラバラじゃないですか!大浦さん!」


「うん。ちょっと色々調べたくて、分解して色々実験させてもらったねん。」


「そんな…これでいったい、どう戦えっていうんですか…」


「大丈夫だよ。」


「大丈夫って…そうか!今から治すんですね?」


「いや、このままやで。」


「そんな…」


「そんな悲壮な顔せんでも(笑)それじゃなくて、こっちや。」


 別の実験装置に吊るされた竿を大浦さんは指さした。


「これは??」


「デンプシー トマホーク ストレングスマイルド。」


「ストレングスマイルド?」


「せや、パチンコドライブを色々調べさせてもろたが、あれはダメや。ただの欠陥品。竿とは呼べん。ただの棒や。」


「パチンコドライブがただの棒??」


「せや、至近距離で、かつ一発狙いで、瞬間的に勝負を決めるには、ええ仕事してくれるやろが、それだけじゃ竿はアカンねん。」


「というと?」


「あれは、使い手と場所を選ぶ竿なんや。君のようなヒヨッ子に使いこなせる代物じゃないんや。」


「ヒヨッ子…否定できませんが…」


「しかも、その性質上、まったくタメがきかんのや、相手の攻撃を上手く吸収して、使い手のダメージを減らし、そして自分の力に変える。それがあって初めて竿と呼べるんや。ただ短くて固いものを作るだけならアホーでも出来るんや。」


「そうなんですか…」


「使いこなせる腕があり、シチュエーション次第では強力な武器になるが、今回の相手ではダメや。遠距離から攻撃し、かつ鋼の装甲で寄せる。パチンコドライブの古い設計と装甲では歯がたたない。飯見さんのサーペントファイティングが完敗したのを考えると、尚更や。このストレングスマイルドは、その欠点を克服し、君のようなヒヨッ子でも扱い易いようにセッティングしてあるんや。」


「なるほど!」


「だからと言って、おいそれ易々使える代物ではないんや、君にもそれ相応の修練を積んでもらわないとアカン。」


「修練??」


「せや、その修練の場所に今から君を連れて行く。」


「わかりました。その場所とは?」


「今は封鎖された場所、奈良県にある地原ダムや。」


「地原ダム?」


「せや。日本で最初にビーストが放たれた場所。」


「ビースト?」


「そう、最古参のビーストで、狂暴性では、天竜湖のビーストを遥かに凌ぐ。俺の片目を奪い、そして、君の後ろにいる彼女の父親の命を奪った相手だ。」


 後ろ??


 さっきの受付嬢の!


「改めまして上田さん。今回、同行させて頂きます、山田奈緒美と申します。」


「え?山田奈緒美さんて、あの??」


「せや。彼女はACB49の元センターや。」


「えーーーーー!!!でも、たしか電撃引退した筈じゃ?」


「そうです。父の死に不満を抱え生活していた私に、ある日、大浦さんが声を掛けて下さいました。そこで、真実を知り、大浦さんの元に来て、ある力を身に付けました。」


「ある力?まさか?」


「そうです。私も上田さんと同じ力を持っています。これです。」


挿絵(By みてみん)


 正直、ブリーフ姿に変身すると思って期待していたので、ガッカリだった。てか、なんで男はブリーフ姿なんだ??僕も、普通の姿に変身したい…

 でも、元アイドルの奈緒美さんですら、変身を自分のものにしている。僕も頑張らないと!ストレングスマイルドを持てば変身できるようになるんだろうか?


「ほな、地原ダムに出発しよか?ストレングスマイルドについての詳しい説明は道中で話すで。」


「よろしくお願いします!」


「上田さん、頑張りましょう♪」


「はい!」


 頑張ったらデートに行って下さいと言おうと思ったが、僕にはその勇気はなかった…。だから万年童貞なんだろう…。剛三さんにバカにされたのが懐かしい。

 いや、雑念は捨てよう!今の僕には、天竜湖の怪物を倒すことが全てだ!


「では、行きましょう!いざ地原ダムへ!」



「上田くん、もうすぐ地原ダムや!ここから先は、一般人は侵入禁止や。」


「え?じゃどうやって入るんですか?洞窟ですか?」


「まさか(笑)僕はここの管理責任者と顔見知りなんだよ。」


「あっ、そういうことですか(笑)」


 笑顔で会話をしてるが、張りつめた空気が車中に漂っている。


「着いたで、ここが地原ダムや。」


「ここが地原ダム…」


 早朝の地原ダムは静寂に包まれていた。

 深山幽谷。確かに何かとてつもないものがいる。そう思わせる雰囲気がある。


 突如、沖で何かが蠢いた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴー

 ズバっシャーーーーン 


 沖にいた鵜の群れが何かに飲み込まれた。


「大浦さん!あれが??」


「せや、あれが地原ダムに棲む最古のビースト。ダリロフや!」


「だ、ダリロフ…」


 ゴクっ…大きさは五メートル程だろうか?確かに天竜湖のビーストと比べると見劣りするが、とにかく動きが早い。高台から見ていても、動きが補足しきれない。獰猛さも、天竜湖のビーストとは比べものにならなそうだ。手当たり次第に何かを捕食して動き回っている。


「さ、上田くん、山田くん、準備に取りかかろう。」


 そう言って、大浦さんは、僕にストレングスマイルドを手渡した。


 ストレングスマイルド…僕に使いこなすことが出来るのだろうか?




「なっ、奈緒美さーーーん!!!」


 奈緒美さんに危機が迫っている。どうしよう。やっぱり僕にはまだ早かったんだ。僕は成す術なく、呆然と立ち尽くしている。ダリロフは奈緒美さんにトドメを刺そうと距離を摘め始めた。


「上田くん!何しとんねん!早く、ライギョマンに変身せんか!ストレングスマイルドは飾りやあらへんぞ!」


 分かっている。分かっているが、どうしたらいいのか解らない…変身しようにも、変身の仕方がわからない。ストレングスマイルドを手にしても何も変わらない。マズイ、マズイぞ?このままだと、奈緒美さんは確実に殺られる!


「えーい、クッソー!上田くん、ストレングスマイルドを貸すんだ!俺が行く!早く!」


「え、あ、はい…あ、あーーー…」


 コロコロコロコロ


 マズイ、ストレングスマイルドを崖から落とした…早く取りに行かないと!


「何グズグスしとるんや!俺が行く!」


 そう言うと、大浦さんは崖を下っていった。大浦さんは、ストレングスマイルドを拾い上げると、奈緒美さんに襲いかかろうとしているダリロフに攻撃した。

 バコっ!!

 大浦さんの攻撃でダリロフが怒りの矛先を大浦さんに変えた。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォ!


「君は、山田くんを救出してくれ!俺が時間を稼ぐ!早く!」


「はっ、はい!」


 奈緒美さんを救出し振り返った瞬間、ビーストは大浦さんを襲った。


 バシャッバシャッドっゴーーーン!


「大浦さーーーーん!」


「上田くん!後は任せた!ストレングスマイルドを受け取ってくれーー!」


バキバキッ!グシャグシャァァァァァ


「うわーーーー!大浦さーーーん!」


 ストレングスマイルドを放り投げ、大浦さんは、ダリロフに飲み込まれた。


「うわーーーー!まただーーー!また僕のせいでーーーー!」


 ゴホゴホっ、


 ??


「奈緒美さん!気がついたんですか?」


「なっ、何をしているんですか…?そうやって立ち尽くして…、ダっ、ダリロフにやられるのを…待っているだけですか…?そ、それともまた誰かが助けに来てくれると思っているんですか…?ゴホゴホっ…」


「もう喋らないで下さい。分かっています。分かっていますが、どうやったらいいのか解らないんです…」


「きっと、あなたは…いつもそうやって…逃げてきたんでしょうね…?」


「はい。その通りです…子供の頃から、何をやっても、全力を出すことをためらい…誰かが助けてくれることを願い、途中で投げ出してきました…」


「わかりました…ゴホゴホっ…そ、そうやって、いつまでも逃げ続けて下さい…」


 そう言うと奈緒美さんは、よろよろと立ち上がった。


「た、立ち上がるなんて無理です!早く逃げましょう!」


「わ、私は…最期まで戦います…上田さんは…に、逃げて下さい…」


「なぜそこまで??」


「あ、あなたには説明しても…り、理解できないでしょう…は、早く逃げて…」


 どうして?どうして皆、そんなにボロボロになってまで戦うんだ?ビーストなんて放っておけばいいよ…

 またか?また僕は逃げるのか?皆に助けてもらってばかりで、剛三さん、堤さん、飯見さん、大浦さん…、ダメだ!ダメだ!もう逃げる訳にはいかない!僕がやらないとダメなんだーーーーー!!!!


 ピカーー!!!!


挿絵(By みてみん)


 僕の全身が光に包まれた。

 その後のことはよく覚えていない。

 気がつくとダリロフの死骸が僕の脇に転がっていた。今まで味わったことのない、高揚感、全身にみなぎる力、どうやら僕はライギョマンに変身できたようだ?


「や、やれば、で、できるじゃないですか…」


「奈緒美さん!あなたのおかげです!あなたのボロボロになってまで戦う姿に心打たれた結果です!ありがとう!」


「お、お礼を言うのは、私の方です。父の敵を討ってくれてありがとう。」


 ニコっ。


 ホッ。よかった!やっと、奈緒美さんに笑顔が戻った!なんて、かわいいんだ!


「な、な、な、奈緒美さん?」


「なんですか?」


「あ、あのー…」


「ん?」


「ぜ、全部、終わったら…」


「終わったら??」


「ぼっ、ぼっ、ぼっ、僕とデートして下さい!」


 な、何を言っているんだ?僕は…


「いいですよ♪」


 え、え、え、えーーーーーー!!!


「ほんとですかーーーー!!!」


「はい♪でも、とりあえず私を病院に運んで下さいますか?」


 僕の中で燻っていたものが、全て解決できたような気がした。

 よし、待っていろ!天竜湖のビーストよ!

 


 - 埼玉県某所、マジョーラ本部 -


「上田くん、こちらがBトラストの仲松くんです。」


「はじめまして。上田です。噂は予々。」


「はじめまして。仲松です。」


「そしてこちらが、フルハウスの来栖くんです。」


「はじめまして。来栖です。ライギョマンに変身できるようになったんだってね?」


「はじめまして。ええ。ようやくです…でも、失ったものが大きすぎて…」


「そうだね。」


「それも、今回で最後ですよ。」


「はい。浅井さん。必ずヤツを倒して終わりにしてみせます。」


「挨拶はこれくらいにして、そろそろ本題に入ろう。」


 この日、僕、仲松さん、来栖さん、浅井さん、船形さん、の五人で天竜湖のビーストを仕留めるべく、作戦会議を行った。仲松さんの口から語られた情報は、どれも鮮烈で、的を射ているように思えた。


「まー、そんな感じで、いい線いけるんじゃないかなと?」


「なるほど、これなら倒せそうな気がしてきました!」


「まだ短絡的になるのは早いけど、後は、フロッグマンと田森さんの仕上がり具合も気になるところだね。」


「あちらには、トガテンも加わっているんで、問題ないかと?」


 そうか、綾野さんはあれから、どうしているんだろう?田森さんが新しい竿を開発しているらしいが、今回間に合うんだろうか?


「あ、そういえば!」


「え?ふなぞーさん、どうしたんですか?」


「天竜湖のビーストの名前はグレイト・ワンて言うらしいですよ!潜入してる仲間からの報告です。」


 グレイト・ワンか?若干、安易な感じがするが、まずまずシックリくる。


「でわ、僕らマジョーラは打ち合わせ通り後方支援をします。」


「よろしくお願いします。じゃ、僕ら3人は明日の朝、天竜村に移動して準備に入ろう。」


「はい。仲松さん、来栖さん、よろしくお願いします!」


「よろしく!上田くん!僕も仲松さんのアシスト役を頑張るよ!」


そうだった!


「来栖さん、来栖さんの腕を見込んで一つお願いがあるんですけど?」


「なに?」


「ストレングスマイルドを改造して下さい!」


「え?いいけど?どんな風に?」


「僕の体力では、正直、この竿は重すぎて超時間の戦いになったら、最後まで振り続ける自信が、ありません。軽くすることはできませんか?」


「んー。持った感じ、だいぶ先重りしてるから、少しフォアグリップを詰めて、持ち重り感を軽減してもいいかもね?ブランクは装甲を薄くすると、破壊力を奪いかねないから、そのくらいの改造に留めておいた方がいいんじゃないかな?」


「じゃ、それでお願いします!」


「お安いご用だよ!出発前には終わらせておくよ!僕は普段は仕事が遅いけど、やる気になると早いんだ(笑)」


 明日の昼には天竜村だ。いよいよだ、いよいよ最後の戦いが始まる!


「おはよう上田くん!ストレングスマイルド完成したよ!ジャーン!」


挿絵(By みてみん)


 そう言って手渡されたストレングスマイルドを見て、僕は言葉を失った…


「サービスで色も塗っておいた!」


「はっ、はぁ……」


「ストレングスマイルド改、EVOANGLING -01test type!かっこいいでしょ?」


「は、はい…」


「君がアニメのエヴゥンゲリオンが好きって聞いたんで!そこからインスパイアした!これで思う存分戦えるでしょ!」


 正直…僕には、派手すぎる…元の色に戻して欲しい…


「あ、あのー」


「お礼なんていいって!さっ、天竜村に出発だ!仲松さんはもう車の中だよ!」


 い、言えなかった…


 言える雰囲気は一切なかった…


 フルハウスの来栖さん、この人の天然で、底抜けに明るく、ゴリゴリ貫き通す究極なマイペースさは、いつかポジティブハラスメントとして、訴えられるんじゃないかと、心配になった。

 

 

 - NOB 生体増強ステロイド開発室 -


[モウマクスキャンヲシテクダサイ]


 ピーーー


 カチャン


 プシューー


「所長、ダリロフがやられちゃったようだね?」


「大野さん!いらしたんですか?」


「ついさっき、ライギョマン軍団も天竜村に入ってきたよ!」


「さっき、中神さんからも連絡がありました。」


「今回こそは、ライギョマンを倒して、ベルトを取り返さないと、君の首も危ないよ?(笑)」


「わかってますがな!とうとう、こいつを試す時がきました。」


「グレイト・ワン用のステロイド?成功したんだ?」


「最初の二匹に投与して、実験はほぼ成功しています。それをグレイト・ワンの遺伝子に適合させるのに成功したんで、さっそくグレイト・ワンに投与します。」


「大丈夫?失敗は許されないよ?」


「大丈夫です!わし天才やから!はははっー!」


「まー、ゆっくり見させてもらうよ。今日中に中神さんも合流するから、ヘマだけはしないように?」


「わかってますがなー!」



 - 天竜村マジョーラ支部 -


「仲松さん!ブリッツェンのチェックOKです!上田くんのEVOANGLING もバッチリです!」


「ありがとう来栖くん。そういえば、上田くんへ、浅井さんから、これを預かっていたんだ。」


 仲松さんから手渡されたものはリールだった。


 ブラックピッグ?


「生前、飯見さんが、使っていたものだよ。天竜湖の畔に落ちていたものをマジョーラの仲間が拾ってきてくれたんだ。ボロボロだったけど、スローイングのメカニックが直してくれたんだ。」


 手にしたブラックピッグには、歴戦を物語る傷があちこちについていた。


 飯見さん…。


 "大丈夫や、さぶろー!心配すな!俺がついとる!"


 そう、飯見さんが言ってくれている。そんな気がした。


「仲松さん。言われた通りの準備は全て整いました!」


「ありがとう。あっ、上田くんは初めてだったよね?」


「はい。」


「彼はマジョーラメンバーの坂村さん。」


 デカっ!!!190以上ありそうだ。


「はじめまして上田です。」


「はじめまして、坂村です。噂は色々聞いてますよ!」


「ありがとうございます。」


 ヤットデタマンの小山高生を思い出した。


「彼は今日までスパイとして、NOBに潜り込んでくれていたんだよ。」


「え?そうなんですか?」


 突っ込みどころ満載だ…そもそも目立たないのがスパイのイロハのイではないのか?…


「いやー、色々苦労しましたよ(笑)」


 そりゃそうだよ…目立ちすぎ…


「まー、それも今日で終わりです。これで、群馬に帰って、趣味のジムニーいじりができます!」


 え?ジムニー??ランクルにでも乗った方が…


「ご苦労様でした!気を付けて帰って下さい!」


「では、ご武運を!」


 坂村さんは村を後にした。


「さあ、行こうか。」


「「はい。」」


 綾南高校を勢いづかせた仙道の言葉と同じじゃないか!スラムダンクファンの僕はシビレた!きっと、仲松さんと来栖さんは、このことは知らないだろう。僕は一人、彦一の気分を味わい、勝手に勢いづいた。


 この後、最大の恐怖が訪れるとも知らずに。

 


 今年何度目の洞窟だろう。

 子供の頃、幾度となく通り抜けた洞窟。

 ここで剛三さんと出会って、僕の人生は180度変わった。

 もしかしたら、これが最期になるかもしれない。

 そう思うと、体中から冷や汗が吹き出してきた。


「上田くん、大丈夫?気分が悪そうだけど?」


「来栖さん、大丈夫です。もう少しで出口です。気を引き締めましょう。」


「あまり気分が悪いようなら引き換えそう。」


「大丈夫です。今日決着をつけましょう。」


「よし、出口だ!上田くん、来栖くん、いきなりガバっとくるかもしれないから気をつけよう(笑)」


 なんでこの人はこんなに楽しそうなんだ?ここへ来ての、この図太さはすごいとしか言いようがない…仲松宏樹恐るべし…


 ソローリ


 キョロキョロ


 洞窟から顔を覗かせたが、特に危険な感じはなかった。それどころか、今日の天竜湖は静寂に包まれていた。


「おかしいですね?何の気配も感じませんが?」


「ホントだね?」


「このまま湖畔から、距離をとって回り込みましょう。」


 3人は静かに歩を進めた。暫く歩くと、来栖さんが声を上げた。


「なんだあれ?」


 よく見ると湖から、何か巨大なものが這ったような後が森へと続いていた。


 ゴクっ…


 僕の緊張はピークに達した。


「もうライギョマンに変身した方がいいですかね?」


「いや、まだ早いよ。君の変身持続時間は五分がいいとこでしょ?ここぞって時じゃないと無駄になっちゃう。」


 そうなんだ、ライギョマンに変身出来るようになったのはいいが、僕の体力では、変身持続時間はせいぜい五分…おまけに、ブラックピッグを装着したストレングスマイルドをフルキャスト出来る回数もせいぜい10回程度…こんなんでグレイト・ワンに太刀打ちできるのだろうか…?


「心配してもしょうがないよ。なるようにしかならないから(笑)」


「そうだよ上田くん!やるだけやってダメならやむ無し(笑)」


 この二人のポジハラマイペースは僕には毒だ…


 と、その時


「上田くん、来栖くん、下がって!」


 仲松さんが、森を見ながら叫んだ。


 仲松さんから、笑顔が消え、勝負師の顔へと変わった。


「な、なにかいるんですか?」


「うん、いるね。ちょっと近づいてみるよ。」


「き、危険ですよ!」


「大丈夫。」


 僕と、来栖さんは離れて見守ることにした。


「おーい!安全が確認できた!こっちへ来てみな!」


 なんだろう?僕と来栖さんは森へ駆け寄った。


 !!!!!!


「なんだこれは!!!」


 森の中に巨大な塊がある。


「この塊はなんなんですか?」


「脱け殻だよ。」


「「脱け殻??」」


「おそらくね。上の方を見てごらん?セミの脱け殻みたいに中身が出た跡があるだろ?」


 ホントだ。この大きさからするとグレイト・ワンの脱け殻に間違いない。


「な、仲松さん?じゃヤツは??」


「成獣になったってとこかな?想定外だね。おそらくヤツは更に進化したに違いない。」


 ポジハラ王の仲松さんをもってしても、想定外だというのか…


「まー、なるようにしかならんよ!(笑)」


 ………


 と、その時!


 ゴゴゴゴゴゴゴォォォォォォォーーーー 


 突如地鳴りがした!


 ズザザザザザザー


 バキッバキッバキッ


「しっ、しまったーー!背後を取られた!ヤツは地面の中だーーー!」


 ゴオオオオオオオオオオーーー


 ドン!!!!


 地面が割れてヤツが姿を現した!グレイト・ワンだ!


「うわぁぁぁぁぁーーーー」


「来栖くん、落ち着いて!」


「こうなったら、ライギョマンに!ライギョマンに!」


「待つんだ!まだその時じゃない!」


「みんな食べられちゃいますよ!」


「いいから落ち着くんだ!」


「おっ、落ち着いてなんか!!!」


 と、その時、


 ガコっ!!!


 バキッ!!!


 ドコっ!!!


「いやー、すいません遅くなりました(笑)」


「そ、その声は!」


「綾野くん、ギリギリ間に合ったね?」


「もー、田森さんのせいでいつもギリギリ(笑)」


「いや、綾野くんが長々ウンコしてたからでしょ…」


「あっ、それは言わない約束!」


「あ、綾野さーーーん!!!」


「いやー、またギリギリになっちゃったよ上田くん(笑)」


「ところで、その格好は??」


「あっ、これ?これは、フロッグマンの改良型スーツ!僕は前の方が良かったんだけど、田森さんが、こっちの方がパワーが強いから、着ろって…」


挿絵(By みてみん)


 ………………。


 圧倒的に弱そうだ………


 しかも、どちらかと言うと正義のヒーローというよりも、悪の怪人に見えるよ……


「そんな事よりも、何こいつ??グレイト・ワンは??」


 そうだった、今はそんな事考えてる暇はなかったんだ!


「グレイト・ワンが成長したのがそいつだよ!」


「あっ、仲松さんお久しぶりです!ソバハチ忘年会以来ですね(笑)」


 ガバっっっっっ!!!!


 突如グレイト・ワンが綾野さんに襲い掛かった!


「綾野さん!あぶなーい!」


 シュっ!


 ドコっ!!!バキッ!!!


 ズダーーーーーん


「綾野さん、よそ見しちゃダメだよ(笑)」


「いやー仲松さん助かりましたよ(笑)」


 スッ凄い!成長したグレイト・ワンを一撃で転倒させた!これがブリッツェンの力か!


「どうやら、まだグレイト・ワンは変体直後で本来の力を出しきれてないようだ。今がトドメを刺すチャンスだ!綾野くん!ロメオトラストの最強ロッドシックスナイン10だ!こいつでトドメを!」


 シュッ!


 パシッ!


「田森さん、ありがとうございます!じゃー、そろそろ本気を出すとしますか~(笑)」

 凄い!凄いぞ!完全にグレイト・ワンを圧倒している!


「ウリャーー!」


 ドっコっん!!!

 バキッ!!!


「そりゃ!」


 バコっ!!!

 ズドンっ!!!


 仲松さんと、綾野さん、この二人がいれば僕の出番なんてなさそうだ!


「よしっ!あと少しかな?(笑)」


「このままいけそうかな?(笑)」


 ドッスーーーーン。


 グレイト・ワンが倒れた!


「綾野くん!トドメを!」


「了解!田森さん!」


 綾野さんがトドメを刺そうとした時だった。


 ベッっっっ!


 ビシャっっっ


 グレイト・ワンが吐いた唾液が田森さんにかかった。


「ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


「たっ、たもりさーーーん!!!」


「綾野さん、近づいちゃダメだ!それはおそらく、強酸だ!」


「強酸??」


「田森さんは、もう助からない!それよりも自分の身を守るんだ!」


 田森さんの体がドロドロに溶けてゆく…


「た、た・す・け………」


 田森さんは跡形もなく溶けて消えた。


「あーーーー!グレイト・ワンが!」


 来栖さんが叫んだ。


 グレイト・ワンは、巨体を揺らしながら、ゆっくりと地中に姿を消した。


「しまった!田森さんに気を取られて、グレイト・ワンを逃してしまった!」


 グレイト・ワンが姿を消した穴へと皆で近寄った。


「まずいなぁ?グレイト・ワンを倒せる最大のチャンスを逃したよ。」


「仲松さん?グレイト・ワンは変体直後で本来の力を発揮していなかったという事ですか?」


「おそらくそうだろうね?体も柔らかい感じだったし、どの程度で変体が完了するのか分からないけど、次は確実に強力になっている筈だよ。」


「加えて、強酸の攻撃ですか…」


「うん。あれは相当やっかいだね。」


「この穴を通ってヤツを追いましょう!」


「いや、おそらくこの穴は天竜湖へと繋がっている筈。グレイト・ワンは既に水の中じゃないかな?」


「しかも、水中、陸上、地中とどこでも活動できるようになって、どこから現れるか分からないから厄介だよ。」


「綾野さん?もうヤツに弱点はないんですかね?」


「まー、空を飛べないだけマシかな?(笑)」


 さっきまでこの二人がいればなんとかなると、楽観視していた僕はバカだ。


「上田くん、次にグレイト・ワンが姿を表した時は、最初からライギョマンに変身してくれ。」


「仲松さん分かりました。僕も全力を出します。」


「あと、来栖くんは、洞窟まで退避していてくれ、僕らに何かあった時は、後の事は任せる。」


「分かりました。とてもじゃありませんが、僕にはどうにもできそうにありません。くれぐれも無理をしないで下さい。」


 そう言い残して、来栖さんは洞窟へと向かった。


「正念場ってやつだね。」


 そう言った仲松さんの横顔は、どことなく嬉しそうに見えた。

 どのくらいの時間が経ったんだろう?僕の緊張はピークに達していた。あいかわらず天竜湖は静まりかえっている。グレイト・ワンは眠ってるんじゃないか?


 ブルブルっ


 まずい…


 こんな時に…


「仲松さん、ちょっとトイレに行ってきます。」


「ちんこをマムシに噛まれないように気をつけて(笑)」


「……。」


 とても笑えたもんじゃない…それにしても、あの二人はこの状況下でよく平気でいられるな?


 チョロチョロチョロチョロ


 ブルブルっ


 あーすっきりした。


 ん?


 天竜湖にこんな岩あったっけな?


 ???


 ……………


「うわぁぁぁぁーーーーーーー!!!出たーーーーー!!!」


「仲松さん、上田くんが何か叫んでますよ(笑)」


「マムシが出たのかな?(笑)」


 なんでグレイト・ワンがこんなところに???湖の中にいるはずじゃなかったのか?


「な、仲松さーーーーん!綾野さーーーーん!」


「綾野さん呼ばるてるよ!」


「仲松さんも呼ばれてるじゃないですか(笑)」


 まずい、まずいぞ?この状況は、ん?グレイト・ワンは眠っているようだ、ここはゆっくりとグレイト・ワンを起こさないように逃げよう。


 ソローリ、ソローリ


「おーい!上田くーん!どこだー?」


 えーーーー?このタイミングでーーー??

 こ、声を出さないでーーー!


「おーい!おしっこチビったのかー?」


 そ、それ以上声を上げると…


 ギロっ!


 あ、あ、あ、グレイト・ワンと目が合ってしまった…


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 こ、腰が抜けて声が出せない…

 まずい、まずい、まずいぞ。


 どうにかしないと…


 た、頼むから動かないでくれ…


 そ、そうだ、ライギョマンに変身してこの場を切り抜けよう!


 あーーーーー!立ちションするときにベルトを外して、置き忘れてきたーーー!


 なんてこった…


 ベルトを取りに行かないと!


 ソローリソローリ


 いい子だから、動くなよ?


 ソローリソローリ


 あと5メートル。


 ソローリソローリ


 あと4メートル


 ソローリソローリ


 あと3メートル


 ソローリソローリ


 あと2メートル


 グオオオオオオォォォォォォォ!!!!


「うわぁぁぁぁーーーーーーー!!!ダメだーーーー!!!気づかれたぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 ドカっ!


 バキっ!


「もー!こんなところで何をやってるんですか?」


 あっ?    


 えっ?


 ええーーーー??


「あーーーーー!奈緒美さーーーん!」


「グレイト・ワンを倒してデートに誘ってくれるんじゃなかったんですか?」


 えー?なんで奈緒美さんがここに??


「奈緒美さん、怪我はもういいんですか?」


「このとおりすっかり治りました♪」


「よかった~」


 え?まさか、立ちション見られてたんじゃ…


「立ちションしてもベルト放したらダメですよ?」


 あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ…やはり見られてた…


「あの…その…」


「はい!ベルトです!」


「ありがとう」


「それよりも、まずはみんなのところに戻りましょう!」


「あ、は、はい。」


「急いで!」


 ダダダダダダダダっ


 ん?おかしい、グレイト・ワンが追って来ない。やはりまだ変体が終わっていないのか?


 ズデーン!


 ??


「な、奈緒美さん?だ、大丈夫ですか?」


「え、ええ。」


「つかまって下さい!」


「す、すいません。うっ…くっ…」


 ヌルっ


 ?


 血だ。


「奈緒美さん、転んでどこか怪我をしたんじゃないですか?」


「いえ、大丈夫です。」


 ん?よく見るとすごい出血量だ。


「奈緒美さん?まさか?怪我が治ってないんじゃ?」


「実は……。」


「やっぱり?無理しちゃダメですよ。命に係わりますよ!」


「とりあえず、洞窟に行きましょう。立てますか?」


「ハイ。」


「さ、僕につかまって!」


 だいぶ、息が切れている。この出血量はまずい気がする。


 早く洞窟へ。


 ズドーーーーーン


 ズドーーーーーン


 ズドーーーーーン


 ズドーーーーーン


 くそー。こんな時にグレイト・ワンが…


 グォォォォォォォ!!!!!


 ライギョマンに変身したいが、奈緒美さんを放さないと変身できない!今、奈緒美さんを放したらグレイト・ワンにやられてしまう!


「くっそーーー!」


 絶体絶命だ!


 僕は諦めて目を瞑った。


 シュ!


 ?


 クルクル。


 ?


 ガチッ!


 ?                            


「うわぁぁぁぁーーーーーーー!!!」


 僕と奈緒美さんが宙を舞った。


 ガシっ。


 ???


「もー、こんなとこで何遊んでんの?(笑)」


「あ、綾野さん!」


 綾野さんが、僕らを釣り上げてくれたのか!


「大事な用事をスッポカしてデート?(笑)」


「仲松さん!」


「さ、ここは僕らに任せて、その子を逃がしてあげな!」


「仲松さん!すいません。僕の不注意で…」


「いいから、早く!グレイト・ワンが来るよ!」


「綾野さん、ありがとうございます!すぐに戻ってきます!」


 ダダダダダダダダッ。


「なんか青春してるね~(笑)」


「ですね(笑)」


「さっ、踏ん張りどころだ!(笑)」


「若者にカッコイイとこ見せますか!(笑)」


「来たよ~全開バリバリのグレイト・ワンが!(笑)」


「来い!田森さんの仇を取ってやる!」


 グゥァバァァァァ!!!


「来栖さーん!来栖さーん!」


「ど、どうしたの?上田くん!その子は?血まみれじゃないか!」


「話せば長くなるんですが、グレイト・ワンに襲われました!今、仲松さんと綾野さんが闘っています!僕もすぐに戻るんで、この子の救護をお願いします!」


「分かった。マジョーラの緊急救護セットがあるから、一通りの応急措置はやっておくよ!」


「よろしくお願いします!」


「上田くん!くれぐれも気をつけて!」


「はい!じゃ行ってきます!」


「う、うえ…ださ…ん…」


 ???


「あ、奈緒美さん!よかった!気がついたんですね!」


「上田さん、ぶ、無事に…も、戻って…デ…ェ…トのや、約束、まっ守って…下さ…いね?」


「ハイ!必ずグレイト・ワンを倒して戻ってきます!」


 ダダダダダダダダっ


「なんか急に漢になったな?(笑)奈緒美ちゃん。余計な心配しないで、ゆっくり休みな!上田くんの事なら心配いらないさ!」


「あ、あ…りがと…ございま…す。」


 待っていろ!グレイト・ワン!必ずお前を倒す!!お前を倒して全てを終わらせる!

 


 はぁ、はぁ、はぁ、

 はぁ、はぁ、はぁ…

「綾野さん、ど、どう?ちょ、調子は?(笑)」


 はぁ、はぁ、はぁ…

「ぜっ、絶好調ですよ(笑)」


 はぁ、はぁ…

「いやー、そっ、それにしても、こいつ硬いね~(笑)」


 はぁ、はぁ、はぁ…

「ほ、ほんとですよ~(笑)おかげで田森さんの遺作のシックスナインが、傷だらけですよ(笑)」


 はぁ、はぁ…

「僕のブリッツェンもヒビが入ってきたよ(笑)」


 はぁ、はぁ、はぁ…

「こりゃー覚悟を決めないとダメですね~(笑)」


 はぁ、はぁ、はぁ…

 はぁ、はぁ、はぁ…

「ここまで手こずらせてくれるとはね(笑)どう逆転しようかな?(笑)」


 はぁ、はぁ、はぁ…

「おっ!グレイト・ワンが近寄ってきましたよ(笑)」


 はぁ、はぁ…

「もうちょっと休ませてもらえないものかね?(笑)」


 はぁ、はぁ、はぁ…

「若者の為に、もう少し、やつの体力を削っておきますか?(笑)」


 はぁ、はぁ、はぁ…

 はぁ、はぁ、はぁ…

「そうだね!(笑)ほんと彼は世話がやけるよ(笑)」


「「よっしゃーーー!ドンと来い!」」


 バキィっ!!!


「あーあ(笑)、はぁ、はぁ、はぁ、な、仲松さんロメオが限界らしいですよ(笑)ティップが折れました(笑)」


「こっちもそろそろかな?あの木の裏に、小野のショートロッドが置いてあるから、それを使って!まだテストしてないけど、折れたロメオよりマシでしょ?(笑)」


「ありがとうございます!グレイト・ワンが隙を見せたら取りに行きます(笑)」


「そうそう、隙は見せないでしょ?僕らが手負いなのも分かっていそうだよ?ホラッっっっ!」


 ヴぅェッッ!


 おっとっとっ!


「もー汚いなぁそんなに唾ばっかり吐くなよ~。お前は60年代の日本人か、もしくは中国人か!(笑)」


「綾野さん、ちょっとツッコミが長いよ!(笑)」


「今ので完全にロメオが終わっちゃいましたよ!(笑)ドロドロ!」


「僕は自分で何とかするから、いい加減ロッドを取ってきてよ!」


「そうはいきませんよ~!仲松さんもボロボロじゃないですか(笑)僕はカイギョマンスーツを着てるんで何とか防げますが、仲松さんは、唾液を喰らったらアウトですよ!(笑)」


「いや~しかし、しんどいね~(笑)」


「ですね~(笑)あー、小岩のピンサロ行きたい!(笑)」


「いいね~(笑)」


 ズッ、ゴーンっ!!!


「ぐわぁぁぁぁー!」


「綾野さん!大丈夫?」


「まっ、まともに入っちゃいました!ぼっ、僕の事は気にせずに、前にだけ集中して下さい!」


「くっ!」


 いや~最後にもう一回ピンサロに行っときたかったなぁ~(笑)おっ!やっぱり俺に目をつけやがったな?(笑)


 ヴぅェッッ!!!


 これはさすがに交わせないな~(笑)

 シュ!


 グイっ!


「うりゃあぁぁーーー!」


 ドスン!


「よかったぁ!上手くいったぁ!」


「う、上田くん!てかライギョマン!」


「さっきの借りを返させてもらいました!」


「なにカッコつけてんの?(笑)てか、遅いよ!何してたの?あの子とチューしてたんでしょ!」


「し、してませんよ!」


「ほんとに~?なんかありがちなパターンじゃないの?(笑)」


「僕は、綾野さんとは違います!そんなことより、こうののショートロッドです!」


「おっ、ありがとう!」


「上田くん!終わったらラブホ行く約束した?」


「仲松さんまで!」


「アハハっ、さ、上田くんも合流したし、もう少しカッコイイとこ見せようか!綾野さん(笑)」


「そうですね!(笑)」


「いや!二人とも何言ってるんですか?もうボロボロじゃないですか!二人は下がって下さい!」


「それはこっちのセリフ!僕と仲松さんの二人掛かりで倒せなかったグレイト・ワンに君が一人で太刀打ちできるわけないでしょ?」


「そうゆーこと!ゆとりは黙って、団塊ジュニアのゆーことを聞きなさい!(笑)」


 僕は何も言い返せなかった。たしかに二人の言う通りだ。

 驚きだったのは、ボロボロなのは、二人だけじゃなかった。グレイト・ワンも既にボロボロの状態だった。やはり、この二人はスゴい!

 だが僕も思わずライギョマンに変身してしまった。これで残された時間はあと数分。ストレングスマイルドをフルスウィングできるのもあと10回あるかないか…。もし、それでもヤツを倒せなかったら?

 ゴクっ…

 いや、後の事を考えるのは止めよう。今、この瞬間に全てを集中させよう。

 この二人とならグレイト・ワンを必ず倒せる!


「よしっ!行きましょう!」


 

 上田くんの後を追って、グレイト・ワンの元へと向かったあの人は無事だろうか?


 - 上田が、グレイト・ワンの元へ向かった直後。 -


「おー!ここが天竜湖か!」


「ん?あなたは?」


「そういう君達は?」


「僕らは、訳有りで…ちょっと…」


「随分歯切れが悪いね?グレイト・ワンを仕留めようとしてるんでしょ?」


「どうしてそれを?」


「ハハハ、なんでも知ってるさ!僕はでんでん虫の鬼頭。」


「僕はフルハウスの来栖です。じゃその竿は?」


「そう!これは、グレイト・ワン用に開発したデニスのロッドマンさ!」


「ぺニスロッドマンの亀頭…」


「君わざと間違えてるでしょ?」


「その亀頭さんが、何をしようとしてるんですか?」


「いや、鬼頭ね!イントネーションが違うから!野暮なこと聞かないでよ?グレイト・ワンのところに行くに決まってるでしょ?」


「率直に言わせてもらいますが、その竿じゃグレイト・ワンには歯が立ちませんよ!」


「わかっているさ!この竿には、ちょっと他の力があるんだよ!」


「なんですか?力って?」


「それはまだ秘密さ。でグレイト・ワンは今どこに?」


「グレイト・ワンはあの岬の奥の森の中だと思います。」


「ありがとう!じゃ、行ってくるよ!」


「くれぐれも無茶しないで下さい!」


 亀頭さんはグレイト・ワンの元へと向かった。あの竿の力とはいったい何なのだろう?

 ドバゥアァ!



 「上田くん!あぶない!」


 ドンっ!


 なんで?なんで、僕はよそ見なんかしていたんだ?勝てるかもしれない。その慢心が…完全に油断した。僕のせいで仲松さんが…仲松さんが…


「くっ、交わしきれなかった!」


「仲松さん!どうして僕を助けたんですか!」


「いや、なんとなく(笑)」


 まずい。仲松さんの下半身は完全に溶けてしまっている。このままでは…


「早く!グレイト・ワンから距離をとるんだ!また強酸が来る!」


「いや、助けますよ!必ず!」


「いや、自分の事は自分が一番よくわかる!もうダメだよ(笑)早く!距離をとるんだ!」


 ドカっ!バキっ!


「なにボケッとしてんの!上田くん!」


「だって、仲松さんが!仲松さんがー!」


「仲松さんは、もうダメだよ!それよりも自分のことを考えな!」


「あ、ありがとう…綾野さん。あ、綾野さんと、こ、小岩のピンサロい、行きたか…ったよ(笑)でもこの下半身じゃ…だ、ダメか(笑)」


「もういいです…もう…これ以上…お願いだからしゃべらないで下さい…仲松さん…」



「ギリギリ間に合った!早くその人をこっちに連れてきて!」


 ???


「あなたは?」


「そんなこといいから早く!」


「綾野さん、グレイト・ワンは僕が食い止めます。仲松さんをお願いします!」


「了解!強酸には気をつけて!ライギョマンスーツでももたないよ!」


「わかりました!」


 ダダダっ。


「連れてきたよ!どうすればいい?」


「あなたも、グレイト・ワンをお願いします。この人のことは僕に任せて!」


「任せてったって、竿だけで、救急箱一つ持ってないじゃない?」


「この竿には特殊な力があるんだよ。」


「特殊?」


「そう。ヒーラー能力が備わってるんだ。絶命さえしてなければ、どんな傷でも治せる!」


「え?そんなことできるもんなの?」


「できる!だから、後は任せて、グレイト・ワンを!」


「わかった!仲松さんのことお願いします。」


「よし、まだ息はあるぞ。これならイケる。頼んだぞデニス・ロッドマン」


 シューーーーー


 ピカァーーーー


「上田くんお待たせ!」


「綾野さん、あの人はいったい??」


「あの人は、でんでん虫の鬼頭さんて人だよ。」


「きっ、亀頭さん??」


「そう。どうやら、あの竿で仲松さんの傷を治せるらしい!」


「ほんとですか?よかった…」


「それよりも、僕らはグレイト・ワンに集中しよう!ほら次の攻撃が来る!」


「ハイ!!」


 ドカっ!バキっ!


 

 ピカーーーーー。


 よし、傷は治った!あとは意識が戻るのを待つだけだ!


「おーい!君たちー!とりあえずこの人の傷は治した!後は意識の回復を待つだけだ!」


「綾野さん!聞こえましたか?」


「あー、聞こえたよ!」


「よ、よかった…仲松さん…」


「仲松さんが治っても僕らの窮地は変わらないけどね(笑)」


「ちょっと仲松さんのところに行ってきます!」


 ダダダっ!


「上田くん!今グレイト・ワンに背中を向けるのは危険だ!」


 ヴゥェェっ!


「上田くん!あぶなーい!」


「うわぁぁぁぁーーーーーーー!!!」


 シュ!


 危なかった間一髪避けられた…綾野さんが教えてくれなかったら、まともに食らっていた…


 そっ、そうだ。仲松さんは?


 !!!!!!


「う、うわぁぁぁぁーーーーーーー!!!亀頭さんが強酸を浴びてしまったーー!」


 すでに亀頭さんの上半身は溶けてしまっていた。


「そうだ!あの竿を使えば!竿は??」


 なんて事だ!竿も溶けてしまっている!

 これでは亀頭さんを治すことはできない。

「き、亀頭さん…」


「上田くん!また強酸が行くぞ!」


 ヴゥェェ!


「まっ、まずい…」


 ドン!!!


 ???


「危ないよ上田くん!(笑)」


「あ、あ、あ、あーーー!仲松さーん!よかった!意識が戻ったんですね?」


「うーん。どうやら天国じゃないみたいだ。ふるちんになっちゃたけど(笑)」


「よかった。」


「おーい!仲松さん!上田くん!早くこっちに来てグレイト・ワンの相手をしてくれよ!」


 そうだった!


「早く行きましょう!仲松さん!」


「行きたいのは山々だけど、ふるちんじゃ流石にカッコつかないよね?(笑)」


 それもそうだ…


「じゃ、とりあえず僕だけ戻ります!」


 ん?????

 

 亀頭さんが溶けてしまった場所に何かが落ちている?


 あれはなんだ? 


 あっ、あれは!!!


「な、仲松さん!ありましたよ!」


「何が?」


「ブリーフです!」


「ブリーフ?」


「ええ、亀頭さんのブリーフが溶け残っています!あれを穿きましょう!」


「え?イヤだよさすがに!人のブリーフなんて穿けないよ?」


「四の五の言ってる場合じゃありません!」


「おーい!上田くん!もしかするとそのブリーフは変身ブリーフかもしれないぞ!」


「え?綾野さん、変身ブリーフって?」


「ライギョマンはベルトで変身するけど、他のヒーローはブリーフで変身するんだ!」


「え?そうだったんですか…」


 どうりで…


「仲松さん!だそうです!とりあえず穿きましょう!」


「えー?なんかイヤだなぁ?汚ないし、変身してもあんなんになっちゃうんでしょ?」


「今は、そんな事言ってる暇はありません!さっ!早く!」


「あー。イヤだなぁ。しかもこれ韓国製って書いてあるよ?バッタモンじゃないの?」


 仲松さんは小言を言いながらもブリーフを穿いた。


 すると!


 ピカーーーー!


挿絵(By みてみん)


「やっぱり変身ブリーフだったんですね!これで100人力だ!」


「僕変身しちゃた?」


「ハイ!」


「カッコイイ?」


 ………


 お世辞にもカッコイイとは言えない…


「は、はい!カッコイイです!」


「ほんと?」


「ほんとです!」


「気のせいかお腹出ちゃってるんだけど?」


「き、気のせいです!さ!綾野さんと合流しましょう!」


「なんか気が乗らないなぁ?」


「さ!早く!」


 ダダダっ!


「綾野さん、お待たせしました!」


「あーーーー!そのスーツは!!!」


「え?知ってるんですか?」


「知ってるもなにも、そのスーツはNOB USA で開発されて、とあるルートで田森さんの元へと流れてきて、田森さんがテストしていたスーツだよ!」


「え?」


「キャットマン。生前、田森さんから聞かされた話では、凶暴性、破壊力では、世界最強クラスらしい!」


「そ、そうなんですか?仲松さん!良かったじゃないですか!カッコ悪いだけじゃないみたいですよ!あっ…」


「ヤッパリ、カッコ悪いんじゃない!」


「す、すいません…」


「でも、なんで鬼頭さんがそのスーツを持っていたんだろ?そのスーツはNOB korea の連中に盗まれて、韓国にあるって話だったんだけど?」


「あー!だから、韓国製のタグが付いていたんですね?自分達の手柄にしようとしたんじゃ?」


「なるほど!その後、流れ流れて鬼頭さんの元へと来たわけか?そして仲松さんへ!」


「何はともあれ、良かったですね!仲松さん!」


「いや、あんまりよくないよね?」


「もしかしたら、そのスーツとブリッツェンなら、竿の声が聞こえるかもしれないね?」


「「竿の声?」」


「これも田森さんから聞いたんだけど、スーツの力と竿の力が共鳴して、それを持ち主が聞きとれれば、とんでもない力を発揮できるらしいんだ。」


「え?そうなの?でもこのスーツカッコ悪いんでしょ?ちょっと見てみたいな?」


「今はそんな暇ありませんよ!」


「失敬失敬。」


「とりあえず、竿の変化を見逃さないで下さい!」


「了解!」


「おっと!余計な話をしてる間に奴さんが来たよ!まずは、どんなもんか試してみるか!そりゃ!」


 シュっ!


 シュババァァァァァーーーー!


 ドスンっ!


(ギィヤァァァァァァっっーーー!)


 グレイト・ワンの叫びがこだました。


 す、スゴい!一撃でグレイト・ワンの腕を削ぎ落とした!

 キャットマン。最強クラスのフレコミは伊達じゃない!


「仲松さん!スゴいじゃないですか!」


「そうでもないよ?」


「だって、あのグレイト・ワンの腕を一撃ですよ!」


「いや、力が強力過ぎて、僕の体が持たないよ。」


「そうなんですか?」


「そうみたいだね。一撃だけで、体中痺れてるよ。君のライギョマンスーツと同じ感じかな?慣れが必要だね。ぶっつけ本番でどうにかなる代物じゃないね。」


「そ、そうなんですか…」


 このままイケると思ったが甘かった…僕の変身時間もあと僅か…おまけにストレングスマイルドを既に10回振ってしまっている…腕が鉛のように重い…綾野さんも慣れない竿に苦戦している。あともう一歩なのに?


「考えてる暇はないよ!今度グレイト・ワンを取り逃がしたら次はないよ!」


「そ、そうですね!」


「おまけに、このキャットマンとやら、人格があるのか知らないけど、ものすごく攻撃したがってるんだよね?凶暴性を押さえ込むのがやっとだよ。」


「え?そうなんですか?」


「ああ。竿の声とやらも聞こえないし。おっと!」


 ドスン!


「あぶない、あぶない(笑)」


 グレイト・ワンの攻撃を避けずに受け止めた?


「なかなかの防御力だよこのスーツ(笑)」


 笑っている。まさか?この人はこの状況下でもテストしているのか?


「なんとなくイメージが沸いてきたよ(笑)僕が壊れるのが先か、グレイト・ワンを仕留めるのが先か、ある意味勝負だね(笑)」


 

 

 「あっカーン!あかんでー!グレイト・ワン何モタモタしとんねん!」


 ー NOB モニター室 ー


 ガチャ。


 ?


「なっ、なっ、なっ、中神さん!」


「所長お疲れさまです。」


「い、いや~ちょうどえーところに来て下さいました……」


「あれがグレイト・ワンの成獣ですか?」


「そ、そうです。今、最終テストの最中ですねん!」


「その割りには、随分とボロボロですね?」


「こ、これから最後のビーステロイドを投与して、完成しますねん。」


「そうですか。では、私はここで見物させてもらいますよ。」


「で、でわ私は最終段階の準備にとり掛かりますんで、失礼します。」


 ガチャン。


 カツカツカツカツ…


 くっそー、ほんまにあのガキャー!今に見とれ!いつか目にもの見せたる!


 カツカツカツカツ…


 ガチャン。


「おい!お前ら!」


「あっ、所長!」


「例のものよこせ!」


「え?まだ治験段階ですが?」


「えーから、よこせゆーとんねん!」


「し、しかし…」


「はよせーや!」


「は、はい…」


 ピピピ

 カチャ。

 シュゴー。


「これです。」


「よっしゃ、わしが直接グレイト・ワンに投与してきちゃる!」


「き、危険ですよ!」


「お前らに任せといて、このザマやないかい!」


 ………。


「待っとれよ!グレイト・ワン!お前をもっと強ーしたる!」


 カツカツカツカツ。


 ガチャン。


 カツカツカツカツ……


 

 

 ハァハァハァハァ…


「分かっていたけど、つ、強いねこいつ…」


 ハァハァハァハァ…


「ですね…」


 ハァハァハァハァ…


「帰りにピンサロ行く体力なくなっちゃたよ…」


 3人掛かりの決死の連続攻撃でもトドメを刺せない。何なんだこいつは?


「ん?なんか、こいつ小さくなってない?」


「まさか?綾野さんの気のせいじゃないですか?」


「いや、確かに小さくなってるよ!ホラ!」


 ホントだ!回りの木々と比べて明らかに小さくなってきている!


「退化だ!」


「え?仲松さん、退化?」


「そうに違いない。こいつは進化に次ぐ進化で急速にここまで強大になった。それが、僕らの攻撃で体力を削がれることによって、徐々に元に戻っているんじゃないかな?」


「なるほど!じゃあと少しかもしれなせんね?」


「なんかピンサロに行けそうな気がしてきた!(笑)」


 しかし、3人の余力を考えればじり貧な事に変わりない。どうすれば、いいんだ?



「グレイト・ワンよ~~~~~!!!!」


 ?????


「そ、村長?」


「おー、上田くん!頑張っとんのー!おかげで、わしの可愛いグレイト・ワンがボロボロや!」


「え?村長?まさか?」


「せや!わしがNOBの所長や!グレイト・ワン!最後のビーステロイドや!」


「いかん!上田くん!そいつの銃を取り上げろ!」


「もう遅いわ!アホー!!!」


 バキューーーん!


 グサっ!


 ギィヤァァァァァァーーー!!!


「はっ、はっはっ!これでグレイト・ワンは更に覚醒する!お前らに勝ち目はあらへんで!わっはっはっー!!!」


「まっ、間に合わなかった…」


 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!


 ギィヤァァァァァァーーー!!!


 グレイト・ワンが巨大化して更に醜悪な姿に変わっていく。まるでこの世のものとは思えない。


「「「ゴクっ……」」」


「これはまずいね?」


「ですね?」


「あわわわわわわっ……」


「はっ、はっはっ!これがグレイト・ワンの真の姿だ!これでお前らにもう勝ち目はなーーーい!わっはっはっー!。」


  今まで相手にしてきたグレイト・ワンが子供に思える。


「はっ、はっはっ!さー!わしの可愛いグレイト・ワンよ!あいつらを叩きのめせ!」


 ギィヤァァァァァァーーーー


 グシャ!


 !!!!


「ぐ、グレイト、わ、ワ…ン…わ、わしは餌ちゃ、ちゃう…で…」


 グシャグシャ!

 バキっバキっ!


 ゴクン。


 ……………


「しょ、所長が食われた…」


「なんなの?この凶暴性は…」


 あまりの恐怖で僕は声が出せない。


「上田くん!危ない!!」


 シャッ!


 ドッゴッーーーン!


「ぐぅわぁぁぁ!!!」


「大丈夫か!上田くん?」


「だ、大丈夫です!それより綾野さんは??」


「う、くっ、み、右腕が折れたかも…」


 よ、避けたはずなのに…

 カスっただけで腕の骨が折れた?

怪魚マンスーツを着ているのに…


「いったん下がるんだ!」


 マズイっ!

 もう一撃くる!

 や、やられる………


 バチっ、バチバチバチ!

 バリバリバリバリィィー!


 ???


「どうやら、竿の声が聞こえたようだよ!」


「仲松さん!これはいったい?」


「バリヤー?自分でもよく分からない(笑)」


 スゴい!ブリッツェンから放出される電気?の膜みたいなもので僕が守られている!


「それよりも早く逃げるんだ!あまり持たなそうだ!」


「ハイ!」


 ダダダっ。


「助かりました!」


「でも、バリヤーは何度も使えそうもないよ。体力的に限界みたいだ(笑)」


 バキィっ!


「仲松さん、こっちも限界みたいです!ショートロッドが折れて、超ショートロッドに!(笑)」


 やはり、みんな限界が近づいている。


 ?????


「あっ、あーーーーー!」


「どうした?上田くん?」


「まずいです!変身が解け始めました!」


「なんとかならんの?」


「ここまで持ったのが不思議なくらいでしたので、僕も限界みたいです…」


「こりゃまいったねー(笑)」


 シューーーン……

 ……完全に変身が解けてしまった。


「ストレングスマイルドは無傷なんしょ?」


「はい。」


「じゃ、僕が君の盾になるから、攻撃を頼むよ!綾野さんは、グレイト・ワンを引き付けて!」


「了解!上田くん!頼んだよ~!」


「まっ、待って下さい!この状態でストレングスマイルドを使いこなすのは不可能です!」


「でもやるしかないでしょ?」


「そうゆーこと!活路は見出だすもの!待ってても開けないよ!よし!こっちだ!グレイト・ワン!」


「僕らが作るチャンスを逃さないで、ありったけの攻撃をするんだ!いいね?」


「は、はい…」


 どうしよう…この状態ではストレングスマイルドを振ることすらままならない…ましてや、攻撃なんて…


 "オイ、サブロー。マタ、ナキゴトカ?"


 ?


「仲松さん、何かいいました?」


「僕は何も言ってないよ?それよりも、集中するんだ!」


「ハイ!」


 今のはなんだったんだろう?

 なんだかすごく懐かしい声だった気がする。


  バチバチバチ!


「よし!グレイト・ワンの動きを封じた!チャンスだ!上田くん!」


「今だぁー!上田くーん!」


「よし!いくぞ!それっ!」


 

ふにゃふにゃふにゃ~



「何をやってんの?遊んでんの?」


「綾野さん、い、今のが全力です…」


「バリヤーが解ける!上田くん!いったん退くんだ!」


 ダダダっ。


 ハァハァハァハァ


「上田くん!君の攻撃が頼みの綱なんだぞ!」


「わ、わかってます!わかってはいるんですが…」


「時間も経ったし、もう一度ライギョマンに変身できないの?」


「仲松さん、それも無理そうです…さっきから試みているのですが…」


「そっか、僕も限界を迎えたようだ。次の攻撃を凌げるかどうか?」


「仲松さん!もう一度だけやりましょう!僕も、ピンサロどころか、こいつから逃げ切る体力が残ってません!」


「だ、そうだよ?上田くん。どうする?」


「もう一度やらせて下さい!」


「オッケー!次が正真正銘ラストだ!次でヤツを仕留められなければ、全員ここで死ぬ。いいね?」


「わかっています!」


「綾野さん!聞いた通りだ!」


「よし!じゃ、いきますよ!頼んだよ!上田くん!」


 ダダダっ、


 バキィ!


 ドン!


 ガキっ!


 

  どうすればいいんだ?もう限界をとうに越えている。ストレングスマイルドを持っているのすら辛い。頭もボンヤリしてきた。今日は何月何日?昨日の夕飯は何だったっけっか?ここはどこだったっけかな?僕は今なにしてるんだ?


 ………!


 遠くから誰かの声が聞こえている。仲松さんか?綾野さんか?もう家へ帰りたい。こんなに疲れたの生まれて始めてだ。まるで時間が止まっているように感じる。ふわふわとした不思議な感覚だ。


 ………!


 あれ?ヤッパリ誰かに呼ばれている気がする。


 "サブロー!サブロー!"


 ??気のせいじゃない!


 "サブロー!"


 そ、その声は??


 "ようやく気づいたか!"


 剛三さん!どこに?どこにいるんですか?


 "ホンマ、何やってんねん?鈍すぎるわぁ!ストレングスマイルドの力はこんなもんちゃうで!"


 大浦さんも!


 "グレイト・ワンを倒してデートするんちゃうんけ?"


 飯見さん!


 み、みんなどこに??


 """わしらはみんなお前の心の中におる。お前だけ戦わせわせん。みんな一緒や!思いきってイケ!"""


 う、う、う、み、みんな…


 "泣いてる暇はないで!"


 はい!


 

 …ダくん


 …えだくん


「上田くん!」


「はっ、ハイ!」


「しっかりしてよ!」


 バチバチバチバチバチぃーーー!


「グレイト・ワンの動きは封じた!これが最後だ!頼んだぞ!」


「上田くん!イケぇーーー!」


 """"イケー!サブロー!""


「ハイ!」


 竿が軽く感じる!僕の中から力が沸き上がる!みんなが背中を押してくれている!

 これが正真正銘最期の攻撃だ!みんな僕に力を貸して下さい!


 ピカッーーーーー!!!


「「"""イッケェーーー!サブローーーー!!"""」」


「ウリィィィィィヤァァァァーーー!!!!」


 ドシュっっっ!!!


 ドッガァァァァァーーーーン!!!


 グシャグシャグシャグシャグシャグシャ


 ギィヤァァァァァァーーーーーー


 …………………………。



  - NOB モニター室 -


 パチパチパチパチパチパチ。


「グレイト!」


「これはこれは、イワトモ大佐。いらっしゃったんですか?」


「ミスターナカガミ!グッドナ、ショーガ、ミレマシタ!」


(在日米軍生物兵器特殊作戦群大佐ミッチェル・イワトモ)


「ありがとうございます。」


「グッドナ、データモ、アツマリマシタ!」


「そうだ、イワトモ大佐、紹介します。彼がNOB japan首席の 」


「大野謙一です。初めまして、イワトモ大佐。」


「ハジメマシテ。ミスターオオノ。コレカラ、アナタガタ、フタリニハ、NOB USA デ、カツヤクシテ、モライマース。」


「「ありがとうございます。」」


「さっ、話は後程ゆっくりとしましょう。我々はここにいてはいけない人間です。」


「中神さん!屋上にヘリを用意しています。急ぎましょう!」


「さ、イワトモ大佐。こちらです。」


 バタバタバタバタバタバタバタバタ………………


 

 う、うーん。

 まっ、まぶしい。

 こ、ここは?

 そ、そうだった!


「い、いつっっ!」


「あっ!みんな!上田くんが目を覚ましましたよ!」


「来栖さん?」


「おー!上田くん!なかなか起きないから心配したよ!(笑)」


「綾野さん?そうだ!グレイト・ワンは??」


「君が倒したよ!」


「仲松さん!そ、そうなんですか?記憶が曖昧で…。てか、その格好は?」


「うん。なんか脱げなくなったみたい。」


「えー!!!いててっ」


「大声出すとケガに響くよ!」


「どうするんですか?これからの生活?」


「なるようになるさ(笑)」


「それにしても、僕がグレイト・ワンを倒したなんて…」


「ほんとだよ!最後の一撃は見事だったよ!」


「そういえば、グレイト・ワンの死骸が見当たりませんね?」


「グレイト・ワンなら、ほら!そこに!」


 !!!!


「こっ、これがあのグレイト・ワンなんですか?」


 そこには、1メートル程のライギョがいた。


「そう。元々、人間によって無理矢理進化させられたものだからね。元の姿に退化しちゃったってとこかな?」


「ところで、グレイト・ワンをこの後どうするつもりですか?」


「な、仲松さん?まさか?」


「え?来栖さん?」


「もちろんリリースするよ!(笑)」


「やっぱりー…」


「こいつも、かわいそうなヤツなんだよ。せめて元の場所に戻してあげよう。」


「また狂暴な姿に戻っちゃうかもしれませんよ?」


「その時は、またやっつけるさ!(笑)」


 ……………。


「そ、そういえば!来栖さん!奈緒美さんは?」


「彼女なら心配ないよ!今、船形さんがマジョーラのヘリで病院に運んでるよ!」


 なんか余計に心配だ…


「テマンされるな(笑)」


「仲松さん、冗談でもそういうこと言わないで下さいよ…」


 はっはっはっはっ!


「さっ!グレイト・ワンをリリースして、アジセンに行って帰ろう!」


「はい!」


 こうして長い一日がようやく終わった。


 

チュンチュン

 チュンチュン


 - 天竜湖湖畔 -


 あれから一年か。


 湖畔にあった、研究所は程なくして、不審火にあい焼失した。

 あれから、僕はライギョマンに一度も変身できていない。

 あのとき最期に聞いたのが、竿の声だったのか確かめる術はもうなくなった。

 すっかり静寂を取り戻した天竜湖は、ふたたび村人の憩いの場となっている。

 湖畔に浅井さんがライギョマン達の死を弔って石碑を立ててくれた。

 今日は一年ぶりに、みんなが集まる予定だ。


 バシャ!


 バシャバシャ!


「きた!大きいぞ!」


 プツン…


「あーあ…切れちゃった…」


「おーい!ぼく!」


「なーにー?」


「ここで釣りしてると危ないよ?」


「なんでー?」


「ここにはこわーい怪物がいるんだ!」


「え?怪物??」


「そう!だから、あっちの水草のない方で釣りをしな?あっちのが大きいの釣れるから。」


 僕は少年の頭を一撫でした。


 - ライギョマン -


 【グレイト・ワン編】完



 














活字アレルギーで小説など読んだ事のない、自分の拙い文章に最後までお付き合い頂きありがとうございました。そもそもは、Tシャツ用のデザインとしてライギョマンを描きました。出来上がったライギョマンをボケ~っと見ながら、ライギョマンの生い立ちについて考えたのが、この小説?ライギョマン誕生の発端です。小説を読んだ事がないので、ノリ的には完全に漫画です。感覚的には小学生がやるヒーローゴッコの延長線上です。ヒーローゴッコの延長戦なので、頭の中で、上田くんが勝手に一人歩きしてくれて、クソツマラナイ仕事の合間の息抜きにちょうど良かったです。

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