七話
気まぐれな投稿。百合な話を書きたいとか、ライトな話を書きたいとか、FGOの二次創作を作りたいとか、TS主人公の話を作りたいなどいろいろな気分がありますが、ダークな話を書きたくなったので、久々な投稿です。
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現在アルイは重要な選択をしなければならない状況にある。
選択肢は二つ。迷宮都市に残るか、学園に行くかである。
これらの各メリット、デメリットを考えるために現在のアルイの状況を整理したいと思う。
アルイの現在の戦闘力はおよそ7階級ほど。ユニークスキルを二個も持つため、人族では最高峰の力を持つだろう。
そして魔神ディオーンの強さは最低で8階級以上。神と名乗るなら、8階級以上の力を持っているのが当たり前で、アルイが感じた魔力の量からして魔神は9階級以上の実力と見てとれる。
現在の実力の差は歴然としている。今のままアルイが戦えば間違いなく一瞬の間もなく消される。それは予想でも確信でも何でもなく、純然たる事実だ。ある種、アルイの復讐は蟻が竜を打ち倒そうということに似ている。敵としてどうこう以前に、吐息一つで消し飛ばされかねない差が存在する。
故に、アルイは急速に力を付けなければならない。脇目をふることなく一直線に、全てを捧げて。きっと、それでも足りないだろうから。
これ等を踏まえてアルイにとってのメリットデメリットを考えよう。
迷宮に居続けるメリットは、やはり力をつけやすいこと。
自分と対等、またはそれ以上の強さの者と多量に戦うことにより、実戦の力、経験等が何よりも向上を望める。
だが、デメリットもある。
このまま迷宮に潜り続ければ、今のままのアルイでは死ぬ危険性が高い。
語られてはいないが、初めて叡智の迷宮の地下60階に着いたとき、アルイは死にかけた。
光源が一切無い、ダークゾーン。それが叡智の迷宮の地下60階から地下70階の特徴だった。
本来、光源となる物を持ってくるのが普通かもしれないが、そういったものに一切気を遣わないアルイは、本当に文字通り死にかけた。
死角から襲い掛かってくる敵に対応できずタコ殴りにされ、ギリギリのところで《心眼》という五感以外で事象を察知するスキルに目覚めたのは紛れもない幸運だろう。運が悪ければアルイはその時死んでいたかもしれなかったのだから。
他にも、迷宮のトラップでアルイ数回死にかけている。叡智の迷宮なだけに、知識を問う問題や頭を使うような仕掛けがたくさんあるのだ。間違えればそれこそ一般人なら即死のような罠もごまんとある。彼は能力に頼って強引に突破したが、一歩間違えれば確実に死んでいた。
このように知識を持たずに迷宮に潜り続けるなら、アルイは死を覚悟しなければならない。既に何度も迷宮の罠に引っかかり窒息や溺死、失血死寸前など、死線だけなら一流の冒険者に劣らないほど潜ってきたのだ。魔神への復讐が第一の行動理念であるアルイは命の捨て所をしっかり見極めなければならないため、このままの状況はあまりよいとは言えない。
それに、70階以降のフロアには専門的な知識によって仕掛けを解かないと進めない場所が多発している。数学の方程式や関数、古代語、その他雑学などなど、あらゆる知識を応用して仕掛けに挑まなければ進めないのだ。アルイはそれにより、そこより先に進むことが出来なくなっている。強引な破壊も一度試みたことはあるものの、アルイの全力の一撃ですら仕掛けには傷一つつかなかった。
叡智の迷宮の最下層、地下100階には叡智の神格を持つ覚醒神がいるという言い伝えがある。この神と出会えば、魔神ディオーンのことを聞けて復讐をしやすくなるかもしれないが、最悪のことが起きた場合は9階級ほどの実力者とのバトルになる。
総じて、迷宮に残る場合はメリットよりデメリットの方が多いことになる。
次に、アルイが学園に行く場合のメリットデメリットを考えよう。
学園に行った場合、アルイはまず第一に知識を手に入れることができる。
学園には大きな図書館があり、そこには禁書を含む大量の情報が眠っている。魔神のこともそこで調べれば、何かしらの情報が得られる確率が高いと思われる。
そして最近、戦線は停滞気味だが人族と魔族は戦争をしている。魔神の魔が、魔法を象徴するのか魔族を象徴するのか詳しい正体はよく分からないが、魔神が魔族の守護神などであった場合は、アルイは魔族の領地まで潜入をしなければならない可能性が出てくる。学園は王都にある。だから、戦争になった場合は国の中心部である王都にいれば、情報の入手が容易になるであろう。
以上のことが学園に行く知識、情報面のメリットだ。次に、実力の向上等のメリットを整理しよう。
学園には人族最強と呼ばれた冒険者がおり、その人物は非常に卓越した武術の技を持っていて学園の教師をしている。この者から武術の技をいくらか模倣することができれば、アルイの剣技はより高みに上ることができる。よって、アルイが学園に行くならば、手に入れたスキルを十分に使いこなすことや、剣技や身のこなしなどの技術的な面の強化をすることになる。
実質アルイはまだ、ユニークスキル《復讐者》や《代償者》の力を完全に引き出せてはいない上に、各スキル《見切り》や《心眼》等の力も完全に使いこなせてはいない。
この点からすると、学園に行って技術の向上を目指すのはアルイにとっては非常に都合のよいことに思える。だが、学園に行くことにはデメリットもしっかり存在する。
まず、人がいることにより効率よく修行や知識の取得ができなくなる可能性があること。
つまり何が言いたいかというと、アルイは学園で魔力無しの落ちこぼれと馬鹿にされていたので、人間関係のトラブルがあるかもしれないということだ。現在のアルイは、人間関係の細かい機微に気を遣うくらいなら、鍛錬に一秒でも多く時間を取る必要があるので、そういった煩わしいことは極力避けたいと考えていた。
また、欲しい情報を授業で必ず教えてくれる訳がないので、その分無駄が増えて効率が悪くなることもある。
総合的に迷宮より成長率が下がる学園は安全かもしれないが、残念ながら迷宮も今の知識では先に進みにくいので、完全に成長率が上とも言い難い。さらにもし魔神が気まぐれにアルイを殺しに来た場合は、今のアルイには対処の仕様がない。
自分の記憶、知識、寿命など、それらの全てを《代償者》によって力に変えたとしても、今のままではアルイは魔神には勝てない。このことから、学園に行くことや迷宮に行くこともどちらかが=正解ではないことが分かる。彼は急ぐ必要がある。だから、彼にとって一分一秒が非常に惜しいのだ。
考えに考え、利害を吟味してアルイは結論を出す。迷宮に残るか学園に行くか。
よし、――にしよう。
「あっちが、南西」
方位磁針で王都への方角を調べ、アルイは深呼吸をする。そして、
「よーい、どん」
全力で学園に向けて走り出した。
《名前 アルイ 種族 人族 ランク C
スキル
・復讐者 (ユニーク)
・代償者 (ユニーク)
・見切り (ノーマル)
・心眼 (ノーマル)
・求敵 (ノーマル)
・隠密 (ノーマル)
・疾走 (ノーマル)
・剣技 (ノーマル)
・剣術 (ノーマル)
・体術 (ノーマル)
・気配察知 (ノーマル)》
新しく入手した《疾走》というスキルを見て、アルイは少し意外に思っていた。こうも簡単にスキルとは習得できるものだろうか。そう考えたのだ。まあ、利することはあれど害はないので、その疑問は放置した。
理由をあげるなら、どうやらこの王都に来るまでの一日ちょい、どのように力を込め、どのような姿勢で走ると速く走れるかを研究しながら走り抜いたことが、このスキルの習得に繋がったのかもしれない。
そして現在、アルイがいるのは学園の寮の中。懐かしきアルイの自室だ。
誰かに見られることを嫌らったアルイは、《隠密》のスキルを使いながらこの部屋に来たので、誰にも目撃されることなく自室に到着することができた。
思い返してみると、《隠密》も《気配察知》も、元をたどれば迷宮で休憩や仮眠を取るためにアルイが身に付いたスキルだ。
アルイにとって生死が懸かった環境だったからこそ、簡単に取得できたように思えたこのスキル。習得率などを考えると、スキルはどうやら必要であればあるほど習得し易くなるものだと推測できる。必要であればあるほど、生存本能が活発に働き、スキル習得に必要な強力な意志に――つまり情動になるのかもしれない。
そういったスキル関係のことを考察しながら、アルイは途中で購入してきた学園の制服に着替えるために現在着ている服を脱ぎ始める。
そういえば、学園の寮は二人部屋らしい。
アルイと同じ部屋に住むことになっているのは、彼自身記憶にあまり残っていないが勇者である......らしい。
再紹介をするならば勇者はアルイと同じ村の出身で、一応仲が良い幼馴染みだが、学園に来てから態度が変わった.......らしい。
勇者とは、アルイと同い年でありながらもユニークスキル《勇者》を持つ、対魔族との戦争で魔王や究極魔王を討つための切り札.......らしい。
らしい、が付くのは全てアルイ自身の記憶があやふやだからだ。少し前から違和感は出ていたが、これが《代償者》によって失ったものかと彼は自覚する。
どうやらアルイの記憶は必要最低限の知識と一部例外の思い出を残して、ほぼ全て消えているようだ。
つまり、故郷が同じだという幼馴染みが勇者とレイナを合わせて3人ほどいたという知識はあるが、その人たちの名前や、その人たちとの思い出が全て消えているということだ。だが、どうやら例外もあるようで〝レイナ〟との思い出の記憶だけは、一つも消えずにアルイの中に残ってた。
(......嬉しくは、ある)
アルイは服を脱ぐ手を止め、レイナとの優しい思い出を思い出す。
レイナの優しさがアルイの心を温め、一時的にだがあの頃の気持ちが甦ってくる。
幸せで、暖かい大好きな彼女との思い出。もう戻れない、あの頃の回想。
だからこそ、夢から現実に帰ったアルイの復讐心が、何処までも高められた。
ふと、アルイは自身が無駄な時間を使っていたと気づき、猛省した。
(まだまだ未熟だ......心も、強くならなくては)
自分の弱さを実感したアルイは、精神鍛錬の決意をした。そこで着替えを中断していたことを思いだし、それを再開し、学生服を着ようと学生服を手に取ったところで、アルイの《気配察知》が何者かの気配を捉えた。
がちゃっ
「なっ.......なっ.......!」
勇者?
アルイは部屋に入ってきた勇者......らしい人物を一瞥し、ズボンを履く。勇者は震えながら顔を赤くして、口からアルイには聞き取れないほど小さな声で何事かを呟いていた。
アルイは関係無い、と思って真っ白いYシャツを着てネクタイを締める。最後にブレザーを着て準備を整えると、扉に向かって歩き出す。
扉から出ようとするアルイと勇者の目が必然的に合う。
砂金のような綺麗な金髪に、少年というより可憐な少女といった外見の勇者。アルイの知識ではこの人物は男性らしいが、知識と容姿の齟齬が猛烈な違和感を発していた。つまりはこの人が本当に男であるかアルイは疑問に思ったのである。コンマ一秒後にはどうでもいいと切り捨てられた思考だが。
「貴様.......生きていたのか.......?」
動揺したように揺れ動く勇者の瞳をアルイは一瞥した。勇者の目は潤んでいて、放っておけばすぐにでも泣き出しそうである。だが、その瞳にあるのは悲しみではなく、溢れんばかりの喜色だ。しかし、そんな勇者にアルイはただ一言を口から吐き出す。
「どいて」
「.......っ!?」
声には、強い意志が込められていた。
その声に反応した勇者は、驚いたように後ずさる。わずかな一言ながらも、それには触れれば切り裂かれるような強烈な気迫が籠もっていた。故に、勇者の身体はそれに気圧されるように、意識に反して自動で動いた。
「.......」
その様子を見たアルイはその場から走り去る。
旧知の間柄だった勇者。昔は違かったかもしれないが、今は彼にとって非常にどうでもいい存在だった。
勇者は茫然としている。その目は大きく見開かれ、黒い感情がうっすらと見え隠れしている。
アルイは、例外を除き、過去を捨てて復讐に走る。
走り去った彼が後ろを振り返ることは一度もなかった。
「アル......イ.....」
捨てられた過去。
それに気づいた時、その喪失は何を生むのだろうか。
勇者は既に一度失っている。そして今、希望を手にした。
ならば、二度目の喪失はきっと――――
勇者はヤンデレ(直球)
でもこう、ヤンデレであることを隠すステルスヤンデレも好きだから、そういうヒロインも作りたい。