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六話

前の話が短いので連投。

6


「店主、新しい剣が欲しい」


ギルドで大量の魔石を売った後、アルイは武器の確保のために前回剣を購入した店に来ていた。


「前に大量に剣を売ったはずだが?」


この店の店主の青年は、機嫌が悪そうな口調で言い返す。どうやら彼からはあまり友好的な感情が見えない。別の店での購入も考えた方がいいかもしれないと、アルイは考えた。


ついでだが、カンジンの横には赤い髪の小さな少女がいた。言わずもがな、鍛治士のユミルである。しかしアルイはどこかで見たことがあるような気するといった程度の、大変失礼な認識をしている。しかも、どうでもよいと彼は興味なさげに視線を外した。この態度にユミルは怒りを隠せない。


「全部折れた。固い敵を斬るとすぐに折れる。まともな剣が欲しい」


何を思ったのか知らないが、前回来たときは安物や粗悪品しか売ってくれなかった。もし今回も同じようなら、別の店に行こうと、アルイは考えた。


店主は黙り、考え込む。時間を一秒たりとも無駄にしたくないアルイは、少し考える素振りを見せる暇があったら、さっさとYESかNOで答えてもらいたいと思っていた。


「おいおい、うちらはてめーみてぇな死に急ぎに売る剣なんてねぇんだよ。だいたいてめーは.......」


「少し黙っててくれユミル」


ユミルがアルイに向かって喰いかかるように文句を言い始めたが、店主自身がそれを止めた。店主はアルイをじーっと観察するように見つめた。


数秒の沈黙。その間、彼と彼の視線がぶつかる。


「少し試させてくれ」


カンジンがそう言い出すと棚に置いてあった剣を二本取り出し、片方をアルイに投げ、もう片方を店主が持ち、店の少し空いたスペースに移動してカンジンは剣を構える。


「一太刀、全力で打ち込んでこい。その結果で売るか売らないか決めてやる」


「おい何言ってんだ!こんな奴、構ってるだけ無駄だろ!?無駄なことしてんじゃねぇよ!」


「無駄かどうかは今試す。ユミルは見てろ」


そう言った店主の目は、アルイには良い目だと感じた。魔物の荒んだ目や、迷宮の中にいた盗賊の欲にまみれた目より、ずっと美しい。研鑽された、確かな信念を持つ瞳だ。


これなら試され、及第点をもらえれば剣を売ってくれるだろうと思考し、アルイは剣を構える。


「まともな剣。これなら全力で振れる.....いくぞ」


最近まともな剣を振るってなかったアルイは、ほんの少しばかり感動したように呟く。盗賊から奪った剣や、粗悪品の剣ばかり振るっていたのだ。以前使っていた剣のようなしっかりした安定感のある武器は、本当に久しぶりである。


「来い」


剣の感触を確かめるために数回剣を振った後、アルイは《剣術》を発動して店主に斬りかかった。


《復讐者》と《代償者》の力を使ったおかげで、素の身体能力が凄まじいほど強化され、復讐の為の意志を込めた剣術は、動きの速さと太刀筋の鋭さを格段と上昇させ、室内の誰にも反応させない速度で彼は剣戟を繰り出した。


アシェラとの戦いからさらに剣技の腕を上げたアルイの一閃を受け、店主が中段に構えていた剣の刃はあっさりと両断された。


キンッ


甲高い金属の音が発せられ、数秒後に根本からバッサリと切断された剣の刃がごとりと落ちる。


どう?


目線でアルイは問いかけるが、驚きに硬直している二人は反応を返さない。


「店主。結果は?」


リアクションがないのでアルイがそう問いかけると、店主は少し狼狽したような声を出した。


「.......ご、合格だ」


やった。無表情ながらもアルイの瞳の光量が心なしか増えて見える。少し嬉しそうだ。


「......っ!おぃてめー!てめーは一体、なにもんだ!」


声をかけられ、アルイはユミルに初めてまともに目の焦点を合わせる。


燃えるような色鮮やかな赤色の髪に、強気な性格が表されたかのような大きなつり目。顔立ち全体が非常に整っていて、美少女とも言える風貌。いや、正確には美幼女だろうか。


あまりにも可愛らしく、そこらの男だったら見惚れるか、気恥ずかしくて顔を直視出来なかったであろうが、あいにくと今のアルイには恋心どころか性欲すら湧きそうにない。これはおそらく、≪代償者≫のスキルを習得した時に、アルイが喪失したものの一つなのだと推測ができる。


「? アルイだ」


アルイは返答した。が、実際質問に対しての答えにはあまりなっていない。


「違げーよっ!んなもんを聞いてんじゃねぇ!てめーが何でんな強えーか聞いてんだよ!」


アルイは怒ったように捲し立てる少女と目が合い、睨み合うような形になる。目が合う中、アルイの勘違いでなければ、少女の目には何故か喜色が見えた気がした。が、特に気にすることはない。アルイにとってはどうでも良い情報だった。


「ユニークスキルを持ってるだけ。早く剣を売って。こうしてる時間が惜しい」


少女から視線を外し、店主に急かすように言う。魔神を倒すために一秒たりとも無駄にできない。どうでもいいことは早く終わらせたい。そういった気持ちがありありと目に現れていた。


「ユニークスキル.......だと.......」


「はっ!?ユニークスキル!?」


事実を知った二人は驚愕の表情を顔に浮かべる。だが、一向に進まない剣の購入に腹をたて始めたアルイは別の場所に行こうかと考え始める。


「早くして」


剣、はよ。アルイの要求はそれだけだった。


「.....分かった、待ってろ」


店主はアルイが急いでいることを悟ったのか、店の奥に剣を取りに入った。


「.......おぃてめー!てめーは、人族か?それとも魔族とかの見た目と年齢が合わない種族か?」


ユミルが再びアルイに食ってかかる。その声は少しばかり不機嫌そうであり、まるでつい先程アルイが彼女の琴線に触れることをしたかのような態度だ。


「.......人間だ。もう10歳。冒険者登録だってできる年齢」


ユミルからの質問の意図を変に解釈したのか、少し年頃の少年らしさが出たアルイの答え。それを聞いた少女がきょとんとした顔をした後、笑い声をあげた。


急に笑い出したユミルにアルイは不思議そうに首をかしげた。その動作は今まで見せた超絶的な力量に見合わず、幼かった。それを見たユミルはまた更に大きな笑い声をあげ始めた。


「ははははは!こいつはいい!完全に冷徹な奴かと思ったけどまだガキっぽい所があるじゃねぇかてめー!」


そう言ってバシバシとユミルはアルイの背中を叩く。子供っぽく見られているその事実にアルイは内心で少し苛立つが、そもそもそれが復讐にどうこう関係ないので、その思いはすぐに消えた。そして復讐のことについて考え、何でもないように装うが、普段の無表情ながらも少しばかり目が細まっており、心なしかその顔は不機嫌に見える。


変なことを考えたなと、思考を巡らせ、アルイは自身が戦いから離れたせいで気が緩んでいると結論を出した。すると、自覚したからなのか急激に全身に疲労が襲ってきた。五日ほど寝ていなかった為か視界が眩み、全身の筋肉が疲労を訴え、このまま眠ってしまいたいと脳が悲鳴をあげる。


疲れた、眠い。アルイの体の切実な叫びであった。




このまま復讐を忘れてずっと眠っていられたら、どれだけ楽だろうか......。




弱った心はそんなことを考えた。だが、






ふざけるな






一つ。その思念でアルイは自分を取り戻した。発動を怠っていた≪復讐者≫を再発動して眠気、〝肉体的〟疲労を体から取り除く。内心でふつふつと、自身の心の弱さに苛立った。この程度の疲労で音を上げるとはなんたる軟弱。自分の心を激しく叱咤し、彼は自身に気合を入れ直した。


「大丈夫か?お前.....」


ふと心配そうな顔をしたユミルがアルイの顔を覗き込んでいた。アルイ自身、先程まで自分がどんな顔をしていたのかを知らないから、それが強がりと見られるとも知らずに言い放つ。


「問題ない」


「......そーかよ」


その間に、ユミルが何を思ったかは知らない。


その後、アルイは店主から高品質な剣を数本買った。値は張ったが、彼は普通の家庭なら一生養える程度の金を手に入れていたのだからあまり問題はない。


そして、店主の店から出る前に何気無く言われたユミルの一言に、アルイの今後の方針は大きく変更された。






「てめーは滅茶苦茶つえーけど、学園とかに通ってんのか?それとも我流か?」






「あ」


言われて、アルイは思い出す。


アルイの学園は現在冬休み中で、後数日で冬休みが終わることを。


行動を止めて、深く考え込む。


この状況でアルイが選べる選択肢は二つ。このまま迷宮で修行を積むか、学園に行くか。


ここが分岐点。アルイはどうするか、深く考え込んだ。


学園編は内容を結構いじりたい。ヒロインをヤンヤンさせたい。

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