四話
感想もらったたらすぐさまやる気がわく作者です。単純なのは良いですけど、それをここに書くのはどうなのだろうと悩みながらも、作者は本質的に感想乞食だから正直に告白しようと思った前書きです。
4
叡智の迷宮、地下49階。
そこには、大量の魔物の死体が転がっていた。
どの魔物の死体も胸の中央部分に穴が空いており、それらは体内で精製された魔石を抜き取られている証拠だ。
魔石は魔物の死体の中で一番高く換金できる部位であり、抜き取るその判断は正しい。
しかし、本来魔物の死体は人族からすれば宝に等しい。
毛皮、肉、爪、内臓、どの部分も高額で換金することができるのが魔物の死体だ。まして高位の魔物ならなおさらだ。富を求めるなら、すぐさまそこらに転がる魔物の死体から剥ぎ取りを行なうべきである。
だが、その魔物たちの狩り手はあいにくと普通の富に一切と興味を持たなかった。
狩り手は10歳ほどの幼い風貌をした、一人の少年。
《名前 アルイ 種族 人族 ランク D
スキル
・復讐者 (ユニーク)
・見切り (ノーマル)
・求敵 (ノーマル)
・隠密 (ノーマル)
・狂気 (ノーマル)
・剣技 (ノーマル)
・剣術 (ノーマル)
・気配察知 (ノーマル)
・捨て身 (ノーマル)》
その少年は無感情にギルトカードを眺め、見終わるとすぐさま腰のマジックポーチにしまって再び走り出した。
冒険者ギルトについて説明しよう。
冒険者ギルドは迷宮や、魔物が蔓延る特別区などで探索などをすることを目的とした集団で、当たれば大きいが危険の多い仕事という認識である。また、簡単な薬草の採取なども冒険者の仕事の一つである。
ギルトカードは冒険者ギルドに登録するともらえるカードで、自分の取得しているスキルを見ることができる。
冒険者ギルドにはランクがあり、それによって受けられる依頼や信頼度が大きく変わる。ランク自体、EからAまでの5段階評価であり、最高位はAだ。最高位のAランクの冒険者となると、その実力はおおよそ六階級から五階級に匹敵する。その実力は、人類でも選りすぐりといっても過言ではないだろう。
「.......っは!」
少年の踏み込みと共に急加速された一閃。
その技量は一流の冒険者や騎士達には及ばないが、10歳の少年が到達していいような領域ではなかった。
四階級の魔物、ハイコボルトに少年の刃が迫る。ユニークスキル《復讐者》によって剣速を強化された刃は、ハイコボルトに反応させる間もなくその首を両断した。
少年のスキル《復讐者》は、復讐のための行動全般に莫大な補正をかける。そのため、生きる目的全てが復讐であり、そのための行動しかとっていない少年は、行動のほぼ全てに莫大な補正がかかっていたのだ。
ここで強さを表す階級についての説明をしよう。
強さを表す階級は十段階に別れており、最弱は一階級、最強は十階級である。
全ての階級の強さの例をあげるなら、
一階級。一般人でも何とか倒せるレベル。
二階級。駆け出し冒険者がやっと倒せるレベル。
三階級。一人前冒険者レベル。
四階級。一人前冒険者のパーティー(4~6人)レベル。
五階級。一流冒険者レベル。
六階級。冒険者の中でもトップクラスの凄腕冒険者や、国の騎士団長や騎士隊隊長レベル。もしくは一流の冒険者がパーティーを組んだレベル。
七階級。歴史に名を残す英雄レベル。
八階級。神話やお伽噺の英雄、神、魔王レベル。
九階級。覚醒神や覚醒魔王レベル。
十階級。究極神、究極魔王レベル。
となる。
現在の少年の強さを表すならおよそ五階級。本来、ユニークスキルを持つような力の持ち主だと六階級以上の実力者となるが、少年は基礎的な戦闘力が低いのでユニークスキル持ちにしては実力が低いことになる。
「・・・・・・・・」
少年は殺したハイコボルトの魔石を素早く剥ぎ取り、それをマジックポーチに入れて他の部位には興味を示さず、また新たな敵を求めて走り出す。
少年が今まで狩ってきた魔物の魔石を換金して得た所持金、それの約8割を使って購入したマジックポーチ。それは非常に便利な物で、ポーチに約小屋一個分ほどの物を収納できる。
今まで重い袋を担いで移動していた少年からすると、たくさん収容できて、なおかつ重さを感じさせないマジックポーチは非常に便利な物であった。
「.......熊か......」
少年が持つスキル《求敵》の効果により、少年は相手より速く相手の存在を知覚する。発見した敵は《ブラッディーベア》。この迷宮の49階で、一番単体で強い魔物。
五階級の強さを持っており、初めて少年がブラッディーベアと戦った時は苦戦の末に倒した相手。
「......いくぞ」
呟きと同時に少年は床を蹴り、地を這うような低い姿勢で薄暗い迷宮の中を流星の如く疾走する。
一般人には残像すら見せず、一人前の冒険者でさえも残像しか見せない高速の疾駆。そこから少年はその全ての速さを乗せた閃光のごとき刺突を放つ。
GUGYaaaaaaaaa!!
放った刺突はブラッディーベアの腹部に深く突き刺さり、甚大なダメージを与える。
少年は剣が突き刺さった状態からさらに剣を横凪ぎに振るい、剣を引き抜くと同時にブラッディーベアの体に致命傷レベルのダメージを与える。しかし、途中で少年の剣は甲高い音を立てて根本からへし折れてしまう。
「......ちっ、脆い」
吐き捨てるように少年は言うと、すぐさまその剣を放棄し、バックステップでブラッディーベアから距離をとる。
ブラッディーベアは腹部の内臓などを抉られたため追撃することができず、今だに悲鳴のような鳴き声をあげていた。
少年はその様子を見てすぐさまマジックポーチから新たな剣を取り出し、ほぼノータイムで再びブラッディーベアに斬りかかる。
少年の剣が赤黒い光のようなオーラを纏い、先程より一段階速い速度で斬撃を繰り出す。
斬ッッ!!
ブラッディーベアの首に一筋の赤い線が走り、ドサッとブラッディーベアの頭部が床に落ちる。
スキル《剣術》。剣に込められたイメージや想いを威力に変えて放つ術。意志の力がそのまま物理的な力となり、剣に纏われる光となる。
「......弱い」
感情の揺れが見えない平坦な声で少年はブラッディーベアの頭部を蹴飛ばす。
強敵だと思って戦った。だが、蓋を開けてみてみたら既にブラッディーベアは自分にとって雑魚に変わっていた。
自分が一戦するたびにどんどん強くなっていることを少年は知っていた。だが、あれほど苦戦した相手をこうも簡単に下すのは、少年に一つのIFを思い浮かばせる。
もし、これほどの力と成長速度を最初から持っていたら、自身の生存は叶わなかったにしろレイナを生き残らせることはできたのではないのだろうか。彼はふと、そう思考してしまった。
「......関係ない。今更、遅すぎる」
自分に言い聞かせるように呟いて、少年は迷宮の探索を再開する。彼はその思考から目を背けたのだ。しかしそれはある意味当たり前だ。自分にここまでのポテンシャルがあり、もし自分の怠惰が最愛の彼女を殺したと考えてしまっていたのならば、恐らく少年は壊れる。
少年の思考は再び自身をより高めるための方法を考えることだけに集中し出した。ある意味復讐とは、彼にとって現実から目を背けるための行為でもあるのだ。
その後、地下50階への階段を少年は見つけた。
「......ここが50階」
少年が仕入れた情報が正しければ、ここでは五階級の魔物、ミノタウロスがでてくるはずである。
ぞくっ
刹那、背筋に悪寒が走った。嫌な予感とも言える、不吉な感覚。
AAAaaAaaaAaaaa!!
そこにいたのはミノタウロスなんかではなく、もっと凶悪で強大な力を持った何か。
腕が6本あり、その全ての手に一振りの剣を持った魔物。学園の授業で習ったことがあるおかげで見覚えがある。叡智の迷宮の70階層のボス。六階級の魔物、アシェラだ。
本来六階級の魔物となれば、騎士団や軍の精鋭が出動されるほどの強敵。いくらユニークスキルを持っていようと、今の少年ではまだ敵わない相手かもしれない。
「.....でも、退く気はないっ!」
撤退。少年は弱気な考えを浮かべた自分を叱咤し、アシェラに向けて全力で疾走する。
風が少年の耳元でごうっと強烈なうなりをあげ、周りのものが全てゆっくり流れるような感覚。
集中のあまり白黒に変色する視界の中、少年は剣を振り上げ、ありったけの狂気と殺意を込めて剣術を繰り出した。
ビュオっっッッッ!!
剣が風を切る音。今まで最高とも思える剣術の速度と力で、一撃でアシェラを殺しにかかる。だが、
きぃんっっ!!
その一撃をアシェラは六本の剣を全て重ねるようにして構え、見事に受けきった。剣を握る手に強大な岩のような重みを少年は感じ、これ以上押し込もうとすれば剣が折れることを理解した。そして理解した次の瞬間に、ほぼ間を置かず彼は次の行動に移る。
剣に込めた力を急にふっと抜き、剣を手放すと共に倒れこむようにしてアシェラの構えた複数の剣の下側を前傾姿勢でくぐり抜け、地を這うような位置からアシェラの本体に剣を捨てた手刀を放つ。
手刀が纏うのは赤黒い光。捨て身のスキル効果も得た素手最高の一撃であり、自分の腕を剣に見立てての剣術の発動。できるかは全て賭けだったが、少年の目論見は成功したようだった。だが、
「.......っっ!?」
ガギィンッ!
手刀を放った手から伝わるのは鋼のような堅さと、強烈な痛みだった。手刀を迎え撃ったのは、アーマーに包まれ堅牢な堅さを発揮する膝だった。
一瞬の膠着。このままではまずいと瞬間的に判断し、少年は一度距離をとるために真上に大きく跳躍する。後ろにバックステップという選択肢もあったが、先程掻い潜ってきた六本の剣が真後ろにあるのでそれはできない。
体の上下を変え、天井にだんっと足をつけてマジックポーチから予備の剣を取り出す。安物の剣だが、こういった剣を使い捨てる戦法をとれるので、ある意味有用である。
天井に足をつけたと同時にアシェラの方に少年は顔を向けると、
迫り来る金属の煌めきが見えた。
「......っ!?」
スガンッッ!!
咄嗟に首を捻って剣による刺突を避ける。見切りのスキルが無かったら死んでいたかもしれない。
少年はこのままでは危険だと判断し、急接近してきたアシェラから離れようと思いっきり天井を蹴り、再び繰り出された剣閃を半ば勘で避ける。
バゴッ!
蹴ったことによって天井が陥没する音を聞きながら、再び体位の上下を入れ替えて床への着地に備えるが、上方で何かが爆発するような音と共に剣術の光を纏った六本の剣閃が視界に入った。
「......クッ!!」
少年は勘と見切りのスキルに任せて心臓と頭を狙った剣を強引に弾き、残りの四本を剣を振った反動で回避しようとしたが、避けきれずに三本の剣で右肩、右太股、腹部を刺され、そのままの勢いで床にずがんと叩きつけられる。
「かはっ......っっ!!」
剣で串刺しにされ、床に縫い止められるように動きを封じられた少年は、全力で動かせる左足でアシェラの胴体に蹴りをお見舞いした。
ズドゴンッッ!!
爆発するような凄まじい威力を発揮した蹴りに、アシェラはボールのような速度でぶっ飛んでいく。
少年のユニークスキル《復讐者》は、身体能力や知覚などの基本的な能力を向上させるタイプのスキルだ。その発動条件は、少年が復讐したいと思った相手と相対した場合や、復讐のための行動に対してとなる場合が多いが、他にも一つ、傷を負わされた相手に対する復讐という発動条件がある。
いわゆる目には目を、歯には歯をという形で、少年は傷を負えば負うほど一時的に強くなる。
そしてこれは、普段発動している復讐のための行動より遥かに強化の度合いが大きく、少年が今アシェラを蹴り飛ばすことができたのもそれが理由だ。だが、
(.....右足が動かしづらい、右肩は、動かないな。同じく右腕も動かせない.....それでも、やれるか?)
少年は満身創痍だった。
叩きつけられた衝撃や刺し傷により、少年の視界が朦朧とする。彼自身負ける気はしなかったが、もしかしたら共倒れなんてこともあるかもしれないと思っていた。
復讐者の効果で生命力や自己治癒力が高まってはいるが、死なないようにするのが精一杯で、戦闘中の怪我の回復はなさそうだと思考する。
(......状況は不利。だが、負けるわけにはいかない)
「......いくぞ、アシェラッ!」
決意をし、強化された身体能力を持って少年は地面を蹴った。
剣を振るい、剣を弾く。
既に数十分と剣を交え、少年は死力を尽くして戦っていた。
命懸けの戦闘の中で、体捌きや剣技の腕前が戦闘前とは比較にならないほど上達しているのは分かったが、長期戦で不利なのは残念なことに少年だった。
アシェラの剣を弾き、バックステップで距離をとる。既に少年の意識が切れかかっている。どうやら血を流し過ぎたようだ。
(......このままじゃ負ける)
冷静な思考が、そう結論を出した。
「......負けられない」
敗北の予感に、あの日の記憶が甦る。
大切な者を守ることができず、不様に地を這いつくばることしかできなかった記憶を。
魔神相手に、彼女の死体すらまともに守れなかった記憶を!
彼女の死体は塵も残らなかった。彼の故郷は、今や大きなクレーターと少年が作った物寂しげな墓標が残るだけだ。
(僕は、死んだレイナの尊厳すら守ることができなかった......!)
弱ければ、負け、負ければ喪う。無力な少年は何も守れずにあの時、ただ全てを失った。
だから、
だからっ!
「何に代えても、もう負けるわけにはいかないっ!!」
感情が暴走する。冷静さの維持のために少年が抑えていた、戦闘中はもっとも抑えるべき激情が全身に駆け巡る。
『スキルの進化を確認。
《狂気》と《捨て身》を元にユニークスキル《固有=代償者》を獲得しました。』
数回聞いた、スキル獲得を知らせる世界の声が聞こえる。少年の魂が〝何か〟を引き替えに、新たな強大な力を手に入れる。
失った何かの代償に、膨大な力が少年の全身に漲る。
今は何も考えなくていい。ただ、溢れんばかりの力で目の前の敵を壊せと感情が訴える。
そこで、異常を感じたアシェラが凄まじい速度で剣による全力の刺突を放つ。
ぶしゅっ!
少年の腹に、足に、胸に、肩に、計六本の剣が突き刺さる。だが、僅かに体を逸らしたため急所は捉えていない。少年は、死んではいない。
ガシッ、唯一無事な左腕が、胸を刺す剣を持つ手を掴んだ。
そう、少年はアシェラを“捕まえた”。
少年は決して才が豊かな訳ではない。物語の主人公のように唐突に手に入れたじゃじゃ馬の如き力を簡単に使いこなせたりしない。だから、この状況でアシェラを確実に捉えるため、少年はあえて傷を受け入れた。
そして少年は、そのまま掴んだアシェラの腕を、
握力だけで握り潰した。
「aaaaaaa!!!!??」
アシェラの、悲鳴。間を置かずに高速で少年の腕が閃き、アシェラの腕は無残に腕力にものを言わせて抉り取られた。
連撃。何があったか理解してないアシェラに高速で拳が叩き込まれる。
ベコリ、と。アシェラの鎧が大きく大きく凹んだ。
ズドン!!!!!
アシェラが凄まじい勢いで壁に叩きつけられる。ほとんど体を動かさないジャブのような一撃。だが、アシェラは何の反応をすることも許されなかった。
少年は乱暴に自身に刺さった剣を引き抜く、そのため各部位から一斉に血が噴き出した。だが、少年はそれを気にも止めずにアシェラの剣を一本手に取る。
剣閃が煌めいた。
斬。アシェラの頭部が落ちる。アシェラの剣も、振り切ると同時に砕けた。
少年は力の制御ができなかったためか、アシェラの背後の壁ごと思い切り裂いていた。ダンジョンに刻まれた深い一文字が、少年の力量の異常さを際立たせる。
その光景を見届けて、少年の意識は闇に閉ざされた。
「まさか、勝利するとは・・・・・・」
血だまりに死んだように沈むアルイの前に、美しい女性が現われる。輝きを纏った彼女は神々しく、その雰囲気に当てられ、アルイを狙っていた魔物たちは己の持てる全力でその場から逃げ出す。
「仕方がないですね・・・。あなたは、いつも私の予想を上回る。今生でも修羅の道から引くことができないというのなら、せめて私は・・・あなたの行く道を舗装しましょう」
美しい女性は魔法を使う。すると、瀕死であったアルイの傷の全てが完治し、活力が宿る。次に女性が魔法を使うと、アルイの周囲の血がたちまちどこかに消えた。
虫の息だったアルイの呼吸が正常なものになったのを女性は確認すると、最後に魔物よけの結界を張り、姿を消した。
以前はスキルのレア度に、ノーマル、レア、ユニークとありましたが、レアスキルという階級がそんなに必要ないのでレアスキルもノーマルにしました。
リメイクして行くに当たって、今作はできるだけスリムにしていこうかと考えています。使わない設定はできるだけ減らして、出番のないキャラクターは削っていこうと思います。その分、一人一人のキャラクターを深めに描写していきたいですね。