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二話

この作品のヒロインは基本的にみんな不憫ですが、中でもレイナはずば抜けて不憫でしょう

2



『おい落ちこぼれ!目障りなんだよ、消えやがれ!』


『落ちこぼれのくせにレイナさんといつも一緒にいやがって!生意気なんだよ!』


『魔力無しの落ちこぼれめ!貴様なんかこの学園にはふさわしくない!』











そう、僕は落ちこぼれ。魔力がなくて、国中の凄い人たちが集うこの学園にふさわしくない、一番の落ちこぼれ。











だけど、











『ごめんね、アルイ。また......守れなかったね。ごめんね、ごめんね.......』


『私は貴方を守りたい。信じて......必ず守るから』


『大丈夫だよアルイ!アルイは落ちこぼれじゃないもん!アルイは前に私を守ってくれたんだよ?そんなアルイが、落ちこぼれなはずがない!』











君がいてくれるから、僕は落ちこぼれでも強くなろうと思えた。


いつも笑顔で励ましてくれた君、頭を撫でると嬉しそうに笑ってくれた君、僕を守ってくれた凛々しい君。


全部全部大好きだ。守りたいって思うんだ。


君がいるから僕は前を向けて、落ちこぼれと馬鹿にされても諦めずにいれた。


言葉にできないほど、君に感謝していて、君が大好きだ。ずっと、ずっと君の側にいたい。


そのために、君を守れるくらい僕は強くなりたい。散々落ちこぼれって馬鹿にされた僕だけど、君に守られているだけじゃなくて、君を守りたい。


こんなこと、恥ずかしくて君には言えないけど、それでも必ずやってやろうって、強く思ってる。









僕は魔力がなくて、唯一の特技もちょっと剣の扱いが上手なだけだ。


物語の勇者みたいに強くも格好良くもないし、王様みたいにお金持ちでも偉い人でもないから、君を幸せにはできないかもしれない。


そんなダメダメな僕だけど、











君の側に、いていいかな?











そういうと、君は幸せそうに涙をこぼしながら、今まで一番の笑顔を見せてくれた。












うん、これからずっとよろしくね、アルイ












「レ.....イ、ナ.......」


白い雪景色と炭化した地面の黒。流れ出る鮮血とゆらゆらと揺れる炎の赤が彼の視界を染める。


彼の故郷が、大切な全てが、そこで燃えていた。


パチパチと火花が散る音がして、肉が焦げるにおいが彼の鼻腔を刺激する。


「レイ.......ナッ.......!」


血を大量に失って眩む視界の中、必死で四肢を動かして彼はレイナに近寄る。


前兆はなかった。気づけばこうなっていた。空が光ったと思えば、次はこの光景。


彼の全身に激痛が走る。強く吹き飛ばされた衝撃から強打した背中や、焼け焦げた全身からどんどん熱が抜けていって、代わりにとても冷たいものが全身に広がっていく。周りは灼熱の熱さなのに、不思議な気持ちだ、と彼は朧げに思った。


ゴポォ、と。少年は込み上がってきた血液を吐き出す。


「グッ......ガハッ、ゲフッ、ゴヒュッ.......」


喉が奇怪な音を出し、濁流のごとき勢いで口から血が吐き出される。まともに視覚が機能しなくなり、彼の全身を死へ向かう寒さが支配する。


「レィ......ナァ......」


それでも、最期はレイナと一緒にいたい、という思いから、数百度の熱で加熱された灼熱のような地面の上を這いずって、彼女の元に彼は辿り着く。手は焼けただれ、今にもそれは千切れそうだった。


しかし、彼が辿り着いた彼女の周りの地面だけは、何故か平生とあまり変わらない様子だった。


彼はレイナを見る。彼女が巻いていた真っ白だったマフラーは赤黒く染まり、その繊維のところどころが焦げていた。そのマフラーを染める赤黒から分かるように、もう既に彼女に息はなかった。


悲しい。そう思えるほど彼の脳に血は巡っていなくて、ただただ変わってしまったレイナのことをぼんやりとした視界で見ていることしかできなかった。いや、しかしそれはある意味幸せだったのかもしれない。彼がその事実に完全に気づいてしまえば、きっと壊れてしまうだろうから。






「やれやれ、冬休みなら勇者は故郷に帰っていると思ったけど、違かったようだね。まったく、無駄なことをしてしまったよ」







ふと、彼の耳に声が聞こえた。


それはとても美しい、一度聞いたなら決して忘れられないような声だった。


「おや?君、まだ生きていたのか。珍しいね。普通はそこにあるゴミみたいにすぐ死ぬはずなんだけどね。いや、死体が残ってること自体が非常に稀だな」


死にかけて、彼は視覚だけじゃなく聴覚にも異常をきたしていた。だけど、そんな異常を消し飛ばしてしまうほど、その声は魅力的で神秘的な何かを孕んだ声だった。だからこそ、不運にも彼はその内容を聞き取ってしまった。


正常じゃない、血が足らずにぼんやりとした意識だが、確かにそれを聞いてその意味を考えることができてしまった。


ゴミ......ゴミ?


朧気だった思考が瞬時に覚醒し、周りの炎に似た灼熱の奔流が彼の心を染め上げる。四肢全体に体が残した最後のエネルギーが補充され、ゆっくりと立ち上がりながら、彼は声が聞こえた方向に顔を向けた。


「へえ.......死にかけでまだ力を発揮する.......ね。君、面白いね」


そこに立っていたのは果てしなく美しい女性。美醜感覚関係無く、それを見たなら万民が美しいと称賛するような筆舌し難い究極の美。まさに美の概念そのものの姿。本来の彼であれば、その美しさに思わず見惚れてその動きを止めたかもしれないが、


「訂正、しろ」


関係ない。彼には絶対に言わなくてはならないことが、譲れないものがあった。


「訂正しろよ!レイナは、ゴミなんかじゃ、ないっ!」


「.........」


言い終えると同時に彼はゴホッと血を吐き、がくりと膝をついた。しかし、怒りに染まった瞳だけは、冗談みたいに美しい女性から決して離すことはなかった。その鬼気迫った様子に女性はその顔を驚きの色で染める。


「..........ッハ!ハッハッハッハッハッハッ!!面白い、面白いよ君!」


誰かが何か言ってる気がする。でも、もう力が入らない。


内心でそう呟き、ドシャリと彼は倒れた。くそ、レイナはゴミじゃないと分からせなきゃならないのに......。そう思いながらも、彼の視界が黒に閉ざされる。彼は既に限界だった。そして、彼は本来ここ死ぬはずであった。


だが、目の前の女性はそれをよしとしなかった。





ふと、その女性は彼に向けて手を翳した。











「この光景を作り出したのは誰か、君は知りたくないか?」











「.......!?」


声が聞こえるのと同時に、彼の全身に広がった冷気が消え、身体中に温かさが灯る。


「知りたいだろう?誰が君の大切な故郷を、大切な人を奪ったのか。復讐すべき不倶戴天の敵を!」


温かさと共に戻ってきたクリアな思考で彼は考える。誰が故郷を燃やし、自分の家族を、知り合いを、レイナを奪ったのか。誰がこんなことをしたのか!


「私だよ、私。君の故郷を魔法で凪ぎ払ったのはこの私、魔神ディオーンだ!」


その宣言と共に、魔神ディオーンから凄まじい衝撃波が放たれ、彼は大きく吹き飛ばされた。いや、彼だけではなく、炭、岩、土、炎、周囲にあったあらゆるもの全てがその場から吹き飛ばされる。


その尋常ならざる光景は、まさしくその女性が魔神だということを象徴していて、彼女からしたら森羅万象の全てが無価値だと物語っているようだった。


無価値。そこら辺に転がる石と同じようにレイナの死体を見た、あの目。


魔神ディオーンは手を翳し、とある物へ向けて魔法を放った。


そして、吹き飛ばされていたレイナの死体は塵も残さず焼却された。


完全に、レイナは消え去った。


「ふざっ、けるな!」


彼の内に、今まで経験したことのないほどの強烈な怒りが沸き起こった。落ちこぼれといくら馬鹿にされても、決して沸きはしなかったどす黒い莫大な負の感情が彼の内を駆け巡る。


「絶対に.......殺す!」


今にも血涙を流さんばかりの悲しみと壮絶な怒りに満ちた表情で、彼は魔神を睨んだ。


「殺す、殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す、絶対に殺してやるッッッッ!!!!」


喉が張り裂けんばかりの咆哮。彼の脳を、精神を、魂を復讐という感情が一色に染め上げる。


度を超えた激情が、ついに一つの基準を超える。


彼のあまりに強い復讐の念。それが魂の奥に眠る、魂を持つ者すべてに宿った普遍的な力を呼び起こし、世界の法則に干渉する。彼は修練の果てに悟りのように開かれる力を、感情だけで呼び起こしたのだ。故に、その力が生まれた。





『適正確認。


 スキル《固有(ユニーク)=復讐者》を獲得しました。』




「あああぁぁあぁぁぁああぁぁっっっ!!」


刹那、体に宿った膨大な力を全身に纏い、体に負った重傷を気にも止めずに、魔神に向かって全力で跳躍する。


「ハッハッハッハッ!!面白いよ、君、最高だ!


だから、」


彼の耳元で聞こえる魔神の声。そして、知覚外から放たれる規格外の一撃。












「必ず私を殺しに来なよ?私を楽しませて見せろ!」











そう聞こえた、刹那。彼は凄まじい衝撃を受け、気を失った。だが、口は動き、呟きを、その意志を残した。


「ころ.......す.......」


少年は、気を失ってなおその恨みを吐き出した。気を失うその最後まで、彼の瞳から憎しみの炎が絶えることはなかった。












これが開幕。復讐に生きる少年の物語。


元落ちこぼれが魔神を滅ぼすために奔走する、少年の少女へ贈る鎮魂歌(レクイエム)の物語の始まりである。


ここまでがプロローグです。数年前に書いたものを見返すと、思ったより面白いものですね

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