第一話を叫べよ【キャピキャピ系男の娘】
そうして鮫嶋一花は漢気学園に転入することとなった、普通の共学で普通に過ごしていただけだというのに風紀最底辺と有名な元男子校漢気学園に転入だ。可哀想に。それも全部、大和田蒼空のせいな気もしなくはない一花である。
気にしていないと言われれば、そうでないと答えられるくらい腹は立っている一花。嫌だと言っても聞いてくれなかった大和田蒼空が女子一人、男子の群れの中に入れば逆ハーレムよ!と言っていたが笑わせてくれるな、現実はそう甘くないと一花は鼻で笑った。
そんなこんなで、転入初日。馬鹿みたいな生徒会長に公開処刑され、馬鹿みたいなガチムチ男に腐女子だと言われ、一花は馬鹿みたいに叫んだ。これはあんまりだと。
そして今、新しいクラス(二年美組)でキャッキャッとまるで女の子のように話す男の子……訂正、男の娘が前の席になった一花。
「僕、桜坂乙。よろしくね!」
桜坂乙、茶髪でふわっとした古典的な髪型にイマドキの女子なら誰しもが憧れるであろうお目目ぱっちり二重、それに加えて可愛らしい萌え袖は計算だろうか?
そんな如何にも、女子力高い系男子で嫌味なのかと思うほど可愛らしい桜坂少年に一花は警戒していた。
先程、桜坂が男に告白されたのをみていたのだ。そして桜坂少年の首元に視線を滑らせ首にキスマークを見つけるなり、般若のようになる一花の顔、彼女は本当に女の子なのだろうか?
「桜坂くんね、私は鮫嶋一花」
「うん、よろしくね!さっきからキスマーク気になってるみたいだけどどうしたの?」
「……ナンデモナイヨ、よろしくね!!」
うふふふ、と笑い合う一花達。誰に付けられたとか聞かない、気まずくなるのが目に見えてるのだ。しかし、笑い合うだけの空間もなかなかキツイもので「ふぅ」と一花は一息つく。
すると突如、何処にでもいるようないないようなイケメンでも不細工でもない、途轍もなく微妙な男が桜坂少年に話しかけた。そして桜坂少年もどことなく嫌そうな顔をする。一花はその様子をみるなり、助けるべきなのかと交互を見た。
「おはよう、乙ちゃん! 今日も可愛いねぇ、本当に女の子みたい。俺と付き合おうよ」
「乙ちゃんって呼ぶな虫唾が走る」
「怒った顔もすっごい可愛い、男達が狙うのもよく分かるな。デートだけでもダメ?」
「少し優しくしてやっただけでつけ上がんなブサイク。もっと顔面偏差値あげてから来てくれない? それと僕は男に興味ないの、興味があるのはお金と女装だけだし。僕はゲイじゃないの気持ち悪い」
「あははは、可愛いねやっぱり」
桜坂くんが怖い、と一花は身震いする。清々しいほどの笑顔で先輩と思われる男に毒を吐く姿が何とも一花とって衝撃的過ぎた。桜坂乙、それはあざとく図太く正直に生きる男の娘のことである。それにしてもこの途轍もなく微妙な男は鋼の心の持ち主なのだろうか、桜坂少年に何を言われようが満面の笑みなのだ。強すぎる。
それを見ていた別に助けなくても大丈夫かな、とも思う一花だが桜坂少年があんまりにも嫌そうなので助ける事にしたようで口を開く。
「あのー、チャイムも鳴る頃ですしそろそろ終わりにしません?」
「……じゃあね、乙ちゃん」
一花を汚物を見るかのような目で見ると投げキッスをして、去っていった途轍もなく微妙な男。
そして男が去ると、憂鬱そうに桜坂少年は溜め息ついて助けてくれた一花に「ありがとう、いつもこうなんだ。ごめんね」とお礼と謝罪をし、花が周りを舞っているのかと錯覚させるように口を綻ばせた。お礼も出来る子だし悪い子じゃないんだろうなと内心思う一花は、極めて単純である。それよりもいつもこうなのかと少し桜坂少年を心配した。
チャイムが鳴ると、がやがやいちゃいちゃと騒がしかったクラスメイト達は席についていくので、桜坂少年も「じゃあ、また後でね一花ちゃん」と前を向く。これからどんな事が起こっても冷静でいられるのか不安なのが正直なところ。でも桜坂くんという友達ができたので頑張ろうと意気込む一花だ。
だがしかし、一花は知らなかった。桜坂乙が滅多に人の名を呼ばない事を、そして桜坂少年のファンクラブが途轍もないほどややこしい連中という事を……合掌。
鮫嶋一花 二年美組
名前は一つでも強く咲く花という意味でつけられた。本作での主人公の位置にいる。




