貧乳眼鏡彼女・3 バレンタイン
貧乳で眼鏡で少し地味系の彼女とのやり取りです。
甘酸っぱい?
バレンタインなので急に書きたくなった、後悔はしていない。
彼女は貧乳で眼鏡だ。
髪は肩くらいで、艶のある黒。前髪を分けて、紺色のヘアピンで止めている。
眼鏡も派手すぎずに、落ち着いた感じで、一言で言えば地味と言われるような部類だろう。
身長は俺の顔一つと半分くらい小さく、背の低い事をまったく気にしてないし、胸がない事も気にしてはいない。
普段は本の話題以外はあまり喋らないが、紙媒体の本を読んで、激甘の紅茶やコーヒーにミルクをドバドバ入れて飲みながら微笑んでる。
普段は読書デートで、お互いに日の当たる場所で、空調と空気清浄機の音しか聞こえないくらい静かな図書館にいる。
付き合ったきっかけは、図書館で本棚の上段にあった本を、取ってあげたのがきっかけだった。お礼と言う事で、近くにあったコーヒー店に入って、好きな本の話して、お互い本の好みと趣味が合い、そのまま仲良くなった。
最初は生意気な子供かと思ったが、話してみれば、年齢は俺より一つ下で、俺より頭が良かった。
「そろそろバレンタインよね」
「そうだね」
「ソワソワしたり、期待したりしないの?」
図書館の休憩室で、彼女はそんなことを言ってきた。手に持っているのは、黄色と黒の細長い缶のコーヒーだ。冬になり、このコーヒーを見かけると真っ先に買うらしい。
成分表を見せてもらったが、一番最初に果糖練乳と書いてある。
成分表って、入ってるのが多い物から書かれるんだよな? つまり一番果糖練乳が入ってるって事だ。一口だけ飲ませてもらったが、ブラックコーヒーに砂糖とミルクの代わりに入れても良いくらいだった。
俺は間接キスなんか今更気にしないが、向こうがもの凄くきにしていて、飲み口を十秒ほど見つめて、何かを覚悟してから飲んだのを覚えている。夏の花火大会でキスしたでしょうに……。
「大学で手作りの弁当を見た事がない、いつもコンビニのサラダと菓子パンか、学食の蕎麦か日替わりランチだからね」
「う……なにも言い返せない」
「料理は愛情、お菓子は科学。ちょっとでも間違えると失敗する。俺は一人暮らしだから自炊してるし、ホットケーキミックスなんちゃってお菓子は作れる」
実家住みの彼女は、料理をするのか不明だ。
「君は、主夫にでもなるのかい?」
「酷いな、自炊が一番経済的なんだぞ?」
「お菓子はどうなんだい? 器具とか色々必要じゃないか」
「近所のフリマで手に入れた。ってかグットパット最高。簡単なお菓子の作り方が乗ってるし」
「う……。コンビニスイーツは手頃だから、作るよりは手間や材料費はかからない。むしろ時間換算にすると、小さめのコンビニスーツの方がコスパはいいはずよ」
「否定しないけど、理屈じゃないよ? この間俺が持ってきたクッキー。アレ俺が作ったんだけど?」
「む。不揃いだから貰い物だと思ってたけど……まさか自作だったなんて……女としての威厳が!」
彼女は、缶をもったまうなだれ、フルフルとしていた。
「ふん、私だって出来る事を証明してあげるわ」
「そして、父親に見つかって、相手は誰なんだってなるんでしょ?」
「へ? もう君の事話してあるぞ?」
「うぇ!?」
「まだ紹介出来る関係でもないから、連れ来ないって言ってるけど、同じ大学で、趣味が合うことは言ってあるし、容姿も性格も話してある」
その言葉を聞いて、今後は俺が紅茶の缶を持ったままうなだれた。
「あと、花火大会は、友達じゃなくて彼氏と行くと言ったよ?」
「うっ……。なんて言ってた?」
「嘆いてた。けど十時頃に帰ったから、君への信頼度は多少あがってると思う」
「もし、あの時してたら?」
「ゴルフクラブでも持ち出したと思う」
「怖いな……、娘を持つ父親の愛情をなめてたわ……」
「基本紳士だけど、溺愛されてる自覚はある。先に行っておくべきだったね」
「本当、さっきに言って欲しかったわ」
「まぁ、この様子だと多分平気だと思うよ。笑顔で『今度連れてきなさい』て言ってたし」
「その笑顔を信じていいのかな?」
娘を持つ父親の心境って、書物でもたびたび出てくるが、殺意のこもった笑顔じゃなければいいんだけど。
◇
バレンタイン当日。
学校がで彼女にあったが、特に何もなく、友人にもからかわれた。
「お前の小さな彼女、実は脈がないんじゃないか?」
「いや、バレンタインに興味ないだけじゃないか?」
「いやー、この前の休日の図書館デートで、ちらっとバレンタインの話題出たんだけど……。期待しすぎたかな?」
「残念だったな、俺は今日サークルで三つは確実なんだぜ!」
「女性部員が三人いるだけだろ、義理だよ義理」
「それでも三つだ!」
友人二人は、色々盛り上がってるが、なんだかんだで少しだけ残念だ。
◇
次の日曜日、また相変わらず図書館で読書デートをして、休憩室でいつも通りの時間に、三十分ほど休止を入れる。
そして彼女は、いつもの黄色と黒のラベルのコーヒーではなく、ココアを買っていた。珍しい……。
「珍しいね、ココアだなんて」
「まぁ、たまには……ね。バレンタイン……過ぎちゃったけど、あまりがっついてこないのね」
「まぁ、そういうイベントにあまり興味がない系と割り切ってるから、あまり気にしてない」
「ふーん……」
彼女はプルタブを開け、一口ほど口を付けたと思ったら缶を起き、いきなりキスをしてきた。
そして口に流れ込んでくるココア――
「別に興味ない訳じゃないわ、盛大に失敗して、当日に渡せなかっただけ、友達にも笑われたわ。だからこれがバレンタインよ」
そう言われると、普通のココアでも、なんだか甘い気がするから不思議だ。
そして彼女は、顔を真っ赤にしながら、先ほど置いたココアの缶を持って恥ずかしそうにゴクゴクと飲んでいた。
「ホワイトデーは三倍返しだっけ?」
少しからかってみたら、飲んでいたココアをむせてしまい、ハンカチで口元を拭きながら二の腕を思い切りはたかれ、良い音がして図書館中に響いた。
「飲んでるときに言わないでよ! バカ!」
「はは、ごめんごめん。で三倍返しは……どうする?」
「お、御手柔らかにお願いします……」
もの凄く小さな声だった……。
もしかしたら後悔しかないかもしれない。