表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/33

August.18 『大島に行こう!』

 本日は朝八時に長崎駅に集合。

 一番乗りは諒子ちゃんだった。キャンプ場なので長袖に長ズボン、スニーカーという重装備。私も迷ったけれど、やっぱり虫刺されとか怖いので、同じような恰好で着ている。

 だいぶ、可愛いワンピースで行くか悩んだけどね。


「諒子ちゃん、おはよう」

「おはよう」


 諒子ちゃんに被っていた、田舎っぽい麦わら帽子をどこで買ったのかと突っ込まれた。家から持ってきていた品だと言えば、普通の女子大生はなかなか持っていないと感心された。


「なんか乙ちゃんって着物をいくつか持っていたり、茶色い料理が得意だったり、謎の生き物だよね」

「着物は全部お祖母ちゃんにもらった物で、茶色い料理はまあ、何も言えないけれど」


 大学の春のお花見でお弁当を作って行った時に、からあげ、煮物、生姜焼き、サバの塩焼きの四点盛りを持って行ったら、笑われてしまったのだ。なんでも、お母さんの作るお弁当みたいだと。他の女の子の持ってきていたおかずは色とりどりだった。


「でもまあ、乙ちゃんの料理が一番美味しかったけどね」

「それはありがとう」


 うちは両親が共働きで、料理は祖母が作っていた。それを手伝っているうちに、自然と覚えたのだ。

 管理栄養士を目指している私の生活から、料理は切って離せない。


 諒子ちゃんとお喋りをしていれば、飯田さんがやって来る。

 時計を見れば八時ぴったり。

 大荷物を抱えて走って来ていた。


 営業スタイルではない飯田さんを初めて見る。

 黒いキャップを被り、動きやすそうなパーカーとTシャツ、下はジーンズ。

 普段は三十前後に見えるけれど、私服でいたらオーナーと同じくらいに見えるので不思議だ。


「すみません、遅くなって」

「いいえ~、時間ぴったりですよ」

「だったら良かったです」


 好奇心旺盛な諒子ちゃんが、大荷物の詳細を質問する。

 細長い物入れ物と四角い肩かけの容器は釣り道具だろう。


「クーラーボックスの中は肉とか、リュックは鍋、飯盒はんごうとかですね」


 キャンプ場でバーベキューとカレーを食べるために、いろいろと用意してくれたらしい。

 ちなみに、私がお米とカレールー係で、諒子ちゃんは野菜係。


 そんな話をしていれば、オーナーから駅に到着したという連絡が入った。

 三人で指定された場所へと移動する。


「あ~どうも、向井さん、おはようございます」


 車の前で待ち構えていたオーナーに、飯田さんが声をかける。

 オーナーもキャンプ場に相応しい、長袖に薄手のダウンベスト、チノパンという姿で来ていた。今日は珍しく、黒縁の眼鏡をかけている。

 それを見た諒子ちゃんは、質問を投げかけていた。


「それ、オシャレ眼鏡ですか?」

「ガチ眼鏡だ」

「ふうん。そうなんですね」


 長時間の運転となるので、かけてきたらしい。


 お喋りはここまでにして、オーナーの車に荷物を積み込む。

 そして、後部座席に座ろうとしたら、諒子ちゃんに阻まれてしまった。


「乙ちゃんは前!」

「え、でも」

「飯田さん、オーナーと並んで座りたいですか?」

「なんとも言えないですね」

「だって!」


 ぐいぐいと背中を押され、助手席に座ることになった。

 何をやっているんだという顔をしているオーナーに、よろしくお願いいたしますと挨拶をした。


 青空の元、車は走り始める。

 大島までは車で二時間ほど。


 飯田さんが楽しい話題を振ってくれるので、車内はずっと賑やかだった。

 オーナーは相変わらず仏頂面だったけれど。


 大島に到着したのは十時過ぎ。

 とりあえず、キャンプ場まで行って昼食の準備をすることにした。


 キャンプ場は草原が広がる場所で、水道に調理スペース、かまどと屋根付きの飲食スペースがあるシンプルなところ。


 飯田さんはご飯係で、オーナーはバーベキュー係、私と諒子ちゃんはカレー係となった。


「肉はこちらを使って下さい」


 差し出されたお肉を見て、諒子ちゃんが「おお」と声をあげる。

 パッケージに金の文字で書かれてあったのは『佐賀牛』。

 お隣の県の、高級和牛を買って来てくれたらしい。


「うわ~、嬉しいけれど、緊張する」

「確かに。調理方法を間違えば、台無しだね」


 私と諒子ちゃんは、受け取ったブロック肉を緊張の面持ちで見下ろした。


「乙ちゃん、頑張ろう」

「お、おお!」


 時間がもったいないので、さっそく調理に取りかかる。


 お肉は諒子ちゃんに任せた。なんでも、擦ったたまねぎに漬け込めば柔らかくなるらしい。

 一生懸命涙目になりながら、たまねぎを擦ってくれている。


 私は諒子ちゃんが持って来た野菜を切ることになった。

 どうやら夏野菜カレーを作ろうと思っていたようで、彩りが綺麗な物が並んでいる。

 ナスにズッキーニ、トマトにパプリカ、カボチャ、ニンジンなど、一口大に切っていく。

 鍋にオリーブオイルを敷き、飯田さんが火を入れてくれた、キャンプ場のかまどの上に仕かける。

 まずは硬い根菜類から炒め、若干火が通ったらそれ以外の野菜を投入する。下味を付け、しんなりしてきたら、水とコンソメを入れて煮込む。

 途中で諒子ちゃんが頑張って下ごしらえをした佐賀牛も入れた。


 コトコト煮込み、具材にしっかりと火が通れば、カレールーを入れてさらに煮込む。

 鍋をかき混ぜればスパイシーな香りが漂い、お腹がきゅうと鳴った。

 時計をみれば、十二時前になっていた。

 ほどなくしてカレーは完成! 飯田さんのご飯も炊きあがったようだった。


 広場には日除けのテントが張られ、バーベキューの準備も整っている。

 机はないけれど、キャンプ用の椅子が人数分用意されていた。

 串に刺さった野菜とお肉が、ジュウジュウと音を立てて焼かれているところであった。

 カレーの入った鍋は、新聞紙を重ねて敷いたクーラーボックスの上に置く。

 飯田さんが装ったご飯に、各々好きな量だけカレーをかけた。


 もう一つ、オーナーが持って来ていたらしいクーラーボックスの中からは、ジュースが出て来た。飯田さんにビールを手渡していたけれど、自分ばかり飲むわけにはいかないと、遠慮をしている。


「別に、飲みたかったら飲めばいい」

「お昼から釣りもするので」


 そう言って、飯田さんは炭酸のジュースを諒子ちゃんから受け取っていた。


 そして、準備は整った。

 膝にカレーの皿を置き、手と手を合わせていただきますをする。

 皆が食べ始めたのを見て、私もカレーとご飯をスプーンで掬って食べた。


 ――美味しい!


 ピリッした辛さとほどよい酸味、野菜の甘さなどが際立っている。

 野菜は柔らかく、口の中でほろりと崩れた。お肉もトロトロで、幸せな気分となる。

 ご飯もカレールーに合った硬さだった。おこげもパリパリしていて美味しい。


 余りの美味しさに、皆無言で食べていた。移動と調理で若干疲れていたせいもあるかもしれない。


 食べ終わったあと、飯田さんはカレーを褒めてくれた。

 作り甲斐があったというものだ。

 オーナーの反応は期待していないので、スルーとする。


 次に、バーベキューの串を頂く。

 オーナーが串から野菜や肉を取って、食べやすいようにお皿に盛り付けてくれた。タレを付けて頂く。

 こちらも、素晴らしく美味しい。

 表面がカリッとなるまで焼かれたお肉は、噛めば肉汁がジワリと滴る。


「いやあ、いいですね。美味しいです。奮発した甲斐がありました」

「飯田さん、ありがとうございます……!」


 思わず、深くお辞儀をしながらお礼を言ってしまった。


 お昼からは別行動となった。

 飯田さんと諒子ちゃんはお魚釣りに。

 私とオーナーは展望台に向かった。


 オーナーはよほど崖を見たかったのか、熱心に眺め、写真を何枚も撮り始める。

 まさか、カメラまで持参をしていたとは。


 私は崖ではなく、海を眺めることにした。


 今日は波がなくて、静かな海だった。

 太陽の光を受けて、キラキラと輝いている。

 ずっと見ていられる景色だった。


 カシャリと、隣からシャッター音が聞こえてハッとした。

 いつの間にかオーナーが隣に立っていて、私に向かってカメラを構えていたのだ。


「あ、今、変な顔していました!」

「だから撮った」

「いや~~」


 消して下さいと言ったけれど、フィルムのカメラだから無理だと言われてしまった。

 崖に夢中になっていると思っていたので、すっかり油断していた。


 なんてこったと焦ったけれど、オーナーが珍しく楽しそうに笑っていたから、まあいいかと思ってしまった。


 と、このようにして、夏の愉快な一日は過ぎていく。


次話以降、不定期更新となりますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ