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第8話「疾走する影」




「時間は……もう1時間無いかー」


 メニューを開き現在時刻を確認する。

 どうも最後の戦闘が散々な出来で安全な街に入った事で緊張が弛んで壁にもたれてへたりこんじゃっていたけど、結構時間が過ぎちゃった。


(落ち着いてみなくてもあれはそれなりに恥ずかしかったかも……うう)


 熱くなる顔を誤魔化すように、他の事を考える。


(これからどうしようかな。今からドロップしたアイテムを売って、ポーションを買って、また森に……は無いかな)


 流石に今日は止めておこう。

 蹲ってしまったように精神的な疲労が溜まっている気がする。体は動く事は動くものの、動かすのが億劫だった。


 いっそログアウトする?

 ……ううん、時間はあるのだし街の中を散策するくらいならしておいた方がいいかな。

 この街なんだかんだ言って相当広いんだし、今の内にマップ埋めたり、どこに何があるかを確認するくらいなら出来る。

 ポーチに貯まったアイテムを売るのは……どうしよ。花菜にショップを聞いてからにしようかな。


「うん、行こう」


 杖を本来の用途で使いながら立ち上がる。

 ――ああ、杖を持っていて良かった、歩くのすっごい楽……。



 そんな若さの欠片も無い感想を抱きながら、他の大通りへと向かうべく、まずは一路中央広場へと歩き始めた。



◇◇◇◇◇



 大通りはその名の通りに幅がとても広く取られてる。

 “はじまりの街”と言う位置付けなので新規プレイヤーが大挙して押し寄せるからなのか、それとも行った事が無いので分からないけど他の街もこうなのか(考えると気になる……。クラリスに聞いてもいいけど、後の楽しみに取っておこう)。

 そんな広い西大通りは宿屋が集中しているので夜の10時を回っている(MSO内では早朝)現在はログインしてきたプレイヤーとログアウトするプレイヤーが渾然一体となり、周囲は賑やかに活気付いていた。

 そこに響く重なり合う笑いも、気だるげなあくびも、悔しげな叫びも、等しくこの世界を楽しんでいるのだろうな、と感じさせた。


(……私にもいつか、あんな風に一緒に遊べる仲間が出来るかな?)


 それはクラリスなのか、それとも他の誰かか。それはまだ分からないけど。


(出来たらいいな)


 少し、羨ましくなる。

 ううん……違うよね。羨ましい、で終わらせないようにがんばらないと。

 そんな事を考えていると……。


「なぁアンタさぁ、なんでそんなカッコしてんの?」


 いきなり話し掛けられた。

 ビクッと肩がすくむ。そもそも話し掛けられるなんて想定していなかったからだ。

 剣を佩いた男の人は私の前に突然立ち塞がり、顔をのぞき込もうと身を屈めてきた。


「なぁなぁ何で? くくっ」


 頭から爪先までを舐めるように見て、また尋ねる。その視線に嘲りが含まれているのは、誰に言われずとも感じられた。

 ジリッ、と足が後退る。


(な、何この人……む、無視しよう)


 とりあえず、初めて会う人に対する言葉遣いじゃない。親しげ、ではなく軽薄な話し方。ギラギラと装飾過多な装備も相俟って……気持ち悪い、とそう思った。そんな第一印章だったから、これ以上絡まれる前に人混みに紛れてしまおうと、もう一歩下がろうとした。


「おんやー?」

「ガルスードくんナンパ?」

「っ」


 下がろうとしたその方向から、またもこちらに向けられた声があった。


「ちっげーよ、見ろよコレ。初期装備だぜ、ひっさびさに見たんでさー」

「マジでー? うっわ、マジでしたよ、何コレウケる〜」

「だっしょ? ある意味レアだろ」

「縛りプレイかね? もしくはなんかのクエ? 無いわ〜」


 ……話し掛けてきた剣士の仲間なのか似たような雰囲気の2人が近寄り、私の周りを囲み出す。


「…………」


 私は俯いてしまう、その顔は怯えに曇っていると思う。だって恐かった。こんな、人を嗤う人たちは理解出来なかったから。

 けどそんな事をこの人たちが気付く筈も無く、ぺちゃくちゃとお喋りを繰り返している。


(何なのこの人たち……)


 私を囲んでいながら、そこに私はいなかった。なら、私がいなくたっていいじゃない。

 私は再び脇を抜けて立ち去ろうとする。


「あ? ちょ、何、まだ話の途中だろ、空気読めよ!」


 いつ話したのか、記憶に無い。また私の前に回り込み道を塞がれた。


「ガルスードくんフラれたwww」

「ちげぇー! 今時こんなちゃちい装備とか気になんじゃんよ」

「ま確かにそりゃそうだ、何でそんなオモロイ事になってんの? おせーてー」

「…………」


 それに対して、私は沈黙する。「ちゃちな装備」「オモロイ事」そんな言葉がひどく辛い。今まで何をしていたんだと自分の愚かしさを嘲られたようで……被害妄想であっても、辛かった。


「あ?」

「あーららー、黙っちゃったじゃん」

「ガルスードくんwww」


 周りにも人はいる、チラチラとこちらを伺う様子はあっても積極的に何かをするでもなく遠巻きに見ては過ぎ去るだけだった。

 期待があった訳じゃない、けどなんだか虚しかった。


「うっせ。……で? アンタいつまでダンマリ決め込んでるわけ? 人が聞いてんだからさっさと答えろよ」


 ガルスードと言うらしい人は上から見下ろしながら言ってくる。他も似たり寄ったりの態度だった。

 ため息。

 早く終わらせよう、それだけで口を動かす。


「……始めたばかりなだけです。あの、退いてください」

「あー、単なるニュービーかよ」


 退いてほしいと言う部分は聞こえなかったのか、ニヤリとそんな擬音が似合いそうな笑みを浮かべる。……気持ち悪い。

 彼らは目配せを交わし、再び私を見下ろす。


「なぁアンタ、見たとこ後衛だろ? 他のPTメンどこよ? まさかソロだったりすんの?」

「……そうです、けど」


 笑みがわずかに深くなる。ニヤリがニヤニヤになったような粘着質な笑みに。


「後衛ソロじゃ効率悪過ぎだろ? 俺らPT枠空いてるから入れてやるよ」

「嫌です」


 一呼吸も挟まない即答だった。自分でも驚くくらいに、それだけはするりと出た。でも確かに、それは有り得なかった。

 引っ込みはつかなくなったけど、言った事に後悔は無かった。


「……あ?」

「ひ、1人で十分ですから、必要無いです」


 答えに理解が追い付くとピクリと眉毛が震える。雰囲気が剣呑なものになるのが分かる。


「あー、何言ってんのアンタ? ニュービーってかマジ素人だろ、そんなんじゃまともにやれねーっつーの! 人が親切で誘ってんだから素直にハイハイ言っとけよ!」


 次々と飛び出す訳の分からない理屈に、本気でログアウトしてしまいたい欲求が首をもたげる。


「あの、退いてください」

「……はぁ? ナニサマだテメェ、ニュービーが逆らってんじゃねぇぞ!」


 ガルスードの右手が苛立たしげに私に伸ばされる。

 ……そう言えば、触れられる部位によってはセクシャルハラスメント認定されてGMコールウィンドウが自動で出るんだっけ、それとも触られたら悲鳴でも上げればいいのかな……そうなればこの人たちもどこかに行ってくれるかも……。


(でも、嫌だな。こんな人に触られるの……ほんとに嫌だけど、仕方無い。がまん、がまん)


 でも、結局それが実現する事は無かった。



 ――ヒュゴォッ、ッガンッッ!!



 瞬間、何かが私の目の前を右から左へと恐ろしい速度で横切っていき、そして大きな衝突音が続いた。

 わずかに遅れて、風が肌を叩き髪を乱す。

 驚いて一歩、右足が下がる。


「え……?」


 言葉は、どちらからだったろうか。双方、あるいは4人共でも不思議には思わない。

 伸ばされかけた手は半ばでその動きを止め、ガルスードは呆けた顔を晒していた。

 ぎこちない動きで左を見る。


 宿屋の壁、その前には何故か見覚えのある(、、、、、、)剣が1本、転がっている。


 どこだろう、どこで見たのだったろうか。

 頭の中で自問しているとやがて、その持ち主がやって来た。



「お姉ちゃんに、触ってんじゃ……ねえぇぇぇぇっっ!!!」



 ――怒号と共に。


 ……いやあの、まだ触られてないけどね。触られたらGMコールしてるし。

 ズダンッと私とガルスードの間に割り込み、私を守るように背に庇う小さな影。

 目の前に立つとても見慣れた大きさの、文字通り疾風の如くに現れた青い髪の少女。


「ク、ラリス……?」


 それでほっと安堵するのは、情けない限りだけどやっぱり怖かったからだろう。


「っ!? な、何――」



「黙れ、喋んな、今すぐあたしの視界から消えろ」



 そしてようやく思考復帰したガルスードに被せるように、クラリスは肩を怒らせながら低く低く重く重い声で告げる。まるで地獄から響くかのような、そんな声。

 その迫力は本当にこれが私の妹かと思わせる程に、強い。


「っ……ざけんな! 何だテメェ、調子ン乗ってんじゃねぇぞ、アァ!?」

「ちょ、落ち着けって、マズイって」

「あ?!」

「アレだよ、あの盾のエンブレム! あの娘“ヴァルエ”だぞ。睨まれたらヤバイって!」


 そう言われガルスードはクラリスの腕の盾に彫られた紋様を凝視する。確認したのか、顔を苦々しく歪める。

 周囲も流石に注目し始めており、明らかに非難の目をガルスードらに向けている。


「あそこ関わると面倒だぞ、知ってるだろ!」

「さっさと行こーぜ、ガルスードくん」

「――っ、くそ! テメェ覚えてろよ!」


 それに耐えかねてか、随分と安直な捨て台詞を残して慌てて逃げ出していき、すぐに周りの人ごみの中に紛れて見えなくなる。

 その様子を見届けて、知らずギュッと握り締めていた杖から力が抜けた。


「……クラリス?」


 そして後に残ったのは私たちのみ。でも颯爽と現れたクラリスはと言えば、いつまでも連中が去って行った方向を向いて唸っていた……唸っていた?!


「うううぅぅ〜〜!!」

「ク、クラリス?! もう居なくなったから、大丈夫だから落ち着いて、ね!」


 どうどうとなだめる。

 背中を撫でると次第にクラリスは荒ぶった気を鎮めていく。

 阿修羅像めいていた顔が(何とか)見れる程度に落ち着いていった。


「ひゃっ?!」


 そして私の方を向くと、がばっと勢いよく抱き付いてくる。

 ……何故か周囲から「おおっ!」っと歓声が聞こえるのはどう言う事なのかな。


「ちょっ、わっ、わわっ?!」


 突然の事態に私は勢いを殺し切れずに2、3歩ふらついた後にお尻から地面に崩れ落ちる。


「あいたっ」


 念の為HPを確認しても減った様子は無い。街の中ではダメージは発生しないらしい、でも衝撃はあるし痛みもあったりするのだけど……。

 体を離して顔をくしゃりと歪ませるクラリスを見れば、文句を言う気も失せてしまった。


「お姉ちゃん、大丈夫だった?! 変な事されなかった!?」

「あ、ああうん。絡まれただけですんだから……クラリスのお陰で、ありがとうね」

「良かった〜〜」


 はぁぁぁ、と盛大に詰めていた息を吐き、体の緊張を解いて安堵するクラリス。鎧が当たってちょっと痛いけど、思わず苦笑してしまう。


(フレンド登録しておいてよかった)


 こうして抱き付かれてもGMコールウィンドウは表示されていない。仕様では同姓の場合、多少の接触ではウィンドウは表示されず、フレンド登録した人の場合では条件は更に緩和される、とあった。どうやらこれくらいなら大丈夫だったみたい。


「クラリス」

「あ、うん。なに?」


 こてんと首を傾げる物凄くニコニコ顔のクラリス。いや、かわいいとは思うけどね。


「とりあえず。立ちたいからそろそろ退いて」


 注視していた周りの人たちは大分散っているようだけど、それでも込み合う時間帯ではあった。

 行き交う通行人たちがチラチラとこちらを見てくるので羞恥心にチクチクと刺さってしょうがない。


「えっ……?!」

「待って、そこは戸惑う場面じゃないよね?!」

「あ、あははは」


 クラリスは乾いた笑いを上げてようやく体を起こす、なんで「ちぇっ」とか言うかな……。

 ほんと今日は花菜にしてもクラリスしてもスキンシップが過剰だなあ……。


 先に立ったクラリスの手を借りて私も立ち上がる。必要かどうかは分からないけど、一応服の裾をパンパンとはたいておく。


「あ〜……ごめんね、押し倒しちゃって」

「ああうん、でも助けてもらったのは確かだし、これくらいなら……今更だし」


 ため息混じりに下げた視線にキラリとあるものが映る。


(ああ、そう言えば)


 すっかり意識の隅に追いやっていたけど、道に転がっている飛んできた剣を拾っておかな、い、とっ!?


 ――ずっっっしり。


「重っ! な、何でこんなっ?!」


 近付いて拾い上げようと柄と刀身を持った、のだけど……お米10?持つよりずっと重い、って、何なのこの剣!?

 あ、そっか! もしかしてこれが要求体値が高いって事なのかな……。

 確か武器だけでなく防具にもそれを装備するのに最低でも必要な体値が設定されている。

 例外は『初心者の○○』、つまり初期装備だけなので私は今まで感じた事がなかった。

 それが、まさか持ち上げる事すら出来ない程重いものだったなんて……。


「あはは、無理しなくていいよお姉ちゃん」

「え!?」


 その剣をひょいっと、いともあっさり持ち上げて腰の鞘へと滑らせる。


 ――シュラン、チィンッ。


 心地よい音を響かせて剣は定位置に戻る。

 それは随分と慣れた動作だった、きっと何回も何十回も、もしかしたら何百回も繰り返した動きなのかもしれない。


 剣を見る。

 一体私はああ言う風にまで何かに習熟するのにどれだけ掛かるのか。そもそも出来るのか。

 それはあまりにも懸け離れたクラリスとの差に思えた。

 足手まといにならなくなったら、そう約束したけれど生半可でどうにかなるものなのか……そんな風に思ってしまう。

 これは……なんだろう、漠然とした不安が胸の深い所にわずかづつ沈殿している感じ。


「お姉ちゃん? どうかしたの?」


 胸に手を当てて考え込んでいたのを見てクラリスが尋ねてくる。


「……ううん、使い慣れてるなと思って」

「? そう」


 とはいえ、それをクラリスに話すつもりは無い。折角仲直り出来たばかりなのだから、心配させたくはない。

 そんな私の態度が気になったのか、クラリスは指をあごに当てて頭に「?」を浮かべている。


 ……今はあまり深く触れたくない。何か他に話題を変えられないかな?

 何か何かと思案していると、ふと引っ掛かりを覚えた。一度それに気付けばどうにも気になり、折角なので直接聞いてみよう。


 そう思い口を開きかけた、その時――。



「おいクラリスー、いつまで俺らの事忘れてる気だー?」



 後ろからクラリスを呼ぶ声がした。振り向くと4人、女の子がこちらに向かって歩いてきていた。


「仕方無いよリンちゃん、あの時のクラちゃん話聞こえてなかったもんね〜」

「……相変わらず仲良し」

「クラリスらしいですけれどね。程々にとは思いますが」

「一度決めたら〜、ってぇのは嫌いじゃねぇんだがよ……周りが見えなくて危なっかしいぜ」


 ああ、そうかこの子たちが前にクラリスが言っていたお友達、かな?


「ええと、もしかして……」

「そうだよ、あたしの友達! 紹介するね、行こ!」


 クラリスは私の手を取って4人の所へ歩き出す。む、何だか緊張してきた。


「みんなー、お待たせー」

「お前が勝手に俺らを置いてったんだろがい」

「クラリス、お姉さんが心配なのは分かりますけど、飛び出す時は言って下さいね」

「……わたしたち、一蓮托生」

「いつでも力を貸すからね〜」

「あははー、ごめんごめん。ついねー」


 ごめんと謝ってはいるけど、どうにも反省はしてません、と顔に書いてある気がしてならない。

 その辺りは4人も分かっているのか、しょうがないなあ的な雰囲気がひしひしと伝わってくる。


 仲良しなようで微笑ましかった。



◇◇◇◇◇



 私たちはひとまず、ゆっくりと自己紹介する為にポータルの周りに設けられた広場へと移動していた。

 そこには所々に木々や芝生がありベンチなども作られていて、さながら結構な広さの公園みたいだった。



「じゃあ改めまして、この人があたしのお姉ちゃん! あたしのです!」

「なんだかニュアンスがおかしい気もするんだけど。はじめまして……でいいのかな? アリッサです。妹がいつもお世話になっています」


 座っていたベンチから立ち上がって一礼する。


「ああ、はじめましてだ。俺はリンゴ、堅苦しいのはパス! 呼び捨てでいいぜ」

「うん、分かった。よろしくね、リンゴ」


 まず返事を返してくれたのは、口調からして最初に話し掛けてきた娘だと思う。

 唯一ベンチには座らず傍の木に寄り掛かり胡座をかいている。 どうにもそういった仕草が様になる女の子で、カラリと言う表現がよく似合う快活そうな笑顔を向けてくれる。

 容貌はまず、橙と赤が混じってまるで炎のような印象のツンツン髪を後ろでポニーテールにしていた。ポニテと言うよりも何だか花火みたいになってるけど。

 そこから2本の角が生えていて少し驚いた。確か……『竜人族(ドラゴニュート)』だよね。

 身に着けた鎧は素材によるものか、ほんのりと赤い。多分髪の色と合わせているのだろう。

 左腕の1m近い大きな盾も同様の素材で、クラリスと同じ例の紋様が彫り込まれていた。

 そしてそんな中で一際目を引くのは背負っている柄のとても長い両刃の斧だった。

 その重さはクラリスの剣の比ではないと、見ただけで分かる程の重厚さを誇っている。



「私もはじめまして、です〜。名前はベルベットです〜、みんなからはベルって呼ばれますからアリッサさんもよければ〜そう読んでください〜」

「ありがとう、ベル。私もさん付けはいらないよ」


 私のものとは全然違う大きな魔女帽を脱いで胸の前に持ってきてゆっくりと会釈する。

 少しタレ気味の目は優しげ、と言うか朗らかな印象を受ける。

 蜂蜜色の髪は腰の辺りまでのみつあみ、そして髪から覗く長い耳で私と同じ種族、エルフなのだと分かった。

 服は若草色で統一されていて、長いマントとポリュームのあるバルーンスカートが、ファンタジーの魔法使いを強くイメージさせる。

 杖は金属製で、先に赤い色の宝石が取り付けられてるけど大きさ自体はかなり短い、教鞭くらい? 取り回しが楽そうだなあ。



「私はリアルでお会いした事がありますね、流石に名乗れませんが。こちらでの名前はフィンリーです。よろしくお願いしますね」

「こちらこそ、よろしくねフィンリー」


 丁寧に返してくれたフィンリーはこの中では一番身長が高い。その事で家にも何度も遊びに来てくれていて、私とも面識のある花菜と仲の良いお友達と確信する。

 フィンリーは肌が若干浅黒く、肩口まである濡れたような黒髪とよく合っていた。

 鋭く切れ長の目は知的な印象、口元には微笑を浮かべている。

 着ているのは一繋ぎのローブに見えた。ただ、私の物とは段違いに綺麗だった。

 白い生地に金の糸で細やかな模様が刺繍されている。

 それでもきらびやかさよりも、華やかさよりも、高貴さが胸に宿る……まるで位の高い神官を彷彿とさせるような雰囲気が彼女にはあった。

 これは神官服、と言われても納得すると思う、のだけど……

 腰に佩いているくすんだ色合いの実用一点張りなトゲ付き棍棒がやけに恐い、それに全部持っていかれていてそちらにばかり目が行きそうになってしまう……。



「……アリッサ、久しぶり」

「……ん?」


 ……?

 真っ直ぐに私を見詰めてくる黒ずくめの女の子と視線が交錯する。久しぶり、と言うからには面識があるのかな……でも、こんな喋り方の子っていたっけ?


「……今の私はミリアローズ、ミリィでいい」

「ええとミ、ミリィ……? その?」


 困ってクラリスたちを見る。


「アリッサ……お姉さんも面識はありますよ。ほら、私たちといつも一緒にいるあの子です」

「ミリィのはロールプレイだから、そういうもんだと思って気にしないで。慣れればどって事無くなるからさ」


 フィンリーとクラリスがミリィについて話してくれる。

 フィンリーと一緒に……なら多分あの娘かな、と見当をつけるけどミリィとは全然違う。


(それがロールプレイ、なの?)


 確か、このMSOのジャンルは“役割を演じる遊びロールプレイングゲーム”なんだっけ。

 ならミリィのも自分で自分に役割を決めて演じてるって事? そう言うのもこのゲームの楽しみ方の1つなのかな。


「ふうん……そうなんだ、改めてよろしくねミリィ」

「……無論そのつもり」


 コクリと頷くミリィ。

 その背丈は5人の中で一番小さい。

 濃い茶髪の両側から犬のような垂れた耳がある。『獣人族(ライカンスロープ)』の……えっと『犬人(ウェアドギー)』、だったかな。

 装備は軽装、全体的に黒で統一されている。上着は一見すると和服に近いけど袖が無い。腕は肘まで長い指貫の手袋を付けている。

 下は多分キュロット、両足はオーバーニーソックスと頑丈そうなブーツだった。

 首には長い長いマフラーを巻き付けていて口元は見えず、端が風になびいている。

 武器は腰の裏にちらりと見える短い刀、かな?

 イメージは多分忍者。



 4人の自己紹介が終わると自然と雑談へ移る。

 聞けばいつもこの5人でパーティを組んでいるそうで、リンゴとベルは前に遊んでいたオンラインゲームで知り合ったらしい。

 中には初対面の娘もいるのに私に気安く話し掛けてくれる。知り合いがいないこの世界ではとてもありがたい事だと思う。


 その後、折角なので私とフレンド登録をしようと言う話になった。


「あ、どうせだからお姉ちゃんから登録申請しようよ。まだした事無いでしょ?」

「そういえばクラリスの時は全部してもらったものね。これからの事もあるし、やってみようかな」


 未だにフレンドリストにはクラリス以外登録されていないし、今後全て相手方から申請してもらう訳にもいかない。レクチャーを受けられるのなら今の内にしておいて損にはならない。


「じゃ、まずはメニューを開いて[フレンド]を選んで次に[フレンド申請]を……」


 クラリスの指示に従うと、ウィンドウの横にはサブウィンドウが新たに表示された。



『【フレンド申請】

 PC[  ]

 ID[  ]


 [決定][取り消し][終了]』



「入力画面に移った? じゃあPCネームか、IDを入力して下の[決定]を選択すれば相手にフレンド申請が送られるよ」


 どれでもいいのなら、ひとまずは[リンゴ]と入力して送ってみる。



 ポン。


『【フレンド申請】

 [リンゴ]へフレンド申請を申し込みました。

 ※返答までお待ち下さい』



「お、俺か」


 リンゴの前にウィンドウが表示され、指先で操作をする。



 ポン。


『【フレンド申請】

 [リンゴ]へのフレンド申請が受諾されました。

 [リンゴ]がフレンドリストに登録されました』



 よかった、ちゃんと出来たようで一安心する。これでリンゴがフレンドになってくれたんだ。


「ああ、それと……これは実際に試してみましょうか」

「え、どうしたの?」


 フィンリーはベンチから立ち上がり、私たちから少しだけ距離をとった。

 そしてくるりと振り返ると私に向かって口を開いた。


「アリッサ、私にフレンド申請をしてみてください」

「??」


 よく分からないけど、何かしら意味がある事なんだろうから言われた通りに申請をしてみる。

 しかし――。



 ピー。


『【フレンド申請】

 申請可能圏内に[フィンリー]は見つかりませんでした』



「……ん?」


 あれ?

 名前間違えた、訳じゃないよね……表示はちゃんと[フィンリー]だし。圏内に見つからない……?


「どうでしたか? 申請が出来なかったでしょう」

「ええ。圏内には見つかりません、って表示されてる」

「はい、それがフレンド申請の範囲制限です」


 フィンリーは元の場所に座り直してそう言った。


「フレンド申請の際、PCネームでは半径2mまでが範囲で、それ以上ではIDを入力しないといけないんです。範囲内に相手がいないと申請が出来ないので気をつけてくださいね」

「へえ、そんな制限があったの……」


 取扱説明書もきちんと読んだつもりだったんだけど……もう一度読み返した方がいいかなあ?


「でも……そっか同姓同名の人がいたらこんがらがっちゃうものね」

「ふふ、そうですね。それだけでもありませんけれど……」


 「え?」と首を傾げていると横合いからクラリスが話し掛けてきた。


「そうだ、お姉ちゃん。注意してほしい事があるの」

「注意? 何を?」


 なんだろう。なんだかクラリスが真面目な顔で寄ってきた。


「IDの事。IDはなるべく教えないようにして。教えるとしたらちゃんと信用出来る人にだけにしなきゃダメだよ? もしID情報が拡散しちゃったら、どこの誰かも分からないフレンド申請が飛んできたりするかもしれないから」


 ……それは、ちょっと怖い。


「……さっきフィンリーが言ってた『それだけじゃない』のもそこ」

「あ、そっか。名前でのフレンド申請に制限が無いと同じように誰からも分からない申請が来たりするのね」

「はい。PCネームは簡単に知れますから。申請が容易な反面、範囲が狭く設定されているんです」

「聞いた話では〜、美形のPCが不用意に教えたIDが広まっちゃって〜、イタズラやストーカー紛いの被害に遭った〜、とか〜」

「エエエエ……デマじゃなく?」

「まぁ又聞きですけれど、無い、とは言い切れないのが怖い所です」


 そうなりたくなければ用心しなさい、と。


「そうなんだ。IDの変更とかは……」

「IDはPCで固定されています。変更したければ現在のPCを消すか、新規アカウントで新しくPCを作らないといけません」

「そうなったら自己責任、って事ですね〜」


 取り返しのつかない事態も十分に考えられるから今の内に釘を刺されているんだろうな。


「ま、普通はそうはなんねーぜ。普通に目の前の相手とフレンドになりゃいい話だかんな」

「……必要以上に怖がるような話でもない」


 それは、まぁ確かに……2m以内なら名前でOKなんだものね。

 でも、だとすると。


「ええとID見ておいた方がいいのかな?」

「そだね……って、まだ見てなかったの?!」

「だって、見る機会無かったんだもの」


 そう、IDID言っていてもまだ見てはいない。

 IDはキャラクターを作成した時に与えられるみたいだけど必要に迫られる事も無く、初日も復帰後も結局存在すら頭の片隅に追いやられていたのだから仕方無い。


「そうですね……今は別に知らなくても困らないでしょうから、ID情報を見る方法さえ覚えていれば問題無いと思いますよ」

「方法、って言うと……システムメニューの[パーソナルデータ]、だっけ?」


 こめかみに指をぐりぐりと押し当てながら、辛うじて簡素な記述のページを思い出す。


「はい。IDの他にも、総ログイン時間、敵の撃破数、死亡回数なども分かりますよ」


 死亡回数って……すごい単語、と思いながらウィンドウをスクロールして確認を乞う。

 ちなみにウィンドウは通常、他の人には灰色の板としか映らず、見れるのは自分だけだけど、左上に配置されている切り換えボタンを押せば可視化モードとなり、みんなにも見える。

 [パーソナルデータ]を開いてみると、確かにずらずらと各種様々な情報が記載されていた。どうもプレイの記録らしい。

 そして一番上にPCネーム、その下に数字とアルファベットの文字列がある。これが私のIDらしい。

 IDは数えてみるとアルファベットと数字が合わせて25桁もあった。間違いなく口頭では無理、と確信する。覚える気も無いのでさっさと残り3人のフレンド登録を再開する事にしよう。


 その後は自己紹介順にベル、フィンリー、ミリィとフレンド登録を済ませていく。

 ちなみにリンゴを一番最初にしたのは名前が短くて入力がし易かったから。


「これが難しい漢字だと手間取りそうだね」

「読み仮名でもOKだからそこまででもないよ」

「ああ、名前決める時にあったものね」


 そんな話も程々に、全員のフレンド登録は滞りも無く完了し、リストの登録数は一気に5倍にもなったのだった。


 …………5倍て。


「これでいつでも連絡出来るな。困った事があったらいつでも呼びな、力になるぜ!」

「ありがとね。まあ、出来れば困った事、なんて起きない方がいいんだけど……」

「備えあれば〜、って事だよ〜。もしもさっきみたいな目に遭ったら〜、とかね〜」

「……フレンドなら、当たり前。どこだって飛んでいく」


 みんなからの温かい言葉に嬉しくなってしまう。頬が緩んでもそれはもう仕方が無い、そう感じていた。

 でも、私はそんな中でいくつかの言葉にピクッ、と反応した。


 「さっきみたいな目に」?

 「飛んでいく」?


 頭の中で引っ掛かっていた事。その後の流れでうやむやになっていた事。

 一転、ぐるぐると思考を繰り返しても、やはり疑問として残るものがある。

 だから。


 きゅっ。

 クラリスの手首を掴む。


「お姉ちゃん?」


 突然の事に、クラリスは目を瞬く。他のみんなも、何事? とこちらに注視している。


「ねぇ、クラリス」

「う、うん?」



「クラリスはどうして、まだこの街にいたの?」



 そう、これを聞きたかった。

 そう聞いた途端、クラリスの動きが石のように固まった。びしっ、と言う擬音さえ聞こえそうだった。

 他の4人は目を逸らしたり、苦笑を浮かべたりしている……。


「どっ、どどどどうしたの急にっ!?」


 ギシギシとぎこちなく体を動かしている。

 ヒクヒクと顔をひきつらせている。

 キョロキョロと視線をさ迷わせている。


 その様子は、まさに挙動不審と言う表現がぴったりだった。


「ん? だって、もう拠点は別の街だったんでしょう。それなのに2時間近く何をしていたのかな、って気になったんだけど……」


 にっこり、と微笑む。

 微笑んで見えているかは分からないけども。


「たっ、たまたま街をぶらぶらしてましてっ! そしたらお姉ちゃんがピンチなものだからビックリですよ!」

「ああ、そうなんだ」


 頷く。

 なるほどなるほど、たまたまかー。


「そうそう! や、やだなーもー、お姉ちゃんったらー」

「あはは、そっかー……じゃあ」



「別に私の後をつけ回してた訳じゃないんだ?」



 その言葉が紡がれた瞬間、瞬きの一つすらないタイミングでクラリスは私の手からするりと抜け出して、脱兎の如くに風を切って人ごみの中へと駆け出していった。



「だってお姉ちゃんが心配だったんだよ〜〜〜〜っ!!! うええぇぇ〜〜ん!!」



 街にそんな叫びを響かせて。



◇◇◇◇◇



「みんなも一緒だったの?」


 クラリスが走り去った後、一番足の速いらしいミリィが追い掛け、残された私はリンゴ、ベル、フィンリーの3人に事情を聞いていた。


「ええ。夕方に先に落ちた事を謝りに、後は大まかな説明の為に来まして」


 夕方に、と言うと私が連絡を入れた時か。クラリスはあの時、この娘たちとどこかに行っていたようだ。


「その後クラリスが、アリッサが心配なんで尾こ……げふんげふん、影から見守るー、なんて言い出しちまってよー」

「いや〜……止めても止まらなそうだったから〜、私たちもつい乗っちゃってね〜」

「悪乗りが過ぎましたね。クラリスの熱気に当てられたのでしょうか……」


 3人はバツが悪そうに苦笑する。


「ああ、それは別にいいの。心配される程度の力と知識しかないのは自覚しているつもりだし、あの醜態を見られていたのは少し頭が痛いけど、実際助けられた身としては文句も無いもの……ただ」


 私はクラリスが駆けていった方向を見つめながら呟く。


「もしも尾行なんてしていたのなら、一度釘を刺しておかないと毎回、は言い過ぎだとしてもまた繰り返す気がしてね……」


 ふう、と嘆息する。

 クラリス……花菜が好いてくれているのは素直に嬉しいのだけど……あの子は時折、たがが外れたようにはっちゃけてしまう。

 行き過ぎる時は言わないと段々とエスカレートするのは経験している。


「で、でもでも〜。でも、ね〜……今日のは何てゆ〜か〜……あれだよ〜? 久しぶりにはしゃいじゃった〜、みたいな感じだったんだよ〜。アリッサと仲直り出来て〜、嬉しかったんだよ〜」

「だなー。アイツ、どうにも不完全燃焼っつーか、空元気っつーか……そんな感じでよー。俺らもなんとか出来ねーもんかと思ってたんだよ」

「それで、私たちクラリスが元気になったのが嬉しくて……」


 その勢いに感化されちゃった、と。

 ……やっぱりこの子たちも、ここ最近のクラリスを心配してくれてたんだ。


「ですから、あの、あまりクラリスを責めないであげてほしいのですが……」

「少しすりゃ落ち着くだろうしよ、な!」

「私たちも気をつけるから〜、ね〜。許したげて〜」


 クラリスを案じてくれる3人に嬉しさと、ありがたさを感じる。もしかしたら、仲直りもこの子たちがいなかったら上手くいかなかったかもしれないなと、なんとなくそう思う。


「……心配を掛けてごめんなさい。でもありがとう、心配してくれて」

「二度はゴメンだぜ」

「大丈夫、ちょっと注意しただけだから。フォローくらいはするつもり」

「怒ってませんか?」

「どちらかと言えば呆れてる」


 ぷっ、と誰ともなく吹き出す。

 なんと言うか、湿っていた空気に風が吹いたような、そんな雰囲気だった。知らず強張っていた体をだらりとベンチに預けていた。


「さっきの、気をつける、って言ったの信用するからね?」

「あいあい、了解〜」

「でも、たまにゃ構ってやってくれよな。主にとばっちりがこっちに来ないようにさ」

「……勿論、前向きに検討します」

「その間は何ですか!?」


 あはは、と何気なく笑っているとリンゴが何かに気付いたように不意に口元を歪めて指先を隠しながら私の横へと向けている。

 ベルとフィンリーはそれで分かったのか、顔を背けたり俯いたりしながら笑いを堪えている。

 私は一瞬何事かと考え、今この時にこんな反応を示すなら、それは――。


(クラリス、だよね)


 恐らくは尾行がバレた上に逃げ出してしまい、出るに出られなくなっているのでは、と推測する。

 振り向くとまた逃げるかもしれない、さてどうしたものか……?


 少しばかり考え、私はメニュー画面を開く。

 目的はクラリスにメールを送る事。

 突然システムメニューを操作し始めた私を周りの3人は興味深げに見つめている。


 手早く文面を書き終え、そのままメールを送信してしまう。



『【メール送信】

 作成したメールを[クラリス]に送りました』



 無事に送信された事を確認した私はベンチから立ち上がり、まず3人に伝えておく。


「じゃあ私はそろそろログアウトするけど、あなたたちは?」


 それを聞くや、きょとんと目を瞬く3人。

 ちなみに時刻を確認したら既に11時を過ぎ、予定を随分とオーバーしてしまっている。

 最初に復帰したのは意外、と思うのは失礼かもだけどベルだった。


「え、えぇと〜……もう少しいる〜、かな〜?」

「そう、余り遅くならないようにね」


 そう言いながら、今度は背後に振り返って、多分その先に隠れているだろうクラリスに向けて言葉を紡ぐ。


「クラリスー! 夜更かしは程々にしなさいよー!」


 見れば5mくらい離れた木にクラリスが隠れていた。が、木は割と細く顔は半分が見える上に足とお尻がにゅっ、と飛び出た頭隠さず尻隠さず状態だった。

 私のメールを読んでいたのか、ウィンドウが見える。代わりにこちらには気付いておらず、声に驚いてビクッ、と飛び上がっていた。


 追いかけていったミリィはと言えば隣に普通に立っていた。生温い視線クラリスに向けていた。

 なるほど、笑いを堪えるのもよく分かる。


「え、あぅ、お姉ちゃん!?」


 クラリスは慌てたようにウィンドウと私へ、顔を交互に行ったり来たり。

 その隙にシステムメニューをスクロールして[ログアウト]を、続いて選択肢ウィンドウの[Yes]を選ぶ。

 宿屋以外でもログアウト自体は出来る、ただ睡眠度回復はしないけど。まだ6割以上残っているので余り気にしなくてもいいか|(大前提としてお金が無いのがあるけどね)。


 すると私の足下に白い円が描き出され、その円から光の粒子が立ち上る。視界が徐々に白く染まっていく。

 その向こうには驚いているクラリスが見える。


「お姉ちゃん! あたしも、あたしも――」


 その声はフィルターが掛かったようにぼやけている、それは次第に強くなり後半は殆ど聞こえない。

 聞きたくない訳じゃない。でも、まあ気恥ずかしい。



『私、きっと見違えるくらい強くなるから、楽しみにしていて。

 だからそれまでは、信じて、先に行ってて』



 なんて、恥ずかしいメールを送っちゃった身としては、頬が赤くなってないなんて、これっぽっちも思えなかったものだから。


 失踪する影。その名はクラリス。

 ……うん、アホなサブタイであった。

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