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第84話「君はこれからどうなるだろう」




 明くる日の朝……10時過ぎって朝かな……ようやく花菜が起床し、2階から降りてきた。


「おふぁよ〜」

「早くない早くない」


 寝ぼけ眼の花菜はリビングにいた私にもたれ掛かってきた。


「何してるのー……ぐっは!? 目がっ、目が潰れるっ!? 退けて退けてー! あたしのピンチだよ! 助けてお姉ちゃん!」

「ああもう勉強の邪魔しないの!」


 みんなとの集合時間まで勉強に精を出そうと張り切っていたと言うのに、花菜の所為で中断させられてしまった……。

 花菜はやっと落ち着いたのか私の膝を枕に寝直している。


「昨日はちゃんと勉強出来たの?」

「――」


 そう聞くと花菜はあわあわと顔を青ざめさせる。その目には涙すら溜まっている。


「えっくえっく、勉強したにょー。でもゲーム出来なかったにょー」


 ゲームしていないのにこの時間となると、それだけ勉強で疲弊してたか。


「お姉ちゃん褒めれー」

「はいはい、がんばったねー」

「褒められらー」


 ゴロゴロと猫みたいに気持ち良さそうに撫でられるがままになる花菜にしばらく付き合うと「あたしには今ゲーム分が足りない」と昨日のプレイ報告を求めてきた。

 「前半は勉強してた」と勉強内容を詳細に答えようとしたら花菜が瀕死の重症に陥りかけたので古の城塞の話に移る。


「ああー、あそこかー。ゴーレムばっかり出てくる……って事はお姉ちゃん、割と無双中?」

「そんな事無いよ、基本は天丼くんとセレナから繋いでもらっているだけだし、それにしたってセバスチャンさんのバフがあるからギリギリなんとかなってるんだもの。花菜はどうだったの? 物理攻撃とは相性が悪いみたいだけど」


 クラリスの武器は2本の剣だ、であるなら古の城塞に出現する金属製のゴーレムには苦労したんだろうか?


「んー、あたしたちの場合はフィンちゃんにバフってもらって、剣を物理から光属性ダメージが出せるようにしてもらったからね。硬くはあったけどベルベルの法術もあったし、苦戦する程じゃなかったかなぁ」

「そっちも似たような感じかあ」

「基本的な戦い方だもーん」


 〈ライトフォース〉は光属性法術のレベル8スキル(各種属性法術にも同様のスキルは存在する)。武器や防具に一定時間光属性を付与すると言う効果であり、ダメージの属性が物理ではなくなるので物理攻撃に対して異常に高い防御力を誇る古の城塞に出現する金属製のゴーレム相手なら実に有効に機能する。

 フィンリーはそれを自身の武器に用いて攻撃するスタイルだと聞くので、他の武器攻撃をするメンバーにも使用したんだろう。


「でもあたし、今ならソロでも楽勝ですよ」

「そうなの?」

「えっへんぷい」


 花菜は自慢げに胸を張った。この子の事だからゲームに関しては間違う事は無いと思うので本当なんだろう。

 それだけ花菜と差があると言う事でもあるんだけど……1ヶ月の差はそうそう埋まってはくれないのかな……んー……。


(……私でもやれるかな?)


 戦闘向きでないセンサーゴーレムやポップゴーレムなら何とかなるけど、ソード・シールド・アーマーとなると簡単にはいかない。

 遠距離からならばどうにかなるかもしれないけど、あの無駄に曲がり角の多いダンジョンだとあまり距離を取ると他のゴーレムとかち合う場合も考えられる。


(……ある程度は接近しなきゃいけないとなると……う〜ん)


 もし戦うとなると《古式法術》の特徴であるスペルの詠唱がネックになる。

 それを回避しようとすればスペルカットの使用も念頭に置く必要がある。

 やるなら事前に待機状態にしたスキルをリリースしてスペルカットで次のスキルを使う……くらいかな。


(いえ、ソードゴーレムくらいならそれでどうにかなるとしてもシールドゴーレムとなると……)


 などと様々なパターンが頭をよぎる。

 もちろん今回は急がないといけないから考えるだけなんだけど、こうした思索もいずれ何かしら役立つかもしれないのだからしない理由も無い。

 そう考えていると不意に少し苦笑してしまう。


(時間があるとたまにこうして考えるけど……私もずいぶん変わったなあ)


 以前ならここまでゲームに熱中する事も無かったのに、この子の思惑通りに毒されているのかと、そんな風に思ったのだ。


「ん?」

「もじもじ、そわそわ」


 目を向けると膝の上から私を見ていた花菜が何やらもじもじと体をくねらせていた。


「花菜、どうかしたの?」

「えうえう。お姉ちゃんが真面目に考えてる顔に思わず胸キュンしちゃったのです」


 「きゃー」と両手で顔を覆い、ゴロゴロと回転して床に落下した花菜。相変わらずどう反応していいのか分からない子であった。




◆◆◆◆◆




 錯乱した花菜をなだめた後にMSOにログインすると直立姿勢で目を開ける。

 そこは室内ではあったけど一部土が剥き出しになった場所、そこからは朽ちた木が老人の腕のように生えている。

 ベンチやテーブルの残骸も散見される……もしかしたらかつては憩いの場だったのかもしれないけど、今はただただ寂しさだけを伝えていた。


 ここは古の城塞のボスモンスターであるギガンティックゴーレムのいた地下2階に程近いセーフティーエリア。

 昨夜は時間も押していたので戦闘の後にそのままここでログアウトした。


 左右を確認するけど……周囲に誰かがいる気配は無い。遠くから機械の駆動音が代わり映えも無く響くばかり。


(ボーイくんは……やっぱりいない、か)


 私たちの味方をしてくれるポップゴーレムのボーイくんの姿は無い。

 彼が味方として参加するイベントは昨夜パーティーリーダーだったセレナが起こしたものだから彼女がいなければボーイくんも姿を現さないんだろう。


「さてと」


 とりあえずみんなを待つとしてもここは薄暗いので〈ライトアップ〉で灯りを点した。

 普段私は杖の上で待機させて使っているけど、今日は少しやり方を変えよう。


「ん〜、あそこがいいかな。リリース」


 まだ形を保っているベンチの傍に生えている枯れ木の枝に向けて〈ライトアップ〉を放つ。すると光球は枝に当たり、そのまま光を放ち続ける。擬似的なスタンドの出来上がり。

 文字通りライトアップされたベンチに腰掛ける。


「ちょっと心許ないけど……無いより良いよね。次、〈サモンファミリア〉、“おいで、ひーちゃん”」

『キュイッキュ!』


 明るくなろうとさすがにここに1人では寂しくて私はひーちゃんを召喚した。

 昨日はずいぶんとがんばってお疲れモードだったけど、今日はもう元気一杯だ。


「そう言えば……昨日だけでひーちゃんずいぶんレベルアップしてたよね」

『キュ?』


 私の膝を占領しているひーちゃんは疑問符を浮かべてこちらを見ている。

 昨日のギガンティックゴーレム戦の後に表示されたウィンドウではひーちゃんのレベルアップも書かれていて、それによれば現在は25レベルにまでなっていた。


『キュイッキュ〜』

「はいはい」


 私の膝の上でゴロゴロと転がるひーちゃんをなでなでする。相変わらず元気で愛らしいものだけど、ここ最近の活躍によりずいぶんと頼もしくなった。

 ひーちゃんのような『小精霊』と呼ばれるタイプはレベルアップに必要な経験値量が少ないのだとセバスチャンさんに聞いたけど、それでも1レベルだったひーちゃんが(見た目は変わらないけど)立派になるのは嬉しく思える。

 やはりひーちゃんは私の自慢の友達なのだ。


「レベルが上がったならそろそろ……ひーちゃんはどんな風になるんだろうねー」


 昨夜セレナがボーイくんの処遇を巡り、悩んでいた時の会話が残っていたからだろう。私はそんな呟きを漏らしていた。


 モンスターを手懐け(テイムし)て仲間とする使い魔(サーバント)

 そしてひーちゃんたち精霊と私たちが契約を交わした契約精霊(ファミリア)


 サーバントがレベルアップによってより強力な姿となるエヴォルヴと言う現象を行うように、ファミリアにも『メタモルフォーゼ』と呼ばれる変化が起こる。

 メタモルフォーゼ。変化、変態の意味する通りに条件の整った精霊はその姿を変え、まったく別の姿となる。

 が、“別の姿に変わる”と言う共通点こそあれ、メタモルフォーゼの最大の特徴はそのランダム性にある。

 ひーちゃんのような小精霊ももちろんメタモルフォーゼするのだけど、いつどんな姿になるのかは正直不明瞭な部分が多い。

 同時に契約して同じように育てても異なる姿となった、と言う情報を読んだ覚えすらある。


 例えばエヴォルヴは、それまでの戦闘で攻撃を主眼にしていればよりその方面に適した能力を持った種類のサーバントになる。

 関係性では属性法術におけるエキスパートスキルに近い。

 それはそれまで培ってきた戦い方を継続する事が可能と言う事だけど、ファミリアだとまったく違う能力となる場合も有り得る。そうなれば戦い方を一から考えなきゃいけなくなる。


 一方で変化がランダム故に特殊な能力を持つファミリアにメタモルフォーゼする可能性があるなど一概に優劣は計れない。


(ひーちゃんがどんな姿になるのか、楽しみなような不安なような……)


 そんな不安を抱くくせに私がファミリアを選択したのには理由がある。


 ファミリアの場合、召喚時に消費したMP分は召喚中は回復しない。消費分はファミリアを維持する為とされているからだ。

 そして、ファミリアがスキルを行使する場合もMP消費は召喚者であるPC側が受け持つ事になる(こちらは即座に回復が可能)。

 MP総量次第ではPC側のリソース(MPなどの消耗するポイントやアイテムの総称)を圧迫する場合もあるものの、逆を言えばMPをしっかりと管理出来ればファミリアは常時自由にスキルを使用出来ると言う事でもある。


 これがサーバントの場合だとMPは独立しているのでPC側のMPが減少した状態でも影響を受けない(それこそPCとサーバントが交代しながら戦線を維持する、なども可能)と言うメリットを持つが、こちらにも問題はある。

 サーバントは元々モンスターであり(一部例外はあれ)生き物である。モンスターは傷を癒すのに自らの好物を食べると言う行動を取っているけど、それはサーバントになっても変わらない。

 彼らにはPC同様に空腹度と睡眠度が存在し、専用の食事を取る事でHPとMPを回復する。

 ただし、PC用のポーション類では体調を崩す場合などもあるらしいので注意しないといけない(ファミリアの場合は供給するMPがごはんみたいな物なので食事は必要無い)。

 そんな事情もあり、サーバントの使役は実際に生き物を飼うのに近いのだとか。


 私の場合は《MP強化》の加護などもあって比較的潤沢なMPを有していた事。

 加えて、情けない話ではあるけどサーバントの食事を用意出来るだけの金銭的な余裕が当時無かった、と言う事情があったので《精霊召喚》を取得する事とした。


(思えばなし崩しな気がしなくもない……)


 とは言えひーちゃんと巡り会えたのなら棚ぼたもいい所かと納得する。


「ひーちゃん、急がなくていいから好きな姿になってね」

『キュ?』


 分かっていなさそうな様子で、ひーちゃんはまたゴロゴロと甘え出すのだった。


(さてさて、みんなが来るまでは勉強をしておこう)


 私はシステムメニューから[メール]を開いて教科書のデータを呼び出す。

 さすがにこの体勢ではノートを開くのは難しいので今は暗記だけにしておく。



◇◇◇◇◇



 硬質な金属の音、ヒールの甲高い音、そして革靴の驚く程静かな音。

 3つの足音がさして広くもない廊下に響き渡る。私たちは今、猛烈な勢いで昨日来た道を引き返していた。

 何故3つか、と問われれば、またもやセレナにお姫様だっこされている私と、セバスチャンさんがおんぶ中のボーイくんが差っ引かれるから。文字通りのお荷物状態だった。


「何と言うかこの移動方法がデフォルトになりそうで恐い」

「『そう思うんなら加護でも取得したら? 手っ取り早く足が速くなるわよ』」

「『ぬう、そうなると万が一わたくしがアリッサさんをお姫様だっこすると言う夢が潰えてしまうではありませんか。おお困りました』」

「『マジかよ正直に言いやがった、セバさんマジパネェ……』」


 などと軽口を叩きながらも、ゴーレムへの警戒は続けている。私とボーイくんの為に、セレナは大鎌を使えず、セバスチャンさんはヴァイオリンを弾けない。

 なので少しでも戦力を整えようと天丼くんの剣と盾に〈ウィンドフォース〉を掛け、私も杖の先に法術を待機させている。

 ひーちゃんの〈ファイアブースト〉のお陰で天丼くんとの連続攻撃でもなんとかなっている。


 私たちが目指しているのはゴーレムの製造区画。目的はボーイくんが今セットされている歯車A・B・Cではなく本来セットされている筈だった『すごい歯車A』『すごい歯車B』『すごい歯車C』を入手する事。


 そう、私たちが選んだのはこのイベントのグッドエンドルートだった。その為に新たな歯車の入手に全力を傾けていたのだ。


 それには製造区画にいる『メガ・ソードゴーレム』『メガ・シールドゴーレム』『メガ・アーマーゴーレム』のドロップアイテム『ゴーレムの金属片』を入手し、製造区画の設備を用いて歯車を作らなくてはならない。

 しかもその後はフィエスラ湖へと向かわねばならないのだから猶予はあまり無い。


「『前方の曲がり角、右から来るぞ。音からしてソードゴーレムだ。アリッサ、先制攻撃任せた』」

「了解」


 前方にはT字路、天丼くんは私たちよりも向こうからやって来るソードゴーレムの方が先にT字路に差し掛かると判断したんだろう。

 私はT字路の右側にターゲットサイトを出現させて、タイミングを図る。そして赤色になった瞬間――。


「〈ターゲットロック〉、リリース!」

『キュイッキュ!』


 〈サンダーマグナム〉の2連発とひーちゃんが飛ぶ。バガン! それらは何の警戒もしていなかったソードゴーレムを横合いから叩く。仰け反った隙を逃さず、駆け寄った天丼くんがスキルを放つ。


「『〈シールドバッシュ〉! 〈ダーティエッジ〉!』」


 崩れた体勢に追い打ちをかける盾による打撃〈シールドバッシュ〉、そこへ下方から剣を振り上げ突き刺す〈ダーティエッジ〉が続きソードゴーレムを撃破する。

 ウィンドウをすぐさま消し、私たちは更に足を速める。


 ゴーレムの製造設備のある区画は地下1階にあるけど、ギガンティックゴーレムのいた地下2階へ向かうルートとは別で、私たちはまず地上1階にまで戻らなきゃいけない。

 行きではそれなりに時間を掛けたら道程を一足飛びに駆け戻り、地上1階にまで差し掛かり、セバスチャンさんの的確な指示の下駆け抜ける。

 結果として目的地である3体のゴーレムのいる場所に辿り着くまでには15分程度しか掛からなかった。


「『っしゃあ! 山場よ正念場よ天王山よ! 野郎共気合い入れなさい!』」

「『やる気十分ですな。いや、眩しい』」

「『やる気だけはな』」


 私を降ろし、大鎌を実体化させるセレナ。ボーイくんを降ろし、ヴァイオリンを実体化するセバスチャンさん。3人の中では最も重装備で走るのが苦手ながら必死に先頭を守ってくれた天丼くんは息を整えている。


「『では皆さん、準備は宜しいですな?』」

「はいっ」「『ばっちり』」「『おう!』」


 ゴウン…………ッ。

 ギガンティックゴーレムの時と同じく、ボーイくんが入り口を開く。


(これで歯車を手に入れないと先に進めなくなった、か……)


 ボーイくんの胸の歯車は門を開く度に負荷により壊れてしまう。ダンジョンを突破するには最低2回門を開かなきゃいけないから新しい歯車の入手は必須となった。

 上階の倉庫にはまた歯車もあるだろうからそれを取りに行く事も出来はする。

 でもと頭を振る。

 すごい歯車を作ればいいんだから弱気になるな、と不退転の覚悟を決める。


 内部に入ると照明が次々に点灯し、体育館程もある内部を照らし出す。

 製造区画の端に位置するここにはそれぞれのゴーレムの強化型が出現する。

 分類としてはフロアボス、単体でも相当な強さらしいのにそれが同時に3体。油断は出来ない。


 奥に黒い靄が集まりギガンティックゴーレム同様に3体のゴーレムが形作られていく。

 そしてゴゴゴ……と重低音を響かせながらゴーレムたちが動き始める。


 1体は細身で全身が刃のように鋭く尖っていた。

 1体は両手が厳のようにゴツゴツとした盾だった。

 1体はそれらよりも一回り大きな体躯を誇っていた。


 どれもがこれまで戦ってきたソード・シールド・アーマー、どのゴーレムより迫力に満ち満ちていた。


「強そう……」

「『そりゃね。けど、勝つ』」

「……うんっ」


 全身を振るわせたゴーレムたちから衝撃波が放たれ、戦闘が開始される!


「『ソードは任せるわよ。アリッサ、セバスチャン!』」

「『お前こそヘマすんじゃねぇぞ!』」

「『誰に向かって言ってんの!』」

「『ではわたくしも行って参ります』」

「みんな、気をつけて!」

『キュ!』


 戦闘開始直後、私たちはバラバラに動き出す。

 今回はゴーレムが3体同時に現れる、それらの攻撃をすべて天丼くんが受け持つのはさすがに無理がある。そこでセバスチャンさんが提案したのが各個撃破だった。

 それは天丼くんがメガ・シールドゴーレムを、セレナがメガ・アーマーゴーレムを引き付ける間に、私とひーちゃんとセバスチャンさんがメガ・ソードゴーレムを倒してしまうと言う物。


「――風の衣”! 〈コール・ファイア〉……」


 セレナへ〈ウィンドフォース〉を飛ばし、スペルの詠唱を開始する。その間もみんなはそれぞれのゴーレムと戦いを繰り広げている。

 防御を中心にスキルで散発的な攻撃を防ぎ切る天丼くん。

 ひらりひらりと軽やかな動きで回避し、隙あらば反撃すらするセレナ。

 そして最も攻撃の苛烈なメガ・ソードゴーレムを避け続けるセバスチャンさん。


「リリース!」

『キュキュイッ!』


 2発の法術とそれを増幅するひーちゃんがメガ・ソードゴーレムに命中する。ゴーレムのHPはそれぞれ異なり、メガ・ソードゴーレムが最も低い、今の調子ならおおよそ30回程度の攻撃で倒せると思う。

 本来はそれを補う為のガード役たるメガ・シールドゴーレムは天丼くんだけど、攻撃を繰り返してヘイトを自分に集めつつ、メガ・ソードゴーレムとの距離を離し、また攻撃を受けていても近付けないように間に入って妨害していた。


(ありがたい、セバスチャンさんの連携を崩すのが時間を掛けずに倒す近道って言葉は本当だ)


 でも、そうして私が攻撃を続ければヘイトが上昇し、私を標的に定めたメガ・ソードゴーレムがこちらへ迫る!


「『アリッサさん!』」

「大丈夫です、そちらは予定通りに! ひーちゃん、逃げるよ!」

『キュッ』


 私には天丼くんみたいに攻撃を防ぐ事も、セレナやセバスチャンさんみたいに避ける事も難しいけど……出来る事はある。


「〈ダブル・レイヤー〉、“汝、虹のミスタリアの名の下に我は乞う”! “我が意のままに形を成し、魔を討つ光の一欠を、この手の許に導きたまえ”! “其は、悪しきを戒めたるもの”! “輝け、光の縛鎖”!!」


 ジャラララララッ!


『グゴゴ……ッ!』


 相手の動きを止めるくらいなら出来る……!

 メガ・ソードゴーレムの足下から伸びる光の鎖がその進撃を許さない。


 パンッ♪ポンッ♪ピンッ♪


 そんな身動きを封じられたメガ・ソードゴーレムの背中にはセバスチャンさんの連続音撃〈リズミカルスコア〉が当たっている。

 〈ヴィヴィッドスコア〉が曲の終了と共に一斉に殺到するのに対し、〈リズミカルスコア〉は演奏に合わせて五線譜が対象まで伸びてそこを流れるように音符が通過して次々と対象に当たってダメージを与えるスキル。

 途中で中断も出来る上に、連続で当たる攻撃はコンボと呼ばれ、当たる毎にわずかながら与えるダメージとヘイトが上昇していくと言う。

 セバスチャンさんの早弾きならばそれこそ雪だるま式に増えていく事だろう。

 間断無い連続攻撃なんて私にはとてもムリな芸当だと感心していると妙なる調べの合間に不吉な音が聞こえた。


 ――ビキッ!


 それは〈ライトチェイン〉にヒビが走る音。〈コール・ソイル〉で耐久力を底上げしても高い攻撃力を誇るメガ・ソードゴーレムからすれば細い糸でしかない。

 再申請時間が終わるまで逃げられる程私の足は優秀じゃない、だから次の手を打っている。


「〈ダブル・レイヤー〉、“汝、虹のミスタリアの名の下に我は乞う”。“我が意のままに形を成し、魔を討つ聖なる一欠を、この手の許に導きたまえ”“其は、弱者を守りし天の(がい)”“現れよ、泡沫の楽土”。“導け、聖なる障壁”!」


 ――キィィンッ!


 光がメガ・ソードゴーレムを中心にドーム状に展開していく、《聖属性法術》の〈プロテクション〉だ。

 バギンッ! 私のパラメータに基づいて設定されていた耐久値を、メガ・ソードゴーレムの攻撃による累積ダメージが超過した為に甲高い音を立てて〈ライトチェイン〉が破砕した。


(けど、間に合った……!)


 〈プロテクション〉はまるで鳥かごのようにメガ・ソードゴーレムを閉じ込めている。私を攻撃したいなら今度はその光のドームを破砕しなくてはならない。

 以前影擬きに使ったのと同様に、これで移動が制限出来る。

 しかもセバスチャンさんの攻撃はドームを無視してメガ・ソードゴーレムに届くので安心安全。


(上手くいって良かった)


 ほっとひと安心。

 チェイン系と〈プロテクション〉を交互に使用して相手を封じ込める。これはずっと考えていた事だった。

 特にチェイン系がひとまとめになり、再申請時間が重なっちゃって以前のように連続して使用出来なくなってからは。

 影擬き戦では〈プロテクション〉だけで持たせてたけど、それも注意を引いてもらってこそ、もし1人で……となれば足止めはどうしても必要になってくる。

 だから修得レベル帯が異なるチェイン系と〈プロテクション〉を交互に使えればと考えたんだ。


 私はメガ・ソードゴーレムがその刃を〈プロテクション〉のドームに叩き付ける音を聞きながら距離を取る。

 ギリギリだけどこれならチェイン系の再申請時間までは持ちそうだし、もしかしたらセバスチャンさんへのヘイトが溜まり攻撃目標を変えるかもしれない。そうなれば今度は私が攻撃に戻り……を繰り返す。


「む?」


 そう思っているとメガ・ソードゴーレムの動きが鈍り始めている。見れば私が6割程度まで削ったHPは2割近くまで減っている……そして。


「あの、セバスチャンさん。何だかゴーレムが睨んでますよ?」

「『ふむ。そろそろ攻守交代のようですな。いやはや、アリッサさんの封じ込めのお陰で中々に演奏を楽しめました』」

「それはどうも、じゃあまたよろしくお願いしますね」

「『ええ、後はお任せ下さい』」


 ――パキャァンッ!

 その言葉が合図だったかのように光のドームが粉々に砕け散る。メガ・ソードゴーレムは目標を変え、私の真向かいでヴァイオリンを奏でているセバスチャンさんへと向かっていく。

 〈リズミカルスコア〉が止み、セバスチャンさんは攻撃を避ける事に専念し始めた。


「“汝、虹のミスタリアの名の下に我は乞う”――」


 その間、私は周囲の2人の様子を観察する。パーティーチャットからはスキル名が散発的に聞こえていて致命的なダメージは受けていない事だけは分かっていたけど……。


(天丼くんは結構HPが削られて……あ、ポーション飲んでる)


 攻撃頻度の低さが幸いして、防御中心にしてる天丼くんはまだ余裕がありそうだった。


(セレナは……大丈夫、なのかな?)


 セバスチャンさんに負けず劣らずの攻撃に晒されているセレナ、既に〈ウィンドフォース〉は切れていて回避をメインにしているよう、HPはまだ多いし平気と思う。


(なら、早くこちらを……!)


 目を戻す。セバスチャンさんは身軽に動き回って苛烈な攻撃の大半を躱している。

 両腕を槍のように鋭く伸ばし、何度となく突き出しているメガ・ソードゴーレムはしかし、足を止めている事で狙いやすい。


「リリース!」

『キュキュイッ!』


 ――ドドンッ!

 背中に直撃を受けたメガ・ソードゴーレムはこちらをギロリと睨む。ヘイト値の差はあまり無かったのか、1回の攻撃で標的を変更してきた。


「ッ!」


 HPがほぼ尽きかけのメガ・ソードゴーレムはセバスチャンさんに背を向けるのもいとわずに右の腕を引き絞る。


『アリッサさん、〈プロテクション〉を!!』

「せ、“聖なる障壁”っ!」


 セバスチャンさんの指示に促されるままにスキル名を唱える。万一の時の為にスペルカットに登録しておいた〈プロテクション〉は即座に発動し、ギリギリのタイミングで私とゴーレムが分断された……が、それもいとわず腕を私へと向けて――。


 ――ッ、ドンッ!


「な――」


 右腕は私目掛けて飛来し、光のドームに直撃。ビシィッ! その一撃だけで〈プロテクション〉の耐久値の大半を削ったのか、全面にヒビが走ってしまう!

 そして右腕は取り付けられたワイヤーみたいな物でメガ・ソードゴーレムへと急速に引き戻されている。


『アリッサさん、次が来る前にとどめを!』

「っ、はいっ!」


 私はドーム中央からじりじりと下がりつつ詠唱をする。終える頃には右腕はメガ・ソードゴーレムの体に戻り再び飛ばす体勢を取り、その向こうにはヴァイオリンを奏でるセバスチャンさんの姿があった。

 セバスチャンさんも攻撃してる、これなら……!


「リリース! ひーちゃんお願い!」

『キュキュキューっ!!』


 ひーちゃんと〈サンダーマグナム〉が組み合わさり、一塊となりメガ・ソードゴーレムへと飛んでいく!


「くっ?!!」


 そしてそのタイミングを見計らっていたかのように再び右腕が射出された。それらは中間地点ですれ違い、ガイィン! とドームに当たって完全に打ち砕き……そしてその勢いはまだ止まらない!


 ――ザシッ!


「づうっ?!」


 右腕はドームのお陰で得た一瞬にわずかに体を曲げていた私の右腕を掠めながら後方へ飛んでいった。

 そしてそれが最後の悪あがきだったか、メガ・ソードゴーレムはガシャンと音を立てて崩れていた。


『アリッサさん、ご無事ですか?!』

「あ、ああ……はい」


 衝撃で弾かれた私は尻餅をついていて、攻撃にかすっただけでHPは6割以上持っていかれていた。

 駆け寄ってくれたセバスチャンさんに手を差し伸べてもらい立ち上がってポーションを取り出す。


「『やれますかな?』」

「やります!」


 ポーションを一気飲みしてHPとMPを回復してセバスチャンさんに答える。

 こうしている今もセレナと天丼くんが戦っているのだから、だれてなんていられない。互いに頷き、メガ・アーマーゴーレムと相対するセレナの許へと駆け出した。


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