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第72話「がんばって、がんばろう!」




「一体何をしているんですか君は」


 注文の多い服飾店から数店舗離れた所に位置するマルクス武具店にやって来た私を、店主であるマルクスさんはそんな風に出迎えた。

 お店はマルクスさんの性格を表したかのようにキッチリカッチリと武具を品目別に並べ、かつ見やすく移動しやすいように配置にも気を配っていた。数えきれない程の武器が並べられていてもスッキリとした印象のお店だ。


「い、いえ、その……ちょっと気疲れで……」


 その私はと言えば、少々グロッキー気味でふらふらとしていた。マルクスさんは視線で事情を問う。


「いやはや、夜半さんの新装備を身にまとったアリッサさんの破壊力が凄まじかったのですよ」

「お陰で観衆からの視線が四方八方から、そりゃもう集中砲火の如く飛んで来たからなぁ」

「う、うう……アリッサ、お姉さん、大変そう、でした……」

『キュ、キュ』


 そうなのだ。注文の多い服飾店を一歩外に出るとそこは王都で最も人の集まる場所、北区のメインストリート。そこを行き交う人たちの視線が痛い痛い。

 マルクス武具店にも人は結構いて視線もそれなりにあるけど武器を買い求めに、と言う目的があるからか、視線の質は外に比べればずっとマシだった。


「アリッサは対人メンタルが貧弱だから気疲れしちゃってこの有り様よ」

「そんなお姉ちゃんを守らねばと思う反面キョドるお姉ちゃんは可愛いなぁと思うあたしはどうすればいいんだろうか。人生の岐路」


 知りませんよ。


「分からなくは……いや、それよりも注文の品を渡しましょう。具合を聞きたい」

「は、はい」


 マルクスさんが開いたウィンドウからアイテムの譲渡が申請される。アイテム名は……。


「『七星杖(しちせいじょう)』、ですか?」

「ええ。君の加護を表すには少々的外れなネーミングかもしれませんが、僕としては中々の自信作に仕上がりました。まずは実体化してみてください」

「はい。七星杖」


 リリウム・ポシェットに手を触れてそう唱えると手が光り、その光が瞬く間に伸長して杖を形作っていく。光が収まり、現れたその形状を一言で言い表せば、


「この形……北斗七星みたい」


 1つの木から削り出したのだろうそれはまっすぐではなく5つの節によってまるで夜空に浮かぶ柄杓のように曲がっている。


「そうです。君の昨夜の説明から最初にイメージしたのがそれでした」

「ふむ。そう言う事ですか」

「セバスチャンさん?」


 セバスチャンさんは七星杖の1つ目の節から先端へと指を動かす。

 そこではたと思い至る。現実の北斗七星ではこの2ヶ所に当たる2つの星を延長した先に北極星が存在するんだって、どこかで聞いた。


「北半球の空では周囲の星が北極星を中心に回るように見えますからね」


 すべての属性法術を与える星の祖であり中心に座するミスタリアさんを、北極星に例えているんだ。そして7つの(属性法術)がミスタリアさんへ至る道であるとも取れる。


「少し例えが過ぎましたかもしれませんが……」


 と言いながら頬を掻く。

 マルクスさんには《古式法術》を秘密にしている事は伝えている。それに至る行程を形にした事を気にしているのかもしれない。


「いえ、そんな――」


 事は無い、そう続けようとしたのだけど、横からひょっこりと青い頭が割り込んできた。


「応ともさ! お姉ちゃんが世界の中心だってのは世の真理! オニーサンいい仕事しってるーう!!」


 キャッキャと無闇矢鱈とハイなテンションで勘違いを炸裂させるクラリスをどうどうと宥めつつ、「だそうです」とそんな簡単には分からないだろうとの意を込めて返すとマルクスさんも肩の荷を下ろしたみたい。

 そんなやり取りをしているとセレナがマルクスさんに尋ねる。


「ねぇ、ちょっと。この杖の穴って何か意味でもあんの?」

「およ、ほんとだ」


 セレナが言ったのは節に当たる部分と先端、そして石突きに設けられた計7つの穴の事だ。単なるデザインと言えばそれまでだけど……?


「そこには追加で素材アイテムを組み込めるようになっているんですよ。例えばMP最大値を増やすと言ったパラメータアップや杖自体の性能をプラスするなど、君の好みでカスタマイズ出来ます。その場合は素材アイテムを供出してもらいますがね、無い場合はこちらで用意しますが追加料金が発生しますから注意してください」


 へぇ、つまりはこれからのがんばりで強化していけるんだ。長く使えるのは良い事ですよねー。

 けど、それで済まさないセレナが唇を尖らせている。


「何よそれ、ケチ臭いわね。どうせなら1個くらいはなんかはめ込んでおいてもいいじゃないのよ」


 対してマルクスさんにも言い分があるみたい。こめかみを抑えて唸ってる。


「それについては申し訳無い……出来るだけ高い性能と拡張性を考えた結果、フレームをレア素材の『知恵の巨樹の枝』から作ったので杖単品が限界だったんですよ」


 頭を抱えるマルクスさん。ほんとにギリギリまで考えてこの仕様に落ち着いたらしい。


「ほう、知恵の巨樹の枝を……それは大盤振る舞いですな。ふむ、ならば寧ろ安上がりやもしれません、これは有り難い」

「それって、どんな素材アイテムなの?」

「お姉ちゃん知らない? ほら、アラスタの図書館が入ってる大きな木」

「え! あれ?!」


 わ、何だか懐かしいな。アラスタの木々の中でも一番大きくて古そうだった図書館の木。

 空洞の内部を図書館として利用してるんだよね。その木の枝を使う事になるなんて、ちょっとびっくり。


「その枝はとあるクエストで入手出来るレアアイテムなのですよ。ライフタウン内で入手可能な素材としてはかなりの高性能と記憶しております」

「ええまぁ、普段なら使うか悩む所だったのですが……夜半には負けていられませんからね」


 メラッとマルクスさんの瞳が燃えたように錯覚したのは気の所為だろうか……。

 その後は七星杖の性能などの簡単なレクチャーを受ける。と言っても特殊な効果などはまだ無いそうなので、基本的にはIntとMinが前とは比較にならないくらい高くなってる以外は初心者の杖とあまり変わらないように作ってくれたとの事。


「あ、ほんとだ。重さは結構違うけど……扱いやすい」


 ぶんぶんと様々振り回してみると、以前より多少軽く扱えるものの長さや手で持つ辺りの太さなどにあまり違和感を感じない。


「ええ、武器の習熟は戦闘の出来に直結しますからね。なるべく以前使っていた武器に近付けるよう心掛けていますから」

「ありがとうございますっ!」

「い、いえ……」


 あれ。なんだか距離を取られてしまった。馴れ馴れし過ぎたろうか……?

 マルクスさんは咳を払って仕切り直すように説明を付け加えていく。


「コホン。それと、君のパラメータは装備を一新してかなり向上している筈です。法術士系なら少ないとは思いますが、一気にパラメータを上げると体のパワーバランスが変化して苦労する場合もあります。しっかりと練習を重ねる事をオススメしますよ」

「はい、気を付けます」


 そう告げるとマルクスさんは他のお客さんの接客へと移っていった。親しい人たちなのか、どうにも弄られているように見えたけど……なんで全員がこちらに背を向けているんだろう。


「さーて、じゃ本番といきますか!」


 それを見届けるとセレナが叫ぶ。そう、確かに本番はここからなのだ。


「ほあ? まだ何か買いに行くのー?」


 唯一この中でクラリスだけが何事かと首を捻る。元々突然参加する事になったのだから当然か。


「新装備の性能実験、ですな」

「そうよ、初期装備との格の違いってヤツを、しっかりじっくりばっちり試しに行こうじゃない」

「おお! なんて楽しそうな企画! あたしも行くー!」



「だめ」



 ぴしゃり。


「…………行くー」

「だめ」


 …………私たちの間に沈黙が流れる。


 クラリスが泣き顔になる。

 でもだめ。


 クラリスが膨れっ面になる。

 だけどだめ。


 クラリスが変な顔になる。

 やっぱりだめ。


「なーんーでー、お姉ちゃんの活躍見ーたーいー」


 腕をぶんぶんと振り回して文句を言うクラリス。しかし、《古式法術》を使いこなすまでは見せたくない、どうせならびっくりさせたいんだもの。だから納得させないと……えーと……どうしよう。


「見ーたーいー見ーたーいー見ーたーいーっ!!」


 そして、駄々をこねるクラリスうーんうーんと考えて考えて考えて出たのは酷く幼稚な単語だった。



「ひ、ひみつの……とっくん!」



 その言葉に、時が静止した(ような気がした)。


「だ、だから……連れてけなくて……」


 しん、と静まり返ったみんなと店内のガヤガヤとした周囲に散見するお客さんとの間に見えない壁でもあるかのように音が遠く聞こえる気がした。


(あ、あれー?)


 時間にすれば数秒に満たないけど、それは私の頭を混乱に陥れるには十分。

 けど、あわあわと慌てかけた私を押し留めたのは、目の前で真ん丸く目を開いていたクラリスだった。


「とっくん?」

「と、とっくん」


 と、互いの言葉をおうむ返しし合うと、徐々にクラリスの瞳がキラキラと光を放ち、頬はわずかに紅潮する。おや?



「秘密の、特訓! な、なんかかっこいー!! お姉ちゃんすごーい!!」



 突如として鼻息荒く興奮し始めたクラリスにあれで納得するんだ、と自分で言っておきながら思う私。みんなもそこら辺は同様らしく呆気に取られている。


「いーな、いーな、かっこいーな! あ、そーだ! あたしも秘密特訓しよう! そんでいきなり強くなっちゃってみんなを驚かそー!!」


 くるくると子犬のように回転しながらこれからの事を思い付いたのか、ぐっと両拳を突き上げた。そんな簡単に強くなれないでしょう。

 いや、それを言ったら私もだけどさ。


「よっしゃお姉ちゃん! 秘密特訓がんばろー! いえー!」

「え、あ、ああうん。そだね」


 テンションがデンジャラスなうなぎ登りっぷりのクラリスはがしっと私の手を握り締めてぶんぶん上下に振り回す。ああ、この子が単純で良かった。


「じゃあ、ここでお別れだね」

「むえっ」


 そう言うと途端にクラリスの顔がくしゃりと歪む。改めて私と離れる事をイメージしてしまったのだろうか? うずうずと体を蠢かせている。


「クラリス?」


 そうしてクラリスの顔を覗き込んでみるやいなや――。


 ――ガバッ!


 いきなり私に抱きついてきた!?


「うりゅりゅりゅりゅりゅ」

「ひゃうっ!?」


 クラリスは私の胸に顔を擦り付ける。痛い! 周りからの視線が大概痛い!

 それに、


「ちょっ、やめなさいっ! せっかくの下ろし立てなんだからっ」


 こんな事をされたらシワになってしまう……かと思いきやそんな事は無く、綺麗な状態のままシミ・シワも全然無い。わあ、さっすがー。

 クラリスはそうした過剰気味のスキンシップで一通り満足したのか体を離す。


「ぷは。よし、お姉ちゃん分補給完了! これで30分は戦えるでごんす!」

「燃費悪っ?! ……もう」


 クラリスはピッと敬礼してお店のドアに手を掛ける。


「じゃあねお姉ちゃん、いってきまーすっ!」

「はい、いってらっしゃい。……お互い、がんばろうね」


 私は杖を持っていない方の手を振ってクラリスを送り出す。


「うん! がんばるよー、あたし超がんばるよー!」


 クラリスもそれに応え、千切れんばかりに両手を振り回して、この場を後にしたのだった。



◇◇◇◇◇



「ったく、ホントに元気過ぎる妹ね」


 ドアの向こうへ消えていったクラリスを指してそう言った。否定し切れないお姉ちゃんを許してください。


「それに対抗してたお前も大概だけどな」

「だからアンタは一言多いってーのよ!」

「ぶはっ、暴力反対!」

「言葉の暴力に力の限り反抗してんのよ!」


 いつもながらのセレナと天丼くんのやり取りを見ていると、控えめな声が掛けられる。


「あ、あの……」

「ルルちゃん? どうかしたの?」

「その、ワタシも、そろそろ、お暇、しよう、かな、って……」


 ああ、と思い出す。

 今までは私がクエストに誘って、そしてその後に服飾の生産職(主にアイテムなどを作成、販売などするプレイスタイル)である彼女に関係するお買い物だから一緒にいたけど、ここから先はレベルアップの為に戦闘を繰り返すのだ。一緒に行く理由は無い。

 つまりはルルちゃんもここでお別れ、と言う事。


「……そっか」


「あ、あの……あり、ありがと、ございまし、た……!」


 ペコリと折り目正しくお辞儀をしてお礼を言ってくるルルちゃん。


「アリッサ、お姉さん、と、一緒で、色々、沢山、楽しかった、です」

「そんな、私だってそうだよ。楽しかったし、すごく助かったもの。大変な目にも遭わせちゃったし、頭を下げるのはこっちだよ」


 最初はお洋服を貸してもらうだけだったけど、小さくなってしまった私を連れて方々を歩き回ってくれたし、オーデュカス男爵邸ではルルちゃんがいなければより大変な事態になっていたかもしれないのだから、お礼を言わずにいられない。


「ルルちゃん、ありがとうございました」


 お互いにお辞儀を済ませるとどちらからともなく小さな笑いが起こる。それを機に、セレナ、天丼くん、セバスチャンさんも次々とルルちゃんにお礼の言葉を掛けていく。

 ルルちゃんは頬を桃色に染め、少々慌てながらも嬉しそうに受け答えている。


「ルルちゃんはこれからまたケイちゃんのお洋服を作るの?」


 昨夜注文の多い服飾店を訪れた際のルルちゃんの興奮ぶりからして、何もしないとはならないだろう。きっと可愛いお洋服を作っていくと思う。

 けど、そう問われたルルちゃんは言葉を切り、もじもじと指と指を弄っている。どうしたのだろう?


「あ、あの…………その…………」


 言いづらそうにするルルちゃんにみんなが視線を交わし合う。短い間ではあっても一緒にいた仲なので、話すのは少し苦手でもきちんと伝えてくれるだろうとじっと待つ事にする。

 やがて、すっと顔を上げたルルちゃんが口を恐々と開く。



「ワ、ワタシ……お洋服、作り、ます」



 それだけ言うと赤みを増した顔で、肩を上下させていたルルちゃんは私たちが微妙に首に角度をつけている事に気付いてアワワ、アワワ、と慌てふためてしまう。


「お、落ち着いてルルちゃん、ね。ほ、ほら深呼吸しよう深呼吸、すーはーすーはー」

「す、すーはーすーはー……」


 そうして呼吸をどうにか整えたルルちゃんが改めて言葉を継ぎ足していく。


「ワ、ワタシ、今まで、ちっちゃいお洋服、ばっかり、作って、て……それで、この前、ようやく、着てもら、えて……」


 みんなの視線が私に集まる。そりゃみんなは私がお人形サイズに縮んでそのお洋服を着込んだ所をばっちり見ているもんね……。

 でも多分ルルちゃんの言っている中には私だけでなく妖精のケイちゃんも含まれているんだろうな。


「それか、すごく、嬉しく、て……もっと、着てほしい、なって……でも、今まで、作ってたの、小っちゃな、お洋服、だけ、だから……」


 確かにこのサイズだと妖精さんか、例外中の例外である小さくなった私くらいで、ルルちゃんのお洋服を着れる対象はものすごく狭い。


「それで、昨日、夜半、さんの、お店で、色々、見て、今日、アリッサ、お姉さんの、お洋服、見て……」


 次第に尻すぼみに小さくなる声、けど目をギュッと瞑ると精一杯の気持ちを乗せて言葉にする。



「ワ、ワ、ワタシも、普通のサイズ、のお洋服、作り、たいって、誰かに、着てほしい、って、思った、んで、す。だか、ら……お店、出した、い、です」



 それは決して大きな声ではなかった。ともすれば店内のさざめきや精霊器による音楽、あるいは武器を試しに振るう音にかき消されそうなボリューム。

 けど、そこに込められた気持ちが、私にはとても暖かく、強く耳に響いた。

 そしてその決断に至った一助となれた事がとても嬉しい。


「……そっか」


 自分でも頬の緩みを実感しながら、さっきと同じ短い言葉で答えた。


「ルルちゃんの作ったお洋服ならきっと欲しがる人いっぱいいるよ。現状あのお洋服を唯一着たPCの私が言うんだから間違い無し」

「あ、ありが、と、ござい、ます」

「アンタお店出すって、店舗買う気なの?」


 ルルちゃんにそう問い掛けたのはセレナだ。


「い、いえ、そんな、い、いくら、掛かるか……」

「ふむ、アラスタの平均的な店舗ですと、2000万程度でしょうか。王都となれば更に……レンタルならば多少は変わるでしょうが……」


 あ、ルルちゃんがふらついている。うん、私も気が遠くなる。


「あ、あの……ま、まずは、露店、で」

「露店って、あそこ?」


 ドアの先のメインストリートには数えるのも大変な沢山の露店が並び、様々な商品が日々売り買いされている。

 大半はこちらの世界の人だけど、結構な数のPCもお店を出している。


「一定の料金を組合に支払えばNPCと入れ替わる形で出店する事が可能です。場所にもよりますが安ければ数千Gから出店出来る筈」

「そうなん、ですかー」


 ほっと安堵するルルちゃん、「結構行き当たりばったりじゃない?」とセレナが言って、若干へこんだルルちゃんを励ますように天丼くんが軽い口調で話し掛ける。


「ま、衣装のセンスは良かったしな。非戦闘系の装備にも需要はある、どうとでもなるんじゃないか? まずは気楽にやってみろよ」

「は、はい」


 ルルちゃんが作ろうとしているのはパラメータなどに影響を及ぼさないタイプの装備だそうだ。

 それらは強力な装備とは対照的に素材にはあまり費用を掛けずとも作成出来る為、価格も安く抑えられると言う。

 服を着てほしいと願うルルちゃんには丁度いいのかもしれない。


「今ならば懐も温かいでしょうし、何かを始めるには良い時期でしょう」


 タミトフ子爵の報酬はともかく、他の報酬はルルちゃんも貰っているから現在の所持金は300万を超える筈。

 それだけあれば好きな事が出来るだろう。クエスト誘ってよかった。


「1人で大丈夫か? なんか手伝おうか?」

「だ、大丈夫、です。今まで、も、ちゃんと、1人で、やって、これた、から。心配、しないで、ください」


 そっか、ルルちゃんはフロムエールに行くまでずっと1人であのサイズのお洋服を作ってたんだもんね。


「了解。でも、何か困った事とか、必要な物とかあったら連絡してね、力になるから」

「そんかし買う時は割引よろしく」

「お前この場面でそのセリフはどうよ」


 あはは、とみんなで笑う。……そして和やかな雰囲気が去り、ルルちゃんもまたドアの向こうへと去る時が来た。

 外の視線など気にせずに送り出したかったのだけど、ルルちゃん自身によって制されてしまった。

 「目立ちたくないんでしょ」とはセレナの言。私並みに人見知りなルルちゃんには視線の渦もキツかろうと泣く泣く納得し、私たちは未だにマルクス武具店の一角に陣取っていた。


「じゃ、じゃあ、みなさん、お世話に、なりまし、た」


 改めてお礼の言葉を言うルルちゃんは、新しい素材などを仕入れる為にユニオンへと向かう。

 ユニオンはアイテムをポイントと交換していて、その引き取ったアイテムを有料で販売しているからだ。

 もちろんアイテムに偏りが出るのであくまで設定の話で、ポイントに引き換えられたアイテムがラインナップに追加され、引き換えられた数で値段が増減していくのだと言う。


「がんばってね、応援してる」

「気に入ったら買ったげるから、気合い入れて作りなさいよね」

「まあなんだ、男物を作ったなら見に行くさ」

「商売繁盛のお守りの1つでもご用意出来れば良かったのですが……今は祈りだけでお許し下さい」

『キュ!』


 五者五様に激励を贈ると、ルルちゃんは唇をわななかせて私たちを見つめている。その瞳にはかすかに涙が滲んでいるようだ。


「そ、その……あの……」


 言葉が喉に引っ掛かってでもいるのか、上手く喋れないみたい。私自身その姿にうるっと目頭が熱くなる、2人で喋り出せずに十数秒。その均衡を破ったのは誰あろうセレナだった。


「これから客相手に商売しようとしてる癖に、そんな調子でどうすんのよ」


 ペチンとデコピンでルルちゃんの額が打ち抜かれる。セレナのパラメータでそんな事して大丈夫かとハラハラとしていると……。


「は、はひっ、がんばり、ます!」


 ぐしぐしと涙を拭い、キッと顔を上げたルルちゃんは気合いを入れられたように強く前を向いていた。


「ア、アリッサ、お姉さんと、会えた、から。ケイちゃん、に会えたし、お洋服、着てくれて、嬉しかった、から、やって、みよう、って、思え、ました。お金も、いっぱい、貰えて、色んな、事、出来ます。その、それ、で……………………………………お洋服、作ったら、また、着てくれ、ますか?」


 期待のこもった瞳に、NOと言う選択肢がある訳が無い。


「うんっ!」



◇◇◇◇◇



 ――カラン、カラーン。


 ドアのベルがルルちゃんの旅立ちを告げ、その音色が鳴り終わるまで私たちはドアを見つめていた。

 そうして、次に発したのは「ほう……」と言う私の小さなため息だった。


「……なんだか寂しくなっちゃったね……」

『キュ〜……』


 頬擦りして寂しさを紛らわせてくれるひーちゃんを抱く。

 元々は私とひーちゃん、セレナに天丼くん、そしてセバスチャンさん、このメンバーだった。

 ルルちゃんは数日前に臨時で入って、クラリスなど今日突発的に参加しただけ。

 それでも、ワイワイと騒がしくここまで来ただけに、こうして人数が減ると思ったよりも寂しく感じるのだ。


「寂しい、なんて思ってられないくらいに忙しくなるから安心しなさいよ」

「……うん」


 ガッと力強く肩を抱き寄せてそう励ましてくれるセレナに感謝する。

 少しの間だけのパーティーメンバーは去っていった。けど寂しがる必要は無い、きっとまた会える。


(がんばって、ルルちゃん。私もがんばるから)


 きっとその時、ルルちゃんはがんばってる。私もそれに負けないように。

 瞳に残るお店のドアを開ける背中に、心の中で心からのエールを贈り、私たちもまた動き出すのでした。


 ここでルルが離脱です。

 どうなるかはまたいずれ。

 でも、もしアリッサが普段着着てたらそれはルル作かもしれませんね。

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