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第63話「小さなお友達」




 魔法研を後にした私とルルちゃん。

 マリー・オネットの目的の一部が判明したのでパーティーチャットで他のみんなにも伝えていた。

 特にマジックジュエルについて調査をしているセレナと、マリー・オネットについて調査しているセバスチャンさん。


『とすると……他のマジックジュエルも狙ってる可能性は大、か。嫌な予感ってのは的中するもんね。丁度今マジックジュエルの持ち主をリストアップしてる所よ、つってももういくつも無いけどさ』


 既にそれだけの数のマジックジュエルをマリー・オネットは確保している、って事かな……。


『了解致しました。して、これからアリッサさんとルルさんはどうなさるのですか?』

「魔法研で得られる情報はもう無さそうですのでみんなを手伝えればいいんですが……」


 自分でならいくらでも酷使出来るものだけど、何にしろルルちゃんに手伝ってもらわなきゃいけないので無理がきかない。


『大丈夫大丈夫、そっちはログアウト先を決めておいて』

「うん、了解」


 再ログインした際に小さくなった私がポータルに現れれば騒ぎになるのはさっきのあれこれで分かっているので私たちが泊まる宿をみんなとの合流場所にする事になっている。


『そうか……って事はまた症状が進行するな……ぜいぜい』


 何故だか少し息の荒い天丼くんがそう言う。


「それはどうしようもないよ。どの道いつかはログアウトしないといけないのは変わらないし、それが早いか遅いかの違いでしかないもの」

『いっそアリッサがログインを控えるってのも手だが……ぜいぜい』

「それも考えはしたんだけど……みんなの負担が増えちゃうし浸潤が進めばクエストも何かしら進行するかもしれないから、ログインは続けようと思うの」

『ふむ。マリー・オネットにとってアリッサさんが重要な存在となっているのは確かですからな』

『またログインした時に何かあったらすぐに連絡しなさいよね。ルル、アリッサを頼むわよ』

「『は、はい。が、がんばり、ます』」


 そうしてチャットを終了したけど、どこに泊まるべきか……。

 近場の北区にある宿屋さんに泊まるのは確定しているけど、王都の宿屋さんにはあまり明るくない。


「ルルちゃんはどこか、いつも泊ってる宿屋さんとかある?」

「『い、いえ。ワタシ、アラスタに、下宿あるん、で。だから、どこでも、いいです、よ』」

「そっか、私と同じだね。じゃあ適当に選ぼうか。あんまり高くなさそうな所限定だけど」


 私たちは乗り合い馬車で北区へ向かい、宿屋さんに入っていく。

 私たちが泊まるのを決めた『無邪気なわんこ亭』はそう大きくはないけど、庭先に子犬が2匹じゃれていて、私たちはその可愛さにふらふら〜っと誘われた。


「ひゃんひゃん!」

「くぅん」

『キュイキュイ!』


 ただ子犬とは言え今の私からすると見上げる程の大きさなので下手に近付けないのは残念で仕方無い……楽しそうにじゃれるひーちゃんが羨ましいなあ。


「いらっしゃい、お1人様かい?」


 快活にそう言うのは妙齢の女性だった。ここの主人であるそうで、カラリとした笑顔を向けてくれる。


「いえー、2人ですよー!」

「あん? 何か……今声がしなかったかい?」

「こっちですー、こっちー!」

「……は?」


 ルルちゃんの腕に抱かれた私に最初は気付かなかった主人だったけど、ルルちゃんが私を抱き上げてくれたのでようやく視界に入る事が出来た。


「宿泊ー、2人分お願いしまーす!」

「……こりゃ何の冗談だい?」

「『じょ、冗談じゃ、ない、です。アリッサ、お姉さん、星守、です』」

『キュイキュイ』


 ゴシゴシと目を擦った主人はそれでも私をまじまじと見るけど、少し話して理解したのか不思議そうにしながらも代金を示した。


「あの、どうして私の分の代金はルルちゃんよりも安いんですか?」

「そんなナリで大人料金を貰える筈がないだろう。だからあんたの分は子供料金だ。……ま、それに、黙ってりゃタダで泊まれもしたろうにそうしなかったからってのもある」

「『よ、良かった、ですねー』」

「あはは……そだね」


 ルルちゃんより年上だと思うので忸怩たる思いが無い訳でも無いんだけど、好意だから素直に受けよう。

 鍵を受け取り、私たちは2階の部屋に向かう。2人部屋は埋まっているそうだけど、このサイズなら1人部屋でも問題無い。


「ルルちゃん、ちょっと頼みがあるんだけどいいかな?」

「『頼み、ですか?』」


 鍵を開けるルルちゃんに私はそうお願いする。


「あのね、多分私次にログインする時は体がもっと人形になっちゃってるだろうから、肌が隠れるお洋服があったら貸してほしいなって」


 私の体は徐々に人形と化している。今は爪先から膝上まで。

 特に指はそれが顕著で、既に変化した足の指などは関節が多く、もし次に手がそうなったらと思うと……やっぱり誰かに見られたくはないし、私自身出来れば見たくはない。

 今の服はかわいいとは思うけど……ホットパンツとサイハイソックスで、セレナ曰く『ゼッタイリョウイキ』と言う隙間から肌が覗いているし、上着のチュニックも胸元がそれなりに開いている。もちろん素手だから出来ればもう少し面積の広いお洋服と手袋を貸してほしいんだ。


「『わ、分かり、ました、っ! アリッサ、お姉さんに、似合いそうな、お洋服、ありますからっ!』」

「あ、あの……そんなに張り切らなくても……出来れば地味なので……」


 ルルちゃんはすっかり気合いを入れてしまっていた。ポーチから大量のお洋服が出され、矯めつ眇めつ私に当ててはまた別のお洋服に手を伸ばす。


「『え、え〜と〜、どれに、しよう、かなぁ♪』」


 その様子は本当に楽しそうで、嬉しそうで、私は何処と無く……懐かしい気持ちが胸に湧く。

 すると慌てていた気持ちも少し落ち着き、軽く明るくルルちゃんに話し掛けられた。


「……ルルちゃん楽しそうだね」

「『は、はわわ、ご、ごめん、なさいっ、アリッサ、お姉さん、たたた、大変、なのに……ワタシ、……』」

「ううん、いいよ。ルルちゃんが楽しそうにしてくれると私も嬉しいから」


 そう言うとルルちゃんはもじもじとお洋服をいじり出す。


「『そ、その……ワ、ワタシも、嬉しく、て、はしゃい、じゃって……ケイちゃん、以外に、着ても、らえる、なんて、思ってなかった、から……』」

「そっか」


 着てもらえる。

 ルルちゃんのお洋服は導きの妖精のケイちゃんの為に作ったから人形サイズ。

 導きの妖精さんたちはいっぱいいるようだけど、会える相手はキャラクターメイク時に出会ってる人だけだから着てくれる相手なんて今までそのケイちゃんしかいなかった。

 例外中の例外で小さくなってる私に出会えて、それでお洋服を着せて、なんて言われたならそれはきっと望外の事。

 そんな風に喜んでもらえるなら、そう思い私はルルちゃんに向き直る。


「……なら、時間もあるしいっぱい着てみよっかな。どうせなら、他のみんなをびっくりさせるくらいに飛びきりのドレスアップくらいしてみてもいいかもね」

「『え? でも、さっき……』」


 きょとんと目を見開くルルちゃんに、殊更笑顔で語りかける。


「言ったじゃない。私はルルちゃんが楽しんでくれるなら嬉しいの。だから、着せ替え人形するのもやぶさかではないのです。だから、ルルちゃんのお洋服を着せてくれる?」


 ぱっと綻ぶような小さな笑顔で「『は、はいっ!』」と頷き、またお洋服選びに精を出す。今度は私も、それを一緒にしてみよう。


 時間て、案外短いものだ。




◆◆◆◆◆




 機械的に手を動かす。洗い終わった食器を拭いて棚に戻す。

 毎日のルーチンワークなので動きに無駄は無く、ひたすら的確に淡々と動いている。


「お姉ちゃん、急いでるならあたしが残りやるよー?」


 花菜が良い子なので頭を撫でる。なでなで。慣れたものです。


「……お姉ちゃんになでなでされて嬉しい筈なのに脊髄反射的過ぎて反応に困るでごわす」


 花菜が物欲しそうな顔をしているので私は一息吐いて謝罪する。


「ごめんごめん、別に急いでる訳じゃないの。みんなとの待ち合わせ時間までまだあるから」

「ならなんか考え事でもしてたーんー?」

「そうだね……まあ、色々と」


 コンロにヤカンを置いてお湯を沸かす。家族全員のコップを取り出して緑茶のティーパックをそれぞれに放り込む。


「……ねえ花菜、花菜は人形が欲しくなったりした事はある?」

「ほえ?」


 ヤカンを監視していた花菜が首を傾げた。


「人形?」

「人形」

「んー、お姉ちゃんの人形なら埋もれるくらい欲しいよ? くださいな」

「いやそうでなく聞きたいのは理由なんだけど……」

「お姉ちゃんが好きだからー」


 ……まあそんな所だろうなあとは思ってました。


「じゃあ私じゃない人形は? 着せ替え人形とか、ぬいぐるみでもいいから、どんな理由で欲しくなったりした?」

「えー、特に無いよー? だってあたし昔から何か欲しくなってもそれってお姉ちゃんの持ってるのが欲しくなるってだけなんだよねー」


 エプロンを指差して言う。元々花菜の使うエプロンは私が授業で作った物で、花菜が作ったエプロンと交換して今に至る。


「そうだったわねぇ。そのくせ結花があげたらあげたで『お姉ちゃんのじゃなくなった』ものだからまた別のを欲しがって。なんて娘かしらと恥ずかしかったわ」

「はっはっは。あたしはいつでもお姉ちゃんのストーカーです」


 リビングでくつろいでいたお母さんが苦笑する。青筋は見えてないんだろう、花菜には。

 この子は一緒に人形遊びをしていても私の人形を欲しがって、同じ人形をお母さんが買うって言ってもヤダヤダと駄々をこねていたっけ。だから私たちの物の大半は2人の物になった。

 そしてそれは人形ばかりでなく、服なんかは今でもお下がりを嬉々として受け取ってるんだよね、……姉妹としては珍しいのかな、コレ。


「お母さんは人形を欲しがった理由とかってあった?」

「そりゃ子供の頃はテレビで見たり友達が持ってたりしたから……理由って言っても……遊びたくて欲しがった、としか言えないわね」

「ふうん。お父さんはどう?」

「あったぞー、ロボットのおもちゃとかプラモデルとかな。すぐ壊したり部品無くしたりしていたなぁ、新しいの買って欲しくてもどれも同じでしょ、とか言われて我慢してたが」


 ふうん……。


「でも、結花はあんまりそう言うのは無いなぁ」

「私?」

「ああ、全然ねだったりしてこないだろう。昔から欲しい物無いかって聞いても『無いよ、貯金しなよ』って素っ気無い答えばっかりで、お父さん結構寂しかったんだぞ」

「……ああ」


 確かお父さんからその手の事を聞かれるようになったのはお父さんが再婚する前辺り……小学生に上がって間も無くだったかな。

 私の答えにすごすごと引っ込んだお父さんを覚えている。昔からお父さんはかまってほしがりの気質があるから逆に冷静になってたんだよね。


「……爪の垢を煎じて飲ませておけば良かったかしら」

「飲むよ、超飲むよ、お姉ちゃんのだったらバケツで飲むよ、ペロリだよ。ヘイヘイカマ〜ン」


 身の毛もよだつ興奮の仕方をする花菜であった。

 ティーパックを取り出して、私はお父さんとお母さんのコップを花菜は自分のと私のを持ってリビングへ。ちょっと花菜、私のコップを舐めないでよ。


「あの頃はほら……私とお父さんしかいなかったし、背伸びしてたの。それに小学生になる時に値が張る物を買ってもらって……だからお父さんにわがまま言って困らせちゃいけないって思ってもいたから……ほんとはリタちゃんのお友達も欲しかったんだけどね」

「結花は結花ね。真面目と言うか堅物と言うか何と言うか」


 今度も苦笑するお母さん。


「会った頃から結花は……良い子だったものね。わがままは言わないし、人の言う事はちゃんと聞くし、花菜の面倒を見てくれたし……最初はあたしに遠慮してるのかって思ったりもしたわ」

「遠慮、って言うか……花菜が妹になって、私はお姉ちゃんなんだからしっかりしなきゃ、わがままなんて言っちゃいけないって思って、そうしてたら物を欲しがらないのに慣れてデフォルトになった感じかなあ」


 思考が自分より花菜に傾いたのだろうと思う。

 姉になる以上妹の事を大切にするのだ、この子の良い手本になろう、と幼心にそう思った。

 それはある意味肌にあったのか、どうにか今日まで続いてる。多分これからも変わらない。


「結花は今だってそんなもんだろう? もっとわがまま言ってくれていいんだぞ。お父さんとお母さんは娘のわがままを聞く為にいるんだからな」

「あ、はーい! あたし欲し「あんたはゲーム機買ったでしょう」ぶぶぶ……」


 お母さんに唇を摘ままれた花菜。花菜のリンクス出自の謎が解き明かされた瞬間でした。

 そんな温かい家庭の様子を微笑ましく眺めながらお茶で唇を湿らせる。


「私は……今はやっぱりわがままを言うような事は思い付かないや」


 欲しい物もやりたい事も……今の所MSO内でのあれやこれやくらいのものだし、それは自分と仲間とで賄わないといけない事だ。

 現実での野々原結花の生活は満たされていると、今ここを見ていて改めて思った。


「だから保留にしておいてよ。いつかとんでもないわがまま言うかもしれないから」

「……まぁ、いいがな」


 自分でも想像も出来ないけど、と思ったのが顔に出てしまったのか納得いかない風情のお父さんに苦笑だか、失笑だかを今度は見られないようにコップの中のお茶を飲み干して立ち上がる。


「じゃ、私そろそろ行くね」

「あ、あたしも行くー」

「いってらっしゃい、遅くならないようにね」

「気を付けるんだぞ」

「「はーい」」


 流しでコップを洗って私たちは2階へ。

 私の背後にぴったりと寄り添って部屋へ侵入しようとした花菜を蹴飛ばしてドアを閉める、けどリンクスはまだ起動しない。

 部屋の照明を着けてクローゼットを開く。そこにはもちろん服がずらりと掛けられているのだけど、今は関係無い。

 用があるのは下の方に置かれているタンス、その引き出しの1つには小さな頃に遊んでいたおもちゃが整然と収められていた。

 中身をそっと取り出していくとくたびれた紙の箱が顔を覗かせる。白い表面には色とりどりのクレヨンでお花や動物、そして『ゆたし(たさ)のリタさゃん』と拙い字で書かれていた。


「久しぶり……」


 箱を開けると、こんなに小さかったかなと思える金髪のお人形さんがいた。

 名前はリタちゃん。

 着せ替え人形だけど、私はあまりお洋服を買ってあげられなかったから、ずっと同じ服のローテーションになって所々にほつれもある。

 笑顔を浮かべてくれてもいるけど、しばらくここに押し込めていた私にこの子はほんとに笑顔を向けてくれるかなと思ったりもする。

 せめてものお詫びと箱の中に入れてあったブラシで髪を梳く。


「貴女の気持ちが、ほんのちょっとだけ分かるようになったよ。私」


 リタちゃんと同じくらいの大きさになって、着せ替えられて、両手で握り締められて……リタちゃんから見たこちらはずいぶんと迫力に満ちていたのだとも知った。結構貴重な経験をしてる。


 だからこそ思う。私を着せ替えようとお洋服を選ぶルルちゃんは、きっと昔の私に近い。


「貴女は……どんな風に思ってたのか、ちょっと知りたくなっちゃった」


 私はそれを笑顔で見れていたけど、過去には乱暴に扱った事もある手前、どうにも申し訳無く思う。


「出来た。うん、昔より上手いぞ私」


 花菜によって鍛えられたブラッシングの腕前は記憶の中よりも軽快に、でも丁寧に終えられて、それが少し嬉しい。

 そうして髪やお洋服を整えていると不意に思う事がある。


(……彼女はどうなんだろう……?)


 怪盗マリー・オネットが多くの人を人形にする為にマジックジュエルを奪っている可能性は高い。その目的は……。


 ――怪盗マリーは寂しがり。

 ――夢は友達沢山作る事。


 そう歌われているけど、人をお人形にしたい理由はまだ分からない。

 花菜の言うように誰かが持ってて欲しくなったとしても。

 お母さんの言うようにお人形で遊びたかったとしても。

 お父さんの言うように買ってもらえなかったとしても。

 そこまでする理由にはならないとは思う。でも、



「……お友達が出来れば、あんな事せずに済むのかなあ」



 ぽつりと盛れた呟きに、リタちゃんは何も答えはしなかった。


 新年あけましておめでとうございます。

 本年も読者様方にご愛顧頂けますよう全力を尽くしたく思います、これからも拙著「そして、少女は星を見る」をどうぞよろしくお願い致します。

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