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第50話「行く人来る人」




 無事に《二層詠唱》の取得に成功した私たちは法術院1階のエントランスに向かっていた。今日はみんな用事があるそうで、いつもよりも多少ログアウトを早くしないといけないとの事。一緒にいられるのはここまでなのだ。


「うう〜。まだアリッサの加護、全部取ってないのに〜」


 この法術院には本来《二層詠唱》の他に《法術特化》と言う加護の取得を目的に訪れたけど、《古式法術》に関する重要な情報を持つガニラさんと出会って話を聞いていたら時間をずいぶんと使ってしまい、もうみんながログアウトしなければいけない時間になっていた。

 なのでセレナは取得に付き合えなくなった事を気にしてるみたい。


「私の事はいいよ、取得場所もこの建物の中なんだし大丈夫。それより用事があるんでしょ、遅れたら大変じゃない」

「アリッサもそう言ってんだ。愚図ってんじゃねーよ」

「うっさい。……でも、1人で大丈夫なの? 迷わない? 変なヤツに声とか掛けられても対応出来る?」


 セレナってこんなに過保護だったかな。ともあれここで不安を表に出せばセレナに要らぬ心配をさせちゃう、それは阻止せねば。


「これでもずっとソロだったもの、何とでもしてみせます。それにもう1人じゃないよ、ひーちゃんいてくれるもの。ね」

『キュイ!』

「おお、なんと頼もしい」


 私たちの話し合いに気を遣ってか、大人しくしていた火の精霊のひーちゃんが元気よく胸(?)を張った。


「だとよ。いい加減納得しろよ」

「くうっ。ひーちゃん、ちゃんとアリッサの事守んないと承知しないかんね! 分かった?」

『キュキュイ!』


 セレナから厳命を受けたひーちゃんは張り切って私の周りを回り始めた。


「よし。さっさと行くぞ、じゃあなアリッサ」

「うん、今日は付き合ってくれてありがとね天丼くん、セバスチャンさんも」

「何のこれしき、ではまた明日お会い致しましょう」

「うう。アリッサ、また明日」

「またね、セレナ。気を付けて」

「……こっちのセリフだっての」


 そうしてエントランスに到着した私たちはパーティーを解散し、別れを告げた。



◇◇◇◇◇



 法術院を出ていったみんなの後ろ姿が見えなくなるまで見送った私たち。


「行っちゃったね、ひーちゃん」

『キュー』


 途端、心細さがジワリと忍び寄る。ひーちゃんがいると言ったばかりだったのにね。

 来て間も無い広い街、アラスタでもそれは同じだった筈。でも、ここにはもう知り合いと呼べるような人はいない。


(いつの間にか私は……みんなと一緒なのに慣れて、楽しんでいたんだなあ。……クラリスたちはどうしてるだろ?)


 システムメニューのフレンドリストから現在位置を探ってみると……。


(『ディヴィニ古水道』……全然知らないや)


 期待は外れ、またもちょっとだけ寂しくなるけど……今もあの子たちはどこか遠くでがんばっているんだな、とは思えた。


『キュ?』

「ううん、何でもないよ。行こっか、ひーちゃん」

『キュイッ』


 頭を振り気分を切り替える。


(今考えなきゃいけないのはこれからの事、《古式法術》の事……)


 まだ不安はあるけど、《古式法術》についてはみんなのお陰で徐々にだけど分かり始めてる。

 なら、今は私でも出来る事をしよう。レベルを上げてガニラさんの言っていた“真価”に辿り着くにはもっと強くなる必要があり、その為の加護が必要になる。

 時間だって余裕がある訳でもないんだから、立ち止まってる暇は無い。


「……うん、私もがんばろ」

『キュイー!』


 心に活を入れ、私たちは奥へと進む。目的地はこの階の一室、そこにいる人に話し掛けるとクエストが発生するらしい。


 人に道を尋ねながらようやくやって来た部屋にはちらほらと人がいるけど、当然ながら知り合いはいない。

 ドアは開け放たれていたので特に注目される事も無く私は入室する。


(えっと、どの人かな……)


 誰がそうなのかと探すと明らかに他とは雰囲気が異なる人が数人、部屋の端に誰に話し掛けるでもなく佇んでいる。

 どの人も目を包帯のような布で塞ぎ、口を堅く閉じていてちょっと怖い。でも多分あの人たちがクエストに関する人なのだから話さない訳にはいかない。

 その内の1人に近付く。筋肉質な青年は長身で、私は見上げながら話し掛けてみた。


「あの」


 するとゆっくりとこちらに顔を向け、重々しく口を開いた。


「……何であろうか」

「加護についてお聞きしたいのですけど……」

「……(それがし)がお教え出来る事は《法術特化》と言う加護についてのみなれど、構いませぬか」

「はい。お願いします」



 ポーン。


『【クエスト発生】

 《我が全ては法を統べる術と共に》

 クエストを開始しますか?

 [Yes][No]』



 [Yes]をタップし、クエストを始める。


「宜しい。このビリエスが知る限りの事をお教えいたそう」

「よろしくお願いします」

『キュ〜イ』


 お辞儀する私たち。ビリエスさんは1つ頷くと、「こちらへ」と歩き始めた。

 目を塞いでいる筈なのに何かにぶつかるような素振りも見せず、それどころか音も立てずに通路を進む。やがて立ち止まったのは重厚そうな金属の扉の前。

 両開きの扉の片側の取手をビリエスさんが両手で掴み、力を込めて引く。

 ズ、ズズズ……。

 わずかずつ開いていく扉からは仄かな明かりが漏れてくる。それは単色ではないようなのだけど……。


「中へ入られよ」

「は、はい」

『キュ』


 中に入ろうとするとひんやりとした空気が――えっ?!


(な、何っ?! いきなり暑くなった?)


 冷蔵庫を開けた時のようなひんやりした空気かと思えば、暖房のような温かい空気に――そう思う間に強い風が吹き荒ぶ。部屋が暗くなり、続いて明るさが増し、体が軽くなったかと思えば、砂埃が舞う。

 その原因はどうやら部屋の中心に据えられている巨大な岩のようで、各属性の性質を発しているみたい。

 ちなみにひーちゃんは暑くなると元気に、冷えると大人しくなる。


「な、何なんですかコレ……?」


 扉を閉めたビリエスさんへ質問する。


「これは『輝生原石』、7つの属性のマナを生み出している。《法術特化》の加護を得るにはこの輝生原石を用いねばならぬ」


 輝生……原石?

 輝生石なら精霊院で見掛けたけど、これはその原石って事なのかな?

 よくよく見れば巨石の中からいくつもの色の石が覗いている、それぞれが干渉してバラバラに効果が発生してるみたい。

 それからビリエスさんによる説明が始まった。分かったのは以下の通り。


 1・輝生原石はランダムに属性を変えている。

 2・ビリエスさんに教わった7種の特殊なスペルを唱えると輝生原石の側の法術陣の効果で私自身が7つの属性に変わる。

 3・輝生原石と私の属性をシンクロさせ、7回連続成功で第1段階クリア。

 4・それが済んだら今度は輝生原石の属性を制御して自在に属性を引き出さないといけない。具体的な事は第1段階をクリアしてから話してくれるそう。


 頭の中でスキルの確認をしながら輝生原石の前に描かれた法術陣の中心に立つ。

 輝生原石は今は光属性、次は風属性に変わる……ほんとに順番がバラバラで、これに合わせるなんて出来るのかな……。


「ひーちゃんはどうする? 一緒にいる?」

『キュイ!』

「じゃああんまり動いちゃだめだよ」

「準備は宜しいか?」

「はい……ふう……〈ファイアハート〉」


 瞬間足下の陣が輝き、私の体の中心が熱くなった、体自体もぼんやりと赤く光る。発動は成功した……発動だけは。


(だめ……温かい空気を感じて唱えても発動した時には別の属性に変わってる)


 その後数回同じようにしてみるけど、早口にも限度があり1回2回はギリギリどうにか成功しても段々タイミングがずれて失敗。その先に進めない。

 このタイミングで失敗するとなるとそれこそ属性が変わる前に先を読んで唱えていないと間に合わないんじゃ……。


(そんな事可能なの? 何か……何か兆候とか)


 ひーちゃんは火属性で元気になると言っても属性が変わってから元気になるだけなのであまり参考にはならない。

 後は……。


(ビリエスさん)


 私をここに連れてきてくれたビリエスさんはあれから扉の横に直立不動。ピクリとも動かない、息とかしてるのかなって思うくらい動かない。


(ヒントらしいのはやっぱりアレ……かなあ)


 そのビリエスさんの最大の特徴は目に布を巻いて塞いでいる事。ビリエスさんの他にいた人たちもみんな同じように目を塞いでた。


(だとすると、目を必要としてないのかな。心の眼で見ろー、みたいな)


 「諦めるのなら言うがいい」とか言われたし、何回失敗しようとだめな訳じゃないのならだめで元々。やってみよう。


「…………」


 目を閉じて集中する。

 風が吹いた、変化を感じない……光か闇かな、体が軽い、砂埃が肌に当たる。


(……特に変化は……当たり前か)


 そう思った時かすかに、本当にかすかに輝生原石に触れていた手に振動が伝わったような気がした。

 触れている部分は右手だけだったけど左手も触れてみる。すると確かに振動を感じる。

 こうなったらと私は輝生原石に抱き付いてみる。全身で触れて、感じる。耳を付ければ奥の方から振動と共に音も聞こえた。

 それは属性の変化と共に微妙に音色を変えているように思う。生憎と絶対音感の持ち合わせは無いけど、多少の違いくらいなら私でも分かる。


(…………あれ? ずれてる)


 その音の変化は属性の変化とは微妙にずれがあるように思えた。音が変わる方が少しだけ早い……。

 だとすれば音の変化を聞き分けて唱えれば……。


(何だか音楽ゲームみたい)


 高速で太鼓を叩く花菜にはまるで付いていけなかった私だけど、最後まで投げ出した事は無い。


(何度だって試してみる)


 目を閉じたままだと色調の変化を識別しづらいので私はうっすらと目を開ける。まずは音と属性の組み合わせを覚えよう。うん、こう言う地道なのは得意分野だ。



◇◇◇◇◇




「すう……はあ……」


 都合21回目のチャレンジ。息を整え、人目(見えてるか分からないけど)はもう意識の端に追いやり輝生原石に体を預ける。

 肌に伝わる振動とその奥からかすかに届く音を逃さないように。今度こそ成功してみせると気合いを入れながら。



 ――キュィーン。激しく、


「〈ファイアハート〉」


 暖かい空気が流れ、


 ――ルオォン。沈むように、


「〈ダークハート〉」


 辺りは暗く、


 ――リンリン。軽やかに、


「〈ウィンドハート〉」


 風が吹き、


 ――クォーォー。ゆっくりと、


「〈ソイルハート〉」


 土埃が舞い散り、


 ――カィィン。強く、


「〈ライトハート〉」


 明るさを感じ、


 ――ピリリ、ピリリ、ピリリ。……?


(あれ、こんな音あったっけ?)


 ハッとして体を起こす!


「いけない! ログアウトしなきゃ!」


 これは輝生原石の音じゃない、もしもの為にとセットしておいたアラーム音! 熱中し過ぎてログアウトの予定時間越えちゃった、またお母さんに怒られちゃうっ!

 扉の横のビリエスさんに駆け寄り、クエストの中断を申し入れる。


「そうか、それもよかろう」


 そう言うと重厚な扉を開けてくれる。すみません、重そうな所悪いのですけど早くしてもらえると大変助かるんですが……。


「再び挑むならば某に話し掛けられよ」

「はい、失礼します。ひーちゃん、行くよ」

『キュイッ』


 後ろ髪を引かれながらも、システムメニューを開いてログアウト操作を行う。


「せっかく慣れてきた所だったのに……はあ。まあ仕方無いけど……あ、そうだ。ひーちゃんを還さなきゃ」

『キュ?』


 私が召喚したままログアウトしたらひーちゃんがどうなるかは分からないけど、確かなのは送還すれば同じ精霊と一緒にいられるって事、少なくとも寂しい思いはさせずにすむ。


「私は一度帰るからひーちゃんも元いた場所に戻すね」

『キュ〜……?』


 ひーちゃんが私に擦り寄ってくる、別れたくないのかな……そんな風にされたら還しづらいよ〜。


「あ、後でまたすぐに喚ぶから、ね。それまでお友達と遊んでて」

『キュ……キュイ』


 分かってくれたのか、ひーちゃんが離れる。まだ少々気落ちしてる気がするけど……私もこれ以上ログアウトを遅らせる訳にもいかないのでスキルを唱える。


「〈リターンファミリア〉」


 ひーちゃんは淡い光に包まれると少しずつ光の粒となって消えていった。私は小さく手を振りながら見送った。


「またね」




◆◆◆◆◆




「ひーちゃん?」

「そう」


 晩ごはんを食べながら、私は目の前に座るお母さんにMSOの話題を話していた。


「どんな子なの、そのひーちゃんは」

「どんなって……テニスボールくらいの火の玉。だからひーちゃん」

「単純な名前だなあ」

「いいじゃない、かわいいもの」

「お姉ちゃんと四六時中一緒とか何と妬ましい。ギリギリギリ」


 歯軋りして自分のお箸の寿命を縮めている隣の花菜をスルーしながら会話を進める。


 こうした家族が揃う場面では最近ゲームの話をよくするようになった。

 お父さんお母さんからゲームのし過ぎと同じくらいゲームの内容についても不安があったって言うのは少し前に聞いた話。

 「どんな場所に行ったか」「どんな人と出会ったのか」「出会った人とは仲良くなれたのか」「どんな事が楽しいのか」「戦うのは恐くないのか」「傷付いた時の痛みは辛くはないのか」等々……色々と聞かれた。

 私たちくらいの子供の親としては目の届かない場所に行っているのがやっぱり気掛かりみたいだった。

 お父さんお母さんは私たちくらいの頃にVRゲームを題材としたライトノベルやマンガを読んでいたそうで、そのショッキングなシーンを思い出してはそこに私たちが居合わせたらと想像してしまうらしい。

 聞けばゲーム中のゲームオーバーが現実の死に繋がったり、ゲームをプレイしていたらPCの能力を持って異世界へと召喚されたりするお話だと言う。

 だから2人からすると「読んでて面白かったしそこに自分が行ったら、なんて想像もしたが、実際にお前たちがするとなるとなあ」であり、「フィクションのイメージが先行してるから心配しちゃうのよ」なんだとか。

 なのでなるべくMSOの事を話すようにしてる、少しでも心配を払拭出来るといいなって思いながら。


「あたしはねー、ディヴィニ古水道ってトコで超でっかいヒルを相手に戦ってたよ! ウネウネキモくて攻撃すると粘液出たり火噴いたりするんだよ! みんな近付くの嫌がってた!」


 そう嬉々として話す花菜には揃ってげんなりしたりするのだけどね。


「よくそんなのと戦えるなあ、花菜は恐くないのか?」

「だって倒さなきゃ進めないし、その先のダンジョンにクエストアイテムがあるんだもん。その為ならあの程度どって事無いね!」

「私には無理」

「じゃあ行く事になったらあたしが守るー! 立候補するよー」


 「はいはいはーい」と元気良く手を上げる花菜に「分かったから口の中の物を飲み込んでから喋りなさい」と諭す。

 花菜がご飯をかきこみ、お母さんが額に青筋を立て、お父さんが笑い、私は話を続け、そうして騒がしく、我が家の晩ごはんは過ぎていくのでした。



◇◇◇◇◇



「お姉ちゃん」


 晩ごはんの後片付けをしていると花菜に話し掛けられた。


「なに?」

「実は……今日はミリィとリンゴとベルがこの後ログイン出来ないんだよ」


 そっちもなんだ、まあミリィはそうかもとは思ったけど。日曜日だし外食なりお出掛けなり用事があっても不思議じゃないし、こう言う日もあるよね。


「ふぅん。こっちも私1人だよ」

「でっしょうっ! だからまた一緒「あ、私1人の方が集中出来るからパス」フラれたーっ!!」


 だって《我が全ては法を統べる術と共に》の感覚を忘れちゃわない内に再チャレンジしときたいし、花菜がいると気が散りまくってしかたなくなる気がするんだもの。

 食器を棚に戻す間も脚に花菜がしがみついて泣いてたけど、「また今度ね」と言ったら「約束だよ!」と言質を取られた。口を滑らせたかな……。


「しょーがない、今日は他の事しよ」

「昨日やり残してた宿題とか?」


 ガタッ!


 顔を青ざめさせて、たたらを踏んだ花菜。その顔には分かりやすーく「わ・す・れ・て・た」と書かれていた。


「……後は私がやっちゃうから早く上で宿題しちゃいなさい」

「て、手伝ってくれたりは……」

「花菜はやれば出来る子だから大丈夫ー」

「棒読みだーっ!」


 花菜は「うえ〜ん、信じてもらえないのが切ないよ〜っ」と叫びながら2階へと消えていった。明日彩夏ちゃんやみなもちゃんのお世話にならないようにがんばりなさいね。


 カチャカチャ、カチャ。


「よしっと」


 食器の片付けが一段落したので私はエプロンを外してハンガーに掛けておく。

 ミルキーな色に花柄があしらわれたエプロンは花菜が中学校の家庭科で作ってプレゼントしてくれた物だ。花菜曰く「お姉ちゃんはミルクの匂い。くんかくんか」だかららしい。

 が、代わりに私が中学時代に作った緑地に白の四つ葉のクローバー柄のエプロンを強奪していった。「ヒャッハー! お姉ちゃんのエプロンだー! お姉ちゃんの匂いがするぜー!」と……まあ大事に使ってくれてるからいいけど。


「結花、ちょっと来なさい」

「? うん」


 お父さんに呼ばれたのでリビングに向かう。何か用事かな?


「どうかしたの?」

「さっきの話でちょっとな、結花の意見を聞きたいんだ」

「さっきの……ああ」


 MSOの話をしていた時、私と一緒にセバスチャンさんことみなもちゃんのお祖父さんが冒険をしていて助けてもらってると話題になった。お父さんもお母さんもすごく驚いて、それから割と安心したようでもあったのは信用出来る大人が近くにいると分かったからだと思う。

 それからみなもちゃんのお祖父さんにお世話になってるならお礼を言った方がいいかとか言ってたから多分その事じゃないかな。


「みなもちゃんのお爺ちゃんには花菜もすごく良くしてもらってるでしょう? 前に花菜に菓子折り持たせたりしてるし、結花もそうした方がいいかしらねぇ」


 お父さんの隣に座ってたお母さんがそんな事を言ってくる。私はその向かいに座って自分の考えを口にする。


「それはいくらなんでもオーバーだと思うよ、ゲームでの事に菓子折りとかは違う気がする」

「そう?」


 そう思う。堅苦しいのは望まないと本人から聞いているから。


「それに元々何かしらお礼はするつもりだから、出来れば任せてほしいかな」


 今ではないしセバスチャンさんだけでもないけど。

 いつかセレナと天丼くんとセバスチャンさんには何かしら恩返ししたいと思ってる。3人にはお世話になりっぱなしだから。


「お父さんとお母さんが宜しく言ってたのはちゃんと伝えておくから、それでいい?」

「ふむ。そうか……分かった、そうしよう。悪かったな結花、時間を取らせて」

「いいよ、セバスチャンさんの事はさすがにイレギュラーだから、ちゃんと話しておけてよかったよ」


 まさか偶然知り合ったのが妹のお友達のお祖父さんだったなんてそうそうある事態じゃないもんねえ。

 話はそれで終わったようで私は立ち上がり退室を告げる。


「じゃ、上に行くね」

「ああ、だがゲームも程々にな」

「いってらっしゃい、ひーちゃんに宜しくね」

「はーい、いってきまーす」




◆◆◆◆◆




 ログインした私は王都の東区のポータルへと降り立った。法術院のある中央区に行く前はここにいたからのスタート地点がこことなったらしい。

 ここ東区は5つの区画の中で最も馬車の往来が激しい。クラリスが言うには東には大きな街と広大な畑や牧場があるとの事で、王都は元よりアラスタや近隣町村へもそちらから作られた物が出荷されているのだとか。

 その為に表の通りは配送に類する施設が大半を占め、その向こう側には工場や工房等の生産系の施設があるそうで、空を見上げれば至る所から煙が上がっているのもそう言う施設の物かもしれない。


「〈サモンファミリア〉。おいで、ひーちゃん」

『キュイ!』

「お待たせ」


 ひーちゃんを召喚して法術院を目指す。ポータルは区画の中心に位置し、中央区にはそれなりに距離があるので乗り合い馬車を利用す――。


 ――ガララララララ。


「え」

『キュ?』


 目の前を通り過ぎてしまう馬車。タッチの差で馬車に乗り遅れてしまい停留所(通称馬車停)で次の乗り合い馬車を待つ事に。

 その間、ちょっと気になりシステムメニューを開く。



『☆《精霊召喚》:Lv.2』



 もうレベルが上がってる、やっぱりひーちゃんをずっと召喚し続けていれば経験値入るんだ。ならログイン中はずっとこのままがいいね。



『・契約精霊』

『1:[ひー]』

 『リトルファイアスピリット

  Lv.1 』



 こっちも事前調査通り。

 ひーちゃん自身には強さを表すレベルがあるけど加護とは関係無い。

 MSOでの私たちPCのレベルアップは“星に加護を授かり、経験を重ねて結び付きを強めて更なる力を得る”事を指すけど、精霊は“自身を鍛えて強くなる”事がレベルアップになる、要は普通のRPGのレベルの感覚らしい。

 まあ何かしら力を使わないと経験値が入らないのは一緒だし、そう意識しなくてもいいかな。


(確か……精霊もスキルを使えるんだよね)



 『スキル』

 『・〈ファイアアタック〉

  単体攻撃用火属性スキル。

  小さな火の玉となって対象に体当たりする』



 えー…………。


(ひーちゃんを敵にぶつけられるかな私……)


 そんな悩みで唸りを上げた所で、馬車の走る音が聞こえてくるのだった。



◇◇◇◇◇



 法術院に到着したのはそれからたっぷり15分程も過ぎた頃。こう広いと色んな施設をカバー出来る反面、移動中のロスが半端じゃないなー。屋根の上を飛び回る程急いでる人たちの気持ちが少しは分かったかも……。


「ようし、これ以上遅れないようにクエストをさっさとクリアしちゃおう」

『キュイ!』


 気合いを入れながら法術院に足を踏み入れ、奥へと向かう。そこにいる筈のビリエスさんにクエストの再開を申し込まなくちゃ。

 ……けど、ビリエスさんがいる部屋に入った直後。


「こんばんは、ちょっと時間を貰ってもいいかしら?」


 いきなり見知らぬ人に話し掛けられた。


「えっ、あ、はい?」

『キュ?』


 驚いて咄嗟にそう返してしまったら、それを了承したと受け取ったのか相手が話し始めていた。


「ありがとう、助かるわ。自分は鳴深(なるみ)。あまり時間を取らせるつもりは無いから少しだけ付き合ってちょうだい」


 鳴深と名乗った年上らしい女性PCは右手を差し出してきた。


「えと、あー……アリッサです。どうも。あ、こっちは精霊のひーちゃんです」

『キュイ』

「よろしく」


 今更断れる筈も無く、その手を握り返して挨拶する。一体私に何の用だろう、厄介事でないといいなー。


「それで貴女に聞きたい事があって……間違っていたらゴメンなさい、もしかして昼間にここのエントランスで痴漢に遭わなかった?」


 厄介でした!!


「あっ、お、えっ、えええっとぉ……」

「うん? ああ、人違いだった? 初期装備姿の女の子が痴漢に遭ったって話を聞いてね、探しているの……やっぱりガセネタかしら……」


 鳴深さんは悩み出してしまう。そりゃ今時初期装備着てるのなんてそうそういないでしょうから、私で当たりと思って声を掛けたんだろうなあ。

 う〜ん、こんな事を直接聞きに来るなんて何かしら事情があるのかも……そう思うとしらばくれるのも憚られた。


「う……いえ、私です……はい」

「え。じゃあ、痴漢って本当の本当に起こった事なの? ……災難だったわね」

「そ、そう思います……」


 他人に話すにはちょっとどころじゃなく恥ずかしい話題なのであまり相手の目を見ては言えなかった。

 そして、その言を受けた彼女はあからさまに不快感を露にしている。


「犯人の正体や動機は分かっている? 出来れば詳しく教えてほしいの」


 彼女の真面目な雰囲気に触発されたのか、恥ずかしい気持ちも若干鳴りを潜め、私も一度息を吐き出し背筋を伸ばして対応する。


「えと、触ったのはこちらの世界の……NPCの女性、お婆さんでした。痴漢にも一応理由はありましたけど、どちらかと言えばイタズラや悪ふざけの色が濃かったです。行為については注意しましたけど、効果があったかは分かりません」


 まああのやり取りで改善されるか分からないよね、ガニラさんだし……。


「悪い人では無いと思うんですけど……」

「……」

「……?」


 鳴深さんは私の言葉をどう受けたのか、話すのを止めじっとこちらを観察しているようだった。


「ああ、ゴメンなさい。貴女があまり気にしていないようだったから、少し安心したの」


 気にしてないかな私。すぐに追ってちゃんと話したのが良かったのかどうか……異性ならまた別だけど。


「じゃあ、そのNPCが貴女に痴漢をした、さっき言っていた理由を聞かせてもらえるかしら。それが分かれば必要以上に忌避せずにすむから」

「あ、いえ、それは…」


 《古式法術》についてはあまり話したくなかったので言葉が濁る。でも、鳴深さんの言い分は正しい。《古式法術》さえ持っていなければ問題無い、と言った方がいいのかな……。


「ああ、ゴメンなさい。言いにくいなら言わなくていいわ。ただ、同じ事がまたすぐに起きるかどうかを知りたいの。痴漢なんて好き好む人がいるとは思えないから」


 ………………彼女の言葉には、第三者がいた。真剣なのも、色々な事を聞くのもそれが理由なのか……だとしたらそれを無下にしてはだめだと、そう思った。

 それで全部では無いにしろ話してみる事にした。


「断言は、出来ませんけど……条件は特定の加護を持つからでした。それを持つならまた起こるかもしれません。ただまだ一般には知られていない加護ですので……」

「そうそう起こらない?」


 コクリ。


「多分」

「そう、良かった」


 鳴深さんはそう言うとぐでっと椅子に体を預けた。


「お陰でみんなを安心させられるわ、ありがとう。それとゴメンなさい、知られていない加護なんて簡単に教えたくない物よね」

「いえ、それはもう……あの、みんなってパーティーの方とかですか? それともご友人?」


 その人たちが痴漢シーンを目撃して不安がってたとか。だから被害者の私を探して理由を聞いてきたのかな?


「いいえ、有り体に言えばPC全体にかしら。自分はギルドに所属してるんだけど、そのギルドの活動の一環に情報提供と言うのがあるの。攻略情報とは別にその場所の雰囲気とかイメージとかをネットに公開したりね」

「雰囲気、ですか?」

「そう。例えば『このクエストは全体的にホラー系のノリ』とか『モンスター以外にも虫が大量に出るので苦手な人は注意』とか『どこどこは綺麗だから一見の価値アリ』とか、中には『美形NPC目録』なんてのもあるわ、敵の強さやダンジョンのギミック、クエストの概要・ルートだけじゃない部分の雑多な、旅行雑誌の特集みたいな情報ね」


 ああ、それはいいかも。データは重要だけど、“綺麗な景色”みたいな主観的な情報の方が見てて楽しいもんね。


「で、注意情報なんかもアップしていてね、それで痴漢騒ぎが実際どうだったか調べに来たのよ。運良くアリッサさんに会えて手早く済ませられたわ、ありがとう」


 改めて「ありがとう」と素敵な笑顔で言われて照れたりしていると、扉の方からこちらに近付く影があった。



「鳴深ッ!! こちらは収穫ありませんでしたわッ!!! そちらはどうですのッ!?!」



 ――キ、イィーーーン。


「?!」


 すぐ側でスピーカーを唸らせたような大音声が轟いた。実際には5〜6メートルは離れているのに。ああ、ひーちゃんまでキョドっている。

 カッカッとかん高くヒールを響かせて現れたのは……ええー……ずいぶんと特徴的な人だった。

 目に飛び込むのは豪奢過ぎる服だった、いや服と何と言うか……。


 それこそ、お伽噺のお姫様が着るようなキラキラ光るパーティードレス姿なのであった。


 まるで鳥の籠でも中に入っているのではないかと思うくらい綺麗に形を成すスカート(狭い所は確実に通れないと思われる)や肘まである手袋の先には現実ではまずお目にかかれないサイズの宝石が数個嵌められ、フサフサとした羽根で飾られた扇を持っている。あの、外を歩き回る出で立ちじゃないですよね。額縁の中とかが似合いそう。

 そして髪型がヤドカリの巻き貝と言うか円錐形と言うかドリルと言うか……このファンタジーな世界においてすらもはや一種の冗談なんじゃないかと思う程インパクトが炸裂しちゃっている人だった。


「ああ、ゴメンなさい。もう見つけていたの、連絡を忘れていたわ」

「あら、そうでしたのッ!! 見つかったと言うなら何よりでしたわッ!! さ、どう言う事であったのか、このワタクシにお話しなさいなッ!!!」


 以降あらましを鳴深さんが説明し、謎の人が何度も頷いている。時たまこちらに視線が向けられているのは仕方無いとは言え、どう反応すればいいのやら……。


「成・る・程ッ!!」


 パシィンッ!


 扇子が勢い良く手の平を叩き、小気味のいい音が響く。さっきよりも近いのでもはや声のボリュームがシャレにならない。


「アナタ、アリッサさんでしたわねッ!!」

「え、はい」


 彼女はガッシと私の手を取ると声とは対照的に優しく握り締めた。その瞳にはキラキラと涙が滲んでいる。


「大変な目に遭われたアナタの心中、お察し致しますわッ!!」

「は、はあ」

「ですが心細くはありません、そんな中でワタクシたちに協力してくださるその気高さッ!! 犯人すらも案じる慈愛の心ッ!! 不肖このワタクシ強く心打たれたのですわッ!! 何かお困りならばこのエリザベートにッ、エリザベート・ハルモニアにッ、何なりとお言いなさいッ!! あらゆる艱難辛苦であろうと打ち砕き、アナタに希望の道を指し示してご覧に入れましょうともッ!! ええッ!!」

「え、ええと……ど、どうも」

『キュ、キュキュ〜』


 まるでミュージカルのように大仰な身振り手振りで捲し立てるエリザベートさんに、私もひーちゃんも腰が退けていた。


「ゴメンね、この子感動のハードルがやたらと低くて、その上性善説を全面肯定するくらいのお人好しで、しかも感情の起伏が激しいものだからすぐこんな調子になっちゃうのよ」


 やれやれと頭を振る鳴深さん、1人盛り上がるエリザベートさん、頬を引き吊らせる私とひーちゃん。

 そんな光景は鳴深さんがグロッキーになった私に気付くまで続いた。遅い。……耳鳴りにまで発展しなかったのは奇跡か、またはアリッサの性能か……どっちでもいいや、ものすごく疲れた。


「では私はこれで失礼しますね」

「ええ、結局ずいぶん拘束してしまったわね。ゴメンなさいね」

「ま、まあ話題が話題でしたし、お役に立てたなら良かったです」

「健闘をお祈りしていますわッ!!」

「は、はい。ありがとうございます」


 そうして私たちは別れ、鳴深さんとエリザベートさんは外へ、私はビリエスさんに話し掛けようと歩き出すと、ふと聞き忘れていた事に思い当たった。


「あのっ、お2人のギルドってなんてお名前なんですか?」

「あ、言っていなかったかしら」

「なんとッ!! 鳴深ッ!! 協力をしていただいていると言うのにきちんと名乗りを上げずしてどうしますかッ!!!」

「ゴメンゴメン」


 バサッ!

 勢い良く羽根付きの扇を広げ、高く天に掲げるエリザベートさん。


「遠からん方は音に聞き、近くば寄って目にも見てくださいましッ!!! 我ら、平和の為にと日夜努力を惜しまぬ戦乙女たちへ声援を送る為の誇り高きギルドッ!!!」



「その名もヴァルキリーズ・エーーールッ!!! どうぞお見知りおきくださいませッ!!!」



 ……え。

 野々原武、43歳。

 野々原千鶴、41歳。


 作中が2041年なので現在2人は中高生だったりします。色々と読んだり見たりしてるのでしょう。もしかしたらなろうも読んでたり、とか。

 でも子供の頃にカッコイー! と見ていた作品も、今となると他の面にも目が行き素直にそうは思えなくなってるもので、MMORPG作品のハードな描写を親側が知っていたら、ゲーム機が実現した時に子供がプレイしたいと言ってもやっぱり二の足を踏むだろうか、とか思いましてちょっと書いてみました。

 コミュニケーションて大事。

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