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第17話「甘やかな関係」Ver.A


 どうも047です。


 目次で第17話が2種類表示されている事と思いますが内容について変わりはありません。

 変更点は以前の第10話同様、本を読むシーンでの文章のみです。

 Ver.Aでは原文ままでひらがな。

 Ver.Bではアリッサが脳内変換した(と言う設定)で漢字となっています。


 先に記した通り内容は同じですので、皆様のお好きな方をお読みください。

m(__)m




「おお〜〜っ! とうとうお姉ちゃんがはじまりの森を突破したんだね! おめでたいからピーマンあげる」

「ありがとう、お礼にピーマン全部あげる」

「ぎゃーーーーっ!?」


 などと言うコントを繰り広げながら、花菜に今日の報告をする。何せようやくはじまりの森を抜けられたのだから。


「うう、う……苦いよう青臭いよう、でもお姉ちゃんの箸が触れてるから食べる」


 もしゃもしゃと涙目になりながら青椒肉絲のピーマンを肉と一緒に、頭の痛くなる理論武装で平らげていった。

 ちなみに今日の晩ごはんは家族全員が揃っている。帰宅したお父さんは缶ビールを飲んでご機嫌、お母さんもご相伴に預かっている。その所為か普段ならピーマン投下などしたら厳重注意だけど、今のやり取りも苦笑混じりに黙認された。



 土曜という事で後片付けを花菜と2人で済ませる。両親はお酒とお摘みで第2ラウンドに突入している。


「もう、お父さんあんまり飲み過ぎないでよ?」

「大丈夫だ、俺は酔っぱらってない酔っぱらってない」

「タコみたいになって言っても説得力無いわよアナタ」


 見事な赤ら顔を晒しているお父さんを、枝豆を摘みながら冷やかに見ているお母さん。

 どうにもお父さんの有り様を見ると成人してもお酒を飲むのに一抹の不安を感じてしまう。

 対してこの10年、お母さんが酔っぱらった所を見た例が無い。一体どれだけ強いというのだろうか。


「あたしが見てるから上に行っても大丈夫よ」

「そだね」


 手を振ってリビングを後にした。

 花菜は後ろからチョコチョコとくっついてきていて、隙あらば絡んでこようと画策している。階段に差し掛かると、2人並んで上れる程ゴージャスな造りではないので一旦大人しくなる。

 ……丁度いいかな。


「……ねえ、花菜。ちょっと時間ある?」

「ハッ! それって愛の告「やっぱいいや」ごめんなさいすみませんあたしが悪かったです見捨てないでー?!」


 了解を得たので花菜を私の部屋に招き入れる。

 花菜は私の部屋に来た時にいつも使っている青いクッションに座った。あれはいつだったかな、授業で作ったのでプレゼントした物なのだけど、それをあの子は何故か当の私の部屋に置いたのだ。

 曰く「恋人の部屋に私物を置いておきたい衝動に駆られた」との事で、その瞬間に廊下に投げ出しかけた。結局押しきられたんだけども。

 ただそれなりに月日も経っていて、くたびれてもきているのでちょくちょく修繕している。


「それで話ってなーに?」

「ん…………ね、花菜」

「うん? どしたのお姉ちゃ――――?!」


 きゅ。


 私は膝立ちのまま花菜の頭を抱き締めた。


「お、ね?!!?」

「今日ね。花菜たち以外で初めてフレンドが出来たの」


 セレナと、天丼くん。

 偶然で、突然な出会いだったけれど、出会えて良かったと、思えた2人。


「でね、その人たちと一緒に色々してみたの。一緒にお弁当を食べたり、一緒に戦ったり……って言ってもさして役に立ってはないんだけど」

「…………」

「でも楽しかった。誰かと一緒なのが嬉しかった。その時改めて思ったの、きっと足手まといでも下手くそでも一緒なら楽しめたのに、私は花菜からその楽しみを取り上げちゃってたのかなって」


 あの日、仲違いが解消されてMSOを再開した日。置いてきぼりになっている私を手伝うと花菜が言って、けど私は断った。

 “足手まといになるから”と。


「お姉ちゃん……」

「ごめんね。私、意地っ張りで。また花菜に寂しい思いをさせてるよね」


 ぎゅう。


 抱き締める力を少し、強くする。


「……そんな事ないよ。だって約束してくれたもん。だから待ってるよ、お姉ちゃんがあたしを迎えに来てくれるまで」


 ぎゅっ!


 花菜も私を抱き締め返してくれる。


「うん、うん……私、きっと強くなるから、花菜がびっくりするくらい強くなって、花菜を迎えに行くから」

「うんっ! そしたら色んな所に行こ! 色んな事しよ! きっとすっごく楽しいよ!」

「花菜……うん、ありがとう」

「お姉ちゃん……んー(((´3`)」


 むぎゅ。


 両手で近付く花菜の顔を押さえ付ける。むぐぐぐぐっ。


「なんでそうなるのよっ!?」

「あ、あれっ?! ようやくお姉ちゃんがデレてあたしの想いを受け止めてくれる流れじゃなかったの?!」

「違いますっ!」

「そっ、そんなっ?! ふぇぇぇ〜〜っ」


 泣きそうな顔で情けない声を上げる花菜に困り果てる。


「………………………………………………………………………………――――――――――――――――――――――――――――――〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


 いつまでもぐずる花菜を、なんだかどうにも放っておけず、つい、魔が、差し、た。



 ちゅ。



 おでこに唇を付ける。


「ぁぅ? ぉ、おね、ちゃ」

「ぁ、ちっ、違うのっ?! こっ、これはその、お詫びとスキンシップだから、それだけなの!? 決して変な意味なんて――――」


 だが、そんな私の言葉は興奮した花菜には届かない。


「ちゅ、ちゅ……お姉ちゃん、が、ちゅーして、くれっ――」


 つっ。花菜の顔を流れるそれは一筋、跡を残しながら伝い雫となり太ももへとぽたり、落ちて弾けた…………。



◇◇◇◇◇



「さすがの私も鼻血出すとかドン引ので勘弁してください」


 ティッシュを数枚引き抜き、花菜の鼻血を拭き取りながら話し掛ける。テンションもだだ下がり水面下に潜航する始末。

 ちなみに「止まる止まる超止まる。むしろしないと止まらない事おびただしいね鼻血!」と言うので膝枕中……。


「しあわせー。超しあわせー。あ、そうだ今日を『初ちゅー記念日』にしとこう」

「やめなさい」


 よりよりとティッシュで紙縒りを作りながら、やっぱりやり過ぎたと自分の行いを反省する。


「お姉ちゃんの太もも(やー)らかーい、うぇへへへーい」

「その笑い方気持ち悪いから黙って」


 その後しばらく、(具体的には発情した花菜が沈静化するまで)このぐだぐだなやり取りは続くのであった……。



「お姉ちゃん」

「何?」

「好き。だーい好き♪」

「…………そ」



◇◇◇◇◇



 げんなり。

 やっと花菜を自室へ押し込めて、一息。

 自らが招いた事態とは言え、花菜のテンションは右肩上がりであり、鰻登りであり、天井知らずであった。


「あの子は……全く、もう」


 あんな(、、、)言葉を際限無く連発されては、例え私だろうと頬を熱くされてしまう。反応に困る。


「はあ」


 吐息まで熱を持ったよう。

 ぶんぶんと頭を振り熱を払う。


「何かしよう、何もしないから熱がこもるんだから」


 と言う事で部屋を見回す。課題は済ませたし、後はテレビかゲームか本か…………本?


「あ」


 そうよ絵本! アラスタの図書館で借りてたまま読んでない!

 借りたの昨日だから、返却は明明後日くらいでまだ先だけど……さすがに今日はもう攻略に出るつもりは無いし(服は洗濯中の筈)、絵本を読んでしまうには丁度いいかもしれない。


 ベッドに横たわり、脇に退けていたリンクスを被る。

 スマート端末を手に取ると、メールが溜まっていたので20分ちょっとやり取りしてから、改めてリンクスを起動した。




◆◆◆◆◆




 目を醒ます。窓から射し込む陽は傾き夕方に差し掛かっていた。


 キシッ。


 うさぎスリッパを履いて、杖を立て掛けていた机に向かう。

 古びた机は木製で傷も多いけど頑丈そう。引き出しは横に長いのが1つ、右側に短いのが3つ、縦に大きいのが1つ、材質はともかく形としては割とよくあるタイプ。

 一応中を覗いたけど、全て空だった。何かしら入れてもいいのかな?


 椅子を引いて座る……あ、木の椅子に直接座るとちょっと硬い。クッションでも欲しいかも。


「さて、と」


 まず《杖の心得》と《言語翻訳》を入れ換えて、ポーチから…………………………ポーチ?


(あっ、あああっ! そうだよっ、ポーチは他の服と一緒に洗濯してもらっているんだった!?)


 ガガーン。すっかり忘れてた、どうしよう……。


(…………ポーチは無いけど、システムメニューからならどうなんだろう?)


 だめで元々とシステムメニューの[アイテム]を選択する、リストが開ける事に安堵しつつ中を探す。



[アイテムリスト]

『▲

・図書館会員証

  [×1]

・はじまりのものがたり 3かん(レンタル)

  [×1]

・はじまりのものがたり 4かん(レンタル)

  [×1]

・はじまりのものがたり 5かん(レンタル)

  [×1]

・ビッグスパイダーの唾液

  [×1]

 ▼』



 あ、あったあった。目当ての絵本をタップしてサブメニューを開く。いくつかの項目の中から[実体化]を選択する。が。



 ピーブ!


『【Caution】

 種別[収納]に該当するアイテムを装備・指定していない為、アイテム『はじまりのものがたり 3かん(レンタル)』を実体化出来ません。

 [戻る]

 ▼』



「ああ、やっぱりだめ……ん? スクロール出来るの?」


 ウィンドウ下部の三角マークはスクロールの印、私はそれをタップした。



『▲

 【Caution】

 システムメニュー[オプション]項目[実体化先指定設定]よりアイテムの実体化先を任意に設定可能です。

 実体化先を設定後、再度実体化プロセスを実行してください。

 [戻る]』



「???」


 ウィンドウに表示された文章を読んで首を捻る。


「えっと……これはつまりアイテムポーチ以外からでもアイテムを取り出せるようにする設定、って事なのかな?」


 そう言えば説明書のオプションのページにそんなような事が書かれていたような。


「でも、種別[収納]なんてアイテムは…………………………収納?」


 体を後ろにずらして、今自分が座っていた家具を見る。


「机……引き出し……収納?」


 もしかしたら……ともあれ方法があるかもしれないのなら試してみよう。私は[アイテムリスト]を閉じてオプションウィンドウを開き、先程の指示に従ってみる。



[実体化先指定設定]

『☆:初心者のアイテムポーチ』

『1:−

 2:−

 3:−

 4:−

 5:−

 6:−

 7:−

 8:−

 9:−』



 1番上のだけが☆マークだけどこれはアイテムの最大保有量がここに設定した物に依存し、また音声入力で取り出せるのがここに設定した物のみ、と言う印だったと記憶している。

 そしてそのアイテムポーチは文字の色が灰色になってる。マーサさんに預けてるから使用不可、って事かな? 


(えと……確か……)


 説明書を思い出しながら私は1番をタップする。するとアイテムポーチの時のように指が光り始めたので、目の前の机に触れてみる。効果音が響き、ウィンドウに変化があった。



[実体化先指定設定]

『☆:初心者のアイテムポーチ』

『1:ヘイゼル家のレンタル

 2:−

 3:−

 4:−

 5:−

 6:−

 7:−

 8:−

 9:−』



 この机のアイテムとしての名前が新たにリストに加えられてる。レンタルなのはこの家の居候だからだとして……えと、これでいいのかな?

 [実体化先指定]を終了して再び[アイテムリスト]へと戻り、実体化を試みる。

 すると今度はアイテムポーチがそうであったように5つある引き出しが淡く光を放つ。その中の1つ、右側1番上の引き出しに手を掛けると光は消えた。

 スッと引き出しを引くとそこには1冊の絵本が入っていた。


「良かった、これでポーチが無くてもアイテムを出し入れ出来る」


 ホッと一安心。私は引き出しから『はじまりのものがたり 3かん』を手に取り、同様の手順で残りの2冊を実体化し、大きく薄く硬く正方形の表紙の絵本らしい装丁の絵本が3冊、机の上に置かれた。


「『はじまりのものがたり 3かん』。ん、読める読める」



 表紙の文字はしっかり日本語として変換されてる、《言語翻訳》の効果がちゃんと発揮された証拠だ。

 表紙には大きくまん丸くなった白い人の体の一部と、小さな白い人が2人手を繋いだ絵が描かれている。

 私は表紙に手を掛けた。



◇◇◇◇◇



 さいしょのよいかみさまと、そのからだのなかのわるいかみさまがねむりにつき、ふたりのちいさなかみさまがのこされました。


 のこされたふたりのちいさなかみさまはこれからどうしようとかんがえました。


 みぎのからだだったかみさまはいいます。もううごけないさいしょのよいかみさまがさみしくならないようにかぞくをふやしたらどうだろう。


 ひだりのからだだったかみさまもいいます。それはいい、きっとさいしょのよいかみさまもよろこんでくれるよ。


 まずふたりのちいさなかみさまはじぶんたちでこどもをたくさんたくさんつくりました。

 ちいさなちいさなこどもたち、なまえをおほしさまといいます。みんななかよしでさいしょのよいかみさまのまわりはすごくにぎやかになりました。


 でもみぎのからだのかみさまはまわりがくらいとおほしさまがこわいかもしれないとおもいました。

 なのでまわりをあかるくしようとそらにのぼりました、みぎのからだのかみさまはおひさまになったのです。


 つぎにひだりのからだのかみさまはきづきました、おひさまのはんたいがわはまっくらのままだったのです。これではあぶないとおもいましたがあかるいばかりではおちつきません。

 そこでおひさまよりもよわいひかりでてらそうとやはりそらにのぼりました、ひだりのからだのかみさまはおつきさまになったのです。


 でもおほしさまはふたりがいなくなってしまったとさびしがります。えーんえーん、そしてとうとうじぶんたちもそらにのぼってしまったのです。


 おひさまとおつきさまはあわてました。これではさいしょのよいかみさまがさびしがってしまいます。


 おほしさまはそんなふたりにもうしわけなくおもい、なにかできないかとかんがえはじめたのです。



◇◇◇◇◇



 みんながみんなそらへとのぼってしまい、おほしさまたちがなにかしたいとかんがえはじめました。


 ですがおほしさまたちがあんまりねっしんにあっちこっちでうごきまわったのでびゅうびゅう、びゅうびゅうとかぜがまきおこってしまいます。


 これはたいへん、これではさいしょのよいかみさまがさむそうです。


 こまったこまった、おほしさまたちがあわてふためいたそのときです、おほしさまたちのまわりにきらきらひかるみずがあったのです。それはよいかみさまがながしたなみだでした。


 おほしさまたちはなみだにじぶんたちのかけらをいれて、よいかみさまがさむくならないようにおふとんにしてかけてあげました。


 それをみたおひさまとおつきさまもなにかできないかな? とかんがえました。


 そしておひさまはじぶんのかけらからめらめらもえるあったかいひをうみだしました。

 おなじようにおつきさまもじぶんのからだからおようふくをつくり、おふとんからでてしまっているからだをつつんであげたのです。


 やがてさいしょのよいかみさまはとってもきもちよさそうにねいきをたてはじめました。


 するとどうしたことでしょう。おひさま、おつきさま、おほしさまたちのかけらとさいしょのよいかみさまのねいきがまじりあい、ちいさないのちたちがうまれたのです。


 ちいさないのちたちはいろいろなしゅるいがいました。

 つばさをひろげてそらをとぶもの、すいすいとみずのなかをおよぐもの、だいちのうえですごすもの、そしてかみさまたちとよくにたすがたのものもいます。


 ちいさないのちたちはまたたくまにふえていきます。さいしょのよいかみさまのうえにたくさんたくさんふえていきます。


 そしてちいさないのちたちはよいかみさまがさびしくないようにずっといっしょにいてくれるとやくそくしてくれました。


 おひさまとおつきさまとおほしさまはありがとうありがとうとおおよろこびしました。


 おひさまはおれいにめぐみをあげることにしました。


 おつきさまはおれいにやすらぎをあげることにしました。


 おほしさまたちはおれいにてだすけをすることにしました。


 ちいさないのちたちはありがとうとみんなにかんしゃしました。


 こうしてみんながえがおになり、おひさまとおつきさまとおほしさまはそらからみまもってくれることになったのです。



◇◇◇◇◇



 そしてながいながいあいだせかいはへいわでした。


 しかし、あるときわるいかみさまがまたおきてしまったのです。


 うごけないわるいかみさまですが、わずかなすきまからたのしげなこえがきこえておこりだしました。


 じぶんはうごけないのにたのしそうにしている、なんてやなやつらだ。


 そうおもったわるいかみさまはすきまからじぶんのかけらをまきちらしました。


 あいつらがひどいめにあえばいいという、わるいかみさまのおもいによってかけらはよいかみさまのうえでちいさないのちたちとおなじくらいのおおきさになりました。


 ちいさないのちたちはそれらを“ま”とよんでこわがりました。


 まはちいさないのちたちにいじわるをはじめます。


 ちいさないのちたちはなきました。なんでひどいことをするんだとなきました。


 そらからそれをみていたおほしさまはたいへんだとちいさないのちたちがなかないようにてだすけをすることにしたのです。


 こうしてちいさないのちたちはなかずにすむようになりましたが、かわりにまたちがなきはじめました。


 あんまりながくなくものですから、わるいかみさまがきづきました。


 なかされたのがじぶんのかけらだとしると、こんどはてだすけをするおほしさまのじゃまをすることにしたのです。


 わるいかみさまはまほうをかけます。それによりおほしさまはねむってしまいてだすけがなくなりました、ちいさないのちたちはまたなきだしてしまいます。


 いいきみだとわるいかみさまはぐうぐうとねむりはじめました。


 なげいたのはおひさまとおつきさまです。おほしさまもちいさないのちたちもとてもたいせつだからです。


 そこでおつきさまはきめました。おほしさまをねむらせつづけるまほうのちからをじぶんにうつすことにしました。


 おひさまはじぶんもてつだうといいましたが、おひさまがいなくなったらくらくなってしまうとせっとくしました。


 そして、おつきさまはじぶんからまほうにかかってふかいふかいねむりにつきました。


 でも、まだおほしさまはねたままです。まほうはとけたけど、どうやらおこしにいかなければいけないようです。


 おひさまはなやみました。じぶんはめぐみをあたえるためにせかいをぐるぐるまわらなければいけないからおこしにいけません。

 どうすればおほしさまをめざめさせることができるのでしょう。


 そこでおひさまはおもいだします。おほしさまはどこでもてだすけできるようにいろんなところに“きずな”をむすんでいたのです。それをたどればおほしさまをおこせるかもしれません。


 おひさまはじぶんのからだからかけらをきりはなし、ちいさないのちたちとおほしさまがむすんだきずなをさがすようにおねがいします。


 かけらはおほしさまをわるいかみさまからまもれますようにと、“ほしもり”となづけられました。


 こうしてうまれたほしもりたちはいまもおほしさまをおこそうとがんばっているのです。



◇◇◇◇◇



 そうして物語は終わっている。ただし、最後のページは空白だった。


(現在進行形の絵本、か)


 どうやらこの先のストーリーがどうなるかは私たちプレイヤーの双肩に掛かっているみたい。


(出来るならハッピーエンドにしてあげたいな……)


 パタン。


 絵本を読み終わった私は1つ息を吐き、軽く伸びをした。


「……ふう」


 一気に読んでしまった。なんと言うか突飛な話だったなあ。

 太陽と月とこの大地が神様だとか、大地の奥に悪い神様が封じられているとか。


(絵本の通りなら、アリッサのお父さんって太陽? いえ、表現的にはクローンとか分身とかかな)


 漠然と実があるのか微妙な思索に耽りながら、さてどうしようと首を捻る。

 今からどこかに出掛ける、と言う選択はあるにはある。


「でも、これじゃあ……」


 ご存じパジャマ姿の私。杖以外の装備はマーサさんの手で洗濯中なので、外に出るのは私の常識的見地からして無理だった。

 マーサさんに預けてから2時間と経ってないのだから乾いている筈も無い。しょぼん。


 今他に出来る事はせいぜいこの絵本を読み返して《言語翻訳》のレベルを上げるくらい?


(こんな事なら『はじまりのものがたり』以外も借りちゃえばよかったかなあ、まあこんな事態になるのを予想なんて出来なかったから後の祭りなんだけど)


 一度に借りられるのは何冊までとか言われなかったし、後悔はついしてしまう。


「……あ、そうだマーサさん。確か最後に会った時に――――」


 先程お礼を言いにマーサさんの私室を訪ねた時、マーサさんはメガネを掛けていた。


「もしかしたら何か本を持ってるかも……」


 本を読む為かは断言出来ないし私が読めるレベルの物かは分からないけど、可能性はある。時刻はまだお昼過ぎだから寝ているという事は無い筈。


「ダメ元で聞いてみようかな」


 お休みなさいと言った傍からでなんだけど、他にする事も思い浮かばない。


 カタッ。


 とりあえず、尋ねるだけ尋ねてみよう。杖を置いたまま、私はドアノブに手を掛けた。


 キィ。


 だけどドアをわずかに開いた時、私は違和感を感じた。隙間から漂うそれは、甘く香ばしい匂い。


「何、これ……(すんすん)いい匂い……マーサさんが料理をしてるのかな?」


 ならまずは台所に行こう、足を階段に向けて前進する。


 ぽてぽてぽてぽて。


 階段をテンポ良く降りる。

 服装がパジャマな事もあり、なんだか現実にどこかの家にお泊まりしている気分になってしまう。肌の色と金髪が今の自分がアリッサで、ここがゲームの中なんだと認識させてくれるのだけど。


 甘い香りに誘われるように廊下の突き当たりのドアから台所へと入った。


「あの、マーサさん少しお聞きしたい事が……」

「あらら?」

「ふむ?」



 …………あれ?

 最後の声、誰?



「あらら、アリッサちゃん、もう起きちゃったの?」


 テーブルでお茶を飲んでいたマーサさんが目を丸くしてこちらを見た。そしてその向こう側で同じくカップを手に持つ、3人目の声の主。

 ティーカップをソーサーに静かに戻して立ち上がり、私へ優美な所作で一礼する。


「お初にお目に掛かります、お嬢さん。わたくし、星守のセバスチャンと申します。以後お見知り置きを」


 そう、目の前の老執事(、、、)が名乗った。


「ごっ、ご丁寧にどうも、あ、こんな格好ですみません。星守のアリッサです。マーサさんのお家でお世話になって、星守?!」


 星守って事は……。

 背筋を伸ばし、ニコリと笑うお爺さんをじっと見つめる。


「じゃああの、プレイヤーの方……なんですか?」

「ほっほっほ。勿論ですとも」


 びっくりした。


 MSOにおいて外見年齢は基本的にプレイ時に必要となる個人情報に記載される生年月日が参照される(老け顔幼顔くらいの誤差はあるだろうけど)。


 これだけ聞けば外見年齢の操作は容易に思えるかもしれないけど、リンクスと言う殊更特異なゲームハードをプレイする際には指定医療機関での健康診断を受け、その結果をマイナンバーに基づいた申請書類に添付して公的機関に提出、専用のメモリユニットに許可証(パス)データを交付してもらう必要があり(持病などがある場合は弾かれるとかなんとか)、そのメモリユニットをリンクスにセットしない限りはリンクスは起動しない程に厳しい基準がある。

 私の場合は花菜が自分のリンクスを買った際に私も遊べるようにと一緒にさせられた(結果としてそれが抽選で当たったリンクスをすぐに遊べた理由なのだけども)。

 その中に最低限の個人情報が(もちろん生年月日も)登録されていて、MSOではそれに準じてキャラクターの外見年齢を設定する。

 もちろん第三者のパスデータ入りのメモリユニットを入手し使用すれば年齢の詐称は可能だけど、それは他人の運転免許証を自分の物と偽って車を運転するようなもので、それより罪は軽いものの軽犯罪法違反にはなるのだと交付の際の説明で係員の方に強く言われているし、あまり現実的ではない(と思いたい)。


「あ、もしかしてランダム設定……ですか?」


 それ以外に外見年齢を変更するには初期設定(私が花菜任せにしたアレ)で、[個人情報参照]から[ランダム]に設定を変更する方法がある。

 こちらは外見年齢を容姿と同様に完全にランダムで決定すると言う微妙にリスキーな物。これにすると『40代の少女』も『10代の老人』もあり得る。

 だけど答えは――。


「ほっほ。いいえ、今年で70と1になる正真正銘の老いぼれですぞ」

「じゃあ本当に……? あ、すみません出会い頭に不躾な事を」

「お気になさらず、貴女のような方との話の種になるのであれば、老いさらばえる事も捨てたものではありませんとも、ほっほっほ」


 お爺さん、セバスチャンさんは私の困惑を正確に読み取っていた。これはこういう事態によく陥るのか、それとも年の功と言うものなのか。


「あらら、自己紹介はすんだかしら?」

「あ、はい」

「ええ、滞りなく」

「じゃあセバスちゃん、アリッサちゃん、よければ一緒にお茶にしないかしら?」

(な、なんだか今『セバスチャン』のアクセントが違ったような……)


 ともあれマーサさんからの突然の提案に、私はセバスチャンさんへと視線で伺いを立てる。


「わたくしとしては願っても無いお誘いですな。アリッサさんがご不快で無ければ、是非」


 恥ずかしげも無く、ナチュラルに誘われた。むしろ誘われたこっちが恥ずかしくなりそう。


「え、う、でもお2人でお茶をしてらしたなら、私お邪魔じゃありませんか?」

「いえいえ、そんな事はありませんとも。実はわたくし、マーサさんからお菓子作りのレクチャーを受けておりまして、今日もピーチパイを作ったのです」


 そう、テーブルの上には私の部屋まで漂ってきたあのいい匂いを放ちまくっているこんがり焼かれたピーチパイが切り分けられている。……ゴクリ。


「マーサさんにもお褒めいただいた出来でして、2人だけで食べてしまうには実に惜しい。そこにアリッサさんが来てくださったのです、なんと言う幸運でしょう。どうぞこの老いぼれを助けると思って食べてやってはくださいませんか?」


 大袈裟な身振り手振りで「気にしなくても構わないですよ」と言うセバスチャンさん。


「くすっ……はい、ありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらいますね」

「おお、そうですか。ではどうぞ、お座りください」


 そう言うとマーサさんの隣の椅子を引いてくれる、私が照れながら促されるまま腰を落とすと、音も無く椅子が押し込まれる。

 セバスチャンさんはテキパキと紅茶を淹れ、円形のパイを八等分してお皿に載せる。私の前にはあっという間にお茶の用意が出来ていた。

 また、それに輪を掛けて雰囲気を醸し出すものがある。だってセバスチャンさんは黒のスーツに白手袋、クロスタイなんて服装なものだから、まさしく執事さんにもてなされてるような気分になってしまう。


「セバスチャンさんってまるで執事さんみたいですね」

「ほっほ。そう言ってもらえるのは嬉しい限りですが目指している、と言った方が近いやもしれません。何しろ未だに主のいない身ですからな」


 そうしてマーサさんの向かいに腰掛けたセバスチャンさんとのお茶会が始まった。



「わあ……セバスチャンさん、このピーチパイすごく美味しいです」


 フォークで一口、ぱくりと食べるとサクサクの香ばしい生地、その中に閉じ込められていた控え目な甘さの桃ととろけるカスタードクリームの奏でる三重奏に、ついつい表情筋から力が抜ける。


「おお、アリッサさんのような美しい方にお褒めいただけるとは、作り続けた甲斐がありましたな」

「かふっ……?! お、臆面も無くそんな事言わないでくださいよう……もくもく」

「あらら、あらら」

「ほっほっほ、いや可愛らしい」

「ううう〜〜」


 好好爺然としたセバスチャンさんにからかわれているのではあるまいか私。


「アリッサさんはいつ頃からマーサさんのお宅にお住まいに?」

「昨日からです。その、色々あって……」

「あらら、私がお願いしたのよ。ガンツが出ていってすっかり寂しくなっちゃったから、本当に嬉しかったわ〜」


 ほんわかと嬉しそうに微笑むマーサさんを見て、私とセバスチャンさんにも笑みが浮かんだ。


「そういえばアリッサさん。こちらにいらっしゃった時、マーサさんをお探しのようでしたが、何かご用がおありだったのでは?」

「あ」

「あらら?」


 わ・す・れ・て・た。


 私マーサさんに本を借りようとしてたんだった。セバスチャンさんとピーチパイのインパクトに追いやられてしまってた……。


「いえ実は、時間が空いたので本を読んでいたんですが、読み終わってしまったのでマーサさんが何か本を持っていらっしゃらないか尋ねようと思って」

「あらら、そうだったの。じゃあ今持ってこようかしら」

「あ、いえ、暇潰し程度のものでしたし、それに私まだ簡単な本じゃないとまともに読めないので……」


 ひらがなですらやっとなので、大概の本はアウトです。


「あらら、大丈夫よ。昔ガンツに読み聞かせていた絵本が押し入れにしまってあるわ、ちょっと待っていてね」


 そう言ってダイニングを後にするマーサさん、それを見送っていた私にセバスチャンさんが話し掛けてきた。


「楽しそうですな」

「え?」

「マーサさんですよ。わたくしもせいぜい2、3週間のお付き合いでしかありませんが、若い方と話してらっしゃる姿はとても楽しそうに映ります」


 目を細め、頬を緩める。それが心底嬉しいと、そう思っているかのように。


「だと、良いです。私がいる事で少しでもマーサさんが楽しんでくれているのなら……今までお世話になりっぱなしですから、私」

「なんのなんの。手のかかる子程、年寄りは可愛く思えるものですよ」

「それは困りますよ。手のかからない子になれなくなります」

「ご安心を。若者が育つのは、いつの世も年寄りには心地よいものですとも」


 くすくす。

 ほっほっほ。


 どちらからともなく、笑いが溢れる。


「あらら、ちょっと席を外した間に2人ともすっかり仲良しさんね。お婆ちゃん寂しいわ〜」


 と、そこに本を数冊抱えたマーサさんが戻ってきて、そんな事をニコニコと満面の笑みで言う。その様子に私たちはより朗らかに笑っていた。


「あらら、そうだわアリッサちゃん。これなら大丈夫かしら?」


 マーサさんは抱いていた本を私に差し出してきた。『はじまりのものがたり』と多分同じくらいのサイズ、ずいぶんくたびれていてずっと昔から読まれてきたんだろうなと思わせる。

 私はその本をそっと壊れ物を扱うように受け取り、表紙の文字が読める事を確認すると、マーサさんに精一杯の笑顔を向けて感謝を述べた。


「はい、ありがとうございますマーサさん。大切に読ませてもらいますね」


 これはマーサさんと息子のガンツさんとの大事な大事な思い出の品なのだから無下には扱えない、いえ扱っちゃいけない。


「良かったですね、アリッサさん」

「はいっ」

「さて、ではそろそろよい時間ですし、わたくしはお暇させていただきましょうか」


 私たちのやり取りが一段落すると、今度はセバスチャンさんが立ち上がり帰宅する旨を告げる。私がログインしたのが8時前で、今はもう9時に近い。


「あらら、そう。ああ、ピーチパイはどうしましょうね」


 パイの残りは4分の1、サイズはそう大きくもないから1、2人でも食べ切れる。もしかしたら1人でも平気かもしれない。いえ、いける!


「そうですな……ふむ。アリッサさん、宜しければわたくしのピーチパイを貰ってはくださいませんか?」


 ……いけない。考えていた事が顔に出てたのかな。


「お近づきの印、と言うには少々物足りない品ではありますがな」

「でも、いいんですか? せっかく作ったのに」

「ええ、せっかく作ったので、アリッサさんのような可愛らしい方へ贈りたいのですよ」

「ぁぅ……わ、分かりました、ピーチパイはありがたくいただきます。でも……あまりからかわないでくださいよー」


 可愛らしい、とか言われるのが地味にダメージが発生するのです……恥ずかしいから。


「おや、アリッサさんは実際可愛らしいと思うのですがいかがでしょう?」

「あらら、そうねぇ。確かにアリッサちゃんはとっても可愛い女の子だと思うわ〜」

「ちょっ、ちょっと〜っ」


 きっと、今の私の顔は真っ赤に染まっているに違いない。


 そして数度同じようなやり取りが行われ、私がグロッキーになった所で2人が満足したのかやっと終わった。

 今はセバスチャンさんを見送りに玄関まで出てきていた。


「では、マーサさん、アリッサさん。またいずれお会いいたしましょう」

「あらら、またねセバスちゃん」

「ま、また来てくださいね……お休みなさいセバスチャンさん」


 若干頬が引きつるのはもうしょうがない、セバスチャンさんの所為ですからね!


「ええ、お2人も良い夢を」


 最後に執事らしく一礼し、黄昏の街の中へと消えていった。



◇◇◇◇◇



 キィ、パタン。


 セバスチャンさんが帰った後、私はピーチパイを夜食として持って自室に戻ってきた。


 ぽすん。


 ベッドに腰掛ける。膝の上にはピーチパイ、マーサさんから借りた絵本は机に置いてある。


「ふう、あんな人もいるんだ……はむ」


 貰ったピーチパイを食べながら思う。

 セバスチャンさん。執事を目指すお爺さん。さすがにびっくりしたけど……ゲームを楽しむのに年齢は関係無いのかもしれない。


「さて、と」


 ピーチパイを完食した私は机に向かう。わざわざマーサさんから借りたんだから、絵本を読んでみよう。一冊読むのにそう時間は掛からないだろうし、全部読み終わる頃にはログアウトに丁度いい時間になると思う。

 1番上の絵本に手を伸ばす。



◇◇◇◇◇



「むう」


 4冊目『きたのはてのおうさま』を読み終わり、ぱたりと表紙を閉じる。



 寒さで誰もいなくなってしまった北の果ての国。そこにたった1人残った王様は屋根に積もる雪で家々が潰れないように、毎日毎日雪を降ろし続る。

 国を寒くしてしまった意地悪魔族に屈するものかと、毎日毎日、体が震えても、手がかじかんでも、諦めずに。

 やがてそんな王様の噂を聞いた国民が1人、また1人と帰ってきて、国は再び活気を取り戻していった。

 魔族はそんな人たちを理解出来ずに畏れ戦き、去っていった。


 最後は国民と手を繋ぐ笑顔の王様のイラストで締められる。



 1つ、気付いた事がある。

 ここまでの4冊の本に共通する事。

 1冊目の『みえないどうぶつ』も、2冊目の『ゆうしゃのけんとなきむしこぞう』も、3冊目の『ゆめをみれないおひめさま』も。



(星が描かれてない)



 どれも夜空こそ描かれていてもそこにただの1つも星は無かった。

 でも当然かもしれない、星守が現れてそう年月は経っていない筈。だからマーサさんの息子さんが小さな頃、この世界には星空が存在しなかった(、、、、、、、)。この絵本を描いた人も星空を知らなかったのだろうか。


 絵本からも忘れられるくらいの長い月日。

 正確な年月は説明書にも書かれてなかったけど、それはどれくらいだろう?


(少なくとも何十年か、あるいはもっとずっと長く……ティファから間接的に聞きはしたけど、こうして実際に過去の物に触れると、実感する)


 最後の5冊目……一等古い絵本『ぼうけんずきのコックさん』に手を伸ばす。


(ずっとずっと、この世界の人たちは辛い目に遭ってきたんだろうな……)


 ずいぶんと色褪せた表紙には包丁とフライパンを持ち、リュックを背負ったコックさん。


(……がんばろう。私だって少しは、何かの役に立てるかもしれないんだから)


 私は、表紙を捲った。


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