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第102話「スマイル・フォー・ユー」




 最後に立ち寄ったライフタウンまで転移するスキル〈リターン〉により800メートル級のテーブルマウンテンであるブラネット高地から麓のディドブラ村へと帰還した私とセレナ。

 ハロウィンらしく黒とオレンジを基調に飾り立てられたイベント仕様の村は一昨日までとはまるで違う顔を見せていて……。


「…………」

『キュー……?』


 私は隠れていた。

 具体的にはセレナの背に隠れて縮こまっていた。


「要するに、これがまだ戻ってくるなっつってた理由なワケね」

「いやぁ、俺も死に戻ってみたらコレだからな、ビビったビビった」


 呆れを含んだセレナの問いに答えた天丼くんはうんうんと首を振り、その時の事を思い出しているようだった。


「いやはや、この事態を目の当たりにした時はどうしたものかと……アリッサさんが以前(、、)仰っていた事(、、、、、、)が実際に起こるとはびっくり仰天ですな」


 そう、以前私は人目に慣れろ云々と言われ、それにセバスチャンさんが「古典的な所では、舞台から見える観客は南瓜と思え、と言う物がありますな」と言ったのだ。

 そして私はそれにこう答えた。「南瓜怖い」と。


「何でー、何で南瓜が歩いてるのー……」


 そう、村の中には南瓜を被った人々がぞろぞろと闊歩している。私が怖いと言った光景が今まさに目の前に広がっていたのだった――。



◇◇◇◇◇



「イベント名は『ハロウィン・スクリーム』と申しまして」


 外では(主に私が)落ち着かないからと手近なお店に逃げ込んだ私たち。

 そこでセバスチャンさんが今回のオフィシャルイベントについての説明を始めてくれていた。


「この時期はこの世ならざる者、亡くなった方々の魂が現世に舞い戻るのだそうです。しかし、それに紛れて悪霊などのモンスターも出現するらしく、そう言った者たちを討伐するのが主な方針となるようですな」

「じゃあ……あの南瓜が……?」

「さて。どうやらこの時期にそう言った輩が紛れ込むのはこの世界では常識となっておるようでしてな。出歩く際は目を付けられぬよう仮装をするのは珍しい話ではないそうです、中でも南瓜はその代表格なのだとか」


 それは……仕方無いとは言え、それでモンスターがどれなのか余計に分からないと言うのはどうなのか……。


「王都なんかじゃこれに合わせてPC連中が好き勝手にコスプレしてるみたいだぜ」

「私らの格好が既にコスプレだと思うけどね」

「違いありませんな」


 鎧を着込み、ウサ耳を生やした天丼くん。

 角を生やしてドレスを着たセレナ。

 執事服を着こなすセバスチャン。


「「ハロウィンに一番合ってるのはアリッサだけど」」『キュ』

「……言われる気はしてた」

「ほっほ」


 トンガリ帽子を始めとしたシルエットからすれば魔法使いのコスプレと談じられても文句は言えない。

 正直この世界で魔法使い言われるのはどうかとも思うんですけども。


「それで、討伐って言ったって具体的には何すりゃいいのよ。そこら辺歩いてる南瓜頭を片っ端から斬りつけんの?」

「ただの辻斬りじゃねぇかよ!」


 あまりに物騒な提案に天丼くんが恐々としているとセバスチャンさんが補足説明をする。


「基本的にライフタウン内ですのであまり荒事には発展しないそうですな。ただ、ライフタウンに潜り込めないモンスターが周辺を徘徊しているそうですので腕が鳴ると仰るならばそちらでどうぞ」

「冗談よ冗談、冗談だってば」


 さすがにバツが悪くなったのか、セレナは唇を尖らせながら「ったく私を何だと思ってんのよ」と愚痴っている。

 「お前だと思ってんじゃね?」と天丼くんがまた一言余計に足したので叩き合いになりかけたりしたので、セレナの分までセバスチャンさんの説明をちゃんと聞いておこうと思いました。


「ふむ。まずはこれをご覧下さい」

『キュイ!』

「っ」


 セバスチャンさんはシステムメニューからアイテムを実体化し――ガタリ、私は思わず椅子を後ろにずらした。

 その理由はもちろんそのアイテム。


「ジャック・オ・ランタンだっけ?」

「はい、アイテム名もそのものずばりですな」


 セバスチャンさんが取り出したのは南瓜だった。ドスンと音が鳴るくらいに丸々とした南瓜は中身をくり貫かれていて目と鼻と口型の穴が開けられている。

 現実ならその中には蝋燭なり照明なりを入れるだけなんだけど、さっきそれを被っていた人を何人も見ているので思わず後退りしてしまった。

 楽しげに近付けるひーちゃんが羨ましい……。


「あの、これは一体……まさか被れと?」


 断ろう。


「いえいえそのような事は。これは今回のイベントの参加証のような物でして、お2人にはまずこれを入手して頂きたい」

「なんでこんなモンが必要なのよ」

「はい、先程申しましたモンスターの討伐ですが、討伐するとこの中にポイントとして蓄積されるそうでして、そのポイントの多可でイベント終了後に何かしら景品が貰えるのだそうですよ」

「なるほど、ポイントカードとかアプリみたいな物ですか」


そう思えばポイントは貯めて貯めて貯め続けて使い時に悩む私としては忌避感は薄れていく。


「じゃ、ともかくゲットするのが第一ね。どこで手に入るの?」

「どこでも入手は可能だそうですよ。露店で売ってもいますし、NPCから譲渡しても貰えます、後は自力で作る事も可能だとか」

「最後のはパスね」


 それには賛成、時間が掛かるし上手く作れる自信も無いもの。

 と、そこでふと思った事があった。


「あの、南瓜を貰うって誰からでもいいものなんですか?」

「いえ、ある程度好感度が高くなければ――ふむ。もしや……?」

「あ、はい……ちょっと時間を取っちゃいますけど、折角ならって思って」

「ほっほ、成る程成る程。良いと思いますよ。では南瓜の件はそう致しましょう」


 見当が付いたらしいセバスチャンさんは賛成してくれた、けどセレナにも行きたい所があると言う。


「それより先に装備の修復を済ませちゃいたいわね。上であの青蜥蜴にやられまくって耐久値がほとんど無くなっちゃってるし」

「あ、そっか……」


 私たちは昨日丸々1日クリアテールさんとの戦闘に費やしている。しかも攻撃を受けてばかりいたので装備はくたびれて当然。

 むしろ最後までよく持ってくれたものと思う。


「昨日の内に頼んどければよかったんだけどねー。誰かさんに戻ってくるな、なんて言われたモンだから」

「ぬ。も、申し訳無い」

「う……」


 セバスチャンさんにそう言わせたのは私なものだからちょっとバツが悪いかも。


「ふ、2人の耐久値は大丈夫なの? 天丼くんなんてスプラッシュブレス何発か直撃してたし」

「おう、死に戻って直で行ったよ」

「は、わたくしも昨日の内にしっかりと」

「ちゃっかりと、でしょ」

「じゃあまずは王都か。お前は買ったトコに行くか?」

「そうね。NPCよかPCの方が修復に掛かる時間は短いけど、他の店で買ったモンを修復させるのもアレだし……ちょっと別行動ね」


 そうして私たちはまず王都へと向かう事となるのだけど、左右を見回したセレナが私に尋ねてくる。


「それで、妹の方はいつ頃合流するのよ? 王都?」

「あ」


 いけない、まだ説明してなかったっけ。


「それが……ギルドでレギオン規模のクエストに挑戦する事になって、一緒に遊ぶのがキャンセルになっちゃって」


 その発言に一等驚いていたのはセレナに加えセバスチャンさんだ。現実でのあの子を知っているから余計に、なんだろう。


「いっがーい、あの超絶どシスコンがアリッサとの予定をキャンセルするとか……明日辺り槍でも降るんじゃないの?」

「気持ちは分かるけど……」


 あの子がどの程度のシスコンなのかは周知の事実らしい。


「でもいいのかよ、折角今日の為にがんばってきたんだろ?」

「……うん、まあね」


 私が《古式法術》を使いこなすまであの子と距離を置いてきたのは偏にびっくりさせたかったからだ。

 それを早く成そうと断崖絶壁を登って水竜・クリアテールさんを相手に決死のパワーレベリングまで行った。

 それを共に成してくれたみんなからすれば、のほほんとしている私も不思議に見えたのかもしれない。


(みんなにはちゃんと言わないとね)


 先程あの子に語らなかった理由がある。けど、力を貸してくれたみんなには隠し立てはする気にはならなかった。

 私は自分のティーカップを両手で包み込み、唇を当てた場所を親指でなぞりながら話し始める。


「私、自分でもちょっと意外だったけど、それを知った時あんまり気にならなかったんだ。だって、力を貸してって、助けてって頼まれてたんだよ。それって誰かに必要としてもらえているって事でしょ?」


 以前、私は大勢の人に囲まれたあの子を見て、胸が痛んだ覚えがある。

 私の胸を開けば、今度もわずかに痛んだ形跡は見つけられただろう。

 けど、前に花菜はその人たちに目もくれずに私の許へ来てくれた。それがどれだけ嬉しかったか、今でも恥ずかしさと共に思い出せる。

 その気持ちを知ったから、今度の私は違う感情を抱けたんだと思う。


「誰かに頼ってばかりの私が思っていい事ではないけど、それを聞いた時私は……あの子がとっても誇らしく思えたの。やりたい事があってもその頼みを無下に出来ずに悩めるあの子が」


 表情から後ろ髪を引かれているのは見て取れた。ならと私は殊更気にする風も無く送り出そうと決められた。


「だからいいんだ。だってほら、妹を応援するのもお姉ちゃんの役割ですから」


 話を終えると急に恥ずかしさが込み上げてきて、手に持つカップを口に運んだ。

 もう温くなり始めていたそれはなんだか少し甘かった。



◇◇◇◇◇



 さすがに王都、しかもオフィシャルイベント真っ最中と言う事もあり街は活気に満ち満ちていた。

 こちらも建物は様々な装飾で飾られていた、オレンジや黒の垂れ幕やハリボテのガイコツやお化けが所狭しとひしめき合っている。

 どこからか楽しげな音楽も奏でられていて、最早昼だろうと夜だろうと関係無いとばかりに騒でいた。

 ディドブラ村とは規模から異なる。いつもの雰囲気はどこへやら、まるで王都自体がハロウィンの仮装をしているみたいだった。


「私たちはこっちだから、セバスチャン、責任取ってアリッサを注文の多い服飾店まで連れてってよ」

「は。それはもう」


 こうしてセレナと天丼くんが一旦別れて、私とセバスチャンさんとひーちゃんが一緒に行動する事となった。


「装備預けたら向かうから合流は注文の多い服飾店ね」

「了解」

「では、参りましょうか」

「はい」


 イベントに追われてか、以前よりかは視線を感じないものの、今度はその熱気に少々当てられてしまいそうだった。


「みんな楽しそうですね」


 それはPCのみならず、多くのラント人さんたちもお祭りのように街を練り歩いていた。

 中にはやはり南瓜や怖いコスプレをしている人もいてちょっとドキッとする事もあったけど、それでも楽しげな雰囲気は明るく夜の街を照らす。

 ひーちゃんもまた熱気に浮かされたのか、360度を飽きる事無く瞳を輝かせて見ている。


「……ふむ、確かに」


 しかし、私の言葉に対する反応は芳しくない。淡白な反応を訝しく思いセバスチャンさんを見ると、丁度向こうもこちらを見ていた。


「あの、私の顔に何か付いていますか?」


 まさか先程喫茶店で食事をした時の食べかすでも付いているだろうかと指を口許に這わせる。


「ああいえ、そのような事は。アリッサさん、少し気になったのですが……夜半さんに装備の修復を頼むとして、その間の装備は如何なさるのですか?」

「へ? ……あの、修復ってそんなに時間掛かるんですか?」

「いえそこまでは……ですがそれも1つ1つには、です。今はイベントの最中ですので、装備の修復依頼は通常時よりも多いやもしれません。塵も積もれば、と申します」


 う。

 確かにさっき外ではハロウィンイベント専用のモンスターなども出没するらしいと聞いた。

 多分強ければ得られるポイントも多くなると思うから、率先して強敵に挑む人もいるんだろう。

 そうして戦闘でダメージを受ければ装備の耐久値は減る。そうなれば夜半さんの所のような修復してくれるお店は混むのかも……。


「そうしたら……やっぱり初期装備ですかね」


 私には今の装備か、その購入に伴ってタンスならぬポシェットの肥やしとなった初期装備しか服の持ち合わせなんて無いもんねー……。


「いえいえアリッサさん、折角の機会なのですからして、それでは如何にも勿体無い」

「え? でも……」


 注文の多い服飾店のお洋服はそれなりの値段設定なので今の私では手を出しにくい。

 セバスチャンさんもそれは承知している筈なのだけど……?


「ええ、ですのでここは1つ――」



◇◇◇◇◇



「こんにちは〜」

『キュッキュイ!』


 軽い挨拶を向けたのは王都の大通りにずらりと並ぶ露店の1つだった。

 そこでせっせと商品の陳列に勤しんでいた女の子が弾かれるように顔を上げる。


「ア、アリ、アリッサ、お姉、さんっ!」


 ぱっと華やぐ笑顔で応えてくれたのはお久し振りのルルちゃんだった。

 以前一緒にパーティーを組んだ事もある彼女は、今はまだ露店の1つでしかないけどその時に得た報酬でお洋服屋さんを始めていた。


「こ、こんに、ちはっ。来て、くれた、んですねっ」


 若干興奮した様子の彼女はぱたぱたと可愛らしく手を動かしている。


「うん。ごめんね、ずいぶん遅くなっちゃって」


 最後にルルちゃんと会ったのはこのリリウム系の装備を受け取った日。

 その日にお店を出すと聞いていたけど、忙しさに追われて今まで来られずにいたのだ。


「そ、そん、なっ。来て、くれた、だけで、嬉しい、ですっ」


 ほんわかと微笑む彼女に癒されながら、私は今日ここに来た理由――装備の修復中に着る服を求めている事――を話す。


「お洋服、買って、くれる、んですか?!」

「うん、そのつもり。商品を見せてもらえるかな?」

「は、はいっ!」


 そうして陳列されている商品に視線を落とす。

 ルルちゃんが作るのはパラメータに補正を加える類いではなく、見た目や着心地などを重視した物で値段はそこまで高くない。

 今回のような大規模なイベントを稼ぎ時とコスプレ用衣装などもずいぶん用意しているみたい。


「ア、アリッサ、お姉さん、には、こっ、こここここっ、これっ、オススメ、ですっ!」


 でもルルちゃんはその中からでなく、システムメニューからアイテムを実体化させた。

 それは――。


「南瓜?」


 第一印象はそれだった。

 改めて見てみればそれはオレンジ色のバルーンスカート、続いてノースリーブながらフリルが多用されたシャツ、爪先が上に尖っているブーツや今も被っているような魔女帽など。

 全体像はハロウィンのコスプレ魔女と言った雰囲気。


「ハロ、ウィン、くらい、しか、着る機会、無い、ですけど……」


 それらを掲げたまま、ルルちゃんの勢いが萎んでいく。


「ううん、それにするよ。ルルちゃんが作ってくれたものだもの。いつだって着られるよ」

「っ、はいっ!」


 私はその服と普段着を何着か購入し、近くで着替えてルルちゃんにお披露目した。


「ほ、ほあ〜」

『キュイ!』


 幸せそうに私を見るルルちゃんやひーちゃんを見ているとこちらも幸せな気持ちになってしまう。


「良くお似合いですよ、アリッサさん」

「くす。セバスチャンさんも似合ってますよ」


 振り向くとそこにはいつもと少しだけ違う装いのセバスチャンさんが佇んでいた。

 いつものスーツに加えてシルクハットと大仰なマント、後は笑う口からちらりと覗く鋭い牙。

 吸血鬼に仮装したセバスチャンさんがそこにいた。


「ふっふっふ、牙が疼く……穢れを知らぬ乙女は何処か」

「ノリノリですねー」

「いえ、こう言う格好をしますとどうにも演じてしまうのはプレイヤーの(さが)と申しますか」


 この『これであなたもヴァンパイアセット』は近くの露店で見つけたそうで、嬉々として購入していた。

 と、私たちが互いを笑っていると周囲の何割か――おそらくはPC――の人がこちらを見ていた。


「……ふむ、少々目立ちましたかな?」


 セバスチャンさんがちらりと背後を窺いながら私に問うた。


「アリッサさん、大丈夫ですか?」

「――あ」


 それに即座に返せない私はまだまだだなと内心でほぞを噛む。


「……大丈夫ですよ」


 だから、せめて表面にそれを滲ませないのは意地だった。


(ルルちゃんの作ってくれた、こんなに素敵な服だもの)


 そう素敵な服、なのに背中を丸めて俯いて恥ずかしがるなんて、そんなのはきっと失礼だったんだろう。

 今更の話ではある。リリウム装備を着込みながら恥ずかしがっていたのだから。

 けどこうしてルルちゃんが目の前にいるから、いつもよりもずっとそう思う。

 だからせめてと胸を張る。


「……左様ですか」


 セバスチャンさんはそれをどう受け取ったのか。ただ淡い笑顔と短い返事だけで終わらせた。


「あ、あの……」


 周囲の様子に気付いたのか、ルルちゃんはやにわにオドオドと視線を動かしている。

 その姿は小動物のようで、気持ちはほんわかと安らいだ。


「ルルちゃん」

「は、はいっ」



「素敵な服を作ってくれてありがとう」



 出来る限りの気持ちを込めて、そう言った。気持ちのままに、笑顔になった。


「――はい、ワタシも、嬉しい、です」


 互いに笑顔を交わすと背中に声が掛けられる。


「すいまっせーん、ちょっと時間貰えますかーっ?」

「は、はい?」


 結構な大声にびくりと体を震わせつつ振り向くとそこには……。


「フッ、フランケンシュタイン……?!」

『キュキュ?!』


 顔色は青ざめ、目は白目、頭にはすごく大きなボルトが突き刺さった見上げる程の大男がいた! 

「モ、モモモモンスター?!」

「あ、こっち、こっちですよーっ」

「へ――きゃあ?!」


 顔を見上げていたのだけど、声が聞こえるのはもっと下からだった。

 見ればボロボロのジャケットの隙間からギョロリと目が覗いていた! 気持ち悪い!


「ほう、故郷は地球ですか?」

「水は掛けないでくださいねーっ、あはははは」


 格好に似合わぬ明るい声。

 どうもフランケンシュタインの上半身は作り物であるらしい。確かに腕などは肘辺りからしか動いていない。


「して、何かご用ですかな?」


 思いっきり引いている私とルルちゃんに代わり、セバスチャンさんが前に立つ。

 吸血鬼対フランケンシュタインの結末や如何に。


「ハイ。僕はファッション系のギルド『着物四季』の『ワラケル』って言います。今はハロウィンファッションの紹介なんかをしてて、あの子が目に留まったんですよっ」

「わ、私ですか?」

「そりゃもう! 君可愛いし、その服もよく似合ってる。是非ウチのサイトで紹介したいんですよ!」


 興奮した様子で語るワラケルさん。しかし、私はやっぱりちょっと怯んでしまう。

 それなりに時間は経ったけど、以前掲示板に私のフォトが投稿され、少し騒がれた記憶が蘇ったのだ。


「アリッサさん」


 どうするか。セバスチャンさんからの短い言葉はそう語っているようだった。

 こうして直接話し掛けてきたなら、断れば諦めてくれるとは思う。


(けど、それでいいの?)


 後ろを振り向けばそこには少しそわそわとしているルルちゃんの姿がある。

 私は……自身の体を見た。そして瞑目し息を整えてからフランケンシュタインと相対する。


「あの、このお洋服を買ったお店の紹介もして頂けるんでしょうか?」

「は、はうっ?!」

「もちろんですよ! 必要があれば許可を求めもしますから! ウチのサイト、結構評判いいんですよー」


 自慢げに胸を張り、フランケンの上半身が後ろに倒れそうになりつつもワラケルさんはそう答えてくれた。

 それに安堵し、私は頷く。


「なら、私は撮影してもらって構いませんよ」

「本当ですか?! ありがとうございますっ!」


 すぐさまシステムメニューを開くワラケルさん、それを見ながらセバスチャンさんが話し掛けてくる。


「宜しいので?」

「……自画自賛かもですけど、もしかしたらまた知らない誰かに撮られてしまうかもしれません。掲示板に投稿されてしまうかもしれません」

「可能性はありますな」


 少し心配そうに私を見るひーちゃんをギュッと抱き締めるとその温かさを感じる。


「でも、こうしてきちんと撮影してもらえるなら自分から必要な情報を発信出来ます。みんなに知ってほしいお店も……私が笑顔でいる事も」


 ルルちゃんのお洋服がこんなに素敵だとみんなに知らせたいと言う想い。

 そして……以前妹を不安にさせてしまった時の二の舞なんてしたくないと言う想い。

 それらが私の弱い心に芯を入れている。


「じゃあ撮りますんで、吸血鬼さんはちょっと外れてくださーい」

「では――」

「あの」


 離れようとするセバスチャンさんを呼び止める。わずかに伸ばした手を引っ込め、振り向いたセバスチャンさんに尋ねる。


「私、上手く笑えるでしょうか?」

「ええ、勿論です。いつもの、何気の無い光景を心に思い浮かべれば、貴女の笑顔は誰の目にも留まる程素敵に映るでしょう」

「あはは……はい」


「じゃあいきまーす!」


 ウィンドウに向かって立つ。背は曲げず、顔は俯けず、心に思い浮かべるのは――。


(いつもの、あの――)


 肩から力が抜ける。


(……笑えてるかな?)


 ――カシャリ。


(笑えてるといいな)


 そうして、1枚のフォトが世に出たのでした。


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