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とある一日  作者: 菜胡
番外編
6/6

とある初デートの一日

本編終了後のお話です。

柚原視点。

「だから……幼馴染じゃなくて、俺の彼女になってくれませんか?」

 あの春の日。長年思い続けていたゆーくんに、やっと“好き”って言えた日。幼馴染から、一歩進んだ関係になることができた。

 あれから二か月――

 私は一人、部屋で頭を抱えていた。



「うぁぁぁどうしよぉぉぉぉぉ」

 時刻はもう日付を越してしまった。私は頭を抱えたままベットに突っ伏す。元々汚い部屋だけど、今は服があちこちに散乱していて、足の踏み場もない。

 こんな夜中に何をしているかって?明日……いや実際は今日だけど……着ていく服を選んでいるのだ。

 明日は……ゆーくんと、初デート。というか、会う事自体も久しぶりだから、せめてお洒落していきたい。

 本当にここまで長かった。恋人同士になれたのは良かったものの、それからと言うもの、なかなかお互いの予定が合わなかった。社会人一年目だし、忙しいのは仕方ないけど、こうも予定が合わないのは、誰かの陰謀じゃないかってぐらいだ。

 しかも、元々ゆーくんはマメな性格じゃないから、電話もメールもなかなか返ってこないし。全然恋人っぽいことせずに、早二か月が過ぎようとしていた。

 これじゃ駄目だ!と頭を悩ませていた頃、やっとのことで休みが被った。と、いうことで明日は初デート……ホントに、長かった、ここまで。

 顔を上げると、机の上のアクセサリー置き場に目がいった。そこには、中学の時にゆーくんから貰った青いビーズの付いた指輪が置いてある。まだ小指なら入るし、明日付けていこうかなと思ったけど、重たい女に見られたくないからやめた。

 ……ゆーくん、あの時はよく分かってなかったみたいだけど、今度は、ちゃんとした意味で付けてくれるかな。

 ああああああっ!やめやめっ!こんなこと考えるなんて、私バカみたい。たぶん、初デートで浮かれちゃってるんだ。そうだそうだ。

 火照った顔を一回叩いて、私は急いで明日の準備を進めた。


 そして当日の朝。浮かれていた私は、待ち合わせ場所に早く着いてしまった。町のはずれにある、大きなショッピングモールの入り口。去年ぐらいに出来たから、ゆーくんは来たことがないかもしれない。

 結局服装は普段通りになってしまった。デートだから、フレアスカートとかにしてみたけど……。でも化粧はいつもよりちゃんとしてるし。だ、大丈夫だよね?変じゃないよね?不安で店のウィンドウガラスで何度も確認してしまう。

 ゆーくんがこの町を引っ越すまでは、よく二人で遊んでいた。その時もそれなりに緊張はしたけど、デートとかじゃなかったからまだ気は楽だった。でも、今日は大人になってから初めての……しかもデートなのだ。余計に緊張してしまう。

 そわそわしながら待っていると、店の入り口なので目の前を多くの人達が通り過ぎた。その中には、カップルも多く見られる。みんな手を繋いで仲が良さそうだ。

 そこで私ははっとした。

 ……もしかしたら、私も今日、ゆーくんと手を繋げたりするのかもしれない。

 だっだって、デートだもんね!付き合ってるんだし、手ぐらい繋ぐよね!こっ恋人繋ぎとか、しちゃったり……。

 うわぁ!どうしよう!そう考えたら余計に緊張してきた!ハンドクリーム持って来ればよかった!手カサカサかもどうしよう!

「……柚原?」

「ふわっ!」

 いきなり話しかけられて、変な声を上げてしまった。振り返ると、そこにはゆーくんが立っていた。

「ゆゆゆゆゆーくん!」

「なんか顔赤いけど、大丈夫か?」

「えっ!そんなことないよ!大丈夫大丈夫!」

 心配そうにするゆーくんに、そう笑って誤魔化す。

 ちょっと落ち着け自分。こんな変なテンションじゃゆーくんに引かれてしまう。私は小さく深呼吸をした。

「というか、まだ待ち合わせまで十分ぐらいあるのに早いな」

 そう言って笑うゆーくん。やっぱりかっこいいなぁと思う。大人になって更に磨きがかかった気がする。

 ゆーくんは、自分は不細工だとか言うけど、全然そんなことない。むしろかっこいい部類に入ると思う。背は標準的だと思うけど、全体的にスラッとしてるし、顔立ちは整ってるし、肌も髪の毛も凄く綺麗だ。だから昔から密かに女子の間で噂になったりして、子どもの頃は本当にひやひやした。

 中身も、鈍感だったりで色々欠点はあるけど、凄く優しいし……本当に、素敵な人だと思う。

「……あの、あんまりガン見しないでくれませんか」

「えっあっごめんね」

 気付いたら、ゆーくんのことじっと見つめていたようだった。お互い、恥ずかしくなって目を反らしてしまう。さっきから心臓の音がうるさい。

 ゆーくんは気を取り直したかのように言った。

「じゃ、とりあえず中入るか」

「うん!」

 そして、私達は店の中へと歩き始めた。

 ……あれっ手は繋がないのかな。と、思ったけど、そのままどんどん進んでいく。まあ、ゆーくんは恥ずかしがり屋だし、いきなりはちょっと遠慮したのかもしれない。デートも始まったばかりだし、今日一日、これからこれから!

 ――そう思っていた私は、甘かったのかもしれない。


 最初は映画を見ることにしていた。このショッピングモールは映画館も入っていてとても便利。

「実は水篠から割引券貰ったんだ」

 そう言って、ゆーくんは二枚の映画割引券を取り出す。

「えっ凄い!水篠さんにお礼言わなきゃ」

 水篠さんは、ゆーくんが働いている会社の同僚さんだ。私はお花見の時に一度だけ会ったけど、それ以来会っていない。しかも、その時彼女はかなり酔っ払っていて、普段どんな人なのか全く知らない。けど、割引券くれるなんて、きっと凄くいい人なんだろう。

 私がゆーくんに好きって言えたのも、間接的には水篠さんのおかげだし。

「いや……柚原は会わなくていいよ」

「え?なんで?」

「疲れるから……」

 そういうゆーくんはホントに疲れてそうだった。仕事で色々あるのだろうか……あまり触れないでおこう。

 休日だからか、映画館は家族連れやカップルでごった返していた。私とゆーくんは人ごみをかき分けながら、目的のスクリーンへと進む。

「柚原、はぐれないように俺の鞄でも服でも掴んどきなよ」

「うん、ありがとう」

 はぐれたら大変だもんね。私は、ゆーくんが背負っているショルダーバックに掴まった。

 ……いやちょっと待って。おかしい。何かがおかしい。

 こういう時こそ、手を繋ぐチャンスじゃないのかな?手じゃなくてもせめて腕とか……って、私もなに素直に従っているんだろう。

「どうかした?」

 何とも言えない表情をしていたのか、ゆーくんは私の顔を覗き込む。いや、どうかしたじゃないよ!と言いたいところだけど、そこは堪えた。

 ……まだまだデート序盤だし、慌てなくて大丈夫よね。


 話題のアクション映画を見た後、ランチを食べて、お店をぶらぶら回った。ゆーくんとはさっきの映画の話で盛り上がったり、お互いの職場の話をしたりと、話が尽きることはなかった。こんなに長い時間ゆーくんと二人で話せるなんて、いつぶりだろう。本当に楽しい。子供のころに戻ったみたいだ。

 でも――未だに、手は繋げないまま。というか、繋ごうという素振りもない。だって、現にゆーくんは、私がいる方の手で荷物を持っているし。

 周りを見ると、恋人っぽい人達はみんな手を繋いだり腕を組んだりしている。いや、よそはよそ、うちはうちだけどね。でも、こうも見せつけられてしまうと、私もその仲間入りしたいなって思っちゃう。好きな人に触れたいって思うのは、自然なことだよね。

 というか、こうやって待っている姿勢が、私の駄目なところなんだと思う。別に、私から手を繋いでもいいんじゃないだろうか。そうだよ、全然おかしいことじゃない。

 よし!私から繋いでみよう!そう心に決めた私は、さっそく実行してみることにした。


 一つの店を出た後、私は、右手に荷物を持つゆーくんの左側に並んだ。今ならゆーくんの左手はがら空き。私はそっと右手を伸ばす。あんまり見ないように、自然に自然に。

 あと、もうちょっと……

「あ、柚原。そこの本屋寄ってもいい?」

「えっ!あっ!うんいいよいいよ!」

 ゆーくんがいきなりこっちを向いたので慌てて手を隠す。

 危なかった……って、別に隠す必要あった!?これだとただ怪しいだけじゃない!?

 案の定、ゆーくんはすごく不思議そうな顔をしていた。

「……あの、なんか今日変だぞ?」

「えっきっ気のせいじゃないかな?ほら!本屋行こ行こ!」

 よし、この流れでゆーくんの手を引っ張……

「…………」

「…………ん?」

 ――ることはできず、自分だけで本屋さんに入ってしまった。ゆーくんは「え、どうした!?」と、戸惑いながらも後から付いてくる。

 ああ、なんでこう上手くいかないんだろう。肝心なところで緊張してしまって、行動に移せない。

 でも絶対、でも絶対今日中にゆーくんと手を繋いでやるんだから……!

 

 その後も、ゆーくんと手を繋ごうと努力したけど、全て空振りで終わってしまった。

 歩いている時に手を繋ごうとしたら、間に子供が走って割り込んでくるし。あと少しで届くってところで、ゆーくんはポケットに手を突っ込んじゃうし。気付けば、もう夕方になってしまっていた。

 楽しい時間はあっという間。明日もまた仕事だから、早めに帰らないといけない。ショッピングモールから出てみると、空は全体的にオレンジ色に染まっていた。

「じゃ、帰るか」

「うん……」

 凄く楽しかったけど、やっぱり手を繋いでショッピングしたかったな……。あとはこの帰り道にできるかどうか。ここまで無理だったから、あまり期待しない方がいいかもしれない。幼稚園ぐらいの時は、何も考えずに普通に手ぐらい繋げたと思うのに。

 というか、そもそもゆーくんから手を繋ぐという考えはないのだろうか……。

 そんなことを考えていると、ゆーくんがまたもや心配そうに私の顔を覗いた。

「……柚原、大丈夫か?今日なんか全体的に……おかしかったけど」

 ああ、私は今日そんなに挙動不審だったんだろうか。

「きっと……気のせいだよ……」

「なにかあるんだったら早めに言えよ。その……心配だから」

 ゆーくんは目を反らしながら言った。夕日のせいなのか顔がほんのり赤く見える。なんだかちょっと嬉しい。

 ……もしかしたら、手を繋ごうって素直に言えば、解決する問題なのかもしれない。

 私は歩みを止めた。

「ゆーくんあの……」

「ん?」

「実は、お願いがあるんだけど……」

 何?とゆーくんも立ち止まってこっちを見つめる。わぁ、そんなに見つめないで。余計ドキドキしてしまう。でも、ここまで来たらもう引き下がれない。私は今日中にゆーくんと手を繋ぐって決めたんだから。

 好きって言えたから言えるはず!よし、言うんだ私!せーの

「わっ私と!ててててて手を繋いでくれないでしょうか!」

 言えた。言い切った。が、勢いで言ったから思ったより声が大きかったようで、周りの人がこっちを見ている。やばい、恥ずかしいよこれ。消えたい。

 そんな私を察してはいないのだろう、ゆーくんはふっと笑った。

「なんだ、そんなことか。早く言えよ」

 えっ!何それ!何その余裕!えっえっ?そんなことって……ホントにゆーくん!?

「じゃあ右手出せよ」

 そう言われると、ドキッとしてしまう。いつの間にゆーくんはこんなに大人になってしまったのだろう。手を繋ぐごときで、そんな私みたいにワタワタしないのかな。ああもう、早く言ってしまえば良かった。

 言われた通り、私はゆっくりと右手を差し出す。なんだか少し、手が震えてしまう。

 そして、ゆーくんはその手をゆっくり、そう、とてもゆっくり――


 同じ右手で受け取った。


 ……んんんん?

「……あの、ゆーくん。これは……?」

「え?手繋ぎたかったんだろ?繋いでるじゃん」

 そう。繋いではいます。でもお互い向き合ってるし、同じ右手で繋いでいます。

 うん。だからこれは、繋いでいるというより……

「……私には、握手にしか見えないのですが」

「ん?そりゃそうだろ。握手だから」

 さも当たり前のようにゆーくんは言った。そうだね、これからよろしく!みたいな感じで、握手しているね。そりゃもう、ぎゅっと。

 なるほど。やはりゆーくんはゆーくんだったってことか。

「……ゆーくんの」

 私は握手してない方の手に力を込める。そして、

「バカーッ!」

 ドゴッ。

「ぐあっ!」

 握手したままだったから、ゆーくんの顔にしっかりとパンチが決まった。


****


「あー……ごめん、柚原。その……勘違いしちゃって」

 私は、右頬に痣ができたゆーくんより前を歩いていた。もう夕日は沈んでしまって、辺りは暗くなっている。

「別に、怒ってないよ」

 そう言ってはみるけど、あんまり腑に落ちてはいなかった。またいつもみたいに殴ってしまったのは申し訳なかったけど……いや、あの勘違いはさすがにないでしょう。

 ゆーくんは、手を繋ぎたいとかそういうの、全然考えてなかったんだろうな、きっと。浮かれていたのは私だけ。本当にバカだなぁと思う。

 ……ほんとうに、バカ。

「っ!柚原危ない!」

「えっ?」

 急にゆーくんの大きな声が聞こえたと思ったら、腕を掴まれ、すごい力で後ろに引っ張られた。すると、目の前を車が通り過ぎる。ぼんやりしていたから、横の道から出てきた車に気付かなかったのだろう。危なかった……。

「だっ大丈夫、か?」

「う、うん。ごめんありが……と……」

 そして気付いた。ゆーくんに思いっきり引っ張られたから、お互い凄く密着していることに。

「わっ、えっと……」

 体が一気に熱くなる。腕もゆーくんに掴まれたままだ。心臓の音がバクバク言っているけど、これは果たして私の音なのかゆーくんの音なのか、よく分からなかった。

 すると、ゆーくんは恥ずかしそうに口を開いた。

「……ごめん、俺、こういうの初めてだから、よく分かんなくて……。付き合ってんのに、でっ……一緒に出掛けるのも、ろくに出来てなくて」

 ゆーくんの手が腕から離れた。

「でも、柚原のこと、凄く大切だから……。それに、手ェ繋ぎたくないとか、そんなの全然思ってないし。むっ、むしろ……」

「――っ!」

 次の瞬間、私の右手をゆーくんの温かい左手がぎゅっと包み込んだ。そして、するりと指と指が絡み合う。凄く強い力で。

 びっくりして隣に来たゆーくんの顔を覗くと、顔が真っ赤だった。たぶん私も真っ赤だと思う。

 お互い顔を見合って――そしていつの間にか笑っていた。

「ゆーくん、力入れすぎだよ。血が止まりそう」

「えっ!あ!ごめん!加減が分からん……」

 すると、ちょっとだけ緩まったけど、やっぱり少し痛い。でも、大きくてあったかくて……手を繋ぐのって、こんなに安心するものなんだと実感した。

「じゃあ、家まで送るよ……このまま」

「うん!」

 そして手を繋いだまま、私達は再び歩き始めた。


「あ、あと俺も……今日言いたいことがあったんだ」

 もうすぐ私の家に着こうとする頃、ゆーくんは思い出したように言った。

 何なのか尋ねると、ゆーくんはなぜかそっぽを向いてしまった。そして沈黙。

「えっなに?」

「その……」

「え?ハッキリ言って?」

 催促すると、ゆーくんは相変わらずこっちを見らずに言った。

「……その服めっちゃ似合う。あと……いつも可愛いけど、今日は更に可愛い……と思う」

「…………っ」

 それって今日の最初に言うべきセリフじゃないかと思うけど、ゆーくんからそんな言葉を聞けるだなんて思ってもみなかった。

 どうしよう。今すぐ飛んで跳ねたいぐらい嬉しい。どうやら昨日、服装とか悩んだ甲斐があったみたいだ。

「ありがとう」

 そう言って私は、繋がっている手に力を込めた。


 今日は色々あったけど、本当に忘れられない一日になった。



END


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