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とある一日  作者: 菜胡
本編
3/6

とある秋の一日

小学2年生の秋

ゆーくん視点

10月16日 金ようび はれ

 今日は、秋の遠足の日でした。

 みんなでべんとうを食べたり、あそんだりして、とても楽しかったです。


****


 あっちは赤、あれは黄色、あれは緑のままだ。どうして、あの木の色は変わらないんだろう。

「おーい、悠介―。悠介ってば!」

「え?」

 上を向いて歩いていると、急に自分の名前をよばれたのでびっくりした。

「おべんとういっしょに食べようぜー。もうすぐ食べるとこにつくだろー」

「ああ、うん」

 おれは、軽くうなずいた。

 今日は、秋の遠足の日。いつもは教科書がたくさん入ったランドセルを背負っているけど、今日はとくべつで、みんな、べんとうが入ったリュックサックを背負っている。

 おれたちが通っている小学校は、毎年10月になったら近くにある山のふもとの公園に遠足に行く。去年もここで、とても楽しかった。この公園に遠足に行くのは、おれたち2年生までで、3年生からは山のぼりになるって先生が言っていた。山のぼりはキツそうだからずっとこの公園でいいんだけどな……。

「ぼくもいっしょに食べていい?」

「おお、みんなでたべよーぜー」

 おれのとなりで歩いている男子たちがそう言った。

 先生のうしろから、背の高い順で並んで公園の中を歩く。赤や黄色の葉っぱが地面にいっぱい落ちていて、とてもきれいだ。けど、みんなはそんな景色を見ることなく、べんとうの話で盛り上がっていた。

 あ、べんとうといえば。

「そうだ。おれ、柚原と食べるやくそくしてるんだった」

「え?萌恵ちゃんと?」

 そう言うと、みんながおれに注目した。

「ひとりだけずるいぞ!おれも萌恵ちゃんといっしょに食べたい!」

「ぼくも!いっつも悠介ばっかり。学校もいっしょに来てるし!」

 そうだそうだ、とまわりの男子たちが同意する。前からだけど、柚原はなぜかみんなにモテモテだ。

 柚原は、おれの家の近くに住んでいて、ようちえんに入る前からのともだちだ。今はちがうクラスだけど、学校の行き帰りとかはいっしょだし、学校がおわってからも、いつもあそんでいる。だって、家近いし。

「なんでみんな、柚原といっしょに食いたいんだよ?」

 思ったままに質問すると、みんな顔を赤くして、もじもじしはじめた。

「なんでって……萌恵ちゃんかわいいしやさしいし……な」

「うん……じつはぼく、好きなんだ……」

「ええっ!ちょ、おれもなんだけど……」

 ……モテモテだなぁ。

 たしかに、柚原は女子の中でも可愛い方だと思う。やさしいと言えばやさしい。でも人の話ぜんぜん聞かないし、なにかあったらすぐゲンコツするし。人気者だから友達はたくさんいるけど、みんな柚原のことをあまり知ってないような気がする。あ、あとあいつはけっこうすぐ泣く。

「じゃあいっしょに食べる?」

 おれがそう言うと、みんな目をきらきらさせて、大きくうなずいた。

 目的の広場が目の前に見えてきた。


「ゆーくん!いっしょ食べよー!」

 リュックから取り出したレジャーシートを広げていると、うわさしていた柚原が現れた。ニコニコとして、手にはべんとうを持っている。

「あ、柚原。こいつらもいっしょに食べたいって言っているんだけど、いい?」

 おれは後ろでそわそわしている男子たちをさす。柚原は一瞬ぽかんとしたけど、すぐに笑って、いいよーと言った。男子たちのガッツポーズが見える。

 すると、先生がみんなに聞こえるような大きな声でさけんだ。

「はーい、みんなお弁当を食べ終わったら、二時まで自由時間です!公園の外から出ちゃ駄目なので、こことか、向こうのアスレチックで遊んでくださいねー。じゃあいただきますをしてお弁当を食べて下さーい」

「はーい」

 おれたちは返事をして、リュックからべんとうを取り出した。みんなのレジャーシートをくっつけて、くつをぬいでその上にすわる。そしていただきますをして食べはじめた。

「ねえ、萌恵ちゃんは好きな人いないの?」

 食べはじめてからすぐに、ひとりの男子が柚原に質問した。ほかの男子たちも柚原に注目する。目がマジだ。

「え……好きな人……」

 ちらっと柚原の目がおれの方に向けられた。なんだろう、おれの顔になにかついているのだろうか。そうかんがえているうちに、すぐ視線はそらされてしまった。

「……ちょっと分かんないかな。いないかも」

 よし!……そう聞こえそうなぐらい、みんなは力強くガッツポーズをする。すごく分かりやす過ぎて、逆にすごいなと思った。

「じゃあ、どんな人がタイプなの?」

 べつの男子が聞くと、柚原はうーんとうなった。

「……やさしい人、かなぁ」

「あっぼくのウインナーいる?」

「おれのたまごやきもやるよ!」

 反応がはやすぎだよ!

 ……おれはもうなにも思わないことにした。

 べんとうの時間はずっと質問ばっかりで、おれはその間、あまり柚原と話すことができなかった。


「ごちそーさまでした」

 べんとうを食べおわり、おかしもそこそこ食べたところで、レジャーシートをかたづけた。いっしょに食べていたやつらは、みんなトイレに行ってしまい、今はおれと柚原しかいなかった。

 さて、今からなにしようかな……。

 そうかんがえていると、柚原が話しかけてきた。

「ゆーくん、あのね、てつだってほしいことがあるんだけど、いいかな?」

「なに?」

「どんぐりひろうの……てつだってくれないかな?」

 どんぐりひろい。なんだか子どもっぽいなぁと思ったけど、どうせひまだし、てつだってあげようかな。

 いいよ、と返事をすると、柚原の顔がぱっとあかるくなった。ありがとう、と笑顔で返される。

「なんでどんぐりなんてひろうんだ?」

「理恵がね、もうすぐたんじょうびだから、どんぐりでなにか作ってあげようと思って」

 理恵というのは、柚原のいもうとだ。

「どんぐりで……そんなきようなこと、お前できるのか?」

「でっできるもん!ゆーくんのバカッ」

 びゅん。

「うわっ」

 柚原のゲンコツが空を切る。とっさによけたからよかったけど、当たっていたら、いたそうだった。あぶないあぶない。

「もー……とにかく、たくさんどんぐりがいるから、よろしくね!」

 そう言って、柚原はビニールぶくろをおれにさし出す。これに入れろってことか。おれは、はいはいと返事をしながら、そのふくろをうけとった。

 あれ、でもどんぐりって……。

「どんぐりってどこにあったっけ?」

「うん……公園に来たらあると思ってたんだけど、ここらへんどこにも落ちてないんだよね……」

 落ち葉はたくさん落ちていたけど、そういえばどんぐりのすがたは見当たらない。この広場もアスレチックのところも、きれいにされていて、どんぐりなんて落ちていそうになかった。あるとしたら、木がたくさんはえている山の方に行かないといけないかもしれない。

「じゃあ、山の中に入ってみよう。たぶんそこにはあるよ」

「え、でも迷子にならない?あまり遠くに行っちゃだめって先生言ってたよ?」

 柚原が不安そうにたずねる。

「だいじょうぶだよ。この山入ったことあるし、そんな遠くまで行かないから、ぜったい迷子になんてならないよ」

 ――それから数分後。

「……ここどこだろう」

 ふつうに迷子になった。

 山の中に入ると、赤と黄色と茶色の葉っぱたちが地面をかくしていて、そのすき間にたくさんどんぐりが落ちていた。おれたちはそのどんぐりをひろうのに夢中になりすぎて、気がついたら山の奥までは来てしまったらしく、出口が分からなくなってしまった。

「うーん……どっちから来たんだっけ……」

 右を見ても左を見ても、同じように落ち葉のじゅうたんが広がっているだけ。まわりは木しか見えない。ほんとうに、どうしようもない状況だった。

「ゆーくん、もうすぐ2時になっちゃうよ。はやく帰らないとおいてかれちゃうよ」

 柚原はうで時計を見て、そう伝える。その声はふるえていて、心配そうな顔をしていた。

 ……おれのせいだ。迷子にならないって言っておきながら、迷子になってしまった。

「ごめん柚原。おれが山の中に行こうって言ったから……」

 おれがあやまると、柚原は首をよこにふった。

「ううん。わたしがどんぐりひろおうなんて言ったから……」

 おたがい、大きなため息をついた。ふくろの中はどんぐりでパンパンだけど、おれたちの気分はしぼんでしまっていた。

 迷子センターとかあったらすぐ行くんだけど、ここは山の中でだれもいない。しかも外だし、このまま夜になっちゃったら――

「……帰れなかったらどうしよう」

 同じことをかんがえていたのか、柚原はそう小さくつぶやいた。下を向いて、くちびるをかみしめている。泣きそうなのをこらえていることがすぐに分かった。

「だ、だいじょうぶだよ!たぶん歩いていたらどこかに出られるよ!それに、先生たちもさがしてくれると思うし、すぐ帰れるよ!」

 おれは必死に言葉をかけたけど、柚原の顔は悲しそうなままで、あかるくはならなかった。一応、うなずいてはくれたけど。

 とりあえず、その場にいてもしょうがないので、歩きはじめた。柚原はおれの後ろからゆっくりついてきた。落ち葉のじゅうたんをどんどんふんでいく。

「あっ!」

 後ろから柚原のさけぶ声が聞こえた。急いでふりかえると、柚原は木の根っこに引っかかって転んでしまったらしく、地面にたおれていた。

「柚原だいじょうぶか!?」

 おれは急いでそばにかけよると、柚原は自分の力でおきあがった。でも、全身どろだらけで、ひざからは血が出ていた。

「……っ。いたいよぉ……。もうやだよっ……」

 そう言いながら、ついに柚原は泣き出してしまった。大きい目からたくさん涙が出て、しゃくりあげながら顔をおおっている。

 どうしよう……。ここにはおれしかいないし、なんとかしないと……。とりあえず、ひざのケガしているところをどうにか……。

 そうかんがえていると、自分のズボンのポケットにハンカチを入れていたことを思い出した。そういえば、前にテレビで、ケガしたときは“しけつ”が大切だって言っていた……気がする。

「柚原!だいじょうぶだから、ちょっとひざ出して!」

「っ……?」

 しゃくり声をあげながら、柚原は不思議そうにひざを立てる。おれはハンカチをそのひざにまきつけて、ぎゅっときつくむすんだ。見る見るうちにハンカチの色が赤くなっていく。

「……っ。なに、これ?」

「しけつ。これで血がとまると思う。いたいのは、ちょっとがまんして」

 おれはそう言って、柚原の服についたどろをきれいにはたいた。

 少し、柚原は落ちついたみたいだった。でも、すわりこんだまま、涙はずっとあふれていて、柚原の顔をぬらしつづけていた。

 どうしたら泣きやんでくれるのだろう。おれは、柚原のそんな顔は見たくない。そう思った。

 だから、おれはいてもたってもいられずに、立ち上がった。

「泣くなよ、柚原は笑っているほうが絶対可愛いって」

 そう言って、柚原に右手をさし出した。

 すると、柚原はびっくりしたような顔になった。そのまま、左手でおれの右手をつかむ。そして涙目のまま――笑った。

「うん」

 そう言うと、柚原は立ち上がった。反対の手をにぎって、おれたちは手をつないだまま、ゆっくりと歩きはじめた。

「おんぶしようか?」 

 おれが聞くと、柚原は「だいじょうぶ」と、首をよこにふった。

 しばらくゆっくり歩いていると、遠くの方に、おれたちが歩いてきた公園の道が見えてきた。

「あ!柚原!出口だ!」

「ほんとだ!」

 もうたいようも消えかけているみたいで、空はオレンジ色に変わってきている。おれと柚原は手をつないで、柚原の足をかばいながら、その出口へと向かった。

「……ありがとう」

「え?」

 ふいに、柚原の小さい声が聞こえた。そちらの方を見ると、ほんのり夕日にてらされて赤くなった柚原が、おれを見つめていた。

「ゆーくん、いつもやさしくしてくれて、いつもたすけてくれて、ありがとう。ほんとうにありがとう」

 そう言って、笑顔を見せた。その笑顔は今まで見たことのないぐらい、キラキラとかがやいていた。

「……ううん。ぜんぜん」

 なんだか、その笑顔を見ると……どきどきする。なんでだろう。

「森丘くーん!柚原さーん!どこー!?」

 出口の方から、先生の声が聞こえてきた。おれたちはふたたび顔を見合わせて笑う。ゴールはもうすぐだ。

 おれたちは手をつないだまま、先生の声がした方向へと歩いて行った。


****


10月16日 金ようび はれ 

 今日は、秋の遠足の日でした。

 みんなでべんとうを食べたり、あそんだりして、とても楽しかったです。

 どんぐりひろいの時に、迷子になってしまって、先生にすごくおこられたけど、

 どんぐりがたくさんひろえてよかったです。


 P.S. 柚原の笑った顔がかわいかった。


****


「なんだこれは……」

 絵日記を持つ手が震える。いや、ほんとになんなんだこの日記は……。

 明日の引っ越しのため部屋を整理していると、俺が小学校二年生だった時の絵日記が出てきた。俺、字が下手糞だな……いや、問題はそこじゃない。

 P.S.って……一体当時の俺はなんだと思ってたんだ。P.S.はpostscriptの略で、追伸って意味だろ?日記で書くもんじゃねえよ……って、いや。これも問題はそこじゃない。

 問題は……その内容が……。

 ……ああ、もう考えるのはやめよう。恥ずかしい。

 絵日記のすぐ隣からは、どんぐりでできたストラップが出てきた。長年の放置によりどんぐりは汚くなっているが、原型は保ったままだった。確かこれは、この遠足の後、柚原に貰ったものだ。柚原お手製のどんぐりストラップ。今までとっていただなんて、自分でも吃驚だった。

「荷物になるし、捨てるか」

 そう思い、絵日記とどんぐりストラップをゴミ袋に入れようとしたところで、少し思い留まった。なんだか……よく分からないが、勿体ないような気もする。

「……まあ、そんなでかくないし、持っていくか」

 俺はゴミ袋の隣にある箱に、絵日記とどんぐりストラップを投げ入れた。

 するとそれと同時に、ばりんっとガラスが割れる音が俺の部屋に響いた。そして、手のひらサイズの石が大きな音を立てて部屋の床に着陸する。冬の冷たい空気が、容赦なく部屋に侵入してきた。

 ……どうやら、この大きな石が俺の部屋の窓を破壊したようだ。唐突な出来事過ぎて開いた口が塞がらない。誰だ、こんな石投げてきたやつ――いや、あいつ以外いない。

 俺はこみ上げる怒りを抑え……られず、その石を握って、ぽっかり穴が開いた窓を勢いよく開けた。

 すると案の定、あいつはいた――いつも通りの笑顔で。

「あ!いたんだね。こんにちわー」

「ああ、柚原こんにちはー……じゃねぇ!」

 ドンッと窓ガラスを叩いて怒りを露わにしても、ニコニコと笑う柚原。そんな笑顔を見せられると、怒りが半減……は、しないけど。まあ、泣き顔よりはいいかな、とか思ってしまう。

 この笑顔がもう見られないのか。そう思うと、なんだかよく分からないが胸が苦しくなってくる。というか、もういい加減引っ越しのこと話さなければ――


 でもその前に、この石がなぜ飛んできたかを詳しく説明して頂こうと思った。


最後の部分は「とある冬の一日」とリンクしています。

次回で本編完結です。

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