第5話 かつての主人公
俺と美名と飛蒼は、コロシアムの中に三人でいた。
あのホログラムは一定以上のダメージを受けると消えるようになっているらしく、飛蒼は弱点の火の攻撃に学年二位のくせして一撃でKOされてしまった。
ちなみに、この順位というのはあくまでテストの成績による“学年順位”であり、強さの順位ではない。
もちろん、順位が上の方が基礎攻撃力やHPは大きくなるのだが、キャラクター自体にも強さや相性があるため学年順位は目安にしかならない。
有栖川はというと、バトルが終わり、自分のホログラムが消滅した後、泣きながら一目散に俺達のいるコロシアムの出入口から出ていった。
親衛隊の皆さんも「覚えてろよ、貴様ら!」と、勝ったのはそちら側のハズなのだが捨て台詞を吐いて大急ぎで有栖川を追いかけていったため、今コロシアムの中は三人だけとなっている。
「おい、飛蒼……お前、有栖川に何したんだ?」
俺は、有栖川に敗れたときのままコロシアムの床に仰向けで寝そべっている飛蒼に真偽を問うべく、声をかけた。
「女の子を泣かせちゃうなんて……僕らしくないね……」
飛蒼から言葉は返ってきたものの、問い掛けの答えとは別の言葉が返ってきた。
「安心しろ飛蒼……お前みたいな奴は、裏で数多くの女子を泣かせている……だから、もーそれはいーから……何したのかって聞いてんだよ!!」
語気が荒くなってしまった……。何となく、さっき女子の涙を見たのが嫌だった。
それはもしかすると、有栖川に少し、好意を持ってしまったからかもしれない…………まぁしょーじき言うと、有栖川さん……どストライクナンダヨネー……いや!もちろん美名のが可愛いし、美名の性格も大好きだよっ! ……でも何か、有栖川からはアイドル特性の人を惹きつける力というか、ただなんか大勢の集団に囲まれているアイドルとは違う、一人でも存在感を示すような……。
「ねぇ……十文字くん……勝負しよっか」
そんな重たい空気の中、美名は考え込んでいる俺のほうをチラっとだけ見てから飛蒼に向き直りそう言った。
「……なんで僕が金春ちゃんと勝負しなきゃならない?第一そんな勝負、結果は見えて……」
「私とだけじゃない。私と圭ちゃんの二人対十文字くんってことで……私達が勝ったら、有栖川さんに何をしたのか言ってもらう………十文字くんが勝ったら、今、圭ちゃんが考え込んでたことを言葉にしてもらう……ってことでどう?」
「……っておい!ちょっと待てバカ美名!! おめぇこれ、何の損もしねぇじゃねーか! ふっざけんなよ! 何でそんなんで飛蒼とバトらなきゃいけねぇんだよ!」
「……ん? ……てへぺろっ♪」
「しゃーねぇーな……やってやるよ」
「おいコラけーち! 意思弱すぎるでしょ!!」
えっ? だって可愛いじゃん。
グーにして右手を頭にコツンと当てながら、てへぺろって言ってる美名、ちょー可愛い!!
「……それはしゃーねーよ……てか、お前もさっき有栖川とバトるつもりねぇって言ってたのに有栖川が何か言おうとしたら急にバトりだしただろうが」
「ぅ……それを言われると、まぁねぇ……」
「だろ?……だから、俺らが勝ったらお前がその理由をこっちに教える。お前が勝ったら、俺がおもってた……こ……と…………」
あれ? 何で美名はそんなもの賭けた? 俺が考えていたことがわかった? いや……そんなはずはない……はた目から見ればさっきの俺は女の子を泣かした奴は許せねぇイケメン的な立ち位置に見えたはず……。
それにさっきの飛蒼の勝負の結果は見えてるっていうのも気になる……自信満々で惨敗した直後にそんなこと言えるか?……うん、わかんね、どーでもいーや、美名が可愛いから。
「どーしたのけーち? ……まぁいいよ、その勝負受けてあげるよ……多分、けーちが考えてたことは僕の理由にも関わってくるからね……」
俺の考えてたことが飛蒼の理由に関わってくる……だと? まさかあいつ……いや、それはない。
何故なら飛蒼は、極度の巨乳フェチだ。
暇さえあれば、「巨乳 美少女 巨乳」でググってるくらいだ。
これは飛蒼の周りの女子達が知らない、飛蒼唯一の大きな欠点かもしれない。
よって、巨乳好きの飛蒼がどう考えても断崖絶壁な有栖川に好意を持つことは無い。
「ハイ! じゃー決まりね! どーせ練習するつもりだったんだから……ちょーどいいでしょ?」
そんな俺達の様子を見ていた美名が、意地悪そうにそう言った。
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さっき有栖川が変身(?)した時に持っていた機械は、入学式の時に貰ったはずのこのシステムの本体となる機械だった。
俺はそれを一年間使わなかっため、今日も部屋に置きっぱなしにしてきた。
美名に「今から練習するって言っていたのに信じられない!」と言われたが、俺的にはそんなことも知らないような奴に今からいきなり試合をさせるお前のほうが信じられない。
ということで、俺は一人で一旦、自分の部屋に戻ってその本体を取りに行った。
その本体が大事なものだとは知っていて大切に保管していたため、すぐに本体は見つかった。
それを持って部屋を出ようとドアを開けたとき、そこに一人の男子生徒が立っていた。
「青砥……圭佑くんだね?」
まぁ、部屋のドアには〝青砥・十文字〟と、ネームプレートがかけてあるので名前を知っていてもおかしくはない。
もう一方の飛蒼は顔を知られているはずなのだから。
なので、ここで考えるのは一つ…………どうして全く無名の俺のところへこの生徒が来たかだ。
しかし、その答えもわかっている……有栖川の立場を犯した俺への奇襲だ!!
二秒ほどで、そう考えた俺はバトルの体制に入ろうとしたが、その生徒のほうから制止がかかったので思いっきり前につんのめってしまった。
「青砥くん……別に今、あなたにどうこうしたい訳じゃありません。確かに、“アリス”が二桁落ちしたのは、青砥くんが六位になったことも一つの原因かもしれません。……しかし、一概に青砥くんが悪いとは言えず、むしろ、“アリス”自身が勉学を怠っていたことに原因はあります。しかし、うちのアホどもは全く聞く耳も持たずに、君が悪いと言って全員で襲ってくるでしょう。なので、そこで一つ良いアイデアがあるのですが……」
“アリス”というのは、有栖川のことだろう……そして俺は、この人のことを知っている気がする。
多分、一学年上の三年生なような気がする。
そしてなにより、ものすごく強い気がする。
全て俺の直感だが、確信もあった。
「何なんですか? その……アイデアというのは……?」
「明日、今年度の生徒会会長を決めるバトルがあるのはご存知ですか?」
俺は、小さくうなずく。
昨年の生徒会会長を決めるバトルには参加こそしていなかったが、まだこの学校に入学する前に、まず始めのイベントがそのバトルだというのを聞かされていたこともあり、その時、二年連続を狙う当時の会長率いる“生徒会連合”と、現在はその勝負に勝って会長をしている男が参加していた“第一学年トップクラス連合”がバトルしていたのも、第一学年トップクラス連合の一員として参加していた飛蒼から聞いている。
昨年あったのだから今年も当然あるのだろう……そこまで考えて、俺はこの目の前にいる男子生徒が誰なのかを確信した。
「では、話は簡単です。青砥さんと……それに、十文字さん、金春さんに、我らが“abyss”の一員として、そのバトルに参加してほしいのです」
とりあえず、この生徒の意図は掴めた。
ようは……俺はともかく、二学年屈指の実力の持ち主であり、かつどこのチームにも所属していない十文字飛蒼や金春美名の力を借りたいのだ。
よくよく考えてみると、有栖川が二桁落ちしたことに俺には非が全くない気がするので、うまいこと言ってタダで強力な戦力を確保しようとしているこの生徒は、勉強が出来るのとは違う意味でも、頭が良いと思われる。
「そうですね……名案だとは思いますが、あいつらにも聞いてみないとわかりません。すみませんがついて来て頂けますか?
“前会長”さん?」
そう、俺が告げると“前会長”さんは一瞬、驚いたように目を見開いた後、愉快そうに言った。
「いやー、気づいてましたか! さすが学年六位! 私を見たのは入学式のスピーチが最後だと思われるのに、良い記憶力をお持ちだ! ……申し遅れました……私、一年生のときに会長を務めさせて頂き、現在は“abyss”の《五人幹部》で‘y’の位置に身を置かさしてもらっている、第三学年第一位、弥生帝二と申します。以後……お見知りおきを……」
次回は12月26日(木)に更新予定です!
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