第4話 有栖川海南
有栖川海南は、小柄な体格で、出るべきところも控えめな女の子だ。
可愛いには可愛いのだが、金春美名とは違い、小さい子に対する「可愛いね~」といった感じの可愛さである。
目は大きく、パッチリとしているが、高校生にしては体格相応にどこか幼さが残っていて、澄んだ水色の髪のツインテールがよく似合っている。
しかし、彼女はそんな外見とは裏腹に、御子神高校最大の''チーム''である、名称''abyss''のメンバーであり、メンバーの中でも最も強い五人の頭文字を組み合わせた名称の中の'a'をも担当している。
そのアビスの最も強い五人にはそれぞれ直属のメンバーがおり____というよりも元々五人は別のチームであり、そのときの五人の別々のチームが一つになったのがabyssとなっている____もちろん有栖川にもメンバーはいて、有栖川の場合それは親衛隊と呼ばれているらしい。
説明が長くなったが、今現在、俺達の目の前にいる大勢の生徒が有栖川海南とその親衛隊の皆さんというわけだ。
「なっ!?」
「まさかあいつは!?」
「ちっ……何でこんなところに……」
親衛隊の皆さんが入ってきた俺達を見て騒ぎ出す。
まさかもう俺のことを知られているとは思ってなかった……気をつけろと言われていたのに……これは完全に俺のミスだ……。
「あれは……二学年二位の十文字飛蒼!! ……しかも、金春美名までいるぞ!?」
俺じゃないんかい!!
そして、ちょっと待て……二学年二位!?
俺よりだいぶ上じゃん!
「この中では一番俺が強いな……」とか思ってたのに超恥ずかしいじゃん!
「……十文字くん? 何しにきたの? ミナたち今からここを使おうと思ってたんだけど……」
有栖川海南がそう、か細い声で話しかけてきた……。
ん? 外見を見てもしやと思ったが、今の声を聞いて確実に何かイメージと違うなと思った。
飛蒼が気をつけろと言ったのもしかり、チームのトップということもあってもう少し攻撃的で危ない感じなのを予想していたのだが、すでに泣き出しそうになっており、言葉も尻すぼみになっている。
「ごっ、ゴメンね!有栖川ちゃん、落ち着こうかっ! 有栖川ちゃんが居るって知らなかったんだよ……」
しかし、飛蒼は必死だ。
お前が落ち着けよ。
「うそだもん! ぜーったい、うそだもん! またミナに、わけわかんないこと言いに来たんだ!」
「ちょっ……その話は今ダメだ! ってかおい!それもダメだ!!」
飛蒼がそれを止めようとした時には、すでに有栖川は何らかのモーションに入っていた。
……まぁ、俺にはそれが何だったのかはわからなかったのだが……その瞬間、隣にいた美名が俺の腕を掴んでコロシアムの外まで引っ張っていった。
コロシアムの中には飛蒼と有栖川と親衛隊だけ。
圧倒的に飛蒼さんアウェーの状況で、有栖川は何かの装置を操作しその機械が言葉を発した。
「スタンディングシステム、キャラクターネーム『マッチ売りの少女』」
その無機質な音が鳴り響いた瞬間、コロシアムの中は一変した。
大きな振動音がしたかと思えば、コロシアムを囲んでいた壁全体に隈なく張り巡らされていた映写機が一斉に作動し、有栖川の格好も同様に一変する。
否、一変したように見える。
今まで御子神高校の制服だったのが、一瞬で継ぎはぎのある貧しそうな服になり、髪の毛は水色から金髪へ、そして履いていたスリッパとタイツのようなものが消え、裸足でいるかのように見える。
そしてさらに驚くのが、有栖川の隣にまるで籠が宙に浮いているかのように見える。
中は見えないがたぶんマッチが入っているのだろう。
この学校では個々のホログラムの大きさを調整するために一学期に一度、全校生徒が身体を特別な機械でスキャンしている。
そのため体格にピッタリと合ったホログラムはもちろん、自分の素肌も服の上から再現可能になっている。
それが有栖川が今、裸足でいるように見えるカラクリだ。
しかし、それにしてもここまでリアルに映せるとは、凄いものだ。
本物の服を着ているようにしか見えない。
初めてプロジェクションマッピングの凄さを目の当たりにした俺は目の前の光景に釘付けとなった。
「待て! 有栖川! 僕は君とバトるつもりは毛頭ない!」
「うそだもん! そーやって油断させといてまたあんな……」
「スタンディングシステム、キャラクターネーム『花咲かじいさん』」
……えぇーーー…………バトらないんじゃないの!?
そこまでして有栖川の言葉を遮って……一体、有栖川に油断させておいて何したんだよ……。
さらに、もう一つツッコミどころ……『花咲かじいさん』って……わらわら。
と、思ったが、ちょっとバカにしてたのは間違いだった。
イケメンなだけに『花咲かじいさん』でも映えるものだ。
てか、さらにカッコよくなっている。
着ているものは青の法被なのだが、桜の模様が入っていてお洒落だ。
履いているのは下駄だが、さすがはアイドル、下駄でも履きこなす。
俺なんかスニーカーですら似合わないときは似合わないのに……。
そして、極めつけにはなんと飛蒼の周囲に桜が舞っている。
おかしいだろ、もっと原作リスペクトしろよ。
「しょーがない……有栖川ちゃんを黙らせるには、勝つしかないみたいだね」
んなことねーよ、全然引き下がることできたよ。
しかも、飛蒼さん怖ぇーよ。
あのイケメンで優しい飛蒼さんはどこへ行ったんだよ。
「ほらぁ~! やっぱりやるんじゃん! ウソつき~!いいもん…… また返り討ちにしてやるんだから!」
「学年二位をキープした僕と、二桁落ちの君……どっちが強いかは一目瞭然だろ!」
「……はい、実況は私、青砥圭佑でお送りします。解説は金春美名さんに来ていただきました。」
「宜しくお願いします、青砥さん」
「こちらこそ。では、早速……どーしてこーなったんでしょう?」
「そうですね……私もこれほど不毛なバトルは初めてです」
「私の初観戦バトルは、史上最も不毛なバトルということでよろしいですか?」
「そーゆーことになりますね。とりあえず、客席にいる応援団がうるさいです」
有栖川の親衛隊の方々は、いつの間にやら客席に登ってどこから持ってきたのか太鼓やラッパを鳴らしている。
もちろん吹けてなどいない。
なんて、どーでもいいことを考えてるうちにどーでもいいバトルが始まった。
「そこを動くなよ! 〝桜吹雪〟!!」
「先制は十文字選手ですね。いきなり女の子に襲いかかるような強姦男だとは思っていませんでした」
「金春さん、怒らないであげてください。そして、言い方が卑猥です」
しかし……なんでお前から仕掛けてる……女の子には優しいんじゃなかったのか……某コックさんに怒られるぜ?
ともあれ、飛蒼の技〝桜吹雪〟で、有栖川の周りは隙間なく桜が吹雪いている。
桜の壁はコロシアムの天井……地上四mほどにまで達し、有栖川の姿は全く見えない状況になっているのだが、そこから飛蒼が攻撃へ移る前に
桜が燃えた
一瞬で、まさに花咲かじいさんが撒く灰のように……
べっ、別に「俺、上手いこと言った!」とか思ってないんだからねっ!
「何が起こったのでしょう? 解説の金春さん?」
「あれは有栖川選手が火を使って燃やしたのでしょう……まぁ、火といっても仮想の火ですけどね。『マッチ売りの少女』の能力は火の操作ですからね」
「火の操作とは? つまり火を自在に操る能力、ということでしょうか?」
「ええ、主人公級、一部の敵級や従者級には、特殊な能力が付与しており、その中でも有栖川選手の『マッチ売りの少女』は火の操作……、十文字選手の『花咲かじいさん』は、桜吹雪を自在に操れるといったところですね」
「なるほど……しかしこれで、偉そうなこと言ってた十文字選手が順位では格下の有栖川選手に今まで勝ててない理由が分かりましたね」
「そうですね」
「……桜じゃ火には勝てないでしょうね……燃えちゃうから」
俺がそういった瞬間、『マッチ売りの少女』の火に包まれた十文字飛蒼の周囲に取り巻いていた仮想の桜吹雪は、完全に消滅した。
予定通りに更新出来たのでよかったですww
今回は、バトルシーンもどきということで
すいませんww
次回は、12月24日(火) 更新予定です!
次もまた見ていただけると嬉しいです!