てめぇの事ぐらい、手前が良く知ってるだろ。
パーン!!と乾いた音が教室全体に響き渡る。
『テ、テメェ。何しやがる……』
目の前の此奴は俺に向かって鬼のような形相で俺に向かって射殺すような視線を向けてくる。
『お前、分からないのかよ?』
俺は此奴にそう問いかける。
『分かんねぇよ。分かんねぇから聞いてんだろうが!!』
獣のように吠える。
『そうか、分からないか。なら自分の今までの行動を思い返して、自分の胸に聞いてみるんだな』
俺は踵を返してドアへ向かって歩みを進める。
『あっ!?おいテメェ待てよ!!言ってる事が全然――――』
話を最後まで聞くことなく、俺はドアをガラッと開け、教室から出る。
「ふむ……」
私はここで本を閉じる。そして腕を組む。
この腕を組む、と言うのは私が思考するときのスタイルだ。特にこれと言って深い意味などない。ただ「私、今考え中です」と周りに分かりやすく伝えているようなものだ。只単に私のスタイルがコレなだけで、ほかにも顎に手を添えたり、目を閉じたり、などモーションはこの世の中には色々とあると思う。
そう、私は今考え中だ。もう一度言う、考え中なのだ。大切な事なのでもう一度だけ言わせてもらうとする。私は今、考え中だ。
「ねぇねぇ、どうしたの?」
だと言うのに目の前にいるコイツは、何時も何時も、何時も何時も何時も、私の思考を遮ってくる。
「…………テメェ…………」
「……え?」
「…………テメェ……テメェ……」
「あの、ちょっと。どうしたの?」
私は目の前のコイツに射殺すような視線を向けて「テメェ……」と唸る様な声を出す。
「ひゅいっ!?あの、その、ご、ごめんなしゃい!!」
そう言って、コイツは私の机にヘッドバッドを噛ますんじゃないかというような勢いで頭を下げる。ぎりぎりぶつからなかったが、ギリギリ擦れ擦れである。
ここで疑問だ。コイツは私に頭を下げているのだが、どうしてコイツは行き成り私に頭なんか下げてくるのだろうか。
「なぁ」
「な、何、かな?」
と頭を下げたままコイツは返事を返してくるので「取り敢えず頭を上げろ」と言って、頭を上げさせる。そして改めて「何でお前、私に頭なんて下げているんだ?」と聞く。
「……え?」
コイツは呆けたような表情で私を見てくる。
「は?」
と私は何でそんな表情をしているのか分からないので、私も呆ける。
「えっと、怒ってたんじゃないの?」
恐る恐ると言ったかのような感じで、コイツは聞いてくる。
「え、何かお前、私に怒らせるような事でもしたのか?」
「え、だって、私が話しかけたら、テメェってドスを聞かせたような声出して、睨んできたし……」
「ああ、そう言う事か」
コイツの言ったことで漸く辻褄が合った。
「そう言う事って?」
コイツはそう問いかけてくる。
「これだよ、これ」
私はコイツに先程まで読んでいた本を見せる。
「あ、それ。最近話題になってる本」
「そう。で、私がさっき読んでたところなんだけど――」
私は栞を挟んでいた所のページを開き、渡す。
「えっと――
パーン!!と乾いた音が教室全体に響き渡る。
『テ、テメェ。何しやがる……』
目の前の此奴は俺に向かって鬼のような形相で俺に向かって射殺すような視線を向けてくる。
『お前、分からないのかよ?』
俺は此奴にそう問いかける。
――ねぇ、別にこれと言った疑問なんて湧いてこないけど、これがどうかしたの?」
コイツは私にそう質問する。
だから私は答える。
「いや、ふと思ったんだよ。テメェって、どうやって生まれた言葉なんだろうかってさ」
「……はぁ?」
「ん?どうした、そんな残念なモノを見るかの様な視線を私に向けて」
「そんな事で私、あんな親の仇を見たかの様な目で睨まれたの?」
「うーん、そうなんじゃない?」
「酷いっ!!酷いよっ!!」
「いや、お前が勝手に勘違いしてただけだろ。私は別に悪く無い」
「う~~」
「唸るな」
「わんっ!!」
「吠えるな」
「あんっ!」
「喘ぐな」
「いやん」
「……いいかげんにしろよ?」
「済みませんでした」
「それでさ、テメェって言葉なんだけど」
「まだ続くんだ」
「何か言った?」
「いえ、何も」
「そう。で、テメェなんだけど、どう思う?」
「どうって、何が?」
質問が抽象的すぎたか。
「ほら、だってさ、初見で「テメェ」なんて言われて、自分の事を言われているなんて分かる?お前とかならまだしもさ」
と、私の自分勝手で横暴な議論として成り立っているのかも分からない自論を説いてみる。
「そんな事を言ったら「お前」とかだってそうじゃない?「あなた」とか「きみ」とかなら国語の時間で習いそうだけど「お前」って習った記憶ある?」
「ふむ、無いかもしれないな。先生に「お前って何ですか?」なんて聞いた覚えもない」
「でしょ。でも私たちは「お前」って言葉が相手を指す言葉だって知っている。知らず知らずの内に、いつの間にかそれがそうだと学習している。なんかそれって不思議だよね」
「そうだな、恐らく幼少の頃に周りの会話などから相手に対して「お前」と言っているのを見て、聞いて、それがそういうものなのだと学んだのかもしれないな」
「うん、そうかもしれないね。それで、話は戻るとして、そうだとすると「テメェ」という言葉も幼少の頃に誰かが「テメェ」という言葉で相手を読んだ事で、私たちがそれが相手を指す言葉だ認識したのかもしてないね」
両親が「テメェ」なんて言葉を口にした記憶もないし、というか私の記憶が正しければ一度も言ったことはない。と言う事は、テレビか本とか、若しくは外出先でとかで聴いたのかもしれない。
「成程な。って、何か私の疑問と論点がずれているような気がするんだが。私は「テメェ」という言葉は何処から来たのかを疑問に感じたのであって、私たちの学習の問題の話ではないのだが……。まぁさっきの話もそれはそれで面白かったから良いんだけど」
「ありゃ、そう言う事だったのか。うーん「テメェ」ねぇ。……ん?」
「何かピンと来たのか?」
コイツが何かに気が付いたというか、閃いたかのような声を発する。
「うん。何と言うかさ、「テメェ」と「手前」って何か似てない?ほら「お前」がくだけて言葉で「おめぇ」って有るじゃない」
「おお、なんかそれっぽい感じがするなっ!!いやそれっぽいとかじゃなくて、それが正解なのかもしれないな」
と言う訳で調べてみると
て―めえ【手▽前】
[代]《「てまえ」の音変化。「てまえ」のぞんざいな言い方》
① 一人称の人代名詞。わたし。あっし。「―にはかかわりのないことです」
② 二人称の人代名詞。おまえ。きさま。「―に文句がある」
[補足] ①は「あいつはてめえのことしか考えない」「てめえから名のって出る」のように自分自身の意でも用いられる。
これは……。
「……当たってたな」
「うん、本当に当たるとは自分でも思ってなかったよ」
「と言うか、お前、意外と頭の回転速かったんだな」
「それどういう意味かなっ!?」
「いや、何時もぼけーっとしてて、頭の中が春の人だとばかり……」
「酷いっ!!酷いとしか言えない位に酷い!!」
「ほら、悪かったって、この通りだから――」
と言って私は頭を下げて謝る。
「……アイス」
「ん?」
「帰りにアイス奢ってくれたら許す」
「はいはい、分かりましたよ」
「むぅ、何か軽くあしらわれた感じがする」
「そんな事無いよ」
「本当に?」
「本当本当」
「ならいっか」
周りを見渡すと教室に残っているのはもう私達だけ。
窓の外も夕日が差している。
それじゃあ、帰ろうか。
席を立ち、ドアを開け、私達は教室を後にした。