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人鬼外伝・四度鈴

作者: DEMON
掲載日:2013/04/27

 遠い昔の事。

 太陽と共に生活していた明かりの尊き頃の事だ。

 しゃぁんしゃんと宵の山に響く鈴の音に山奥の集落に住む人々は身を竦ませていた。

 何も知らぬ、物心付いたばかりの童達は山に響く鈴の音に心躍らせ耳を澄ませた。

 そんな怖い物知らずの童達を集落の年寄りはある鈴の音が響いた夜に集めた。

 其の時鈴は一つ鳴っていた。


 宵の山を月の明かりで危なくも何とか男は歩いていた。

 雲一つ無い空に神々しく男を加護するかの様に月は輝いていた。

 男の耳にしゃぁんしゃんと鈴の音が聞こえた。男には近くも遠い其の鈴の音は何故だか山奥の集落にはよく届いた。

「誰そかそこに」

 男が問うても声は闇へと消えて行き、返る言葉は何も無かった。

 男は誰かの眼を感じ、長居を避け歩を速めた。月は白く真っ平らで暗幕に吊られている。

 男の耳にまたしゃぁんしゃんと鈴の音が聞こえた。男は小枝を踏み折る音を耳にした。

「誰そかそこに」

 堪らず男は問うたが声は闇へと消え去った。

 男は確かに足音を感じ、一層足を速めた。足は岸の白骨に阻まれ重く、赤い川が横を流れる。

 男の耳にまたもやしゃぁんしゃんと鈴の音が聞こえた。男は背中に着物の裾を滑らせて高下駄でゆるりと歩く気配を感じていた。

 しかし、其れとは同時に男の目の前は開け高台から集落を見下ろしていた。もう間近に故郷がせまる。半時も経たずして懐かしき者の顔に会える。心が緩み、背中にある恐怖も和らぐ。

 安心した男は振り返ろうと思い立ったが決心が付かなかった。其処で最後にもう一度だけ後ろに問う事にした。

「誰そかそこに居りし……」


 しゃぁんしゃんと集落に四度目の鈴の音が響き渡った。

「じじさま、それでどうなるの」

 童の一人が年寄りに問うと他の童も五月蝿い程其れに倣った。

「宵の鈴の音問うてはならん。鈴音太夫が誘うておるのだ。一度問うと物の怪道へ、二度問うと冥土道へ、三度問うた先は知らぬ。闇奈落と聞かされた。鈴音太夫に隠され喰われ骨も残らん」

 童達はもう騒ぎはしなかった。膝を抱えた一人の童が寒さに耐えながらも声を上げた。

「じじさま、さっき、よんどめのすずの音が」

「また鈴音太夫に連れて行かれた。忘れるな。物の怪騒ぐは宵の闇、鈴の音に問うては決してならん。二度ならば誤り問うてもまだ助かる。物の怪道に昇る月は月ではない。此処での月を覚えておけ。妙な月が昇れば物の怪道だ。冥土の道は三途の岸辺、血の川に入らず骨の河原を歩いていれば人の世との境へ辿り着く。何も見ず応えず問わず、ただ一心に人の所へ戻るのだ」

 童達は言葉も出せず、其の後親に連れられ散って行った。

 家へと帰った童達は年寄りから聞いた話しを親へ話して聞かせた。

「カカァ、じじさま、ものしりで、よんどのすずの音、はなしてくれた」

「お前は何言って、あんな朽ち家で、寝っ転がって、夢でも見たんか」

 其れを聞いて童は外へ飛び出した。気付けば隣近所の童達も外へ飛び出していた。

 皆が視線を向ける先はただ一つ。暗闇に微かに見えるのは朽ちて崩れ掛けた家だった。

「かかぁ、じじさまは」

「お前、何言っているんだい。大爺様は夏前に――」

 童達は幼い記憶を必死で辿った。

 大爺様は確かに夏前に死んでいた。では先程の大爺様は――。

 童達は気付くのだった。大爺様の目の奥が人の物ではなかったと言う事に。


 宵の山、草を踏み歩く老人はいつの間にか淡い光を放つ青年に変わっていた。

「あんたって酷いのね。わっちの邪魔してそんなに楽しいのかい。ハク」

 何処からか現れた花魁は煙管片手に青年に詰め寄った。

「そんなつもりは無い、鈴音太夫。其れよりも良い鈴を手に入れたみたいじゃないか」

「こんなくすんだ鈴でわっちが喜ぶとでも思ってんのかい」

「見た目は磨けば良くなるだろう。其れにいい音色だと思うが」

 青年は花魁の横を通り過ぎた。

「程々にな。鈴音太夫、鈴の音をあまり大きくすると上に聞こえる。菩薩共は面倒だぞ」

「ふん、余計なお世話。あんたこそ人の世が好きだね。人鬼ハク。人の世に干渉し過ぎると因果に取り込まれちまうよ。気を付けるんだね、角無し鬼のハク」

 花魁は鈴の音をしゃぁーんとさせて闇に消えて行った。

 人鬼も闇の中に歩を進める。真っ暗だと言うのに足元は危なげない。


 其れから幾日か経った時、まだ山を歩いていた人鬼は小枝を踏み割った。

「誰だ」

 鋭い声が人鬼に噛み付いた。

「驚いた。このような夜更けに獣の姿をした人に会うとは」

 驚いているとは言うが人鬼の口調は何処が余裕で楽しそうであった。

 目の前に立ちはだかる黒い獣は八尺を超え、人鬼を上から噛み付こうとしていた。

 そんな状況の中、遠くで鈴の音が聞こえ、人鬼は「またか」と思うのだった。





唄「四度鈴」


しゃぁんしゃん 鈴が鳴いたか 宵の闇


誰その眼ついてくる 誰そと問うても答えせん


しゃぁんしゃん 鈴が鳴いたな 玉の月


誰その足音ついてくる 誰そと問うても答えせん


しゃぁんしゃん 鈴が鳴く鳴く 冥土道


誰そが後ろについてくる 振り返ろうかどうしようか


進めば間も無く人里よ されど後ろが気になる


最後に一つ問うてみよ 誰そかそこに居りしゃんせ


しゃぁんしゃん 人は宵の闇の中


鈴の音問うてはなりません 三度問うたら闇奈落


宵は物の怪騒ぎ出し 人里響く四度鈴


聞けば里人噂する また人隠され喰われた


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