契約者達とそれぞれの夜
今話は視点がころころ変わりますのでご注意ください。
「シグルト、後をつけている者はいないよな?」
「うん、途中で此処まで転移したから式神でも大丈夫なんだ」
シグルトの言葉にホッとした俺は、お面を外してやっと一息つく事が出来た。ちなみに此処は来る前に探査杭を打った所だ。
「・・・・・・シグルト、聖華さんはヤバいな」
「・・・うん、僕は今日暴れて式神を全滅させたけど、最後の会話で勝った気がしなくなったんだ」
「ああ、同感だ。知らないはずの事をどうやって知り、そしてどこまで知っているんだか・・・・・」
嫌な想像が次々と湧きだした俺は、額に手を付いて頭を振って浮かんだ光景を振り払った。
「直哉、行きに直幸の事を話したんだけど、御門が此処まで危険だと知っていて話さないのは異常だと思うんだ。隠している理由は僕達が考えている以上に重いのかも知れないんだ」
「・・・・・・・ああ、分かっている。聖華さんの言葉で父さんが何も知らなかった線は消えたと思って良い。そしてあの時父さんは話さないで済んで安堵していた。俺は安堵すると言う事は、なにか不安があると言う事だと考えている。でもな、息子の俺にはそれが具体的に何なのか分からない。分からなかったんだ・・・・・。なのに聖華さんは当たり前の様に俺の心と言っていた・・・・・本当だと思うか?」
「あの状況でそんな嘘を言う意味がないんだ」
「だよな・・・・・俺の心か・・・・・いったい何が潜んでいるんだか・・・・はあーー、今日学校から帰ったら、覚悟して聞かないといけないな。あまり楽しい話にはなりそうにないけど付き合ってくれるか?シグルト」
「そんなの当然なんだ」
「そっか、ありがとう。じゃあ気を取り直して、転移して家の近所のコンビニに行くとしようか」
「コンビニ?何で?」
「いや、此処からもよく燃えている事が分かるあれ・・・・・ちょっとやり過ぎただろ。国宝とか言っていたし・・・・。だからアリバイが欲しいなと思ってな。ほらコンビニ行って置けば移動時間の関係で安全だろ」
「直哉・・・・警察来ても白を切れる様にする心算と言う事は、来ると思っているの?ふーん、聖華さんが後始末をすると言っていたと思うんだけど・・・・信用してないんだ」
「それは微妙だな。聖華さんは俺に嫌われたいとは思っていないはずだから、言った事はちゃんとしようとするだろうと思う。だけどあの当主が大人しく諦めると思うか?俺に有利な様に聖華さんが動くことを認めるか?」
「・・・・うーん、確かにそれは無いと思うんだ」
「だろ。それに真面に説明出来そうにないマグマの池も作ったんだぞ。それを見た警察や消防などの周囲が大人しくするとは思えない」
「・・・・・分かったんだ。そう言う事なら一刻も早く行くんだ」
そう言ったシグルトは素早く魔法を使うと、コンビニの傍に転移した。その後俺は一人ですぐにコンビニに入って、印象に残る様にパンや飲み物、お菓子やアイスを大量に買いあさった。それはまさに棚の一部を空にすると言って良い程の量で、其の時居たバイトらしき店員の目は此奴こんな深夜に正気か?持って帰れるのか?と言いたげだった。俺は愛想笑いを浮かべながら、妹を怒らせてしまってなと咄嗟に思いついた言い訳を口にして肩を竦めて置いた。そしてそう口にしてから俺は、ふと目の前に並んでいる買った物は本当に全て香織の好物だけだと気づき、引きつりそうになる表情を咄嗟に取り繕った。そうしながら俺は此れは決して聖華さんと話した事に対する後ろめたさと、香織のご機嫌取りでは無いはずだと己に言い聞かせるのだった・・・・・・。
「この・・・・・・このこの・・・・・・・この・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・お母様、もうお気持ちは済みましたか?」
「聖華!!・・・・・貴女はこうなると分かっていたのですね!!」
「ええ、全てではありませんが、夢に見ましたので」
旦那様が去ってからずっと収まらない怒りを、周囲に燃えずに残っていた式札を踏みにじって晴らしていたお母様に、私はもう良いだろうと話し掛けた。しかし返ってきたのは怒鳴り声とギラついた非難の視線だった。
「・・・・・そう言えば先程おかしな事を口にしていましたね。私は忠告を受けていないし、まして大社が燃えるなどとは聞いていませんでしたよ」
「あら?言いましたよ子供の頃、でもお母様は言っても信じませんでしたでしょう。それに旦那様が発見されず、私の夢はずっと皆に真偽を疑われていましたしね。ふふ、子供の私はよく考えもせずに荒唐無稽な光景も口にしてしまい、何時しか誰も信じなくなって忘れたのは皆の方でしょう」
凄まじい形相で今にも掴みかかって来そうなお母様に睨まれた私は、その怒りをそよ風の様にいなして皆がいけないのだと周囲に押し付けた。すると押し付けられた皆がお母様にギロッと八つ当たりで睨まれ、私に方々から非難の視線が突き刺さってきた。
「ふふふ、私の旦那様はちゃんと実在したのです。つまり私の夢は全て正しいのです」
「聖華、今すぐ夢の内容を細大漏らさず報告しなさい」
「嫌ですわ。お母様こそ思い出せばよろしいでしょう。私は既に告げているのです」
「聖華!!話さねば実の娘の貴女とて容赦しませんよ!!」
「どうぞご自由に・・・ふふふふふふふふ」
「何が可笑しいのですか!!」
顔を歪めたお母様が怒鳴ったけど、私にはなんの感慨も与えなかった。そして私が白い目で見つめると、お母様は苛立ってこちらの様子を窺っていた皆に命令した。
「聖華を捕らえなさい。自室に軟禁するのです」
「ふふふふふふ、本気ですか?私は此れから後始末をしなければならないのですけど?約束しましたし」
「勝手にした約束など知りません。私が当主です」
「ふふふ、そうですか・・・・ではどうぞご自由に。もう私が今日やらなければいけなかった事は全て済んでいますから」
「・・・・・・・見た夢の場面は終わったと?」
「いいえ、まだです。もうすぐ色々な人が駆け込んでくる所まで見ています」
私がそう言って十秒も経たない内に、息を切らした男が血相を変えて駆け込んできた。
「ととと、当主様。火災に紛れて監禁していた者達が脱走しました。現在行方を追っていますが、ようとして知れません」
「なんですって!?あの裏切り者を取り逃がしたと言うのですか!?ええい、式虫は放ったのでしょうね」
「それが・・・・この火災で式虫も燃えており、数が減っています。それに曲者を追うのにも放っているので・・・・」
「クッ・・・・・・・・・・・」
お母様が私の前で顔を真っ赤にして唇をかんでいた。私がその様子に内心で微笑んでいると、新たな男が駆け込んできた。
「もも、申し上げます。曲者の足取りが途絶えました」
「・・・・・・・・・ツッ、何ですって?そっちまで逃がしたと言うの?裏切り者を追えないくらい式虫を放ったのでしょう」
「もも、申し訳ありません。途中でいきなり反応が無くなりました。術者も訳が分からず困惑しています。数百の式虫は倒された訳でもないのに一斉に目標の反応を見失ったのです」
お母様のあまりの激昂した姿に駆け込んできた男は真っ青になっていた。其れでも義務感からか震える声で告げた内容は、私以外の皆を慄然とさせる事に成功していた。まあ私も捕まえられなかった事を別の夢で知ってるだけだったので、その報告には多少驚いてしまったけど・・・・・。
「・・・・・・・・・聖華!!何か知っているなら今すぐ話しなさい。式虫は鳴き声を超音波として使い連動して追う物です。そうそう逃げられるものではありません」
「さあ?私も詳しい事は分かりませんわ。でもそうですわね、私が当主になって旦那様と結婚して御門を立て直すのでご安心を、と言っておきますわ」
「聖華ーーーーーー」
「そんなに怒鳴らない方がよろしいですわよ、お母様。もうすぐ警察車両と消防車と救急車が到着しますから。私に対応させないのなら準備をなさっていた方がよろしいですわよ」
私を今にも射殺しそうな視線で睨んだお母様は、至近から聞こえてくるサイレンに鬼の形相で歯軋りすると、御門の当主として対応するために去って行った。そしてすぐに私の周囲はお母様の命に従った者に囲まれ、半ば連行される様に自室まで連れて行かれたのだった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・と言われました。以上で報告は終わります」
「・・・・・・・・・・・・直哉様は八の二と言ったのだな、沙月」
「はい、確かにそう言いました」
「だとすると伝言は挑発としか思えない。だが沙月を仲間にして私達を通じて話をするとも言っている。言動がちぐはぐだ。行きと帰りで其処まで違うとは・・・・・それに天川や他の名家の奴らが其処まで簡単に従う者なのか?それもよりにもよって八の二だぞ・・・・。クッ、私も武俊様も奴らがそんな簡単に従う様なら、もっと早く決着をつけている。一体何があった・・・・」
厳しく険しい表情で考え込む父に、私は硬い表情でずっと疑念だった事を尋ねた。
「お父さん、八の二とは何なの?直哉様は教えてくれなかったのよ」
「・・・・八の二とは現当主の権限の強制凍結と代理継承の法だ。序列五位までの多数決で可決され、賛成した家は代理継承者に絶対服従を強いられる」
「エッ、絶対服従!?待って、直哉様は車内で和道様と手を組まれる危険はそう遠くない内に無くなると言う様な事を言ったわよ。其れは可決する事が決まっているとしか・・・・」
「ああ、私も聞いていてそう思った。これは早急に武俊様に伝えて、水無月家以外にどの家が賛成に付いたのか調べないといけない。チィ、可決するとしても全員でない事を祈りたいな。もし五家全てが賛成して香織様を中心に一枚岩になるのなら終わりだ」
険しい顔で舌打ちして考え込む父を見て、私は内心に小さな違和感を感じた。そして其れが何なのかを自身の内に問うていた私は、無意識でブツブツと呟いた父の言葉の中の香織様と言う部分にハッとして気づいた。
「ねえ、お父さん。本当に香織様が中心なのかな?直哉様は俺の立場も香織のオマケから変わりそうですと言ったわ。なら中心はオマケで無くなった直哉様と言う事は考えられないの?」
「・・・・・・其れは私も考えたが、須王の血をひいていないのでは無理だ。いや、引いていても和希様の子でないのでは香織様がいる時点で正当性が無い。だから武俊様も継承は出来ないんだ。・・・・・・いなくなれば可能性はあるが・・・・・」
「お父さん!!それは!!」
「分かっている。そんな事をする心算は無い。あまりにも状況が悪くて口が滑った。すまなかった」
「お父さん・・・・・・・」
参った様子で顔を覆う父に、私はかける言葉を見つけられなかった。そのまま時間だけが無情に去って行き、気づいた時には三十分が経過していた。
「・・・・・・・・沙月、お前は直哉様の元に行きたいのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「如何なんだ。私に遠慮はしなくて良い。ハッキリと自分の気持ちを言ってくれ」
「・・・・・・お父さんに迷惑が掛からないなら、直哉様の所に行きたいと思っているわ。私には武人様を支える事は出来そうにないもの」
「そうか・・・・・よし分かった。そっちの期限は三日だったな。なら明日一日は価値が変わったと言う直哉様の調査に使う。そして次の日の朝に私が調査結果と共に沙月の進退を武俊様に話して置く。その間沙月は大人しく学校に行っていろ」
「お父さん、話すのなら私が直接言うわ。元々伝言も私が頼まれたんだし・・・・」
「いや、今日の事があってから武俊様も武人様も様子がおかしい。だから沙月は会わない方が良い」
「・・・・そんなに?」
「ああ、武俊様は何かを深く考え込んでしまって、周囲に全く目が行っていない。そして武人様は何度も襲撃された恐怖と自分を非難して去って行った者達の事もあり、強く周囲を疑り始めている」
「何かあったの?」
「ああ、沙月は残ったから知らないだろうが、あの後内輪の会議が行われた。その中で武人様は些細な事で上げ足を取ったりして、痛くも無い腹を探られた者達から顰蹙を買っていた。なのに武俊様は気もそぞろで確りと対処しなかった。あれは明らかに何時もの武俊様では無かったよ。だから今は何か確実な情報を得られるまで刺激しない方が良い」
「・・・・・・・そう。なら私は学校で直哉様に会って話をしてみる。何か分かるかも知れないし」
「駄目だ。此れから仕えるのならそう言う真似はするな」
「まだ仕えていないし、此れがお父さんを助けられる最後の事になるわ。だからね・・・・・」
「・・・・・無理はするな」
「ええ、私も顔向け出来ない事はしないわ。任せて」
そう言って微笑んだ私を見て、父は苦笑いをしながらも頷いてくれた。私はその事に満足しながら、明日どうやって聞き出そうかと内心で想像を膨らませていた。・・・・・・ちなみに此の時の私は寝て起きた後の朝のニュースを見て、父と一緒に魂が抜ける程驚愕するとは微塵も思っていなかった・・・・・。
「父さんこれから如何するんだよ」
「何がだ?」
「何がじゃねえよ。お婆様の事、裏切り者の事、直哉と香織の事、そして和道と源吾の事だよ。さっきの会議でも実質何も決まらなかったじゃないか!?」
「フン、それはお前が余計な口を挟んだ所為でもあるんだがな・・・・まあ良い、何か意見でもあるのか?」
私がギロッと睨み付けると武人は一瞬怯んでから顔を歪め、机を叩いてから荒々しく攻撃的な言葉を口にした。
「もうこのままジッとしていたら一方的にやられるだけだ。すぐに俺達の方から動いて、やられる前にやるしかない」
「フッ、短絡的だな武人。真面な情報も無い状況で動いても失敗するだけだ。それに言われなくても数日以内に敏次が何らかの報告をしてくるだろう。動くのは其れからでも遅くない」
「そんな悠長な事を言っている場合か!?家も襲撃されて今日の集まりも襲撃されたんだぞ。其れも今回はよりにもよって須王の当主自らだ。此のままじゃいつか致命的な事になりかねないだろ!!」
顔を歪ませて怒鳴る武人は今も瞳をキョロキョロとせわしなく動かし、此の部屋には私達しかいないと言うのに周囲を必要以上に気にしていた。
「武人、そんなに死ぬのが怖いのか?」
「なにを・・・・・・」
「お前には和希と私の妹の香澄が殺された可能性が高いと前から言って置いたはずだ。忘れたのか?」
「忘れるてなんかいないが、そんな事は今関係ないだろ!?今は・・・・」
「武人、覚えているならそうオタオタするな。まあ死ぬことに恐怖を抱くのは人として仕方が無い。だが上に立つ者がそれを見せるのは見苦しく、周囲が動揺するから己が内に隠せ。それに分かっていたはずだろう?私も後を継ぐお前も命を狙われるのは当たり前の事だ」
「ア?エッ・・・・・・・」
「何を呆けている?権力でも財力でも他の何かでも、大きな物を持てば人の注目と欲に晒される。結果害しても奪おうとする者が必ず現れる。お前はなんの為に私達に護衛が居ると思っているんだ?」
「それは・・・・・・・・」
「私は和希達の事を教えた時に、お前にその事を教えた心算でいたんだがな。ふふ、良いか?須王家の次期当主の和希の護衛は私達より上だった。其れでも人は死ぬ時は死ぬんだ。人の上に・・いや、舞台に立つ為に一番簡単で軽い最初の条件は、覚悟を決めて己が命を賭ける事だと思って置け」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私は毒を盛られ、直哉は刺されている。其れでも舞台に立ったのは、そうしないといけない譲れない何かがあったからだ。武人、お前には命を賭すに足る譲れない何かがあるか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私はお前に立派になって後を継いでほしいと思っている。だがもし命を賭す何か・・・・いや、覚悟を決められないなら・・・・・そっとした・・そう、平穏で貴い小さな幸せを望むなら手配しよう。今ならまだ何とかなるかも知れない」
「ナッ、父さん!?」
「私は今日の母上との会話で侮っていた事を嫌という程突き付けられた。もう引き返す事は出来んし、色々とばれるのも時間の問題だろう。いや、もう本当はばれているのかも・・・・・・」
「ばれる?如何言う事だ。何を言って・・・・」
「武人、今日はもう自室で休め。そして数日与えるから此れからの事を落ち着いて考えろ。良いな」
「・・・・・・・・・・・・分かった」
絞り出す様な声で返事をした武人は、背を向けて部屋を出て行った。私は其れを黙って見送ると、昔の父さんと母上の事に思いを馳せていた。
「しかし死体を送って反応を見るとはね。とても子供、それも女が考えた事とは思えない」
「お兄様、口が過ぎますわよ。もう、お兄様は毒にやられた間抜けな重傷者なんですから大人しくしてください」
「はいはい、しかしまあとんでもない秘密を知ってしまったな。それに俺の所為で美夜にも月の掟を結ばせてしまったし」
お兄様がガリガリと頭をかく姿を見て、お父様が苦笑いを浮かべた。
「こんな事を言うとあれだが、私は今回の事が無かったらずっと知らされずに、お二人の真の信頼は得られなかったと思っている。秘密が秘密だけにな・・・・・」
「そうですね。でも信頼を得られたと言うのは早計でしょう。今は家に例えると、玄関に入れて貰った程度かと」
「ああ、美夜の言う通りだな。それに直哉様は良く分からない。沙月と言う娘に甘い判断をしたかと思っていれば、美夜にあんな事を言うしな」
「そうですね。私が出してしまった不満を解消する為かも知れませんが、それでもちょっと背筋がゾクッとしました。ふふふ、私達のいない所で水無月の評価が如何なっていることやら・・・・・」
「美夜、次第は如何あれ、私達は月の掟を結んだのだ。ならば余計な事は考えずにやるべき事をなす為に全力を尽くせ」
「はい、お父様。でも言われるまでも無く、もう私は配下に連絡して動いていますわよ。お父様の方こそ大丈夫なのですか?」
「ふん、要らぬ世話だ。準備は既に整ってある。後は時間を待つだけだ」
「おいおい二人ともそんなに張り切るなよ。意気込み過ぎて失敗しても知らないぞ。まあ、正式に主を得た気持ちは分からなくもないが・・・・・」
微笑したお兄様の何所となく呆れた声音に、私とお父様の顔が微かに赤らんで引きつった。私達は長らく主が居なかった反動か、浮かれていたのを自覚したのだ。
「んんっ、その様子だと貴志はまだ動いていないのか?ネオネットは急ぎでは無いのだろうが大丈夫なのだろうな」
「ああ、チロッと見たけどめぼしい物は無かった。明日の朝一にまた裏ニュースでも見て見る心算だ」
「そうか・・・・よし今日はもう休むとしよう。明日からは主の為に行動しないといけないしな。其れに出来れば仕事を素早く片付けて、誰かがお傍に常に居た方がよいだろう」
「そうですわね。直哉様も香織様も目を放すと何をするか分からない怖さがありますから」
「ククク、確かに・・・・・まあ流石に今頃は疲れて寝ているだろうから、安心だけどな」
「うむ、今日は色々あった故な・・・・・」
しんみりとした雰囲気の中、私達は解散してそれぞれの部屋で眠った。この日私はぐっすりと安眠できたのだが、翌朝のお兄様の叫び声で目覚めるとは思いもしなかった。そして其の時から一瞬たりとも油断の出来ない騒がしい毎日が始まる事になるのだった。
「くはははははははは、なあ仁吾、俺を笑い殺す心算か?あーーー、襲撃が失敗したのは良いんだ。だけどな、この報告はなんだ?何時からこんな舐めた報告がまかり通る様になったんだ?」
「弘嗣、冗談で人は死なん。その報告は嘘ではないはずだし、今回行った奴らは全員既に始末した。俺達に繋がる証拠はもうない。後は父と水無瀬家が泥をかぶるだろう」
酒を飲みながら馬鹿笑いする目の前の男に俺が眉を顰めて淡々と告げると、弘嗣は真顔に一変させて此方の顔色を窺いながら話しかけてきた。
「・・・・・犬が狙撃を迎撃したと書いてあるのを信じるのか?」
「信じたくは無いが報告した奴は嘘は言わんだろう。家族の事もあったしな。それで血に関する噂話を調べて整えた時に、小耳にはさんだ一つの別の噂話を事を思い出した」
「・・・・・・へえーー、今回の馬鹿げた報告を信じられる何かを耳にしたのか?」
「チィ、まあな。あの時は唯のくだらない根も葉もない噂だと思い、一笑に付して気にして無かったんだが・・・・・」
「なんだ、いやに勿体ぶるじゃないか?そんなに重要な事なのか?」
「・・・その噂では御門が血を秘匿するのは特殊な力を持っているからだとの事だ。あの家が陰陽師に遡るのを聞いた事はあるか?」
「あーーー、詳しくは知らん。で?」
「思い出した噂では式神と言う動物などに模した操り人形を使えるそうだ。まあ真面に見た者はいないと言う胡散臭い噂話だったんだが・・・・・。今回のあれが本当に式神なら見た者は殆ど死んでいるんじゃないかと考えている。そして運よく辛うじて生き延びた者が口にした体験が、水面下で噂になっているのだろうと・・・」
「・・・・・へえーーーー、つまり報告の犬とやらが式神ならその胡散臭い噂は本当だったと言う事で、更にあの血の噂は本当と言う事になるな」
「ああ、俺は本音では襲撃なんてくだらないと思っていたんだが、やっただけの価値はあったのかも知れん。此の事を和道や父に伝えれば面白くなりそうだ。たぶん同じ始名家の当主の和道なら式神などについても俺達より詳しく知っているはずだ」
「くはははは、良いね良いね、言うタイミングを間違えなければ、和道も血相を変えて動くだろう。ただ今は動いたばかりで大人しくするべき時だ。今動いたら俺達の事がばれるかも知れない」
「そうだな。未知の力を持っているなら用心するに越した事はない」
「くふふふふふ、未知の力だけじゃないだろ。毒で息子を駄目にされた水無月の奴らがどう動くかな。くふふふ、くははははははは」
「弘嗣・・・・・・・」
俺は心底から浮かび上がった歪んだ満面の笑顔と笑い声を見聞きし、未来の弘嗣が此れからの騒ぎを喜び楽しむ姿が幻視出来る様な思いがした。俺はそんな弘嗣からそっと視線を外すと、自身の立ち位置を再確認して今後の立ち回りを考えるのだった。
「翔一、如何言う心算だ。八の二に賛成したら・・・・・・」
「父さん、今日の集まりで直哉を見て、あれを計画通りに操れると思ったのか?」
「それは難しいかも知れんが、天川の方針としては香織様の後ろ盾に立ち、大人しくさせてからあの方に須王の当主の座を穏便に譲り渡して貰う心算だったのだぞ」
「其れはそうだけど・・・・直哉がいる以上あの方を立たせたらぶつかると思う。其れは須王の混乱を長引かせる事になりかねない」
「今ならまだ天川の持てる力を結集すれば主導権は握れるのでは?」
父さんの言葉に私は眉を顰めて首を振った。そしてずっと気になっていた点を口にしていた。
「彩希様があんなに強く直哉を推すとは思っていなかった。フッ、座る場所から口論になる程だぞ。父さんは想像していたか?」
「それは確かに私も驚いたが、だとしても・・・・・」
「父さん!!彩希様がまだ何かを隠しているみたいなのは気づいているだろ。フッ、多分手紙に託けて会って話す心算だろう」
「・・・・・・彩希様がお話になる事は大体予想がつくが・・・・やはり天川は警戒されているか・・・・・」
「まあ、それは当然でしょうね。クク、あの方を匿う為とはいえ、おかしな動きをずっとしているんだから・・・・」
自嘲して肩を竦めた私に、父さんは厳しい顔で告げた。
「翔一、彩希様は必ず疑わしい天川の力を削ぎにくるぞ。直哉と香織様に付いても力が削がれるだけだ」
「いや、父さん。直哉も言っていただろ?配慮するって」
「其れを疑いも無く信じているのか!?何を甘い事を言っているのだ!!翔一!!八の二が可決した後では満足に動けないんだぞ!!そうなればあの方も大人しくしてはいまい。それは如何する心算だ!?」
「あーー、うん、その事なんだけど・・・・・・確かにあの方は確実に須王の血を引いている男だけど、詳しく明かせない問題がある。直哉が上手くやるならそれに越した事はないと思わないか?」
「・・・・・・・・あの方を切り捨てるのか!?」
「ああ、大人しくしていてくれないならそうなるかもね」
「翔一!!それは駄目・・・・・」
「父さん!!天川はずっとずっと須王を支えてきた。でも奴隷じゃない。当たり前の様に闇の隠蔽を手伝わされ、其れでも陰になり日向になり尽くした結果の最近は如何だった。須王が好き勝手やる為に天川はいるんじゃない」
「翔一・・・・・だが天川は・・・・・」
「父さん、当主の器で無い者が当主をやるのが問題なんだ。ふふ、私は直哉が八の二を告げた時、内心で自嘲が止まらなかったよ。私は何で今まで其れを考えなかったんだろうってね。ははははは、今まで八の二が使われなかった事の方が異常なんだよ。違うか?父さん」
「翔一!!八の二は軽々しく使えるものでも、使って良いものでも無い!!」
父さんの険しい顔と口調に、私は神妙な顔で頷きつつも硬い声で反論した。
「むろん乱用する心算は無い。でも使うべき時に使われないのでは意味が無いだろ。なあ父さん、あの方は血筋的には和希がいない今、天川が後ろ盾になって推せば確かに当主の座を継承出来るだろう。和希が死んだ時から今が良い機会だと考えてずっとそれを望んでいるし、それは和道を否定する事にもなって天川としても都合がいい。でもあの方が当主の器だと思うか?長年の不遇の生活に苛立ち、いい歳なのにかなり視野が狭いんだぞ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「私は直哉が上手くやれるのなら推そうと思う。幸い彩希様の夫の時と違って、直哉は格上の始名家の血をひいているんだ。和希の娘の香織とくっ付けば文句を言える家はいないだろ。八嶋の方もあるし」
「・・・・・・翔一、なぜいきなり心変わりをした?今日何を見聞きして何を思った。建前は良い、私には本音を話せ」
「フゥーーー、そうだね。なあ父さん、私と和希は仲の良い友人だったんだ。和希が生きていれば今も忠実な側近として何の不満も無く仕えていただろう」
「うむ、其れが如何した?」
「和希は直哉に水無月家を継承させた。そして今日和希の娘の香織の許嫁だとも知った。つまり直哉は和希が選んだ正当な後継者だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・翔一・・・お前・・・・・」
「フッ、悪い、父さん。直哉が器でないのなら気にも留めなかったんだが・・・・今の所、未熟なところもあるが及第点だ。ハッキリ言ってあの方よりマシだと思っている。父さんは受け入れられないか?」
「・・・・・・・・・・受け入れないと言ったら、お前が当主になる心算なのだろう」
「まあね・・・・・あの場で言った事は本気だよ」
「・・・・・・・・・・何日か考える時間を貰え無いか?翔一も言われてやらなければならない事があるだろう」
「そうだね。でも慎重に行動してくれよ、父さん。結論前にあの方の耳に入るのは御免だ」
「言われんでも分かっている。今日の事で皆が実際にどう動くか情報を集めてから考えたいだけだ」
そう言った父さんは顔を隠すかの様に背を見せ、私はその後姿から漂ってくる雰囲気に気圧されるものを感じ、そのまま静かに歩き去って行くのを見送った。そして部屋に一人残された私は今後の展望を考え、父さんが大人しく歩調を合わせてくれる事を密かに祈った。
「彩希様、和道様の行動で負傷した者ですが・・・右腕と肋骨が折れており、更に足を撃たれていて負傷が良くありません」
「そうですか・・・・兎に角万全の治療をお願いします」
「はい、ですが・・・その・・・・」
「如何しました?」
「・・・・・・・負傷した者なのですが、如何やら和道様を無警戒で中に入れた様なのです。今事情聴取中ですが、たぶん情報も話していたかと・・・・。それと周囲に聞いた話では直哉様に対する態度も悪かったと報告されています」
不快な報告に顔を顰めた私は視線だけで先を促した。
「・・・・・あの者が元は水無月の縁の者で、水無瀬家の縁の娘と関わって勘当された者なのは周知の事実、今回の事で・・・・」
「皆に内通者と疑われていますか?」
「はい」
私の言葉を断ち切る硬い声に報告していた男の顔が強張っていた。内心で苦笑しながらそんな男を安心させる様に柔らかく微笑んだ私は、一転して軽い口調で告げた。
「ふふ、あり得ませんよ。あの者は私を自分の意思で裏切ったりしないでしょう。あるとすれば騙されたかです。止め様として負傷したのもそれを裏付けています。私がそう言っている事を皆に伝えて、大人しくさせなさい」
「ハッ、了解したしました」
「さて急ぎの報告は其れだけですね。なら此れから急ぎでやって貰いたい事があります」
「ハッ、何なりと御命じください」
「まず天川の調査を。あれは前々から何かを隠していますが、今日は明らかに直哉と香織に近づこうとしていました。その目的と隠し事を探りなさい」
「ハッ、了解しました」
「次に直哉の行動を気づかれない様に見守って報告なさい」
「見守るだけ・・・護衛では無いと思って良いのですか?」
「ええ、護衛は水無月家が居るから良いでしょう。私が気にしているのは、直哉が突飛な行動をとらないかです。会って話して分かりましたが、あれはいざとなったら常識などかなぐり捨てるタイプです。はあーーー、出来れば大人しくしてくれて、私の計画通りに事が終わってくれれば良いのですけど・・・・・」
「・・・・・・・・・了解しました。水無月にばれた場合は所属を明かしても?」
「構いません。交戦だけは避けてください」
「了解しました」
返事をした男が踵を返して去るのを見届けた私は、直哉に渡された紙を手にしていつ会うべきかと一人思案した。
「ねえ、直幸さん。直哉は・・・・・・・・」
「・・・・沙耶が俺の余計な過去を言ってくれたから違和感を感じている。二人になった時に問い詰められそうになったよ」
「そう。ねえ元々私が知っている事は微々たるものよね。今日も隠し事が明らかになったし・・・・」
「ウッ、あれには理由が・・・・・」
「良いわよ、言い訳しなくても。ふふふ、私が妻として何年一緒に暮らしたと思っているの?全てを聞かないと信頼できない程脆い絆は築いていないわ」
「すまん。言えない事、言いたくない事、言うのが怖い事、言わない方が良い事、色々あって口に出来ないんだ」
「・・・・・・・・・・そう、なら言わなくて良いわ。ただ一つだけ教えて、直哉は大丈夫なの?確かに直哉は刺された後に酷い状態になっておかしかったけど、刺される前も様子がおかしかったわ。あの時毎日の様になにかを直幸さんと話していたでしょう」
沙耶の言葉は俺の心に深く突き刺さり、当時を思い出して苦い思いを感じさせた。
「・・・・・・・・やっぱり母親だし、直哉の異変は気づいているよな。はあーーーー、沙耶の想像の通り今回の事に関わりのある事だ。大丈夫かと問われたが、ハッキリ言って分からんとしか言えない。直哉は既に刃物の事を克服した。だが・・・・・・」
「・・・・・・・・やはり刃物以外にも問題があるのね。そして直幸さんはその事を直哉に話すべきか迷っている」
「ああ、直哉がどんな反応をするか分からないんでな。やっと刃物を克服したばかりなんだ。出来ればそっとしておきたい」
俺が苦渋が浮かんでいるだろう自分の顔を手で覆って隠すと、沙耶はそっとその手を取って覗き込み、怖い程の真剣な顔で視線を合わせて話しかけてきた。
「今日私は襲撃されたわ。そして襲撃犯は殺された。分かる?今も思い出すと震えがくるの」
沙耶の言葉の通り、俺の手を取っている手は小刻みに震えていた。その顔も微かに血の気が引いている様に見えた。
「直哉は向こうで戦って殺したと言っていたわ。だからきっとこの恐怖以上のものを克服したんでしょうね。そして此方より厳しい世界で重責が圧し掛かる王も引き受けたわ。更に今日もタマミズキ達を残して私達の身の安全に配慮し、その上で必死に現状を打開する為に行動しているの。だからね、私達が思っている以上に強くなっていると思うのよ。ふふ、小さな子供だった直哉も大きくなったわ。その成長を信じて話してみない」
「・・・・・・・・・だがもし話して耐え切れずに何かあったら・・・・・」
「そうね、その可能性は否定しない。でも今は私達と香織だけじゃないわ。シグルトもフレイもタマミズキもルードルもいる。何が起きてもちゃんと支えられるはずよ。それと直哉は自身の血の事を他人から聞いたわ。たぶんあの子の事だから気にしているわよ」
沙耶の真剣な視線と言葉がぶつかってきて、俺の顔と心に苦いものが広がった。
「・・・・・そうだよな・・・・・此の上詳しい事まで他人から知らされるのは・・・・・はあーーー、避けられない話す時が来ていると言う事か・・・・・・。分かった、明日の夜に二人で話してみよう。どうなるか分からないから覚悟だけはして置いてくれ」
「・・・・・・・・・・ええ、分かったわ、直幸さん」
悩む俺の背中を押しながらも、沙耶の震える手は内心の不安を全く隠せていなかった。俺はそんな沙耶の手を掴んで抱き寄せると、内心で話せない事がある事とその事で不安を大きくしている事を詫びながら、落ち着くまでジッと待ち続けた・・・・・。
「香織、もう寝たらどうですか?」
「ううん、お兄ちゃんが戻って来るまで起きているよ。シグルトが居ないって事は動いたんでしょう?フレイ」
「・・・・・隠しても無駄ですから言いますが、御門に忍び込むとシグルトが言って出て行きました」
「そう、ヤッパリ・・・・・はあーーーー、今日すぐに行くなんてお兄ちゃん、計画が狂って焦っているわね」
私が首を振ってため息を吐いて表情を厳しくすると、それを見た皆は驚きと共に雰囲気を緊迫感のある物に変えた。
「香織、そんな顔をして何か気になる事でも?」
「主よ、焦っていたとしても直哉とシグルトなら問題無いのでは?」
「気になるって言うか、あの聖華と名乗った女からは嫌な雰囲気を感じたわ。女の勘てやつよ。仲良くなれそうにないわ。それに接触した当日なんて向こうも警戒しているでしょう。普段のお兄ちゃんなら気づいて配慮したはずなのに、今は色々あって視野が狭まって性急に行動しているわ」
私の発現にジッと聞いていたタマミズキが、目を半眼にして口を開いた。
「香織、貴女は何を心配しているの?今の直哉は契約者、例え視野が狭まっていても何とかなるでしょう。もしかして聖華と直哉が会う可能性があるのが気に入らないのかしら?」
「・・・タマミズキ、それが不快だと・・・嫉妬している気持ちは認める。でも事はそんなくだらない事じゃないわ。私はね、この家の矢嶋の娘でもあるけど、やはり須王の娘でもあるのよ」
そう言った私が感情を窺わせない様に殺した須王の娘としての冷たい顔を見せると、場の雰囲気は一瞬で重苦しく殺伐としたものに変わった。
「私は須王の娘として御門の事を小耳に挟んだ事もある。それにこの前死んだお母さんと二人で話した時に、お兄ちゃんが刺されてまで私を助けてくれた事も話したわ。するとね、お母さんは表情を厳しくして色々詳しく聞いて、色々な事を話してくれたわ。ふふふふふ、その中にね、御門の情報もあったの」
「・・・・・・・・・待ってください、香織。貴女は何かを知っていて黙っているのですか?」
「そうよ、フレイ。だからあの時御門の事を尋ねないお兄ちゃんに代わって、お父さんに御門の事を聞く様に言ったのよ」
「香織、貴女・・・・・・・・・・」
「・・・・・主よ、それは・・・・・・・・」
フレイとルードルが息を呑む中で、タマミズキだけが私を見て薄らと微笑んでいた。
「やはり香織は普段、猫をかぶっていますわね。そっちの方が似合いそうですわよ」
「止めてよね、タマミズキ。こっちはあくまで過去の私よ。今も未来もお兄ちゃんの見ている矢嶋香織でいるんだから。今だってお兄ちゃんの為だからこのように振る舞っているんだから」
「あらあらあら、如何かしらね。自分を客観的に見るのは難しい・・・」
「タマミズキ」
私が声を低くすると、タマミズキはクスクスと笑って話を戻した。
「それで誘導した結果、見たい物は見れたのかしら?」
「見れたわよ。明らかにお父さんは何かを隠しているわ。色々聞いたから多少は想像がつくけど、お兄ちゃんも気づいて二人で話したし、後は時間の問題でしょう」
「ふふふふふ、貴女が乱入していなければ、あの時にもう終わっていたかも知れませんけどね」
「タマミズキ、たぶんそんなに簡単に片付く話じゃないわ。ちゃんとお互いに覚悟を決めて向き合って話さないと駄目なのよ。ふふふふふ、あの時計は確かに大切で我を忘れて乱入したけど、そうじゃ無くても理由を作って邪魔をしたわよ。私は・・・・・」
私が目を細めて口元を吊り上げていくと、流石のタマミズキも息を呑んで黙り込んだ。鏡を見なくても分かるが、今の私は内心で強く相反する重苦しい葛藤の溢れた危険な笑みを浮かべているはずだ。確かに私の中にはお兄ちゃんの為を思い、きちんと知って自分で前に進んで欲しいと言う思いもある。お父さんの様子から考えると、絶対に刺された時の事も関係しているのだろうし。でも私の中にはお兄ちゃんが何も知らない内に暗躍し、此の契約者として得た圧倒的な力で邪魔な女や問題を焼き尽くしてしまいたいと言う思いもあるのだ。そう、お兄ちゃんを私から奪う危険な可能性を・・・・・・。
「かか、香織、炎が・・・・・・・・・」
「主・・・・・暴走・・・・・・・・・」
「香織、それ以上は駄目よ。直哉に言うわよ」
お兄ちゃんに言うと言う言葉に我に返った私は、何時の間にか全身に纏っていた金の炎を抑え込むと、大丈夫よと思いを込めて微笑んだ。しかし皆は顔を引きつらせるだけで視線を合わせようとしなかった。其れでいて此方の様子は常に窺っているのだ。其の時の私は見せた微笑みが穏やか過ぎて、先の危険な笑みと併せて考えると、嵐の前の静けさの様に感じて余計に恐ろしく思えるとは気づいていなかった・・・・・・。
次話の投稿は9月1日以降になります。次話もよろしくお願いします。




