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契約者達と家族の会話

 今家のリビングは刻一刻と高まる重苦しい雰囲気に包まれていた。何故なら俺が家の前に着くとルードルが疾風の様に駆け寄ってきて、鋭く目配せしたのだ。それで何かあったと悟ったシグルトが素早く空間を隔離し、俺が共にいる水無月家の面々が秘密を知った事を話した。するとルードルは見定める様な視線を三人に向けて頷いてから、香織と俺に襲撃の事を話してきた。其れを聞いて一瞬で険しい顔になった俺達はその場で話し合い、ルードルは水無月の者達を訓練室に連れて行って、俺達は今こうして親と対峙しているのだった。それも十分以上無言のままでだ。

 「・・・・・・・直哉も香織も無事で良かった。心配していたんだぞ」

 「・・・あのな・・・・・父さん。ようやく口を開いたと思ったらそれか・・・・。それはこっちのセリフだ。なあ香織」

 「うん、帰ってすぐ外まで出てきたルードルから聞いて、びっくりしたんだから・・・・・爆弾が送り付けられて襲撃されたんでしょう。ほんとタマミズキとルードルが居なかったらと思うとぞっとするわ。ねえ、お母さん、顔色も悪いし休んだ方が良いんじゃないの?」

 「大丈夫よ、香織。それに今は休んでいる状況では無いの。襲撃とは別に人が訪ねて来て、ちょっと厄介な事態になっているのよ。それでそれに関連して直哉に話さないといけない事があるの」

 「・・・・・・香織では無く、俺にね・・・・・そっか、こっちも聞きたい事があるんだ。奇遇だな」

 ルードルがわざと語らなかったらしい訪問客の存在に、俺は表情を強張らせながらそっと両親の顔色を窺った。すると両親も俺の声音や態度から何かを悟ったのか、体を硬直させて口を引き結んだ。それが更に場の雰囲気を重苦しくしていき、今まで目を逸らしていた不発弾の導火線に火がついて、避けられない爆発の時が近づいている様な嫌な緊迫感を生んでいた。

 「お兄ちゃん、私が付いているよ。大丈夫、もしもの時は私がまた胸に抱えて癒やしてあげる。ふふふ、さっきお兄ちゃん嬉しそうだったし」

 からかう様な口調で言った香織がそっと手を握って来たのを機に、苦笑いした俺は緊張に依って自然と籠っていた体の力を抜いて口を開いた。

 「あーーーー、聞きたい事はお互いに色々あるんだろうが、まず俺が単刀直入に聞かせて貰うわ。良いよな、父さん」

 「・・・・・ああ、何が聞きたい」

 「俺は今日彩希さんから、自分に始名家御門と八嶋財閥の血とやらが流れていると聞かされた。ほんとかどうかは知らないけどな。俺は親の口から今まで一度もそんな話は聞いた事がないんだ」

 俺がそう言って父さんの顔色を窺っていると、何故か母さんの方が大きく動揺して真っ蒼になっていた。俺はてっきり過去を話さない父さんに原因があると思っていたのだが、先程の言葉といい、もしかして母さんも何か隠していたのだろうか?俺は一緒に驚いている香織と顔を見合わせると、此れは一度時間がかかっても、今日あった出来事をつまびらかに話すのが早道だと結論した。

 「父さん、母さん、今日行って帰って来るまでにあった事を全部話す。だから最後まで黙って聞いてくれ。向こうに着くと・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・と言う事があったんだ。其れで今此処にこうしている。父さん、母さん、説明出来る事は包み隠さずして欲しい。もう俺が和希さんと話して考えていた様な事態じゃ無くなってしまったんだ」

 話を終えると今にも倒れそうな母さんの肩を支えた父さんが、ジッと俺の顔を見つめてきた。そして覚悟を決めた真剣な顔で俺達に、淡々と今日会った真鈴さんと言う人との話をしてくれた。

 「・・・・・・・えーーっと、此れはつまり・・・・うわ混乱してきたな・・・・・。えっと・・・御門は父さんだけど・・・何も知らないんだよな・・・・。よしなら八嶋の方だけでも話そう。八嶋の血を継いでいるのは母さんで、本人も今日まで知らなかったと言う事で良いんだよな?」

 「ええ、まさかあの祖父が・・・・・・・」

 母さんは涙声でそう言って言葉を詰まらせてしまった。俺は凄く居心地が悪くなって母さんを香織に任せると、見ない様にして父さんに話し掛けた。

 「それでもう一度確かめるけど、天川翔一が言った様に父さんが八嶋財閥の関係者だと言うのは本当なんだな?」

 「ああ、俺の母さんが八嶋財閥の当主と再婚したから、血の繋がらない義理の息子になる」

 「何故今までその事を俺に言わなかったんだ?」

 「・・・・・・・・もう八嶋財閥とは・・・いや金城の爺とは関わりたくなかったんだ」

 「金城?」

 「・・・・・・・・・・・・はあーーーー、語りたくないんだが・・・・語らずに済ます訳にもいかないか・・・・。こうなったら直哉には知る必要がある。済まない直哉。俺の因縁に巻き込んでしまった」

 そう言って父さんは深く頭を下げると、前に見た苦悩を垣間見せてから話し始めた。

 「俺が今の直哉より年下だった時の話だ。母さんが再婚した。その相手が八嶋財閥の当主八嶋志雄だった。ははは、母さんの再婚も驚いたけど、初めて自宅で会った時に義父さんの仕事を尋ねて、財閥当主と聞いた時は正気を疑ってしまったよ。ははは、大丈夫なのかこの人は?と言った視線で中々信じない俺に業を煮やした義父さんに、屋敷に無理やり連れて行かれた所為で信じざるを得なかったけどな」

 懐かしそうにしみじみ語る父さんの姿に、志雄さんとの関係は良好だった事が窺えた。

 「学校の転校と全く違う新しい生活に慣れないといけなくて大変だったけど、当時は楽しくて幸せだったと言えたよ。数年後には弟も生まれたし、転校で沙耶や和希達にも出会ったしな。ああ、それになんと言っても、酒が飲める歳になってから義父さんの集めた酒を一緒に飲んで話すのが楽しかった。今じゃめったに飲めない高級酒ばかりだったしな」

 「成る程、そこに父さんの酒を止められない理由があるんだな。本当はまた志雄さんと飲みたいんだろ?」

 「・・・・・・・さあな。直哉が飲める歳になったら飲みながら教えてやるよ。さあここからが重要な処だ良く聞けよ」

 父さんは一度口を閉ざすと間を開けてから忌々しそうに話し始めた。

 「自分で言うのもなんだが、俺はこう見えて結構優秀でな。学業をしながら義父さんの簡単な仕事の補佐や経験を積む為の課題をそつ無くこなして結果を出していたんだ。するとまあ当然の様に任される物も徐々に大きく重要な物になっていくだろ。そして其れが気に入らない奴も出てくるわけだ。その頃の俺は卒業したらすぐに管理職になると噂されていたからな」

 「へえー、いきなり管理職にねえ・・・・想像がつかないな・・・・」

 「まあそう言うな。あの当時の俺は跡取りとしての特別な教育を受けていた事と、なにより義父さんが陰で人に命じて助けてくれていたから何とかなっていたんだよ。ふふ、当時の俺は助けて貰っている事には気づいていなかったけどな」

 「成る程ね・・・・・まあ良い、それでその話し方だと金城とやらは気に入らないと思っていた奴の中に居たのか?」

 「・・・・・・・いやそうじゃない。さっき義父さんが助ける様に命じたと言っただろう。その男の名が金城泰雅と言う。義父さんの腹心だった男だ」

 首を振って否定した苦い表情の父さんの言葉に、俺はポカンとしてからハッとした。そして難しい顔になって鋭い声で確かめた。

 「金城泰雅は敵じゃ無く、味方だったのか!?」

 「ああ、当時は味方だった。後に八嶋と不干渉の約を結んだ時に義父さんから聞いたから間違いない」

 「・・・・・何があったんだ?」

 「さっき言った俺の事が気に入らない奴らの中に、泰雅が目に入れても痛くない程可愛がっていた一番下の子供がいたんだ。そしてそいつは俺が入社してやった事で泰雅に初めて厳しく叱責され、数日後の朝に自室で首をくくっているのを発見された。自殺だ」

 死人が出たと言う話に、母さんを落ち着かせながら話を聞いていた香織がギョッとして振り向いていた。父さんは其の視線を受け止めながら、両手を組んで額に押し当てて顔を見えなくした。そして苦悩まじりの声でボソボソと語り始めた。

 「入社して暫く経った頃だ。俺は経理の書類におかしな所を見つけた。横領だ」

 「横領だと?」

 「横領って・・・・」

 俺と香織が視線を合わせて戸惑っている間にも父さんの言葉は続いた。

 「ははは、奴らはある程度の管理職にしか気づけない様に上手くやっていたよ。しかも別の関連会社も巻き込んで大々的に行われていたので、金額も桁が間違っているんじゃないかと言う程大きかった」

 「・・・・・・・いや待ってくれ、父さん。其処まで派手にやったらばれるだろ?実際父さんも入社して暫くしたらもう分かったんだし、他の管理職の人は誰も何も言わなかったのか?横領なんてこっそりやるものなんじゃないのか?」

 「・・・普通に考えれば確かにそうだろうな。だが此奴らの巧妙な手口は、関係者だけでなく無関係の他の者まで知らない間に給料などに紛れ込ませて金を受け取らせている所なんだ」

 「・・・・・・・・・・・何だって?」

 俺が何度も瞬きしながら見つめていると、顔をあげた父さんが心底から忌々しいと言いたげな顔で問いかけてきた。

 「良いか、直哉、香織。平社員から管理職まで上がるのに普通ならどれ位かかると思う?」

 「・・・・・・それは何年かかかるんじゃないか?」

 「そうね、信頼や信用が必要だからすぐは無理でしょうね」

 「まあその通りだな。一月二月でなれるものじゃない。しかもそこにある程度のと付けばなお更だろ。はは、俺がなったばかりの管理職で気づけたのは、義父さんの補佐をした時の情報が頭にあったからだし、横領していた奴らにとっても誤算だったはずだ。さてそんな状況で普通の者が横領に気付ける様になった時には如何なっていると思う?」

 「アッ、そっか・・・・塵も積もれば山となる。既にその時には大金を受け取っている事になるのね」

 香織の驚きの声に、成る程無理やり共犯者にされるのかと思い、俺なら如何するかと考えてその他の問題点に気づいて蒼ざめる事になった。俺は此れでは余程の覚悟を持たないと、絶対に内部告発などは出来ないだろうと思った。

 「はは、気づいたか直哉。そうだ、俺の様な例外は兎も角、他の普通の者では口を閉ざすしかない。問題点があり過ぎる」

 「如何言う事お父さん?お兄ちゃんもそんなに顔色を変えて何を気づいたの?」

 俺は父さんと視線を合わせて苦笑いすると説明を譲った。愉快な話じゃないので押し付けたとも言うが・・・。

 「はあーー、あのな、香織。この告発には人生を掛ける必要があるんだ。しかも後に得られるのは沢山の人の憎悪だろう」

 「憎悪?」

 「ああ、そうだ。横領されたお金は返金されるべきだ。だがこの場合、した認識が無い人達まで返金するなら、その人達はいきなり借金を背負わされるも同然だ。さぞかし恨まれるだろうな。今後同じ会社で働けると思うか?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「フッ、つまりこれである程度の管理職になるまでの努力は水の泡だ。大抵の者は年齢的にも結婚しているから家族も居るし、正義感だして借金背負って無職になれると思うか?再就職は難しいぞ。俺だってまだ若い当時なら兎も角、今躊躇なく同じ事が出来るかと言われたら・・・・ははははは、出来そうだな、子供が普通じゃないから・・・・・」

 「・・・・あのな・・・・父さん・・・・・」

 俺達を見て愉快そうに笑う父さんに憮然としていると、香織が納得顔で頷いて口を開いた。

 「ふーん、つまりお父さんは人死にが出て沢山の人に恨まれているから、居づらくなって今こうしているって事?」

 「いや、香織。父さんは義理とはいえ当主の息子だぞ。大半の人はその思いを押し殺して我慢するはずだ。間違った事をしたわけではないし、其れくらいなら直接何かを出来るとは思えない。そうだろ、父さん」

 「まあな。規模が大きかった事もあって、報告すると義父さんが直接動いたから俺は矢面に立たなかった。そう、直哉の言う通り問題は別で、其の時に俺が調査と報告だけで満足せずに更に動き、混乱で見えた他の膿も徹底的に叩いてしまった事なんだ。フッ、見えた中には義父さんを悪質な手段で騙している奴らも居たし、当時の俺は若くて必要悪なんて認められない性格でな。頭に血を昇らせてやり過ぎて追い詰めすぎたんだ。・・・俺は最低限の逃げ道ややり直す機会、更には落としどころすら断ってしまったんだ」

 「・・・・・戦争で完全に退路を断たれて死兵が生まれる様なものか?生きていても社会的に死ぬから引くに引けず、形振り構わない抵抗が激しくなったと?」

 「ああ、それもあるけど、なにより俺は上流階級って言うのを深く考えていなかったんだ。はは、所詮は連れ子で真の上流階級じゃないから実感してなかったんだよ。どの家にも失えない建前や体面がある。そして長く続いていれば暗黙の了解の闇もある。俺は其処に土足で踏み込んで踏みにじってしまい、その結果暗黙の了解が崩れて闇が晒され、そうなった以上は体面などで引けない、馬鹿げた得る物のない騒乱が始まった。そう、俺は長い年月で大きくなった放って置けば良い不発弾をわざわざ爆発させたんだ」

 「成る程、父さんは加減をミスって何らかの闇を浮き彫りにしてしまったわけだ。そしてその結果騒乱が起こり、人死にを出して周りを敵にし、当主の志雄さんでも容易に抑えられない事態を引き起こした・・・・・」

 「ああ、その通りだ。まさに悪夢だった。傷付かない家はなかったし、あおりを喰って倒れた家も多々ある。だからその原因を作る事になった横領していた奴らは、社会的に刑罰で罪を償ったはずの今も親から監禁され、いない者の様に扱われている」

 「居ない者か・・・・・・・・・父さんは良く無事だったな・・・・・」

 「居ない者ってそんな・・・・・・・・・」

 「・・・・・俺が今こうして居るのは、ひとえに義父さんのおかげだな。それと香織、お前は須王の娘でもあるし、名家も大概同じ事をやっているから気を付けろ。特に和道の奴なら言う事を聞かないだけで監禁は普通にあり得る話だ。ばれた様だから言うが、和希が死んですぐの頃、家に何度も香織を帰せと催促があった。何でも須王の者なら当主の命が絶対で、和希が死んだ今香織に対する権利は自分が持っているそうだ。ククク、あまりにもしつこいんでキレた俺が「ふざけるな!!もう香織は家の娘だ!!和希は貴様を信用していなかったから香織を頼むと言って置いて行ったんだぞ!!二度と連絡してくるな、くそ爺」と言ったら口にするのも憚られる罵声を飛ばして連絡してこなくなったな。フン、大人しく諦めたとは思っていなかったが、まさか今までさらう事にして動いていたとは、流石不愉快な爺らしいやり方だ。チィ、いい歳なんだから、さっさと死ねと言いたいね」

 香織に忠告していたはずの父さんは、余程和道が気に入らないらしく、話している間に昔の事を思い出して感情を昂らせ、舌打ちしてからの言葉が本気なのが強く感じられた。

 「父さん、話が逸れているぞ」

 俺が忠告すると父さんは「我慢できない事に遭遇すると頭に血を昇らせる悪い癖は、歳を取っても治らんな・・・」と呟いて首を振った。そして自嘲の笑みを浮かべて話を戻した。

 「ふふ、俺はあの時そつ無く上手くやっていたんで、調子に乗っていたのかも知れん。本当に義父さんにはあの時もその後も多大な迷惑を掛けてしまった」

 「後も?」

 「ああ、忌々しい事にまだ続きがあるんだよ。はあー、水面下で約を結んで表面上は落ち着いた。しかし腹心だった泰雅と金城家が味方から敵になった事もあり、水面下では嫌がらせなどが頻発してな。横領などで人材が減った事もあってまさに気の休む暇もなかったよ。其の時の俺は騒動で管理職では無くなり、義父さんの監督下で補佐を細々とやっていた。そしてその必死の三か月後に事件が起きた。本来は俺が行くはずだった海外の施設の視察に行けなくなり、代わりに母さんが行く事になった。そこで運悪く現地の開発計画の反対者に襲撃された。幸い命は助かったのだけど、全治八か月の重体だ」

 ハッとして息を呑む俺と香織に、母さんが何も言うなと目配せしてきた。そして父さんの声が淡々と部屋に響いた。

 「護衛の人選は泰雅が決めたんだけど、あの馬鹿はなんと研修が終わったばかりの未熟者だけで構成していやがった。おかげで護衛の指揮がもたついて三割が死亡、五割が負傷、無事だったのは二割と言うあり様だ。むろん此の事で緊急会議が開かれた。その席で泰雅は今回の事は不幸な事故だったと言い切った。そして護衛の実力は守る対象の価値に合わせただけで、最初から幸恵様が行くと決まっていたならもっと確り護衛をしたと言い放った。クッ・・・・この視察は現地の提携会社との事もあって、三日前まで俺が行くか母さんが行くか揉めて決まってなかったんだ」

 ギュッと拳を握る父さんから、怒りと嘆きが感じられた。そしてそんな父さんの拳を母さんがそっと握っていた。

 「その時の泰雅の瞳は、まさに呑み込まれそうな深く淀んだ闇だった。会議の出席者もゾッとした顔をしていたよ。俺が怒りを押し殺しながら「母さんだけの問題じゃ無い。死んだ護衛の奴らもきちんとしたベテランが居れば死なずに済んだ」と言っても、泰雅は薄ら笑いを浮かべるだけだった。そして今後も価値の低い者にはそれ相応の護衛になる。それが嫌なら・・・・そう言いかけて口を噤むと、泰雅はべっとりと纏わり付く様な濁った視線で俺を見つめてきたよ」

 思い出した視線を振り払う様に首を振った父さんは、心底から忌々しそうに絞り出した声を出した。

 「あの場に居た者は皆分かっただろうな。俺が行って死んでいれば次は無かったのだと。俺が居る限り繰り返されるのだと・・・・。泰雅は大事な息子が死んで他人の命を軽んじる様になっていたんだ」

 「父さん・・・・・」

 「うーん、その泰雅の息子さんだっけ?親に叱責されて自殺したんじゃないの?だったらお父さんだけの所為じゃないでしょ。大体、横領だとか悪い事していたんでしょう?」

 「ああ、甘やかされて育ったそいつは、他の馬鹿共と一緒に罪の意識も無く小遣い稼ぎに横領していた。そんな奴だから初めて泰雅の真の怒りと、手の平を返した周囲の視線に耐えられなかったんだ。泰雅も自殺するなんて思っても居なかったんだろう。自分が死に追いやったと動揺し、子供が間違った事をしたと理性で納得しても、感情が何処かにはけ口を求めたんだ。後は言わなくてもどうなったか分かるな?」

 促されてその後を想像した俺と香織は、眉を顰めて顔を見合わせた。そしてお互いに想像した事は同じで、其れは唯の八つ当たりだと思っているのが分かった。

 「クス、ねえ直幸さん、なんでその後は口にしないのかしら?ここで終わったらむかむかするだけでしょう。此処からが面白くなる所じゃない」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 何故か顔を強張らせる無言の父さんは、母さんに頻りに目配せしていた。その目配せは明らかに言うなと言っていたのだが、母さんは完全に無視して口を開いた。

 「この人は現状やお義父さんの事を考え、その後八か月嫌がらせに耐えたわ。でもやっと退院したお義母さんが嫌がらせで軽い捻挫をしたの。そしたらプチッといってしまってね。次の日の定例会議の場で、皆が集まって開催が宣言される瞬間に椅子を蹴倒して立ち上がり、拳を握って泰雅に跳びかかったそうよ」

 ギョッとする俺達が父さんの顔色を窺うと、ばつが悪い顔をしてそっぽを向いていた。

 「初めのパンチで泰雅の歯を圧し折り、床に叩きつけてマウントポジションをとった直幸さんは、そのまま唖然とする周囲を置き去りに、何度も母さんを傷つけるくそ野郎はぶっ殺すと叫んで殴って殴って殴り倒したそうよ。周囲が我に返って止めようとした時には、泰雅はもう意識が朦朧としていて顔の形が変わっていたらしいわ」

 「うわ、やるじゃん、お父さん」

 「僕が想像していた香織を傷つけられた直哉みたいなんだ」

 「そうですわね。親子は似るのでしょう」

 香織が驚きの声をあげる中、今まで黙っていたシグルトとフレイまで驚きに口を挟み、俺は皆にジッと見つめられて顔を引きつらせて背けてしまった。其の時父さんと偶然視線が合って、何となくお互いの気持ちが理解出来るのが・・・・何とも言えない気分だった。

 「ふふふ、その後直幸さんは其処で止めて置けば良いのに、何と止めに入った人達に向かって、お前達も腹に一物抱えて不快なんだよ!!言いたい事はハッキリ言えや!!と叫んで入り口の前に仁王立ちして大乱闘、後に流血会議と言われる殴り合いながら叫ぶ会議になったらしいわ。血が飛び、罵声が飛び、拳が飛び、蹴りが飛び、椅子も飛んで、三十分経った時には荒い息で立っている者は殴り辛かったらしい当主志雄と幸恵の二人を含めて、わずか七人で他は病院送りになったの。そうそう泰雅は全治一年の重傷で、暫く意識が戻らなかったらしいわ。それで即座に原因になった直幸さんは、簡単な治療後に謹慎を言い渡されたそうよ」

 「まあ・・・当然だな。と言うか・・・全治一年って・・・・もしかして俺の親は傷害事件を起こした前科者じゃないのか?」

 「そうね、当然よね。しかしお父さんがそんな・・・・・・」

 「・・・・・・・・俺は前科者じゃない。運ばれた病院も八嶋系列の物で、とんでもない不祥事だから皆で口を噤んで隠蔽したからな。示談も成立している」

 俺達に白い疑惑の視線を向けられた父さんは憮然とした顔で反論した。しかし母さんの次の言葉で父さんの顔は凍り付いてしまった。

 「それは確かに示談が成立しているけど、お酒をちょろまかして出て行った事は今も許されてないわよね」

 「エッ、なに?如何言う事?お母さん」

 「直幸さんはね。此のまま自分が居ると周りに迷惑がかかると思ったのよ。幸い異父弟もいるし、自分が居なくなっても跡取りには困らない。そう思った直幸さんは、なんと謹慎中に書置き一つ残して、行き掛けの駄賃とばかりにお義父さんの超高級の秘蔵酒を持てるだけ持って、当時一人暮らしをしていた私のマンションに転がり込んできたのよ」

 「うわ、まじかよ、父さん。もしかして今も家出してる事になっているのか?しかも秘蔵酒をちょろまかすって・・・泥棒になるんじゃないか?」

 「って言うか・・・・・もしかしてお父さんってお母さんの紐だった事があるの!?うわーー、凄い事聞いちゃった」

 「違うわ!!俺は貯金とひと財産になる秘蔵酒もあったから、直哉と違って女に金の世話をされた事は無い。まあ、あの時の俺の行動が、家出かどうかは意見が分かれるが・・・・・・あと泥棒では無いぞ、訴えられないからな」

 「おい、訴えられ無ければ良いって問題じゃ無いだろ、父さん!!それに俺は関係ないだろ!!ドサクサに紛れて何を口走っていやがる!!ハッ、どんな重たい過去があるのか身構えていれば、ようは父さんは問題起こして女の所に転がり込んだんだろが!!ずっと黙っていたのは過去の醜聞を隠す意味もあっただろ、絶対。フン、話の仕方がどうもおかしいと思っていたんだ」

 「ななな、何を言うか!!俺にやましい処など一つもない。それに女の所では無い!!沙耶の所だ!!訂正しろ!!誰でも良かった訳じゃ無い!!」

 「変なところに拘るんだな。今はそんな事如何でも良いだろ?」

 「如何でも良い?ほう、直哉は同じ状況の時に香織以外の女の所に行くのか?」

 「・・・・・お兄ちゃん・・・・」

 「待て待て待て、俺はそんな時は頭を下げて明人の所にでも世話になる。女の母さんの所にしか行く所のなかった父さんとは状況が違う。母さんの所に行ったって事は、どうせ和希さんにも断られたんだろ。問題を起こすからだ・・・哀れな・・・」

 「違うわ!!和希は頼めば断ったりしない。俺と和希は親友だぞ!!だけど・・・」

 「ちょっと待ってくださらない?直幸さん。確かあの時和希にも頼んだけど八嶋と須王の問題に発展するから無理だと言われたと、確りと此の耳に聞いたわよ」

 肩を掴んだ母さんの言葉に父さんはハッとした表情になり、慌てて手で口を塞いだ。しかしその態度は何か隠していたのを明らかにするだけで、最悪の悪手だと俺には思えた。実際其れを見て母さんの視線は、向けられたら胃に穴が開きそうな程鋭くとがっていったのだ。

 「直幸さんはあの時別に部屋を借りるまでで良い。そう、三日で良いんだ。もう君しか頼れないと言ったわね。だから私は付き合っていたし、見捨てる訳にはいかないから泊めてあげたわ。其れが何故か三日が一週間になり、一週間が一か月になり、そして一か月が一年になって、その頃には直哉がお腹に居る事が判明したわね」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「何を黙っているの?全て話しなさい」

 父さんは母さんに詰問されて誤魔化せないと観念し、此方を気にしながら話し始めた。

 「あの時和希には最初から頼んでいない。沙耶に言った言葉は俺が考えた頼めない表向きの理由だ。裏は約があるので言えない。でだな・・・あの当時俺と沙耶は出会って交際してから数年で、お互い学生じゃ無くなって先の事を考えたりして微妙な時期だっただろ」

 「そうね。お互い環境も変わって暫く経ち、すれ違う事も多くなっていたわね。此のままズルズルと付き合うのか、けじめをつけてスッパリ別れるのか、それとも・・・・・色々考えなければいけない時期だったわ」

 「・・・・・やっぱり別れる事も選択肢に入っていたんだな」

 「まあね・・・直幸さんは八嶋財閥を継ぐかも知れない人だしね。私も社会人になれば色々考えるわよ」

 父さんも母さんも冗談の入る余地のない真剣な顔で、淡々と別れるなどと言っていた。普段なんだかんだ言っていても仲の良い両親だけに、俺も香織も緊張にごくりと喉をならしていた。

 「俺は沙耶にそんな事を考えられるのが嫌でな。ちょうどいい機会だったから、覚悟を決めて踏み込んでみた。一緒に暮らしていないと見えない事もあるし、一緒に暮らせばすれ違いも無くなるだろうと思ったんだ。あーーー、それに・・・・一緒に居れば結婚しないといけなくなる状況にもなりやすいだろ」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・つまり下心満載の直幸さんの計画通りになったのね」

 「おい、下心ってのは言いすぎだろ。あれでも沙耶を失わない為に考えた必死の行動だったんだぞ」

 「・・・・・・・家を出たのは私の所為?私が気に・・・」

 「違う!!考え過ぎだ。俺が金城の爺と関わりたくなかったのと、生活が身の丈に合わなかっただけだ。言いたい事言って殴り合って心がスッとしてよく分かったけど、元々俺には上流階級の生活は我慢我慢の連続で息苦しかった。だから親や周りを慮って我慢するのも限界だったんだ。所詮直哉と違って俺の頑張る理由は弱かったんだよ」

 父さんはそう言って母さんの肩を抱くと、俺に向かってニヤリと笑った。其れに対して俺は肩を竦めて笑い返し、其れだけでお互いの意思が確認出来てしまった。

 「もう直哉は気づいているだろうが、俺がやった事の内容を言わないのは約があるからだ。その結んだ約で義父さんが何とか事態を収拾し、結婚した時に苗字を捨てて俺と八嶋は不干渉だと言う事になってこうしている。ははは、直哉が向こうから帰って来た時に「もたもたして主導権を渡したら、自分の失敗を其のままにして他人に全て任せる事になりかねん。其れは恥だ」と言っただろ。あれは此の時の事を教訓とした言葉だ。直哉はミスるなよ」

 「・・・・・・ああ、気を付けるよ、父さん」

 苦い笑みを浮かべる父さんは返事に頷くと、俺に真剣な声で告げた。

 「色々ぐだぐだ言ったが、今語れるのは此れ位だ。実際の所金城の爺が敵意、いや悪意を持っているから気を付けろとしか言えん。義父さんや母さんは敵ではないと思いたいが、結婚式を最後にずっと直接は会っていないので分からない。何故なら今の両親は成長した異父弟の為に動いていると考える事が出来るからだ。フゥ、一応直哉の叔父になるんだが、まだ二十代前半だから次期当主としての地位を確立していないはずだ。ハッキリ言って突然出てきた八嶋の血をひく甥は邪魔だ」

 「・・・・・手を出して来ると思うか?」

 「真鈴が義父さんの事を隠そうとしたのと、異父弟の事を話さなかったのが怪しい。何かあるとしか思えん。そして真鈴がその事に気付かなかったとも思えない。今思えば、真鈴なりの俺に対する忠告ではないかとも思っている」

 「・・・・・・そっか、気を付ける」

 俺と父さんはそっとお互いの傍に居る者を一瞥し、目配せし合って頷き合い、言葉にしない守ると言う思いをかわした。そして其れが終わると父さんは眉間に皺を寄せて険しい声を出した。

 「直哉、話が変わるが、天川翔一には気を付けろ。奴は嘘を吐いている」

 「嘘?」

 「ああ、確かに俺は和希を交えて翔一と名乗った男と何度か飲んだ事がある。しかしそれは全て結婚後の話だし、天川とは聞いていない。今俺の過去を知って分かると思うが、俺と和希は絶対に八嶋の事を話していないはずだし、苗字も矢嶋と名乗ったはずだ」

 「・・・・・・・・・・・・・・はあ、やっぱ天川は何かあるみたいだな」

 「ふふ、お兄ちゃんだって気づいていたでしょう。お祖母ちゃんは知って居るんじゃ無いかな?最後に手紙の事を言って、楽しく話したいとか言ったものね」

 「ああ、あれはおかしい、死んだ両親の事を話すのに楽しく話せるはずが無い。何かあの場では話せない言いたい事があるんだろう。だが、そうなると待機室で手紙の事を喋ったのはミスだったかな?天川親子は気づいたと思うか?」

 「気づいていると考えた方が良いわ。楽観して隙を見せて良い相手とは思えないもの」

 「そうだな。しかし参ったね。誰が敵で誰が味方か全く分からない。此れは早急に皆の目的を知って競合しないか確かめないとな」

 「そうね、お兄ちゃん。それよりお父さんに御門の方は聞かなくて良いの?」

 「俺はさっきの話を聞いて無駄だと思うんだけどな。あーー、なんか分かるか?血を継いでいるらしい父さん」

 香織の促されて一応尋ねた俺は父さんを見て、一瞬だったけど雰囲気が硬くなった様に感じた。

 「知らんな。むしろ俺はそっちの話を聞いて、運命の妻が現れるとはモテるじゃないか直哉、美人だったか?と問いたかった、ククク」

 「あのな・・・・・父さん・・・・・・」

 「お父さん!!」

 茶化す様な言葉に勘違いかと思った俺は白い目を向けた。そして同時に香織に怒鳴られた父さんは、肩を竦めてからニヤリと笑って低い確信の籠った声で尋ねてきた。

 「なあ直哉、どうせその美人に何かしているんだろ。お前が目の前に転がって来た牡丹餅を取らないとは思えない」

 「・・・・・・分かるか?」

 「まあ、俺も直哉の父親だしな。御門の情報は任せて良いのか?」

 「まあ、シグルト次第だな。どうだ?」

 「うーん、一度長く止まったけど、今はまたかなりの速度で動いているんだ。だからまだ分からないんだ」

 「お兄ちゃん・・・・まさか・・・・・あの時渡していた・・・・・」

 「気づいたか?香織。あの紙には探査杭が仕込んである。空間に固定していないので危険だから直接転移はしたくないけど、その性質上位置情報は離れていてもハッキリ分かるんだよ。彩希さんに渡した物にも仕込まれていて、持っている限り何所に行ったか丸わかりだ」

 俺の言葉に香織が不機嫌になり、何故か父さんが眉を顰めた。それが先程の雰囲気を思い出させ、俺の内心をざわざわとあわ立たせた。

 「ふーん、あの女に会いに行くの?」

 「そんな顔するな、香織。情報収拾に忍び込むと言うのが正解だ。俺とシグルトで行って来る。その間の家の事は任せたからな。香織がいるから安心して行って来れる」

 「・・・・・・・先にそう言う言い方するのは卑怯だよ、お兄ちゃん」

 「悪いな香織。此の埋め合わせは後で何か考えておくよ」

 頬を膨らませた香織を宥めながらそっと父さんの様子を窺っていると、ルードルと共に克志さん達が入って来た。

 「直哉様、死んでいる男ですが、水無瀬家の関係者ではないかと思われます。それに襲撃に使われた銃や装備品が和道様の傍に居た者達と同じみたいです」

 「本当か?」

 「はい、和希様が生きていた頃の情報になるのですが、写真を送って見せた所、貴志の配下が二度ほど源吾と話しているのを見たと言いました」

 「・・・・・・・うーん、身元が分かったのか・・・・参ったな・・・・・俺は分からないと思っていたんだけど・・・・・」

 「直哉様?何かご不信が?」

 「まあな。そんなに簡単に分かるのなら、自殺したのは何でだと思ってな。意味が無いとは思わないか?」

 「・・・・・ばれないと思った・・・・いやありませんな」

 「ああ、ないだろ。考えられる事は二つ。一つは其れでも漏らせない何らかの情報を持っていた。もう一つはばれてもよかったって事だな」

 「直哉様はばれる事を前提に動いていたとお考えなのですか?」

 「ああ、そうだよ美夜さん。こうなると宅配便で堂々と須王和道の名が書いてあったのもおかしい。爆発して見た者は全員死ぬから、証拠隠滅出来ると思ったのかもと考えていたけど・・・・・」

 「ふふ、お兄ちゃんは装備品も含めて分かりやす過ぎるから怪しいと思っているのね。実は私も違和感があったのよ。和道は今日私を襲撃してさらおうとしたでしょう。なのに家を襲撃するかしら?」

 「いや、香織。不愉快だが襲撃理由はある。香織の居場所を奪う事と渡さなかった事への報復だ」

 「うーん、お兄ちゃん。言いたい事は分かるけど、あの時の和道の態度は傲慢で、私をさらえない可能性を考えていたとは思えないわよ」

 「・・・・・・そう言われると・・・・」

 「直哉、私が得た知識の中に隠蔽と言うのがあったわ。使い捨ての男からの情報だからどこまで信用出来るか分からないけど伝えて置くわ」

 「タマミズキ、襲撃者を尋問したのか?他に何か言っていなかったのか?」

 「残念だけど有用な物はないわ」

 「そうか・・・・・うーん、如何しようかな?一応犯人が分かったら報復しようと思っていたんだけど・・・和道に報復すると考えると・・・なんか釈然としない感じがしてピリピリするんだよな。皆はどうだ?」

 俺の言葉に皆も同じなのか難しい顔で考え込んでいた。

 「ねえ、お兄ちゃん。理由はどうあれ和道の名前で爆弾が送られてきたのは本当よね。だから私達も和道に贈り物をしない」

 「贈り物だと?何を送るんだ香織?」

 「私とお兄ちゃんからの贈り物として襲ってきた奴の死体と装備品を送るのよ。家に襲撃してきましたって言ってね」

 「ななな、なにーーーーー、香織何を考えている?死体を何かの拍子に宅配業者に見られたら警察ざただぞ。それに和道の奴が俺達から死体が送られてきたと警察に連絡したら終わりだぞ」

 「あのね、お兄ちゃん。本物の宅配業者を使う訳無いでしょう。家に来たのと一緒で扮装するだけよ。水無瀬家の者が出来るなら、水無月家も同じ事が出来るでしょう。違う?」

 「ハッ、むろんご命令とあらば万事抜かりなく行わせていただきます」

 「だってよ、お兄ちゃん。送って反応を見るのも良いんじゃないかな。名前も時間が経つと自然発火する薬品があるから大丈夫よ。ねえ、どうかな?」

 「・・・・・・・・・・・はあーーー、まあ良いだろう。ほんと悪いけど、克志さん頼めるかな?」

 「はい、お任せください」

 「それと貴志さんは療養中で動けないだろうから、ネオネットの書き込みなどを調べてくれるかな」

 「それは構いませんが、ネオネットなら美夜の方が詳しいですよ」

 「いや美夜さんには俺に付いた者達の意識調査をして貰いたいんだ。本当に仲間になったのか、目的や欲しい利は何なのかとかね。良いかな?」

 「はい、分かりました」

 「さて話を戻すけど、俺は如何考えても誰かが情報統制かなんかしていると思っている。人の家を堂々と襲撃してくるくらいだからな。それでたぶん他にも同様の事があるんじゃないかと思ったんだ。フッ、人の口に戸はたてられないから、ネオネットなら何か分かるんじゃないかな?」

 「成る程、調べて見ます」

 三人はすぐに行動に移そうと言うのか、部屋から出て行こうとした。その背に俺は慌てて声を掛けた。

 「美夜さん、もし沙月さんが此方に来てから裏切ろうとしたら、容赦なく捕まえてくれるかな?それと秘密を守る為の指導も頼む。俺だと甘くなりそうだからね」

 「それは・・・・・よろしいのですか?私は厳しいですよ」

 「構わない。尊厳と命に関わらない限り好きにして良い。それと俺があの時沙月さんに秘密を教えると決めたのに態度が甘かったのは、既に水無月家が味方に付いているからだ。ふふ、俺が下手を打っても何とかしてくれると信じているんだよ。だから扱いの違いに不満を持たないでくれると助かる。美夜さん、今回は不満が顔に出ていて気づけたけど、何時も気づけるとは限らない。だから言ってくれると助かる。俺はちゃんと納得できるまで説明するぞ。そっちの顔色の読みにくい二人も内に溜め込むくらいなら遠慮せずに聞いてくれ」

 「ハッ、了解いたしました」

 「クク、美夜は精進しないと駄目だな。顔色を読まれて主に気づかわれる様じゃな」

 「クッ、お兄様・・・・・・・・直哉様、失礼します」

 からかう様な貴志さんの声に、美夜さんが顔を朱に染めて真っ先に出て行った。その後を一礼した二人とルードルが付いて行き、美夜さんを宥める克志さんの声がかすかに響いていた。

 「さて香織、何時までも着物じゃ辛いだろ。着替えて来たら如何だ?」

 「・・・・・・分かった。着替えて来るね、お兄ちゃん」

 ジッと俺の顔を見つめた香織は、仕方なさそうにしながら自室に向かった。その後ろ姿を見送って完全に去った事を確認した俺は、母さんに紅茶を入れて欲しいと言って席を立たせた。そして一人残った父さんに小声で話し掛けた。

 「なあ父さん。闇に付いては話せないんだな」

 「ああ、約は守らないといけない」

 「須王や名家にも関係しているんだろ。さっき名家も大概同じ事をやっているから気を付けろと言っただろ。香織に関わる事なのに話せないのか?」

 「・・・・・・・・知らなくても問題無い。所詮過去の汚点だ」

 「そうか、なら別の質問だ。母さんに話した事は嘘じゃないだろうけど、そもそも何で書置きを残して家を出た?なぜ和希さんに頼らなかった?そして何よりの疑念は何故御門に付いて聞いた時知らないと答えた?金城家が調べる事が出来たんだ。八嶋の情報網に情報が何もないとは思えない。一時期とは言え次期当主として居たのなら、当たり障りは無いものなら知っていると考えた方が自然だ。何故知らないと言って茶化した?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「闇と約を盾にして何を隠している?和希さんは始名家の次期当主だった。他の始名家の事も詳しかっただろうな。親友として付き合っている間に何かを知ったと考えるのは邪推のし過ぎか?」

 「フゥ、そうだな。直哉は俺が何かを知っていると思っている様だが、真鈴が血の事を話した時にワナワナと小刻みに体を震わし、茫然と立ち尽くす姿をタマミズキとルードルが見ている。聞いたらどうだ直哉」

 「そうね。演技には見えなかったわよ、直哉」

 「そうか、タマミズキ。でも俺は今こう考えているんだ。驚愕したのは知らなかった母さんの血統だけでは無いのかってね」

 俺の言いたい事を理解したタマミズキがまさかと言った表情で黙り込んだ。

 「更に言うとだ、父さん。もし御門の血を知っていたのなら八嶋にばれた事に驚いたとも取れるんだ」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「話そうとしなかった流血会議。俺はな・・・父さんがなんの考えも無く暴力を振るうとは思えないし、キレたとしても時間が経てば場所ぐらい選ぶ冷静さは取り戻せるはずだと思っている。じゃないと守りたい者も守れなくなる。ふふふ、会議の場なんて問題にしてくれと言う様な物じゃ無いか。何故そんな事を?俺なら闇討ちにするね」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「兎に角聞けば聞くほど違和感が湧いてくる。今此処には母さんも香織も居ない。だから話して・・・・」

 「ああああああああああああああああああああああああ、なんでなんでなんで・・・・何で壊れているのよーーーーーーーーー」

 俺が顔色の悪い父さんを問い詰めていると、突然香織の大きな大きな絶叫が響いた。そしてドタドタドタと足音をならして駆け込んで来た香織は、手に持っていた目覚まし時計を示して大声を出した。

 「誰!!誰が壊したの!!」

 「香織、いま大事な所・・・」

 「黙ってお兄ちゃん!!私の方が一大事だよ!!誰なのこれを壊したのは!!」

 あまりの剣幕に気圧された俺は、口を閉ざして問題の目覚まし時計を注視した。

 「あれ?何処かで見た様な?」

 「何処かで見たも何も、小さな頃お兄ちゃんが私に何時も起こして貰っているからって言って、俺は起こせないから代わりに此の目覚まし時計で起きてくれって言ってくれた物よ」

 「あーー、成る程、それで見覚えがあるんだな。まだ使ってくれていたのか・・・・」

 「当たり前よ、お兄ちゃん。ずっと大事に使っていたんだから・・・・だからこそ誰が壊したのか知りたいのよ」

 殺気が漂う夜叉の様な香織に睥睨され皆が凍り付く中で、タマミズキだけが平然と微笑んで父さんを指さした。

 「ふーん、そうなの?お父さん。なら覚悟は良いよね・・・」

 「待て待て待て記憶にないぞ。冤罪だ!!」

 「直幸が怒って近くにあった物を殴って、その時計が勢いよく吹っ飛んで行って壁に叩きつけられたのを見ましたわよ。覚えていないのかしら?ほら「クソ、なんで直哉が・・・・如何してこんな事になったんだ。もう八嶋の家とも、あの忌々しい爺とも関わる事は無いと思っていたのに・・・・大体俺が沙耶と結婚したのは知りもしない血なんかじゃない、愛しているからだぞ!!ふざけんじゃない!!勝手に爺が俺の心を語ってるんじゃねえ。やはりあの時ぶっ殺してやるべきだったか!?」と叫んだ時です」

 「エッ・・・・あっ・・・・・まさか・・・・・・あの時・・・・・」

 いきなり真っ蒼になった父さんは、思い当たる事があるらしくガタガタと震え始めた。そんな父さんの肩を後ろから両手で掴んだ香織は、内心の感情がただ漏れの静かな声で語りかけた。

 「お父さん、訓練室に行こうか。ちょっとお話があるからね」

 「いや香織。訓練室は今・・人・・がいるから・・・・・そそ、そうだ、弁償するから・・・・」

 「弁償?ふふふふふ、ねえお父さん、年代物のワイン飲むなら分かるよね。物の価値は変動するの。このお兄ちゃんから貰った年代物の目覚まし時計が弁償出来ると?」

 「グァァァ・・・・・・・・・」

 父さんの肩からパキッと破滅的な音が聞こえ、悲愴な呻きが口から洩れていた。俺は年代物ってそれは違うだろと思ったけど、怖くて口に出来なかった。それに父さんが口に出来なかった訓練室には死体があるのも・・・・・・。

 「香織、一応私の夫だから程々にしてね。はい直哉、紅茶よ。それとちょっと遠いけど私の知り合いの店なら完璧に直せるはずよ。香織と一緒に出かけて時計を修繕して貰ってきなさい。ふふふ、遠いから一泊してきても良いわよ」

 「一泊!?」

 叫んだ香織のキラキラとした期待の籠った視線に、俺は転移魔法を使えば問題無いとは言えなかった。そして視界の隅ではシグルトも、ソッポを向いて尻尾を振って我関せずと告げていた。

 「分かった。今度時間がある時にな。其れまでは俺の部屋に一応置いてある、使った事の無い目覚まし時計を使ってくれ」

 「エッ、お兄ちゃんの使っていいの。ありがとう、お兄ちゃん。じゃあ、お父さん、私の部屋に行こうね。二度とこんな事にならない様にしないといけないから」

 母さんの誘導で九死に一生を得た父さんは、引きつった顔をしながらも大人しくずりずりと引きずられて行った。其の時父さんと視線が合い、俺はその中に微かな安堵を見つけていた。その事に内心で舌打ちしながら、俺は残った母さんと紅茶を飲みながら雑談する事になった・・・。

 次話の投稿は13日以降の予定です。次話もよろしくお願いします。

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