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契約者達とその頃家で待つ両親達は・・・2

 「直幸、この女性に見覚えあるわね?」

 「ナッ!!何で真鈴が・・・・。おい、何があった。何で真鈴が意識を失って此処に居る!?」

 「落ち着きなさい直幸!!天狐の私が居るのよ。無事に決まっているでしょう」

 私は香織のベットに横たわらせた女性の顔を見たとたんに、血相を変えて掴みかかろうとしてきた直幸の手をピシリと叩き落とした。しかし直幸は叩かれた痛みすら感じていない様で、不安を隠せない面持ちのまま女性に視線を戻した。私はその姿にこれは余程大切な人なのねと思って、横にいるまだ冷静さを残している沙耶を見た。すると驚きに目を見開いていた沙耶がこちらの視線に気づき、私にかるく女性の事を説明してくれた。

 「この女性は真鈴さんと言って、直幸さんのお母さんの幸恵さんが再婚した時に、直幸さん付きのメイド?になった人なの。ふふ、全く違う新生活で右も左もわからない当時の直幸さんを、公私ともに助けてくれたのよ。だから直幸さんにとって大事な人でずっと頭が上がらないのよ」

 「おい、余計な事は言わなくていい。其れより早く真鈴の事を教えてくれ。何が如何なっているんだ?」

 「そうね。まずこの女性は眠っているだけよ。何の問題無いわ」

 「本当か?」

 「ええ、この家を訪ねて来たらしい真鈴さんは、間の悪い事に襲撃した奴の死体を見て酷く混乱してしまったの。だから私が魔法で眠らせたわ」

 「しし、死体だと?どどど、如何言う事だ?ままま、まさか・・・・」

 「この女性が見たのは、僕達に捕まって情報を渡さない様にする為の自決だ。僕達が殺す所を見た訳じゃ無い。だから安心しろ」

 ちょうど後始末が終わったらしいルードルが、部屋に入ってきて代わりに答えた。私は誤魔化さずに告げたルードルに驚いて、振り向いて如何言う心算かと目配せした。すると先にそっと私だけに聞こえる小声で「別口だが出て右の道路を、真っ直ぐ五百メートル行った先に、車が止まっているのが見えた。今は敵意が無いのでたぶんその女性の関係者だろう。人数は十人以上確認している」と告げてきた。そしてルードルは直幸達を一瞥してから、私に向かって厳しい表情で目配せしてきた。

 「そうか自殺した・・・・んん?待てよ?見たのは?殺す?」

 直幸がホッとした後に疑問を抱き、顔を強張らせて隠そうとして隠せていない忌避感などを発したのを見て、私はルードルのやりたい事を察して協力する事にし、そっと頷いて合図した。

 「ああ、その一人以外は全員僕が処分した。誰にも見られてはいない。いやそういえば、一人はタマミズキだったな」

 「そうね。情報を聞き出そうとしたんだけど、大した情報を持っていない上にすぐ死んじゃったわ。他の死体と共に綺麗サッパリ消しといたから、後始末も万全よ。もう証拠もな・・・・ルードル、自分で死んだ男は如何したの?」

 「ああ、あの男は指示していたから、何か分かるかも知れないと思って訓練室に放り込んでおいた。後で直哉に顔を見て貰う。それと玄関に置いてあった物も一緒に運んでおいたぞ。タマミズキ、あれも見られたら証拠品になるぞ」

 「あっ、そうね。普段は全部消滅するから忘れてたわ。ありがとう、ルードル」

 私達のあまりにも軽くアッサリした受け答えに、直幸と沙耶の顔色がドンドン悪くなり、内心の感情が誰の目にも明らかな程漏れ出ていた。それはどれも悪狐の私や魔狼のルードルにはおなじみの負の感情だった。

 「二人とも向こうでは無く此方だから、殺人もリアルに感じているでしょう。でも子供達に今抱いている感情は向けちゃ駄目よ」

 「うむ、主も直哉も親に拒絶される事を恐れているからな。向けたら気まずくて家に帰って来なくなるかも知れんぞ。主は別の家も持っているのだろう?」

 ハッとした表情で体をビクつかせた二人は、穴が開きそうな程マジマジと私達を見つめてきた。

 「実感せずに受け入れているのは所詮まがい物よ。大変だろうけど実感した上で受け入れてあげなさい。二人は既にその思いを越えて生きているわ。其れに今回襲撃してきた奴らは、明らかに殺しに来ているわよ。私達が居なかったら、二人は既に死んでいるわ」

 「うむ、奴らは情けを掛ける様な存在じゃないし、これで終わりとも思えん。主を悲しませないように、居ない間に気持ちを切り替えて、どうか真の覚悟を決めて欲しい」

 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 俯いて黙り込んだ二人は寄り添い合うと、強張り無理をしているのが丸わかりの表情だったが、必死に覚悟を決めようとしていた。

 「すまなかった。二人には守って貰ったのに嫌な思いをさせたな」

 「ごめんなさいね、タマミズキ、ルードル」

 「構わないわ。昔の私に向けられた物に比べれば、微々たるものだもの」

 「うむ、魔狼は恐れられ無ければならんのだ。舐められたら威厳が無くなって魔狼として終りだし、むしろ此れからも恐れてくれ。この所恐れが足りない」

 堂々と胸を張って言うルードルに、私は飼い狼の分際で何言ってるんだかと思った。威厳など香織にお手をして、私に教育された時点で地に落ちているのだ。私が生暖かい目つきで見つめると、ルードルも薄々自覚しているのか、途端にソワソワして居心地悪そうに尻尾を丸めていた。

 「・・・・・ううーーん・・・・此処は・・・・・私は・・・・・」

 ベットから声が聞こえ、私達はバッと其方を振り向いた。するとそこには覚醒したばかりで状況が分かっておらず、軽く混乱した様子の女性が此方を見ていた。

 「真鈴、大丈夫か?俺が分かるか?」

 「・・・直君?」

 「ウッ、その呼び方は・・・・・・」

 「ふふふふふ、久しぶりに聞いたわね。直幸さん」

 「沙耶!!クッ、母さんが何時までも呼ぶから・・・・」

 直幸が苦渋の籠った声をだすと、女性も段々意識がはっきりして来たのか、ガバッと起き上がって直幸の腕を掴んだ。

 「ななな、直幸様、ひひひ、人が目の前で・・・・」

 「ああ、分かっている。もう大丈夫だ、安心してくれ」

 直幸がポンポンと肩を叩いて宥めると、落ち着いた女性は顔を赤くしながら距離を置いて、真剣な顔になって此処に来た目的を話し始めた。そして其れは直幸の感情を昂らせ、沙耶を呆然自失させる程の大きな言葉の爆弾だった・・・。


 「直幸様、急いでお母様の幸恵様の元にお戻りください。今八嶋では直哉様の事が取り沙汰されています。前にお会いした時に言った様に、金城家が積極的に動いているのです」

 「待て、直哉だと?それにいまさら如何言う事だ!?沙耶と結婚した時に姓は捨てたはずだろ!!俺は父さんとは血が繋がっていないし、あんな事もあったから、今後は不干渉と言う事で決着がついていただろうが!!」

 此方を思って伝えに来てくれた真鈴に、何の落ち度も無いのが分かっていても、俺は直哉と金城と言う言葉が一緒に耳に入った瞬間に、頭に血を昇らせて怒鳴ってしまっていた。

 「落ち着いて、直幸さん。ごめんなさいね、真鈴さん」

 「いえ、直幸様のお気持ちは分かっていますから・・・・。ですが今回はそうも言っておられません。今話されている内容は、直哉様に八嶋の血と御門の血が流れていると言う話なのです」

 俺は真鈴の言葉が耳に入っても、暫くの間その意味を理解出来なかった。そして理解してからも、俺の理性が受け入れる事を激しく拒絶していた。そしてワナワナと小刻みに体を震わし、茫然と立ち尽くす俺を見かねたのか、沙耶が蒼い顔をしながらも代わりに真鈴に質問し始めた。

 「真鈴さん、家には来ない事になっている貴女が直接来てまで話す以上、確証があって嘘でも冗談でもないのでしょうね。でも私達には全く意味が分からないわ。まずは如何言う事か詳しく話してちょうだい」

 「はい、まず最初にハッキリ言って置きますが、御門の血を継いでいるのが直幸さまで、八嶋の血を継いでいるのが沙耶様です」

 「沙耶が?」

 「直幸さんが?」

 俺と沙耶がお互いの顔を見て凍り付く中で、感情を押し殺した説明の声が部屋に響いた。

 「まず事の始まりになった八嶋の血の説明をします。若き日の沙耶様のお爺様は鶴見商事の社長でした。しかし不況もあって経営は上手く行っていませんでした。其の時八嶋の助けがあった事は御知りですね?」

 「ええ、今も役員の父から聞いた事があるわ。当時はまだお互いに関係も無く、しかもあまりにも突然の事だったので、皆の驚きの声で広く包まれたのでしょう。でもそれがなんだって言うの?」

 「・・・前々から何の関係もなかった鶴見商事を何故援助したのか疑問になっていましたが、最近お亡くなりになった前当主の歳の離れた兄君の遺物から、援助した理由が判明したのです。前当主の兄君は結婚もされずに、お子様がいないままでお亡くなりになったと思われていました。しかし実際は隠し子が居たのです。其れが沙耶様のお爺様です」

 「そんなまさか!?私は小さい頃お爺様から、曾お爺様と曾お婆様の話を色々聞いたのよ。八嶋の入る余地なんて無かったはずよ。だから何かの間違い・・・・・」

 「残念ながら金城家が嬉々として裏を取りました。かつて前当主の兄君と交際していた女性は、事情によって別れて別の人と結婚しなければならなかったそうです。ですがその時に女性、沙耶様の曾お婆様は前当主の兄君の子を妊娠していた様なのです。初期も初期で当人も気づいておらず、生まれて時間が経ってから子供が手術した時に判明したそうです。まあ私などの子を産んだ事がある女性は、産んだ女性が疑念を持たなかった事に、作為を感じてもいますけど・・・・」

 「・・・・・・お爺様から曾お婆様と曾お爺様はとても仲が良かったと聞いているわ」

 沙耶が苦しげに声を絞り出すと、真鈴は目を伏せてから淡々と言葉を発した。

 「無論これは大醜聞で、その事で前当主の兄君は当主にならなかったのだと思われます。そしてそれほどの事ですので、莫大な口止め料と共に厳重に隠蔽されました。そう、当事者とその親以外、前当主も現当主も知らない程に・・・・・」

 「・・・・・・・口止め料・・・・まさか・・・・そんな・・・・」

 「沙耶!!」

 真っ蒼な顔でふらりと倒れ込みそうになった沙耶を、俺は慌てながらも確りと腕に抱きかかえた。ギュッとしがみ付いて来るくる沙耶の背を擦って落ち着かせようとした俺は、真鈴に目配せして少し時間を貰おうとした。

 「・・・・・・ふふふふふ、成る程ねえーー。直幸は其のまま沙耶に付いていなさい。質問するのは私が代わりましょう。私は当事者じゃない分冷静だもの」

 「直幸様・・・・・」

 「質問に答えてくれ、真鈴」

 突然笑いながら口を挟んだタマミズキの外見と、独特の存在感に戸惑った真鈴に苦笑しながら、俺は信頼出来る者だと言う事を視線と声音で伝えた。

 「それでは真鈴さん、まず沙耶と其の祖父や父はどうなるの?八嶋とやらの血を継いでいるのでしょう。私はね、沙耶を守らないといけない立場なのよ。聞かせてくれないかしら」

 「お子様になる沙耶様の祖父に遺産の一部を渡して終わらせるそうです。それで飽き足らずにごねる様なら、鶴見商事ごと潰すと・・・・。そして沙耶様に付いては、直幸様の妻なので不干渉との事です。その様に御当主様と幸恵様が周囲を抑え込みました。ただ直哉様だけは・・・・・」

 「抑え込めないのね。直幸が継いでいると言う御門の血とやらが問題なのかしら?」

 「はい。御門の血は先走った金城家が、他にも同様の事が無いかと詳しく調べた結果判明しました。直幸様のお亡くなりになった実のお父様のお父様が御門の血を引いていたのです。此の方は現在も生きておられるはずです」

 「ほう、生きているのか・・・・父さんが死んだ時も、祖母さんが死んだ時も、葬式すら来ない会った事も無い男だが・・・そいつが俺の祖父になるんだな。生きているなら一発殴らないと気が済まない。こんな事になったのはそいつの所為もあるんだろ」

 拳を握った俺が憤って我慢できずに口を挟むと、タマミズキが生暖かい視線・・・いや、これは子供を見る様な視線と言うべきか・・・を向けて来た。何と言うか、その視線は向けられているだけで恥ずかしくなって口を開けなくなるものだった。此れは黙っていろと言う事だろう。

 「真鈴さん、はずって如何言う事かしら?生きていない可能性があるとでも?」

 タマミズキの鋭い声の指摘に、俺は普段なら気づけた事に気付けない自分を認識させられた。如何やら俺の冷静さは何処かに行ってしまっているみたいだった。

 「如何したの?何故答えないのかしら?何か都合の悪い事でも?」

 「・・・いいえ、ですが此処からの話は危険な感じがする部分なのです。それで・・・・」

 チラリと真鈴が俺と沙耶を見た。その顰めた顔からは、言うべきか言わざるべきか迷っているのが良く分かった。

 「真鈴さん、知らない方が対処に困るわ。二人の事なら私が守るから教えてちょうだい」

 「・・・・仕方ありませんね。幸恵様に止められていたのですが・・・お一人で守れると勘違いして、御二人が危険になるのは不味いのでお教えします。金城家が直幸様のお父様の出自に疑念を持って、確かめる為に問題の人物に接触しました。するとその話題を出した瞬間に顔色を変えて怒鳴り、怯えた様子で周囲を窺いながら、帰れの一点張りだったそうです。半ば叩き出された金城の者はその様子に事実だと確信しつつも、翌日もう一度訪ねたそうです。しかし其処は人っ子一人いないもぬけの殻でした。前日は使用人を含めれてそれなりの人数が居たのにです」

 「ふふふ、ばれて逃げたと言う事かしら?」

 冷笑を浮かべてタマミズキが尋ねると、真鈴は力なく首を振って答えた。

 「いいえ、其れならまだいいのですが・・・・調べた結果十中八九、使用人ともども御門の本家に監禁されているのではないかと思われるのです。そして其処まで調べた時八嶋に、やんわりと警告らしきものがありました。ですのでその後は刺激しない様に距離を置いています。初めに幸恵様の元にお戻りくださいと言ったのは、御門の血を継ぐ直幸様の身辺も危険かも知れないと思ったからなのです。如何かご家族の皆様を連れて今すぐ私と共にお戻りください」

 深刻そうな顔で訴えてくる真鈴の緊迫した雰囲気に、俺は叫びだしそうになった内心の思いを、腕に抱いた沙耶の体温を意識して呑み込んだ。そして首を振って断固とした声を返した。

 「子供達の方の問題も事もあるし、不干渉の約もある。だから母さん達の所に行く心算はないよ、真鈴」

 「直幸様!!本当に危険なのです。だから・・・・・」

 「真鈴、まだ一番大事な直哉の事を聞いていないのは偶然か?家族の皆様を連れてと言ったのにおかしくないか?動揺していても俺も父親だ。其処を気づけないと思われるのは心外だな。ふん、考えなしにノコノコ行って、おかしな事になるのは御免だな。金城が・・・あの爺が動いているんだろ」

 「それは・・・・ですが今はその様な事に拘っている場合では・・・・」

 「なら、あの爺は八嶋と御門の血を継いでいるらしい直哉を如何すると主張している?」

 俺が隠せない冷たい殺気を込めて問うと、真鈴はあからさまに動揺した。其れを見ただけで俺は、ああ、やっぱりなと思わされていた。あの爺の言いそうな事は簡単に想像が付くのだ。

 「金城の当主泰雅様は直哉様を放置するのは危険だと主張しています。直哉様は元々現当主の血の繋がらない孫になります。それが八嶋の血を継いでいると分かったのです。その泰雅様は・・・」

 「真鈴、俺の事は気づかわなくて良い。俺も覚悟は出来ている・・・言ってくれ」

 視線を下げて言葉を呑み込んだ真鈴に、俺は見えない所で拳を握りながら促した。すると俺の顔色を窺いながら消え入りそうな声を出した。

 「泰雅様は此の事を知っていて沙耶様と結婚したのではないかと・・・・。それで自らの子を後継者に押すのではないかと・・・・・・」

 「グッ・・・それで・・・・あの爺は・・・具体的に直哉を如何すると・・言っていた」

 俺が理性を総動員して絞り出す様な声を出すと、真鈴は避けられない未来が分かっているかの様に、目をギュッと瞑って一気に言い切った。

 「今此の時も緊急会議で、おかしな火種にならない様にする為にも、御門の今後の動きを警戒する為にも、監視下に置いて管理するべきだと主張しているはずです。実際に御門の行動を考えると、血の事が如何飛び火してくるか分からず、御当主様や幸恵様も強く言えないのです。それに直哉様と直接会った事が無いのも不利に働いています」

 「ふーん、成る程ね・・・。会った事も無いのに安全かどうか分かる訳が無いとでも言われているのでしょう。違う?」

 「はは、はい、それに加えて必要以上に接触させない様に隠していたのは、直幸様に何か含む所があるからだと・・・・」

 目を細めたタマミズキの醸し出す冷ややかな雰囲気に気圧され、どもりながら答える真鈴の言葉は、俺の胸を怒りでカッと熱くさせた。しかし続いたタマミズキの言葉は、生まれた熱すら凍り付く程辛辣で容赦が無かった。

 「其れだけじゃないでしょう。私ならこう言うわ。直哉は元々八嶋に相応しい真面な教育を受けていない。だから事実を知ればこれ幸いと其れを盾に取って、法外な要求をするかも知れない。そしてもし当主の存命中に大人しくしていても、死後は分かりません。次代の事もお考えください・・・なんて言われれば立場的に反論も難しいでしょ。そんな話になったんじゃない?違う?」

 「其処までは・・・・」

 「ふふふ、そう、其処までは言っていないの。でも押されて一度連れて来て会う事にはなったんじゃないの?会わないと直哉がどんな人物か分からないものね。ふふ、会議とやらでそれが決まって、それで貴女が此処に来た。違う?」

 「わわ、私は幸恵様に命じられて、直幸様と話に来ただけです。それ以上の事は・・・・」

 「ふーん、じゃあ聞くわね。直哉がそっちに会いに行くと決めた場合、直幸の両親だけで済むのかしら?金城とやらには伝えずに済むの?」

 「・・・・・・・・それは無理です。話題の中心の直哉様が幸恵様に会われる以上、御当主様に影響がでます。そっと隠れて会うのは難しいでしょう。其れこそあらぬ疑いを掛けられる事になります」

 「クスクス、だとしたらもう金城家の思惑通りに進んでいて、すでに勝ちは目は無いわね。たぶん、懐に入ってしまえばどうとでもなると思っているのよ。十中八九、取り囲んで帰さない予定のはずよ。抵抗する様なら力ずくもあり得るわね。クスクス、準備万端整えて、手ぐすね引いて待っているでしょうね」

 「ナッ、真鈴、そうなのか?」

 「そんな、私は知りません。私は幸恵様に言われて・・・・」

 「ふふふ、その幸恵達は危険について何も言っていなかったのかしら?その程度の危機意識が無いんだとしたら、行った所で安全は確保できないわよ。ねえ本当に何も言っていなかったの?本当はさっきと同じで口止めされているんじゃないの?」

 「・・・・・それは」

 「真鈴、頼む。包み隠さずに本当の事を言ってくれ。この通りだ」

 俺が苦渋の声で頭を下げて頼むと、真鈴は躊躇しながらも口を開いてくれた。

 「・・・幸恵様達もその事は考えたそうです。ですがそれでも八嶋に居た方が守りやすく、此のままよりはマシだろうと・・・すでに御門が確保に動き始めたと言う情報も聞かれますから・・・・ですから約を違えてまで私を此処に派遣したのです。直幸様どうかお早く・・・」

 「あらあらあら、そうなの?うふふふふふふふふ」

 にたりと言う言葉が似合いそうな満面の笑みをタマミズキが浮かべ、其の口から獲物がかかった喜びに打ち震える様な声を出した。ハッキリ言おう。俺は腕に沙耶が居なかったら尻尾を巻いて逃げ出していただろう。視界の隅でルードルも尻尾を丸めているのがいい例だった。

 「八嶋は御門よりも早く直哉を確保したい。だから顔見知りの貴女が当主の命令で急いで家まで来た。そうよね、貴女は今幸恵様達と言ったわ。うふふふふ、私につられたのでしょうね。ずっと幸恵様の命でとだけ言っていたのに・・・」

 「なな、何を言って・・・私は幸恵様の命で・・・・」

 「其れも嘘とは言わない。でも一番大事なのは八嶋の血を継ぐ直哉を、御門に回収される訳にはいかないと言う事でしょう。だってどの様に使われるか分かったものじゃないもの。なのに当主が関わらない筈が無いわ。うふふ、なぜ幸恵を前面に出して当主の事を隠しているのかしら?」

 「真鈴・・・・・」

 「ちち、違います直幸様。私は幸恵様のお気持ちと直幸様の安全を考えて・・・・・私は幸恵様に直接命じられて此処に来たのです。信じてください、直幸様」

 真鈴の真摯な視線に信じて頷きそうになった俺だったが、目の前をタマミズキの手に遮られて頷く事は出来なかった。そして戸惑う俺を置き去りにして、タマミズキは鋭く言葉で切り込んでいった。

 「うふふふふ、上手く感情に訴えかけているけど、それは当主の意が入っていないかとは関係ないわよ。それに一つの行動に複数の意味を持たせる事なんて、上に立って公私を分ける者なら当たり前よ。私も良くそうしているもの。ねえ、真鈴さん。貴女は、兎に角今日は直哉も居ないのでお帰りくださいと言って、大人しく帰ってくれるのかしら?五百メートルくらい離れた所に車と十人を超える人員を待たせているでしょう」

 「ナッ・・・・・何故・・・・・」

 「今この家はね、銃を持った奴らに襲撃されたばかりなの。ふふふ、貴女も一人死ぬのを見たでしょう。だから周囲を警戒していたのよ。其れに引っかかったのよね、うふふふふ」

 「・・・・・・あの人達は直幸様達が来ると言った時に、安全に連れて行くための人員です。あの人達に何かしましたか?私達は襲撃したりしません」

 「ふふ、そんなに顔を強張らせなくても、まだ何もしていないから安心して良いわよ。でも大人しくお帰りになっていただけないと、どうなるかは保証出来ないけど・・・」

 「・・・・・・・・・・直哉様が居ないと言うのは本当ですか?」

 「ええ、本当よ。今日は須王の方に香織と共に出向いているわ」

 「須王!?そんな今この時にですか!?何をされるか分かりませんよ。もう始名家の方は直哉様の事を知っている可能性が高いのですよ!!」

 「何だと!?御門だけじゃなくか?」

 「そうです!!クッ、直哉様に護衛はついているのでしょうね!?ついていないのならこうしては居られません」

 「水無月家などがついてるから安心して良いわ。帰ってこない事は無いわよ。それにしても大層な慌て様ね。ふふふ、その様子だとどうやら知らない所で、既に直哉の獲得争いが始まっているのでしょう。八嶋の当主も含めて一体何人が狙っているんだか・・・」

 「真鈴・・・・・・」

 俺の呼びかけに真鈴は顔を逸らして答えなかった。其れで俺はタマミズキの予想が本当だと確信し、今まで聞いた聞きたくも無い情報が次々と思い起こされ始め、歯を食い縛って溢れ出そうな気持ちに必死に耐える事になった。しかしその努力も今自身が狙われた事もあり、脳裏に最悪の想像をリアルに思い起こしてしまった時にむなしく散った。意図してはいなかっただろうが、最後のタマミズキの言葉は容赦なく俺の最後の心の堤防を抉っていったのだ。そしてついに直哉が刺された時から俺の心に巣くっている、今度は失うのではないかと言う恐怖を呼び起こしていた。唯でさえ今日は須王に関する所に出かけているのだ。

 「直幸さん・・・・・・」

 腕の中の沙耶が俯きながら、かすかな声で名を呼んで縋りついてきた。横を見た俺は、見たくなかったもう言葉も無いと言った弱弱しい沙耶を見た。俺は抱きしめる腕に力を込めると、ついに我慢の限界を超えてしまった。

 「クソ、なんで直哉が・・・・如何してこんな事になったんだ。もう八嶋の家とも、あの忌々しい爺とも関わる事は無いと思っていたのに・・・・大体俺が沙耶と結婚したのは知りもしない血なんかじゃない、愛しているからだぞ!!ふざけんじゃない!!勝手に爺が俺の心を語ってるんじゃねえ。やはりあの時ぶっ殺してやるべきだったか!?」

 そうしておけばこんな事知らずにいられたのではないかと、俺が怒りに任せて近場にあった物に拳を振るうと、吹っ飛んで行った物がガチャンと壁に音をたててぶつかった。そして其れを見たタマミズキがかるく眉を顰めると、からかう様な口調で声を掛けてきた。

 「あらあら物騒ね。ふふふ、ついさっき私達の行動に、負の感情を発していた人とは思えない変わり様ね」

 「おい、タマミズキ、お前はどっちの味方だ!?直哉にあの爺の魔手・・・いや、多くの魔手が迫っているんだぞ!!クッ、こんな事になると分かっていたら、直哉に八嶋の事を言っておいたのに・・・・ああーーーもう、俺の所為で何かあったら如何するんだ!?」

 「クスクス、愚問ね。私が気を使わなければならないのは直哉達だけよ。直哉の味方に決まっているでしょう」

 俺が見ている前でタマミズキは軽やかに笑うと、一変してゾクゾクする妖しげな微笑みを浮かべた。俺はそれで一瞬で頭が冷え、背中に冷や汗を掻きながら腕の中の弱った沙耶をギュッと抱きしめた。

 「うふふふふ、冷静になってよく考えなさい。直幸が気にするあの爺とやらがどの程度の人物か知らないけど、他の者と一緒で今の直哉になにか出来る訳無いでしょう」

 「それは・・・・」

 「うふふふふ、もちろん他の者も同じ事だし、此の様子だと行った先でも穏便に済ませているとは思えない。だから心配するのは直哉がやり過ぎないかよ。家にあんなのも来たから直哉が激怒する事は確実、そこに馬鹿共が次々とチョッカイを出して、容赦なく処分される光景が今から目に浮かぶわ。其の時は私も喜んで手を貸すわよ。留守を狙って人の家を襲撃するような奴らは生かしておけないもの」

 俺はそう言って何処か楽しそうに唇を舐めたタマミズキの姿を見て、何故か破滅させられて絶望する男達の姿が幻視させられた。男の本能が警告していた、今見てはいけない物を見てしまったのだと・・・・・・・。

 「うふふふふ、さてそんな事より、直幸が心配しないといけないのは自分の身の安全よ。直哉に何も話してないんでしょう?怒るわよーー、直哉。今日は向こうで色々あって気が立っているでしょうし」

 タマミズキの言葉に目を据わらせる直哉と白い眼の香織が脳裏に浮かんで来た。そして俺は全身に嫌な汗が流れるのを感じた。今まであの爺の事などを聞いて怒りで頭がいっぱいだったけど、よくよく考えるまでも無く俺の過去は突っ込み所が多く、子供に語りにくい物なのだ。そう、今まで言わなかったのは若気の至りを知られたくなかったのもあるのだ。

 「ふふふ、直幸さんも年貢の納め時ね。過去を知った直哉が如何言うか楽しみだわ」

 「ささ、沙耶、いきなり何を言っている。それにもう大丈夫なのか?」

 「ええ、ごめんなさい。心配をかけたわね。もう大丈夫よ」

 「沙耶、無理をしないで・・・まだ顔色が悪いわよ。そっちの真鈴さんは私が車まで送って行くから、ベットで休みなさい。さあそう言う事だから今日はお帰り頂けるかしら?」

 「ナッ、何を言っているんですか!?今すぐご決断を・・・このままでは危険・・・」

 「はい、其処までよ」

 タマミズキの制止の声が聞えたと思った時には、その姿は真鈴の横にあり、その首に抜身の小太刀を突き付けていた。

 「先程言ったでしょう。大人しくお帰りいただけないと・・・とね。もう私達が知りたい事は大体知れたのよ。だから後は身内だけで今後を話すの。これ以上は邪魔だから帰ってくれるわよね?」

 タマミズキの用済みと言いたそうな冷たい言葉に、顔を険しくして反論しようとした真鈴は、顔を強張らせていた俺の視線をたどって、今ようやく自分の首に小太刀が突き付けられたことを知った。そしてギョッとした顔をしてから蒼白になった。

 「なななななな、いいい、何時の間に・・・・なな、直幸様」

 真鈴は驚愕と動揺を隠せない震えた声を出しながら俺を縋る様に見つめてきた。しかし俺が答えるよりも早くタマミズキが凍てつく様な冷たい声を出した。

 「直幸に頼っても駄目よ。私は究極的には敵対したくない直哉だけに従っているのだから。それにねえ、真鈴さん達は初めから重大な勘違いしているのよ。気づいている?」

 「・・・・・如何言う事ですか?」

 「ふふ、ご愁傷様。こういう事態の時の決定権は直哉にあるのよ。真鈴さんもその背後に居る幸恵さん達も直幸を説得すれば、子供の直哉は無条件で付いて来ると思っているでしょう。ねえ直幸、今相談も無く行く事を決めて直哉が付いて来るかしら?」

 「・・・・いや、来ない。それに向こうが如何なっているのか知らないが、俺が行く事で香織に害があったら監禁もあり得るだろ。まったく我が息子ながら恐ろしいものだ」

 「ふふ、表情が嬉しそうであってないわよ、直幸」

 「はは、これで良いんだよ。なあ沙耶」

 「ふふふ、そうね、直幸さん」

 小太刀を突き付けられたままの真鈴は、笑い合う俺達を見て大きく目を見開いてから、深い思案に入ってしまった。そして五分近く経った後に、全身の力を抜いて穏やかに話し始めた。

 「・・・直幸様、今言った事は本当ですね」

 「ああ、嘘は無い。平和な日常は俺が父親として決定権を持っている。しかし非日常は香織を守りたい直哉が決定権を持っている。だからここで俺を説得するのは無意味だ。なあ沙耶」

 「ええ、親の私達が子の邪魔をするわけにはいかないもの」

 「真鈴、俺は直哉が刺された時から必死に香織を守ろうとしているのを傍で見てきた。だから香織に対する事だけは後悔させない様に好きにさせている。ああ、一応言って置くが、大人じゃないと駄目な事は手を貸すし、必要なら代わりに泥を被る覚悟はしているから親としての責任を放棄した訳では無いぞ」

 「・・・・・・参りましたね。それは完璧に想定外でした。はあーーもう、気合を入れて訪ねて来てみれば、いきなり人が死んで私は気絶する。起きてから話をして見れば、よく知らないこんな物を突き付ける女性に言いたい放題言われる。それでも挫けずに説得しようとしたら、相手は親なのに決定権を持っていない相手でした。・・・・ふふふふふ、もう笑うしかありません。タマミズキさん大人しく帰るのでこれをしまってください」

 自嘲の笑みを浮かべながら俺を見た真鈴は、小太刀から解放されるとその雰囲気を引き締めて厳しさの中に不安を滲ませた顔をして話しかけてきた。

 「此処は安全なのですか?敵は始名家御門、奴らは本気で動きますよ。一度敵の手に落ちたら八嶋の力でもどうにも出来ないでしょう。血を継がない直幸様は、八嶋財閥の力を消耗させてまで助ける価値は無いのです。例え幸恵様や御当主様が内心で如何思っていようと・・・・・」

 「たぶん、大丈夫だ。幸か不幸か直哉が今日、同じ始名家の須王家の当主の妹達に会っている。如何なっているか知らないが、それなりの結果は出すだろうさ。それにタマミズキの様な存在が他にもいる。だから今日明日に如何こうなる事はないよ」

 「・・・・・・・その言葉、信じますからね、直幸様」

 「ああ、母さんにもよろしく言って置いてくれ。あと俺と違って孫は我が道を行くとね」

 「はあーーー、何言ってるんだか・・・・。幸恵様には直幸の子供として正しく成長してしまったと報告しておきます」

 「ふふ、そうね。直幸さんと直哉はよく似ているわ」

 「おお、おい沙耶」

 俺が生暖かい視線に居心地が悪くなってソワソワしていると、真鈴が立ち上がって近づいてきた。そしてそっと耳元で囁いた。

 「直哉様の情報の伝わり方が早いわ。誰かが意図的に流した可能性がある。それにこの情報の出所は金城、何が潜んでいるか分からない。気を付けて、直君」

 「・・・・・分かった。十分注意する」

 「じゃあ直君。後日直哉様も居る時にまた来るから、この番号に連絡してちょうだい。もし連絡なかったら、また勝手に来てあることない事直哉様に告げるわ」

 「おお、おい何を言う心算だ。それと直君はやめろ」

 「ふふ、それは幸恵様に直接言うのね、直君」

 含み笑いをして手を振った真鈴は、俺に紙を渡すとタマミズキを伴って部屋を出て行った。その後ろ姿が見えなくなったと同時に、俺は心の中で直哉の価値について必死に考え始めた。確かに直哉の血筋の問題は大事で、早急に対処しなければならないと思うのだが、皆が争ってまで直哉を確保すると言う部分に対して、俺の心にはザラリとした違和感が拭えなかった。そして当主の父さんの思惑がどこにあるのかも、ずっと会っていなかった今の俺には分からなかった・・・・・。

 出来たので投稿しました。次話の投稿は29日以降の予定です。では皆様、次話もよろしくお願いします。

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