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契約者達と初めての町

 特に語る事もなく平穏な日常を過ごして、ついに香織と共にファーレノールに転移する日がやってきた。転移する前にツヤツヤした母さんがお土産を頼んできたので、俺が頷いたら父さんが泣きそうになっていた。そして俺に必死に目配せしていたが、気にしないで香織と共に転移した。

 「うわー、此処がファーレノールなんだね」

 俺は物珍しそうな香織を連れて、メルボルクスとシルフレーナさんの所に向かった。

 「戻って来たか、小僧」

 「シグルト、無事で良かった・・・」

 シグルトとシルフレーナさんが話をしている横で、俺達は静かに話を始めた。

 「俺達のいない間に、何か変化はありましたか?」

 「魔狼達がガレオスを除いて自らの里に帰っただけだな。其方は如何やら妹も契約者になった様だな」

 香織は見定める様な視線を向けられ、緊張して俺の手を握ってきた。俺が握り返して安心したのか、香織は冷静になって礼儀正しく一礼してから話始めた。

 「えっと、私がお兄ちゃんの妹の香織です。此れからよろしくお願いします」

 「ふむ、小僧と違って香織殿は礼儀正しいな」

 俺に見習ったらどうだと言いたそうな視線を向けてくるメルボルクスに、ムッとした俺は言ってやった。

 「俺は相手に相応しい言動を心掛けているぞ」

 「小僧・・貴様」

 睨み合いが始まりかけたが、香織が見ている事を思い出して、この場は抑えた。俺の反応を面白がりながら、メルボルクスも態度を変え話かけてきた。

 「里としては二人に町に行って、人間の情報と状況を確かめてきて貰いたい」

 「俺は行く積りだが香織は・・・」

 「行くよ。私は何時もお兄ちゃんと一緒だよ」

 最後まで言わせずに、勢い良く喋る香織に苦笑して、すぐに了解の意思を告げた。

 「一応聞きたいのだが、俺には何所までの権限が与えられるんだ」

 「里としては色々意見が分かれたが、最終的には契約石の永久破棄を目指す事になった。其の過程で戦う意思のある龍三百匹までの範囲で、自由に交渉してきて貰う事に決定した。但し龍にとって受け入れられない事は、シグルトが止めるから、それには従ってくれ。それと里は空間魔法を使い、龍と関わりのある者しか入れない様に、作り変えている所だ」

 メルボルクスの考えを聞いた俺は、気になった部分を尋ねる事にした。

 「それは龍達で何所其処の町を守れだとか、最悪何処かの町を攻め落とす事も出来ると考えていいのか?」

 「直接率いる我が、契約石の破棄に必要だと判断すれば可能だが、出来る限り穏便にして貰いたい」

 「あの交渉と言いましたが、誰と交渉する心算なのですか?何分初めての異世界なので、どんな人がいるのか知らないのですが・・・・」

 「すまないが分からないのだ。順当に考えればリラクラント家の皇妹が良いと思うが、我が息子と里を襲ったのは明らかにリラクラントからきた兵士だろう」

 皆が顔を歪めて黙り込み、それぞれの考えをまとめた。

 「最悪の場合の事を聞いて置きたい。交渉する相手すらいない場合は如何する」

 「取るべき手段は二つだな。一つは空を飛び城、教会、貴族の館を完全に破壊するか、魔狼が言う様に皆殺しにする事だ。もう一つは契約石を持っている者を、問答無用で周りの被害を考えずに襲い続ける事だ」

 自分で聞いておきながら、俺は正直聞かなければ良かったと思ってしまった。俺達が交渉出来る人間を見つけ穏便に解決する手段を見つけないと、大勢の無関係の人が死ぬ事になるのだ。香織が俺の手を強く握ってきてから話を始めた。

 「一つ目の手段は契約石の製造方法の破棄で、二つ目は恐怖で契約石の使用を止めさせる目的なのは分かりますが、違う方法でもっと穏便に目的を達成出来ればしないと思って良いですよね」

 「ああ、我らとて恨みを買いたいと思ってはいない。だが契約石の問題は其れだけ重いと思ってほしい」

 「最後に聞いておきたいのだが、交渉となると契約者であることを明かさないと信じて貰え無いが、その事で安全に問題が出た場合は如何する心算だ?」

 「我らは出来る限りの事をするとしか言えない」

 「俺達自身の安全や状況によって、逸脱した行動を取ったら何かあるか?」

 「里に被害が出なければ関知しない」

 聞きたい事を聞いた俺は、既に話し終わって俺達の話を聞いていたシグルト達が話した事の中で、聞くべき事を聞いた。そして時間が惜しいので、町の近くの森まで転移してもらった。


 転移してすぐ、シグルトに町との距離を聞くと五キーラと言われた。

 「ええーー、そんなに歩くの」

 「まあ、此方の文明を考えれば此れでも近いみたいだな。其れよりフレイ、先程は何も話さなかったが、意見はなかったのか?」

 「明らかに間違った事はありませんでしたわ。決定は集団のトップの仕事ですわ。私達の場合は順番に直哉、香織、シグルト、そして私ですわ」

 「いや待てよ。皆で話し合って決めれば良いじゃないか」

 「直哉、此方の世界は突発的な事が沢山あります。のんびり決める時間がないのですわ。だから指揮権も含めてきちんと決めるべきですわよ」

 「うん僕もそう思うんだ。フレイが言った順番で文句がある者はいないんだ」

 「私はお兄ちゃんがトップならそれで良いよ」

 「分かった俺が行動を決めて良いんだな」

 皆が返事をするのを聞いていた時だった。突然左から体長四メーラはある熊みたいな動物が襲ってきた。香織ギョッとして立ちすくみ、俺は咄嗟に間に立ち塞がった。

 「ぐふ・・・・・」

 立ち塞がった時に風の障壁を張ったのだが、ズドンと大きな音が響き、衝撃で体が宙に浮いた。香織を庇い腹を殴られた俺は、素早く指示をだした。

 「香織は距離をあけろ。シグルトとフレイは他にいないか確かめてくれ」

 「分かったんだ」

 「分かりましたわ」

 シグルト達が周囲を調べている間に、立ち竦んでいた香織は一度距離をあけて冷静になった様で、厳しい表情で水の包丁を構えていた。

 「此方は何もいないんだ」

 「此方もいませんわ。此奴だけの様ですわ」

 「うお、そうか分かった」

 報告を受ける間にも、熊の拳がブンブンと唸りをあげて振るわれていた。その拳は薄らと光っていて、魔力が籠っているのが分かった。

 「チィ、普通の人間だったら最初の攻撃で終わっていたな。・・・このいい加減にしろよ」

 必死に攻撃をかわし、先程のお返しに拳を熊に叩き込んだ。ズドンと俺がくらった時の何倍もの轟音が響いたが、熊は軽く吹き飛んだだけで平然としていた。

 「頑丈だな・・・・普通の人なら内臓破裂で死んでいる威力何だが・・・」

 その後も攻撃をかわしながら反撃してもいるが、俺は熊に致命傷を与える事が出来ず倒せなかった。理由は簡単で、俺に殺す覚悟が無いからだ。拳が当たる瞬間に体が反射的に震えて、力を緩めてしまっているのだ。平和な世界の価値観が邪魔をしている事に俺が顔を歪めていると、シグルトが声を掛けてきた。

 「直哉、僕がやるよ。その黒と茶色のデルワー熊は、確か人間達にとっては滅多に手に入らない、高級食材だとザインさんに聞いたんだ」

 「シグルト、高級食材だと言うのは本当なのね?」

 「えっと、そうなんだ」

 「何をする心算ですの?」

 目を輝かせる香織に驚いていた皆は、その後の行動を止められ無かった。

 「お兄ちゃん、私がさばくわ」

 その言葉と同時に、一瞬で距離をつめた香織は、躊躇せずに水の包丁をサクッと刺した。刺されたデルワー熊は、体をビクつかせて叫び声を上げる事もなく、一瞬で絶命した様だ。

 「かかかかか、香織、おおおおお、お前なんて事を・・・・・・」

 同じ価値観を持つはずの香織が、全く躊躇しなかった事に動揺した俺は、震える声を口から反射的に出していた。シグルトもフレイも香織がやるとは思ってなかった様で、ポカンとして立ち尽くしていた。

 「お兄ちゃん、如何かしたの?」

 「そんな簡単に生き物の命を奪うのは・・・・・・」

 俺の言葉に香織は顔をしかめると、すぐに真面目な顔をして言った。

 「私は契約者になった時に覚悟を決めているんだよ。長く生きる以上、最終的にファーレノールで暮らす事になるでしょう。なら毎日の食事は如何するの?」

 俺は聞いて店で食べる心算だったが、生活するとなれば毎日全て外食などあり得ない事は分かる。

 「此方はあちらの様に加工されているはずは無いでしょう。其れに私は、あっちでも生きた魚くらいは調理した事があるわよ。お兄ちゃん美味しいと言って食べてたわよ」

 「ええっと・・・本当に・・・・・」

 頷く香織に俺は何も言えなかった。今度からもう少し食材に感謝しようと心に決め、食材になる熊を直視して忘れない様にしようと思った。

 「さて、じゃあ始めるわよ」

 香織が手を熊に当てると、何と勝手に熊がバラバラになって空間に入れられた。一瞬の事だったが、バラバラになったのに血が一滴も出なかった様に見え、驚愕した俺は香織に尋ねた。

 「何をしたんだ今のは?」

 「調理魔法だよ。お兄ちゃんが精密探査魔法を作った様に、私も料理をする為の魔法を作ったんだよ」

 「ああ成る程。部屋で色々やっていたのは其れだったのですね」

 「うんまあね。私も覚悟を決めたとはいえ、包丁で全てやるのは嫌だからね。でもお兄ちゃんの料理は、私が作りたいから必死で訓練したんだよ」

 俺が頭を撫で感謝の言葉を伝えると、香織は真っ赤になりながらも嬉しそうにしていた。

 「お兄ちゃん、早く町へ行こうよ」

 「町はどっちなんだ」

 「町は此処から東に向かうんだ。少し歩くと森を抜けられるんだ」

 「分かった。じゃあ行こう」

 シグルトとフレイが肩に乗り俺と香織は手を繋ぎ歩きだした。


 一クーラ程歩くとようやく町が見えてきた。思っていたより大きいみたいだ。シグルト達に魔法をかけて、順列に並んで門番に通行税を払うと、何事もなく通された。如何やら身分証明などはいらないみたいだ。

 「へえ此れが町か、まずは宿屋かな?」

 「そうだね、流石に野宿は嫌だよ」

 大通りを歩くと大きな宿屋があったので入ってみた。

 「おい坊や、此処は子供が泊まれる場所じゃないぞ。身の程を弁えて出直すんだな」

 宿の受付にいる男が、俺を一瞥して馬鹿にした目で言ってきた。イラついた俺は言い返した。

 「一日いくら何だよ。まずは料金を言ってくれ」

 俺が反論するとは思っていなかった男は、忌々しそうに舌打ちしてから料金を言った。

 「チィ、二人で一日銀貨五十枚だ。ほら、分かっただろ、出直してこい」

 「何だ五十枚か。ほら金貨一枚で二日頼む」

 金貨を投げ渡されて、愕然とした男が手の中の金貨を、必死に本物か如何か確かめていた。

 「本物だから部屋を教えてくれないかな?」

 「失礼しました。二〇二の室の鍵です。食事は朝と夜の二回です。一階の食堂までお越しください。風呂は食事の後になりますので、部屋にご連絡いたします」

 いきなり対応が変わった事に俺以外は驚いていたが、大通りを歩いて耳にはさんだ話に依ると、普通に三食、食べて暮らすには、二人で一日銀貨四枚あれば暮らせそうだ。つまり金貨一枚で二十五日は過ごせるのだ。二日過ごすのに金貨を払えるのは貴族、大商人、神官、そして一部の実力があるギルドランカーだけだから、店員が焦るのも仕方がないのだ。

 「ほら香織、部屋に行くぞ」

 鍵を受け取り部屋に向かって中に入ると、皆で驚きに包まれた。

 「うあーーー、なに此の部屋は・・・・・」

 「へえーーー、人間の宿には初めて泊まるけど結構広いんだ」

 「まあ、それなりの部屋で安心しましたわ」

 それぞれの意見を聞きながら、俺は真っ先に部屋の安全性を確かめた。それが終わって安心してホッと一息ついてから、マルイルの町で調べる事を相談した。

 「まず此処までで分かった事は、マルイルの町はおかしいと言う事だ」

 「おかしい?普通の町に見えるけど?」

 「普通なのがおかしいんだよ。此処は龍の里から一番近い町なんだぞ」

 「ああーーー、そうなんだ。人間が龍の里を襲って返り討ちにされたのに、普通なんてありえない・・・・」

 「香織が気づかないのは仕方ないにしても、私達まで気づけないとは・・・・・・」

 「今は反省よりも先の話をしよう。戦ったのが伝わっていたら、物価も変動して混乱しているはずなんだが、そんな様には見えないし、何より報復を恐れて逃げる者がいないはずがない」

 「考えられるのはマルイルは関係ないか、または一部の者だけが知っているかですわね」

 「でも一人二人なら兎も角、大勢の兵士の行動を隠すのは不可能だと思うんだ」

 シグルトの言葉に皆で考えたが、情報不足で結論がでず、皆で情報を集める事になった。

 「情報を集めるなら私にまかせてよ。風の魔法で声を集めるられるから人の多い所に行けばなんとかなるよ」

 「本当に出来るのか?」

 「うんちゃんと実証済みだよ」

 「実証だと?何時したんだ?」

 「・・・・・えっとそれは気にしちゃ駄目だよお兄ちゃん。あはははは・・・・・・」

 笑う香織を不審に思い、先の熊の事もあって不安になった俺は、一応一言言っておく事にした。

 「それは盗聴になるからな。俺は素直で可愛い妹は好きだが、兄を盗聴する怖い妹はいらないからな。ははは・・・・」

 「・・・・・・やだな、私がお兄ちゃんを盗聴なんてする訳無いわよ」

 「くすくすくす、この前お兄ちゃんは今何をしているのかなと・・・・・」

 「きゃーーーーーー・・・・・・・・・」

 いきなり叫んでフレイを拘束する香織を見ていたシグルトは、いざとなったら空間魔法で何とかすると小声で俺に伝えてきた。

 「なあ香織、俺は信じているからな」

 生暖かい視線で見つめて真面目に言うと、香織が赤い顔で嬉しそうに頷いた。話を終えて広場、露店、商店、教会で噂話を集めて、そしてギルド前の酒場に入った。


 「お兄ちゃん何で酒場に来たの?」

 「此処がギルド前だからだ。良いか香織、ギルドで最近出た西の魔獣の話を中心に集めてくれ」

 「え?うん分かったよ」

 料理を注文して暫く経ち、皆が食べ終わるころ香織が此方を見て頷いた。

 「西に大型のキルグス虎が出て一時封鎖されたけど、もう倒されたそうだよ」

 「キルグス虎ねえ。これは当たりかな」

 「お兄ちゃん、何か分かったの」

 俺は頷き場所を変えようと立ち上がりかけたが、其れより先に体格の良い男が話かけてきた。

 「キルグス虎について知りたいなら俺達が話してやるぜ。なんと言っても倒したのは俺達だからな」

 向こうのテーブルに居る、お近づきになりたくない男達を見て、俺は厄介事の雰囲気を感じて、心の中でため息を吐きながら言った。

 「いや結構だ。特に興味があった訳じゃ無いからな」

 「じゃあ、御嬢さんだけでも俺達の話を聞かないかい」

 「いえ、お兄ちゃんといます」

 「まあそう言わずに。なあ兄ちゃんも、このBランカーの炎剣のバルマーが言っているんだ、まさか嫌とは言うまい」

 シグルトが必死に抑える様に言っているので何とか抑えているが、今危険存在リストに入れたこのバルマーとやらを、俺は殴り飛ばしたくてしかたがなかった。

 「残念ですが俺と妹は人と会う約束があるのです。またの機会と言う事で・・・」

 「御嬢さんだけで良いと言ってるだろ。Bランカーの俺が一緒にいてやると言っているんだぞ」

 またの機会なんぞある訳ないだろと心で思いながら、俺が必死に怒りを抑えていると、馬鹿男が香織に触れようとした。

 「何をする心算だ・・・・」

 触れようとした手を俺が反射的につかむと、一瞬驚いた顔をした馬鹿男は、即座にニヤニヤしながら話かけてきた。

 「おい兄ちゃん、Bランカーの俺が穏便に済まそうとしているのが分からないのか」

 「何所が穏便なのか聞きたいな」

 「簡単だろ。御嬢さんを置いていけば無事にすむんだ。Bランカーの俺とやり合う積りか?」

 ため息を吐きながら俺が周りを見回すと、皆視線を逸らして関わりになりたくない様だった。

 「おい店主、店で暴れたら店が壊れるかもしれないぞ。良いのか」

 「損害分は敗者からいただくさ」

 其れを聞いて馬鹿男と仲間が笑っていた。

 「すまん、俺にはもう無理そうだ」

 「お兄ちゃんが決定権を持っているのだから、好きにして良いのよ」

 シグルトは諦めの表情をしながらも、どこかスッキリした雰囲気を出していた。フレイは初めから嫌悪感を露わにしていたので、むしろ早く片付けろと言った雰囲気だ。俺は先程少し気になる事も言っていたので、ある程度実力を見せる事にした。

 「よしよし、御嬢さんは俺達が責任持って預かってやるから安心しな」

 馬鹿男が俺の言葉を勘違いして、嬉しそうに顔をニヤケさせていた。

 「寝言は寝てから言うんだな。貴様如きが俺の妹に触れようとは、身の程を知ったらどうだ下郎」

 一瞬で店から音が消え、凍り付いた時間が過ぎると、言葉を理解した馬鹿男が怒りの声をあげた。

 「てめえ、Bランカーの俺に、そんな口をきいて唯で済むと思っているのか?ああ」

 「先程から聞いていれば、口を開けばBランカーと煩いぞ。他に言う事はないのか」

 挑発した俺に激怒した馬鹿男が殴りかかって来た。俺は熊に比べても遅すぎる拳を軽くかわして、先程までの礼を込めて蹴り飛ばした。馬鹿男は仲間がいたテーブルと派手にぶつかって倒れ、テーブルを投げ飛ばして勢いよく立ち上がると仲間に声をかけていた。

 「ふざけやがってこの野郎、おい逃がすなよ」

 俺を仲間と共に囲み、出入り口を塞いだ様だが望む所だ。

 「逃げる心算なんかないから安心しろ。お前らこそ逃げるなよ」

 「舐めやがって・・・かかれ。此奴に身の程を教えてやれ」

 男達が向かってくるが、契約者の俺にとっては眠たくなる様な遅い攻撃だった。其れを見て俺はチラリと香織の位置を確認してから、男達に触れられない様にしながらでも余裕で対処出来そうだと思った。

 「ヨッと、ほら攻撃が不発でも、驚いて止まってしまうのは駄目だ。動かないとこうなるぞ」

 俺は言葉と共にかわされて動きの止まった男の腹に、抉る様に斜め下から拳を叩き込んだ。

 「ぐふ・・・・・」

 うめき声をあげた男は体をまげて床に沈んで、ピクリとも動かなかった。其れを見た男達が次々と襲って来たが、俺は最少の動きでかわすと、皆一撃で昏倒させていった。そして七人目を倒すと馬鹿男が話しかけてきた。

 「手前何者だ。其れだけの強さを持つ者を俺が知らない訳がない」

 「何所にでもいる普通の子供に決まっているだろ」

 「答える気は無いか。なら本気で行かせてもらうぜ」

 立っていた奴ら五人が剣を抜いた。流石に周りで我関せずをしていた者達も動揺して、一か所に固まって固唾を呑んで見守っていた。

 「おいおい、こんな場所で武器を抜いて良いのかよ」

 「ははは、もうこの町に居る積りはないから関係ないな。だがお前だけは此処で殺す」

 殺気を向けられたが俺の心は平静だった。先程の攻防で何が有っても問題ない事が分かっているからだろう。一人目が振る剣をかわして、その腕を掴んだ俺は、そのまま蹴りを腹に叩き込んだ。

 「がは・・・・・・・」

 腕を掴まれていた男は衝撃を逃がせずに、一瞬で昏倒した。そして倒した男の剣を奪い、近づいてくる二人目に奪った剣を投げつけた。飛んでくる剣を慌ててかわして体勢が崩れた相手に、俺は素早く飛び込んで接近し、掌打を叩き込んで倒した。

 「このガキが調子に乗るな」

 「貰った、前に出た事を後悔して死ね」

 飛び込んで前に出た俺に、三人目と四人目が同時に左右から剣を振るってきた。俺は慌てる事無く、ギリギリで後ろに飛び、俺の前に突っ込んだ左の男の背中に少し強めに蹴りを放って、二人纏めて吹き飛ばした。男達はぶつかり合って、更に仲良く飛んでいき、ドガンと壁にぶつかり気絶した。

 「まだやるのか?いい加減もう分かっているだろ。俺には勝てないと・・・」

 「此処までやられて引く訳無いだろ。それに俺にはまだこの剣がある」

 突如バルマーの持っていた剣が炎に包まれた。

 「俺の剣は魔剣だからな、炎剣のバルマーの力を侮るな」

 Bランカーと言うだけあって、斬りかかって来たバルマーの剣速は一番速かった。その所為で剣の炎が俺の服にかすり服が焦げてしまった。

 「ははは、俺の剣を何時までかわせるかな」

 俺の服が焦げたのを見て得意げに言うバルマーに、俺はムッとして反射的に近くのテーブルにあったフォークを取って喋っていた。

 「俺はフォークでお相手しよう」

 バルマーは顔を赤くすると、無言で猛然と切りかかってきた。俺はゴウゴウと炎が燃えて熱い剣をかわしながら、気づかれない様にフォークに雷の魔法を使い、即席のスタンガンにして投げ付けた。フォークはパチパチとかすかな音を立てて飛んでいき、かわすそぶりも見せないバルマーに直撃した。バルマーはビクンと体を痙攣させると、白目をむいて声も出せずに床に沈んだ。

 「さすが私のお兄ちゃん、かっこよかったよ」

 香織の言葉に返事をしながらも、俺は自分がおかしな事を喋った事にショックを受けていた。首を振った俺は、なるべく早く忘れる事にして、あまりの事に茫然としている店主に声をかけた。

 「確か損害は敗者からだったな。食事の代金だけで良いんだよな」

 にっこり笑いながら声をかけると、ビクついた店主は青い顔で勢い良く頷いた。俺は代金を払って、即座に店を出て宿に向かった。


 宿の食事を食べて部屋に入って、すぐに窓から外を見ると予想通りの光景があり、如何やら俺の考えたシナリオが正しい様だと思った。

 「何を見てるんだ」

 「ああ、俺達を見張っている奴らを見ている」

 皆のギョッとする気配が背後から感じられた。

 「ちょっとお兄ちゃん、この宿は大丈夫なの」

 「この宿を襲撃したら問題になるから襲われない。此処は貴族も泊まる宿だからな。何の為に高い金を払ったと思っているんだ」

 「先程言っていた様に何か分かったのですわね」

 俺は頷いて皆の傍に行って座った。そして皆に小声で話し始めた。

 「まず町に出て集めた話で、重要なのはこうだ。広場などで最近の町は住みやすいと聞いただろ。理由は貴族神官が帝都に向かったからだ。残っているのは、普通の神官だけなのは教会で確かめただろ。次にここ二か月は売れ行きが良いそうで、何所の店も商品が売れていると喜んでいた。更に西ではキルグス虎が出て、一時期封鎖されたそうだ」

 「そう言う事ですの。貴族神官は先に逃げたのですわね。そして他は・・・・」

 「ああそうだ。一度に物資を集めれば目立つから、少しずつ集めていたんだろうな。かなり慎重で頭の良い奴がいる様だ。俺はキルグス虎はいなかったと思っている」

 「そうか、僕が言った兵士の問題は其れで隠したんだ」

 「ええ、でもあの男が倒したと言ってたわよ」

 「嘘だろうな。だからこの町のギルドも関わっているだろうから、近寄らない方が良い。それと襲った兵士は、多分北のメルクラント家が治めるルベイルの町から来たと思って間違いないだろう」

 一度沈黙してから、皆がそれぞれに考えを纏め、話を再開した。

 「貴族神官達が帝都に行った理由は、新皇帝の即位に関係すると言う噂でしたわね」

 「ああ、だが龍の里が襲われ、契約石の問題が出来た時に退位するとは思えない。この時期に新皇帝が即位するのなら裏が無い方がおかしい。まだ皇帝は一年以上在位期間が残っていると聞いたぞ」

 「穏便に譲位出来るのかな?」

 「香織、考え方が間違っているぞ。新皇帝の話は噂だ。普通に譲位するなら大々的に発表してから行われるはずだ。俺が考える最悪の事態は簒奪だ」

 皆が息をのむ音が聞こえた。

 「ちょっと待ってほしいんだ。いくら何でもそんな事は・・・・・・」

 「いえ・・・・契約石の力を考えれば可能かも知れませんわ。今契約石に関わっていると疑っているのはメルクラント家で、そしてメルクラントは第二皇子の派閥ですわ」

 「そっか普通に皇太子なら簒奪する必要はないよね」

 「慎重に計画して秘匿していたんだろうが五幻種を契約石にする為に大規模に動いたから隠しきれなくなったんだ。それが根拠のない噂として出たんだろ」

 「お兄ちゃん此れから如何するの?」

 「まずは明日この話の裏をとる心算で聞き込みをする。そしてそれとなく俺達が次にリラクトンに行く事を告げるんだ。そうしたら話の分かる奴らが現れるだろ」

 窓に視線を向けた俺の意図に気づいた皆は、一瞬でうんざりした表情になっていた。

 「僕は襲われたくないんだ」

 「無理ですわ。あの様な相手はしつこいと決まっていますわ」

 フレイの言葉に嫌そうな顔をする香織を見て、今度は周りの目を気にしない場所になるから、二度と顔を見せない様に全力で相手をしようと考えた。

 「彼奴は町中で武器を抜いて問題にしていなかった。明らかに誰かが後ろにいるから、ゆっくりとお話をして聞かないと、逃げずに酒場でわざわざ力を見せたかいがない。ククククク」

 「お兄ちゃんおかしな笑い声がもれてるよ。シグルトやフレイも怯えているから程々にしてよね」

 「すまないな。如何やら初めてにしては順調で、気持ちが昂っているみたいだ」

 「とてもそうは見えませんでしたわ」

 「いやいや、俺だってファーレノールに来て初めての人間の町なんだから、普通に浮かれているぞ。例えば俺の世界にはいない、赤や緑の髪や目をした女性がいて綺麗だと思ったり、魔道具を見て楽しんだり、露店で値切ってみたりして、正直反省しないといけないと思って居る所だ」

 「ばばばば、馬鹿。何を言っているか分かっていないんだ。ははは、早くあや・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・ねえお兄ちゃん赤や緑がそんなに良いかな?魔道具を胸の大きなお姉さんに説明して貰って嬉しそうだっよね?さらに露店で・・・・・・・」

 香織のドンヨリとした呪われそうな声音の言葉を聞いて、自分が何を口走ったのか気づいたが最早後の祭りだ。シグルトもフレイも、すでに退避済みで助けはなさそうだ。

 「ねえ、お兄ちゃん、少しお話し・・・・」

 香織の言葉の途中でコンコンとノックされた。これ幸いとドアを開けると、宿の人がいて風呂の用意が出来たそうだ。

 「ありがとう」

 俺は満面の笑みを浮かべて、呼びに来た人に感謝を込めて銀貨を一枚渡した。そして素早く風呂に行く俺を、皆がポカンと見つめていた。その後怯えながら部屋に帰って来た俺は、まるで何も無かった様に笑顔を見せる香織に、安堵出来ずに不安になりながら眠る破目になった。


 「ふう、如何やらお兄ちゃんは眠った様ね。まだお母さんみたいに上手く出来ないわね。本当に危険な女以外は笑って自由を許し、危ない時だけしめるべきなんだけど・・・・嫉妬が抑えられない様じゃまだまだね」

 小さな声で呟き、苦笑いをしながら眠りに付いた香織と、人より優れた聴覚を持つシグルトとフレイが、聞く気は無いのに聞いてしまった声に身を震わせた事を、眠っていた俺が知る事はなかった。

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