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契約者達とヤトスの新情報とバルトラントの名の意味

 俺は香織にギリギリと首を絞められながら、別行動中のお互いの情報を交換した。まあ俺にとっては力尽くで吐かされたとも言うが・・・・・。そして説明が終わった今、横で聞いていたリグレス公爵が難しい顔で皆を呼ぶように言い、ミーミルちゃんが慌てて部屋を出て行った所だった。

 「あはははは、お互い大変だったな、と言う事で済まさないか?」

 愛想笑いと共に告げた言葉は、俺を離して正面に回り、仁王立ちした香織のギロッとした強い視線に撃ち落された。その強い視線は語っていた。私の問題は解決手段があるみたいだけど、お兄ちゃんの方は違うでしょうと・・・・。そして付け足すなら、危険だと分かっているのにホルミスを殺さない俺の、自身をかえりみない行動に苛立っているのだろう。まあ俺にしてみれば香織の方がヤバいと思うし、心配なのだが・・・・。

 「フレイ、本当にお兄ちゃんの認識している程度の危険で済むと思う?」

 「・・・・・・・そうですわね、まず初めに至高鳥の事を補足しておきますわ。至高鳥の最大の欠点は他人の魔力に依存する生態にありますの。そしてあまり知られていませんが、至高鳥は百羽を下回ると変異種が生まれます。その変異種は成体になると宿主を融合して取り込みます。すると自身で膨大な魔力を生成する事ができ、その魔力を使って短期間に沢山の卵を産むのです」

 「ああ、成る程、其れで絶滅しないんだな。ヤトス達が守っていると言っていたけど、其れだけで何とかなるのか疑問だったんだ。・・・・それにしてもヤトスめ・・・別れる時に百羽以下だと口にしたのをハッキリと覚えているぞ。あんにゃろーーー、此れは確実に変異種の事を知っていたとしか思えない。裏があるとは思っていたが・・・如何してくれようか・・・・」

 俺がふつふつとわきあがる怒りに身を震わせていると、フレイの呆れまじりの声が響いた。

 「・・・・・はあーーー、ロベール、そのヤトスと言う名の魔鳥ですが・・・・・・五幻種に劣るものの強い力を持つ黒い魔鳥と言うと・・・・その・・私の心には炎鳥を敵視する・・・見たら遺書を書かねばならないと人々が言う、不吉な戦闘狂の鳥が真っ先に思い浮かぶのですが・・・・と言うかそれしか思い浮かばないのですが・・・・・・」

 「はあ?戦闘狂だと?まあ何度追い払っても挑んできた孫の方なら分からなくもないが・・・。でもヤトスは一メーラくらいの大きさで、落ち着いた声で話し掛けて来たぞ」

 奥歯に物が挟まった様なフレイの言葉に、俺は首を傾げながら答えた。するとフレイは目を細めて首を振ると、力強いハッキリした声を出した。

 「その言葉で確信しましたわ。確実にあのヤトスですわね。これはお父様が聞いたらなりふり構わず飛んで来そうですわね」

 「はは、ヤトスは強いが炎鳥王が飛んで来る程ではないだろ。敵対しているそう・・・」

 俺の言葉の途中で、それを聞いていたリグレス公爵が突然叫び、鬼気迫る表情で椅子を蹴倒して立ち上がった。その様子にギョッとして身構える俺にフレイが当然だと言う顔で頷く中、リグレス公爵の動転した声が響いた。

 「炎鳥王とヤトス?馬鹿な、馬鹿な、馬鹿な、ままま、まさかあれだと言うのか?すすす、すぐ逃げなければ。いい、いや待て、龍がいる此処のが安全か?いやいや、龍は兎も角、あれが戦いになって周囲を気にするか?伝え聞いた炎鳥王との戦いでは確か・・・・・・・いやいや、違うだろう、一番不味いのは・・・・・こうしてはいられない、あれがいつ来るか分からないのだ。あれに出会う前にメイベルとミーミルを連れて・・・・・」

 今にも駆け出しそうなリグレス公爵の肩を素早く掴んで止めた俺は、落ち着かせる様に静かな重みのある声を意識して告げた。

 「この地下は安全です。良いですか安全なんです。龍が攻めて来てブレスを放っても籠城出来る作りになっています。もう一度言います、俺がカリーナの名で保証する程安全です」

 「・・・・龍・・・・・・それは本当か?何時の間に?いやしかし・・・」

 「転移門がありますからその安全の為にも、それから時間がある度に少しずつ地下を強化しているんです。ふふふ、なんと第一層の天井の一メーラ上には、この前取って来た希少金属を強化して作った防護壁を張り終わった処です。それで今は地下水を利用した地下湖を造ろうかと思っているんですよ。安全な水源は貴重で重要でしょう?」

 「あ、ああ、安全な水は確かに貴重だが・・・・・・防護壁?」

 次々と明かされる新情報とそれを聞いた驚きでリグレス公爵が落ち着いてきたのを確かめた俺は、倒れた椅子を起こして座らせてから話を続けた。

 「ふふふ、そんなに驚かなくても良いでしょう?目に見える所ではシグルトが道を広くしたり、新しい居住区と避難所を造ったりしていますし、ロベルト達が頑張って食糧の生産にも目途が付きそうですから、最終的にドラグトンの地下王都は年単位で籠城出来る難攻不落の要塞都市になるでしょう」

 「要塞都市!?陛下、私は宰相なのに・・・・そんな話は初耳なのですが?皆は・・・いや、私よりも親しいロベルト達は知っているのですか?」

 「いえ・・・・そう言えば言葉にしたのは此れが初めてですね。まあ此れは最終的にそうなるだろうと言う話で、確りとした計画がある訳でもないですし、もうちょっと具体的になってから皆には話そうと思っていたんです。ただ前々から思っていたのですが、町の周りを壁で囲っても空を飛べる魔鳥などには意味が無いでしょう。そう言う意味でも強固で安全な地下の避難所は必要でしょう。・・・・・・・何か問題でもありますか?此処は王都でもありますし、安全な方が良いでしょう?」

 いきなり言葉が丁寧になったリグレス公爵・・・いや、宰相に俺は恐る恐る尋ねた。するとリグレス宰相は顔を手で覆って声を出した。

 「言いたい事は分かるのですが・・・・陛下は魔鳥の事と言い、少し軽率過ぎます。陛下に常識が無いのは分かっていますが、私も相談して貰え無ければ対処ができません。はあーー、今回の事もせめてロベルト達に話してくれていれば、すぐに伝わったでしょうに・・・・」

 「まさか・・・・対処が必要な事態なのですか?」

 「そうです、対処を誤れば新しい内乱の火種が生まれます。其れにあれは会ったら終わりなのです。ふう、何時の間にか出来ていた安全な地下に、全住人を避難させる事も検討せねばなりません。決して会わない様に・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・・其れは如何言う事ですか?」

 「両方とも説明は皆が集まってからにしましょう。それより籠城といった以上、地下を閉鎖する事も出来るのでしょうね」

 「ええ、隔壁を下せば可能です」

 「それなら・・・・・・・・」

 そう言ってリグレス宰相は深い思案に耽ってしまった。俺はその様子に不安になりながらも、香織達と視線を交わして何が起きても良い覚悟を決めていた。


 「ごほん、皆急な呼び出しに集まってくれて感謝する。まず新しい情報を話すので最後まで黙って聞いて欲しい。陛下達の話から知れたのだが・・・・・・・・・・」

 リグレス宰相が集まった皆に話し終えると、辺りはシーンと静まり返った。其のまま暫くの時が経ち、ガリガリと頭を掻いたロベルトが口火をきる様に口を開いた。

 「あーー、つまり要約すると、蒼王国の動きに気を付けましょうって事と、おかしな事をされたカリーナの精神状態が今危険だから、治療が終わるまでロベール達がいない時は近づくなと言った所か?」

 「はは、思いっきり要約したな、ロベルト。だがその通りだ。ククク、皆もポッキリいきたくはないだろう?」

 「ポッキリですか、リグレス様」

 「ポッキリとは?」

 「うむ、兄のロベールが先程ポッキリいきそうになった」

 そう言って首をさするリグレス宰相の姿を見てようやく意味が分かった皆は、額に嫌な汗を滲ませ、真剣な顔で頷く俺を見て硬直した。そして横で危険人物扱いされたカリーナが不満そうに頬を膨らませていたが、俺達皆は示し合わせたように見なかった事にした。なのに今その所為で俺だけが睨まれていた。たぶん今の香織には、俺に無視された事だけが重要なのだろう。突き刺さる痛い視線がさらに鋭くなってきたが、後でご機嫌をとればいいはずだ・・・・・・たぶん・・・・・。

 「はは、ロベール頑張ってくれ」

 「他人事だと思って・・・・・・」

 「フッ、さて蒼王国だが、カリーナ様におかしな事をしてきた上に、壊滅していた村の事もある。だから油断は出来ないので、何時でも動ける様に軍の再編を急がせて欲しい、ヴィシール軍務大臣」

 「・・・・・やれと言われればやりますのじゃ。しかし陛下、宰相、その場合ギルドに対する作戦行動が数日は遅れるのじゃが・・・よろしいですかな?」

 「数日か・・・・・それくらいならいいぞ。此方もカリーナの治療があるからな。ただ最低限の救援物資の輸送は遅らせないでくれ」

 「・・・・・それも難しいのじゃが・・・・一応了解したのじゃ。内務大臣と相談して何とかやっておきますのじゃ」

 「よろしく頼む」

 俺が頭を下げてホッとして一息ついていると、すかさずリグレス宰相が表情を厳しくして話し始めた。

 「では本題に入らせて貰おう」

 「・・・本題だと?」

 「如何言う事です、リグレス宰相。今のが本題では無いのですか?」

 バルクラント卿とキルミストさんが真っ先に驚きの声をあげる中で、淡々としたリグレス宰相の声が響いた。

 「ロベールの話を聞いたフレイ殿によって、ヤトスと言う黒い鳥の正体が推測された。ヤトスとは・・・・・」

 初めはざわついていた場の雰囲気は、内容が進むに連れて凍り付き、最後はお通夜の様になってしまった。

 「おいおいおい、親父さん。不吉な戦闘狂の鳥と言ったら伝説のあれだろ。その名を口にするだけで飛んできそうだから呼ばないと言う」

 「だろうな、ロベルト。儂もヤトスと言う名の黒い鳥とは聞いたが、まさかあの告知鳥だとは思って居なかった。あれを招く者などいないと、無条件で選択肢から外しておったわ。まして此処には炎鳥の王女のフレイも居るから、なお更にな・・・・・」

 「ちょ、親父さん、名を・・・・・・」

 「ふん、もう来る事は決まっているのだから、呼んでも構わん。其れよりロベルト、最低限の知識は教えておけ。今回は驚きが過ぎて逆に混乱しなかったが、次もこうだとは限らんぞ」

 「あ?・・・・うお、ほんとだ。皆静かだと思ったら腰が抜けて自失しているんだな。よし分かった。今後も此れじゃ困るし、前にアリステアに無理やり読まされた歴史書を見繕っておく」

 胆が据わっているのか、慣れてきたのか、ロベルトとミルベルト卿だけが俺の顔を見て首を振っていた。その表情は無知故に危険だと気付けない、かわいそうな頭の持ち主を見るものだった。俺は引きつりそうになる顔で周囲の人々の顔を見ると、其処にはようやく我に返り、此方を一瞥してからフレイの様子を窺う集団がいた。俺が皆のその態度に疑念を持って其方を見ると、フレイが全くもうと聞えてきそうなため息を吐いてから語り始めた。

 「ふう、私の生まれる前、今から約千年前の事ですわね。確かに私の父の炎鳥王リフレオンと告知鳥ヤトスは、お互いを不倶戴天の天敵として戦いましたわ。元々ある時から炎鳥は告知鳥を敵としていますが、その理由は・・・・教えて貰えませんでした。ただ聞いた話しから推測出来る約千年前の戦いの原因は、ヤトスが告知鳥の名の通り、未来に起こる不吉な何かを告げたのでしょう」

 「ちょっと待てフレイ。ヤトスは未来が見えるのか?だとしたら会った時に俺の未来も見たのか?」

 「ええ、必ず見ていますわ。なのにその事を告げていないのですから、ヤトスが言った事は警戒しなければなりません。そして今私が推測出来るのは、ホルミスから生まれた卵を絶対に渡してはいけないと言う事ですわ」

 「・・・・・・・それは何故だ」

 「至高鳥は与えられた魔力の一部をお腹に溜めて子供を産みます。そしてその親になるロベールの魔力は強大ですわ。だから生まれてくるこど・・グッ・・・・・・・」

 「フレイ、言葉は正しく使いましょうね。それではまるでお兄ちゃんとホルミスの間に・・・・・」

 まさに一瞬だった。俺が認識した時にはぞっとする雰囲気を発した香織が、フレイをガシッと掴んで引き寄せ、仮面の様な笑顔で話し掛けていた。そのまま俺とホルミスを一瞥した目は冷たく輝き、声にせずとも聞えてくる続きの言葉と共に段々と掴んだ手に力が込められていった。

 「ままま、間違えましたわ、カリーナ。二度と間違えない様にしますから離してください」

 「・・・・・・お願いね、フレイ」

 「・・・はい。強大な魔力を材料に生成される物は、同じ様な強大な魔力を持っている可能性が高いのです」

 離されたフレイの物言いは、まるで物を作る様な言い様だったが、其れを非難する者はいなかった。俺も冷や汗を掻きながら先の香織の態度を見れば当然だと思った。ただ一番文句を言いそうなホルミスが鳴きもせずに、逃げない様に見張っているルードルの体の陰に、震えながら隠れようとするのが目に入った時、俺は一言言って置かないと向こうで香織がやり過ぎると考え直した。

 「お・に・い・ちゃ・ん、何か私に言いたい事があるの?まさか・・・・・・」

 目ざとく此方の雰囲気が変わった事に気付いた香織が、機先を制する様に一音一音区切って呼んだのを聞いた瞬間、俺は怖気が走って言葉を出す事が出来なくなっていた。呪の所為だと思うが、今絶対にあり得ないと思っていた事が起きたのだ。それは俺に対する本気の殺意だ。今までも香織を激怒させて、殺気混じりのものを向けられた事も、理不尽なお仕置きを受けた事もある。しかしそれでも本気の殺意を向けられた事は無かった。あの事件後の香織にとって、其れだけはあってはならないものなのだ。

 「シグルト、カリーナは思っていた以上に不味いみたいだ。今の人格を作っていると思われる根幹部分にまで変化が見られる。俺も出来る限り傍に居るが、授業中などで居られない事もある。だからこれからシグルトは、常にカリーナの傍に居て欲しい」

 「・・・・・・・・・それはいざと言う時フレイだけでは止められ無いからと言う事だよね。何所まで・・・・・」

 「・・・・・・・・グッ、それは・・・・ふう、治療可能な範囲なら傷つけても構わない。人を傷つけそうになったら制圧してくれ」

 「・・・・・・・・・・・・分かったんだ」

 小声で絞り出した俺の苦渋の決断に、シグルトは蒼い顔をしながらも真剣に頷いてくれた。その様子からシグルトは、此れが俺にとって禁忌の判断だと分かっているのだろう。かつての俺だったら香織が傷つく事を必要以上に恐れ、致命的な場面を見るまでそれを許容する決断は出来なかったはずだ。だが今の俺の精神は過去を一つ乗り越えた事によって変化し、まだ短い時間だが王になって色々な報告を聞いて判断をする事で、決断力と視野が広がったのか、何とか冷静な判断が下せたと思えた。王になると毎日色々な報告を受けるのだが、その中には村や街道警備中に魔獣に襲われて戦い死亡した兵士の名と補充兵の要請や、国内の病人の把握中に死んでしまった重病者など厳しい報告も多いのだ。そして少なくなってきた水源に不安を抱く住人の争いが起きそうだからなどと言って、自分の方を早く助けて欲しいと言う者達の使者が次々とやってくるのだ。最善の計画案はリグレス宰相達が作ってくれるのだが、それも最終的には俺が判断して王家の家紋を書いて進めるのだ。俺はその時、遅くなった方は騒動が起きるかも知れないが、死者だけは出ないで欲しいと思った。

 「はあーーーーー」

 「お兄ちゃん?」

 「あ、ああ、ちょっとシグルトと男同士の話をな。それと言いたい事は無いから気にするな。皆、話の腰を折ってすいません。話を戻して続けましょう」

 他に聞えない様に話していたので、いきなり重たいため息を吐いた様に見える俺に注目が集まっていた。不味いと思った俺は、怪訝そうな顔の皆を促して誤魔化す事にした。話しの内容も考えた事も説明出来ないのだ。しかし香織だけは誤魔化されなかった様で、俺の顔を物問いたげな顔でジッと見つめてきていた。

 「そうですわね。えっと、新しい至高鳥の雛は強い力を持つのは理解しましたね。だから宿主は慎重に選ばないといけませんわ。ヤトスはロベールに絶滅しそうなので保護していると言ったみたいですが、私には真っ赤な嘘だと分かりますわ。ヤトス達告知鳥は至高鳥の宿主になって、私達炎鳥との戦いの戦力にする心算なのですわ。父と戦った時負けましたから」

 「おいおいおい、ちょっと待ってくれないか。ヤトスが炎鳥と再戦する事は確実なのか?もしそうならロベールに呼ばれても来ないんじゃないか?確か、既にカリーナを傷つけたらみたいな事を言ったんだろ?だったらフレイが居る事も当然知っているはずだ」

 「ロベルト・・・・・理由は王の許可が無いので言えないのですけど、いずれ再戦する事は確実ですわ。確かに敵対している炎鳥の王女の私が居るから来ないのではないか?と考えるのは納得できるのですが・・・・・ヤトスも炎鳥は見たくないでしょうし・・・・・」

 「ふむ、確かヤトスからは生まれたホルミスの様子を見に来るのと卵を渡す様に言われたのだったな、ロベール」

 「え?ええ、そうです」

 少し気になる事があって考え事をしていた俺は、シグルトに肩を叩かれてから慌てて答えた。その様子を見て怪訝そうな顔をしたリグレス宰相は、一瞬何かを問いたそうにしたものの、それでも話を続ける事にしたのか、フレイに話し掛けた。

 「今の話を聞いている限り、ヤトスは穏やかでは無い思惑を持っている様だ。故に此れは警戒しておくべき事だろう。そこで聞きたいのだが、ヤトスの未来を見る力を防ぐ手段は無いのかね」

 「残念ながらありませんわ。ずっと炎鳥が取っている対策は変わらず、会わない事と口を開く前に封じる事ですもの。だからこそヤトスは油断できませんわ。一体ヤトスは何を見て何を考えているのか・・・・・・」

 「フレイ様、少々疑念があるのですが・・・質問してもよろしいですか?」

 「構いませんわ、キルミストさん」

 「先程ヤトスの未来を見る力と言いましたが『告知鳥の』ではないのですか?確かロベール様はヤトスの孫にも会っているのでしょう」

 「・・・・・・其れは・・・・・・・・・・・」

 その指摘に顔色を変えたフレイが言葉を詰まらせ、場が不意に訪れた重たい沈黙に支配された。俺は不思議に思いながらも、今の内と思ってシグルトとルードルにそっと話し掛けた。

 「なあ、シグルト、ルードル、ヤトスと話した時の事を覚えているか?」

 「うん」

 「其れが如何した?」

 「俺は妹がいるとヤトスに言った記憶はある。けど妹が契約者だと言ったかな?」

 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 「如何だ?」

 「えっと・・・・・・嘘・・・・・・まさか・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・わからん。僕は覚えていない」

 「はは・・・・やっぱり思い当たらないか・・・・。だとすると俺の勘違いじゃないんだな、ははははははは」

 俺が内心で冷や汗を掻いて焦りながら乾いた笑いを口にすると、何時の間にか皆の注目を集めていた。その視線に目に見えない圧力を感じた俺は、咄嗟に表情を取り繕って誤魔化そうとしてしまった。しかし長い間一緒にいた香織だけは誤魔化せず鋭い声をかけられた。

 「お兄ちゃん、何を気づいて隠しているの?」

 「うっ、それは・・・・・・・・」

 「今のお兄ちゃんの顔は何か都合の悪い事を思い出した時の物だよ。私には分かるんだから」

 自信満々に告げる香織に、周囲の視線が一段と強まった。俺は観念して首を竦めると、そっと小さな声で話し始めた。

 「あーーー、たぶんなんだが・・・・ヤトスに妹の存在は言ったんだが、契約者だとは言ってなかったかも知れないかも・・・・・・・」

 「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」

 皆の無言の重圧が襲い掛かって、敗北した俺の言葉はしどろもどろになって消えていった。そしてリグレス宰相とバルクラント卿が眉間に出来た深い皺を指で揉み、ガルトラント卿とミルベルト卿が何度も瞬きをした後目元を押さえ、ロベルトとキルミストさんとニルストさんがマジか此奴はと言った顔を手で覆っていた。他の人は・・・・言わない方が良いだろう。

 「ゴホン、陛下、つまりヤトスは此処にフレイ殿がいる事は知らないのですね」

 「あーー、多分」

 「となるといきなり敵対する炎鳥と会うと言う事になり、最悪の場合は騙したなと言う事になるのでは?」

 「いやいや、騙す心算なんかなかったぞ。フレイ達と敵対していたなんて、今の今まで知らなかったし」

 「陛下が如何思っていたかではなく、相手が如何思うかです。陛下も分かっているでしょう」

 リグレス宰相の容赦ない突っ込みに、俺は自然と滲んできた額の汗を拭うと、必死に頭を動かして考えた。

 「そそ、そうだ。こう考えては如何だろう。此れは好機だ。フレイの事を知らないヤトスは、企みが推測されるとは思っていないだろう。此のままフレイの存在を隠して会って企みを暴くんだ」

 「・・・・・・・ふむ、一理はあります。ですがフレイの存在は今や子供でも知っています。其れを知られない様に隠すとはどれ程の手間か分かりますか?それにヤトスがいつ来るか分からない以上、長期にわたる可能性が高く、其れまで延々と隠すのは現実的では無いでしょう」

 「ウッ、それは・・・・・・クッ、少し時間をくれ。ヤトスには卵を渡したから向こうも雛が孵るはずだ。だから雛が孵ってすぐ動いたりしないだろう。それに本来はカリーナと合流したら一度帰る予定になっていて、今日はもう自由時間だったはずですし・・・」

 「・・・・・・ふむ、まあ良いでしょう。帰っている間も時間があれば考え、この案件の矢面に逃げずに立っていただけるのならですが。そのまま天狐の里に行って暫く帰ってこないのですし」

 「あはははは、勿論ですよ、時間を作って考えるし、逃げたりしない」

 「分かりました。陛下を信じます。皆も其れで良いかな」

 俺が内心で考えていた、向こうに帰れば七日あるし、天狐の里に行って来るから暫く大丈夫と言う思いが透けて見えたのか、リグレス宰相に釘を刺されてしまった。そしてそのままリグレス宰相が皆を一瞥して行くと、先送りの結論に不満と怪訝そうな顔の人達が、何かを納得したように頷いた。その様子に俺が疑念を抱いた瞬間に、リグレス宰相は遮る様に声を出した。

 「では、時間も押しているし、第二の本題に入ろうか。バルクラント卿達は覚悟して聞いてくれ」

 「なに?まだ何かあるのか?」

 「覚悟を決めろとは・・・バルクラントにとって良くない話なのですか?」

 名指しされたバルクラント卿達が驚きの声をあげる中、リグレス宰相が頷いて緊迫感を出しながら口を開いた。

 「二人も皆も、私達の町の地下に転移門と王都が出来たのは知っているな。それが重要な物だと言う事も」

 「リグレス宰相、今もそれで此処に集まったのに知らない訳があるまい」

 「そうです。会議の時も殆ど全ての貴族は転移門を使って集まったのですし、ただ其の時貴族の一部が不満そうにしているのを宥めるのに苦労しましたが・・・・」

 「う、うむ、矢張りそう思う者達も居たか・・・・まあ二人が重要だと認識してくれていれば良いのだ。それで言い難いのだが・・・・・・・・・・と言う訳なのだ」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・地下王都が要塞都市化するだと?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・父上、此れでは他は兎も角、バルクラントの貴族達が・・・・・それに今は・・・・・・」

 バルクラント卿達が蒼白な顔になり、周囲の皆が絶句する中、訳が分からない俺達にロベルトがやれやれといった表情で話しかけてきた。

 「あのな、バルクラントには他と違って、旧貴族が居るんだよ」

 「ロベルト、それは公式には・・・・・」

 「親父さん、認められてなくても皆が使っている言葉だろ」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「旧貴族ってのは、かつてあったバルトラント王国に仕えていた貴族の事だ」

 「バルトラント王国?アッ、そう言えば砦から帰って来る時、現状報告に寄ったのよ。其の時にニービスさんの奥方のシャトーヌさんとニルストさんの奥方のメルティナさんと三人で話したのよね。その中でまだ夫が名を継がないのかと生家からせっつかれていると言う話になって気になっていたのよ。そうか、バルクラント家の当主がバルトラントの名を継ぐのはそう言う意味なのね」

 香織が突然納得顔で告げた言葉に、ニービスさんとニルストさんが渋い顔をして口を開いた。

 「せっつかれている、ですか・・・・・。やはりメルティナの生家は・・・・・」

 「かつての王国で重臣中の重臣だったからな。伝え聞くかつての栄光を忘れられないのだろう。赤帝国では上級貴族ではあるものの家臣の家臣として見られて軽んじられる事もあったからな」

 その半ば独り言の様な言葉から推測した俺は、状況を正確に把握する為に質問を始めた。

 「お二人の祖先はかつて王族だったのですか?」

 「そうだ。かつてのバルトラント国王の直系の子孫で、バルトラントの名を継ぐ儂が今の王と思って貰えば良い」

 「でも誤解しないでください。名を継いだとしても一部の貴族達・・・いえ、ハッキリ言いましょう。旧貴族に認められて言う事を聞かせやすくなるくらいで、特に何かある訳でもありません。今は私達も五大貴族の一人に過ぎませんし、今更王族だったと主張する心算もありません」

 厳しい表情で己の立ち位置を語るニルストさんに、俺は安心させる様に微笑んでから質問した。

 「分かりました。ですが遺恨は残っている様子ですね。何時頃国では無くなったのですか?」

 「大体三百五十年前と言った所だ」

 「はあ?三百五十年だと・・・・・・王族も処刑されずに生きていて、しかもそんなに年月が経っているのに、未だに占領された遺恨は消えないのか・・・・・一体何を・・・・」

 予想を上回る年月とそんなに後を引く遺恨とは?と考えて戦慄していると、ニービスさんの不思議そうな声が響いた。

 「占領?なんの事だ?」

 「ははは、父上、陛下が誤解していますよ」

 「誤解?」

 「ええ、当時の赤帝国とは戦っていないので占領ではありません。当時戦っていたのは蒼王国とです。ですが国力の差から国土の半分を失い敗戦濃厚になり、当時の皇帝と王が話し合って臣下に加わる代わりに国土回復の援軍を出すと言う事になったのです」

 「成る程、平和裏に併呑したんだな。なら如何して遺恨?がある?」

 「当時はまだサザトラントもガルトラントも国で赤帝国では無かった。其れを打倒する為に、臣下になったバルクラントは血を流して戦った。そしてその時の対価として締結された盟約がある。それは蒼王国との国境を全力で守ると言う事だ。しかし時の流れと共に薄れ、此処百年程は帝都からの援軍は削られるばかりで、国境を守れたのはメルクラントからの独自の援軍のおかげだ」

 「父上の言う通りです。特に先の皇帝は酷く、バルクラントがメルクラントと行動を共にしたのも、そこに理由があります。平和好きと言えば聞こえは良いですが、皇帝と帝都の奴らは私達を盾として平和を謳歌し、国境で流される血など気にしていませんでした」

 「成る程、約を違えて戦わない者は嫌われると言った所か。バルグーンの人達を見た時に武の気質がある様に感じたし、戦って受け継ぐ風習があるくらいだものな」

 「ははは、それはバルトラント王国の時から残っている独自の風習の一つです。他にも色々残っているので、バルクラントは赤帝国の中でも一風変わっていたのですぞ」

 「父上、それは自慢にはなりません。其れが今の問題に直結しているのですよ。直接戦って負けた訳では無いので旧貴族達が力を保持したまま残り、強硬姿勢で風習や伝統を堅持しました。其の所為で独自気質があり、未だに他と馴染めていない部分もあるのです。後に占領併呑されたガルトラントやサザトラントの民の方が、赤帝国に馴染んでいるのは問題ですよ。今だって・・・・」

 「分かっている。会議に来た旧貴族の当主達は陛下に忠誠を誓った。しかし若手の者達はその限りではない。中には素行も悪く、蒼王国と繋がっているのではないかと思われる者もいる。先の帝都消滅を話した後で動きが微妙だった者達がいるからな。それに・・・・・後はお前が言え」

 重々しい言葉に雰囲気が固くなる中で、香織がそっと囁いて来た。

 「お兄ちゃんと話したいジェスター将軍が貴族を警戒していたけど、此れが原因かも知れないわ。それに蒼王国の者が危険なはずの水辺を移動できる可能性を話したでしょう」

 「・・・・・・そうか、注意して置く」

 香織に視線を飛ばして微かに頷いた俺は、強い意思の籠ったニルストさんの視線を受け止めた。

 「陛下、今までの話しでバルクラントのある程度の状況はお判りになったと思います。今急いで私がバルトラントの名を継ぐ準備をしていますが、しかしそれが順調に終わっても継いだばかりの若輩の私では、すぐに父上の様に旧貴族を抑える事は無理です。旧貴族の横の繋がりは強く、バルトラントの名を継ぐ者は旧貴族の中から妻を娶ると言う不文律すらあります。・・・・・・此れは私と父上だけで内密に処置しようと思っていた案件ですが、会議から帰って来た旧貴族の当主と次期当主などの間で意見が分かれています。その意見の中には新しい国になるのならこれを機に独立するべきだと言う物もあります」

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 途端にざわざわとざわめく雰囲気の中で、俺は無言でニルストさんの視線を受け止め続けた。先程からの話と今の話を結び付けて考えると、俺には結論が一つしか思い浮かばなかったのだ。

 「その主張は妻の兄がしています。王として担ぎ上げるのは私でしょう。ですから今地下王都が要塞都市化するなどと伝わったら・・・・・・」

 「轟々と燃え盛る火に油を注ぐ様な物だな。それに如何やら負けて下ったのではない事が、旧貴族の誇りでもあるのだろう?」

 「はい。ですから己が権益を侵されそうになると敏感です」

 「フッ、転移門を見て真っ先に思いつくのは、援軍がすぐ来る事では無く、其処から占領する為の軍が来るかも知れないと言う事か。そして地下の要塞都市は安全な避難場では無く、侵攻拠点に見えると言う訳だ」

 「はい、残念ながら旧貴族はそう考えるでしょう」

 「はあーーー、発想が同国人とは思えないな、全く・・・。カリーナが国境で戦ったのは伝わっているのか?それでも此方を認めないのか?」

 「その・・・真に言い難いのですが、陛下は全ての者を過去に捕らわれずに分け隔てなく接しようする事が、書面で渡された政策からも良く分かります。しかしそれが反発を生む場合もあります」

 「ハッ、そう言う事か。貴族も旧貴族も俺の様な元平民の貴族も一緒に試験を受けるのが気に入らないんだろ。詰まる所次期当主の奴らは自分達を特別扱いしろって事だろ。それに旧貴族の領地は貧民の扱いも悪いと聞いた事がある」

 ロベルトが憤りながら口を挟むと、ニルストさんが顔を顰めた。だが反論しない所を見ると、その通りなのだろう。俺もそれで会議の時の一部の貴族の表情を思い出していた。しかしそうだとすると俺も考えなければならなくなった。ああ無論、試験を取りやめる事では無く、そんな奴らを独立させたら統治が真面とは思えない事についてだ。そして其れを阻む為の前提条件がすでにニルストさんによって示されているのだ。

 「・・・・・・・・・・・ニービスとニルストに聞く。己が妻を地下王都の部屋に住まわせる事は可能か?」

 「可能です。私達が会議前に使っていた部屋ですよね」

 「ああそうだ。しかし即答とはニルストはこの提案を予想していたな?」

 「ええ、何通りか手段を考えていました。今父上が自由に動ける様になる事は、とても重要な事ですから。其れに私の妻を罪に問わない為にも、利用されない為にも、其方の監視下に置かれていた方が確実です」

 「フッ、ならこの問題が解決するまで名の継承を停止して構わない。そしてもう一つ王として約束を与えよう。関係ない民に死者などが出ない限り、私達は知らなかった事として内密に処置して構わない。今回は私が王都の事を伝えなかった非もある」

 ハッとした二人は深く頭を下げて中々上げようとしなかった。二人とも妻の生家は旧貴族で、王である俺が動いてしまえば罪も厳しくならざるを得ないのを分かっているのだ。

 「二人とも陛下が此処まで言ったのだ、失敗は許されんぞ。それと最初に線引きして置け。身内だとは言え、超えてはならない一線を超えたらすぐに報告する様に。此れは宰相としての命令だ。陛下は気にしていない様だが、最初に報告が無かった事は問題だぞ」

 「「ハッ、了解いたしました。」」

 リグレス宰相達のやり取りを聞きながら、俺はふと思いついた一つの疑問を口に出していた。

 「ガルトラント卿、もしかして貴男の祖先も元王族なのか?」

 「いえ、儂は違います。ガルトラントとサザトラントの王家は共に全員処刑されて断絶しています。それにどちらの王家も悪い噂が絶えず、処刑された時は民が喝采したそうです。その後功を認められて統治する事になった祖先の記録には、民達が圧政から解放されて協力的だったので助かったと記されていますから本当でしょう」

 「そうか、なら良いんだ。流石にガルトラントやサザトラントでも同じ様な事があったら面倒だからな」

 「ははは、ご安心ください。我が領地は今は頼まれても騒動は起こせません。破壊された砦や村の再建の為に、身分に関係なく皆が駆けずり回っているのです。それに今此処にいない外務大臣も、ガルーンで商連合国の使者と穏便に話しています。傍には娘のセルフィーヌとベル・・・・・・・・・・」

 途中で黙り込んだガルトラント卿の姿を、俺はすぐに視界の外に葬った。世の中には見ない方が良い事もあるのだ。

 「さて、此れで話は終わりだな。なら時間も経っていますし、俺は帰る前にホルミスの世話をミーミルちゃんに頼んでから、龍の里に居るメルボルクスに頼み事をしに行きます。リグレス宰相、問題ありませんね」

 「ああ、大丈夫だ。確かその間に連絡する時は、此処にいる龍に伝言を頼めば良いのだろう。そうすれば二日以内にロベールに届くと聞いている」

 「ええ、メルボルクスを通して、明日は分かりませんが、その次の日には確実に届きます」

 「よしそれなら安心だ。ははは、確認しただけで実際に連絡する事はないと思うから、此方の事は安心して任せてくれ。ロベールはカリーナ様の治療があるだろう。其方を優先してくれて良い」

 「・・・・・・ありがとうございます」

 俺は笑いながら此方を気遣うリグレス宰相に礼を言ったものの、嫌な予感とでも言うのだろうか?首筋にヒヤリとした物を感じていた。

 「それじゃあ、先に部屋を失礼します。カリーナ行くぞ」

 「うん、お兄ちゃん」

 「おい、何で腕を組むんだ」

 「気にしない、気にしない。さあ行こ、お兄ちゃん」

 俺達の全身に好奇の視線が注がれていたが、カリーナは意に介さず、腕を引いて歩き始めた。

 次話の投稿は19日前後の予定です。ちょっと土日の予定が分からないので、目安ぐらいに思ってください。では皆様次話もよろしくお願いします。

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