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契約者達と村での戦い

 「始めの不意打ちに失敗した時点で、私に勝てないのは分かるでしょうに・・・・」

 今私は香織の体調を案じる片手間に、ぞろぞろと現れて正体を現した百を超える物体を焼き払っていた。村人に成り代わっていた物体は、優れた擬態能力があるだけで一体一体は驚く程弱かった。如何やら村に来る人間を不意打ちで倒していたみたいで、最初の不意打ちは上手かったけど、それ以外は駄目駄目だった。

 「全く・・・知恵の無い下等な魔獣でも、勝てない事が分かれば躊躇い、逃げようとするものを・・・・・・いい加減にしなさい」

 「・・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・はあー、擬態が解かれれば、もはや言葉すら忘れましたか?」

 真紅の炎を纏った私に触れるだけで簡単に燃えてしまう物体は、毒素にさえ気を付ければ危険など無いも同然だった。しかし煩わしさと湧いて出てくる様に現れるのだけは、他の追随を許さないと認められそうだった。

 「ふう、村から出て来たのは、此れで終わりの様ですわね。はあああーーーーーー、どっと気疲れしましたわ」

 焼いても焼いても無言で愚直に襲い掛かってくる事が、此処まで精神を疲弊させると言う事を初めて知った私は、無意識にまた深い深いため息を吐いてしまっていた。

 「ああ、まだルルファさんの望みを叶える為にも、村の中のお掃除を完璧にしないといけませんわ。ふふふ、・・・しかし私はこれでも炎鳥の王女のはずですのに、こんな所でこんな事をやっているとは、ほんと未来は分かりませんわね」

 段々と愚痴っぽくなってきたので、私は首を振って意識を切り替えて、身構えながら村の中に入っていった。

 「おかしいですわね・・・・・・・・・・」

 私は村に入った瞬間、先程の様に物体が問答無用で襲い掛かってくると考えていたのだが、案に反して物体は影も形も無かった。

 「・・・・・いやな静寂ですわね。ピリピリとした危険な雰囲気が漂っていますわ。・・・飛んで上から見る・・・いえ、駄目ですわね。下から狙い撃ちにされる可能性がありますわ」

 私は何が潜んでいるか分からないので安全を重視し、周囲を警戒しながら慎重に移動して見回した。しかし其処には手入れをされていないボロボロの家々があるだけだった。

 「これはまた・・廃屋ばかり・・・いえ、もう廃村と言うべきかしら・・・。一体、何時から入れ替わって、人が住んでいない状態だったのかしら?」

 自然と口から零れ出る言葉に、私は一羽で不安なのかしら?と思って苦笑いを浮かべる事になった。何時の間にか不安を感じる程に、香織と一緒にいる事が私の中で当たり前になっていたのだ。まあ今感じている不安の半分は、様子のおかしい香織から目を離す事だが・・・・・。

 「・・・・・・・・・・試してみますか」

 ふと嫌な事を思いついてしまった私は、その疑念を捨て置けず、近くの家に火炎球を放ってみた。ドンと壁に当たって炸裂した火炎は、木の家を瞬く間に燃やしていった。その燃え方に不審な点は無く、どうやら私の考え過ぎだった様だ。

 「流石に家に擬態しているとか、あり得ませんでしたわね」

 そう呟いて恥ずかしくなった私は、燃える家に背を向けて別の所に行こうとした。しかしそれは出来なかった。突然背後から轟音がたて続けに鳴り響いたのだ。慌てて私が振り向いた時には、すでに手遅れだった。炎に守られているはずの私のお腹に、ズドンと何者かの拳が突き刺さっていた。

 「グフッ・・・・・・・・・・・・・・」

 息を詰まらせながら吹っ飛んで行った私は、背後の家の壁を焼き切り崩壊させながら数十メーラもの距離を移動し、その後ようやく羽を動かして急制動をかけて姿勢を整える事が出来た。

 「クッ、何が・・・・・・」

 私が元いた位置を見ると、そこには無機質な朱色の目と綺麗なエメラルドの長髪が印象的な女がいた。どうやら燃える家を見て私の位置を悟った敵が、家々を破壊しながら一直線に突っ込んで来たみたいだ。

 「やってくれましたわね。お返しですわ」

 不注意で攻撃を受けてしまった私が、怒りを込めて数百本の火の矢を放つと、避けると思われた敵は一歩も動かず、なんと正面から数百の水の矢で迎撃してきた。すぐに放たれた魔法がぶつかり合い、ジュージューと音を響かせて水が蒸発し、放った火が消えるのが見えた。そして辺りは大量に発生した水蒸気で一杯になり、その事が私に警戒を強めさせた。

 「お腹に攻撃を受けたので、まさかとは思っていましたが、炎鳥の魔法と互角とは普通ではありませんね。貴女、何者です」

 「敵・・・・・・・・・殺す・・・・・・・」

 私の誰何する声に答えず、片言の無機質な声で其れだけ言った敵の女は、此方に向かって一直線に突っ込んで来た。その速度は炎鳥の私でも驚く速度だったが、もっと驚かされたのは間にある熱い水蒸気を苦にせずにいる事だ。

 「死ね」

 「お断りですわ」

 ブオンと風を切って放たれた拳を、羽を畳んで浮力を殺してかわした私は、すぐに羽を広げて急上昇し、くちばしで女の顎を狙った。

 「甘い」

 無機質な声が耳に入った時には、目の前に雷で作られた小さな壁が出来ていた。そして最早かわす事が出来ないと悟った私は、その瞬間に全力で羽ばたいてぶつかっていった。

 「クッ、こんな物で私を止められるものですか・・・」

 バチバチと放電する壁と私の纏った真紅の炎が激しくぶつかり合い、一瞬の拮抗をもってぶち破る事に成功していた。しかし其処に既に顎はなく、一メーラ程後退した女が足を振り上げていた。

 「死ね」

 「お断りだと言っているでしょう」

 私は叫びながら風の層を作って、蹴りの衝撃を柔らかく受け流しながら、その力を利用して遠くに後退した。

 「本当に貴女は何者なのです。其の手足に纏っている高魔力は人間には不可能なはず・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・・・。死ね」

 此方の言う事に答えない女は、瞬きするよりも短い一瞬だったが、確かにピタリと動きを止めて固まった。そしてまた動き出した時には、質問など無かった様に、また無機質な声で死ねと言ってきた。その様子は私の目に、設定された言葉を繰り返しているだけに見え、姿は人間なのにまるで人形、いや香織の知識にあるロボットの様な印象を受けた。

 「ナッ、冗談じゃありませんわ。この規模の魔法を複数同時に・・・・。それにあれは・・・・・・」

 私はそれを見た瞬間に慌てて風の魔法で二十枚以上の多重障壁を張っていた。出来上がった一枚一枚の障壁は、咄嗟に造ったとはいえ私が全力で張ったので、辺りに漂って感じられる魔力から考えても、まず破られる事は無いだろうと思われる代物だった。しかし女が放った数千の水の矢は、ぶつかると重い衝撃音を響かせ、障壁はガリガリと削られていった。

 「クッ、一本一本もなかなかの威力ですね。此れは対処を誤ったかも知れませ・・・」

 必死に魔力を込めて障壁を維持する破目になった私に、女は容赦なく待機させていた数千の雷の矢を放ってきた。両方合わせて万を超える魔法の矢に晒された障壁は、パリン、パリンと音をたてて一枚一枚破壊され始めた。

 「クッ、本当に不味いですわ。此のままでは迎撃用の魔法が間に合わないかも・・・・・・・」

 嫌な汗を掻き始めた私が見る先には、混沌獣の時に移動しながら見た、天から降ってきた白い雷を思わせる白い球体があった。その大白雷球とでも言うべき物は、今も目の前でバリバリと音を響かせながら大きくなっていき、その内包する力は、とうとうこの村を吹き飛ばせると思われる強さに達しようとしていた。私はそうなればもう何時放たれてもおかしくないと思って、焦りを感じていた。

 「・・・・・・・そんな、まだ強くなると言うのですか?此のままでは・・・・・」

 予想とは違って未だに放たれず、限界が無いように強まっていく力に、私が必死に障壁を張りながら作っている迎撃用の大火炎球の力は、明らかに数段見劣りしていた。この差は私の力が弱いのではなく、力を集める効率に依るものだった。今私は障壁を張るのに並行して大火炎球に力を集めているのだが、その効率は相手の七割が良い処で、時間と共に差が拡大するのは確実だった。

 「・・・・・・・あり得ませんわと言っても、現実の前には無駄ですわね。まさか天狐に匹敵する効率で、三つの魔法を同時に使うとは・・・・・・」

 「・・・・・溜まった。死ね」

 そのいかなる感情も窺えない声が聞えたと思った時には、大白雷球は障壁にぶつかっていた。障壁はパリン、パリン、パリンと呆気なく破壊され、数枚分あわせれば、一瞬は停滞させたと言える程度にしか役に立たなかった。

 「ええい、こうなれば仕方ありませんわ」

 私は役に立たない障壁に込める魔力を断ち、大火炎球だけに魔力を込めて大白雷球に放った。ゴーゴー、バチバチと音をたててぶつかった二つの魔法は、やはり私の大火炎球の方が押し負けていた。僅かな時間とはいえ最後に込めた魔力のおかげで、一瞬で吹き飛ばされる事態は防げたものの、ジリジリと迫ってくる事は止められそうになかった。

 「・・・纏った炎で呑みこむ事は・・・・出来そうに・・ありませんわね。クッ、炎鳥の王女ともあろう者が無様に逃げなければならないとは・・・・・・」

 屈辱に顔を歪めた私は、三十メーラまで迫って来たぶつかり合う魔法から逃げる為に、羽を動かして上空に向かって飛んだ。

 「逃がさない。死ね」

 私が後少しで魔法の射線上から逃れられる時、上空から大量の水の塊が降ってきた。その水に突っ込んでドボンと音をたてた私は、その水に粘性がある事に気づき、それが村に居なかった物体だと気づいた。

 「クッ、水に混ぜて使うのはキキラの戦い方で見ていたのに・・・・・」

 纏った真紅の炎で焼き尽くして脱出したものの、私は下に落ちてしまい、既に射線上からは逃れられなくなっていた。

 「終わり。死ね」

 此処まで追いこんでおきながら無感情に見つめる女の姿に、私は全て想定通りだと言われた様に感じて、心の中に溜まった屈辱が限界を迎えた。

 「良いでしょう。私はカリーナの命を背負っていますから、常に安全第一だと考えていました。しかし私にも炎鳥の王女としての誇りがあります。その無機質な顔に、表情を浮かべさせてみせますわ」

 宣言した私は、纏っていた真紅の炎を圧縮しながら強めていった。

 「グッ、初めてやりますが・・・此れは・・・思っていた以上に・・・負担がありますわね・・・・。ふふふ、まあ・・当然ですわね。私はこの前まで炎を纏う事も出来なかったのですから・・・・」

 「無駄。大人しく死ね」

 「お断りですわ。うああああああああああ」

 雄叫びをあげた私は、キラキラとした真紅の炎、真紅の聖炎を纏う事に成功していた。此れは王族だけが使える炎で、周囲にある火炎や熱や光などのエネルギーを取り込んで無限大に力を増すものだ。もっとも力を増しすぎて制御をしくじると、自爆する事になる危険と隣り合わせの力で、初めて使う私の内心は穏やかではなかった。本来は父様の監督の元に訓練する力なのだ。

 「貴女の負けですわ」

 私はそんな事をおくびにも出さずに、堂々と宣言して一直線に魔法に突っ込んで行った。そしてすぐに自身の放った火炎を取り込むと、その増大した力で削り取る様に、目の前の大白雷球を呑みこみながら突き破った。するとすぐに背後で爆発が起き、内包されていた力が解放されて私を呑みこもうとした。しかし今の私は其れすらも自身の力に変えて、無機質な目で私を見る女に向かって、全力飛翔を開始した。

 「無駄」

 女は何を考えているのか、避けようともせずに両腕を前に出して構えた。私はその両手に高魔力が込められていたのを思い出したけど、今の私に触れたら焼かれるから意味が無いと結論した。そして両翼を広げて風を切り、羽から聖炎をまき散らしながら、速度をあげて弾丸の様に突っ込んだ。

 「ナッ・・・なにが・・・・・・」

 「死ね」

 口から自然と出た声を聞きながら、私は焦りそうになる心を抑えて、冷静に状況を確かめた。どうやら今私は、女の両手にガシッと掴み取られている様だ。本来なら掴んだ手は一瞬で燃え尽きるはずなのだが、何故か燃えずに徐々に力が籠って、今私を絞め殺そうとしていた。

 「・・・・・・グッ、この手を覆う青い膜は水ですわね。どの様な物かは分かりませんが、真紅の聖炎を防げ・・・・いや違いますね。これは防いでなどいない。・・・まさか手が焼かれても瞬時に治癒しているのですか?」

 表情が全く変わらずにいたので気づくのが遅れてしまったけど、微かな焼ける臭いに気づいた私は事態を察する事が出来た。そして察するのと同時に、心の中に戦慄が走った。手を焼かれる痛みに表情を変えない姿は、根本的に生物としての枠組みから逸脱しているとしか思えなかったのだ。

 「炎鳥・・耐久性・・低い。・・・握り・・・つぶ・・せる」

 「冗談じゃありませんわ。そんな事はお断りですわ」

 万力の様に締め付けて来る力に抗おうとして体を動かしたのだが、ガッシリと掴まれてしまっている私の体はピクリとも動かなかった。

 「なら、此れでも食らいなさい」

 私は目の前の女の首を狙って風の刃を飛ばした。しかし女は首を振って長い髪を振り回すと、それでアッサリと弾き飛ばしてしまった。しかも其の時に風の刃が数本の髪を切り飛ばしたのが見えのだが、その髪の色がエメラルドから漆黒に代わるのを見て、私は嫌な予感を感じて必死に手から逃げ出そうともがいた。

 「クッ、離しなさい。焼き尽くしますわよ」

 私は自身の真紅の聖炎を一点に集中させて強めたのだが、ジュウジュウと音をたてて燃え始めたものの、残念ながら一気に焼き尽くしたりは出来なかった。そしてこの様子では拘束を解くまでに、如何見ても六半クーラはかかると思われた。

 「逃がさない。死ね」

 此のままでは逃げられると思ったらしく、一気に強まった力にとうとう私の体が悲鳴を上げた。右の羽の付け根の骨がピシリと音をたてて折れたのだ。

 「グッ、ウァァァァァーーーーー」

 私は悲鳴を上げながらも、魔法で応急手当をして凌ぐ事にした。時間さえ立てば拘束を解く事が出来るからだ。しかし無情にも私の思惑は外されてしまった。先程感じた嫌な予感は当たりだったのだ。

 「お前、強い、此処で、死ぬ」

 今まで散々死ねと言われてきたので、私は「死ぬ」と言う言葉に違和感を感じた。そして私が周囲を警戒していると、突然腕を降ろされてガクンと視界が下がった。すると今まで気づかなかった物がチラリと視界の端に入って、私は慌てて下を向いた。そこには何時の間にか出来ていた、ゴポゴポと泡が湧きだす漆黒の粘液に侵された大地があった。

 「ちょ、待ちなさい。まさか私を・・・・・」

 「髪落ちた。出来た。つける。死ぬ」

 無機質な簡潔な言葉に、私は嫌な汗を掻いた。何故なら大地に立つこの女の足もつかっていて、今腐臭を発しながら融けているからだ。

 「逃げられない。捕まえたまま。一緒」

 最後の一緒と言う言葉が嬉しそうに聞こえてしまったのは、私の邪推だろうか?私の耳には「仲良く一緒に死にましょう」と言われている様に感じてしまったのだ。

 「クッ、もう知りません。後の事はあとで考えますわ。兎に角、今は生きる事が最優先ですわ」

 私はつけられる寸前で尾羽から取り込んだ力の解放を始めた。ゴーッと聖炎と共に放出された力は推力となり、ロケットの様に私の体と掴んでいた女を空に打ち上げた。そして私を掴んでいた女は重力に引かれるまま宙ずりとなり、尾羽から溢れる力を顔面に受ける事になった。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 無言で耐えた女だったが、徐々に指の力が無くなってきて、ようやく私はその魔手から逃れる事が出来た。

 「グッ、解放された以上、速度を下げましょう。怪我をした今の私の羽にはきつ過ぎます」

 私が脂汗を流しながら速度を下げて下を見ると、放出された力が渦を巻いていた。如何やら怪我の所為でゆっくりと回転して上昇していたみたいだ。そして其の所為で運よく渦を巻いて力の拡散が縮小されたみたいで、私はそっと胸を撫で下ろしていた。実を言うと一気に解放した力は、制御を離れて無差別に拡散するのだ。しかもその範囲の中には香織達のいる場所も入っていると、私は解放前に予想出来ていた。縮小出来て本当に運が良かったのだ。

 「・・・・・・・・しかし・・・あの女は落ちながら何をしているのでしょう?」

 渦の中心に向かって落ちている女は、空中でじたばたあがく事も無く、ジッと手を伸ばしたままの体勢で私の方を見つめていた。しかも負傷した顔の中で目だけがランランと輝いている様に感じられて、私は今まで感じた事の無い戦慄を感じていた。

 「・・・クッ、障壁を・・・・・・・・」

 女がとうとう渦の中心に落ちて、其れを機に轟音と共に渦巻いた力が爆発した。暴風が吹き荒れる中で障壁を張った私は、女が落ちた場所を長い間眺めていた。私には如何してもあの女が、爆発でアッサリと死んでくれるとは思えなかったのだ。

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・何も起きないわね。私の取り越し苦労かしら?」

 そう言いながらも訳のわからない不安が拭えない私は、其のまま更に六半クーラ程見てから後ろ髪を引かれる思いで、香織の元に向かった。


 「・・・・・と言う感じでしたわ」

 「うーーん、色々突っ込み所が多そうな話ね、フレイ。特にかなり危ない所まで追い込まれた所と、あの爆発の範囲に私達が入っていたのには驚きだわ。あの時タマミズキは「私と違ってフレイは冷静だ」と言っていたのよ」

 「それは・・・ですね・・・・・」

 「ふふ、そんな顔しなくても私は気にして無いわよ。ただ意外だっただけで・・・・・」

 コジャスに乗ってから黙って話を聞いていた私は、戦闘の推移が予想と異なっていたのに首を傾げてしまった。怪我をしたとは言っても、てっきり私は強い力を持つフレイが、ある程度の余裕を持って安全に戦っていると思っていたのだ。

 「主よ、そう言うな。フレイは王女だし、年齢からするとまだ子供だ。一人での戦闘経験が足りないのは仕方がない。まして今回は敵も普通では無かった様だし、そもそも主もフレイも契約してから力を得たのだろう?」

 「あーーーー、そっか。フレイが私より何倍も長く生きていると言っても、実質は同じなのね。うわ、私は頼りになるお姉さんの様に思っていたから・・・・・うわ、ごめんね、フレイ。ほんとに無事で良かったわ」

 ルードルに指摘された私は、当たり前の事を勘違いしていた事に気づかされた。羞恥に顔を染めた私は、誤魔化す様に早口でルードルに話しかけた。

 「じゃあ、そう言う時は今度からルードルとタマミズキを頼りにさせて貰うわ」

 「ああ、任せてくれ。主に頼られるのは悪くない気分だ。帰ったら三千年を超えて生きている僕らの経験を教えよう。例えば今回も何故掴まれた時に大きくならなかったのか?という疑問もあるしな」

 「うわ、確かに・・・。うん、お願いね、ルードル。ほんとに私達には経験が足りないわ」

 私がルードルの言葉に納得していると、フレイは横で恥ずかしそうに顔を背けていた。そんなフレイに苦笑した私は、すぐにルードルの話で明らかになった一つの事を思って、自然とにやりと笑って口を動かしてしまっていた。

 「ふふふふふ、でも良い事を聞いたわ。僕らって事は、タマミズキも三千歳を超えていたのね。ふふふふふ、これならお兄ちゃんに手を出せる年齢じゃないわ」

 私の発言にタマミズキが怒って、雰囲気がピシリと凍り付いた様になるかと思ったのだが、ルードルがしまったと言った様に口を押えただけで、何も起こらなかった。何故ならタマミズキはフレイの話しを聞いてから、心ここに有らずと言った雰囲気で、ボーっとしているのだ。

 「此れはかなり重傷ね」

 「そうだな。普段なら先の話題を聞いて行動しないはずが無い」

 「タマミズキには話さない方が良かったでしょうか?」

 小声で深刻そうに尋ねるフレイに、私は首を振って答えた。

 「そんな事無いわよ、フレイ。私の様に子供じゃないんだから、隠さずにきちんと言った方が良いわ。そしてその後は、仲間の私達が支えればいいのよ」

 「うむ、そうだな。しかし今は主も問題を抱えているのだから、支えるのは僕らに任せてくれ」

 「ふふ、ありがとう、ルードル。でも神器は天狐が造ったらしいから、何とかするのならタマミズキが此のままじゃあ、どうにもならないわよ。私達はまだ天狐とは真面に話した事すらないのよ。だからまずは、タマミズキを皆でどうにかしましょう」

 そう言った私は、自身の話にも口を挟まないで黙り込んでいるタマミズキの様子をそっと窺った。すると其処には先程と違って、眉間に皺を寄せて苦悩し、苛立った様子のタマミズキがいた。

 「タマミズキ、大丈夫?」

 ボーっとしていない雰囲気に、如何かな?と思って話し掛けて見たのだが、やはりタマミズキは反応しなかった。私がその様子にやっぱ駄目かと思って落胆し、ため息を吐いていると、突然淡々とした声が響き渡った。

 「・・・・・・白い雷を使った以上、その女がクズハの複製でなくとも、天狐に関わっている事は確かです。白い雷は私の知る限り、天狐しか使えなかったものです」

 タマミズキの声は誰かに話していると言う雰囲気では無かったが、私はようやく聞けた声に安堵して、慎重に静かな声でゆっくりと話し掛けた。

 「そう・・・なら・・・・此れから・・如何するの?」

 「其れは・・・・・・」

 私の質問にタマミズキは顔を強張らせて俯くと、両手をグッと握りしめて深く考え込んだ。

 「・・・・・・クッ、今の私は・・・・女王タマシズクの姉のタマミズキ・・・・・・私的に動く事は・・・・」

 苦渋の籠った声を零したタマミズキは、震えながら何かを呑みこんで両手の力を抜いた。そして顔をあげた時にはだいぶ何時もの雰囲気に戻っていた。

 「・・・・・まずはカリーナの治療を優先します。だからロベールの元に戻ったら、すぐに今回判明した事を里に伝えます。それで聞いておきたいのですが、家に帰らないと言う選択はあり得ますか?」

 「・・・・・キキラの言った事を信用する訳では無いけど、一月と言った以上帰っても時間は問題無いわよね。それとも実は不味かったりするの?」

 「いえ、私が後で魔法をかけますし、多少感情の制御が不安定になるくらいだと思いますわ。まあカリーナが普段かぶっている猫が脱げるかも知れませんが、其れくらいは自分で注意してくださいね」

 「脱げないわよ。被ってないから。もう・・・でも問題無いなら、お母さんとお父さんを心配させたくないから戻るわよ」

 「ふふふ、分かりましたわ。でしたら帰って来た時、すぐに動ける様に準備をして置いて貰いますわ」

 「うん、お願いね、タマミズキ。頼りにさせて貰うわ」

 「ふふふ、カリーナに貸し一つですわ」

 「其れで良いわ。それと感心したわよ。お兄ちゃんに貸しを作ったとは思わないのね。前に向こうで私を助けてお兄ちゃんに恩を売ろうとした馬鹿女がいたのよ。ふふふ」

 「クスクス、大金を持っている事になっているロベールに媚びようとしたのですわね。でも安心なさい。私は今回の事では貸し借りは相殺されたと考えていますの」

 目を細めて様子を窺っていた私は、意表を突く言葉に目を瞬かせた。

 「如何言う事?」

 「ロベールの存在が私の暴走を止めたのですわ。ロベールが居なければ、クズハの事を聞いた私は昔の様に行動していたでしょう」

 「昔ね・・・・」

 「聞きたければ、里で話しますわ。兎に角、原因が神器なのにカリーナの危険を放って行動したら、ロベールとの関係が冷え込みます。そうなったらどうなるかと考えたら、スーッと頭が冷えましたわ。それにただでさえ大失態をしたばかりなのに、此れ以上の醜態は御免ですわ」

 「ふふふ、なんかそれで相殺と言うのは私的には納得いかないけど、まあタマミズキが其れで良いなら・・良いわ」

 首を捻る私を見て、タマミズキがクスクス笑っているのが印象的だった。私は何か気づけていない事があるのかと考えたが、思いつかなかったので話を変える事にした。絶対に口にする心算はないが、戻ってきたタマミズキの雰囲気を壊したくなかったのもあった。私には今のタマミズキの方が好きだった。

 「さて、もうそろそろ冷静になれたかしら?もしそうなら貴女の名前を教えて貰え無いかしら?じゃないと、ジェスター将軍の娘さんと呼ぶわよ」

 「其れは止めてください。あの人は・・・あの人は・・・・」

 「なら名乗ってよ。それと其の小太刀を返して頂戴。もう話したい事は話したでしょう。それで理解もしたはずよね?」

 「・・・・・・・分かりました、どうぞ。それと私の名はキャロリーです。ルルファから色々と聞きましたけど、私は此れから如何なるのですか?」

 「そうね、まずは砦に向かって、ジェスター将軍と会って貰うわ。そしてその後はリラクトンに向かって、お兄ちゃんに会って貰うわ。砦に帰ったら見せるけど、キャロリーの母親はかなり不味い状態なの。其れをお兄ちゃんなら何とか出来るはずなの」

 「・・・・・ルルファも知らない様でしたが、お母様はそんなに・・・・」

 「ええ、お兄ちゃんで如何にもならなかったら、諦めて頂戴。誰にもどうにも出来ないわ」

 「・・・・・・・・・・・・・」

 無言で目を潤ませ始めたキャロリーを見て、私はお母さんを失った時の気持ちを思い出しかけていた。そして一瞬心の中に黒い感情が湧きあがったけど、不味いと思った私は何とかその気持ちをを抑え込む事に成功していた。

 「ふう、危なかったわ。タマミズキ、砦に着いたらすぐに魔法をかけて頂戴。今の私は些細な事で感情が暴走しそうだわ」

 タマミズキが頷いたのを確認した私は、落ち着いてきたキャロリーに話し掛けた。

 「キャロリーが其処で聞いていた通り、今私達は問題だらけで余裕が無いわ。だからジェスター将軍に会っても、怒鳴ったりしないで大人しくしてね」

 「其れは・・・・・・」

 「母親を治す対価だと思いなさい。そう思えば我慢出来るでしょう?其れに全てとは言わないけど、誤解もあると思うわよ。だからまずは言いたい事を黙って、ジェスター将軍の言葉を聞きなさい。その上でなら言いたい事を言うのは止めないわ。話す機会は作ってあげるから」

 「・・・・・・・・我慢はします。でも話す必要はありません」

 プイッと顔を背ける姿に、私は苦笑してしまった。私の二歳下ぐらいに見えるのに、言動がミーミルちゃんより幼く感じたのだ。私はこれは長い間歩く事も出来ずに、部屋に居た所為だろうと思った。

 「ねえ、貴女は真実を知りたくはないの?村がこんな風になって、ルルファがこんな目に遭って、何とも思わないの?何か裏がある事は確実よ」

 「・・・・それは・・・でっ、でもあの人は・・・・・」

 「だから其れも確かめましょう。ねっ」

 私が近寄って自分がお兄ちゃんにされていた様に頭を優しく撫でると、キャロリーは俯いて涙をこぼし始めた。

 「よしよし、未来に不安はあるだろうけど、私に任せなさい。ルルファとも約束したからね」

 「・・・はい」

 私が何とか説得出来たと安堵していると、黙って様子を窺っていた皆の緊張も解けたのが伝わってきた。私は皆にそっと頷くと、此れでジェスター将軍が話してくれれば良いのだけどと思った。でないと私は、大きく増えた面倒事をお兄ちゃんに報告し難かった。

 「さて、話も纏まりましたね。・・・ではルードル、どこで私の年齢を知ったのか話して貰いましょうか?」

 その声にハッとして其方を見ると、私が思考に沈んだ僅かな間に、ルードルに近寄っていたタマミズキが、グワシッとその頭をわしづかんでいた。

 「まま、待て、タマミズキ。僕は力の強い魔狼として、天狐の昔の行動を報告として聞いただけだ。その時、度々聞く名前としてタマミズキの名があったのだ。だから其れから概算して三千年を超えて・・・ぐああああああ」

 焦ったルードルが必死に言い訳しようと口走った言葉の途中で、タマミズキはわしづかんだ手の力を強めて黙らせた。その様子を見てしまった私の目には、叫ぶルードルの頭蓋骨がギシギシと軋む音が見えた様な気がし、更にタマミズキの表面上は冷静そうな微笑みが、死神の微笑に見えてしまった。

 「全くもう・・・女の年齢が分かる様な事を何度も告げるのは感心しませんわ。躾けがなっていない駄犬は教育しないといけませんわね」

 「ヒィィィィィィ、謝る、謝るから許してくれ。ここ千年くらいは、真面に女と接していなかったから、口が滑っただけなんだ。主、見ていないで助けてくれ。あのタマミズキに躾けられたら、僕は・・・僕は・・・ぐあああああああ」

 「今何を言おうとしましたの?そんな事だから滑らない様に教育すると言っているのですわ。ロベールが居る時に滑ったら目も当てられませんもの。其れとカリーナ、もしロベールに告げたら、私の口も滑る事になりますわよ。家に帰った時に私が誰と一緒に居たのか考えれば・・・うふふ、分かりますわね」

 その冷たい冷たい目は、明確に私に告げていた。既に私の知られたくない過去は握っていると・・・・。

 「・・・・・・・女の友情は大事よね」

 「分かってくれて嬉しいですわ。ではルードルを暫くお借りしますわね」

 「・・・・・・・どうぞどうぞ。・・・・・ごめんルードル諦めて」

 「あるじーーーーーーーーー」

 私はタマミズキの蕩ける様な笑顔と、ルードルの悲痛な声から顔を背けて、フレイとキャロリーと顔を見合わせて首を竦めた。其の時にはもう、背後でバリバリと雷の様な音が響いていたが、私達の耳には何も聞えなかったのだ。それに背中で騒がれたコジャスも煩そうに顔を顰めていたが、後ろから漂ってくるゾッとする雰囲気に何も言えない様だった。そう、段々聞こえる声の内容がおかしくなっても、ルードルは色々あって機嫌が悪いタマミズキの憂さ晴らしの生贄ではないはずだ・・・・・・・きっと・・・。


 一方その頃香織達が去った村では、無機質な朱色の目をした無表情な少女が何かを探していた。

 「・・・・・発見・・・回収する」

 「七号か?無駄だ。知識だけ回収しろ」

 「・・・・受諾する」

 少女は顔色を変えず、無雑作に頭部以外が焼け爛れた女の首を切り離すと、其の頭を掴んで額を合わせた。すると女の額がボンヤリと光って、少女の額に光が入っていった。

 「知識・・・回収・・・・・グッがががががが・・・・・」

 少女は掴んでいたものを放り出すと、苦しそうに頭を抱えた。そして今まで無表情だった少女は苦痛の声を漏らしながらも、段々とその目に意思を感じさせる光が生まれ、其の口から意思の籠った声が漏れた。

 「がああ・・・炎鳥の王女・・・グウ・・・欲しい・・・・掴む・・・・逃がさない」

 一言一言を口にする度に表情が生まれ、最後の言葉からは生々しい執着心が感じられた。もはやそこに居るのは先程の無機質、無表情の少女では無く、強い意思を持った生まれ変わった少女だった。

 「私の役目は一号を回収して帰還する事。でも私の望みは炎鳥の王女を手に入れる事。なら帰還は必要ない。行くべきは向こう」

 少女は魔法で女を跡形も無く消滅させると、自らの求めるものを追って移動を開始した。

 次話の投稿は30日の夜以降の予定です。次話もよろしくお願いします。

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