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契約者達と貴族との会議二

 周囲が騒然とする中で、金の炎に包まれて絶叫を上げる者達を冷ややかに見つめていた俺は、ベルス達が入り口を封鎖してから中に入って来たのに気づいた。俺は武装した集団の登場に恐慌しそうになった周囲の人達の事をリグレス公爵達に任せると、椅子に座らずに素早くギョスタン伯爵の元に向かった。そして万が一にも逃がさない様にガシッと踏みつけてから、水の魔法で炎に包まれた全員の炎を消した。

 「ベルス、死にそうな奴はいるか?」

 「いや、何人か火傷の場所が大変な奴はいるが、パッと見た限りでは俺達の治療でも死にはしない程度だ。ふん、盛大に喚いていたが、大変な者以外の火傷なら、魔獣と戦った事がある奴なら一度くらいは経験している程度だぜ。実際に俺も経験しているしな」

 「ふーん、そうなのか?なら火力の調整は上手く行ったと思って良いんだな?」

 「ああ、上手く行った。それと今全ての椅子を調べているが、既に強化魔石の魔力が皆減っている事は確認した。だから全員発動している事は確実で、此処に残った者はもう大丈夫だ」

 「そうか、分かった。なら予定通りに此奴らを牢に放り込んで尋問してくれ。そして所領にいる家族や関係者の拘束を迅速に行ってくれ」

 「家族の中には知らない奴らもいるだろ?そいつらは・・・・」

 「・・・其れでも一度全員拘束してくれ。ただ確かめて問題無かった者達は丁重に扱って欲しい」

 「其の時に事情説明はして良いんだな?」

 「ああ、其れは構わないが、捜査が終わるまでは此処の客間に全員滞在して貰ってくれ。費用は此方が出す」

 「分かった。じゃあ・・・・・・・」

 ベルスが言いかけた時、治療されて回復したギョスタン伯爵が、俺達を睨み付けて怒鳴り声をあげた。

 「貴様、我は皇族の血を引く貴族だぞ。薄汚い足をどけろ。大体こんな事をしてただで済むと思っているのか?貴様は王にさえなれば、契約者だし誰も抵抗しないと思っているのかも知れないが、理不尽な暴力に従う我らでは無いぞ。かつての契約者の様に必ず排斥してやる」

 暗い目をして報復を誓うギョスタン伯爵に対して俺が答える前に、軽やかな笑い声と共にセルフィーヌさんが口を挟んだ。

 「ふふふ、その機会は永遠に訪れませんわ。貴男は既に裏切り者か犯罪者ですもの」

 「ナッ、無礼な。ガルトラント卿の娘であろうと、事実無根の誹謗は受け入れませんぞ。言葉には気を付けないと、お父上を困らせる事になりますぞ」

 「あらあら、それは如何でしょう。ねえ、お父様、お困りになりますか?」

 「そんな訳無かろう。儂は許されるのなら今すぐこの裏切り者を切り刻んで、なぶり殺しにしたいくらいなのだぞ」

 「ナッ・・・・・・・」

 ギョスタン伯爵の背後から近づいて来ていたガルトラント卿が、数歩の距離を開けて全身から殺気を発して仁王立ちしていた。ゴミの様にギョスタン伯爵を見つめる冷たい視線といい、今のガルトラント卿には俺ですら近づきたいとは思わなかった。其処に居るのはまさに修羅と呼ぶべき者だった。

 「こやつだけは牢に入れる前に、皆が居るこの場で尋問する事になりました。ロベール様、儂が尋問しても良いですな?」

 「・・・・・・・どうぞ、お好きな様にしてください」

 口調は丁寧だが獰猛な笑みを浮かべるガルトラント卿の姿に、その理由を知っている俺は二つ返事で頷いて場所を譲るしかなかった。もし止めたら俺も被害に遭いそうだと思ったのは内緒だ。

 「では許しも得た事だし、貴様に質問する。嘘を吐かずに正直に答えろ。貴様は此度の帝都の騒動の時、取り巻き共と逃げたな?」

 「其れが如何したのだ。ガルトラント卿とて逃げたであろう」

 「ああ、途中まではリグレスと共に行動し、儂も命からがら逃げだした。だがな、其の為に配下の騎士や護衛が数多く亡くなっているし、儂を支持していた貴族達にも多くの犠牲が出ているのだ。あの事件は犠牲無しにやり過ごせるものでは無かった。なのに何故お前の取り巻きは全員無事なのだ?今日の会議で三割もの支持者がいたのは其の所為だろう?」

 「・・・理由などない。だがあえて言えば、狙われたのが陛下や五大貴族だったせいだろう」

 「・・・・・・では、儂がガルーンに帰り着く前に領地に返って兵を招集していながら、商連合国との戦いに参戦しなかったのは何故だ」

 「我が領地はガルトラントの南西にある。サザトラントの動向が怪しかったので動けなかったのだ」

 「・・・・・・貴様は商連合国の八商家の一つ、キルレーン家と取引をしていたな」

 「其れがなんだと言うのだ」

 「取引の内容は衣類や宝飾品や薬、そして領地でとれる物の売却だと聞いているが本当か?」

 「だから其れがなんだと言うのだ」

 苛立った様子のギョスタン伯爵を無視したガルトラント卿は、後ろで見えない様に強く拳を握りしめていた。それが位置的に丸見えだった俺には、ガルトラント卿が淡々と話す姿を見て、噴火前の火山に見えてしまった。

 「取引量が領地の規模と合わないのは如何言う訳なんだろうな?今まで知らなかったが、利益も莫大だと聞いたぞ」

 「・・・・・・・・何かの間違いでは?何所から得た情報か知りませんが、その情報の出処は確かなんでしょうね」

 「ククク、出処を知りたいか?ガルーンにいた犯罪者の一人だ」

 「犯罪者?五大貴族の一人とも在ろう者が、そんな者の言う事を真に受けるのはいかがなものですかね」

 「そうかな?ガルーンの一斉逮捕で捕まって犯罪者になる前は、貴様の家にも出入りする商人だったのだがな。そいつはバルクラントの商人とも繋がっていたと言えば貴様には誰か分かるだろう?」

 薄らと笑ったガルトラント卿の言葉に、ギョスタン伯爵は意表を突かれた様子で、咄嗟に顔色を隠す事が出来ずに大きく変えてしまっていた。此れでは周りで事の成り行きを見ている人達にも、何かあると言っているのも同然だった。

 「まあ良い。次の話だ。その元商人から、貴様はサザトラント卿の次男とも深く繋がっていると聞いたのだが本当かな?」

 この発言にサザトラントの生き残りの貴族達が息を呑んでいた。今の悲惨なサザトラントを生み出すきっかけになった次男に対する憎悪は高まっていて、暗い視線を向けられたギョスタン伯爵は、喉の奥で声にならない悲鳴を上げると、慌てて声を張り上げた。

 「ヒッ、ままま、待て。我は同じ貴族として付き合いがあっただけだ。ガルトラント卿も同じであろう」

 「儂と貴様が同じだと?いい加減にしろよ。儂はもう貴様のやっていた事の裏をとって、既に全て知っているのだぞ。貴様ももう先程からの質問の意図は理解しているだろう。さあ大人しく白状しろ」

 顔を真っ赤にしたガルトラント卿に胸倉を掴まれて宙ずりにされたギョスタン伯爵は、じたばたと手足を振り回してあがいていた。

 「ヒッ、知らん。我は何も知らない」

 「・・・・・・・此処まで言ってもまだ見苦しくあがくのか?最後ぐらいは皇族の血を引いている貴族として潔くしないか、此の痴れ者が・・・・・」

 ガルトラント卿の怒りの拳がついにギョスタン伯爵の顔にめり込んだ。バキッと音を響かせながら血をまき散らして吹っ飛んでいったギョスタン伯爵は、自分が座っていた椅子を巻き込んで床に叩きつけられていた。

 「ヒッ、あああ・・・・・」

 倒れた椅子の手すりにつかまって、震える体を支えて立ちあがったギョスタン伯爵は、殴られた痛みと恐怖からか悲鳴を上げて逃走しようとした。しかし行く手をベルスに素早く遮られ、もたつく間に後ろから追い付いてきたガルトラント卿に襟首を掴まれて引きずり倒された。

 「ヒィ、離せ、離さんか」

 「何所までも見苦しい男だな。此の状況で逃げられる訳がないだろう」

 「ヒィ、離せ、離せ、離せ」

 もうギョスタン伯爵はガルトラント卿の言う言葉も耳に入っていない様子で、ただ逃れようと暴れて叫ぶだけになっていた。そのギョスタン伯爵のあり様に顔を顰めたガルトラント卿の拳が唸りをあげて振るわれた。ドガ、バギッと何度も何度も音が響き、逃亡の意思を失った痣だらけのグッタリしたギョスタン伯爵が、投げ捨てられる様にセルフィーヌさんの起こした椅子に無理やり着席させられた。

 「もう貴様に問う事はしない。ただ黙って其処で自分のした事を聞いて、周りの反応から己が罪を自覚するが良い」

 憤然とした様子で吐き捨てる様に告げたガルトラント卿は、ベルスに指示してギョスタン伯爵の口を塞がせて喋れなくすると、周囲で様子を窺っている人達を一瞥してから、大会議室中に響く様な大きな声で語り始めた。

 「べサイルが契約石を手に入れたから赤帝国は滅びる事になった。その契約石は商連合国内で作られた物で、五大神官やギルドも関わりが有る。だが此処にもう一人関わった者がいる」

 周囲の視線が厳しくなったのを見たギョスタン伯爵は、否定しようとしたのだろうが声が出ず、かわりにブンブンと首を振っていた。

 「その様な態度をよく取れるな。貴様がキルレーン家との取引で、領地の規模に合わない莫大な利益を出していたのは、商連合国から持ち込まれた物を各地に分からない様に偽装して送っていた見返りがあったからだ。その中には契約石は勿論の事、サザトラントで使われた武器や、バルクラント卿の配下のニルメスを裏切らせる為の薬などもあった事は分かっている。そして貴様等が帝都の騒動で無傷で済んだのも、ニルメスが薬の為に殺せなかったからだと言う事も分かっている。それに加えてニルメスや他の者達から得た情報を、商連合国のキルレーン家に売っていた事も分かっているし、偽装した商連合国の部隊をサザトラントにいれ、支援していた事も分かっているぞ」

 ドヨドヨとどよめきが起きる中、感情的になって暴走する人がいないか見ていた俺は、バルクラント卿が手を力一杯握り締めている事に気付いた。ニルメスの守りたかった人は俺の力もあって徐々に良くなっているが、そこに笑顔は無かった。ニルメスは裏切った上にサザトラント卿を殺しているので、処刑されるのが確実視されているのだ。今も気付けなかった事を後悔しているバルクラント卿の気持ちは分かるのだが、状況が悪すぎるので俺にもどうにかする方法は思い浮かんでいなかった。

 「貴様が孤児達を集めてキルレーン家に引き渡している事も調べはついているし、その事でサザトラントの次男と親しかったのも調査済みだ。貴様等は其れで金や武器を得ていたのだろう」

 ベルスの全身から殺気が漂い始め、右手が剣に触れそうになっていたが、セルフィーヌさんが素早くその手を取って、何かを耳元で囁いた。其の途端、漂い始めた殺気が嘘の様に収まり、ベルスは苦笑いと共にセルフィーヌさんに悪かったと告げていた。その二人の様子を見たガルトラント卿は、苦い物を呑まされた様な表情をしながら、やり場の無い怒りを喋る声に上乗せしていた。

 「もし儂がガルーンに帰れなかったら、貴様が集めていた兵は如何行動していたのだろうな?儂の推測ではガルーンに向かって進軍し、町を防衛すると言って占領する心算だったと思っている。そして考えの足りない貴様如きが行動すれば当時の混乱は増し、確実にガルトラントもサザトラントの様になっていたのではと思える・・・・いや、商連合国は其れが狙いだったのだろうし、その事も考えればもっと悲惨な事になっていただろうな。いや、それも正確ではないな。今はもう貴様が売ったと思われる情報の所為で民への被害が何割か増したと試算されてもいたな」

 其処まで言って言葉を区切ったガルトラント卿からどす黒い殺気が漂い始め、その鋭い視線に睨まれたギョスタン伯爵はまさに蛇に睨まれた蛙状態だった。

 「ククク、さて儂が何故貴様が動くと推測したのか知りたいか?知りたいだろう、ギョスタン伯爵。まあ知りたくないと言っても聞いて貰うがな」

 声と共に高まる怒気と殺気に圧倒され、息を殺している周囲の人の雰囲気とで、この場が異様な緊張に包まれていた。俺はその様子を見てようやくずっと言いたかった事を言うのだと思った。会議の時、いやこの事実を知った時からガルトラント卿は、ギョスタン伯爵を殺すと影で何度も口走っていた様なのだ。俺が前に偶然見てしまった光景を思い出して鳥肌を立てていると、ガルトラント卿は傍に居た兵士の剣を奪い取って無表情で抜き、ギョスタン伯爵に切っ先を突き付けてから、一言一言に思いを込めて告げた。

 「貴様は、儂の娘を捕らえて、キルレーン家の次男に、売り渡す心算だったな。そしてその見返りに支援を貰って、皇帝になる心算だったのだろう。ガルーンから東が商連合国に占領された後、立ちあがって救国の英雄になって支持を得る筋書きだ。しかも儂が知った処によると、皇帝になったら水面下でキルレーン家を通じて、商連合国に大金を渡すとも約束したそうだな」

 周囲の人はもはや言葉も無い様で、真っ蒼な顔をしてざわめきすら起きなくなった。

 「ふん、痴れ者は何所まで言っても痴れ者だな。そんな筋書きを奴らが認めると思っていたのか?帝都が吹き飛んで用無しになった五大神官の末路は、なんと契約石に入れられて使われて死んだそうだ。知っていたか?」

 大きく目を見開いて驚き、真っ青になって震える姿から、まだ知らなかった事が容易に悟れた。もしかすると先程逃げようとしたギョスタン伯爵は、五大神官が今も健在だと思い、逃げてから其方を頼る心算だったのかも知れなかった。俺の目には五大神官の末路を知ったギョスタン伯爵が、ようやく自身の立場のヤバさに気づいて本気の焦りを見せている様に見えた。もっとも既に手遅れだし、なにより目の前に居る激情で剣を震わせるガルトラント卿から逃れられるとは、俺には思えなかったが・・・・・。

 「さて周囲で聞いていた皆も分かったと思う。儂は此れから一つの質問をしてから尋問を終わらせる心算だ。皆もその結果を見て判断し、今後は覚悟を決めてその椅子に座って欲しい。ドラグトンにはこやつの様な者はいらないのだ」

 ガルトラント卿は審判を告げる様に厳かな声を出した。

 「今儂が言った事は何か間違っているか?」

 「まま、間違いどころでは無い。全て事実無根のでたらめだ。我は・・・・・」

 話せる様にされた瞬間に口角泡を飛ばす様に声を出し、食って掛かろうとしたギョスタン伯爵だったが、言葉の途中で椅子からまた金の炎が噴きだした。またしても炎に包まれ、絶叫を上げて転がり回るギョスタン伯爵だったが、その身に注がれる周囲の視線は鋭く、冷たい侮蔑の宿った物だった。

 「ふん、儂の目の前で見苦しく喚きおって、少し大人しくしろ」

 ガルトラント卿は俺が止める間もなく、持っていた剣を転がるギョスタン伯爵に突き出した。すぐにガキンと金属同士がぶつかる音が響いて、突き出された剣が弾かれてギョスタン伯爵のすぐ横に突き刺さった。

 「何故邪魔をするベルス。お前も先程剣に手をかけようとしたではないか・・・」

 「其れを言われると痛いが、見てたのなら俺がセルフィーヌに説得されたのも分かっているだろう」

 「ナッ、お前が娘を呼び捨てにするな。それに此奴はそのセルフィーヌを売り渡そうとしたのだぞ。お前は娘の事など如何でも良いのだろうが、儂は違う。一刺しぐらいはせんと儂の気が済まんわ。死ぬ訳では無いのだから其処を退け」

 「そりゃあ、死なないかも知れないが、駄目に決まっているだろ。今この場で必要以上の血を流すのは、周囲で様子を窺っている貴族達にいらぬ恐怖を与える事になる。後、人の気持ちを勝手に決めつけるな」

 「ふん、もっともらしい事を言いおって、どうせ娘からの入れ知恵であろう。それに勝手に決めつけられたくないなら態度をハッキリせんか。どっちつかずの態度をとりよって・・・・。娘を拒絶するなら早くしろ。ただでさえ気が強くて結婚が遅れているのだ。今はまだ見た目で男が依ってきているが、此のまま時が経てばそれも無くなり、売れ残りになる事が確定するかも知れないのだぞ。そうなったらガルトラント家は破滅だ。儂はそうならない様に昔から噂などに気を使っていたのに、ここ最近のお前とのやり取りで全て台無しになったわ。どうしてくれる」

 「クッ、それは・・・・・・・・・・・・」

 得物を持ったガルトラント卿とベルスはお互いに睨み合って、一触即発の雰囲気になった。その目は既に周囲を見ておらず、セルフィーヌさんが「気が強い?見た目?売れ残り?それに何で反論してくださらないの?ベルス様」と呟き、二人をジトッとした視線で見つめている事にも気づいていなかった。

 「さて、此のままにして置く訳にもいかないよな」

 そっと呟いた俺は、今も炎に包まれているギョスタン伯爵にそっと近寄って炎を消してやった。そしてまだ睨み合っているベルスに向かって毅然と命令した。

 「何をやっているベルス。俺が炎を消したから予定通りにさっさと連行して尋問してくれ。手加減せずにやって情報を徹底的に吐かせろよ。其れに依って此れからの商連合国との対処法を決めるんだからな。ああ、それとセルフィーヌさんも色々思う所はあるだろうけど、今はベルスを助けて欲しい。五大貴族の娘が傍に居た方が、此れからの仕事がしやすいだろうし・・・」

 「ふふ、言われるまでもありませんわ。もとよりその心算です。ではお父様、王命ですし、この場は此れで失礼しますわ。でも後でお母様も交えてゆっくり話しましょうね。ふふふふふ。さあ行きましょう、ベルス様。向かった領地では抵抗する者は斬って良いのですよね。私は今無性に暴れたい気分ですわ。ふふふふふ」

 「いやいや、良い訳無いだろ。面倒でも全員捕縛するんだ」

 ベルスが黒い笑みを浮かべるセルフィーヌを宥めながら、部下と共にギョスタン伯爵を連行して大会議室から出て行った。すると途端に室内は静まり返り、矢張りと言うべきか、室内は重苦しい雰囲気に包まれた。しかしその事を予想していた俺は、予定通りに大量のケーキと紅茶を出してから、メイベル様とリグレス公爵に目配せをして告げた。

 「一度休憩します。俺は一クーラ後に戻ってきますので、其の心算でお願いします」

 「ええ、任せてください」

 「うむ、分かった。後は任せてくれ」

 二人の返事を聞いた俺はシグルトを伴って、突然の言葉にざわつく中を横切って出て行った。出て行く時に一瞥したガルトラント卿の蒼白なやってしまったと言う顔が深く印象に残った。


 「皆さん、過激な事や知った事実に冷静では無いでしょうが、一度これを食べながら話して落ち着きましょう」

 メイベルが温かみのある笑顔でケーキと紅茶を配り始めると、ハッとしたり、ギョッとしたり、ふらりと倒れそうになる者達まで現れ、不味いと思った一部の女性達が自分がやりますと言って手伝いに回っていた。当たり前だが皇妹に給仕をさせるなど、下級貴族にしてみれば卒倒ものだし、上級貴族にしてもジッと座って待つわけにはいかなかったのだろう。しかし私としては妻はこういう事が好きなので、其のまま任せれば良いと何時も思うのだが・・・。其処まで考えた私は、唐突に此れからは立場も変わるし、少しぐらいなら何とか出来るかも知れないと思いついた。そして自然と浮かびそうになる笑みを隠しながら待っていると、メイベルが最後に自分と私の分を持ってきて横に座った。

 「ふむ、全員に配り終えたな。なら一度口を付けて欲しい。此れはロベールがドラグトンの平民の子供が食べられる様にすると言っていた物だ。甘くておいしいのでミーミルの好物になっている」

 「ふふ、そうね。二人は機会がある度に、ミーミルに色々と食べさせていますものね」

 私達の穏やかな声音に安心したのか、皆がケーキを食べ始めた。やはりと言うべきか、一番好評なのは女性達で、驚きながら周りと楽しそうに話す姿に場の雰囲気が良くなっていった。

 「リグレス公爵、私達はロベール様が戻られる前に去ろうと思う」

 「・・・・・レゲレ伯爵、マキーユ伯爵、そんなにドラグトンもロベールも認められませんか?」

 「そうでは無い。あの時キッパリと言われて衝撃は受けたが、どこかで納得もしているのだ。だが私達は年で頭も固い。この様な食べ物が出てくる国では役に立たないだろう」

 「うむ、残念だが私達はここ等が引き時だろう。まだマシな息子に当主の座を譲って隠居するのが、この先の為になると思ったのだ」

 「・・・・ロベールに隔意がある訳では無いのですね」

 「ああ、それは無い」

 「なら、去るのは待って頂きたい。ロベルト、ロベールなら二人を如何すると思う」

 「そんなの決まっていますよ。優秀で頭が固いのなら此れからに必要な人材です。当主の座を譲って身軽になって貰った上で、役職を与えて登用します」

 「だそうですよ、お二人とも」

 余程ロベルトの言葉が以外だったのか、私が声を掛けると二人とも焦りの表情を浮かべた。

 「如何言う事だ。私達の様な者は邪魔だろう?」

 「そうです。隔意はありませんが、全てを肯定出来るとは思えませんよ」

 「はは、それが必要なんです。此処にいる者達はロベールに強く言えないか、言う気が無い者ばかりですから。そうでしょう、リグレス公爵」

 「まあ確かに、ロベルトの言う通りだな。私は新しい物や面白い物があったら飛びつく方だし、この中で言えるのはミルベルト卿くらいか?」

 「リグレス様、残念ながら儂もロベルトやアリステアの事がありますから、余程不味い事でないと反対しないでしょう」

 「はは、なら本当に誰もいない事になりそうだな。となると、本当にお二人の存在は重要になりそうだ」

 「そうですな。何でも変えるのが良いとは限りませんし、無駄だとしても残して置かなければならない物もあります。儂と違い、ロベールは若いからまだ其処ら辺の調整は難しいでしょう。せめてロベルトぐらいの年なら良かったのですが・・・」

 「あのな親父さん。人を年寄りにしないでくれ。俺はまだ若い心算なんだよ」

 「そうか、なら若い以上アリステアが期待している事もそつなくこなしてくれ。儂も期待しているぞ」

 ミルベルト卿の言葉の意味が分かる者達は含み笑いをして、分からない者は首を捻っていた。そして私も一瞬で引きつるロベルトの顔に笑いを堪えるのが大変だった。

 「さて、話がそれてしまったな。それに皆ももう食べ終わっただろうか?其れなら少し耳を傾けて欲しい。此れから再開される会議こそが本当の会議の始まりなのだ。此処にいる皆の中にはもう裏切り者は存在しない。故に今から秘匿していた真の情報を渡そう。今皆が座っている椅子の背にはこの様に収納があり、中に書類が入っている。再開される前に読んで頭に入れて欲しい」

 私が自ら実践して書類を取り出すと、皆も同じようにして書類を取り出して読み始めた。しかしすぐに驚愕の声や真偽を疑う声が上がり始めた。

 「なんだ此れは?事前に聞いていた情報と違い過ぎるぞ。龍が居て協力しているのは聞いたが、自治領とは言え龍の領域が国に組み込まれる何て聞いていない」

 「おい、其れもだが、此処にギルドを潰すと書いてあるぞ」

 「いや、そんな事より、貴族になるのや継承するのに試験を受けて資格を取ると書いてある。私は親が死んで代理のままなんだぞ・・・どうなるんだ?」

 「うう、真実婚ってなによ。燃えちゃったらどうなるの?」

 「・・・・・・・炎鳥や魔狼や天狐と交渉予定とは如何言う事だ?」

 「法や税の取り方も全く違うし、国内すべての街道を整備するなんていくらかかると思っているんだ?」

 「此れはなんの冗談だ?水道を完備してトイレと風呂を作って衛生状況を改善するだと?」

 「国営の学校と治療施設を村も含めて全てにつくると書いてあるわ」

 「・・・・・・・・ジャガーモの成長がこんなに早いはずが・・・・・」

 「そうよ、こんな魔道具が出来たら家の領地は破滅よ」

 悲喜こもごもの声が響く中で、書類を持ってプルプルと震えるレゲレ伯爵が動揺をあらわに話しかけてきた。

 「りりり、リグレス公爵、この計画を本当に全てやる心算なのか?どれだけの資金と時間がかかると思っている」

 「さあ、でもロベールなら確実にやれるでしょう。それに国が安定してロベールの力を其方に向けたら意外と早く終わるかも知れませんよ。ははははは」

 笑う私にレゲレ伯爵の厳しい視線が突き刺さった。

 「笑うな、リグレス。此処まで大規模に変更するのなら、早すぎたら早すぎたで大問題だ。慎重に慎重を期さないと大混乱は必定だぞ」

 「大丈夫ですよ。其処にやらないといけない理由と、きちんとした工程も書いてあるでしょう。細かい問題は出ると思いますが、私達が頑張れば許容範囲に収まると思います」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・」

 黙り込むレゲレ伯爵を前に、私は立ちあがって大声で話し掛けた。

 「皆良く聞いて欲しい。多くの事が変更されるので戸惑うのは当然だ。だが現時点で既に想像出来る問題点への対処方は其処にきちんと書いてある。もし足りないと言うのなら先程ロベールが言った様に、この後の会議で発言してほしい。本当に誰にでも発言する事が出来る会議だし、誰が言った発言でも軽んじられる事は無く、真剣に議論される事は私が保障する」

 「・・・・・・・・リグレス公爵、私は何も知らず炎に包まれなかったものの、先程までギョスタン伯爵の側に居た者です。私の発言でも聞いて貰えるのでしょうか?私の領地は村一つで援助なくしては維持できません」

 「其れは私も知りたい。私はマキーユ伯爵の支持に回りました。王の不興を買っているのではないでしょうか?先程のギョスタン伯爵に対する対処の仕方といい、本音を言うと私は今この椅子に座っているのも恐ろしく感じています」

 「ふむ、二人と同じ心配をしている者は他にも居るか?」

 私が皆に声を掛けると、四割以上の声が上がった。その顔は蒼白く、微かに震えている者も居て、皆がこの先に不安を感じているのが痛い程感じられた。そして私は不安が生まれる原因は、皆がロベールの事を知らぬが故と考え、まずは自身が体験した事と感じた事をきちんと語って聞かせようと思った。

 「・・・・・・・・・・・・・此処までが今までロベール達と共にいて体験し、其の時私が感じた事だ。私はロベール達に説明のつかないおかしな部分がある事を否定しない。だけど私は其れでも共に行動して信じられると思ったし、皆に理不尽な理由で力を振るったりしない事は保証出来る。此れから皆で細部を詰めて行く事になるが、新しい法も無茶な物では無いだろう?だから皆には今不安を抱えていても、まずは落ち着いて話してみて欲しいのだ」

 私の言葉を聞いた皆がざわついていると、ロベルトが立ちあがって声を出した。

 「俺の事は酷い噂が流れているし、知らない奴の方がいないだろ。そんな俺でも意見は言えるんだから、怯える必要は無いんだぞ。まあ、俺でも出来る事が出来ないっていうなら仕方ないがな」

 挑発の様な言葉に顔を引きつらせる者が続出する中で、ロベルトは不敵な笑みを浮かべていた。そして肩を竦めると、ハッとさせる鋭い声を発した。

 「お前ら良く聞け、椅子に座るのが怖いと思っている奴らに言って置くが、あの椅子も俺達が座っている物と同じ仕様だからな」

 ロベルトが指さす椅子はロベールが座っていた物だ。初めから知っていた私達は兎も角、他の者達はポカンとして意味が分からないと言う様な顔をしていた。そして暫く経って徐々に理解したのか、皆は驚愕の表情に変わっていった。まさか王の座る椅子まで同じだとは思っても居なかったのだろう。自然と真偽を問う大勢の声が上がっていた。

 「そんな馬鹿な」

 「本当なのか?」

 「いや、いくら何でもあり得ない」

 「ああ、そうだ。自分の椅子にそんな仕掛けを作っても意味が無いだろ」

 「あるぞ。皆が自分の事を知らないから言葉に重みも信用も無いと考えたロベールの策だ。危急の時の今、のんびり信頼を築く時間のないロベールは、お前達が自分の言葉が嘘ではないと知りたかったら、其れを持って皆に示すと言っていた。ロベールは其の覚悟でこの場に臨み、あの椅子に座っていた。お前達は同じだけの覚悟をもって座っているか?いるなら恐れる必要はないだろ」

 ロベルトの言葉に皆は、今は空席の椅子をゴクリと喉を鳴らして見つめ、自身の座っている椅子の手すりを強く握っていた。

 「ククク、ははははは、面白い王だな、リグレス。まさか儂らに自分を試せと言うとは思わなかったのじゃ。儂の常識では臣下が王の言葉に異論を挟んだり出来ないし、まして王を試すなど許される事ではないのじゃ。王になったら命令すれば良いと教えなかったのか?」

 「ヴィシール卿、私は教えたぞ。だが嫌だの一言で却下された。ロベールの考えでは緊急時以外は時間を区切るものの、皆で話し合って決めたいそうだ。それに契約者の巨大な力でも、其れだけで国家の運営が全て上手く行くはずがないそうだ。だから王として一人でも多くの賛同を得て、その力を纏めて対処したいと言っていた」

 あまりにも常識はずれの言葉に、皆は唖然として言葉も無い様だった。暫く無言の時が過ぎ、ヴィシール卿が苦笑と共に強い意思の籠った声を出した。

 「リグレス、儂はお主に協力しようじゃないか。そして王を理解する為に、勧めに従い話してみる事にするのじゃ。話さなければどんな人物か判断も出来んからな。皆もそう思わんか?」

 「・・・・・・そうかも知れないな」

 「うん、そうね。意味も無く不安になるよりも、まずは話してみるのが先決ね」

 「そうだな。どんな人物か分かってから考えた方が良いよな」

 ヴィシール卿の呼びかけに、周囲の人々も頷いて肯定し始めた。私が上手く皆の意見を誘導してくれたと思っていると、ヴィシール卿が好々爺の笑みを浮かべてきた。レゲレ伯爵達が事前の根回しを反故にする行動に出たので、動かないヴィシール卿に不安を感じていたのだが、如何やら杞憂だった様で、今まで機会を窺っていてくれた様だ。

 「ロベルト、もう此の様子なら皆も大丈夫だろう。ロベールを呼んで来てくれないか?」

 「分かりました。すぐに呼んできます」

 ロベルトが返事をして出て行くのを見届けた私は、ジッと黙っているバルクラント卿とメルクラント卿を見て、再会される会議で話される事になる二人の今後に思いを馳せていた。

 次話の投稿は23日の夜以降になると思います。今の予定を見ると今週も来週も真面に執筆出来そうなのが土日ぐらいしかありません。ギッシリ詰まってしまった予定に悲鳴が上がりそうです。では皆様、読んでくださってありがとうございます。次話もよろしくお願いします。

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