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契約者達と貴族との会議

 我ら貴族は各地から呼ばれて大会議室に集っていた。我もその一人で、転移門とやらを通ってガルーンから一瞬で移動したのには度肝を抜かれた。しかも地下の町や地上に出て見た龍の姿を見て、心胆を寒からしめられた。しかし我が皇帝になれば訳のわからん成り上がり者には、すぐに地下の町を含めてすべて献上させようと考え直し、今は我の為によくやってくれたと、内心で笑う事が出来るようになっていた。

 「ギョスタン伯爵、ポッと出の成り上がり者を王に押すとは、リグレス公爵は何を考えているのでしょうな」

 「ふん、契約者と言う噂もあるから何らかの裏取引でもしたのかも知れんな。だが我は赤帝国が滅んだなどとは認めていない。今後も赤帝国は続くし、メイベル様が治めないと言うのなら、皇族の血を引く我が治めるのが筋だろう」

 「全くです。メイベル様やリグレス公爵が国を売る様な真似をするなら、我ら一同がギョスタン伯爵を押させていただきます」

 「うむ、皆よろしく頼むぞ。我が帝位についたら、それ相応の事はさせて貰おう」

 考えに耽っていた我の気を引こうと話しかけてくる取り巻きどもに付き合って、ひそひそと話していると、目の前をレゲレ伯爵とマキーユ伯爵が通りかかった。我は二人が会議でどう行動するか気になり、探りを入れる為に素早く話し掛けた。

 「レゲレ卿、マキーユ卿、御二人は今日の会議の事をどうお考えですか?」

 「御二人も赤帝国を滅んだ事として、新たな国を作る事には反対ですよね?」

 我らが声を掛けると眉間に皺を作った二人は、厳しい視線で一瞥してから無言で自らの席に向かってしまった。

 「如何やらかなりお怒りの様だな。まあ議題を考えれば当然だろうが・・・・」

 「そうですね。あれなら我らに協力して反対してくれるでしょう」

 「そうだな。我らだけで全体の三割に達しているから、二人が反対に回れば五割を超える。こうなれば、いかなリグレス公爵でもどうにも出来まい。まして成り上がり者ではなおさらだ」

 「そうですな。先の騒動ではリグレス公爵や他の五大貴族の側に付きそうな者達が死んでくれたのが、今上手く働いています。それにリグレス公爵が国を滅ぼそうとする今なら、もはや五大貴族も恐れる必要はありますまい」

 「良く言った。我とて皇族の血を引き、帝位継承権を持っているのだ。このままリグレスの好きにはさせない」

 我らの中で忍び笑いが広がっていったのを見届けて居ると、リグレス公爵とメイベル様を先頭にして五大貴族の方達が揃って入ってきた。気づいた皆はピタリと喋るのを止め、辺りはシーンと静まりかえった。普段なら其のまま静かに陛下が現れるまで待つのだが、何故か今日はざわめき声が上がっていた。不思議に思って我らが見ると、本来ならサザトラント卿がいる所にミルベルト卿がいる様だ。しかも横に見慣れない男がいるのが目に入った。男は明らかに場慣れしていない様子で、とても貴族には見えなかった。

 「失礼ながら、リグレス公爵。何故ミルベルト卿が其処に居るのです。それに隣の男は何者です。まさかとは思いますが、その男が王に押している者ではありますまいな」

 「此れはギョスタン伯爵、ミルベルト卿の事は会議の中で説明されますからお待ちください。そして此処に居るのはロベルトで、ミルベルト卿の娘婿ですよ」

 「ナッ、あの浮浪者ロベルトか?何故此処に?貴族でもないお前が此処に居て良い訳が無いだろう。すぐに出て行くが良い」

 「お初にお目にかかります、ギョスタン卿。私はロベルト・ミルベルト、ミルベルト家の娘婿にして次期当主です」

 「何だと・・・馬鹿な・・・・・平民を認めたと言うのかミルベルト卿。何を考えている?正気か?」

 「至って正気だ、ギョスタン卿。儂は此度の騒動でリグレス公爵と共に行動したので、新しい国のあり様を知る機会があった。だから、先の事も考えてロベルトを認める事にしたのだ」

 「・・・・・・・ミルベルト卿、今まで見逃されていた理由を知らないとは言わせないぞ。皇族の血を引く者として断固として抗議させて貰うぞ」

 「此の会議が終わった後で機会があればお聞きしましょう。今はお互い席に付き、静かに最後に入ってくるお方をお待ちするべき時でしょう」

 「うむ、その通りだな。此の会議は重要な物で、其れを弁えていない者などいないはずだ。そうであろう、ギョスタン伯爵」

 「・・・・そうでしたな、リグレス公爵。ではまた後ほど」

 リグレス公爵達が踵を返して去って行く背を見届けた我らは、新しい由々しき問題を小声で話し合い始めた。


 「配置は完了しているか?ベルス」

 「ああ、完了しているぞ。なあロベール、こんな時にあれだが、俺が何で睨まれてるのか知っているか?此処何日か、俺の顔を見る度に所構わず今みたいに睨んでくるんだ」

 ベルスの視線を辿ると、そこにはガルトラント卿が不機嫌さを隠そうともせずに仁王立ちして睨んでいた。其れを見て俺はすぐにこの前の魔宝石の事だと悟った。如何やら未だに渡していない様だった。俺がベルスに話すか迷っていると、ガルトラント卿の厳しい視線が自分に注がれ、その瞬間に言葉に出来ない悪寒を感じて身を震わせる事になった。その厳しい視線は喋ったらどうなるか分かっているなと言われている様で、俺は心の中でベルスに詫びながら口を閉じる事にした。

 「さあ、知らないな。でもそう遠くない内に分かると思うぞ」

 俺の言葉に何かを感じたのか、ベルスの疑う視線が鋭く突き刺さった。其れでも頑として口を開かないでいると、セルフィーヌさんが一人で此方にやって来た。

 「ベルス様、如何やら色々やるそうですわね。お父様から聞いて面白そうだったのとベルス様と一緒に居たいので、此方に残る事にしましたわ」

 「おいおい、少しは大人しくしてくれ。俺と一緒に居たいとか言ったら、またガルトラント卿に怒られるだろ。ただでさえ訳も分からず睨まれているんだから、此れ以上は勘弁してくれ」

 「ふふふ、平気ですわ。ニルストとキルミストの二人に協力させましたから。あの二人の妻と私は仲の良い友人なのですわ。ふふふふふ」

 黒い笑みを浮かべるセルフィーヌさんから数歩離れた俺は、ベルスの肩を叩いて頑張れよと耳元で囁いてから話し始めた。

 「さて、リグレス公爵達も中に入ったから俺達も中に入るが、ベルスとセルフィーヌさんは此処で部隊と共に待機していてくれ」

 「分かった。中の様子は窺って置くから、都合のいい時に合図をしてくれ。合図があったら魔道具を起動する。そして結果次第では入り口を閉鎖して踏み込ませて貰う」

 ベルスと頷きあった俺は、大会議室の扉の前に移動して大きく深呼吸をした。

 「ロベール、カリーナ達はいないけど僕は一緒なんだ」

 「そうだな。シグルトが一緒だから緊張する必要はないな」

 「うん、それにカリーナには後で僕が何時もの様に伝えるから、無様は晒せないんだ。そう考えればロベールなら大丈夫だと思うんだ」

 「・・・・・・それを聞いたら兄として、意地でも完璧にやり遂げないといけないと思えるな。しかし何時もの様にと当たり前の様に言われるのは・・・・・・」

 シグルトに発破を掛けられた俺は、複雑な思いを胸に抱きながら覚悟を決めて本来の姿に戻った。そして今生きている全ての貴族が待ち受けている中に、堂々と胸を張って跳び込んだ。


 最後に入って自分の席に向かって悠然と歩く俺の全身に、中に居た貴族達の視線が一斉に突き刺さった。一番多い俺を見定めようとする視線、次に多い成り上がり者がと言う嫉妬と嫌悪の視線、此れが契約者かと俺とシグルトを行き来する視線、そしてロベルト達、俺の此の姿を知っていて驚く視線と初めて見る姿に目を見開いて驚く視線があった。静かな大会議室にコツコツコツと歩く音だけが響き、俺は一段高く作られた壇上の豪華な椅子に座って皆と対面した。すぐに辺りを見回すと、最前列に五大貴族とミルベルト卿達が居て、その後ろに地域に分かれて高位の者から順に前に座っているのが見えた。

 「さて、大半の者には初めて会うので名乗らせて貰おう。私の名はロベール、横にいる龍のシグルトと契約した契約者だ。今日此処に集まって貰ったのは、此れから建国される新しい国を如何するか、皆で話し合うためだ。此処にいる皆は上級貴族から下級貴族、更には何らかの事情で正式に当主になっていない代理の者も居るが、全ての人に等しく発言権が有る事を最初に告げて置く。臆する事無く忌憚のない意見を述べて欲しい」

 俺の発言に普段は発言出来ない下級貴族達から動揺のざわめきがあがった。そして上級貴族達は顔を顰め、その中の一人が怒りの声を上げた。

 「それは何の冗談だ。発言は我らの様な上級貴族だけに許されるのが慣例だぞ」

 「貴男はギョスタン伯爵だな。貴男も先に渡されている資料を読んで知っていると思いますが、今日は赤帝国の滅亡と新王国について話すのですよ。この会議は通常の物とは違うので慣例など意味が無いのです。私がこの場所にある椅子に座っている事を考えれば、誰でも理解出来るでしょう」

 俺の言葉を理解出来ない者は、この場には一人もいなかった。何と言っても今俺が座っている位置は、赤帝国では皇帝が座る位置なのだ。この意味に気付けなかったら余程の馬鹿だけだ。ギョスタン伯爵は一瞬言葉に詰まったが、すぐに真っ赤な顔をして怒鳴り始めた。

 「貴様、分かっているのならすぐにその場を立たないか。其処は皇帝陛下の席で不敬だぞ」

 「不敬ねえ・・・。メイベル様に言われるなら兎も角、ギョスタン伯爵に言われる筋合いはないな。皇族の血を継いでいるとは聞いているが、貴男はガルトラントに領地を持っておきながら、商連合国の侵攻に対して何をしたと言うのだ?ガルトラント卿の呼びかけにも答えなかったと聞いているぞ」

 俺がギョスタン伯爵と周りに居る取り巻き達を厳しい視線で一瞥すると、視線を逸らす者や動揺する者が続出した。

 「あああ、あの時は沢山の貴族が死んで混乱していて収拾に手間取っていたのだ。ガルトラント卿が後方を気にせずに戦えるようにする心算だったのだ」

 「ほう、そうだったのか?私はリグレス公爵達と共に援軍として戦ったので知らなかった」

 「混乱もあったし、知らなかったのは目を瞑ろう。だが我の苦労があったから戦いだけに集中でき、そのおかげで勝利した事は忘れて貰っては困るな。ははは」

 俺はあまりの発言にポカンとしてしまった。そして目に入ったガルトラント卿の顔に、慌てて視線を飛ばして制止する破目になった。其の時のガルトラント卿の顔はまさに鬼の形相で、今が大事な会議で無かったら刃傷沙汰になっているのが当然だと思える程だった。俺は後ろに居て其れが見えていないギョスタン伯爵が、此れ以上余計な言葉を続けない様に素早く口を開いた。

 「ギョスタン伯爵が言った様にサザトラントの席を見ればどれだけ多くの人材が失われたのか分かるでしょう。だから今は細かい事に拘っている時では無いのです。皆様、如何かご理解ください」

 俺の発言で皆の視線がサザトラントに割り振られた席に向かった。そこは閑散としていて寒々しさが浮き彫りになっていた。居るのは亡くなった夫の男爵の代わりに出席しているラクリーヌさんと、リラクラントやガルトラントに逃げ込めた少数の貴族達だけだった。その中の二人の男女がラクリーヌさんの傍に居るが、多分あれは目元などが似ているので、生家の人達なのだろうと思って少し安心した。

 「皇帝陛下を筆頭にお亡くなりになられた沢山の方々の為に、暫し黙とうしましょう。そしてそれが終わったら静粛に会議を進めましょう」

 俺が問答無用で黙とうすると、皆もこの時だけは静かに黙とうした。そして其れが終わると俺の目論見通り、大会議室はピリッと引き締まった雰囲気になった。

 「ではこれより会議を始めます。リグレス公爵、初めの議題だけは公爵に進行を任せます」

 「はい、受け賜りました」

 返事をしたリグレス公爵が席を立って、俺の横に来て立ってから話し始めた。

 「さて、此処にいる皆には説明は不要だろうから、単刀直入に言おう。皆、まずは赤帝国の滅亡を受け入れてもらいたい。誰か異論はあるか?」

 「大いにありますな。我ら一同は納得できません。そうだろう皆」

 「そうだ、そうだ。我ら貴族は未だに存在するし、侵攻してきた敵も打ち倒したと聞いている」

 「全くだ。攻め滅ぼされたのでもないのに、滅んだなどと認められる訳も無い」

 「リグレス公爵は其処に座っている不敬な契約者とどんな取引をしたのだ。何故メイベル様やご自身が赤帝国をお継ぎにならないのです」

 「そうです。我ら一同お二人がお継ぎになるのなら喜んで支えましょう」

 俺の見ている前で、ギョスタン伯爵と取り巻き達を含めて全体の三割位の人が声を上げていた。リグレス公爵は眉をピクリと震わせたが、慌てる事無く淡々と反論した。

 「支えてくれるとの皆の言葉は嬉しいが、此の状況を如何にか出来る程の力は、私にもメイベルにも存在しない。抑々支えると言うが、此の状況を如何にか出来る計画案があるのか?」

 「其れは・・・・・・・・・・」

 皆が言葉に詰まる中でギョスタン伯爵が敢然した態度で告げた。

 「其れは違うだろう、リグレス公爵。計画案など無くとも我ら皇族に連なる者達は、何があっても赤帝国を守る義務があるのだ。手段が無いからと言って放棄する事は許されまい。リグレス公爵やメイベル様が立たないと言うのなら、我が皇族の血を引く者として立たせて貰おう」

 「ふむ、その義務感は立派だが、そんな事をしたらたちまち敵国に攻められて占領され、次の国すらなく亡ぶことになるぞ。商連合国だけでなく蒼王国も動いていると説明されているはずだ。それに私は皇族の血はもはや扱いを間違えると、自身に危険しか呼ばない物になっていると考えているのだ」

 リグレス公爵の確信の籠った声に皆がハッとして見つめていた。顔を険しくしたリグレス公爵はメイベル様をジッと見てから、周囲の人々を見回して告げた。

 「千年先にも残りそうな、帝都消滅と言う汚点を残したのは、第二皇子べサイルなのだぞ。自国の中心の帝都を己が手で滅ぼした愚かな皇族は憎悪の対象になるだろう。いや、既になっているのだ。私やメイベル、そしてミーミルが無事なのは、元からべサイルと敵対していた事をリラクトンの皆が知っている事もあるが、半ばはロベールのおかげなのだ」

 其処で言葉を切ったリグレス公爵は深いため息を吐くと、心に重く圧し掛かる様な重苦しい声音で話し始めた。

 「避難してきた者達を保護しているのはロベールだ。食料を持ってくる龍が誰に従っているのかは誰でも想像がつくし、今住んで居る場所を作ったのもロベールだと言う事は伝わっている。如何やらロベールを頼って初めに住んで居たレクトンの町の避難民達が、知った事を周囲に話している様だ。契約者だと言う珍しさと注目もあって、今では如何言う事に怒るのかなどの細かい事まで知れ渡っているのだ」

 「ナッ、何時の間にそんな事に?」

 俺が驚きを隠せずに呟いてしまった微かな声に、リグレス公爵は微笑んでさり気無くロベルトを指さした。指されたロベルトは俺の視線に肩を竦めてニヤリと笑い返してきた。俺達の姿の事といい、色々と陰から支えてくれているのが伺い知れて俺が嬉しく思う中、リグレス公爵の続きの言葉が耳に響いた。

 「そして前にミーミルが沢山の人の前でロベール達と眠った事があったのだが、それと相まって子供を大事にすると言う情報が一番強く広まっている。今ロベール達の事を知る者は絶対に子供を傷付けない。其れは心も含まれていて、ミーミルの親の私達も目を瞑って貰っているのだ」

 「何が言いたいのだ?回りくどい言い方をしないで頂きたい」

 「ギョスタン伯爵、本当に分からないのか?先程計画案が無くとも関係ないといった感じの事を言っていたが、此の状況で皇族の血を引く者が無計画で皇帝になって治めたら、民の生活はすぐに立ちいかなくなるのだぞ。そうなったら流石に民達も我慢の限界が訪れる事は必定だ。今は民達の思いを考えて、慎重に慎重を期さなければならない時期なのだ」

 「成る程、ようやく言いたい事が分かった。ようは平民共が愚かにも皇帝に楯突くと言うのだな。なにそんな物は鎮圧すれば良かろう。それに今上手く行っているのなら、其れを其のまま継続すればよいのだ。そうだろう、リグレス公爵」

 胸を張って堂々と宣言するギョスタン伯爵に、呆気にとられて馬鹿みたいに口を開いた俺は、その顔を見て気づきたくも無かった本気の色を見て取ってしまった。そしてすぐに心の中に、ギョスタン伯爵は俺が大人しく言う事を聞くと思っているのだろうか?大体鎮圧と言っているが、弾圧の間違いでは?其れを俺が許すと思っているのか?など、次々と疑問が浮かんでは消えていった。俺はギョスタン伯爵の思惑が分からず途方に暮れ、助けを求めて周囲を見回した。しかしリグレス公爵達はおろか取り巻きの半数も、流石にこの発言には動揺が隠せない様で、助けは得られそうになかった。そして頭の痛い事に、ガルトラント卿に至っては、俺に向かって殺させろと殺気混じりの視線を飛ばしてきていた。

 「少し良いかね、リグレス公爵。ギョスタン伯爵の意見は行き過ぎだと思うが、一理もあるのではないか?確かにべサイル殿下の失態はいかんともしがたいが、其れでも赤帝国を守る事は放棄するべきではないのでは?今の赤帝国を維持したまま、滅ぼす事無く何とか出来ないものかね?」

 「おおお、流石レゲレ伯爵、我の言いたい事が分かっていただけましたか」

 新たに発言したレゲレ伯爵の言葉に対して、厳しい表情で睨むリグレス公爵と賛同を得たと喜ぶギョスタン伯爵が対照的だった。しかし喜ぶギョスタン伯爵には悪いが、誰も伯爵の事は見ておらず、冷厳な視線で睨み合う二人を注視して固唾を呑んでいた。

 「・・・・・・・レゲレ伯爵、その答えは既に出ているだろう。今此処で述べたとしても何も変わらないぞ」

 「其れは如何かな?先の話し合いと違い、今は賛同者もいるのだぞ」

 レゲレ伯爵の声にマキーユ伯爵と賛同者と思われる人達が声を上げた。その数は全体の三割に達しそうな程だった。

 「マキーユ伯爵、貴男もですか・・・・・」

 「ああ、リグレス公爵。私もやはり赤帝国を滅ぼすのは認めがたいのだ。それにあれから少し調べさせて貰った。その結果ロベールとリグレス公爵とメイベル様の関係は良好で、どちらが上に立ったとしても問題無いと思えた。ならば・・・・・・」

 マキーユ伯爵の言いかけた言葉は声にならずに消えていった。何故ならば冷たい仮面の様な表情になったリグレス公爵が、晒されただけで凍え死にしそうな視線で睨んでいたからだ。俺が初めて見るリグレス公爵に戸惑っていると、必死に悲鳴を押し殺す者達と、焦りを浮かべて立ちあがり制止しようとするヴィシール伯爵が目に入った。

 「止めろ、リグレス。御二人も今すぐ発言を撤回するのじゃ。早く」

 「ヴィシール伯爵、撤回など出来るはずが・・・・・」

 「貴男は周りを巻き添えにして破滅したいのか?」

 「破滅?何を・・・・・・・」

 「もう良い、ヴィシール伯爵。御二人は其れすら理解出来ない程、耄碌している様だ。新しい国は余裕がある訳では無い。状況の把握も出来ない馬鹿はいらない」

 「待て、待つのじゃ。リグレス。御二人は・・・・・・」

 リグレス公爵の冷たい視線に晒されたヴィシール伯爵は、それ以上の言葉を出す事が出来なくなったようだ。

 「レゲレ伯爵、マキーユ伯爵、そしてお二人を支持する者達よ。私は其処にいるギョスタン伯爵を皇帝とした赤帝国を認めよう。此れで良いのだろう?お二人とも」

 リグレス公爵の言葉に隠しきれない喜色を浮かべるギョスタン伯爵とは対照的に、レゲレ伯爵とマキーユ伯爵は警戒心を強めていた。

 「如何言う心算だ、リグレス公爵」

 「そうです。其れに何故皇帝になるのが貴男やメイベル様では無いのです」

 「何を言っているのです?私が皇帝になってロベールから離れる訳が無いでしょう。まさか其れすら分からないと言うのですか?此れでは貴方達を説得して、味方にしようとした自分に失望しそうになる。会議が始まる前に渡していた、状況を纏めた書類は確り読んだのですか?読んで居れば分かるはずなのに・・・・」

 「待ってください、リグレス公爵。御二人はリグレス公爵の言っている言葉を理解していないのでは?」

 「なに?如何言う事だ、ロベルト」

 「リグレス公爵の中ではロベールを王とした国は必ず建国するのでしょう」

 「なにをいまさら・・・それは当然だろう」

 「其れは今認めた赤帝国の存在があってもですよね」

 「・・・・・・・ああ、成る程、そう言う事か。御二人とも誤解している様ですね。私は新しい国でロベールを支えます。だから存続を認める赤帝国は新しい国に属さない場所を領土にして貰います。新しい国に所属する者達の領地は独立して新しい国になると思ってください」

 「馬鹿な。その様な事は認められない」

 「リグレス公爵は赤帝国を割る心算か?」

 「出来れば割りたくはありませんが、短期の事ですから問題無いでしょう」

 「如何言う事だ、リグレス公爵」

 「分からないのですか?そうですね・・・此処は新しい国が赤帝国と違うと一目で分かる存在のロベルトに、赤帝国の滅びを認めない自分達が、今どの様な立場なのか説明して貰いましょう」

 注目を浴びたロベルトが嫌そうにしながらも、今のリグレス公爵には逆らえないと言った感じで渋々口を開いた。

 「名指しされたので答えます。まず言って置きたいのは、俺達は此れからを生きる為に龍人ロベールを利用して新しい国を作るんです。其れをきちんと分かっていますか?まあ貴方達はたぶん、赤帝国のままでも生きられると思っているのでしょうが、俺には滅びる国と共に滅びる道を選んだとしか思えません。それに貴方達はリグレス公爵が皇帝にならない事を不思議がっていますが、如何考えても統治に成功する手段が無い上に、失敗したら真っ先に殺されるのは目に見えているでしょう。今の赤帝国の皇族は憎悪されていると言ったばかりでしょう」

 「そんな事はない。大体、殺されるだと?ふざけるな、平民が皇帝や皇族に手を出すなど思い上がりも甚だしい。貴様も平民だからその様な事を言うのだろう」

 喜びに水をさされた形のギョスタン伯爵が、顔を赤くして口を挿んでロベルトを扱き下ろした。しかしロベルトは呆れた声を出し、冷静に反論した。

 「はあ?そんな訳無いだろが。それに俺は新しい国の考えでは貴族として認められている。だから今此処に座っているんだぞ」

 「今存在しない国の話しなど知るか。お前は未だに平民なんだよ」

 ニタニタした嘲笑を受けて流石にムッとした様子のロベルトは、ニヤリと黒い笑みを浮かべると、恐ろしげな声で恐怖感をあおる様に告げた。

 「ククク、殺しに来るのが平民だけだと思うなよ。ロベールの庇護下から出て赤帝国を継承する以上、契約石の事で報復を受けるのは当たり前だぜ。まさか赤帝国の皇帝を名乗っておいて、都合の悪い部分は継承しないなどと言う言い訳が、魔狼に通用するとは思っていないよな。ククククク、貴男を守る為に護衛が戦ってくれるといいですね、皇帝陛下。まあ時間稼ぎも出来ずに、生きたまま食われて終わると思いますけど」

 「ナッ・・・・・・・・」

 一瞬で真っ蒼な顔になり、声を詰まらせて震え始めるギョスタン伯爵の代わりに、レゲレ伯爵が強気を崩さずに声を出した。

 「くだらない脅しは無駄だぞ。私達の全てを合わせれば、この場に居る者の半数以上になるのだぞ。其処まで大勢の貴族を切り捨ててしまえば、新しい国の統治は出来ないだろう?」

 「ははは、本気で言っているのか?だとしたら私を読み違えている」

 リグレス公爵が笑い声をあげて冷たい声を出すのを、殆どの人が驚きと共に見つめていた。そして今一瞥を受けた俺も、何を言う心算なのかと注目していた。

 「ロベールは兎も角、私は切り捨てた方が良い者は容赦なく切り捨てます。今は危急の時なので足を引っ張る者や役立たずに配慮する余裕はないのです。そして貴男達は切り捨てられるのではなく、赤帝国の滅亡を認めずに、自分から去るのでしょう。なら私達の心は欠片も痛みませんし、去る者は追いませんよ。其れに何より貴方達の勘違いは痛過ぎる。まさかロベルトの様に平民から貴族になる者が今後はいないとでも思っているのですか?血筋に拘らないのなら、貴方達と同程度の者など探せばいくらでもいますよ。わざわざ新しい国は違うと言ってからロベルトに話させたのに、意味を考える事もせず、気づかなかったのですか?ならそんな考えの浅い人は要りません。どうぞお帰りはあちらです」

 リグレス公爵が冷たく拒絶して出口の扉を指さすと、レゲレ伯爵達は愕然とした表情で固まってしまった。

 「帰らないのですか?なら少し周囲を見て見る事です。おかしいとは思いませんか?貴方達に賛同しない半数近くの貴族達が、言葉を発する事無くジッとしている事を・・・」

 リグレス公爵の言葉で我に返って周囲を見回す者達は、ようやく自分達に突き刺さる白い視線に気づいた様だ。俺は初めから気づいていたが、白い視線を向ける者達は、此度の騒動で身内が殺されるなどの被害にあったり、身内が騎士団などに居て、俺の戦いや行動を知る機会があった者達だ。彼らの視線はとっくに現実を見据えていて、今は平時の様な無駄が許される余裕は少しも無いと知っていた。

 「何だその目つきは、赤帝国を守ろうとする我らに対して無礼であろう。お前達はリグレス公爵と共に国を滅ぼそうと言うのか?」

 ギョスタン伯爵が喚いたが、白い視線を強くするだけで、誰も答えようとはしなかった。其れを見て赤帝国の滅亡を受け入れない者達に動揺が走った。そして無言の集団の白い視線の圧力に気圧された者達が、次々と体を震わせる中でリグレス公爵から一瞥されたロベルトが、追い打ちをかける様にわざとらしく大きな声で俺に話し掛けてきた。

 「なあ、ロベール。俺達は転移門を使って今までにない速度で物資のやり取りをするけど、あちらは如何するんだ?各地の中心の町は五大貴族と共に此方側だから、どうやっても大量の物資のやり取りは出来ないんじゃないか?ククク、ほんと如何する心算なんだろうな、彼らは」

 「さあ、分からないな。でも国が滅びる時なんだし、貴族だったら領地や領民の此れからを考えていない訳ではないだろう。自給自足や仲間内のやり取りでやっていけるんじゃないか?」

 「へえーー、そいつは凄いな。見せて貰ったばかりのミルベルト家の報告書では足りない物が沢山あって、親父さんですら頭を抱えていたんだぜ」

 「はは、そうなのか?まあ、安心してくれ。ミルベルト家にはお世話になっているから、俺が持っている個人的な物資を融通するよ。今は大量の鶏肉があるから食べるか?」

 「鶏肉?この前の話のあれか?」

 「まあな。俺の空間に入れてあるものは腐らないから、生肉の長期保存もバッチリだ。それに今度海に行って塩をとる計画もあるんだ」

 ロベルトと俺の話し声に体を震わせていた者達は、ハッと夢から覚めた様に現実を直視させられた。国の興亡は確かに大事だが、それはあくまで自分の生活が安定している事が前提なのだ。支持していた下級貴族の者達の中には、今までと同じように上級貴族の顔色を窺って、ただ従っていただけの者もいるのだ。其の者達も今回の会議が真の意味で違うのだと今突き付けられ、激しい動揺を晒してしまい、それが周囲に瞬く間に伝わってしまっていた。

 「ようやく気付いたのか?この危急の時に貴族ともあろう者が状況判断も真面に出来ないから、赤帝国はこんな事になったのだぞ。私とて初めから赤帝国を滅ぼす心算だった訳では無い。初めはロベール達の協力を得て国を建て直す心算だったのだ。しかし今の現状は私の想像を超えている。私やメイベルでは国の維持などもはや不可能なのだ」

 リグレス公爵の苦渋の声が皆の心に重く響いていた。そして一度言葉を区切ったリグレス公爵が、一人一人の顔を見てから、聞く者をハッとさせる静かな威厳のある声を響かせた。

 「皆、心して聞いて欲しい。今日の会議は赤帝国の滅亡を受け入れ、ロベールを王として皆で一致団結し、新しい国を作って生き延びる為のものなのだ。その事はロベールがあの場に座っている事と、名乗りと共に言った言葉で推測できたはずだ」

 俺にはレゲレ伯爵とマキーユ伯爵が俯いて歯を食い縛るのが見えた。集まっている貴族達の中でも最高齢に近い二人にはどうしても受け入れがたいのだろう。俺には全身から言葉に出来ない思いが溢れている様に思えた。

 「確かに国は新しい形に変わるが、私達が赤帝国の者だった事実は何一つ変わらない。それに全てを捨ててしまえと言う訳ではない。悪い部分は排除して変更するが、良い部分まで変える心算は無い。御二人も受け継がせたい伝統や文化があるなら、新しい国が安定して余裕が出来たら、ご自分で根付かせれば良いでしょう」

 「グッ、そう言う問題では・・・・・・」

 「そうだ。私達が守りたいのは・・・・・」

 「まさかとは思いますが、在りし日の赤帝国とか言いませんよね」

 俺がスッと目を細めて尋ねると、レゲレ伯爵とマキーユ伯爵がピタリと口を閉ざした。其れが全てでは無いだろうが、年を取った二人の思いの中には、確かにそれが大きく占めていたのだろう。俺は此れも王になる者の義務だと考えて、キッパリと断ち切る様に冷厳と告げた。

 「お二人が守りたいと思っているものは、もうとっくに存在しません。赤帝国の名を残しても帝都を筆頭に失った物も失った人も何一つ取り戻す事は出来ません。私やリグレス公爵達が新しい国を創ろうとしているのも、此れ以上失わない様にするには、此れが一番だと考えたからです。私は此処に本来いるはずの人々を全く知りませんから、皆の様な感慨は浮かびませんが、お二人は違うでしょう。既に失った守れないものを守る為に、まだ失いたいですか?」

 俺の問いに二人はボンヤリと空席を見つめて、深いため息と共に全身の力を抜いて俯いてしまった。その様子は生気が抜け、此のままただ朽ちるだけの人形を思わせる有り様だった。自分で止めを刺して置きながらあれだが、俺は内心で冷や汗を掻き、此れは不味い後で何とかしようと心に決めていた。そしてそれからざわついている周囲に向かって静かな声を掛けた。

 「まだ赤帝国の滅亡が受け入れられない者はいますか?いるのならこの場から覚悟を決めて出て行ってください。私達はその人達を、今後は他勢力として認識します」

 暫く待ったが、誰も席を立とうとはしなかった。ギョスタン伯爵は不満そうに睨んでいたが、俺は構わずにリグレス公爵に話し掛けた。

 「時間も経ちましたし、早く進めましょう」

 「そうだな。今この時を持って、赤帝国の滅亡を宣言する。そして新たな国、龍炎王国ドラグトンの建国を宣言する。初代の国王は龍人ロベールがなる。異論はないな」

 リグレス公爵が今度は反論を許さないと威厳のある声で告げると、真っ先にロベルト達が拍手を始めた。つられる様に皆が拍手をし始め、最終的に大会議室は万雷の拍手に包まれた。

 「では皆の賛意を得て、戴冠式はまだなれど、此れよりロベールの言葉は王の言葉と同じであり、命令は王命となる。皆、心して欲しい」

 「「はい」」

 皆の返事が返ってくるとリグレス公爵は、俺に後は任せると小声で告げて自分の席に戻った。

 「では王として初めにやるべき事をさせて貰う」

 そう言った俺はゆっくりと席を立ちながら合図をして、中を窺っていたベルスが魔道具を起動するのを待った。シグルトが腕を叩いて準備が整った事を知らせてくれたのを機に、俺は悟られない様に気を付けながら声を出した。

 「今生まれたばかりの国と、正体不明の実績のない私に忠誠を誓えと言っても無理なのは分かっている。だから代わりに皆には、私は犯罪や国に対する裏切り行為をした事は無いし、今後もする心算はないと誓って欲しい。リグレス公爵、皆の前でまずは手本を見せてくれ。皆は次の時に同じ言葉を座ったまま唱和してくれればいい」

 「ハッ、では龍炎王国に誓います。私は犯罪や国に対する裏切り行為をした事は無いし、今後もする心算はありません」

 当たり前だがリグレス公爵が誓っても何も起きず、周囲の人々は戸惑いを浮かべていた。ギョスタン伯爵などは馬鹿な事をしていると思っているのか、嘲笑を浮かべてニヤニヤと俺を見つめていた。

 「こんな事に意味があるとは思えない。国王になって初めにやる事では無いだろう?矢張り・・・・」

 「初めにやる事だからやっているのです。意味はすぐに解りますし、分からなければ後で説明します。ただ同じ事を言えば良いだけですし、なり立ての王の顔を立てて付き合ってください」

 俺が其処まで言うと、怪訝そうな顔をしている者達も仕方ないなと思ってくれたのか、態度を改めてくれた。そして皆は俺の声を合図にリグレス公爵と同じ言葉を口にした。

 「「龍炎王国に誓います。私は犯罪や国に対する裏切り行為をした事は無いし、今後もする心算はありません」」

 皆の声が大会議室に響き渡って消えた時には、一部の者が突然椅子から噴き出した金の炎に包まれて絶叫を挙げていた。その中には予定通りギョスタン伯爵もいて、炎に包まれながら一際大きな声で喚き散らして床に転がっていた・・・・・。

 次話の投稿は16日までにしようと思っています。ですがどうも体調が微妙です。無いとは思いますが、3日以上遅れる場合は活動報告に書きます。では次話もよろしくお願いします。

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