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契約者達と着いた国境で

 「さて、ようやく国境が見えてきたけど、此れからどの様に行動しようかな?フレイ、空から何か見える?」

 「見えますわ。報告の通り、敵の砦と思われるものが半壊していますわ。原形が残っている以上、龍達も手加減はしたのでしょうが・・・・ハッキリ言って、カリーナ達の基準では大破壊と言って問題無い状態ですわ」

 「うわ、大破壊って・・・・」

 嫌な光景が脳裏に浮かんだ私は頭を振って叩き出すと、気を取り直して次に気になる質問を尋ねた。

 「敵兵の動きは見える?」

 「半壊した砦から無事な物資を運びだして、後方の無事な大地に防衛する為の陣を張っていますわ。ですが私の目には如何見ても敗残兵の集団にしか見えませんわ。その証拠に士気は無く、項垂れている者が沢山いますし、更には怪我人の満足な治療も出来ておらず、横たわった兵士がそこら中で呻いていますわ」

 「うーん、それは怪我人が居るから撤退出来ないと言う事かしら?士気が無いのなら、怪我人が居なくなれば大人しく撤退してくれないかな?」

 「カリーナ、其れは無いと思いますわ。国境に駐留する軍にはいざと言う時は時間稼ぎの為に死守しろと、予め上から言われてると思いますわ。現場の士気が無くても龍の攻撃を受けても、新たな命令を受けるまで退く事は許されないのです」

 「フレイの言う通りよ。蒼王国にして見れば、私達が龍と共に侵攻してくる事を一番恐れているはずよ。今頃は慌てて援軍や新しい命令を要請しているはずだわ」

 「ええーー、死守しろって無理でしょ、明らかに。龍の攻撃を見たのなら援軍が来たって勝てないし、無駄なのは誰にだって分かるでしょう。兵士達だって犬死にさせられるのが分かったら、普通従わないでしょ。違うの?」

 「カリーナの言いたい事は分かりますが、兵士の敵前逃亡や命令違反は何所の国でも処刑ですわ」

 「そうね。其れに確か蒼王国では家族も一緒に処刑されるはずよ。だから兵士も将軍も上の命令には絶対に逆らわないわ。例えその先が犬死にだとしてもね・・・・・」

 フレイとタマミズキの厳しい言葉に、この世界の現状を噛み締めながら、私は敵の陣地から味方の砦に視線を移した。其処には数十匹の龍に囲まれた、無人ではないかと思う程静かな砦があった。龍達は護衛をしている心算なのだろうが、私の目には包囲されている様に見えてしまった。

 「なんか、こっちはこっちで嫌に静かね。はあーー、此れは怯えて息を殺していると考えて良いのかしら」

 「そうでしょうね。天狐は五幻種の中では一番、人と交流していますわ。だから言えるのですが、人は他人が強い力を持っているのを見ると、すぐに怯えます。その力で自分が傷つけられると考えてしまうのでしょう。クスクス、そんな風に考えるのは、自分が大きな力を持った時にそう行動すると言っている様な物ですのに・・・」

 「・・・・・嫌に厳しい意見ね。何か嫌な事でもあったの?」

 「そうですわね・・・・カリーナには話しておきますわ。人はかつて魔法の使い方を知らず、使う事が出来ませんでした。そんな時に魔法を巧みに使う天狐の存在を知り、基礎の基礎を善狐から教わって手に入れたのですわ。当時の天狐は善狐だけで、愚かにも惜しみなく全てを教えてしまいました。そして全てを教わって強い力を手に入れた一部の人間どもは慢心して、好き勝手な行動をし始めたのです。其の所為で沢山の天狐が傷付き、其の時に善狐を守る私の様な悪狐が生み出されたのです。当時生まれた悪狐は善狐のふりをして、利用しようとする奴らを逆に騙し、徹底的に追い込んで笑いながら破滅させたと聞いています」

 話をしながら私を見つめて来るタマミズキの視線は、恐ろしい程真剣で口を挟める雰囲気ではなかった。そして私は天狐が魔法の知識を大事にし、超えられるのを恐れている理由を理解して心に刻み込んでいた。

 「カリーナ、貴女は天狐に魔法を教える様に言いましたわ。あの時はあえて前代未聞と言いましたが、本当は違います。向こうの世界の知識を得た私には、かつての時とは決定的に違う事を理解しています。でも悪狐に生まれた私としては、二度と過去の様な過ちを繰り返さないで欲しいと切に願いますわ。過去の過ちが無ければ私の様な悪狐など生まれなかったのですから・・・・・・・」

 何所となく寂しそうなタマミズキの表情を見て、私は自然と優しい言葉を掛けていた。

 「安心しなさい。私もお兄ちゃんも恩を仇で返す様な真似はしないわ。それにタマミズキは悪狐に生まれたくなかったみたいだけど、私は今のタマミズキに会えて嬉しいわよ。悪狐だろうと気にしなくて良いわよ」

 「まあ、本当に?悪狐でも傍に居て良いのですか?カリーナ」

 「勿論よ。タマミズキはもう大切な仲間よ。信頼してないと、お母さんは任せられないわ」

 そう言った私に何故かタマミズキはニヤリと笑った。其の笑みはとても仲間に向ける物とは思えず、私に危機感を抱かせた。

 「ありがとう、カリーナ。信頼していると言ってくれて、とっても嬉しいわ。大切な仲間に嘘はつけないから善狐と悪狐の違いを教えてあげる。大きな違いは一つずつあって、まず善狐はお人好しで頼まれると殆ど断れないのよ。だからタマシズクとの交渉は、悪狐の私の邪魔さえなければ必ず成功するわ。もう私は邪魔をする心算は無いから安心しなさい。そして私を含めた悪狐だけど、私達は罪悪感が殆ど無いのよ。だから普通なら躊躇してしまう事も躊躇なく出来るのよ」

 「・・・・・・・・なんですって?」

 悪狐の話の部分を聞いた私は、一瞬で嫌な予感に捕らわれて身構えて警戒してしまった。そんな私の態度を見たタマミズキは、妖艶な笑みを浮かべて楽しそうに言い放った。

 「クスクス、例えば友人の愛する人と同じ人を愛したら、普通は躊躇するでしょう。でも悪狐は躊躇しないし、隙を見せたら他人の男でも掠め取りますわ。特にカリーナの場合、守る時間は数千年で、私を傍に置いて守れるかし・・・きゃあ・・・」

 私は其処まで聞いた瞬間に、頭で理解するよりも早く、手に鞭を持って容赦なく振るっていた。

 「ふふふふふ、ねえ、タマミズキ、私は悪狐の存在は認めても、お兄ちゃんに手を出す女狐の存在は断じて認めないわ。今すぐその性根をビシビシと正してあげるわ、この鞭で」

 「クスクス、お断りしますわ。そんなに私に奪われたくないなら、ずっと己が魅力で繋ぎ止めて隙を見せなければいいのですわ。もっとも百年程度ならいざ知らず、千年も生きれば一度や二度は他の女に目移りするのが普通だと思いますけど・・・。私は傍で其の時をのんびり待ちますわ」

 私の振るう鞭を軽やかにかわしながらそう言ったタマミズキの顔は、からかう様に笑っていた。しかしその目に一抹の真剣さが見えた様な気がして、私の心と肌を粟立たせていた。

 「タマミズキ、本気じゃないわよね」

 「さあ、どうかしら?砦に着くまでに捕まえられたら答えてあげますわ。うふふふふふ」

 怪しげな笑みを浮かべて答えないタマミズキはアッサリと踵を返すと、味方の砦に向かって走って逃げ始めた。

 「こらーーー、待ちなさい、タマミズキ。私の話は終わっていないわよ。フレイも行くわよ」

 「はいはい、今行きますわ。・・・・それとタマミズキは程々にしてくださいね。でないと私もカリーナのために見逃せませんわよ」

 「はいはい、一応分かっているわよ。其れより早く行って。小声で話していても、フレイが留まっていたらばれるわ」

 タマミズキを追って走り出した私の後ろを、フレイが呆れた声を出して遅れながらついてきた。余談だが、この鬼ごっこの結果は私の惨敗に終わった。私が追ったタマミズキは幻で、砦に着くと同時に目の前で消え失せた。唖然として立ち尽くした私の後ろから歩いてきたタマミズキが、ポンポンと肩をたたいて、残念でしたわねと言って砦の中に入るのを見送る破目になるのだった。


 「カリーナ殿、この度は真に申し訳ありません。この様な事態になったのは、儂の判断が間違っていた為です」

 「まあ、龍の指揮なんてした事無かったんだから、攻撃する力の加減を誤っても仕方ないと言えるんだけど、現状を考えると気にするなとは言えないわね。でも今は反省より、リグレス公爵達から全権を預けられた私を全力で助けてちょうだい」

 「はっ、受け賜りました。して此れからの予定はどの様なものですか?」

 「戦いを回避する方向で動くわ。此処に来る前に敵陣をフレイに見て貰ったけど、治療も満足に出来ていないみたいだったわ。今交渉を持ちかけたら聞いてくれるかしら?」

 「今すぐ持ちかけても無駄でしょう。捕虜を尋問して分かったのですが、明日にはクリーミア王女の本隊が到着する様です。そして本来は其の到着を待ってから侵攻する予定だったそうなのですが、砦を任されている将軍が王女と敵対する派閥の者で、自らの功を焦ったのと王女に功を与えないために先走って攻撃してきた様です。将軍は此のままなら王女が到着したと同時に、責任を問われて確実に更迭されるでしょう。そして最悪の場合は処刑されると思われます」

 「クリーミア王女が来る・・・・・・・そして処刑ねえ・・・・・」

 バルクラント卿の言葉を聞いて、交渉相手が死ぬのでは確かに無駄だと納得しながらも、私は此の状況を利用出来ないかと考えていた。そしていくつか思いついたので可能か如何かを尋ねた。

 「私が向こうの陣に赴いて、負傷兵の治療をしてから捕虜の無償返還と講和および不戦条約を結んでも、将軍の命は助からないかしら?もし助かるなら簡単に、しかも有利に交渉が成立するかも知れないわ。話を聞く限り将軍は、俗物にしか聞こえないもの。如何かな?」

 「・・・・・・・砦を失っていますから、命が助かっても失脚は免れず、何よりクリーミア王女なら一言で決まった交渉を白紙に戻す事も出来るので、やはり意味は無いかと思われます」

 「・・・・・・じゃあ、私が砦の修復を手伝うか、修復費用をある程度まで用立てると言えば如何?それなら王女も決まった部分を白紙にしたりしないんじゃないかな?」

 「ぬう、カリーナ殿、侵攻してきた相手に其処まで譲歩してしまったら、戦った兵士達の不満が出ます。それにクリーミア王女にとっては、敵対派閥の将軍を処分出来るまたと無い機会ですから、其処までしても六割以上の確率で白紙に戻して処分するでしょう」

 「あらら、其処まで仲が悪いの?」

 「はい、ですから敵の将軍も先走ったのです。捕虜の中にも将軍が王女に嫌味や嫌がらせをする姿を見た者が何人もいました。そしてその者達は、今回の事態で将軍が地位を追われるのを、内心で喜んでいるのが透けて見えました」

 「うーん、嫌われているわね将軍。しかし蒼王国では将軍が王女に嫌味や嫌がらせをしても問題ないの?」

 「いえ、大問題です。ですがその時の王女は何時も大人しくしていて反論せず、王女を嫌う者達の後押しもあって、周りも見て見ぬふりをするのだとか」

 その場面を想像して眉を顰めた私は、将軍に見切りを付ける事にして、話の内容に少しの違和感を感じながらも話を進めた。

 「・・・・分かったわ。ならその将軍との交渉はスッパリと諦めて考え方を変えましょう。・・・・そうなると気になるのは、俗物の将軍がそこまで追い詰められているのなら、自暴自棄になっておかしな命令をするかも知れないと言う事ね。先程其処にいるフレイ達に聞いたのだけど、どんなにおかしくても処刑されるから上の命令には逆らえないのでしょう」

 「其れは確かに・・・・砦の警備を厳重にして対応しましょう。しかし龍が傍に居る状況で、敵が攻撃して来るとは思えんのですが?」

 「そうかしら?自暴自棄になった人間は何をするか分からないわよ。それに此処まで来るまでに見た味方の兵士は、一部を除いて初めて目にした龍の力に怯えているでしょう。いずれは慣れるとしても、今すぐ共闘出来る様には見えないわ。其れに接近戦や砦の近くが戦場になったら、周りの被害を考えると龍は戦力として使いたくないのよ。違う?」

 「それは・・・・・・・」

 自分の領地が傷つく事を考えて言葉に詰まったバルクラント卿に、私は軽く微笑みかけてから冷たい声で告げた。

 「将軍が交渉相手として使えないなら、王女が来る前に私達の手で処分して恩を売っておくのも一つの手でしょう。数匹は小さくなって貰って砦の中で待機して貰うけど、他の龍は国境線上に分散して配置して遠ざけるわ。そうしたら追い詰められている将軍は、最後の好機と思って確実に動くわ。ふふ、後は分かるでしょう」

 私の発言にギョッとして顔を引きつらせるバルクラント卿を見ていると、横にいたフレイが厳しい視線で問うてきた。

 「カリーナ、それは戦いを回避すると言う方針と違うのでは?」

 「違わないわよ、フレイ。将軍以外は無傷で捕らえて捕虜にするわ。それに其の時、同時に負傷兵も確保して私達で適切な治療をするわ。そうして準備を整えてクリーミア王女との交渉を有利に進める心算なの。今回の交渉で重要な点は唯一つ、新しい国の存在を蒼王国に認めさせる事よ」

 「成る程、ようやくカリーナの考えが読めてきましたわ。龍の力だけでなく、契約者としての自身の力を見せ付けた沢山の捕虜を返す事で、蒼王国の国民に此方の力を浸透させる心算ですわね。そして私達とは絶対に戦いたくないと言う雰囲気を作って認めさせるのですわね」

 「カリーナが考えているのは其れだけじゃないわよ、フレイ。将軍を処分して敵対しているクリーミア王女に捕虜を返すのよ。此れはクリーミア王女の支持が増し、将軍が所属していた派閥にとっては面白くない事態よ。対立が深まるのは確実で、更に講和がなって攻めてこないと分かったら、明らかに勝ち目のない此方よりお互いの動向に目を向けるわよ」

 「流石タマミズキ、良く分かったわね。お兄ちゃんの国創りを邪魔する可能性は、同時に摘んでおくに限るわ。国の基礎が終わるまでは、内部で遊んでいて貰うわ。其の為には沢山の捕虜を手に入れて、解放する時に人気の高い王女のおかげて助かったと言い含めるわ。そしてその事を帰ったら周囲に話す様に仕向けるのよ。ただでさえ人気がある所為で他の王族に妬まれているのでしょう。そうなれば・・・・・」

 最後まで言わずに薄らと笑った私を見て、フレイとバルクラント卿が息を呑んでいた。しかしタマミズキだけはジッと私の顔を見つめて鋭い声で核心を突いてきた。

 「カリーナは会った事のないクリーミア王女をそんなに排除したいの?最初は敵対していると聞いた将軍を援助して、対立させる心算だったのでしょう」

 「ええ、排除したいわ。自分でも何故か知らないけど、お兄ちゃんが会うまでに排除しないといけないと感じているの」

 「・・・・・・そんなに排除したいのなら、私が暗殺してきてあげても良いわよ」

 タマミズキが真顔で告げた言葉に、皆は愕然として凍り付いてしまった。そして私もあまりに意外な言葉に動揺し、かなりの時間が経ってからようやく声を出せた。

 「其処までする必要は無いわ。タマミズキの言う通り、まだ一度も会っていないのよ。其れに私自身も、何故ここまで気に障るのか分からないし、相手は王女だから過激な行動をして、藪から蛇が出て来たら困るわ」

 「そう、なら良いわ。話を進めて頂戴」

 すぐに表情を緩めて引き下がったタマミズキの姿を見て、私は自分が試されていた事に気付いた。今私を見るタマミズキの視線の中にも、冷静な判断が出来ているか如何かを見定める鋭い物が、時折混じっていた。私がタマミズキの提案に乗っていたら、厳しく叱責されて諌められていたのだろう。

 「心配しなくても大丈夫よ、タマミズキ。お兄ちゃんの望む未来をぶち壊す様な暴走はしないわ。いえ、違うわね・・・・出来ないのよ私には」

 私は周囲の皆に微笑みながら空間からお茶を出した。そして皆で飲んで一息ついて、場の雰囲気を変えてから話し始めた。

 「さて、私が考えている此れからの行動を纏めると、クリーミア王女は明日着くらしいから、今すぐ龍達に話して遠ざけて、宴を開いて勝利に浮かれている様に見せかけるわ。其処まですれば私達が油断していると思い、追い詰められている将軍は最後の好機だと思って夜襲をかけて来るでしょう。其処を私達が一網打尽に捕縛するわ。其れに宴なら都合よくお酒も振る舞えるし、怯えている兵士達の気分を何とかするのにも一役買ってくれると思うのよ。バルクラント卿は反対かしら?」

 「・・・・・・・分かりました。色々思う所はありますが、元は儂の失態から始まった事、協力させていただきます。しかし戦いをカリーナ殿達だけで行われるのは反対です。怯えてしまった兵士達の中にも、時が経って冷静になった者達もいるはずです。怯えていない者達と合わせればお役に立てると思いますぞ」

 「うーん、そうね。なら先に砦から出ておいて、攻撃してくる奴らを迂回してから敵陣にいる負傷兵達を確保して貰えるかしら。バルクラント卿は砦の守備の指揮があるから、指揮はタマミズキにお願いするわ」

 「指揮が私で良いのですか?私は天狐ですわよ」

 「タマミズキに怯えて従えないのでは、此の戦いでは期待出来ないわね。その場合は大人しくして居て貰うわ」

 「うむ、儂からも兵達には言い含めて置く。タマミズキ殿は気にせず指揮して欲しい」

 「そう、なら任されたわ。確保したら治療もやって置くから、此方の事は気にしなくていいわよ」

 「お願いね、タマミズキ。其れじゃあ皆、準備を始めましょうか」

 私の言葉に頷いた皆は、それぞれの役割を果たす為に行動を始めた。


 「申し上げます。物見の者達が龍が動いたのを確認して帰ってきました」

 「なに、それで状況は?」

 「ハッ、如何やら龍達はもう此処は問題無いと思ったのか、国境線上の他の場所に向かった様です。大半は南に向かったとの事ですから、商連合国の方に向かったのかも知れません。あちらは既に砦を落としたとの情報がありましたから、もしかすると慌てて移動させる程にあちらの戦況が悪いのでは?」

 副将の発言にジッと考え込んだ私は、此方を窺う視線を感じながら一つの結論を出した。

 「そうか、あの忌々しい龍共が去ったか。ならば今が好機だな。砦を攻撃して奴らに一泡吹かせてやるぞ」

 「お待ちください、将軍。龍が去ったとはいえ、砦を失い負傷した我らでは戦えません。此処はクリーミア王女の本隊と合流してからの方が・・・・・」

 「黙れ、馬鹿者が、良く考えんか。此方の砦が破壊された状態で、向こうの砦だけが健在なのは不味過ぎる。更に言えば、龍が商連合国の侵攻軍に向かったのなら、侵攻は失敗に終わるだろう。人が龍に勝てるはずが無いからな。お前は龍が侵攻軍にてこずると思うのか?」

 「・・それは・・・・・・・・」

 「ふん、分かった様だな。龍が奴らを蹴散らして戻って来るまでが勝負なのだ。大体、クリーミア王女の本隊と合流しても、龍が戻って来てしまえば勝ち目など欠片も無いわ」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 ギロリと睨んだ私の前で、副将は反論出来ずに黙り込んでしまった。しかしその顔は苦虫を噛み潰した様で、内心の思いが透けて見えた。十中八九、クリーミア王女を嫌う私が保身に走っていると思っているのだろう。

 「どうせお前はクリーミア王女が来るまでに、此れ以上戦力を減らしたくないと思っているのだろう。私が敵の出方を探る為に部隊を動かす時も反対していたからな。ふん、お前はあの女の支持者だから国益よりもご機嫌取りの方が大事なんだろ」

 「ナッ、将軍、それは違います。私は・・・・・」

 「違うと言うなら行動で示して貰おうか、副将」

 忌々しく思いながら話していたので、私の口調は刺々しい物になり、副将に反論すらさせなかった。途端に副将の顔色が変わり、反抗的な視線を隠そうともしなくなった。そんな副将を厳しい視線で睨み返しながら、私は凍てつく様な声音で告げた。

 「私が砦を攻める事を決めたのはもう一つ理由がある。赤帝国の奴らがどうやって龍を従えたのか、どの様な犠牲を出しても早急に知らねばならんと思ったからだ。故に向こうの砦に居るはずの、龍に乗っていたバルクラント卿を捕らえるのが最優先の目的だ。そうしなければ我が蒼王国に未来は無いと考えている。異論はあるか?」

 「・・・・・・・・・いえ、龍を従えて赤帝国が攻めて来るのなら、我らに勝ち目はありません」

 「なら今すぐ攻撃の用意をしろ。私達が指揮する本隊は正面から戦いを挑んで囮とする。そして別働隊として潜入工作の得意な者を集めて砦に侵入させろ。先も言った様にバルクラント卿を拉致する」

 「ハッ、了解しました」

 不満そうな副将が返事をして出て行くのを見届けながら、私は作戦が終わるまで龍が戻って来ない事だけを祈っていた。


 「将軍、如何やら敵は宴を開いている模様です。此れは本当に好機かも知れません」

 「・・・・・・何だと?」

 夜闇の中での副将の報告に、私は己の耳を疑うと同時に言葉に出来ない嫌な予感に晒された。そしてすぐに、此の状況で宴などを開くだろうか?との疑問が浮かんできた。確かに龍に依って私達が与えられた被害は尋常ではないが、其れでも商連合国に侵略されている赤帝国の現状を考えると違和感しか感じられなかった。

 「・・・周囲に龍の姿は無いな?」

 「物見を周囲に放っていますが報告はありません」

 「・・・・・・・そうか、潜入部隊の方は如何なっている」

 「宴を行っている所為か警戒が緩いので、既に近くまで近づいています。此方が動いて敵の目を引けば、死角から潜入も可能でしょう」

 「そうか、なら・・・・・・」

 私がする数々の質問に、副将は言いよどむ事も無くスラスラと答えた。副将の返答におかしな所は無く、順調に進んでいる事が誰の目にも明らかだった。しかし私は聞けば聞くほどに、得体の知れないものが這いよって来ている様に感じられ、全身の肌が粟立っていた。そして作戦の中止と言う言葉が私の脳裏に過っていた。

 「将軍、何か問題でもあるのですか?将軍の言われた通りに順調に進んでいますよ」

 「ああ、そうなのだが・・・・お前は敵の行動に違和感を感じないか?」

 「いいえ、感じません。まさかとは思いますが、此処まで来てから臆病風に吹かれて、攻撃中止などとは言いませんよね、将軍。此処で中止する位なら、最初から何も行動しない方が負傷兵の為にもなりましたよ。攻撃準備の所為で、唯でさえ満足な治療が出来ていなかったのが、もっと酷くなりました。此のまま何もせずにノコノコ帰ったら、負傷兵たちに恨まれ、必死に高めた士気もガタ落ちです。もう誰も将軍の言う事なんて聞かなくなりますよ」

 「そんな事は言われんでも分かっている」

 行動する前の時の仕返しの様に、ここぞとばかりに嫌味たらしく言い立てる副将にうんざりさせられながらも、言っている事は正しいので覚悟を決めて指示を出した。

 「総員、砲撃と攻撃魔法を門に叩き込め。その後、鬨の声を上げるのだ。我らは囮だが気づかれない様にする為に本気で砦を落とす心算で戦え。良いな」

 「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」

 砲撃や魔法の着弾した轟音を掻き消す様な、鬨の声が周囲から上がった。そして宴を行っていた敵達の驚きの声が響く中で、門の上にいた見張りの一人が外に落ちて来ていた。着弾の衝撃で振り落とされた哀れな見張りだと思って見ていたのだが、十メーラ以上の高さから落ち、何発か攻撃魔法が当たった様に見えたのに、傷一つ無く平然と立つ姿を見て自然と攻撃の手が止まっていた。そして攻撃がなくなって門がハッキリ見える様になり、門まで無傷なのに気づいて辺りは不気味な静寂に包まれた。私も目の前で見たものに肌の粟立ちが酷くなり、咄嗟の指示を出す事が出来なかった。


 「さてと、攻撃されて反射的に飛び降りてしまったけど、まずはタマミズキに攻撃された事を伝えるとしましょうか・・・・フレイお願い」

 「はいはい、分かりましたわ」

 私の声に答えたフレイが夜空に大きな火の玉を飛ばして炸裂させた。夜空を明るく染めてバーーーンと大きな音が響き渡り、此れでタマミズキの方も行動するだろうと思っていると、音で我に返った敵の攻撃魔法が降り注いできた。

 「無駄よ」

 私とフレイは瞬時に炎を纏うと攻撃を呑みこんだ。そして其のまま敵に向かって一歩踏み出すと、指揮官らしき男達の叫ぶ様な命令が聞えてきた。

 「あの女に向かって今すぐ砲撃しろ。敵は女に見えるが門から飛び降り、炎を纏って平然としている化け物だ。容赦はいらん、やれ」

 「魔法兵は其々が放てる最強の魔法を門に放て、騎士は騎乗獣に乗って奴らを迂回して門に向かえ。歩兵隊は盾を構えて時間を稼ぐのだ」

 矢継ぎ早に告げられる指示に従って、敵兵達が素早く行動して応戦の構えを見せていた。その機敏な動きは精兵なのだろうと思わせたが、私にとっては如何でも良い事だった。商連合国との戦いで分かった事は、一般の兵士はおろか精鋭の騎士ですら脅威ではないと言う、厳然たる事実だった。私が気を付けるのはやり過ぎない様にする事なのだ。故に私は風の魔法で誰も聞き逃す事の無いようにして淡々と告げた。

 「私の前に居る敵に告げる。私の目的は将軍の命とそれ以外の全ての人を捕縛して捕虜にする事よ。将軍以外の命をとる心算は無いし、捕虜になった者達にも手荒な真似はしないわ。私は明日来ると言われているクリーミア王女との交渉を有利に進めたいだけ・・・・・」

 「黙れ。何をしている、お前達。敵の言う事を信じるな。砦がどうなったのかを思い出せ。攻撃しろ、此れは命令だ」

 私の言葉に動揺していた敵兵達は、命令と言われて攻撃を開始した。ズドンと音をたてて砲弾が飛んで来たが、私に当たると直ぐに溶けて消滅してしまった。其れを見た敵兵達が顔色を真っ蒼に変えるのを見て苦笑した私は、魔法が放たれたのを見て鋭い声を出した。

 「フレイ、門よ、お願い。私は此のまま敵の方に向かうわ」

 「はいはい、分かってますわ。敵の指示も聞こえてましたし、迎撃の準備は出来ていますわ。紅翼乱舞」

 フレイが空を飛びながら炎を纏った右の翼を振ると、其処から一瞬で羽の形をした炎が何千と放たれた。羽の形の弾丸は誘導弾の様に飛んでいき、放たれた敵の魔法を恐ろしい程の正確さで迎撃した。魔法と魔法がぶつかり合い衝撃が響いた後には、余裕の表情のフレイが悠然と空を飛び、今度は左の翼を振って数千の新しい炎の羽を生み出して待機させていた。その様子を見れば誰の目にも、何度攻撃しても無駄だと感じられたはずだ。其れを横目で見ていた私は、移動しようとしていた騎士達の前の地面を魔法で吹き飛ばして牽制してから、先程の話を続けた。

 「交渉での国の方針は講和よ。私達は蒼王国と戦う意思はないわ。講和がなれば、捕虜もすぐにクリーミア王女に引き渡すわ。其れでもまだ私と戦う心算はある?」

 「嘘を吐くな。どうやったのか知らないが、龍を従えて圧倒的な戦力を得た以上、赤帝国が不倶戴天の蒼王国に侵攻しないはずが無い。この機会に滅ぼして、併呑するのは目に見えている」

 「ないない、それは無いわ。だって貴方達が今戦っている私達は、もう実質的には赤帝国じゃ無いもの」

 「ッ・・・・・・・・・・・・・・」

 私の発言に敵の人達の声にならない叫びが聞こえた気がした。そして辺りはシーンと静まり返り、敵の人達は誰一人身動きする者が居なくなってしまった。其のままかなりの時間が経過し、静寂の中で前に歩く私が敵との距離を五メーラまで詰めた時、後ろの砦の中で騒ぎの起こる音を聞いて立ち止まった。

 「カリーナ、別働隊が居たみたいですわ」

 「そう、でも本隊は私が抑えているし、バルクラント卿と残している者達で問題無いでしょう」

 「ええ、砦の中には龍も居ますし、問題はありませんが、如何やら本隊は囮でバルクラント卿を捕らえる心算だったみたいですわ」

 「へえ、成る程ね。此の状況なら五大貴族のバルクラント卿を捕らえて交渉するのは悪くない案だわ。もっとも今は私が居るからそんな事はさせないけど」

 「いえ、カリーナ、如何やら龍を従える方法を知りたかった様ですわ。別働隊を率いていた隊長が事切れる前に部下達に、此れが最後の機会だと思って死んでも手に入れろと・・・・。言い残した言葉ですから嘘では無いでしょう。今も残された部下達は必死に任務を完遂しようとしていますが、全滅は時間の問題でしょう」

 「・・・・・・・そう、龍が此方にいる理由ぐらいなら、こんな事をしなくても交渉の時にでも尋ねればいいのに・・・」

 「待て、お前は龍を従える方法を知っているのか?」

 「従える方法は知らないけど、龍が一緒に居る理由は知っているわよ」

 「お前は何者だ。お前の言動は貴族には見えないし、何よりバルクラント卿より上位にいる様な言動だ。将軍として重要人物の名などの情報は記憶しているはずなのに、私はお前の様な存在を知らない。それに我らが戦っているのが赤帝国でないのなら、お前達は何だと言うのだ」

 今まで動かなかった将軍が我に返って険しい表情で尋ねてきた。剣に手をかけて全身から剣呑な雰囲気を醸し出しているのを見た私は、場が穏やかになる様な微笑みを浮かべてから、優雅に一礼して名乗った。

 「私の名はカリーナ、名も決まっていない新しい国の王になる者の義妹よ。後ろにいる炎鳥のフレイと契約している契約者でもあるわ。貴方達は龍が従っている理由が知りたいらしいけど、理由は単純明快で実力よ。お兄ちゃんは龍と契約した龍人で龍達より強いのよ。龍は国に従っているのではなくて、お兄ちゃんに従っているだけなの」

 あまりと言えばあまりな理由に、聞いていた皆はポカンと口を開けて呆然とし、将軍の掠れ声が弱弱しく響いた。

 「・・力だと言うのか・・・・それでは・・・・我が国は・・・・・・」

 「まだです、将軍。その女が本当に王の義妹なら、捕らえれば人質にできます。総員武器を構え・・・・」

 「無駄よ。武器を燃やすと決めた」

 私は金の炎を拡大して敵の本隊を包み込んだ。すぐに武器が熱されて手に持てなくなって、悲鳴が其処ら中で聞こえた。

 「ギャア、熱い・・・・・・・」

 「あち、あち、あち」

 「うおおお、胸元に忍ばせていた短剣が・・・・・・」

 「・・・・・・総員武器を捨てろ。副将、無駄な事はするな。お前は炎を纏う者をどうやって捕らえる心算なのだ」

 絶句した副将を一瞥した将軍は、私に向かって肩を竦めてから淡々と話し始めた。

 「必要なのは私の命だったな。持って行け。私は我が国が蹂躙されるのも、属国と化すのも見たくはない」

 「うーん、想像していた人物と違うわね。貴方はクリーミア王女と敵対していて、先走って攻撃してきたと聞いていたんだけど・・・・」

 「先の戦闘で捕虜になった兵士にでも聞いたのか?其れならさぞかし器の小さい俗物だと思われただろうな」

 言いよどむ私から察したのか、将軍は苦い表情で言わなかった部分を口にした。そして自虐的な笑い声を出して話を続けた。

 「ククククク、此処に居る副将を筆頭に、クリーミア王女を慕う者達は多い。なのに私はあの女を嫌っていて、面と向かって扱き下ろす事もあるから皆から嫌われている」

 「理由を話す気はある?」

 「無いな」

 「そう、なら一つだけ尋ねるわ。王女の噂について何か知らない?」

 私が小さな反応も逃さない様にジッと見つめる中で、将軍は目を瞑って表情を殺して無機質な声で答えた。

 「・・・・・・噂だと?何の噂か分からないが、私が答えられる事は無い。もう良いだろう。やってくれ」

 「・・・・・・・・・・止めたわ。貴方も捕虜にする」

 「なに?其れは如何言う心算だ」

 「さあ、私の女の勘が此処で殺さない方が良いと言っているの。其れだけだから気にしても無駄よ」

 将軍は私がパタパタと手を振ってした返答に、何とも言えない顔をしていた。私は其れを見ながら、先程見た深い諦めと悲しみの宿った視線を思い出していた。そして前に話をしていた時の違和感と今話した時の様子を見て、如何やらこの将軍が王女を嫌うのはちゃんとした理由がある様だから、其れを調べる事で王女の違う一面を知り、隠された秘密に迫れるかも知れないと思った。それと同時に一度は処分しようとしていながらあれだが、知れば将軍の事情にも何か出来るかも知れないと考え、私の中の何かがこの一件に関わるべきだと感じていたのだった。

 「うお、なんだあれは」

 突然夜空に綺麗な花火の様な物が数発放たれた。私は其れを見てフレイと視線を合わせて頷き合うと、驚く者達に告げた。

 「あれはタマミズキが敵陣を押さえて、負傷兵や残っていた者達を確保した合図よ。負傷兵は天狐の治療が受けられるから、助からないとされていた者も死んでなければ助かるわ。だから安心して大人しく砦までついて来なさい。もう帰る陣地も無いんだから逃げても無駄よ」

 返事も聞かずに踵を返して歩き出した私に、将軍達はもう何が何だか分からないと言った様子で、諦観を漂わせながらトボトボと後ろをついてきていた。

 次話の投稿は13日までに投稿します。今週の後半は予定があるので詳しい日時は指定できません。いきなりあれですが、今年も頑張りますのでよろしくお願いします。

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