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契約者達と金色の卵

 「はあはあ、ようやく地上に出れたな。しかし日が傾き始めている所を見ると、かなりの時間が経っていたんだな。お腹もすいたし、早く帰ってカリーナの手料理が食べたいな」

 「ロベール、現実逃避はやめた方が良いんだ。後ろの奴らを如何にかしないと帰りたくても帰れないんだ」

 シグルトの言葉に肩を落とした俺は、走るのを止めて諦めの表情と共に後ろを振り向いた。其処には続々と際限なく地上に出てくる掘削魔虫が、俺達を包囲する様に追って来ていた。

 「さてと、地上に出てすぐに全力で走って引き離したから、俺達の姿は見えていないはずなんだが・・・・・まだ追って来ているな。見た感じではもうすぐ五万匹を超えそうだし、どう対処するべきかな?」

 「どうやって追って来ているのかは、残念ながら分からんぞ。前に掘削魔虫と戦いになった時は、地上に逃げたらもう追ってこなかった。今回の様に万を超える数が追って来るなど異常過ぎる」

 「ロベールが逃げる時に崩落させたと言ったけど、それって巣を壊したと言えるんだ。だから怒っているんじゃないかな」

 「成る程、そう考えればこの状況も分かるな。なら此処はロベールが責任をとるべきだぞ」

 責任は全て俺にあると言って対処を押し付けようとするルードルを、ジトーとした視線で見つめながら淡々と声を出した。

 「対処法は本当に無いのか?」

 「思いつかない。目の前の奴らと戦っても女王が地下に居る限り無駄だ」

 「・・・・・転移して逃げるのは駄目か?」

 「不確定領域では真面に転移出来ないんだ。だから地下でも転移しなかったんだ。それに此のまま放って置くと、不確定領域を出てガルーンに向かうかも知れないんだ」

 「クク、其の可能性は高いな。此処に来る時に通った誰かさんが作った道があるから、邪魔をされずに一直線で到達出来るぞ。ただの人間が襲われたら一溜りもないな」

 ルードルの意地の悪い言葉に憮然とした俺は一度目を瞑って考えた。そして目を開いた俺は肩を竦めてニヤリと笑うと思考方法を切り替えた。

 「此処で掘削魔虫は巣ごと殲滅する。女王は地下のどの位の所に居るか分かるか?」

 「地下百メーラは考えて置いた方が良い。しかし上は山なのに如何する心算だ?」

 「魔法で攻撃するだけだ。幸い此処は不確定領域だから周囲の被害は考えなくていいだろう」

 「ロベール、上級魔法を強化して使う心算なら気を付けないといけないんだ」

 シグルトの警告に俺は、不敵に笑って答えた。

 「いや、強化はしない。今回は純粋に自分の魔法を全力で放って、その威力を確かめる心算だ。先程から魔法を使うたびに、前より威力がある様に感じて違和感があるんだ。ふふ、ちょうどいい機会だから確かめさせて貰う」

 俺は一歩前に出ると、近づいてくる掘削魔虫をピタリと見据えて朗々と響き渡る声を出した。

 「水よ、天より降り注ぐ恵みの雨と成りて、我が求めし対象の周囲に振り注げ」

 上空からポツリポツリと雨粒が降って来たと思ったら、すぐに豪雨になって一面が水浸しになり、水溜りが出来始めた。するとシグルトとルードルが障壁を頭上に張って雨を弾いて、ずぶ濡れになった体を震わせて俺に非難の視線を向けて来た。俺はその突き刺さる視線に気づいていたが、今は其れよりも目の前の豪雨を見て、確信に変わった疑念を何とかする方が先だった。

 「雨を降らせようとして豪雨が降ったから威力は確実に上がっている。だが山の周囲だけに振らせるはずなのに、俺達まで濡れているから範囲の制御がおかしくなっているな。魔力を絞って・・・・こうすれば・・・・・」

 俺が魔力を調節すると、雨の降る範囲が掘削魔虫のいる場所に限定された。其れを見届けて変化した力の使い方を何となく理解して掌握した俺は、ニヤリと笑ってから冷え冷えとした声を出した。

 「恵みの雨よ、全てを融解する漆黒の雨に姿を変えよ。漆黒酸雨」

 降り注ぐ雨が漆黒に染まり、雨粒が当たった大地や草木がジュウジュウと音をたてて融けた。そして掘削魔虫の自慢の甲殻も漆黒の雨に晒されて、音をたてて穴だらけになっていった。

 「「ギィィィィィィィィーーーーー」」

 掘削魔虫達の苦痛の鳴き声が辺りに響き渡り、ザーザーと振る雨音を掻き消しそうな程の大きな音になった。しかし時が経つにつれて、一匹また一匹と生きながら体を融かされる掘削魔虫は地面に倒れ込み、起き上がれないまま漆黒の雨に晒されていた。

 「・・・ロベール・・・この魔法は封印した方が良いんだ。見ているだけで怖気が走るんだ」

 「・・・・・生きたまま融かされるなど、真面な死に方じゃない。しかも即死では無いから、悪戯に苦痛を長引かせる意味でも最悪だぞ。一思いに殺す魔法もあっただろうに、何故こんな魔法を使った」

 体を震わせるシグルトと非難の視線を向けて来るルードルを見て、俺は真剣な顔になって感情を殺した声を出した。

 「確実に女王と巣を殲滅する為だ。先程地上で見た五万匹の掘削魔虫の姿は他国の軍より脅威だと感じた。まして総数は十万匹なのだから、万が一にも外に出す訳にはいかない。此の魔法は大地を浸食して漆黒に染める。そして染まった場所は毒性のある死の大地になる」

 俺が掘削魔虫達が死んでいった大地を指さすと、シグルトとルードルは息を呑んで言葉も無い様だった。其処は何時の間にかに漆黒の雨水が溜まり、ジュウジュウ、グツグツと音をたてて大地をドロドロに溶かして沼地の様な有り様になっていた。

 「王と言う者が如何言う存在かも知らず、自分が王になると言う事の意味も実感できていない俺だが、人々を守る意思は持っている。俺の行動でガルーンに向かう可能性があるのなら、俺の手でその可能性を完全に摘み取らなければならない」

 俺の断固とした意志の籠った言葉に、シグルトとルードルはハッとした表情をして黙り込んでしまった。そんなシグルト達を背にして、俺は静かに周囲を見回した。山の周囲は既に死の沼と化していて、沼の中で掘削魔虫があがく姿が見受けられた。そして巣から続々と出て来ている新手も、漆黒の雨に晒されて周囲の沼に沈むばかりだった。

 「・・・・・さて、ようやく先に地上に出ていた奴らは全員死の沼に沈んで全滅した様だな。其れに地下の方も浸食されて毒に阻まれているはずだ。もう一匹たりとも山から出てこれないだろう」

 シグルト達がハッとして俺の顔を見つめてきていた。俺はそんな二匹を見つめ返してから毅然と告げた。

 「此れから最後の仕上げに入る」

 俺が魔力を調節して、漆黒の雨の範囲を山とその周囲から山だけに絞り込むと、豪雨は滝の様な雨に変わった。そしてドバドバと降り注いだ漆黒の雨によって、まずは山頂が漆黒に染まり消えた。大量の雨水が山に侵食して融解させているのだ。俺が見ている僅かな間にもみるみると山が色を変えて上から無くなって行った。

 「・・・・此れは大量の雨で・・・山を無くす心算か?そんな馬鹿な・・・・・・」

 「・・・・・強化せずに此れだけの事を出来る力が・・・・」

 「ああ、今の俺にはある。如何やら俺が過去の一部を克服した時に感じた感覚は、気のせいじゃ無かったらしい。魔法の力は精神力も影響するから、たぶん俺とカリーナは過去に決着がついて心の安定を取り戻すまで、本当の力を発揮出来ないんだと思う。俺の転移が上手く行かないのも其の所為だ」

 俺が心の中で、刃物を見ない様に拒絶していた精神では当然だと自嘲していると、ルードルが震える声でそっと尋ねてきた。

 「・・・・・・つまり二人は今より強くなると?」

 「ああ、俺はそう感じている。其れに俺は如何やら最近になって、ようやく自分の変化を受け入れたみたいだ。其れまでは心の中で無意識に変化を拒絶していた部分があったんだろう。受け入れた今は前より大きな力を振るうのに躊躇が無くなっているし、魔法や能力にようやく馴染んできた様だ。それに俺は空から飛び降りたり、地を全力で駆けたりするのが楽しいらしい」

 ルードルが驚愕しているのを横に、シグルトは俺をジッと見つめた後、微笑んでからポツリと呟いた。

 「何か外を駆け回る小さな子供みたいなんだ」

 「ウッ・・・・・・・・」

 シグルトの呟きと微笑みに心をえぐられた俺は、頬をピクピクとひくつかせてしまった。

 「ま、まあ良いじゃないか。其れより終わったぞ」

 俺が注意を引くように指で山の方を指した。そこはまだ漆黒の雨が降っていたが、俺が魔力の供給を止めるとピタリと止んで良く見える様になった。そして其の光景が見えた瞬間に、シグルトとルードルはポカンと口を開いて言葉を失ってしまった。何故ならそこにあった山は影も形もなく、代わりにあるのは大地にぽっかりとあいた大穴だけだったからだ。

 「いやーー、綺麗さっぱり無くなったな。おお、山の向こう側は森だったんだな」

 「・・・・・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・・・」

 明るい声を出して場を和ませようとした俺だったが、無言で大地を見つめ続けるシグルト達の前には無駄だった。まあ大穴の周囲の大地はシュウシュウと音をたてていて、此処まで毒素が漂ってきそうなのを考えれば無理も無いかも知れなかった。俺も態度を変えて、勝手に巣に入ったのは俺達だったしなと思いなおし、手を合わせて目を瞑って冥福を祈る事にした。

 「・・・ロベルト、お怒りみたいなんだ」

 「ぬう、流石にやり過ぎだと思っていたのだが、どうも違った様だな」

 俺が目を開いて前を見ると、大穴から五メーラ程の真っ赤な掘削魔虫がボロボロの甲殻を晒して現れていた。

 「・・・・・おいおい、あれで死ななかったのか?死の沼にも平然と立っているし、あれは女王だと思って良いのか?ルードル」

 「ああ、前に見た事のあるのより大きいが女王で間違いない」

 「はあー、じゃあ今度こそ確実に倒すとしますか。女王が生きていたら此処までやった事が全て無駄になる」

 俺は三メーラの雷の槍を造り、確実に倒す為に限界まで強化した。そして俺はバチバチと放電する臨界を超えそうな雷の槍を放った。ドンと大きな音をたてて、一瞬と言って良い程の速度で女王に直撃した雷の槍は、甲殻の傷付いた腹に突き刺さり、其のまま放電を始めた。とたんにバリバリバリバリと凄まじい音が響き渡って、女王の内臓が焼き尽くされるのが此処からでも分かった。

 「此れで流石に終りだろ。今度こそ冥福を・・・・・・・」

 「キィキィキィィィィィィィィィ」

 「・・・・如何やらまだの様なんだ」

 シグルトの声を聞きながら、俺は視線でルードルに問いただした。

 「・・・・・・言いたい事は分かるが、僕も初めて見た。しかし内臓を焼かれても一瞬で再生出来るのなら漆黒の雨の中で生きていた事も理解出来る。それに考えて見れば今も死の沼に立っていられるのは再生能力の所為なのだろう」

 「うん、再生出来ない様な強大な一撃で瞬殺しないと駄目なんだ。だから・・・・・」

 「ああ、もう良いよ。分かった、分かりましたよ。なんか一気にむなしくなって来た。結局は一気に大火力で焼き尽くせと言う事だろう。はあーーー、最初から最後は力技になると分かっていたら、強化した上級魔法で全てを消し飛ばせばよかった。シグルトとルードルは俺の魔法が完成したら、女王をあの大穴の上まで吹き飛ばせ。出来るな」

 俺がギロリと見つめると、二匹は引きつった顔でブンブンと頷いてくれた。その様子に満足した俺は、怒りの混じった声で魔法を使った。

 「深き地の底に蓄えられし火の力よ、我が怒りの呼び声に従い、山の怒りの様に噴きあがれ、地炎噴火」

 俺の声が響くのと同時に大地がゴゴゴゴゴゴゴと鳴動し始めた。そしてグラグラと大地が立っていられない程の揺れに見舞われた。

 「シグルト、ルードル、今だ」

 俺の声に反応したルードルが大地を隆起させて女王を跳ね飛ばして宙に浮かせると、すぐさまシグルトが風の砲弾を撃ち出して大穴の上まで吹き飛ばした。

 「キィィィィキィィィィ」

 甲高い鳴き声を上げて大穴の上に到達した女王の体に、下から噴きあがった灼熱の炎が直撃した。

 「ギィィィィィィ・・・・・」

 苦痛の声を上げた女王はジュウジュウと音をたててその身が焼かれている事に気づくと、ボロボロの甲殻を下にして吹き上がる炎に対抗しようとした。しかしボロボロの甲殻では完全には防げず、焼かれては再生する事を繰り返す事になっていた。そして徐々に再生速度が遅くなっているのが、俺の目にも分かる様になっていった。

 「キィィィキィキィキィ」

 此のままでは不味い事に気づいた女王は、自らの甲殻を引きちぎって何かを包み込んで投射した。投射した物はものすごい速度で死の沼を越えて、何故か俺の三十メーラ前の大地に突き刺さった。俺が近づいて見ていると、其処には生まれたばかりと思われる赤っぽい甲殻の掘削魔虫がいた。

 「・・・・・・これは次の女王か?なぜ俺の方に飛ばした?逃がすなら反対の方向に飛ばせば良いだろが・・・・・クッ、此奴を見逃す訳には・・・・」

 「キィキィィィィ、ギィィィィィィィィィ」

 甲高い鳴き声に炎を見ると、ちょうど甲殻を失った女王が炎に呑み込まれる所だった。その光景を見た俺は、女王がジッと此方を見つめてきている様に感じられた。其れに対して俺が考える間もなく、真っ赤な炎は女王を完全に呑み込み、邪魔者の居なくなった炎は噴火の様に空高くまで噴きあがり、大穴の直径まで広がり周囲を赤く染めた。

 「ぎゃあ、危ないんだ」

 「おい、何を考えている。女王とはいえ一匹の虫の為に此処までするな。うおおおお」

 背後のシグルトとルードルが騒がしいのは、周囲に降り注ぐ火の粉の所為だ。先程からかなり離れている此方にも火の粉が飛んで来ていた。

 「ま、まあ、強化した魔法で威力もあり、燃え盛っているから火の粉の一つや二つは飛んでくるさ」

 「何が火の粉だ、ふざけるなよ。空から降ってくる直径一メーラもある火の玉を火の粉と言うな」

 「全くなんだ。火の粉は周囲の沼にも落ちていて、気化した毒素で被害も出ているんだ。女王ももう死んでいるだろうからすぐに魔法を止めるんだ」

 「もう止めているぞ。この魔法は力の放出が終われば自然と消える魔法だ。だから使ったら消えるまで放置しておくだけだ」

 「・・・聞きたくないが一応聞いておく。何時消える?」

 「強化したから半日くらいは持つだろうな。二度ある事は三度あると言うし、万が一を無くし確実に女王を殺そうと思ったんだ。実際に俺は二度殺し損ねているしな。まあ火の粉が飛び散っているのは想定外だったが、周囲は不確定領域だし、問題無いだろ。ははははは」

 肩を竦めながら笑う俺の顔をシグルトがマジマジと見つめ、ルードルは首を振って諦めの表情になってしまった。自分でも笑い声が乾いていると思ったが、あえて気にしない様にしていると、ルードルが鋭い声で今一番聞かれたくない事を尋ねてきた。

 「で、それは如何するのだ。出来ないなら僕がやるぞ」

 渋面になりながらも俺は首を振って、自分で蹴りをつける為の行動に移ろうとした。しかしその時、火の粉が其れに直撃する軌道で飛んで来るのが目に入り、俺は反射的に火の粉を振り払ってしまっていた。

 「ロベール・・・・・・・・・」

 シグルトの心配そうな呼び声が背に響いて、俺はピクリと体を震わせてしまった。そして俺は手をギュッと握りしめてながら、自分の心に問いかけ、一つの結論を出した。

 「半端な行動で悪いが、此奴は空間にしまわせてくれ。俺は今此奴を殺したくないらしい。どうするかは後で冷静になってから決めたい」

 「・・・・ふん、好きにしろ。ただ責任はとれよ」

 「・・・・ロベール、僕はちょっと安心したんだ。デルワー熊を殺せなかった時の優しい心が、まだきちんと残っているのが確認出来たんだ。僕は甘いと非難を受けても、その気持ちはずっと失わないで欲しいんだ」

 「・・・・・はは、本当に俺は甘いな。此処までやっておいて最後までやりきる事も出来ないんだから・・・。この分ではこの前の戦いも、リグレス公爵が最後に戦わなかったら、完遂出来なかったかも知れない。だが其れでも歩みを止めずに歩き続けて見せる。其れが必要なら今日出来なくても明日は出来る様になって見せる」

 そう宣言した俺は新しい女王を空間にしまうと、シグルト達の方に向き直って告げた。

 「心配させたな、シグルト、ルードル。こんな時は大丈夫だと言うのだろうが、カリーナもいないし本音を出すよ。俺は色々と甘かったりするから、今後も支えてくれ。情けないが完璧には程遠いみたいだ」

 「勿論なんだ。僕はずっと一緒に生きる契約相手なんだから・・・・」

 「フッ、とても主には聞かせられない言葉だな。一応覚えて置いてやる」

 わざとらしく鼻を鳴らすルードルに苦笑した俺は、シグルトの言葉に胸を暖かくしながら女王が消えた炎を見た。そして其のまま暫く皆で何となく噴きあがる炎を見ていると、突然鳥の羽ばたきと共に声が聞こえた。

 「恐ろしい力を使っているな、人の子よ」

 ハッとして頭上を見ると、そこには一メーラ程の黒い鳥が飛んでいた。慌てて身構える俺達に、黒い鳥は地に降りて来て、静かな落ち着いた声で話しかけてきた。

 「儂の孫から何度も逃げ延びている人間がいると聞いて、どんな人間か見に来たのじゃ」

 「こんな魔法を使う人間ですが?見た感想を窺っても良いですか?」

 俺がその声音から戦う意思はないと感じて軽口を叩くと、黒い鳥は楽しそうに笑った。

 「クク、面白い子だな。儂の力を感じていない訳ではあるまい」

 「感じていますが、恐れる必要はありません」

 お互いの相手を窺う視線がぶつかり合い、緊迫感が漂いそうになった。しかしすぐにお互いの力量を感じて視線を逸らし、苦笑いを浮かべて話しを続ける事になった。

 「儂はヤトスと言う。如何やら孫は見逃されていた様だな。何故殺さなかった?」

 「何となく殺すと不味い様な気がしたんです。それに俺の魔力を吸収した金色の卵が、殺すなと言った様に感じました」

 「なに、魔力を吸収させたのか?なんという事をしてくれたのじゃ。今すぐ卵を儂に見せるのじゃ」

 「待て、卵に魔法を使ったのか?聞いていないぞ」

 顔色を変えたヤトスとルードルの双方から大声を出され、厳しい視線で睨まれた俺は、ギョッとして後ずさってしまった。

 「俺は卵に魔法を使ってない。ただ掴まれて空中に居た時に魔法で攻撃したら、二度目の攻撃の時に吸収したんだ」

 言い訳がましく事情を声に出しながら卵を出すと、マジマジと見たヤトスが悲鳴を上げた。

 「ああああああ、何と言う事じゃ。もう此の卵は手遅れじゃ。今更取り戻しても意味が無いのじゃ。おおおおおおお」

 「魔力を吸収して消費している。・・・・・やはりこの金色の卵は・・・・・」

 ルードルの呟きも気になったが、俺はあまりにも悲痛な声を上げるヤトスに話し掛けた。

 「ヤトスさん、俺は此の卵が何の卵かも知りません。偶々転がって来たのを受け止めただけなのです。知っている事があるのなら教えてくれませんか?」

 「・・・・・・・・本当は人間には教えたくないのだが・・・・この子の為じゃし仕方ないのう」

 そう言ったヤトスさんは、態度を改めて厳粛な雰囲気になった。そして重々しい声を出した。

 「此の金色の卵は儂らに至高鳥と呼ばれている鳥の卵じゃ。人間は黄金鳥などと言っているが、儂らはその呼び名を認めた事は無いし、嫌っておるから出来れば儂らの前では呼ばないで欲しいのじゃ」

 「分かりました。シグルト、ルードル、俺は至高鳥なんて知らないんだが知っているか?」

 「僕も知らないんだ」

 「僕は名前は知っている。だが昔に絶滅したと認識していた」

 「その通りじゃ。人間の乱獲にあって儂らの一族が守っていた者以外は全滅しているはずじゃ」

 「・・・・・乱獲だと?穏やかじゃないですね。何かこの至高鳥には乱獲したくなる様な問題があるんですね?」

 「ある。至高鳥は羽が落ちると金や宝石に変わるのじゃ。人間どもは其れに目の色を変えて乱獲したのじゃ」

 「・・・・・・成る程、しかしそれなら捕まえた後は大切にされて、殺される事はないので絶滅するとは思えないのですが?」

 顔を顰めて首を振ったヤトスさんは、悲しそうな雰囲気になって話し始めた。

 「至高鳥は長く生きると炎鳥とでも戦える力を持つ鳥じゃ。じゃが至高鳥には致命的な性質がある。其れは生きる為の糧が卵の時に吸収した魔力だと言う事じゃ。つまり此の卵から生まれる至高鳥は、今後お前さんの魔力が無いと生きられないと言う事じゃ」

 「・・・・・・・何だと?其れでは俺が死んだらどうなる?いや、抑々至高鳥の寿命は何年だ?」

 「至高鳥に寿命はないのじゃ。お前さんが死んで魔力が得られなくなった時が死ぬ時じゃ」

 「・・・・・此の卵を返してももう無駄なんだな?」

 「無駄じゃ、一杯になるまでに一番多くの魔力を吸収させた者が魔力供給者になるのじゃ。じゃが、此の卵は既にお前さんの魔力で一杯じゃ。もはや如何にもならんのじゃ」

 右手で顔を覆った俺は、心の中で何て事だと嘆いていた。正直言って他者の命を背負うのはシグルトだけで十分だった。

 「・・・・何時生まれる。其れに育てるには如何したらいい?」

 「生まれるのは数日後じゃ。生まれた後は触れれば勝手に魔力が吸収されるのじゃ。四半月に一度くらいの頻度で必ず触れてやってくれ。其れだけで後は何もしなくて良いのじゃ」

 「そうか、それは楽で助かる」

 「楽か・・・それは・・・・確かにそうじゃろうな。人間のお前さんに言うのは無駄かも知れないが、もし卵が生まれたら儂に渡して貰え無いかの?」

 「待て、生まれるのは雌だと分かっているのか?」

 「至高鳥に雌雄は無いのじゃ。三百年以内に一個の卵を生むのが基本じゃ。しかも産んだ卵は放置するのが至高鳥の習性じゃ。その所為で力の弱い人間でも、卵を乱獲して魔力を吸収させれたのじゃ。じゃが、百年程度しか生きる事の出来ない人間が魔力供給者になったら、新しい卵を産む前に大半の至高鳥が死んでしまうのじゃ。じゃから・・・・・」

 「成る程、それが原因で絶滅に追い込まれたのか・・・・。分かった、必ずヤトスさんに渡すとは約束出来ないが、確実に次の卵を産めるだけの寿命のある者にしか渡さない事は約束する」

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 無言でジットリとした視線を向けて俺の様子を窺うヤトスさんの姿に、此れは疑われているなと思い、肩を竦めて苦笑してから声を出した。

 「シグルト、ヤトスさんに見て貰ってくれ」

 シグルトはすぐに俺の意図を察して、掘削魔虫の巣で回収した金色の卵を出した。ヤトスさんは卵を見た瞬間に大きく目を見開くと、飛びつくように状態を確かめ始めた。

 「おおおおおおお、此れは・・・・・今ならまだ孫の魔力を吸収させれば何とかなるのじゃ。儂に報告されたのは一つじゃったが、二つ持っておったのか?」

 ジトーと見つめて問い質してくるヤトスさんに、俺はうんざりしながら返答した。

 「その卵はヤトスさんの孫に追われた後で掘削魔虫の巣の中に入って見つけた。俺達は此処に月光石などの鉱石を求めてきたんだ。孫から話を如何聞いて如何思われているのか知らないが、俺達は至高鳥の卵に用は無かったんだよ。偶々転がって来たのを止めたら、意味も分からずに鳥達に襲われたんだ。その卵が問題無いなら持って行っていいぞ、と言うかむしろさっさと持って行ってくれ」

 「うん、ルードルは卵を見てもしかするとと思ったみたいだけど、僕もロベールもその卵が何の卵かさえも今説明されるまで知らなかったんだ」

 俺達の言葉に何を思ったのか、下を向いたヤトスさんは重苦しい声音で謝ってきた。

 「すまなかった。儂らは過去に人間と色々あり、人間を信じる事を止めているのじゃ。お前さんは龍や魔狼と一緒に居るから普通の人間ではないと思ったのじゃが、人間には違いないと思っていたのじゃ」

 「・・・その声音から察するに、聞いて気分の良くなる過去では無いのでしょうし、今更俺が人間として誤った所で、意味はないでしょう。だから俺が居なかった変えられ無い過去の話は聞きません」

 其処まで口にした俺は、ヤトスさんの目を見て真剣な顔と声で話し掛けた。

 「今は俺が居ます。俺の傍にいる至高鳥のついでで良いですから、此れから変わって行く新しい国の人々を見て貰えませんか?」

 「・・・・・お前さんは何者じゃ?」

 「俺の名はロベール、赤帝国と呼ばれていた場所に出来る予定の新しい国の王になる者です。普段はリラクトンと呼ばれる町に居るので、良ければ俺の名を出して訪ねて来てください。貴方の名前を伝えておきます」

 「王じゃと・・・・・・・・・」

 ヤトスさんの目つきが一瞬で厳しくなったが、俺が平然としていると複雑そうな顔で話し始めた。

 「騒ぎになるじゃろうし、儂が人の町に行っても良いのか?それにもし儂が暴れたら如何するのじゃ?」

 「初めは兎も角、龍も居ますから今更ヤトスさんが来たぐらいでは問題になら無いでしょう。それと暴れるのなら気を付けてください。ヤトスさんなら龍が居れば止められますし、何より俺が人を傷付ける事を許す心算がない」

 そう言った瞬間に俺は自身を限界まで強化して力を解放していた。ヤトスさんはビクリと震えると、見切ったはずの俺の力の大きさに愕然として表情を歪めながら、まじまじと此方を見て立ち尽くしてしまった。

 「俺の守る人達を傷つける者は何であろうとああなる」

 俺が指さした場所は、未だに炎が噴きだしている大穴があり、周囲に火の粉が舞い散り、更に其れが死の沼に落ちて、漆黒の水が音をたてて蒸発している凄惨な場所だった。。ヤトスさんの顔が目に見えて引きつって行くのを見ながら、俺はニッコリと微笑みを浮かべて冷たい声を出した。

 「特に俺にはカリーナと言う妹がいるが、暴れたりして掠り傷でも負わせたら・・・・ククク、分かるな?」

 ガタガタ震えながら頷く姿にやり過ぎたかと思って力を抑えると、ヤトスさんは隠そうともせずにホッと息を吐いて安堵していた。

 「さて、お孫さんも来た様だし、俺達はもう行かせて貰って良いか?夜になる前に不確定領域を出たいんだ」

 「引き止めはしないのじゃ。その方が孫の為じゃし」

 東の空から慌てて飛んで来ている孫を一瞥したヤトスさんの言葉に、俺は苦笑いを浮かべながら自分が魔力を吸収させてしまった至高鳥の卵を空間にしまった。そしてヤトスさんに背を向けて一歩踏み出した。

 「折を見て、様子を見に伺わせて貰うのじゃ。至高鳥は儂が知る限り百羽以下なのじゃ。その子の事をどうかお願いするのじゃ」

 「安心しろ。妹のカリーナと同じ扱いは出来ないが、シグルトと同じ位には大切にするよ。それと至高鳥について言っていない事があるのも薄々分かっている。触るだけで良いとか明らかに都合が良過ぎるし、美味しい話には裏があるのが普通だろ。生まれた卵の話は、それ相応の話を聞いてから考えさせて貰おう」

 背中にかけられた言葉に返答して、振り返らずに手だけを振った俺は、全速力でこの場を後にした。


 「フレイ、タマミズキ、お兄ちゃんがいないのに緊急会議を開くなんて、一体何があったんだと思う?」

 「分かりませんわ。でもロベールの帰りを待てない程の事態なのは確かですわ」

 「そうね。私が考えられるのは居なかったバルクラント卿に何かあったか、敵が動いたかぐらいですわね」

 「・・・・・そう言えば、今日の朝の話し合いにはニルストさんも居なかったわね。なんか嫌な予感がし始めたわ」

 私達が話しながら移動して会議をする部屋にたどり着くと、そこには緊迫した雰囲気のリグレス公爵達がいた。特にニルストさんの顔色が目に見えて悪く、私の中の嫌な予感が限界まで高まった気がした。

 「よし、皆揃ったな。ニルスト話してくれ」

 「はい、父上から伝令が来ました。その内容ですが、向かった国境では既に数千人規模の戦闘が起きていて、その牽制として龍が蒼王国の砦に攻撃しました。そしてその結果砦は半壊し、周囲の土地はボロボロになったそうです。しかも着いた時に名乗りを挙げて、その中でロベールの名を出してしまったそうです」

 一瞬で部屋の雰囲気が重くなり、私はお兄ちゃんの名を出したと言う部分に眉を顰めてしまった。

 「既に戦争が起きていると思って良いの?まさかとは思うけど、お兄ちゃんが戦争を仕掛けた事になるんじゃないわよね」

 「バルクラントに入って戦っていた敵は捕虜にしたそうです。だから普通なら此方から仕掛けた事にはならないでしょう。ですが今回は龍の攻撃の被害が大き過ぎました。相手の行動次第ではどうなるか分かりません」

 「そんな・・・・・リグレス公爵達はどう判断していますか?」

 「一応援軍の用意はする心算だが、私達は相手の出方を待つしかないと思っている」

 「うむ、メルクラントに居る者達に言って戦う用意はしているが、出来れば避けたい物だ。国内がボロボロの状態で戦い続けるのは得策ではない」

 「そうだな。ガルトラントは砦も失い、此れから立て直さなければいけないのだ。出来れば交渉で何とかして貰いたいな」

 三人の発言に、この場に居るミルベルト卿とロベルトも口にはしないものの頷いているので、戦いを回避したいと思っているのが良く分かった。その様子を見て私も、お兄ちゃんならこんな時如何考えるのかなと考えて、心の中で一つの結論を出した。

 「交渉はバルクラント卿がするのですか?」

 「・・・・・赤帝国では他国との重大な交渉は皇帝陛下の命を受けた者か、皇族に連なる者しかできない。蒼王国は帝都が消滅した事を知っているし、皇帝陛下が既に死んでいる事も知っている。だから普通なら私が行くのが良いのだが・・・・」

 「ふふふ、違いますよね。交渉をするのは赤帝国と蒼王国では無く、新しい国と蒼王国です。此処で赤帝国として交渉したら新しい国は造れない。だからお兄ちゃんが行くべきなのでしょう」

 「・・・その通りだ。しかしロベールは今・・・・・」

 「ええ、いません。だから此処は妹の私が行きます。お兄ちゃんには帰って来たら伝えてください」

 「カリーナ殿、折角の申し出だが・・・・・」

 私はリグレス公爵が全てを言い終わる前に目を細めて、身に纏う雰囲気を毅然とした名家の令嬢に相応しいものに変えた。すると皆の顔に驚きと緊張が走った。

 「リグレス公爵、私の心配は無用です。普段はお兄ちゃんが傍に居るのでやらないだけで、交渉位は私でも出来ます。お兄ちゃんが居ない間を支えるのは私の役目で、望む未来へ行ける様にするのは、私が決めた自分のやるべき事です。この行動の邪魔は誰にもさせません」

 「はは、普段からそう言う態度で居た方がロベールの好感度が上がるんじゃないか?」

 「ロベルト、私はお兄ちゃんを支えたいとか、助けたいとか、守られるのでは無く守りたいとか思っているけど、基本的にはまだお兄ちゃんの可愛い義妹で居たいの。どうせ時間が経てば自然とそう振る舞わないといけなくなるんだから・・・・」

 「成る程な。それは俺には無かった考え方だ。俺の場合はアリステアに相応しくなる様に、一日でも早くそう振る舞える様になりたかったからな」

 しみじみと口にするロベルトの姿に、私が何とも言えない気持ちになっていると、メルクラント卿が話し掛けて来た。

 「カリーナ殿、ロベール殿もその様に振る舞えるのか?」

 「え?うーん、私は見た事無いけど、たぶん必要になったらやれると思います」

 「ほう、そうかそうか。其れなら安心だ。貴族を呼び集めた時に普段の態度だと問題だからな」

 「ククク、普段のままの態度で話す方が面白そうなんだがな」

 「リグレス公爵」

 メルクラント卿が面白がるリグレス公爵を睨んで窘めていると、ガルトラント卿が咳払いをした。

 「んん、二人とも話がそれているぞ。今話す事は国境の事態を如何するかだ。カリーナ殿に任すので良いのか?」

 「ふむ、私はそれで良いと思うが、反対の者はいるか?」

 リグレス公爵の呼びかけに皆は無言で首を振っていた。其れを見て満足そうな顔をしたリグレス公爵は、私を見て真剣な声で話し掛けて来た。

 「基本方針は交渉で平和的に収めたい。方法などは全て任せるが、無理はしない様にしてくれ。カリーナ殿の安全が最優先だ」

 「分かりました。それで代わりと言ってはなんですが、行く前にお願いがあります。私がお兄ちゃんに言われていた仕事の一部をやって貰えませんか。やるのは私が協力して作った金の炎の魔道具の設置です。この紙に設置場所が書いてあります」

 「ふむ、確かに受け取った。この通りに設置して置く。しかしこの設置の意図を考えると今度の貴族の集まりは荒れそうだな」

 「ふふふ、貴族が全員問題無い人達なら何も起きませんよ」

 私の言葉に皆は顔を顰めるだけで反論は起きなかった。そんな皆に一礼した私は、フレイとタマミズキに目配せをして移動を開始した。

 次話の投稿日時は来年になって決まり次第、活動報告で報告させて頂きます。

 読者の皆様へ

 三月末からですが、今年一年読んで頂いてありがとうございました。お気に入り登録や評価を頂けて励みになりました。来年も読んで頂けると幸いです。

 皆様の感想や評価を募集しています。次の投稿まで間があるので構想を練り直そうと思っています。何所とは言いませんが、書いている内にこんな予定ではなかったと言う、冷や汗ものの部分もあります。此処が良かったここがつまらないなどと書いて頂けると、来年の参考にさせて頂きます。また感想は書きたくないとお思いの読者様で、よろしい方は評価だけでもしてもらえると助かります。評価が一だったりしたら、悪い処の方が多いんだな、もっと頑張らないといけないと思えます。幸いにも今は優しい読者様に評価して頂いている様で、失望させない様に構想を練って来年も頑張ろうと思っている所ですが・・・・。

 さて少し早い気もしますが、来年が良い年になる様に祈りつつ終わらせて頂きます。ありがとうございました。

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