契約者達と失ったお金
「なあ、シグルト。確かに昨日の俺は食事を食べた後のんびり休んだけど、今日は早朝から龍の背に乗ってメルトーンに行き、従門を作ってすぐに帰って来たんだぞ。なのに朝食すら食べさせて貰えずに、急ぎだと言われて呼び出されたんだ。その上で皆の此の仕打ちはないと思わないか?」
「・・・・・・ええっと、僕には良く分からないんだ。ほほ、ほら、人間社会の事は龍だしね・・・・」
ジトッとした視線で見つめる俺に、シグルトは愛想笑いを浮かべながら顔を逸らして、関わり合いになりたく無いと全身から訴えていた。
「えー、リグレス公爵、俺の聞き間違いかも知れませんからもう一度言って貰えますか?」
「うむ、何度でも言おう。お金が無い。当座は私達が貯蓄していたお金を放出して凌ぐが、昨日聞いたロベールの計画の為にも、莫大な資金が必要だから何とかして欲しい」
「何とかしろと言われても、強化魔石や新しい魔道具の販売や転移門の通行料などで当座は何とかなるはずでは?他にも考えていますが、それは時間が必要です。まさか俺にランカーの様に働いて稼げとでも言うのですか?」
「違う違う、お金が無いんだ。お金が」
「・・・・・えっと、それは貧乏宣言ですか?帝都の住人を抱え込んだから大変なのは分かりますが・・・・そんなに堂々と開き直られても困ります」
「ぷ、はははっはははははは」
突然ガルトラント卿が大声で笑い始め、リグレス公爵は憮然としていた。そして見かねたのかメルクラント卿が説明を始めた。
「ロベール、帝都が消滅した時、国庫のお金は持ち出せなかったんだ。つまり其れも全て消えてしまったんだよ」
「ええ、その事は理解しています。其の所為で今は国家の運営資金が無いので、帝都の住人には早く仕事を確保して貰い、自立して貰うのが今後の課題の一つと考えています。龍の協力で資金のかからない配給制が維持出来ているので、まだ問題になっていないだけだと承知しています」
「違う違う、そうじゃ無い。仕事を見つけて働いて貰っても、払うお金が無かったら意味が無いだろう。お金自体が無いんだ。量が圧倒的に減ってしまっているんだ」
俺は愕然として思考が停止してしまい、理解を拒みかけてしまった。だが時が経つに従って事態のヤバさに嫌でも気づかされた俺は、ドッと嫌な汗を掻いて必死に対応策を考える事に集中した。
「あのー、無いのなら新しく造れば良いと思うんですけど・・・・もしかして私達が作ったら贋金になるんですか?でも一応今は私達が国としての決定をする事が出来るのですよね」
「うむ、カリーナ殿達が居ない間に私達の間で話し合い、減った分を新しく造る事に決めたのだが・・・・如何にも出来ない問題が発覚してな」
「アッ、そうか、鋳造所も帝都にあったから作れないと言う事ですか?確かに同じ物じゃ無いと贋金になりますものね」
「カリーナ殿、其れはその通りだが、新しい国になるのなら新しいお金が作られるのが普通だから、そこは問題無い。問題なのは新しいお金と古いお金を交換する分すらもない程、新しいお金を造る為に必要な量の材料が無い事なのだ」
「材料?材料なんてただの・・か・・・み・・・・・・・・」
香織は自分の言葉の途中で、此処がファーレノールだと気づいて、真っ蒼になって凍り付いていた。そう、ここのお金は金貨、銀貨、銅貨で紙切れなどでは無いのだ。それに俺は贋金を掴まされない様に、初めて金貨を持った時に魔法で調べた事があり、贋金を防止する為に金などの含有量が厳しく決まっている事も知っていた。何より致命的なのは、全てのお金は月光石と呼ばれる、混ぜると劣化を防ぐ効果のある希少鉱石が使用されているのだ。
「・・・・・・月光石の備蓄はどの程度ですか」
「皆の持っているのを集めても推定される失った量の一割程度だ。月光石は基本的に皇帝陛下の管理下にあるべきものだからな。大半は帝都にあった」
「金、銀、銅の方はどの程度ですか?」
「銅は八割、銀は五割ある。だが金は三割を下回っている。しかも此れは既に集めた上での話だ。私達が大量に集めた所為で、市場の価格は既に値上がりを始めつつある。此れ以上集めると民達に気取られるだろう。今の不安定な状況でそんな事になったら、すぐに暴動が起きる事も覚悟しないといけない」
暴動と聞いて嫌な場面を想像してしまった俺は、すぐに首を振って脳裏から叩き出すと、緊迫した声でリグレス公爵達に尋ねた。
「今ある対処法はどの様な物ですか?」
「採掘速度を速めているが、事故が起きない様にしているので限界がある。それに月光石は採れ難く、絶望的な状況だ。なのでミーミルとフェルミー殿に協力して貰って、遠見の瞳で月光石を探して貰った。そして必要量を埋蔵している場所を特定した」
「エッ、なんだ其れを早く言ってください。解決方法があるのなら安心だ」
「ははは、ミーミルはロベールの役に立ちたいと言って頑張ってくれたのだ。フェルミー殿の助けがあったとはいえかなり無理をして見たのだから、この情報を無駄にしないで欲しい」
「勿論です。ミーミルちゃんが頑張ってくれたのなら、俺も頑張りますよ」
俺がそう言って照れているミーミルちゃんに笑顔を向けていると、リグレス公爵が晴れやかな顔をして告げた。
「では初めに言った言葉通り、ロベールに何とかして欲しい。見つけた場所は資源が豊富な山で月光石以外にも色々期待出来るんだ。ミーミルの話だと色々あるらしいので、取れるだけ取って来て欲しい」
「取れるだけって・・・・そんな事をしてその土地を治めている人から文句を言われないでしょうね。俺は魔法を駆使すれば無茶も出来るんですよ」
「言われんよ。何と言っても其処は、一応商連合国の領土になっているだけの場所だからな」
「・・・・・・・・俺に敵国に行って奪い取ってこいと?俺は犯罪者になる心算は無いんですがね」
俺が白い視線を向けて睨むと、肩を竦めたリグレス公爵はアッサリと告げた。
「うむ、大丈夫だ。其処は元々人が住んで居ないし、先の戦いで一番強い存在も死んでいるからな。ククク」
含み笑いをするリグレス公爵を見て、俺はようやく何所に行けと言われているのかを理解していた。愕然とする俺に、メルクラント卿とガルトラント卿が畳み掛ける様に告げてきた。
「頑張ったミーミルちゃんの為にも頑張ってくれ。暴動なんか起きたら弱い者から傷付くしな」
「寝れないと苦情を言っている奴らも、ロベールが頑張れば何も言わなくなるだろう」
「・・・・・・・・・・・クッ、行きますよ。行けばいいんでしょう」
明らかに断れない様に誘導しているリグレス公爵達に、何か裏があると思いながらも、俺は現状の危険さを考えて渋々了承していた。
「ミーミルちゃん、ありがとうな。俺は感謝しているから、そんな顔をしないでくれ」
ミーミルちゃんは俺の態度から、迷惑だったと思ったのか俯いてしまっていた。俺は声を掛けながら近寄って頭を撫でて慰めると、恥らいながら微笑んでくれた。その顔を見てホッとした俺は、香織達に声を掛けた。
「カリーナとフレイとタマミズキは此処に居てくれ。シグルトとルードルはついて来てほしい」
「お兄ちゃん、私も・・・・・」
「駄目だ。俺がいない間にやっておいて欲しい事もあるから残ってくれ。それに採掘なんて仕事はカリーナにはさせたくないし、場所が場所だけに碌な事になりそうにないからな」
香織の頭を俺がポンポンと叩いてやるべき事を書いた紙を渡すと、其れを見て不満そうにな顔をしながらも頷いてくれた。
「リグレス公爵、俺達は此れからすぐに向かいますが、その間に今現在生き延びている赤帝国の貴族を全て集めてください。俺と新しい国を認めさせる為の会議を開きたいんです」
「ふむ、分かった。幸い転移門があるから、何事も無ければ四日後ぐらいには集められるだろう。私達に任せておいてくれ。其れとこの地点がミーミルが見た場所だ」
リグレス公爵の言葉を聞いて、場所の書かれている紙を受け取った俺は、すぐに踵を返して目的地に向かった。
「うおおおおおおお、大人しく死にやがれ」
振るった剣に胴体を横に真っ二つにされて、なお俺に噛みつこうとして来た蛇の頭を容赦なく突き刺した。しかしそれでも蛇が体をビクビクと震わせているのを見て、俺は顔を顰めながら反射的に火の矢を放っていた。こんがり焼かれた蛇がようやく大人しくなったのを見届けて、ホッと一息ついてから周囲を見回して声を出した。
「ふう、不確定領域に入った途端にこの有り様か・・・・・・。シグルト、ルードル、そっちは終わったか?」
「この程度は問題にもならないんだ」
「ふん、こんな雑魚に如何にかされるほど落ちぶれてはいないぞ」
シグルトもルードルも傷一つなく平然としていたが、俺は山に行く前の樹海を思わせる木々に既にうんざりさせられていた。今も木の上から突然蛇が落ちてきて襲われたばかりだし、先程から俺達を獲物と思い、様子を窺う数多くの気配が周囲に漂っていた。負けないと分かっていても、精神的に厳しい物があった。
「ルードルは移動中に聞いた時に不確定領域に詳しいと言ったが、後どれ位で目的の山にたどり着くか分かるか?」
「此のままの移動速度なら二クーラぐらいだろう。だが問題は魔虫共の臭いがある事だ。此れはかなり沢山いるぞ」
「魔虫か・・・・・カリーナを連れて来なくて正解だな。まあ俺も虫は嫌いなんだが・・・」
「ふん、軟弱な事を言っていないでさっさと移動するぞ。血の臭いで強い魔獣が集まりそうな気配がし始めている。今様子を窺っている奴らも、そうなったら躊躇なく襲ってくるぞ」
ルードルの指摘に頷いた俺はこの場から全力で走り始めた。すぐに音速を超えて小さな木々を薙ぎ倒しながら前に進んでいると、俺は自分の力を周囲を気にせずに使える事に、心地良い解放感を感じている事に気付いた。如何やら向こうの世界で、手加減に手加減を重ねる事がストレスになっているみたいだった。
「ははははは、そう快な気分だ。誰もいないし、ヒャッホーとか叫んでみたくなるな」
「ふん、本当に叫んだら主の兄に相応しくない行動だから報告するぞ」
「ルードル・・・・少しは破目を外させてくれてもいいだろうに・・・・・」
俺が愚痴を零しながら軽く睨むと、ルードルは鼻で哂ってきた。俺がその態度にイラッとして口を開こうとした時、突然ルードルが鋭い叫び声を出した。
「止まれ」
ルードルとシグルトはすぐに止まったが、俺は音速からの急制動に慣れていなかったので、すぐに止まれずに進んでしまった。ルードル達を置き去りにしながら一人数百メーラ進んだ俺は、突然地面に足が埋まって轟音をたてて倒れ込んでしまった。
「グァ、いた・・・・何が・・・・うおおおおおおお」
起き上がろうとした俺だったが、何と地面がいきなり砂状になり、渦を巻いて回転し始めた。
「クッ、もう下半身は砂の中に沈んでいるな。此のままでは行き埋めだ」
俺は慌てて渦に逆らって跳躍しようとしたのだが、足場が悪い上に何かが足に絡みついて動きを阻害していた。右腕を砂に突っ込んでから外に出して確かめると、そこには茶色の糸が絡んで腕を砂の中に戻そうと引っ張っていた。
「蜘蛛の糸の様な感じだな。チィ、こんな物すぐに切り離してやる」
左手に短剣を持って糸を切り離している間に、渦の中心から三メーラ位の大きさの蜘蛛の様な虫が現れ、すぐに砂の上に糸がばら撒かれた。
「そうか、此処は奴の巣か・・・・だがな、俺が大人しくやられるとは思うなよ。此れでも食らいやがれ」
右手を突き出してた俺は、火の矢の魔法を数十発放った。ゴウッと音をたてて飛んでいった火の矢は、何故か今までの物より格段に威力があった。その事に内心で驚きながらも、此れで決まったと思って糸の上をのしのしと近づいてくる蜘蛛を見ていると、直撃するかに見えた直前で口から大量の糸を吐き出した。そして何と火の矢を絡め取って軌道を変え、アッサリと直撃を避けてしまった。
「そんな馬鹿な・・・・俺の魔法で瞬時に燃えない糸があるのか・・・・仕方ない、なら此れで如何だ」
気を取り直した俺は、爆裂球を放って様子を見た。ズドンと音をたてて飛んで行った魔法は、また威力が強かったが、其れを見た俺は今度こそ決まったと思った。しかし又しても蜘蛛は糸を吐き出し、今度は網目状に壁を作った。そして当たったらすぐに爆発するはずの爆裂球は、何故か糸をビヨーンと伸ばしただけで俺に向かって飛んで来た。
「ナッ、ふざけんなよ」
俺は慌てて爆裂球を放って相殺を試みた。そしてすぐに空中で爆裂球同士がぶつかり合い、爆音を響かせて爆発した。
「ふん、まだ生きている様だな。だが何をやっている?お前ならすぐに倒せるだろう」
「糸と砂の渦で身動きが取れない上に、火の矢も爆裂球も聞かないんだ」
「はあ、良いか、一度しか言わないから良く聞け。魔土蜘蛛の糸は水が弱点だ。水に濡れると強度が無くなり脆くなる。砂の渦も大量の水で満たせば問題無いだろう?クク、其れともお前は主と違って泳げないのか?」
俺はムッとしながらも水の魔法を使って大量の水を出して渦を水没させた。此方に近づいて来ていた魔土蜘蛛とやらは、強度を失った糸に乗っていられずにドボンと水の中に落ちた。すいすいと泳いで水から出る俺と違い、魔土蜘蛛は泳げないらしく、足をバタバタとさせてあがいていた。
「ふう、酷い目にあったな。助かったよ、ルードル。其れでシグルトは如何したんだ?」
「止まった所に魔蜂の巣があって魔女王蜂と戦っている。空中戦になったので邪魔をしない様に僕だけ先に来ただけだ。今頃は倒して蜂蜜を回収している所だろう。美容に良いから主達の土産には最適だ」
「そうか、しかしルードルは本当に不確定領域に詳しいんだな。契約者になった時に手に入れた知識にも、この魔土蜘蛛の知識はなかったのに・・・」
「・・・・自分が強いと思って馬鹿をやっていた頃に、腕試しを兼ねてよく入っていたからな。僕にとって忘れたいが忘れてはいけない過去だ」
「・・・・・・・・過去については何も言えないが、俺は今ルードルのおかげて助かった。ありがとう」
「ふん、礼などいらん。其れよりあっちで溺死している魔土蜘蛛だが、回収すれば素材として売れるはずだ」
「へえ、なんに使えるんだ?」
「水に弱いとはいえ魔土蜘蛛の糸は頑丈だからな。服や鎧の裏地などに編み込むと強度が上がるらしい」
「成る程、でも俺は御免だな。其れにカリーナにも魔土蜘蛛の糸の服は着せたくないな」
話を逸らすルードルに付き合った俺は、シグルトが来てからすぐに魔土蜘蛛の元に飛んで行って貰い、素材を回収してから移動を再開した。
次々と現れる魔獣にうんざりしながら移動し続けて、ようやく木々が減り始め、目的地まで半分の距離になった時、俺は横から転がってきた物を反射的に支えていた。
「なあ、此れは何だと思う。俺の目には金色の卵に見えるんだが・・・・」
「うん、僕にも金色の卵に見える。それもたぶん鳥の物にだと思うんだけど・・・・うーん、炎鳥の王族の卵は金色だと聞いた事があるけど、此れは五十ミーラ程の大きさだし・・・・うーん、此れは・・・たぶん違うと思うんだ」
俺は炎鳥の王族と聞いて一瞬ギョッとしてしまったが、違うと聞いてホッと安堵した。だがシグルトの様子に万が一があるかも知れないと思って、卵に魔法をかけて調べようとすると、横でマジマジと卵を見ていたルードルが大声で制止してきた。
「止めろ。この金色の卵に魔法は使うな」
「ルードルは何か知っているのか?」
「・・・・・・その卵は回収しておけ。そして帰ってからフレイに見せるべきだ」
「フレイに・・・・ルードルは炎鳥の王族だと思っているのか?」
「違う。だがフレイに見せれば何の卵か分かるはずだ。今言えるのは絶滅したはずの鳥の卵かも知れないと言う事だ」
「絶滅だと・・・・・・・・分かった。厳重にしまって置こう」
俺が両手で慎重に卵を掴んでしまおうとすると、上空から鳥の鳴き声が聞こえた。
「ピィィィィィィィーーーーーーーーーー」
「何だ?」
何事かと思って上を見ると、其処には七メーラ程の黒い鳥が鳴き声を上げて、俺に向かって急降下してくる所だった。
「チィ、シグルトとルードルは左右に跳んで避けろ」
そう言った俺は卵を確り抱えて、自身を限界まで強化して覆い被さった。すぐにガシッと俺の体が鳥の爪に掴まれて、浮遊感が感じられた。
「ロベール、今助けるんだ」
「シグルト、左だ、避けろ。こっちは自分で何とかする」
俺を助けようとして飛んだシグルトに、左から別の鳥が襲い掛かった。その一撃をヒラリとかわしたシグルトだったが、何時の間にかに集まって来ていた鳥達に囲まれていた。
「僕の邪魔をするな」
叫んだシグルトが小さい鳥の集団をブレスで焼きつくし、大きな鳥は爪で首や羽を切り裂いた。そして曲芸飛行をして鳥達を振り切って俺を追おうとしたが、次々と進路上に新しい鳥が現れ、段々と距離が開いていった。一方ルードルの方も大小様々な鳥に囲まれて地上で戦いを始めていた。
「・・・・数が多いな。ロベールも移動しているし、木々の間を移動しながら戦うか」
木々を盾にしたルードルは、魔狼らしく疾風の様に動き、木々に邪魔されて動きが鈍った獲物を一匹ずつ爪の一撃で狩り尽くしていった。
「おいおい、ルードルの奴は狩猟本能でも刺激されたのか、遠目なのに獰猛な雰囲気が漂ってきそうな姿だな。しかしああ言う姿を見せられると、カリーナに飼われていても、犬ではなく狼だと強く認識させられるな」
独り言を呟きながら俺は、掴んでいる鳥の様子をそっと窺っていた。そして疑念を深めた俺は、話しかけてみる事にした。
「さて、爪の数と黒い色が八咫烏を思わせるが、もしかして言葉を理解出来るか?理解出来るのなら離してくれないかな」
俺の言葉に対する返答は、掴む力を強くする事で返された。
「グッ、痛いぞ。そっちがその心算なら此方も戦わせて貰うからな」
俺は卵を確り掴んで落とさない様にしてから、風の刃を作って鳥の羽を切り刻もうとした。すると鳥も俺の行動に気づいて風の槍を作って対抗してきた。お互いの魔法が激しくぶつかり合い、大気が乱れて飛行が安定しなくなった鳥は、体勢を崩して風の刃を羽に受けた。
「ピィィィィィィィ」
痛みに小さく鳴く鳥に更なる攻撃をしようと魔力を高めると、何故か俺の魔力が掴んでいる卵の方に流れ込んで吸収されてしまった。
「おいおい、此れは攻撃するなと言う事かな?」
俺が冗談を口にする様に声を出すと、掴んだ卵がドクンと脈打った様に感じた。あまりのタイミングの良さに苦笑した俺は、一息つくと行動を決めた。
「・・・仕方ない、卵は空間にしまって飛び降りるとするか。しかしパラシュートも無しに高空から飛び降り様とするとは、俺も人間離れして来たな」
俺は卵をしまって、鳥の体が軽く麻痺する位に調節して雷撃を放つと、掴む力が弱まったのを機に躊躇なく飛び降りた。
「ヒャッホーーーーーーーーー」
ゴーッと風を切る音が耳に響き、グングンと地面が近づいてきた。
「ロベール、何やってるんだーーーーー」
落ちる途中でシグルトの叫び声が聞こえたが、俺は答える暇もなくズドンと音をたてて地面と激突した。
「いてて、強化していても結構痛いな。大体、十段ぐらいの階段を飛び降りたぐらいの痛さだな」
「呆れた頑強さだな。急いで見に来たのが馬鹿馬鹿しくなる」
「ほんとなんだ。心配して叫んだ僕の気持ちを返して欲しいんだ」
「まあまあ、其れより早く移動するぞ。俺を掴んでいた鳥は一時的に動けないだけなんだ」
「殺さなかったのか?」
「ああ、殺したら行けない様な気がしたんだ。俺の世界の八咫烏に似ているのもそう感じる理由だと思う」
「八咫烏と言うのが何なのかは知らないが、死んでいないのなら早く移動するぞ」
俺達は空から見つからない様に木々を利用して隠れながらその場を移動した。
「はあ、はあ、ようやく目的の山まで到着したな。流石は不確定領域と言うべきか・・奥に行くにつれて出てくる魔獣もヤバいのばかりになったし、何より七メーラの黒い八咫烏を思わせる鳥に何度も狙われるのは、生きた心地がしなかったぞ」
「ふん、殺さないと決めたのはお前だし、其れは自業自得だろう。むしろ一緒に逃げる僕達に詫びの一つも入れて欲しいくらいだ」
「グッ、それはそうだが・・・・しかしあの後、ルードルが倒した鳥を回収すると言った所為もあるだろう。カリーナに土産として珍しい鶏肉や素材などを持って帰りたい気持ちは分かるが、俺が襲われている時まで回収していたのはきちんと見ていたぞ」
お互いに痛い所を突かれて、言葉に詰まって睨み合っていると、シグルトが仲裁の言葉を発した。
「まあまあ、兎に角無事にたどり着いたんだから、其れで良いと思うんだ」
「はあ、それはそうだけど、一種類の鳥じゃ無く多種多様の鳥に襲われる金の卵は何なんだろうな。一種類だけなら卵を取り返そうとした親鳥と仲間だと言えるんだが・・・・」
「僕も不思議には思うけど、卵の事は炎鳥のフレイに聞けば分かるらしいし、帰ってからにした方が良いんだ」
「それもそうだな。じゃあ、気を取り直して掘るとしますか・・・・はあーー」
「いきなりため息を吐くな。さっさと必要な物を取って主の元に帰るぞ」
ルードルは俺に文句を言うと、すぐに地の魔法を使って山に横穴をあけていった。シグルトが魔法で光を出し、其れを頼りにして俺達は山の中央の地下にあるはずの月光石を目指した。
「入り口が見えなくなってからだいぶ経つが、暗い地下に居ると圧迫感があるな。空気が悪い様な気もして息苦しいし、不確定領域だからか今にも何か出そうな雰囲気もする」
「ロベール、そんな事を言って本当に出ても、僕は知らないんだ。出たらロベールに・・・・」
「あったぞ」
突然ルードルが叫んだので、俺達はギョッとして身構えてしまった。だがすぐに俺達は前方を見て唖然と立ち尽くす事になった。ルードルが掘った先は二百メーラはある空洞になっていたらしく、そこに透明感のある白い鉱石が所狭しと溢れていた。
「・・・・・・凄いな。其れが全て月光石なのか?」
「うん、僕が前に見たものと同じだから間違いないんだ」
「おい、月光石ばかり見てないであっちも見ろ。あれは魔金と金だぞ。其れに何故か知らないが、銀や銅や魔鉄、そして神金まであるぞ」
「神金だと・・・・確かそれは希少金属の中でも三本の指に入る物だろう。確か神金で作られた剣は神剣や聖剣と呼ばれて国宝になるんじゃ無かったか?」
「ふん、そうだろうな。神金で作られた武器は唯の人間が使っても、五幻種に傷つけられる武器になるのだからな。神金は五幻種でもめったに見れない物だぞ」
ルードルの言葉を聞いた俺は、この場所の事を書いてあった紙を脳裏に思い浮かべて、内心で唸り声をあげてから緊迫感のある声を出した。
「・・・・・・シグルト、ルードル、背筋がぞわぞわして嫌な感じがする。取れるだけ取って一刻も早くこの場所を去るぞ」
「うん、それが良いんだ。明らかに此れだけの多種多様な鉱石が、多量に一か所にあるのは異常なんだ。此処はまるで採掘した物を貯蔵しているみたいに見えるんだ」
「ロベールは鉱石を入れる空間の入り口を出来るだけ大きく開けろ。兎に角、片っ端から放り込むぞ」
俺が三十メーラ程の入り口を作ると、シグルトとルードルが近くの物から乱暴に放り投げ始めた。ガタガタ、ゴトゴトと音をたてながら半分ほど入れた時、突然シグルトが大声を出して俺を呼んだ。
「ロベール、ロベールが拾った卵と同じ物が此処にもあるんだ」
「何だと?」
俺が慌ててシグルトの元に行くと、其処には拾った物より一回り大きな金色の卵があった。
「何で地中に卵があるんだ?もしかして俺が拾ったのは鳥の卵じゃないのか?」
「うーん、僕は此の卵も鳥の卵だと思うんだ。そして僕の知る限りでは地中に卵を産む鳥はいないんだ」
「・・・・・ますます、嫌な感じになってきたな。すぐに出た方が・・・・・」
俺達が顔を顰めながら話していると、突然右の土がボコリボコリと音をたてて崩れた。ギョッとする俺達が見つめる中、其処から現れたのはカマキリの鎌をスコップにした様な虫だった。
「・・・・・初めに感じた臭いはそう言う事か・・・・・不味いぞ此れは・・・・・」
ルードルが低い声で唸り声をあげるのと同時に、虫達が甲高い鳴き声を上げた。
「キィィィィィィィィィ・・・・・・・」
「クッ、煩いな。ルードル、此の虫について何か知っているのか?」
「此奴らは掘削魔虫と呼ばれる、そっちで言うアリとカマキリの合体した様な虫だ。特徴は色々な鉱石を食べて甲殻を硬くし、今はスコップの部分が状況に応じて変化する。しかも最悪なのは、初期で無い限り巣に居る総数は常に十万匹だ」
「はあ?十万匹?嘘だろ?」
俺があまりの情報に振り返って顔を見ると、そこには焦りを隠そうとしないルードルが居た。
「逃げるぞ。掘削魔虫は女王を殺さない限り、巣の何処かに卵の状態で保存されている奴が、十万匹を下回ると孵化して補充される。だからどれだけ倒しても無限に湧いてくる」
「分かったと言いたいが、此れは・・・・・・・」
話している間に続々と現れた掘削魔虫は、俺達の周囲を埋め尽くさんばかりに取り囲んでいた。そしてじりじりと包囲を狭めて来る掘削魔虫に、俺は剣を構えて振るって牽制しながら脱出方法を考えていた。
「シグルト、上から俺達が入った場所は見えるか?」
「見えるけど既に埋められてしまっているんだ」
「クッ、なら逃げやすそうな場所はどっちだ」
「左の方が少ない様に見えるんだ」
「よしルードル、先頭は任せた。シグルトは金の卵を回収してくれ」
言葉と同時にルードルは疾風の様に動き、爪を縦横無尽に振るって掘削魔虫を次々と切り刻みながら前に進んだ。俺は後に続きながら横から攻撃してくる奴を斬り倒して牽制し、その間にシグルトは素早く金の卵を回収した。そして火炎のブレスで近寄って来る奴らを攻撃してから、飛んで俺の頭上にやって来た。
「・・・・シグルト、リグレス公爵達は掘削魔虫の巣だと言う事を知っていたと思うか?」
「・・・・・流石に掘削魔虫の巣だとは知らなかったと思いたいんだ。ただミーミルちゃんに見たものを聞いたのなら、其の時におかしいとは思ったはずなんだ」
「クッ、邪魔だ退け。・・・・・チィ、不確定領域の詳しい情報を、人は誰も持ってはいないから、危険がどれ位か分からなかったと言った所か・・・・」
「うん、後考えられるのは不確定領域はどうせ危険だし、一番強い主を殺したロベールなら如何にでもなると思われたんだと思うんだ。ロベール、右。左は僕がやる」
シグルトの声に従って右から攻撃してきた掘削魔虫の鎌攻撃を剣で受け止めると、シグルトは俺の背中を庇うように降りて来て火炎のブレスを放ったみたいだ。背後から響く断末魔を耳に入れながら、俺は剣に力を込めて押し返して、少し距離が開いたルードルの後を追った。
「チィ、確かに今の所は、一匹一匹の力は思った程じゃないなから、数さえ気にしなければ俺達には危険じゃない。だが沢山の虫に囲まれているのは気分的に最悪だ。帰ったら一言文句を言ってやる」
俺がそう心に決めていると、前を移動していたルードルがピタリと動きを止めた。
「壁まで来たぞ。此れから崩されない様に頑丈に掘るから暫く時間を稼いでくれ」
「分かった。シグルト、ルードルは任せた。少し暴れて来る」
そう言った俺は近づいて来ていた掘削魔虫に向かって踏み込むと、剣を上段から振り下ろした。ズバッと真っ二つに切り裂かれた掘削魔虫が倒れるより先に、俺は左手を左に突き出して大きな光線を出し、其のまま腕を薙いで側面に居た掘削魔虫を一気に薙ぎ払った。数百匹が光に消し飛ばされる中で十数匹が空を飛んでかわし、また別の十数匹が甲殻で光をはじいて生き延びていた。
「チィ、光は駄目か・・・なら此れで如何だ」
俺は即座に地の魔法に切り替えると、飛んだ奴らのいる上の天井の土を鋭く尖らせて下に撃ち出した。ドンドンと音を響かせて撃ち出される強化土槍は、狙い誤らずに掘削魔虫に突き刺さっていった。
「ギィィィィィィィ・・・・・・・」
光線に無傷だった奴らまでがアッサリ刺されて、断末魔を上げる姿に拍子抜けした俺は、後ろで響いた風を切る音に、慌ててしゃがんで攻撃をかわした。頭上を何かが横切ってすぐに俺は、ゾクリと肌があわ立つのを感じ、咄嗟に地面を転がって移動した。俺のいた場所にザクッと音をたてて黄金色の大剣が突き刺さった。
「・・・・・・状況に応じて変わるとは聞いていたが、そんなヤバい物に変わるなんて聞いてないな」
掘削魔虫の変化した左右の大剣は先程見たばかりの神金の輝きに似ていた。余程大剣に自信があるのか、ブンブンと振り回して斬りかかってくる掘削魔虫に苦笑した俺は、チラリと自分の持つ剣を見てニヤリと笑った。
「丁度良い機会だ。お互いの剣の力を比べて見ようか」
俺はわざと正面から斬りかかって剣と大剣をぶつけた。ガンガンと音をたてて激しく何度も剣をぶつけ合った後、鍔迫り合いになって相手の大剣を見た俺は、自然と感嘆の声を口に出していた。
「へえ、流石神金だな・・・・一度では無理でもいずれは斬れると思っていたのに、傷一つつかないなんて・・・・。だが此れなら如何だ。うおおおおおおおおおおおお」
俺が雄叫びを上げて魔力を込めても、ガキンと音をたてて大剣に一ミーラ程食い込んだだけで、俺の剣はそれ以上ピクリとも進まなかった。
「・・・・・・此れは参ったな。今度ダルトムに報告しないといけないな。さてお遊びは此処までにして、今は倒す事に集中するとしますか・・」
俺は意識を倒す事に切り替えて、さっと込めていた力を抜いて掘削魔虫の体勢を崩すと、側面に回り込んで斬りかかった。
「なに・・・・・まさか・・・・・」
ガキンと音をたてて剣を弾いた甲殻をジッと見て、俺は愕然として立ち止まってしまった。そんな俺に向かってすぐに反撃の大剣が唸りを上げて飛んで来た。
「クッ、こんな攻撃でやられるか・・・・」
素早い左右の大剣の斬撃をヒラリヒラリとかわしながら剣を交えて、ようやく隙を見つけた俺は甲殻のない関節を狙って剣を振るった。すると今度は手応えも無く、驚くほどアッサリと斬り飛ばす事が出来た。そして其のまま後ろに跳びながら、火炎球を傷口に向かって放った。
「ふう、一瞬焦ったが、剣で斬れないのは甲殻の部分だけの様だな。それに火の魔法は隙間から入って効く様だし、此れならやりようが・・・・・・・・」
傷口から全身に火が付いた掘削魔虫の悲鳴を聞きながら一息ついた俺は、同じ大剣に変化させた掘削魔虫が後ろから百匹以上現れたのを見て顔を引きつらせてしまった。更に厄介な事に魔法で倒した所にも補充の掘削魔虫が現れていた。
「おいおいおい、ぞろぞろと現れやがって・・・・此れは本当に倒しても無駄だな。ルードル、まだ出来ないのか?」
「今ようやく半分出来た所だ。出来たとこまで移動するから殿は任せたぞ」
返事をしたルードルは、其のまま横穴に入って行ってしまった。
「全く俺の返事くらい聞いてくれ。シグルト、ついて行ってくれ。此処は俺だけで良い」
頷いたシグルトが移動したのを見届けた俺は、補充が終わってしまった掘削魔虫を睨んで告げた。
「さて此れは置き土産だ。遠慮せずに受け取ってくれ」
俺は千にも届きそうな爆裂球を無差別に放つと、素早く右足で地面を叩いて掘削魔虫との間に土壁を作った。そして俺が穴に飛びずさって入るとすぐに、土壁の向こうでズドンと爆音が響き、爆発に巻き込まれた掘削魔虫達の断末魔が響き渡った。
「ギィィィィィィィィィ・・・・・・」
色々な音が反響する中で、俺が放った一部の爆裂球が天井に当たって一際大きな音をたてた。そしてビリビリと大気を震わせながら天井が崩落し始めた。
「ギィ、ギィーー、ギィィィィィィィ」
俺は掘削魔虫達が崩落に巻き込まれる様子をジッと見ながら、穴の入り口に強化障壁を張って掘削魔虫を入れなくした。そしてホッと一息ついてから踵を返して移動を開始しようとした時、後ろから耳障りな音が響いた。なんと崩落に巻き込まれながらも、此処までたどり着いた掘削魔虫達が大剣を刺して強化障壁を斬り裂こうとしているのだ。
「しぶとい奴だな。大人しく崩落に巻き込まれていれば良いのに」
「キィィィィィィィィィ・・・・・・・」
俺が甲高い鳴き声を出しながら、狂った様にガンガンと大剣を叩きつける姿に薄ら寒い物を感じていると、ピシリピシリと強化障壁が音をたて始めた。
「まさか・・・・破壊できるのか?チィ、此れは早くルードル達と合流した方が良いな」
舌打ちした俺は急いで移動を開始した。其の背に聞えるガンガンガン、ピシリピシリと言う音が暗い地下に反響して、俺の不安を誘っていた。
次話の投稿は21日の21時以降を予定しています。次話が今年最後の投稿になると思います。次話もよろしくお願いします。




