契約者達と新しい国の話
「・・・・・・・・・と言う訳で闇の手は実用性が非常に高いのです。実験の許可と魔道具製作の為の資金を貰えませんか。既に夫の許可は取っています」
「・・・・・・資金か・・・・ロベールやミルベルト卿が良いのなら作る所までは許可しよう。ただし出来た物を広めて使うのはまだ許可出来ない。人々の生活に甚大な影響があると予想されるからな」
「仕方ありませんわね。今は其れで我慢します」
しぶしぶ我慢した事を隠そうともしないクリステアさんに、許可を出したリグレス公爵の顔に苦笑が浮かんでいた。一方ミルベルト卿の顔は、話が始まった時から引きつりっぱなしだった。俺の目には相当強引な方法で協力を約束させられた様にしか見えなかった。
「さて、クリステアさんの話はもう良いでしょう。皆に此処に集まって貰ったのは、今後の話をする為です。ですがその前に・・・・先程からずっと気になっているのですが、バルクラント卿は何所に居るのです?ニルストさん」
俺の言葉にニルストさんに視線が集まった。今此処にいるのはリグレス公爵、ニルストさん、メルクラント卿、ガルトラント卿、ミルベルト卿、ロベルト、クリステアさん、そして俺とシグルトだけだ。香織達とメイベル様達女性は、今頃収穫されたジャガーモを調理しているはずだ。
「・・・父上は龍と共に国境に向かった。蒼王国の動きを自分の目で見たいそうだ。その間の全権は私が預かっている。だから問題は無いはずだ」
「・・・了解しました。何かあったらすぐに教えてください」
かすかに強張った表情が見受けられたニルストさんの様子に、俺は心の中で何かあったのかと思ったが、問題があればきちんと話してくれるだろうと考えて話題を変えた。
「ガルトラント卿の方はあれから問題はありませんか?」
「龍の集団が来て恐ろしい程の騒ぎが起きたが、龍が驚く程大人しく言う事を聞いてくれたから、すぐに収まったよ。まあ、あえて言うのなら、夜が明るくて眠れないと言う苦情と、子供が龍に触りたいと言って困らせる事があるくらいだ」
引きつった顔で龍の事などを話すガルトラント卿を見ながら、俺も眠れないと言う苦情の話で同じ様に顔を引きつらせていた。そのままお互いが相手の様子を窺い合おうとしてそっと視線を向けたのだが、見事にぶつかり合ってしまい意図しない緊迫した雰囲気が漂った。不味いと思いながらもお互い視線を逸らせないでいると、リグレス公爵が苦笑しながら助け船を出してくれた。
「まあまあ、そう嫌味を言わなくてもいいだろう、ベルグス。戦力が落ちているガルトラントにとって、龍が守ってくれるのなら安心だろう」
「・・・・・・・あの騒動を知らないから言える言葉だな。騎士達も兵士達も、龍の集団の威圧感に呑まれて動揺したから、儂は平然と落ち着いていたベルスとその部隊に借りを作る破目になったんだぞ。セルフィーヌは流石ベルス様とか言って喜んでいたがの」
何処か忌々しそうに言うガルトラント卿に、俺は愛想笑いを浮かべながら話した。
「ベルスが役に立ったみたいで何よりです。それに二人の仲も良いみたいですね」
「仲が良いか・・・・其れも問題なのだぞ。其処にいるロベルトの事があるから、頭ごなしに否定はしないが、ベルスは平民で更に元孤児だ。しかもリグレスを襲おうとしたと聞いている。其れではいくら娘が望んでも、儂は諸手を挙げて賛成出来んわ。なのに娘はベルス以外とは結婚しないと言うし、此のままでは我が家は跡取りが居なくなって破滅だ」
頭を抱えるガルトラント卿を見た俺は、ちょうどいい機会だと思って、新しい国の根幹をなす制度について話す事に決めた。そして俺は不退転の決意を込めて声を出した。
「少し聞いて貰いたい事があります」
俺が態度を改めて話し始めたのを見た皆は、真剣な表情になって話を聞いてくれた。
「ロベルトに赤帝国の貴族と平民の差について聞きました。結婚も本来は出来ないそうですね。しかも最悪、処刑されるとも聞きました」
「・・・・その通りだ。亡くなった皇帝陛下が身分に煩い方だった事もあって、ロベルトの時は大変だった。私とメイベルも協力したんだが、殺されない様にするだけで精一杯で、権限を与える事は出来なかった。ミルベルト卿が剣を振り回して屋敷から追い出していたのも、娘の為に結婚は許したものの、自分は貴族とは認めていない事を周囲に見せて、暗殺されない様にする為だったのだろう?」
「エッ、本当か親父さん」
「ふん、大半は儂のあずかり知らん所で、娘を毒牙にかけていた貴様に対する憤りだ。ゆえに本気で殺す心算で剣を振るっていた。それに儂の剣で死ぬような間抜けに、大切な一人娘のアリステアは任せられんからな」
物騒な言葉が口から飛び出していたが、ロベルトは嬉しそうだった。大半はと言った以上、確かにリグレス公爵が言った意味も含まれているからだ。俺は嬉しそうなロベルトを一瞥して良かったなと思い、逸れた話を本筋に戻す事にした。
「俺は新しい国ではこの様な苦労をしなくて良い様に、身分に関係なく結婚出来る様にしたいんです」
ガルトラント卿やミルベルト卿が眉をピクリと動かす中で、メルクラント卿が重々しい声を響かせた。
「それは貴族と平民の結婚を認めると言う事か?」
「はい、それと王族と平民もです」
「ナッ・・・・・・・・・」
皆がギョッとする中で焦ったニルストさんが一番に叫び声を上げ、動揺しながらも勢いよく立ちあがって反対の声を出した。
「なななな、何を言っている。そんな事を可能にしたら、王女を娶って平民が王になるかも知れないではないか・・・・そんな事を認められるはずが無い」
「うむ、流石にそれは行き過ぎだろう。儂はベルスとセルフィーヌの事はまだ認めても、王が平民から生まれるのは断固として反対だ。其れでは身分社会が崩壊して秩序がなくなる」
「ガルトラント卿の言う通りだ。王の権威が特別だと思うから皆が大人しく従うのだ。平民が王女と結婚して王になれると知ったら、自分もと思う奴が続出するのが目に見えている」
「儂とロベルトの事を考えてくれたのかも知れんが、それは明らかにやり過ぎだ。貴族であれば身元が確りしているからおかしな事になりにくい。だが平民では如何しても身元が不確かになってしまい、最悪の場合は敵国の手の者の可能性すらある。其れでも一貴族ならまだ王命として斬り捨ててしまう事が出来るが、其れが王となると話が全く違う。王とは国の頂点に立って全権を持ち、その一身に全ての責任を背負う者の事だ。不味いからと言ってほいほい変えられる存在じゃ無い」
「悪いが俺も親父さんの意見に賛成だ。平民の俺から言わせて貰うと、平民が王になっても真面に統治出来るとは思えない。実際にそう言う教育を受けていない俺では、アリステアの補佐が無いとミルベルト家を継ぐ事すら難しい。一貴族ならそれで良くても、補佐が無いと駄目な王では他国に見下されるぞ」
ロベルトにまで反対された俺が肩を竦めていると、未だに声を出さずに黙ったままのリグレス公爵がジッと見つめて来た。俺が確りと視線を合わせて力強く見つめ返すと、頷いたリグレス公爵が場を治めて俺を促してきた。
「問題点が多々あるのは分かりましたが、今言われた事は解決する案があります。まず国法で王になれるのは王族の血を引いている者に限定します。此れは平民の男が王女と結婚しても、王女が女王になると言う事です。それと新しい制度として資格制度を設ける心算です。此れで王になる者は試験を受けて合格し、資格を取って周囲の人々に実力を示さないといけないと言う事になります。無論貴族の当主や他の職業に就く時も同じです」
「其れは私が父上の後を継ぐには、試験を受けなければいけないと言う事ですか?」
「その通りです。そして平民も貴族も関係なく、子供全てが資格を取る為の勉強が出来る、学校での教育もする予定です。学校とは・・・・・・」
俺が学校の仕組みについて細かく説明すると、皆は頭ごなしに反対せず、その意義について真剣に考えてくれた。
「ふむ、学校か・・・・・子供はそれぞれの家で教育する物だと思っていたのだが・・・・」
「言いたい事は分かるのだが・・・・しかし平民に知識を与えすぎて増長して暴走しないだろうか?それに子供の稼ぎを当てにしている家もある」
「俺が王をやっている間は暴走は出来ないでしょうし、寿命が長い事を生かして安定するまで責任をとります。それと子供のいる家にはある程度まで税金で援助する心算です。学費も基礎の間は取りません」
俺がお金の事に言及した瞬間、何故かリグレス公爵達が目配せをし合っていた。不穏な雰囲気が感じられて背筋がゾクゾクしたが、俺は今は畳み掛ける時と考えて話を進めた。
「そして取った資格情報などの個人情報を一括管理するのが、タマミズキが作ったこの魔法陣です」
俺が手の平に魔法陣を出すと、皆がざわめいた。特に今まで黙っていたクリステアさんは、一瞬で目をランランと輝かせて凄まじい興味を示した。
「ねえねえ、それはなんなの?」
「此れを五ミーラ程度の板に刻んで国民証にします。そして銀行も作ってお金も預けられる様にする心算です」
そう言った俺は皆に了解を取って知識を与える魔法を使った。知識を得た人はすぐに愕然として、国民証と言う名の魔道具を作る事になる、クリステアさんの様子を窺い始めた。
「クリステア、此れは本当に作れるのか?儂には不可能に思えるのだが・・・」
「大丈夫よ。私なら時間さえ貰えれば確実に作れるわ。量産も闇の手が使えれば問題無いわ」
「成る程、確かに此の国民証があれば平民でも身元はハッキリするだろうな。だがロベール、本人の確認はどうやって行う?盗んだりしたもので偽る事は可能だろう」
リグレス公爵の問いかけには答えずに、俺はクリステアさんに問いかけた。
「あれはどうなりましたか?」
「カリーナとの距離によって燃える速度は変わるけど、今の所は全く燃えなくなる事は無いわ。ロベルトから伝言を聞いて、昨日はジックリ観察していたけど、じわりじわりと言った感じでちゃんと燃えたわ。魔道具にして配置する事も可能だと私は判断したわ」
「其れは良かった。新しい国の根幹を成す物ですから。リグレス公爵、先程の質問にお答えします。新しい国の公的な場所には、其々の用途に適した金の炎を配置します。此れに依って虚偽報告などの犯罪は無くなると考えています。国民証を金の炎の中に入れて『此の国民証は自分の物だ』と言えば一目瞭然で分かります」
「ははははは、そうか、燃えるのか」
「ええ、燃えます。それに年に一度徴税と共に国民証の更新を行います。此の時、犯罪や不正などを確かめて、発覚したら更新出来ません。新しい国では国民証だけが身分を保障します。国民証が使えないと試験を受けられず、資格も取れませんから、仕事に就くのも大変です。そして重犯罪などを犯すと国民証をはく奪され、今まで積み上げてきた全てを失います。此れで権力を使って馬鹿な事をする奴はいなくなるでしょう」
「国民証が無くなれば貴族では無くなるのなら、確実にそうなるだろうな。それに権威も資格に依って保障されるのだな」
「はい、王を筆頭に王族や貴族には一定数の資格を取って貰い、其れを持って権威としてもらいます。其れに資格なら平民にも一目で優秀な人物が分かりやすいはずです」
納得して頷く皆の前で、俺は本題の新しい国の結婚制度について話し始めた。
「王族と貴族の結婚は民の模範となる様に、金の炎の前で愛を誓う、真実婚にしようと考えています。金の炎の中に相手に贈る宝飾品を入れて、相手の名と共に愛していると言葉にします。燃えなかった宝飾品をお互いが身に着ける事で結婚が成立します。これで地位や身分、そしてお金などを求める不誠実な奴は排除出来ます」
俺の言葉にギョッとする男達の中で、唯一人の女性のクリステアさんが満面の笑顔で弾んだ声を出した。
「まあまあまあ、すてきね。もう一度真実婚で結婚式を挙げたいくらいだわ。ねえ、あなた」
ミルベルト卿は平静を装おうとしていたが、口の端がピクピクと動いていて、動揺が隠せていなかった。俺をジロリと睨んだミルベルト卿は、ロベルトを一瞥して話し始めた。
「落ち着け。流石に儂は年を取り過ぎた。此処は一つ平民と貴族だった所為で、確りとした結婚式を挙げられなかった、ロベルトとアリステアに挙げて貰うのが、親としてすべき事だと思うのだが?そうだろう、クリステア」
「ふふふ、そう、そうよね。新しい国ならアリステアをちゃんと祝ってあげられるわね。そうと決まったらアリステアに話をしてくるわ」
クリステアさんは止める間もなく、満面の笑みを浮かべて走り去って行った。残された俺達の間に重たい沈黙が訪れ、皆はさり気無くロベルトの様子を窺っていた。
「・・・・・・・・親父さん、俺を売ったな。確かにアリステアは喜ぶだろうが、俺の歳でそんなこっぱずかしい結婚式を挙げられるか?ミリステアに何て言えば良いんだよ」
「ミリステアは儂が説得しよう。確かに思いつきから口走った事だが、お前も皆に祝福された結婚式を挙げたくはないか?かつては呼べなかった者達も呼べるんだぞ」
「親父さん知って・・・・・・・・」
「侮るな、知っている。陰で祝ってくれたのだろう。体裁だけ取り繕った式よりも、アリステアは嬉しかったはずだ」
俯いて体を震わすロベルトの肩を、ミルベルト卿はポンポンと叩いていた。そんな二人を見ながら俺は、小声でシグルトに話し掛けた。
「此れからもロベルトとアリステアさんには色々と面倒をかけるから、やるとなったら盛大にやりたい。其の時はシグルトだけでなく、メルボルクス達にも手を貸して貰え無いかな」
「何をする心算なのか知らないけど、父さん達は僕が説得してみるんだ」
「ありがとう、シグルト」
俺が礼を言うのと同時に女性達がガヤガヤと話しながら部屋に入って来た。
「お兄ちゃん聞いたよ。まさかお兄ちゃんが、あんなロマンチックな結婚式を挙げたいと思っていたなんて、考えても居なかったわ。クリステアさんが駆け込んで来て大声で話した所為で、侍女達も知ったから噂になるのも時間の問題だよ」
「はあ?如何言う意味だ?」
「・・・・気づいていないのですか?ロベールは自分の結婚式の方法を決めたのですわ」
「ナッ・・・・・・・・・・・・・」
フレイの言葉に唖然とした俺は、理解した瞬間に両手で顔を覆った。今の自分の顔が真っ赤になっているだろう事が、鏡を見ないでも分かった。俺は意図せずロベルトを傷つけてしまい、知った事情をどうにかする新しい仕組みの事ばかり考えていて、其れが自分にどう影響するか全く考えていなかったのだ。香織の視線が向けられている事を感じたが、今は其方を見ることは出来そうになかった。
「あらあら、ロベールにしては大胆ですわねと思っていましたが、本当に気づいていなかったのですか?カリーナはすっかりその気になって、真っ赤な顔をして想像していましたわよ」
「こここ、こら、お兄ちゃんに何言ってるの、タマミズキ」
「ふふふ、本当の事でしょう。あちらに居る結婚式の話を聞かされたアリステアと同じくらい真っ赤でしたわよ」
タマミズキが指さす先には、恥ずかしそうにしながらも、期待感の籠った瞳が隠せていないアリステアさんが居た。ロベルトもその事に気づいている様で、頬をピクピクさせながら会話をしていた。
「お母様から話を聞いたわ」
「あーー、その、まあ・・・今すぐではないからな。国が新しくなってからの話だぞ」
「ええ、分かっているわ。でもお母様から聞いた通りになるのなら、ミリステアの為にもなる良い事だわ。ミリステアには私と同じ様に、自由に好きな人を選んで幸せになって欲しかったのよ」
「それは・・・そうだな。俺の所為で要らぬ苦労を掛けたから、未だに相手もいないし心配だな」
「そうですわね。もうすぐ私がミリステアを生んだ年齢になりますものね。私の場合、今のミリステアの年には、既にあなたに出会って深い仲になっていましたものね」
「おいおい、こんな所で何を口走っているんだ。恥ずかしいだろ」
「ふふふふふ」
恥ずかしそうなロベルトと楽しそうに笑うアリステアさんの横で、ミルベルト卿が苦い物を呑まされた様な顰め面をして、プルプルと全身を震わせていた。俺はその様子を見て、ロベルトが制裁を受ける未来が見えた様な気がして、見て居られずに視線を逸らしてからそっと冥福を祈った。
「さて皆さん、お話を一度中断して、お食事にしましょう。如何やら料理が出来たようです」
声を上げたメイベル様が見ている方を向くと、何時の間にか侍女達が料理を運んで来ていた。
「アッ、お兄ちゃんのは私がします」
香織は素早く立ちあがって侍女に近づくと、俺の料理を受け取り満面の笑みを浮かべて運んで来た。そして素早く並べ終わると、侍女が微笑ましそうに見つめる視線を平然と受け流し、並べられた自分の分の料理も無視して、ジッと俺を見つめて話し掛けてきた。
「お兄ちゃん、このジャガーモ王のコロッケは私が作ったんだよ。そしてスープはメイベル様とミーミルちゃんの二人で、ポテトサラダはアリステアさんの料理なの」
わざわざ誰が作ったかを言う香織に苦笑した俺は、食材に微妙な気持ちを抱えながらも、其の期待に応える為に真っ先にコロッケを食べた。
「・・・・おいしい・・・・サクサクとした食感と中に入っているジャガーモの味が濃厚で、今まで食べた物と全然違う。カリーナの料理が俺の好みに合わせているのを抜きにしても・・・・・クッ、確かに此れは伝説になる味だ。此れがあのジャガーモ王で無ければお代わりしたいぐらいなのに・・・・・」
凄まじく美味しいからこそ余計に、収穫の時の事が脳裏に過った。あれさえなければ心行くまで味わって、ただ感嘆だけしていられたのだ。深いため息を吐きそうになった俺だったが、ミーミルちゃんや他の人が笑顔で食べる姿を見て気を取り直すと、一つの事に気付いた。
「あれ?此れは・・・・如何言う訳か知らないが、体の疲れが取れる様な感じがする」
「アッ、お兄ちゃんも気づいた。私も味見した時にそう感じたのよね。フレイやタマミズキの話だと、今回とれたジャガーモの実には驚くほど魔力が沢山宿っているらしいわ」
「へえ、魔道具を使った所為かな。何か問題はあるのか?」
「此れは推測ですが、ジャガーモの王が生まれたのは、強化魔石の魔力をふんだんに取り込んだ所為だと思われますわ」
「本当?なら私が作った魔道具で王を量産する事も可能なのね」
「・・・・・あまりお勧めしませんわ。スープに使われている普通のジャガーモの実ならまだしも、王の実の方は普通の人間が大量に食べると、魔力が強まって肉体の許容限界を超える可能性がありますわ」
「危険・・なのか?」
俺がピタリと食べるのを止めて厳しい表情をすると、すぐにフレイが声を出した。
「ロベールの強化能力が普通の人に如何影響するかは分かりませんわ。普通なら許容限界を超える事は無いはずなのですが、消えなかった光の魔法の事もあります。警戒して置いて損はありませんわ」
フレイの言葉に顔を歪める俺に、タマミズキは笑いながら軽い口調で話し掛けてきた。
「大量に食べなければ大丈夫よ。子供もいるのに健康を害する者は出さないわ。それに悪い事ばかりじゃないわよ。私が食べて気づいた事の一つに、魔力の増加が挙げられるわ。適量さえ守れば全ての人間が中級魔法を使える様になるわよ」
「待ってくれ、タマミズキ殿。それは本当か?今中級魔法を使えるのは、魔法使いなどになれる優秀な人物だけなのだが?」
「本当よ。魔力を増加させてきちんと訓練すれば、誰でも火炎球ぐらいは簡単に使える様になるわ。それに疲労が取れる様な感じがするのは、生物が無意識で使っている魔力に依る身体強化が活性化した所為よ。私も初めて知ったけど、高濃度の魔力を摂取すると強い力を出せるみたいね。私も普段より体の動きが良くなっているもの」
シュシュと拳を振るうタマミズキの姿は笑いを誘いそうだったが、話を聞いたリグレス公爵達は戦慄の表情のままジャガーモ料理を見て固まっていた。
「大丈夫ですか?」
俺が不安になって声を掛けると、ビクリと体を震わせたリグレス公爵が我に返った。
「・・・ああ・・・・・しかし国を挙げて研究して不可能だと結論付けた、魔法使い量産計画が可能になるとは思わなかった。確かあの計画を主導していたのは前メルクラント卿だったな」
「そうだ。あの計画は私の父が主導していた。しかし私の記憶が確かなら魔力が沢山籠った物を食べても無駄だったはずなのだが・・・・・・」
「うむ、確かにそう結論されて終わったはずだ。しかし魔力が強くなるのも重要だが、儂としては体の動きの方が気になる。儂の体の動きは、明らかに一段階上がったと断言出来る程良くなっている。凄まじい事だが、こうまで効果が高いと副作用が無いか心配だな」
「フレイは心配していたけどたぶん問題無いんだ。今食べた僕の予想では、ロベールの強化能力で強化された強化魔石の魔力が、消費されないで消えずに残った所為だと思うんだ。今回の場合、強化魔石の魔力を植物を急速成長させる為に投与したんだ。成長に使われなかった魔力は消費されずに実に集まり、其れを食べた人の体内に宿ってから消費されているんだ。つまり此れは限定的な間接強化と言うべき現象だと思うんだ」
「おいおい、俺の強化はそんな事まで出来るのか・・・・・。自分が持っている力だが、本当に馬鹿げているな」
俺が首を振って苦笑していると、ジッと黙っていたニルストさんが重々しい声を出した。
「つまり普段この食事をしていると、其れだけで強くなると言う訳ですか・・・。父上の代わりとして言いますが、ジャガーモ王の実が他国に渡らない様に厳しく管理するべきだと提案します」
「・・・確かに他国に渡るのは不味いですね。戦力向上もかねて、王の実は取れたらすぐに内輪で食べてしまう事にしましょう」
「うむ、それが良いだろう。さて折角の食事だ。話しは此れ位にして温かい内に食べてしまおう」
リグレス公爵の言葉に頷いた皆は頷いて、ワイワイと雑談しながら食事を再開した。
その頃、バルクラント卿は龍の背に乗って国境に急いで向かっていた。
「クッ、伝令は小競り合いだと言っていたが、今もまだそうであろうか」
「ニービスよ。焦る気持ちは分からんでもないが、我も全力で飛んで急いでいる。少しは落ち着け、それではたどり着いても真面な指揮は出来んぞ」
「・・・・・ふう、すまない、コジャス殿」
「落ち着いた所で聞きたいのだが、我らは攻撃した方が良いか?」
「ナッ、して貰えるのか?」
「牽制攻撃位なら許されるだろう。如何する?」
「・・・・・頼む。だが味方には被害が出ない様にしてくれ」
「うむ、了解した。ムッ、見えた・・・・・・ニービス、如何やら小競り合いでは済まない様だ。我の見た所、数千同士で戦っているぞ」
「何だと。クッ、味方の様子は如何なっている?」
「劣勢だな。殿を残して砦に撤退する様だ。声を拾ったから聞くと良い。誰か分かるか?」
コジャス殿が尋ねるのと同時に、儂の耳に戦っている者達の声が聞こえて来た。
「良いか、味方が撤退するまで踏み止まるぞ。我らはこの様な時の為に、此処まで来たのだ」
「おう、我らに撤退はない。味方が来るまで何としても敵の侵攻を防いで見せる」
「もはや我らの勝ちは動かん。邪魔だ退け」
「大人しく降伏すれば命だけは助けてやるぞ。お前達の帝都が消滅したのはばれているし、商連合国に南の砦も消滅させられた以上、勝ち目などないだろう」
「フッ、何を言うか。砦に居る兵と合流すれば、まだまだ戦えるぞ。なあ皆」
「「おう」」
声を聞いていた私の目に、ようやく戦場の様子が映った。剣と剣がぶつかり合い、槍と槍が交差し、弓が飛び交い、魔法が轟音をたてて炸裂していた。まさに死闘と言えるあり様で、特に殿に残った味方の戦い方は明らかに生き延びる事を考えずに、敵を一人でも多く道連れにする事を目的として行動していた。
「・・・・・・・・あれは、儂がガルトラントに行く前に援軍として送った者達だ」
「そうか、役目を果たそうと命をかける者達を此れ以上死なせる事はない。此のままニービスの声を戦場に届けるが良い。その後我らが遠方に見える、敵の砦に牽制攻撃をしよう。戦場の方は敵味方入り乱れていて、我らが攻撃すると味方にも被害が出るし、其れで良いな」
「ああ、龍に砦を攻撃されれば、敵も慌てて引くだろう。其れで頼む」
コジャス殿が頷いたのを見た儂は、戦場を見据えて隅々までに響き渡る様に声を張り上げた。
「儂の名はニービス・バルトラントだ。バルクラント家に生まれ、バルトラントの名を継承せし当主である。バルクラント兵の皆よ、よく耐えてくれた。そして蒼王国の者共に告げる。我がバルクラントより疾く出て行くがよい。出て行かぬ場合は、ガルトラントに進行してきた商連合国の者達の様に、新たなる国の王になる龍人ロベールの名の元に一人残らず殲滅する」
儂の宣言が終わると、すぐにコジャス殿以外の龍達が、咆哮を響かせて火炎のブレスを敵の砦に向かって放った。数十の龍が放つブレスは、空を赤く染めて次々と轟音をたてて周囲の地面に着弾し、大地を抉って立っていられない程の大地震を引き起こした。
「ヒィィィィィィィ」
「うおおおおおおおおおお」
「ガッ・・・・・・・・・・・」
「グォ」
儂は地上で悲鳴を上げる敵味方の声を聞きながら、目の前の惨状に冷や汗を掻いていた。敵の砦の周囲は五メーラ以上抉れ、近くの草原と森は炎に包まれて炎上していた。そして更に小さな丘は消し飛び、水源は蒸発して無くなってしまった。まさに一瞬で焦土になったとしか言えない状況になっていた。
「うむ、皆上手くやった様だな。では我も最後に牽制攻撃を放つとしよう」
「ナッ、ま・・・・・・・・」
儂が止める間もなくコジャス殿の牽制攻撃が放たれた。一際大きなブレスが放たれて、周囲が抉れて見えていた砦の下の地面に横からぶつかった。ズーーーンと音がしたと思ったら、ピシ、ガラガラガラと音が響いて、下の地面を砕かれた砦が大勢が見守る中で半壊していった。
「うむ、直撃はさせなかったし、牽制攻撃としては上出来だな」
「・・・・・・・・・・・・」
この惨状を前にしてコジャス殿が本気で言っているのが理解出来て、儂は言葉も無いと言う気持ちを痛感させられていた。ハッキリ言って取り繕う事も出来ない程やり過ぎていた。此処までやったら先の言葉は宣戦布告にしか聞こえないはずだ。ロベールの名も出してしまっていたし、会った時に如何言えば良いのか分からず頭を抱えたくなった。
「如何したのだ?いきなり黙り込んで。あっちの兵士達が呼んでいる様だぞ。向かって良いのか?」
「ああ・・向かってくれ」
兎に角まずはやるべき事をやろうと思い、儂は半ば以上現実逃避しながら、あまりの事態に戦意を失う所か、正気を失ったり、気絶したり、跪いて祈りを捧げたりしている敵兵を拘束して捕虜にしていった。
次話の投稿は15日の12時ごろを予定しています。次話もよろしくお願いします。




