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契約者達と水無月家

 「ようやく学校が終わったね、お兄ちゃん」

 「そうだな。昨日は色々あったから、余計な事を考えてしまって、何時も以上に疲れたよ」

 「・・・・・お兄ちゃん、此れから行くんだよね」

 「ああ、折角教えて貰ったんだから、明日武俊さんに会う前に会って、現在の情報を聞きたい。家に帰ったら、目的の場所に一番近い探査杭に転移してから移動するぞ」

 「了解、其れにしても今日はいないみたいだね、お兄ちゃん」

 「流石に二度も警告したら警戒するだろ。今頃慌てて対策を練っているんじゃないか?ククク」

 「・・・・・もうお兄ちゃん、そんな風に笑っていると、悪戯が成功して笑う子供みたいだよ。クスクス」

 香織から笑われた俺は、恥ずかしくなって頬を掻きながら顔を背けた。そしてそんな俺達をシグルトとフレイが生暖かい目で見守っているのが感じられた。そんな今の俺達の雰囲気は穏やかな物で、今日の香織の笑顔も穏やかで明るい物になっていた。昨日あれからすぐに休んだ香織は、朝には気持ちの整理がついたのか、皆に明るい笑顔を見せる様になっていた。その笑顔を見れただけでも、召喚したかいがあったと俺には思えた。

 「直哉、良い雰囲気の所ですけど、校門に沙月さんが居ますわ」

 フレイの声に俺が校門を見ると、確かに沙月さんが待ち構えていた。明日の事だろうと思って、俺が仕方ないなと肩を竦めると、香織がうんざりした声を出した。

 「うわ、本当にいるわ。あの人は何時も私が良い気分でいる時に、タイミングよく現れるわね」

 「まあ、そう言うなよ。沙月さんも親に言われているんだから。武俊さん達の事が無ければ基本的に良い人だぞ」

 「許嫁の私より沙月さんを庇うんだ?」

 ムッとした顔の香織が小声でボソッと言った言葉に、俺は冷や汗を掻きながら早口で注意した。

 「おい、その事は外では言うなと言っただろ。今周囲に知られると騒ぎになると言っているだろう。武俊さん達にはいずれ知られるだろうが、知られた時期で有利にも不利にもなるんだぞ」

 俺と香織が小声で言い合っている間に、校門から俺達を見つけた沙月さんがそっと近寄ってきた。そして周囲に聞かれない様に小声で話しかけてきた。

 「香織様、直哉様、武俊様からの伝言です。明日此処まで車を迎えに来させるので、それに乗って別宅まで来てほしい、との事です」

 「そうか、分かった。だが一つ聞きたい。お互いの参加者の人数は如何なっている?俺達は二人だぞ」

 「武俊様と御子息の武人様の御二人です」

 「本当か?なら沙月さんや護衛は別宅にいないと思って良いんだな」

 ハッとした沙月さんが慌てて声を出した。

 「お待ちください。護衛は数に入っていません。其れは当たり前の事です」

 「そうなのか。なら此方も護衛を連れて行っても数には入れなくていいよな。まさかとは思うが、其方だけ護衛を連れて、此方は無しなんて言わないよな」

 「・・・・・・・・・・少々お時間を頂いてもよろしいでしょうか」

 「いいけど、此れから行くところがあるから手短に頼むぞ」

 厳しい顔をした沙月さんは俺達から離れると、素早く腕輪型の総合端末を起動して親と連絡を取り始めた。

 「クスクス、お兄ちゃんも人が悪いよね。こんなギリギリになって言うなんて」

 何所となく楽しそうな香織の言葉に、肩を竦めた俺は苦笑すると、必死に交渉している沙月さんに聞こえない様に話した。

 「始めは俺達二人と見えないシグルトとフレイで行く心算だったんだ。だけど今日此れから次第では、何人かに見える護衛としてついて来て貰うのも良いかと思ってな」

 「成る程、此れから行く所が従ってくれるのなら、其れを見せて牽制するのですわね」

 「ああ、フレイの言う通りだ。俺が昨日聞いた話だと、武俊さんに対する警戒を少しあげておいた方が良さそうなんだ」

 「直哉、それは・・・・・・」

 俺の言葉に皆の顔色が変わって気が引締められ、シグルトが何か言いかけたが、沙月さんの接近で黙ってしまった。

 「直哉様、護衛の話は承りましたが、二人までにして欲しいとの事です」

 「分かった其れで良い」

 アッサリと俺が了承すると、沙月さんは拍子抜けした様にポカンとしてから、一転して厳しい表情で睨んで来た。

 「二人で良いとは余程護衛に自信があるのですね」

 「いやいや、連れて行くかも知れない護衛とは、此れから交渉しないといけないんだ。だから実際について来てくれるかも分からない」

 俺は正直に答えたのだが、沙月さんはからかわれたと思ったのか顔を赤く染めていた。

 「少し前の直哉様は可愛いと思えたのですが、今の直哉様は可愛さ余って憎さが百倍になりそうです」

 「ははは、そんなに顔を歪めたら美しい顔が台無しだよ。沙月さんの様な美人には、笑顔の方が似合うと思う」

 「誰の所為だと思っ・・・・・・・・」

 周囲を気にする事を忘れて、大声で怒鳴りそうになった沙月さんに、俺は目を細めて厳しい視線を向けた。そしてギョッとして黙った沙月さんに、聞く者をヒヤリとさせる静かな声をかけた。

 「沙月さんの所為だよ。沙月さんがこの手を取ってくれればいいんだ。初めて会ってから、少しした時に言っただろ」

 俺が前に出した手を、沙月さんは微動だにせず、無言で見つめていた。そんな沙月さんを見ながら俺は淡々と告げた。

 「今でもまだ取ってくれないのかな?」

 「・・・・其れは・・・でも・・・・私は・・・・・・」

 言いよどむ沙月さんを見て、俺はアッサリと手を引っ込めてから、肩を竦めて軽い口調で告げた。

 「まだ無理の様だな。まあいい、気長に待つさ。代わりと言っては何だけど、武俊さん達に伝言を頼めるかな。今日はいない様で良かった。今日も居たら不審者として、三度目の警告は行わずに排除する心算だったんだ。今後も仲良くする心算なら、事前の連絡はして欲しいと言って置いてくれるかな」

 「あれは・・・・・やはり直哉様の字だったのですね」

 「ああそうだよ。隠す心算はなかったし、沙月さんならすぐに気づけただろう?」

 俺達の視線が合わさったが、すぐに沙月さんは視線を逸らしてしまった。逸らした視線の先に、紙を入れた見えないシグルトが居て、困った表情で頬を掻いているのが何とも言えず、俺の笑いを誘った。

 「クッ、じゃあ、話も終わったし、俺は行くから」

 俺がそう言って一歩踏み出した時、香織が楽しそうに笑いながら、左に寄り添って腕を組んできた。

 「クスクス、直哉さん、行きましょう」

 俺が驚いて横を見ると、其処には真っ赤な顔をしながらも、絶対に離さないと言う強い意思を見せた香織がいた。

 「お兄ちゃんが悪いんだよ。私の前で他の女に美人だと言うから・・・」

 「ウッ・・・・・・」

 拗ねた様子で上目遣いで睨んでくる香織に、言葉を詰まらせた俺は、其のまま引きずられる様に去る事になった。後ろから沙月さんの刺々しい視線が突き刺さるのが分かり、俺の背筋がゾクゾクして鳥肌が立っていた。


 「・・・・・・・・・でかいな」

 「・・・・お兄ちゃんは分家だって言わなかったっけ・・・・・・ハッキリ言って死んだお父さん達と住んで居た家より大きいんだけど?」

 香織の懐疑的な視線が突き刺さる中、俺は想像と現実の違いに打ちのめされそうになりながら返事をした。

 「いや、確かに分家だと聞いたぞ。しかし此れは・・・・まいったな。まさかとは思うが、会うのに予約が必要じゃないよな」

 目の前にある歴史の重みを感じさせる重厚な日本家屋の大邸宅に、自分が気後れするのが理解出来た。正直言って香織が横に居なければ、踵を返して逃げ出して居そうだった。

 「行くぞ」

 ごくりと喉を鳴らしてチャイムを押すと、どちら様でしょうか?と言う女性の返事があった。

 「俺は矢嶋直哉と言います。横に居るのは妹の香織です。水無月家の当主に話したい事があり、会いに来ました」

 「・・矢嶋・・・・矢嶋ですか・・・・申し訳ありませんが、事前連絡が無い人を会わせる事は出来ません」

 普段あまり名乗らない苗字を名乗った俺は、女性の声が何度も苗字を呼ぶのを聞いて、不安になっていた。それと言うのも女性の声が、明らかに何か含みがありそうな声音だったからだ。昨日の父さんの事が脳裏に過り、慌てて軽く頭を振って不安を押し殺した俺は、硬い声で話を続けた。

 「其処を何とかなりませんか?此処にいる香織は和希さんの娘です。そう言えばご理解頂けるのでは?何よりその事を水無月家が気づけないとは思えないのですが?」

 「・・・・・・・・勿論気づいて居ますが、当家は現在勢力争いから距離を置いています。和希様のご息女に思う所はありますが、我が家には我が家の決まりがあるのです」

 「今当主は御在宅だと思って良いですか?」

 「・・・・・・・います」

 「そうですか、なら伝言をお願いします。桔梗の花について話があると伝えて貰えませんか。其れでも会わないと言うのなら大人しく帰ります」

 「・・・・・分かりました。暫しお待ちください」

 その声を最後に声が聞こえなくなった俺は、一度周囲を見回してからジッと大人しく待つ事にした。


 「お父様、お兄様が言う様にやはり香織様でした。当家の事情を言ったのですが、お帰りになろうとはせずに伝言を頼まれました。何でも桔梗の花について話したいそうです」

 私の発言にお父様がハッとして目を見張り、すぐにまさかと呟き顔色を変えて雰囲気が硬くなった。普段は人に顔色や内心の変化を読ませないお父様だけに、その顔を見た私は大きく動揺してしまった。

 「美夜、その言葉を香織様が仰ったのか?」

 大きく動揺した私がすぐに答えられないでいると、苛立ったような声音で鋭く名を呼ばれた。

 「美夜」

 「はい。いい、いえ、私と話したのは矢嶋直哉と名乗る香織様の兄を名乗る男です。その言葉もその男から聞きました」

 「・・・・・・・・ヌッ、香織様では無いのか・・・・・・」

 焦って答えた私の返事に、お父様が眉間に皺を寄せて考え込んでいると、お兄様が面白そうに笑いながら部屋に入って来た。

 「ははは、まいった、まいった。まさか俺が潜んで見ていたのを気づかれるとは思わなかった。凄いなあの男は・・・」

 「お兄様が気取られたのですか?」

 「おうよ。俺だけじゃなく他の奴らも気づかれていたみたいだがな」

 お兄様は笑っていたが、私はとても笑ってなどいられなかった。家の仕事を考えれば素人に後れを取るなど許されるはずがないのだ。唯でさえ和希様と香澄様の時の事で、水無瀬家の奴らが煩いのだ。御二人を死なせた事は護衛を任されていた我が家の失態だが、奴らとて血統の事で武俊様達と争うのにかまけていて、護衛など全くしなかったのを棚に上げているのだ。しかも最近は主がいない事で動かない我が家を、軽んじる行動が目立つ様になっていた。内心の思いを殺してグッと歯を食い縛っている私の耳に、お父様の何時にない重々しい声が響いた。

 「美夜、御二人を此処まで案内してくれ。会って話をしよう」

 「へえ、会うんだ。今まで誰が来ても会おうとしなかったのに、如何言う風の吹き回しだ」

 「貴志、美夜、動く時が来たのかも知れない。其れを確かめるのだ。私と御二人の会話を邪魔するでないぞ」

 お父様の苛烈な視線に射すくめられた私とお兄様は、一瞬で硬直して動けなくなった。そんな私にお父様の鋭い声が突き刺さった。

 「何をやっている。早くお二人を連れて来るのだ」

 「ははは、はい、今すぐに・・・・・・・」

 私はお父様の声に弾かれる様に走り出した。


 美夜と名乗った女性に案内されて部屋に入った俺達は、美夜さんを含めて三人の人物と向かい合っていた。

 「初めまして、矢嶋直哉です。此方は妹の香織で、和希さんと香澄さんの娘でもあります」

 「ご丁寧に、私は水無月家の当主の水無月克志で、横に居る二人は息子の貴志と娘の美夜です。さて今日は桔梗の花について話があると伺いましたが、詳しくお聞かせ願えませんか」

 落ち着いた声音の威厳のある五十ぐらいの男性に促された俺は、緊張に身を包みながら気迫を込めて言葉を紡いだ。

 「俺は和希さんから此処に来て『桔梗の誓いを受け継いだ』と言えと言われました」

 目を細めた克志さんがジッと見定める視線を向けて来た。

 「其の言葉を何時知ったのか教えて貰いたい」

 「・・・・・言えません。ただ和希さんは父から譲られた時に決めた言葉だと言っていました。後は干支が回る十二年が経つまでは有効だと聞きました」

 「ヌッ、其処まで知っているのですか・・・・・。なら譲り受けたのは本当の事の様ですが・・・・。しかしだとすると、なおさら解せないですな。何故私の問いに答えないのです」

 頻りに首を傾げる克志さんに、俺は引かないと言う意思を込めて、低く重い声を出した。

 「此方にも事情があるんです。その点を答える事は、今後もあり得ないと思ってください」

 お互いの視線がぶつかり合って、バチバチと目に見えない火花が飛び散った。その後俺から視線を逸らした克志さんは、横に居る香織に厳しい視線を向けて話し掛けた。

 「本当は香織様がお聞きになった事を、直哉殿が話しているのではありませんな」

 「其れは無いわ。私は桔梗が如何こう言われても分からないもの。ただ此処に来る前にお兄ちゃんがお父さんから、私が居れば血統の事は問題無いと言われたと言ったから付添いとしているだけよ」

 眉間に皺を寄せて考え込む克志さんに、今度は香織が問いかけた。

 「お兄ちゃんがお父さんとお母さんに認められているのは本当よ。何が引っかかっているの?」

 「時期です。和希様が生きていた時を考えると、どう考えても直哉殿は子供だったはず。自らの娘である香織様なら兎も角、直哉殿に話すのは如何考えても解せません」

 「ああ成る程、その事に納得出来る答えならお兄ちゃんが持ってますよ。もっとも話すかはお兄ちゃん次第ですけど・・・」

 明らかに面白がっている香織の視線と、此方を窺う克志さん達の視線が俺に集まった。

 「はあーー、そんなに周囲に話したいのか?」

 「お兄ちゃん、それは愚問よ。私は出来れば今すぐ全ての人に知って貰いたいくらいよ」

 香織の返答に頭が痛くなった俺は、ガックリと肩を落とすと、苦笑いを浮かべて淡々と話し始めた。

 「まだ此処だけの話にしてください。此の事はお互いの両親しか知りませんが、俺と香織は許嫁です」

 「・・・・何ですと?其れは本当の事ですか?」

 ポカンとした顔で真偽を問おうとする三人を目にしながらも、俺は許嫁について詳しい話をせずに話を進めた。

 「和希さんの考えを推測すると、失礼ながら水無月家を使う様な事態は、香織ではなく俺が担当するべきだと考えたのだと思います。実際に荒事などに関わる情報は、俺が全て管理していて香織が知らない事は沢山あります。故に今後水無月家の協力が得られても、得た情報を全て香織に話す事はありませんから、その心算でお願いします」

 顔を顰めて考え込む克志さんの姿を見ていると、横にいた美夜さんが突然香織に硬い口調で話し掛けた。

 「香織様は其れで良いのですか。情報を他人に任せると言う事は、都合のいい情報だけを渡されて、良い様に使われる可能性もあるのですよ」

 一瞬で不機嫌になった香織は、凍り付く様な雰囲気を全身から放ち、止める間も無く髪から何かを取り出して投げ付けた。投げられた物は美夜さんの顔の横を、視認出来そうにない速度で飛び、背後の壁にトスッと音をたてて突き刺さった。

 「あれは針か?少し太い様に見えるが・・・・・・。香織・・・・・あんな物を髪に仕込んでいるのかお前は・・・」

 呻く様な俺の声を無視した香織が、背筋を震わせる冷たい声を響かせた。

 「私の事を心配してくれている様だから当てなかったけど、次は無いわよ。貴女がお兄ちゃんの何を知っていると言うの?碌に知らないのに、あんな事を言わないで。今まで私を守ってくれたのはお兄ちゃんなのよ。先程の言葉はお兄ちゃんを侮辱しているわ。訂正なさい」

 突然の事態に理解が追いつかなかった美夜さんと貴志さんは、香織の声を耳にしてからハッと身を強張らせて身構えていた。

 「香織、俺達は協力を得に来たんだぞ。喧嘩をしに来た訳じゃ無い」

 不満を隠せない香織が頬を膨らませたが、俺がジロッと見ると顔を背けてしまった。小さな子供が拗ねた様な態度に苦笑した俺は、真剣な顔をしてから泰然とした佇まいの克志さんに深く頭を下げた。

 「申し訳ありません。香織が不作法をしました。この通り頭を下げますので如何かご容赦ください」

 「・・・・・・いや、家の娘も言い方が悪かった。あれでは確かに直哉殿が香織様に、善からぬ事をしている様に聞こえます。香織様がお怒りになるのも仕方ないでしょう」

 緊迫した雰囲気の中で、俺の謝罪に穏やかな声で返答する克志さんは、香織と美夜さんを一瞥してから壁の針を見て眉を顰めた。

 「香織様は何かの訓練を積んでいるのですかな?美夜が反応出来ないとは驚きました」

 「俺が刺されたりしたので、知り合いのご婦人から護身術などを少々学んでいます。まあ軽くなので御気になさらないでください」

 「ハハハ、美夜が反応出来ない程なのに軽くですか・・・・・・」

 笑い声を上げながらも、目が全く笑っていない克志さんと睨み合った俺は、心の中で説得は失敗するかも知れないと思い始めていた。

 「・・・・・・フゥ、本来なら受け継ぐ資格の言葉を持っている以上、何も言わず仕えるのが決まりなのですが、お二人は不自然な部分と秘密があり過ぎる。隠し事の内容を知らなくても、主として信頼できると確信出来るまで、主に相応しくない場合は破棄出来る仮契約にさせて欲しい」

 その発言に眉を顰めた俺は、慎重に尋ねた。

 「仮契約中に知った情報は、契約破棄後如何なる?」

 「水無月の名に懸けて墓場まで持って行く事を約束しよう。次の主に仕える事になっても漏らす事はない」

 断固とした声音で放たれた言葉に、言葉に出来ない重みを感じた俺は、態度を改めて真剣な声を出した。

 「そうですか、ならよろしくお願いします」

 「ハッ、今この時より仮契約を結び、誠心誠意仕えさせて頂きます」

 俺が頭を下げると克志さんも頭を下げた。此れで仮契約が成立した様だ。失敗するかもと考えていたので、アッサリした対応に俺が拍子抜けしていると、克志さんの俺への態度が一変した。

 「直哉様、御指示を。我らは何をすればよろしいですか」

 「まずは情報が欲しい。名家の集団の最近の行動の情報、武俊さんの情報、香織の祖父母の情報、弘嗣と双治の親族の情報、そして香織の両親と事故を起こした相手の今の情報だ」

 「ふむ、では既に知っている情報をお話しましょう。名家の集団は親族の集まりの前に香織様に接触しようとしている様です。香織様を強引に確保しようとして水無月家が動いているのを、武俊様の所の敏次が率いる護衛組織が妨害しています。武俊様は兎に角香織様を、他の皆から隔離しておきたい様です。失礼ながら、皆は香織様ご自身だけでは、何も出来ないと思っているのでしょう。香織様を誰が手に入れるかが、今の焦点になっていると聞いています。最後に弘嗣の方ですが、ヤのつく暴力的な組織から銃を集めているのが確認されています。他の二つは早急に調べさせます」

 淡々と告げられる情報に俺と香織はお互いの顔を見合わせて、ウンザリした気分を分かち合っていた。大体、強引に確保と言っているが其れは拉致で犯罪だし、ヤのつく組織と関わり合いになる人生は御免だと言いたいし、何より当たり前の様に銃を集めているとか聞かされると、俺の日常は何時からそんなものに変わったのかと叫びたくなってしまった。そして極め付けは香織を誰が手に入れるかだ。聞いただけで香織は物じゃ無い、誰が貴様らに触れさせるかと思い、心底から怒りが込み上げてきた。

 「はあーーー、何奴も此奴も碌な事をしていないな。まあ良い、来るなら蹴散らすだけだ。其れより次の話だが、明日武俊さんと別宅で会う約束があるのだが、二人程護衛としてついて来て貰え無いか?」

 「其れは勿論仕える以上、毎日確りと護衛させて頂きます」

 「いや、護衛は明日の様に、武俊さん達の様な関係者に会う時だけで良いです。日常は既に別の護衛がいるから問題無いので、水無月家は総力を挙げて情報収集に努めてください」

 別の護衛と言う言葉にピクリと眉を動かす克志さんの横で、貴志さんと美夜さんが怒りを発していた。

 「ちょっと待てや。護衛を頼んでおいて普段は別の護衛とは如何言う事だ」

 「そうです。私達を信用していないのですか」

 「いや、していると言うか、和希さんから受け継いだ水無月家の事は信用しようと思っている」

 「なら護衛も私達が・・・・・・・」

 言い募ろうとする美夜さんに首を振った俺は、なるべく刺激しない様に穏やかな口調で、事実だけを簡潔に告げた。

 「俺達の日常を護衛しているのは、表に立てない影の護衛だけど、守護する事にかけては他の追随を許さない者達です。だけど代わりにそれ以外はあまり得意じゃないので、水無月家に此れから必要になる重要な情報収集を頼んでいるんです。逆にする事は出来ないので、どうかご納得ください」

 「だとしても到底納得は出来ない。一度会って実力を確かめさせて貰おうか」

 「そうです。私達を差し置いて護衛をする者の実力を見せてください。他の追随を許さない護衛とやらが何者かは知りませんが、水無月家の目で見れば、正しい実力が判断出来ます」

 どんな思惑があるのか分からないが、克志さんが二人を止めようとしないので、俺は見えないシグルト達を一瞥しながら困っていた。当たり前の事だがシグルト達を戦わせる訳にはいかないのだ。

 「ねえ、お兄ちゃん。私を最終的に守るのは護衛じゃなくてお兄ちゃんだよね」

 「はあ、こんな時に当たり前の事を言って如何するんだ?」

 俺が疑念に思いながら横を見ると、其処には黒い笑みを浮かべた近づきたくない雰囲気の香織がいた。

 「ねえ、美夜さん。貴女またお兄ちゃんを侮辱している事に気づいているかしら?正しい実力が判断出来る?その言い方だとお兄ちゃんの目が節穴みたいじゃない。お兄ちゃんの判断にガタガタ言うのなら、まずは私の最後にして最大の守護者と戦って自分の実力を見せてからにしなさい」

 「・・・・・・香織様、私達水無月が戦うと言うのは、スポーツの様な試合ではありません。その・・・・・」

 「分かってるわよ。貴女こそ分からないならハッキリ言うわ。お兄ちゃんを殺せるものなら殺してみなさい。戦えば貴方達二人には絶対に不可能だと分かるわよ」

 「・・・了解した。場所を移そう」

 香織の明らかな挑発に貴志さんが、強い意志の籠った静かな声で返答して、足早に部屋を出て行った。自分の意思を無視した形で進んだ話に、唖然として途方に暮れていると、香織が手を引いてきて、引きずられる様に移動する事になった。そんな俺の目が、面白そうな顔で俺達とは別の場所に向かう克志さんを捕らえた。咄嗟に声を掛けようとしたが、克志さんは声を掛ける前に素早く去ってしまった。


 「此処は水無月の者が訓練する道場だ。そら、好きな得物を取ると良い」

 そう言った貴志さんは既に長い木刀を持っていた。俺はその姿に内心で深く安堵していた。先程銃の話があり、更に香織が殺してみなさいなどと言っていたので、何が出てくるかと戦々恐々としていたのだ。しかしそんな俺の安堵を粉砕する言葉が香織から発されていた。

 「その木刀は何の冗談なの?美夜さんが言った様にスポーツの試合じゃ無いのよ。貴方達なら真剣の一つや二つは普通に持っているでしょう。ちゃんとした得物を使いなさい」

 「香織ーーーー、何を言っている。お前はどちらの味方だ」

 叫ぶ俺に香織は平然とした顔で囁いた。

 「今さらでしょう、お兄ちゃん。向こうであれだけ戦ったのよ」

 「・・・・此処は向こうじゃないし、無茶は出来ないんだぞ」

 「でも此処で確り実力を見せておかないと、仮契約だし本気で従ってくれないわよ。特に美夜さんはお兄ちゃんを侮っているのが隠せて無いもの」

 「はあーーー、分かったよ」

 そんな建前を言っているが、内心の不満を隠せていない香織に深いため息を吐いて諦めていると、克志さんが楽しそうにしながら、三人の人を従えて沢山の武器を持って来た。

 「貴志と美夜は何時もの装備だ。直哉様は其方の中から選んでくだされ」

 言われて並べられた武器をウンザリしながら見ると、剣、刀、サバイバルナイフ、槍などの刃物が所狭しと並び、更に弓、苦無、投げナイフなどまで並んでいた。しかし流石に銃器は無く、その事に安堵したのも束の間、俺は一つの物を手に取って愕然としていた。

 「おい、此れは手榴弾じゃないのか?」

 「いえいえ、それは閃光弾です。こんな所で手榴弾を使ったら、修繕費がかかり過ぎます」

 「そうだよな。ハハハハハ・・・・・・・・」

 俺が渇いた笑い声を上げていると、克志さんがニヤリと笑って軽い口調で告げた。

 「お使いになられるのなら気を付けてください。強い光なので直視すると失明する恐れがありますからな」

 「・・・・・・・・誰が使うか。もう良い、俺は武器はいらない」

 憮然とした顔で吐き捨てる様に言うと、周囲から驚きの視線が突き刺さった。

 「よろしいのですかな?親の贔屓目を抜きにしても、貴志も美夜もそれ相応の力を持っていますぞ」

 「ああ、いらない。一応言って置くが侮っている訳じゃ無いぞ。さあ其方の二人の準備が終わっているなら、すぐに始めよう」

 俺が何も持たずに中央に移動すると、戸惑いながらも美夜さんがやってきた。

 「まずは私からお相手させて頂きます」

 「待ってくれ。二人同時に相手をする。戦いは一度だ」

 「待てや、武器も持たずに俺達二人を同時に相手をするだと?」

 怒りを押し殺した貴志さんが、眼前に抜身の刀を突き付けてきたが、俺は其れを平然と眺めて頷いた。俺の態度に何か思う事があったのか、目を細めると無言で美夜さんの横に立った。

 「制限事項は一切ない。勝敗は負けを認めるか、戦闘不能になった時とする。始め」

 開始の合図と共に美夜さんが後ろに跳びながら素早く苦無を投げてきた。

 「危ないな。でもこういう物は迂闊に投げない方が良いぞ」

 向こうでの訓練と戦いを終えた成果か、抑えた力のままで俺は危なげなく苦無を掴むと、刀で斬りかかろうとして接近して来ている貴志さんに投げ付けた。俺の行為に驚きながらも接近を止めた貴志さんは、刀を振って苦無を弾き飛ばした。

 「美夜、相手を試すな。倒す心算でちゃんと攻撃しろ」

 貴志さんの厳しい声に美夜さんが、表情を引き締めて左に回り込みながら小太刀を抜いた。俺が美夜さんが回り込む前に移動しようとすると、今度は貴志さんから苦無が飛んで来た。すぐに飛んで来た苦無をまた掴もうとしたが、光が反射してそれが濡れている事に気付いた俺は、悪寒を感じて反射的に左に飛んでかわしていた。

 「今の苦無は濡れていたな。薬か?」

 「よく気づいたな。皮膚からも吸収して、それなりの時間はかかるが軽い麻痺がでるんだ。気づいた褒美だ受け取れや」

 刀を左手に持ち替えた貴志さんは右手で次々と濡れた苦無を投げ付けて来た。初めに投げられた苦無の速度が遅く、余裕で避けられると思った俺だったが、二投目三投目の苦無の方が速く、流石と言うべきか気づいた時には、殆ど同時に対処する破目になっていた。仕方なく少しだけ契約者としての力を発揮した俺は、最小の動きで苦無をかわして行った。

 「フゥ、攻撃が同時になる様にしたのは凄いが、此れ位ならかわせるぞ」

 全てをかわした俺の目に平然とした貴志さんの顔が見えた。其れに違和感を感じた俺が警戒を強めると、後ろから微かに音が聞こえた。

 「チィ、そう言う事か」

 微かな音を頼りに体を左右に動かすと、後ろから飛んで来た苦無が前に飛んで行った。全てかわした俺はそのまま前を飛ぶ苦無の後ろを走って移動した。

 「中々の攻撃だったが、俺に対処出来ない程じゃない」

 苦無と共に接近する俺に、貴志さんが焦りを浮かべながら、何かを投げ付けて来た。警戒して速度を緩めた俺の前で毒々しい色の煙が視界を遮った。苦無の薬の事が頭を過った俺は、煙を吸わない様に距離を開けた。煙の向こうからキンキンと苦無を弾く音が聞こえてくるのを聞いた俺は、その間に反転して美夜さんの方に向かう事にした。

 「何だと・・・・何時の間に接近して・・・・・足音もしなかったのに・・・・」

 自然と漏れた驚きの言葉の通り、姿勢を低くした美夜さんが、すり足で音も立てずに三メートル近くまで接近していた。接近に気づかれた美夜さんが、勢いよく音をたてて踏み込んで来た。すぐに右下から振られる小太刀が、俺の左足を狙っている事に気付いたが、避ける機会は既に逃していた。

 「貰ったわ。足を斬られて二対一で戦うと言った事を後悔なさい」

 「避けられなくても、色々やりようはあるんだよ」

 俺は自分から踏み込んで、低い姿勢の美夜さんに右足を素早く振り抜いた。ブンと音をたてた右足は、俺の体に小太刀が当たる寸前に美夜さんの左脇腹にビシッと叩きつけられた。

 「カハッ・・・・・・・」

 息を詰まらせた美夜さんは五メートル近く飛んで行き、小太刀こそ手放していないものの、顔を歪めて苦しそうだった。

 「クッ、私の小太刀より後からの蹴りが速いなんて・・・・・・でもまだよ」

 近づいて仕留めようとした俺に、美夜さんは苦無を手当たり次第に投げて牽制すると、脇目も振らずに貴志さんの元に向かった。そして俺が苦無の対処をしていると、二人の微かな囁き声が聞こえた。

 「お兄様やりますわよ」

 「・・・油断はするなよ。美夜ももう分かっているとは思うが、本気で殺す心算で行かないと負けるぞ」

 「香織様に恨まれそうですわね」

 「おいおい、香織の心配は勝ってもいないのに早すぎるぞ」

 聞こえていると思わなかったのだろう二人が、口を挟んだ俺に驚愕して、緊迫した雰囲気で身構えていた。

 「普通なら俺達の会話が聞こえるはずが無いんだが・・・・・・」

 「俺は耳が良いんだよ」

 「・・・・・・・・・・・」

 無言になった貴志さんが右手に持った刀を突き付けながら、左手を美夜さんに向けて動かしていた。無言の美夜さんが頷いて、貴志さんの後ろに移動して見えなくなったのを見て、俺は其れが手話の様な物だと気づいた。

 「へえ、流石に芸が細かいな。そんな物まで習得しているんだな」

 俺の感嘆にピクリとも反応しない貴志さんは、無言で足音を立てずに間合いを詰め始めた。俺が身構えながら、姿の見えない美夜さんの事を気にしていると、八メートルまで距離を詰めた貴志さんが、殺気を発して正面から突っ込んで来た。

 「おおおおおおーーーーー」

 「・・・・何だと?」

 策が有ると思って警戒していた俺は、正面からの正々堂々とした攻撃に、逆に意表を突かれて戸惑ってしまった。両手で刀を持った貴志さんは全力で俺の胴を薙ぐ様に斬りかかって来た。しかしその速度は俺の想定を超える物では無く、後ろに跳べばかわせるものだった。すぐに距離を開けた俺に貴志さんの刀が迫るが、その軌道は既に体の前を薙ぐものだった。そして俺がかわした後の反撃を考えた時に、姿の見えなかった美夜さんの声が響いた。

 「やあ・・・・・・」

 小太刀を持った美夜さんが掛け声を上げ、五メートルに届きそうな跳躍と共に、勢いよく俺の頭上に小太刀を振り下ろしてきた。しかもいきなり前のめりになって、急速に近寄って来た貴志さんの所為で、当たらないはずの刀が俺に当たる軌道にかわっていた。

 「・・・・・そうか、背中を蹴ったんだな。蹴られた事で速度が上がって・・刀の斬撃はかわせないな・・・此れは普通なら決まっただろうな」

 一瞬状況が分からなかった俺だが、自然と出た呟き声と共に理解してからは、体が反射的に最適な対応していた。まず左の胴に向かって来る刀を左肘と左膝で挟んで止めると、あまりの事に愕然として動きの止まった貴志さんの頭を、躊躇なく右手でガシッと掴んで引きずり倒した。前のめりの体勢だった貴志さんは、姿勢を維持できずに刀を手放し、顔面から床にぶつかって呻き声を上げている様だ。俺はその時には声を聞きながらも、其方を見もせずに素早く右手に手に入れた刀を持つと、容赦なく頭上から降りてくる美夜さんに向かって力一杯薙ぎ払った。

 「おい、確り受け止めろよ」

 俺達の攻防の結果に愕然としていた美夜さんが、俺の声に反応して辛うじて小太刀で斬撃を受け止めていた。ガキンと刃と刃がぶつかる音がして、空中に居た美夜さんは力に押されて、壁に向かって吹っ飛んで行った。ズドンと音を響かせてぶつかった美夜さんは、衝撃に気を失って小太刀を落とし、壁に背を預けてズルズルと倒れていった。

 「まだやるか?勝負はついたと思うが?」

 俺は起き上がろうとした貴志さんの背中に、右足を乗っけて起き上がれない様に踏みつけながら、奪った刀を首に突き付けていた。

 「クッ、そうだな・・・此処まで・・・・・されたら・・・・・」

 苦しそうな表情で途切れ途切れ話す姿に、油断しそうになった俺だったが、視線が合った瞬間に悪寒が走って、気づいた時には力一杯、足で踏みつけて止めを刺していた。

 「がは・・・・・・・・・」

 ズンと音がして床が揺れたのを最後に、辺りはシーンと静まってしまった。俺はしゃがんでから死角になっていた貴志さんの左手を見た。すると先程使われた煙玉の様な物が握られていた。

 「チィ、油断も隙もないな。まあ此れが荒事を仕事とする者の覚悟なんだろうな。香織、美夜さんの方は大丈夫か?」

 俺がそっと目配せすると、意図に気付いた香織が素早く美夜さんに触って、容体を見るふりをしながら治療して頷いた。

 「大丈夫だよ、お兄ちゃん。これなら軽い痣ですむと思うわ」

 「そうか、こっちも数日は多少痛むだろうが問題無い」

 そんな俺達を克志さんと武器を持って来た三人が見つめていた。克志さんは平静な顔を取り繕っていたが、他の三人は俺を見て顔を引きつらせているのが良く分かった。俺がその様子に肩を竦めて、ため息を吐きながら落ち着くのを待っていると、五分経ってようやく克志さんが声を掛けてきた。

 「御二人の護衛をしている者達も、同じ事が出来ると思ってよろしいのですかな?」

 「ああ、全員同じ事が出来るし、香織も二人に倒される事はないだろう」

 「・・・・・・明日の護衛は水無月家が御二人についたと武俊様に教える為と思っても?」

 「その通りだ。護衛と言うより、牽制に使いたい。それと俺達の護衛は本当に表舞台に立てないんだ。だから今後も表舞台に立つのは水無月家に一任したい」

 「ふむ、理由を聞きたい所ですが、此の体たらくではとても聞けませんな。確と受け賜りました。しかし仕える御方より弱い護衛など笑い話にもなりませんな」

 「俺達は事情があって普通とは言えないから、そう気にしないで欲しい。其れより明日は学校の校門に車が迎えに来るそうだ。だから校門で合流したいのだが、良いだろうか」

 「受け賜りました。貴志と美夜を向かわせます。二人なら私の子供なので武俊様も顔を知っているでしょう」

 「其れは助かります。・・・こんな状態の時に悪いのすが、もうだいぶ時間が遅くなっています。両親が心配していると思うので、今日は此れでお暇させてください」

 「分かりました。でもその前に一言香織様に言わせて頂きたい」

 神妙な面持ちの克志さんに俺が下がり、香織が前に出て声を掛けた。

 「言いたい事とは何でしょうか?」

 「ハッ、水無月家は当時香織様のご両親の護衛を務めていました。しかし結果は御知りの通りです。しかもその後香織様が襲われた時も、我らは誓約に縛られて何もできませんでした。真に申し訳ありません」

 深く深く頭を下げる克志さんの全身から、長い間の苦渋が滲み出ていた。そんな克志さんに香織は暖かい笑みを浮かべて労わる様に優しく声を掛けた。

 「・・・長い間両親の事を思ってくださってありがとう。でも終わった事はもう良いです。代わりに此れからの未来の為に、お兄ちゃんに協力してください」

 「ハッ、確と受け賜りました」

 其のまま顔を上げようとしない克志さんの顔を見ない様にして、俺達は傍にいた三人の中の一人に先導されてその場を静かに立ち去った。俺は横を歩く香織の毅然とした横顔を見て、両親の話をすると表情が強張って、何時も影が見えていた前の香織と違う事に気づいた。俺は昨日両親と会話した良い影響がハッキリ確認出来て、心の中で気づかれない様に安堵していた。

 次話の投稿は11日か12日の21時以降を予定しています。此れから年末にかけて、執筆時間が安定しなくなりそうですが、今回の様にある程度の日時をお知らせしますので、今後ともよろしくお願いします。

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