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契約者達と香織の両親二

 「呆然としている所に悪いんだが、まだ君に伝えておかないといけない事がある。名家と言っても綺麗事だけで生きてきた訳じゃないんだ。だから分家の中に水無瀬家と水無月家と言う荒事を専門にする家がある。どちらの家も基本的には護衛をしているんだが、諜報、暗殺、誘拐、破壊工作などもやる家で、必要とあれば直幸や沙耶さんにも何かするかも知れない。特に水無瀬家は血統を気にする奴らの仲間で、香織以外を傷つける事に躊躇しないだろう。むしろ・・・・・・」

 嫌悪の表情を浮かべた和希さんの重苦しい声に、ハッとした俺は自分でも驚くほどの冷徹な声を出していた。

 「・・・・・それは付き纏う奴らに香織を渡さないと、親を傷つけたり人質にとる可能性があると言う事だな。そして更に言えば、下賤な俺達が香織の傍に居るのは不愉快だから排除すると・・・・」

 「・・・・・・その通りだ。今は武俊さんの手の者が防いでいるのだろう。武俊さんは父親と共に、水無瀬家に対抗する為の護衛組織を作っていたはずだ。今君と香織についている護衛も其の組織の者のはずだ」

 其処まで話した和希さんは一度黙ると、無表情になって告げた。

 「私達がこんな事になっているのを見れば分かるだろうが、香織と共にいると直幸達も同じ目に遭うかも知れない。だから・・・・・・・」

 「黙れ。それ以上言う事は香織の親でも許さない。両親は魔狼のルードルと天狐のタマミズキが護衛をしてくれているから問題無い。其れに抑々俺の両親は、娘を犠牲にして生き延びようとする様な腰抜けではないし、父さんは前に話した時に、迷惑をかける事を気にしないで良いと言ってくれた」

 叫ぶ様な俺の言葉を、和希さんと香澄さんはジッと黙って聞いていた。そんな二人に感情を高ぶらせた俺は、心の赴くままに、自分の気持ちと覚悟を示す言葉を告げていた。

 「香織が狙われて自分が代わりに刺された時に、俺は痛みと共に香織を絶対に失いたくないと思った。そしてどんな事をしても必ず守ると誓った。その証拠に俺は香織を一番大事に思って、常に最優先にして行動している。だから沢山の女性に向かって、皆同じに大事だとか言う奴の気持ちは欠片も理解出来ないし、両親も薄々気づいているだろうが、例え親でも香織を犠牲にしないといけないなら、俺は助けないだろう」

 視線に力を込めて血を吐く様に叫んだ俺の言葉に、和希さんと香澄さんは気圧された様に後ずさっていた。最後の言葉を口にした時に、力一杯握り締めた手から血が出ていたが、俺は気にもしないで深呼吸して気持ちを静めると、厳しく重たい声を出した。

 「父さんも母さんもその事で俺を責めたりしない。俺達家族が皆で努力して、時間をかけて作った絆は、この程度の事で揺らいだり、まして壊れたりする様な弱い物じゃ無い」

 言いたい事を言った俺は、強く鋭い視線を二人に向けて返答を待った。二人も俺をジッと見定める様に見つめてきて、お互いの視線がぶつかり、永劫にも思える一瞬が過ぎた。

 「・・・・・・如何やら先程の言葉は不要だった様だ。君の覚悟と家族の絆の強さは聞かせて貰った・・・・しかしまさか家族の絆を説かれるとは思わなかったよ。此れでも私は香織の父親のはずなのだが・・・・・」

 「そうね。はあーー、私達は子供の香織を残して死んだのだから、仕方ない事なのでしょうけど・・・・・かなり心にくる物があるわね。フフ、でも母親としては、娘が確りと愛されている事が分かって安心したわ。まさか親の私達の前で、あんなに堂々と『香織を一番大事に思っている』と叫ぶとは思わなかったわ」

 和希さんの眉がピクリと動き、其れを見て冷静になった俺は、先程叫んだ事の意味を考えて動揺を覚えていた。

 「さあ直哉君、此処まで言ったのなら、この機会に親の私達に言うのよね」

 俺はワクワクしているのを隠そうともしない香澄さんの態度に首を傾げた。すると香澄さんは不満そうな顔で、俺の度肝を抜く言葉を告げた。

 「必ず幸せにしますから、香織を僕にくださいと言うのでしょう?」

 「はあああああああああ」

 叫んだ俺の前で、和希さんが腕を組んで目を閉じて、無言で重圧を発していた。

 「待ってください。俺と香織は恋人では無いです。プロポーズどころか告白すらしていないのに、おかしな事を言わないでください」

 「でも貴方達は言葉にしていなくても、お互いの気持ちは理解しているのだから問題無いわ。こんな事を言うと卑怯だけど、私達は既に死んでいて、今こうして話しているのは、本来ならありえない奇跡なのよ。此の機会を逃したら次が有るとは思えないわ。だから出来れば母親として聞きたいのよ」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「直哉、強化大龍玉があるから、また召喚出来ないとは言わないけど、召喚は魂に負担をかける行為でもあるんだ。本来なら気にする事ではないけど、直哉の思いつきを、何らかの方法で実行できる事になった時に、召喚し過ぎていると問題が出る可能性は否定出来ないんだ」

 今まで黙っていたシグルトの言葉と其の内容に、無言で色々考えていた俺は、慌てて振り返って視線を合わせた。

 「直哉は異世界人だから、其の知識を使って物を見る事によって、龍達を救う過程で何らかの抜け道を見つけられるかも知れないんだ」

 「シグルト・・・・・・・・。はあ、それなら早く終わらせた方が良いんだよな?」

 「うん、だから僕は話しの邪魔をしない様に極力黙っていたんだ。でも一つ親友として言わせて貰うと、此れからの香織の事情に介入するなら、親に認められているのと、そうじゃ無いのでは大違いだと思うんだ」

 其の言葉で覚悟を決めた俺は、未だ目を閉じたまま動かない和希さんに話し掛けた。

 「香織を一生守り続けると誓います。だから直哉として共に居る事を認めてください」

 俺の真剣な声に和希さんは、ピクリと眉を震わせて目を開けると、嘘を許さないと言う意思が見える様な声を出した。

 「其の言葉は、此れからは兄としてでは無く、一人の男として香織と共にいると言う意味で良いかな。香織とは恋人では無いと先程言ったのは嘘なのか?それとも言った事は本当で、今君は恋人ですらないのに勝手に親の許しを得て、香織を手に入れようと言うのか?」

 「全て違います。俺が認めて欲しいのは香織と共にいる事で、結婚ではありません。俺は、兄と妹、彼氏と彼女、夫と妻、色々な関係はお互いの意思で作る物だと思っています。俺達の今の関係は兄妹ですが、お互いの気持ちが高まり、周りの環境が整えば、自然と相応しい物になるでしょう」

 返答に眉を顰めた和希さんが、窘める様な口調で話し掛けてきた。

 「・・・・・君は結婚を自分達だけの事だと考えているのか?だとしたら思い違いをしているぞ。結婚は・・・・・」

 「待ってください。結婚した事の無い俺が全て分かっているとは言いませんが、家と家が結婚によって繋がって親戚になったりで、周りの人達にも多大な影響がある事は理解しています。周囲の祝福と助けがないと、幸せに暮らす事が殆ど不可能なのも想像しています」

 其処まで言って一度黙った俺は、此のままでは埒が明かないと考えて、自分の考え方を知って貰う事にした。

 「少し話が変わりますが、俺がお二人を召喚したのは何故か分かっていますか?」

 「こうして話をする為だろう」

 「そうね。情報を得て、香織を守る為でしょう」

 即答する二人に苦笑すると、俺は首を振ってから告げた。

 「其れはおまけに過ぎません。龍が命を削って作る大龍玉を使ってまで御二人を召喚したのは、両親を失った時の香織が、泣きながら『お父さんとお母さんに会いたい』と言ったからです。だから香織が両親に会って笑ってくれれば、それで良いんですよ、俺は」

 目を見開いて愕然とする二人は、肩を竦める俺をマジマジと見つめていた。そしてシグルトは俺の横で、苦笑いを浮かべて首を振っていた。

 「待って直哉君、本気なの?大龍玉がとても貴重な物だと言うのは私でも分かるわよ」

 「ええ、その通りです。でも俺にはそんな事は関係ないんですよ。香織が両親に会いたいと望んだのだから、叶えるのが当然でしょう?」

 「しかし叶えると言っても限度が・・・・・・」

 和希さんの言葉に首を振った俺は、昔感じた苦い気持ちを思い出しながら告げた。

 「御二人が死んだ時の俺は、縋り付いて泣く香織を抱きしめるだけで、何も出来なかった。だからシグルトに魂を召喚出来ると聞いた時に、俺は真っ先に目的の一つにしたのです。俺はあの時の無力感を二度経験したいとは思いませんし、其の所為もあって香織に真剣に頼まれると、叶えてしまわないと落ち着かないんですよ」

 唖然とする二人を前に、俺は軽く笑って自分の気持ちを語った。

 「ははは、俺は以前ザインと言う龍に言われましたが、自分の行動の指針を香織にしているそうです。そう言われてから時が経って、これから王になろうとしていますが、確かに国を良くするのも、皆にとって危険な敵を倒すのも、突き詰めていけば香織の存在が根底にあります。結局の所俺は、香織が意思を持って笑顔で傍に居てくれれば、其れで良いんです」

 二人に一礼した俺は、毅然と告げた。

 「俺にとって重要なのは、香織の意思を守りながら共に生きる事です。俺は俺らしく、香織は香織らしく、共に生きられれば其れで良い。だから俺が認めて欲しいのは唯一つで、もう一度言います。香織を一生守り続けると誓います。だから直哉として共に居る事を認めてください」

 長い長い沈黙が訪れた。そして何分経ったのか分からないが、突然動き出した和希さんが、俺の顔に拳を振るってきた。俺が避けずにいると、実体のない拳は頭の後ろまで突き抜けてしまった。その事に不満そうな顔をした和希さんは、元の位置に戻ると、ため息を吐いて話し始めた。

 「はあーーー、香織が生まれた時に、直幸の奴が酒を飲みながら、息子と年がちょうど良いから、二人を許嫁にしないかと言った事がある。私は其の時、娘の相手の顔に一発入れる心算だから、それでも良いなら認めようと言った。・・・・・だが現実は非情だな。こんな状態では一発入れる事さえ出来ない」

 自分の実体のない手を見て、さびしそうに笑った和希さんは、表情を引き締めて冷厳な声を出した。

 「君は考えが甘い処も若さゆえの欠点も見えるが、香織を大事に思って守ろうとしている事は認めよう。今の私はもう香織を守れない。だから君が娘を守り続け、香織が拒絶しない限り、二人が共にいる事を認めよう。香織は君が考えている以上に厄介な未来が待っているだろう。確実に守って欲しい。この通りだ」

 「はい、どんな事をしても必ず守ります」

 頭を下げて頼む和希さんに、俺が真剣な声で返事をすると、今度は香澄さんが話し掛けてきた。

 「直哉君、私は初めから香織の気持ちを考えて、すでに認めているから、一つだけ答えてくれるかな。何で香織に告白しないの?私は和希さんに好きだと言われた時嬉しかったわ。私は母親として娘に同じ喜びを知って欲しいのよ」

 「・・・・・・・一言で言えばまだ其の時ではないからです」

 「如何言う事かしら?」

 「俺達は兄妹として暮らしています。手を繋いで学校に行くのも、初めは顔を顰める人の方が多かったんです。今は事情を知っている人は勿論、知らない人も慣れて、苦笑で済ませてくれる様になりました。そうやって周囲の状況が、俺達の関係を許容出来る様になるまで、辛抱強く待つ心算です。なるべくなら周囲に祝福された未来を二人で歩きたいですから・・・。其れと俺も香織もお互いに色々あって、依存している部分があります。色々な事を片付けてからの方が、確りと未来を歩けると思ったんです」

 俺の言葉に納得した様子の香澄さんに代わって、和希さんが目を細めて、俺を見つめながら硬い声を掛けてきた。

 「他にも理由があるのでは無いか?」

 「・・・・・・・・はあーー、情けない話ですが、手札の一つとしてまだ持っていたいんです。何時告白するかによって色々な選択ができますから・・・・」

 一瞬で顔色を変えた香澄さんが、ジロリと睨んできた。俺は睨まれながらも視線を逸らさずに、自嘲しながら話した。

 「香織は俺に期待して頼ってくれます。だけど契約者になって強大な力を手に入れても、俺は俺でしか無いんです。考え方も普通の学生の物に、特殊な体験で手に入れた物が少々混じっているだけです。だから先程の話しを聞くまで、名家などと言う考えに対処する事を考えても居ませんでした。今こうしている間にも俺は心の片隅で、焦りながら現状で出来る対策を考えている所です。今まで俺が香織の期待に応えられたのは、事前に必死に手札をかき集めて、その場その場で組み合わせて使っているからなんです」

 厳しい視線で睨んでいた香澄さんは、視線を和らげてジッと俺の顔を見つめていた。そして何かに納得した様にため息を吐くと、全身の力を抜いた。

 「フゥ、今は直哉君の判断を尊重しましょう。でも此れだけは覚えていておいて、先程話した香織は直哉君に大切にされている事が分かっていても、きちんと口にされていない事から、不安も感じているのが伝わってきたわ。母親として娘には余計な不安は感じて欲しくはないわ」

 「はい、何か不安を取り除く言葉を考えてみます」

 「お願いね。じゃあ私は香織の元に先に行くわ」

 そう言った香澄さんは和希さんに目配せをしてから、シグルトと共に隔離した空間から出て行った。

 「君を香織と共にいる者として話して置く事がある。水無月家の当主に『桔梗の誓いを受け継いだ』と言うと良い。その言葉は私が父から水無月家を譲られた時に決めた、次代に受け継ぐ者の資格だ。私達が死んでから干支が回る十二年が経っていない以上、その資格は有効だから、其れで水無月家は君に従うはずだ」

 「・・・・俺は名家の血を持っていませんが、それでも従うのですか?」

 「水無月家は血統は気にしない。正当な後継者か如何かだけが重視される。言う時に香織が一緒に居れば問題無い。私達は今の情報を知らないから水無月家の当主に聞くと良い」

 「ありがとうございます。とても助かります」

 お礼を言って頭を下げた俺に、和希さんが声を潜めて話し始めた。

 「此の事は香澄も知らないから、其の心算で聞いて欲しい。私は新しく現れた香澄の異母兄の母親だと思われる人を知っている」

 ハッとする俺に頷いた和希さんが暗い声で話した。

 「まず其の母親は既に死んでいる。そして女一人で子供を育てて、かなり苦しい生活をしていたそうだ。プライドが高く、此方からの援助も断ったと聞いている。如何も彩希さんと結婚して、その金で立ち直った会社の金が気に入らなかったらしい。まあ間接的とはいえ、愛する人を奪った女から援助されると思えば、受け取りたくなかったのは理解出来なくもないが・・・・・」

 成る程と思って頷いて聞いていたが、続いた言葉に俺の背筋がゾッと寒くなった。

 「ただ問題は子供に暮らしが辛いのは、お前の父親を彩希さんが奪ったからだと、毎日毎日言っていたそうだ。そして武俊さんと香澄の暮らしや成績を教えて、あんな女の子供に負けるなら自分の子供じゃないと言って、異常なまでに厳しく育てたそうだ」

 「ままま、待ってください。父親は何もしなかったんですか?」

 「止めようとはしたらしいが、結局会社の為に政略結婚したから、強く言えなかったらしい。しかも止めようとしている間に仲違いして、私よりあの女の方が大事なのと言われて拒絶され、最後の方は真面に会う事も出来なかったそうだ」

 何と言って良いか分からない俺の前で話は更に続いた。

 「その後母親が死んで一人になった弘嗣に会いに行ったそうだが、お前なんか父親だと思っていないと拒絶されたそうだ。その後は私も詳しくは知らないが、良くない連中と接触していると聞いた事がある」

 「・・・・・・その話を聞く限り、弘嗣は相当恨んでますよね」

 「ああ、彩希さんに関わる者は全て恨んでいるはずだ。だからグループ企業を手に入れる事だけが目的とは思えないし、間違いなく私達の娘の香織も恨む対象になっていて、何らかの行動をしてくるはずだ」

 「・・・やはり怨恨で殺害する事自体も目的だと思いますか?」

 「考えたくはないが、私は既に死んでいる身だからな」

 重たい雰囲気の中、和希さんは迷いが見える表情で、躊躇いながら驚くべき事を口にした。

 「私達が香澄の父親の名前を出していない事に気づいているかい」

 「・・・・・ええ、重要な人物のはずなのに名前をきいた事がありません」

 「・・・・香澄の父親の名前は新條双治と言う。だが名前を呼ばれるのが嫌いな人で、呼ぶと不機嫌になり、最悪の場合は激怒するので、皆は肩書きなどで呼んでいたんだ。そして此れは確定情報では無いが、香澄の父親の名前は新條双治じゃ無いのかも知れない」

 「はあ?偽名を使っていたと?でも偽名じゃ結婚出来ないんじゃ?」

 「ああ、そうじゃ無い。新條双治と言う名はきちんと戸籍に登録されている。私が言っているのは双子で二人居たんじゃないか?と言う事だ」

 「・・・・・・・・・・・・待ってください。今の此方の世界で双子を隠す事に意味があるとは思えないのですが・・・・」

 「私もそう思うが、弘嗣達の事を知られて双治さんが彩希さんの怒りをかった時、何時になく酒に酔った双治さんが、私は彩希だけなのにと呟いているのを聞いたと言う報告があった」

 「・・・・・・・まさか、一人の男に二人の女では無く、二人の男に二人の女だったと言う事ですか?」

 「そうだ。香澄の兄は一人で異母兄などいない可能性がある」

 「・・・・・・証明する方法は?」

 「無い。確実に真実を知るのは生んだ母親だろうが、生んだ後に死んでいるし、他の知っていそうな者達は、調査した時には既に全員死んでいる事が確認されている。本人が言うとは思えなかったし、その時点で調査を打ち切っている」

 ジッと見つめて来る和希さんの考えは分かるが、俺は他人が隠した秘密を、必要も無いのに死者の眠りを妨げてまで暴く心算は無かった。

 「今はしません。藪を突いて蛇を出す事になったら困ります。唯でさえ色々な事を知ったばかりで、整理も出来ていないんです。俺は正直言って、香織の未来の妨げにならないなら、如何でもいいと思っています」

 「そうか・・・・・そうだな。さて、なら此れで話は終わりだ。此れからは香織と共に居る者としての振る舞い方を教えよう。時間も無いから厳しくするが仕方のない事だ。許してくれ」

 誠意の全く感じられない許しの言葉を聞いた俺は、背筋がゾクゾクして逃げ出したくなった。しかし香織と共にいる為なので、俺に退路はなかった・・・・・・・。


 「アッ、お母さん話しは終わったの?」

 「まだ和希さんは話しているわ。私は先に戻ってきただけよ。そんな事より香織に朗報があるわよ。和希さんが直哉君を香織と共に居る者として認めたわ。それと香織は生まれた時から直哉君の許嫁だったらしいわよ」

 「ええええーー、本当なのお母さん」

 お母さんの衝撃の言葉に動揺して叫んだ私に、お母さんは笑顔を浮かべて頷いた。

 「何でも香織が生まれた時に、お酒を飲みながら直幸さんが和希さんに提案したそうよ」

 「ありがとうお父さん、今までで一番感謝しているわ。今度お父さんの好きな食べ物を作ってあげるわ」

 私が満面の笑顔で感謝を告げたのに、お父さんは微妙な表情をしていた。そしてガックリと肩を落として消え入りそうな声を出した。

 「酒の席の冗談みたいな言葉が一番とは・・・・・・・・。俺のしていた他の事は其れに負けるのか・・・・」

 「直哉が絡んでいるから負けるのは仕方ないわ。そんな事より香織に何を作って貰うか考えた方が良いわよ」

 落ち込んだお父さんがお母さんに慰められるのを見ていると、お母さんが後ろからやってきて、私の首に手をまわして抱きしめる様にした。そして耳元に口をよせて真剣な声で話し掛けてきた。

 「私もお父さんも香織を愛しているわ。此れから色々辛い事や嫌な物を見る事になるでしょうけど、香織の『お父さんお母さんに会いたい』と言う願いを叶えた直哉君を信じなさい。直哉君は心に秘めた事が多いけど、香織の為にならない事はしないわ。そしてもし何か隠している秘密を知ってしまったら、自分で抱え込まないで、直哉君に知った事を言って直接聞きなさい。其の時は全て話してくれるわ」

 「・・・・・・・・・・・・うん、分かった。ありがとう、お母さん」

 自然と目から溢れる涙を拭っていると、後ろからお母さんとフレイ達の声が聞こえた。

 「貴女と香織は命を共有していると聞いています。如何か香織の事をよろしくお願いします。もし間違った事をしそうになったら、私の名前を出して止めてください」

 「・・・・・確と承りましたわ。あちらのルードルも居ますから安心して良いですわ」

 「ええと、ルードルさんは香織の飼い狼と聞きましたが、立場に不満は無いのですか?」

 「主に不満はないし、僕は母親の頼みは必ず守ると決めている。だから安心して欲しい」

 「ありがとう、ルードルさん。香織をお願いします」

 「次は私の番ね。私は香織の・・・・・何かしら?」

 「タマミズキはお兄ちゃんを狙う女だけど・・・・・・そうね、仲間だから一応は友人と言う事にして置くわ」

 「クスクス、あらあら、楽しそうな関係なのね」

 タマミズキの問いかけに私が悩みながら答えると、お母さんは微笑ましそうに笑っていた。其の視線に居心地が悪くなっていると、お母さんがタマミズキにも話し掛けていた。

 「さて貴女にも、此れからの事をお願いしていいかしら」

 「直哉達が行き届かない部分の世話位ならしてあげますわ」

 「ありがとう。貴女の様な人がいると、色々安心出来るわ」

 お母さんとタマミズキの視線が合わさって、二人だけで何かを分かり合っているみたいだった。悔しいが今二人の纏う雰囲気は、私には歳をとった大人にしか出せない物に見えた。

 「フゥ、やれやれ、酷い目に遭ったな」

 「この程度でそんな事を言っていると、此れから先の事には対処出来ないぞ」

 「確かにそうかもしれないが、あれは私怨がある様にしか見えない対応だった気がするが?」

 「そんな事は・・・・・・」

 「お兄ちゃん」

 私がお兄ちゃんの声に気づいて走って傍に行くと、会話を遮られたお父さんが複雑そうな顔をしていた。

 「香織、折角会えた両親の時間を貰って悪かったな。後の時間は香織の物だ。ずっと召喚している訳にはいかないから、時間のある内に話してこい。俺は皆と共にあっちで待っている」

 「うん、お兄ちゃん、ありがとう。後お母さんに聞いたよ。私達許嫁なんだって」

 ギョッとした顔のお兄ちゃんに笑いかけた私は、お母さんとお父さんを連れて移動した。


 向こうで楽しそうに両親と会話している香織を見ながら、俺は父さんに話し掛けた。

 「なあ、何で許嫁の事を今まで言わなかったんだ?」

 「和希が見定めて一発入れてから、本決まりになるはずだったんだ」

 「そうか・・・・。・・・・・和希さんの家は名家なんだろ?なら俺なんかが許嫁っておかしくないか?抑々父さんは、どうやって和希さんと親友になったんだ?」

 「・・・・・・・・・・俺には異父弟がいる。其処ら辺の事情で色々あって、転校した先の学校で会ったのが和希だ。今は此れだけで許してくれ」

 今まで見た事が無かった重く暗い雰囲気の父さんに、俺はかける言葉を失ってしまった。そして息子なのに父親の過去の事を知らなかった事に気づいて、大きな衝撃を受けてしまった。そんな俺に目配せした母さんが、横切って父さんにそっと寄り添った。

 「今の直幸さんは父親で、親になる前にきちんと話したでしょう。それに直哉が生まれてからは、余計な干渉も無かったし、私も傍に居るから大丈夫よ」

 「ああ・・・・・・」

 すぐに二人の空間が生まれて父さんの雰囲気が穏やかになった。俺が何とも言えない顔で見ていると、フレイが小さな笑い声を上げた。

 「フフフ、此れは此れは、やはり親子は似るのですわね。香織に慰められた直哉にそっくりですわ」

 「な・・・・・・・」

 「ああ、確かに。膝枕をしていない事を除けば、雰囲気もあの時に良く似ているんだ」

 シグルトの肯定に顔を赤くした俺は、居た堪れなくなって、そっとその場を逃げ出した。


 時間を潰した俺が戻って来ると、今は俺の両親と香織の両親が話している様だ。

 「香織、話したい事は話せたのか?また召喚出来ない訳では無いが、すぐにまたと言う訳にはいかないぞ」

 「うん、言いたかった事も言えたし、聞きたかった事も聞けたわ」

 「そうか、ならもう少しで時間だ。此れ以上は魂に負担がかかるからその心算でいてくれ」

 「・・・うん、分かったわ」

 香織と共に座って待っていると、親達の話が終わった様だ。立ちあがった俺達は皆で親の元に向かった。

 「残念ですが時間切れです。最後に何か言う事はありますか?」

 「私達の分まで香織を頼む」

 「二人とも仲良くね」

 俺が頷き、香織が返事をしたのを機に、静かに魔法を解除した。二人の姿が薄くなって、音も無くスーと消えていった。

 「・・・・・お父さん・・・・お母さん・・・・うううう」

 俺は涙を零す香織を抱きしめて、其の背を優しく撫でながら、泣き止むまで黙ってジッと立っていた。

 次話の投稿ですが、三日四日と執筆が出来ないので、早くても六日の夜21時以降、遅ければ七日の12時までの投稿になりそうです。唯でさえ話の進みが遅いのに投稿が遅くなると、読者の皆様に失望されそうですが、どうか今後ともよろしくお願いします。

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