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契約者達と大龍玉と転移門

 別の部屋で文書と資料を受け取った俺達は、本来の目的だった交渉をしていた。

 「メルボルクスから話は聞いたが、何時までも駐留させるのは流石に不可能でのう。此処の防備もあるから期限を決めて貰いたいのう」

 「とりあえず、三月で如何かと考えている」

 「三月のう・・・・まあそれ位なら許容範囲かのう。奴らが根源魔力に関わっている可能性がある以上、譲歩は必要だしのう。だが手を貸すのだから、ギルドを潰した時に関係資料を手に入れたら、儂らにも包み隠さず見せて貰いたいのう」

 ジロリと睨み付けて威圧してくるヴィーギルに、俺は肩を竦めるとアッサリと返事を返した。

 「協力するからには、情報の共有は当然の事です。メルボルクスに話す事を約束しましょう」

 「その言葉、違えるでないぞ。さて根源魔力とあの龍達の事の口止め料と貸しを作る為に、此れをお主に渡すから受け取って貰えるかのう」

 そう言って差し出された物は、柔らかそうな布が敷き詰められた箱に入っている、色々な色をした大きな七個の龍玉だった。その輝きは一度見ただけで捕らわれそうな魅力を発し、内からは一目で分かる程の強大な力を発していた。驚きで言葉が出ない俺達を見て、一本取ったと言いたげな得意げな顔をしたヴィーギルが笑っていた。

 「此れは大龍玉と言ってのう。数千年をかけて龍が作る秘蔵品でのう。儂らでも余程の事態で無いと使わない物じゃよ。それが七つあれば、目的だけでなく新しい国の為にも使えるしのう」

 「・・・・・・俺がメルボルクスに頼んだのは龍玉で、大龍玉ではありません。何故俺に此れを?俺に何をさせたいのですか?」

 一つだけでも貰い過ぎになるだろう大龍玉を七つも出され、困惑と緊張で汗が噴き出す俺の質問に、ヴィーギルは笑ってから軽やかな口調で答えた。

 「フォフォフォ、お主は今裏が無いかと疑っているのだろうが、先程の言葉が全てで裏など無いのう」

 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 「信じられんかのう。フッ、お主は自分の力が分かっておらんのう。儂らはお主が約束を反故にしても何も出来ないから、先に恩を売って裏切られない様に配慮しているのじゃよ」

 「我にとっては忌々しいがお前だが、恩を仇で返せる者ではないだろう。我が五龍星の会合でそう言ったのだ。実際お前には有効な手段だろう」

 口を挟んできたメルボルクスに苦い笑みを浮かべてから、俺は頭を振って舌打ちしてから話し始めた。

 「チィ、ああ、確かに有効な手段だ。俺は正当な対価を貰うし、払わないと気が済まない人間だ。此処までの物を貰ったら嫌でも龍に配慮しなくてはいけなくなる。しかしだからこそ安易に貰う訳にはいかないな」

 最後の言葉に合わせて厳しい視線を向けて睨んでも、ヴィーギルは朗らかに笑いながら、柳の様に受け流すだけだった。其の態度を見て、俺は明らかに何かありそうだと確信し始めていた。そして如何切り崩そうかと考えていると、シグルトが恐ろしい程、真剣な顔をして厳かに告げた。

 「直哉、受け取るべきなんだ。大龍玉はただ長い年月をかけて魔力を結晶化させて作る龍玉とは違うんだ。大龍玉は五龍星になる程の力の持ち主が、命を削って作る特別な龍玉なんだ。だから龍にとって、とても神聖な物なんだ。そしてそんな大龍玉を渡されるのは信頼の証で、共に歩むと言う意思表示でもあるんだ」

 「待ってくれ、それは同盟を結ぶと言う意味だよな」

 「いや、この場合は一つの国の中の自治領になると考えて良いと思うんだ」

 愕然とする俺の前でヴィーギルとメルボルクスが、厳かな態度で頷いてシグルトの言葉を肯定していた。

 「お兄ちゃん、私も受け取った方が良いと思うわ。目的の為にも国の此れからの為にも、プラスになるから断る理由がないわ」

 香織の言葉に確かにその通りだと思いながらも、俺は事の重大さを考えて慎重に質問する事にした。

 「分かっているとは思いますが、そうなったら色々な思惑が飛び交い、混乱と共に動き出す事になりますよ」

 「全く持ってその通りだのう」

 平然とした態度で返事を返すヴィーギルに舌打ちした俺は、フレイを一瞥してから厳しい声音で告げた。

 「チィ、他の五幻種すらも座してはいられなくなりますよ」

 「そうですわね。お父様も王として決断を迫られると思いますわ」

 「うむ、それも狙いの一つだからのう」

 「何だと?如何言う事だ・・・・」

 「あの文書が出てきた所為で、此度の騒動は思っていた以上に闇が深い可能性が高くなってのう。じゃから儂らは会合で話し合って決めたのじゃよ」

 「龍がお前に着けば他の五幻種に与えられる選択は限られる。良いか、まず敵対は不可能になるから、静観か協力のどちらかを選ぶ事になる。だがこの状況で静観を選べる可能性は低いだろうな。何と言っても我ら龍が水面下で危険な情報を噂として伝えていくからな」

 「・・・・・・おい待て、何を考えている?」

 嫌な予感を感じて低い声で質問すると、ヴィーギルがニヤリと笑って、何処か楽しそうに話し始めた。

 「薄々分かっていると思うのだがのう。期待に応えて言うと、皆で纏まって挑まないと対処出来なさそうな案件が生まれたので、対処する為に協力を呼びかける必要が生まれてのう。じゃが五幻種は対等だという不文律があってのう。纏まる為には何らかの別の要素が必要だと言う話になってのう」

 「其処に何と都合の良い事に新しい国が建国されると言うではないか。此れはまさに天からの贈り物と思って皆が纏まる為の受け皿にしようと決めたのだ。しかも都合の良い事に新しい国は我らに協力を求めているしな」

 此の野郎、俺の力で貴様等を半殺しにしてやろうかとの考えが脳裏をよぎり、口から溢れそうになる俺の前で、二匹は俺の内心を分かっていながら、朗らかに笑っていた。其れを見てついに苛立ちと共に殺気が漏れ始めた俺に、シグルトの宥めようとする必死の声が耳に響いた。

 「まあ直哉、色々言いたい事はあるだろうけど、此処は穏便にするのが得策なんだ。目的を忘れたら駄目なんだ。大龍玉の力なら補助をする必要が無いから、其れだけで可能になるんだ。だからね・・・・・・」

 「クッ、そうなのか・・・・フゥ、仕方ないな。命拾いしたな龍共」

 「フォフォフォ、其の為の大龍玉だからのう。儂らの目的も確り果たすのじゃぞ。新王よ。フォフォフォ」

 ギュッと拳を握りしめる俺の横で、香織がポソリと小さな声を出した。

 「軽い冗談だと思っているから今は気にしないけど、お兄ちゃんに対する態度が度を過ぎたら・・・・ゆっくりとお話しましょうね」

 笑顔の香織に視線を向けられたヴィーギルは、体をビクつかせると滝の様な汗を流して、其のまま凍り付いた様に動かなくなってしまった。其れを見て溜飲を下げた俺は、深呼吸して思考を切り替えると話し始めた。

 「大龍玉はありがたく受け取らせて貰います。それで今後の事ですが、まず今すぐに国境に五十匹ずつ、バルグーンとガルーンに四十匹ずつ駐留して貰えますか」

 「其れなら待機中の三百匹の中からすぐに派遣しよう。しかし龍に慣れてきたリラクトンなら兎も角、他の町では人々が怯えるだろう?」

 「其れに答える前に聞きたい事があります。大龍玉は常時接続型の転移門を、維持出来る程の力があると思うのですが、間違っていませんか?」

 「間違ってはいないが、お前が考えている事は無理だぞ。常時接続となれば流石に一年持つとは思えない」

 「・・・・・・此れでも駄目ですか?」

 そう言って俺は大龍玉を一つ手に取って、限界まで強化して見せた。すると香織以外の皆が、何故か慌てた様子で俺から距離を取り始めた。

 「おい、どうしたんだ?」

 「お前、自分が何をしたのか分かっているのか?いきなりそんな危険物を生み出して如何する心算だ」

 「いや、だから転移門を此れで維持出来ないか聞いているでしょう」

 「お主、そんな危険物で転移門を維持しようと言うのか?其れが爆発したらどれ程の被害が出ると思っているのかのう」

 「爆発して内部の力が放出されれば、龍の領域ぐらいは吹き飛ぶと思います。でもそんなに簡単に爆発したりしないでしょう」

 「なな直哉、言い難いんだけど、大龍玉は龍玉と違って、大きな力の代償として脆い一面があるんだ。だから箱に柔らかい布が敷かれていて、此の封禁の間に置かれているんだ」

 「・・・・・・・・・・・・・嘘だろ」

 俺が冷や汗を掻きながら頭の中の知識を調べて見ると、何と大龍玉はガラス瓶位の強度しかない事が分かった。それは俺の手の中にある、眩く輝く強化大龍玉が、とてつもない危険物に変わった瞬間だった。

 「どどどどど、どうすれば良いんだ?」

 「兎に角、危ないから箱にしまうべきなんだ」

 「ああ、そそそ、そうだな。分かった」

 震える手で箱にしまおうとした俺は、別の大龍玉とぶつけてしまい、手から強化大龍玉がスッポリと抜けてしまった。コロコロと机の上を転がって、床に落ちていく強化大龍玉に、皆の声なき絶叫が響くのが分かった。

 「もうお兄ちゃん危ないなあ」

 香織がそう言って掴んだのを見て俺達は心底安堵していた。しかし香織は其のままブツブツと呟きながら、金の炎を使って強化大龍玉を調べ始めた。金の炎に包まれた強化大龍玉に息を呑んでいると、香織は何らかの結論に至ったみたいで、一人で頷いてから話し掛けてきた。

 「お兄ちゃん、此の強化大龍玉は大丈夫みたいよ。危険じゃないわ。ほら、この通り」

 そう言った香織が、いきなり強化大龍玉を持っていた手をブンと振り下ろした。

 「ぎゃあああああああああああああ」

 皆の絶叫が響く中で、強化大龍玉が床にズドンとぶつかる音が聞こえた。恐る恐る床を見ると、其処には床をへこませている強化大龍玉が見えた。香織がしゃがんで床から強化大龍玉を手に取ると、其処には傷一つついていない強化大龍玉があった。

 「ほらね、大丈夫でしょう」

 「おかしいのう?あんな勢いで叩きつけられたら、壊れないはずは無いのじゃがのう」

 「お兄ちゃんの強化の所為よ。強化した服で剣を止められるのなら、此れ位当然だわ。クスクス、全くお兄ちゃんは周りの雰囲気にのまれ過ぎよ。まあ、シグルトが真っ蒼な顔で焦っていたのが、決め手になったんでしょうけど・・・」

 クスクスと笑う声に俺とシグルトは恥ずかしくなって視線を逸らすと、香織が真剣な声で話し始めた。

 「ただ此の強化大龍玉は壊せない訳ではないわ。私やシグルトの力で壊されるようでは安心出来ないわね。転移門に使うとなると、人の出入りが激しくなるから、敵に破壊された時の事を考えた方が良いわ」

 「隔離は可能か?」

 「無理なんだ。転移門は主門と従門に分かれているんだ。主門の転移陣を地面に設定して、其の中央に龍玉を置くんだ。置いたら動かす事も出来ないし、力の流れを断つ様な事は出来ないんだ」

 「其れは障壁も張れないと言う事か?」

 「そうなんだ」

 「となると壊れない様に強化するしか・・・・・・・・」

 「お兄ちゃん待って、私の金の炎を使うのは如何かな」

 「如何言う事だ?」

 「金の炎で包んで触れない様にすれば良いのよ。私の炎は決まった物しか燃やさないし、力の流れを邪魔したりしないでしょう」

 「でもずっと炎を燃やし続けるのは無理だろ」

 「其処はほら、強化大龍玉を燃料にすれば可能じゃないかな」

 手に持ったままの強化大龍玉を床に置いた香織が、止める間もなく魔法を使った。金の炎は香織からの魔力を絶たれても強化大龍玉の力で燃え続けていた。

 「やった成功だわ」

 喜びの声を上げる香織を眺めていた俺は、ふと疑問に思った点を尋ねた。

 「なあ香織、此れどうやって消すんだ?」

 「エッ、そんなの決まっているでしょう。力の流れを絶てば良いのよ」

 「じゃあやって見せてくれ」

 香織が俺に従って力の流れを絶とうと障壁を張ったのだが、俺の予想通りに金の炎はアッサリと障壁を破壊していた。

 「ええ、そんなあーーー。如何しようお兄ちゃん」

 途端に動揺して俺を不安そうな声で呼ぶ香織に、苦笑してから安心させる為に声をかけた。

 「いや、気にするな。ある意味では安心出来たよ。障壁を張っただけで無効になるのでは、守る時に問題だからな」

 「其れは良いのじゃが、此の金の炎は如何するのかのう。まさか此のまま放置するのでは無いじゃろうのう」

 「ははは、こうすれば大丈夫ですよ」

 不安そうなヴィーギルに笑いかけると、俺は金の炎の中にある強化大龍玉を、躊躇なく掴み取っていた。そして両手で握って魔力を絶つと、アッサリと金の炎は消えてしまった。其れを見てヴィーギルやメルボルクスが、ポカンと間抜けな顔をしているのと対照的に、シグルトやフレイは納得の表情を浮かべていた。

 「ああ、そっか、香織の炎だから当然そうなるんだ」

 「クスクス、香織の炎は強力にして、無力ですものね」

 フレイの笑い声に香織の顔が真っ赤に染まった。その様子に肩を竦めた俺は、心の中でため息を付きながら考えていた。香織の炎が俺を傷つけない理由の一つに、事件の時に刺された事が関係しているはずだ。今でもあの時の対応は、俺が出来た行動で最善だったと思っているが、香織を守ると言う意味では、完璧ではなかったと思っている。香織の心まで守れなかったのは俺が弱かったからだと思っていた。しかし契約者になって強くなっても、無茶をして香織を泣かせるし、基本的な行動が変わっていないのだ。もっとも流石に上への転移があそこまでヤバい行為だとは思っていなかったが・・・・・・。

 「お兄ちゃん・・・・・・・」

 不安そうな声に我に返ると、俺に皆の視線が集まっていた。如何やら俺は何時の間にかに、拳を力一杯握りしめて、難しい顔をして考え込んでしまっていたようだ。皆の心配する様な視線が突き刺さって痛かった。

 「ああ、気にしないでくれ。少し昔の自分の事を考えていただけだ。其れより話を戻しましょう。此の強化大龍玉なら転移門はどれ位持ちますか?」

 「・・・・・正確には分からないが従門の数を十として考えると、金の炎と合わせても五百年は持つと思われるな」

 「其れなら問題ないです。今の所リラクトンの地下に主門を置いて、各主要町に従門を置く予定だけですから。よし此れで準備の目途はたったな。龍達は国境に行く者も町から少し離れた所で待機していてください。バルグーンの方は暫くしたら転移門を使ってバルクラント卿達が帰ってくるはずです。そしてガルーンの方はガルトラント卿が対応する筈です。後悪いのですが、暫くの間、従門を守って貰えませんか。町にギルドがある状況だと何があるかわかりませんから」

 「ふん、まあ良いだろう。その様にしよう」

 「ありがとうございます。じゃあシグルト、此のままリラクトンに作った転移門の設置予定地に転移してくれ」

 「うん、分かったんだ」

 「待て、此処は封禁の間だ。転移は不可能だぞ」

 その言葉にシグルトは前に出て何かをふりきる様に告げた。

 「何時も守ろうとしてくれる父さん達には言い辛くて黙っていたんだけど、僕は直哉と契約して力を手に入れたんだ。だから此処でも問題無く転移出来るんだ」

 言われた意味が理解出来ないのか、ポカンとしているメルボルクスの前で、シグルトが力を解放した。その力の強大さに愕然として、メルボルクスとヴィーギルが立ち尽くしていた。

 「父さんごめん、そして行ってくるんだ」

 言葉の終わりと同時に俺達は転移していた。


 転移した俺は真っ先にシグルトの頭を撫でて、一言かけてから転移門の設置に取り掛かった。

 「まず中央に強化大龍玉を設置して、其処から力の流れる道を作るんだよな。此れで良いのか?」

 「うん、其れで良いんだ。次にその先に出入り口になる門を造るんだ。近いと不味いから、強化大龍玉から五百メーラは最低離して造ろう」

 シグルトの言葉に俺は、香織とフレイを強化大龍玉の傍に見張りとして置いて、門を造る為に移動していた。そして香織達から離れて、声が聞こえなくなった所で、シグルトに辺りを憚る様にそっと話し掛けた。

 「シグルトに隠し事をしたくないから正直に話す。俺はあれを見て一つの事を思いついてしまった。それはあの魔力を上手く使えば、死者の為の新しい肉体を、創れるのではないかと考えたんだ」

 ギョッとしてマジマジと見つめて来るシグルトに、俺は首を振ってから話を続けた。

 「シルフレーナさんとした約束を違える心算はないし、誰かを犠牲にする心算も無い。ただ可能性として思いついてしまったから話したんだ」

 「ふうーーー、驚かせないで欲しいんだ。まあ、そんな事を思いついた理由は分かるんだ。香織の両親だよね」

 「ああ、大龍玉が手に入って、俺の初めに決めた目的の一つは叶いそうだが、それでは足りないだろう。やはり香織が強く叶えたいと思う願いは、両親の蘇生だろうしな」

 「直哉、それは・・・・・・・・・」

 「分かっている。ただもし奇跡的に、周りに迷惑をかけない方法で可能になったら、其の時は手を貸してくれないか。もっとも俺は色々と、やらないといけない事が山積みで、その事に割ける時間は無いも同然だけどな。フッ」

 「ふふ、そうだね。そんな奇跡的な事があれば僕も協力するんだ」

 内心ではそんな奇跡は存在しないと思いながらも、俺達は軽く笑い合いながら約束していた。

 「さて此れから門を造るのだが、どれ位の大きさが良いのかな?」

 「ウーン、大き過ぎると何かあった時に困ると思うし、何より力を多く消費してしまうんだ。直哉は物流にも転移門を使う心算なのかな?」

 「ああ、其の心算だ。此処から主要町に送って、其処から各地に送る心算だ。魔獣に襲われる心配も無いから、その方が良いだろう。まあ、使用料は貰う心算だがな」

 「うわーー、黒い何かを感じるんだ。お近づきになりたくない雰囲気なんだ」

 「おい、その言い方だと俺が守銭奴の様に聞こえるだろ」

 「ははは、気にしない気にしない。そんな事より物流に転移門を使うのなら五十メーラぐらいは必要だと思うんだ。話している間に考えていたんだけど、其の大きさだと従門の数を一つ減らさないといけないんだ」

 「九つと言う事だな。それで問題無いから、まずはガルーンとバルグーンにつなぐ門を造ろう」

 俺達は二手に分かれて一つずつ門を造る事にした。門と言っても壁を作って其の前に、柱を五十メーラ離して立てて、その上に横に柱を置くだけだから、すぐに終わってしまった。

 「何か味気ないな。柱の傍に像でも作るとしよう。魔金と魔銀も余っているしな」

 俺は空間から金属を取り出すとシグルトとフレイの像を創り始めた。そして創った像を柱の中間程の高さの所に埋め込んだ。

 「よし、此れで少しはマシになったな。盗まれない様に魔法もかけたし問題無いだろ」

 「よし、じゃないんだ。中々来ないと思ったら何をしているんだ」

 「いや、なんか物足りなかったんでな。まあ、良いだろ」

 「あれは僕に見えるんだけど?勝手に僕の姿を使うのは如何なのかな?」

 「ウッ、知らない人は唯の龍の像だと思うから問題無いだろ」

 「フーン、まあ良いんだ。でもフレイに此の事は話してくるんだ」

 そう言ったシグルトはアッサリと去って行ったので、俺は許可を得たと思って、シグルトが作った門にも像を設置してから、香織達の元に向かった。此の行動を未来で後悔する事になるとは、その時の俺は考えていなかった。


 「さて起動する訳だが、その前に五メーラの高さの壁を作るべきだよな。金の炎に普通の人が誤って触って、何かあったら不味いしな」

 「うん、私の炎は燃やしたりしないとは思うけど、子供も使うだろうし何が起きるか分からないから、安全に気を使うのは当然ね」

 香織の同意を得て俺は、強化大龍玉から半径二十メーラの位置に、高さと厚さ五メーラの防炎壁を作った。

 「こんなもんだろ。香織、壁の上まで跳ぶぞ」

 「うん、お兄ちゃんと私の共同作業だもんね」

 二人で跳び上がって壁の上に着地して下を見ると、強化大龍玉が輝いているのが見えた。其れを見て俺は、ふと地下の事が気になり香織に話し掛けた。

 「なあ香織、地面に被害を出さないで地下も炎に包めるか?」

 「・・・・地下から攻撃された場合の事ね。難しいけどやってみるわ」

 「そうか、出来るなら良いんだ。じゃあ始めるぞ」

 そう言った俺は精神を研ぎ澄まして古代魔法を使い始めた。

 「時空よ、我が望みのままに空間を固定し安定させよ」

 俺の声と共に、この場に音無き振動が生まれ、六半クーラ程続いた後、振動は唐突に消えた。そしてその後すぐに、地面に設定された転移陣が光を発し始めた。

 「安定せし空間よ、光りし転移陣よ、後に生まれし従門と繋がる主門となれ、主門創造」

 最後の言葉を発した時に強化大龍玉から造った門二つに向けて魔力の線が繋がるのが感じられた。まだ従門が無いので力の消耗は無いけれど、造った門が淡く光り輝いているのが見えた。

 「今度は私の番ね」

 香織が俺の前に出て、手に持った短杖を下にある強化大龍玉に向けた。

 「金の炎よ私の望みを叶えたまえ、私の心象を中核とし、気高く優雅に燃え盛れ、心象守護」

 短杖から迸った金の炎が地面の下に消えていき、暫くすると下から噴出して、壁の内側の地面を金色に染めた。その後すぐに金の炎は強化大龍玉の力を使い、天高く轟々と燃え盛って周りを明るく照らし始めた。

 「うわーー、凄いな此れは。此処まで大きな炎を見ると、安全だと分かっていても圧倒されるな。特に地面の中から炎が出る光景には言葉も無い・・・」

 「ふふふ、そうだねお兄ちゃん。でも私は其れより、門がちゃんと光っているのを見て安心したわ」

 「そうだな、魔力の線も確りと繋がっているみたいだし、香織の炎には何時も助けられているな」

 「そうかな?だとしたら嬉しいわ。でも私としては二人で協力して造った転移門が、こうして完成したのが何よりも嬉しいわ」

 香織の言葉に照れていると、上から冷たい視線が発せられた。

 「僕も門を造ったはずなんだ。でも何故か忘れられているみたいなんだ。如何思うフレイ」

 「私は炎の所為か、とっても熱いとだけ言って置きますわ。ああ、熱いですわ」

 シグルトとフレイの言葉に我に返った俺と香織は、視線をそっと逸らしてから、さり気無く話を変えた。

 「さあ、ガルーンに居る皆の所に戻ろう。交渉の結果の説明と、何より従門の設置がまだだからな」

 「うん、そうだねお兄ちゃん。さあ時間を無駄に出来ないわ。すぐに行動しましょう」

 「・・・・・・・まあ、良いんだ。僕とフレイにも考えがあるし・・・・」

 「そうですわね。・・・その時を想像して楽しみに待つとしましょうか・・・」

 誤魔化す事に必死だった俺達は、シグルト達のボソリとした呟き声に気付かなかった。そして俺達はすぐに転移して、此の時の事は忘れてしまった。


 その頃、龍の里ではメルボルクスとシルフレーナの夫婦が、我が子シグルトについて話し合っていた。

 「メルクス、何時まで落ち込んでいるの。シグルトが強い力を持っていたのなら、危険が少なくなるのだから歓迎するべきよ」

 「其れはそうかも知れないが・・・・・。シグルトに気づかわれた身にもなってくれ。はあーー、それに生まれたばかりの子供が、五龍星が全員で挑んでも圧倒する力を持っているのだぞ。何より封禁の間から転移するなど誰にも出来ない、それは明らかに異常な力で、ヴィーギルですら混乱して仕事にならないのは聞いているだろう?」

 「其れは聞きましたけど・・・・・・」

 「直哉が異世界人なのが原因だと思うが、あのシグルトの力を見たら、事情を知らない龍達が騒ぐのは目に見えている。其れに少数とはいえ、力に拘っている龍が居るのも知っているだろう。直哉は龍人だから問題無いが、同じ龍の、しかも子供が力を手に入れたと知ったら、奴らは如何すると思う?」

 「・・・・・・・シグルトにとって里が安全な場所では無くなると言う事ね」

 「安全だけなら問題は無いが、自分を付け狙う者がいる場所では寛げるとは思えない。幸い今はまだ知られていないが、それも時間の問題だろう。其の時を考えて、別の場所に家を造る必要があるかも知れない」

 「・・・・・・そうね、それが良いでしょう。場所はロベールが王になる国の中に確保しましょう。一度話してみましょうか」

 「ぬっ、それは・・・・・。クッ、シグルトの為だ仕方あるまいな」

 顔を顰めて苦渋を隠そうともしないメルボルクスに、シルフレーナは苦笑を隠せなかった。

 「メルクスもいい加減にして、仲良くしたらどうなの?龍人でも認めてはいるのでしょう」

 「・・・・・・・・・・・・・・・奴とは違うのは分かっている。だが・・・・・だがな・・・・・・」

 「メルクス・・・・、はあーーーー、此れはまだ駄目の様ね」

 深い思考の海に沈みこんだメルボルクスが、呼び声に反応しないのを見たシルフレーナは深いため息を吐いた。

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