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契約者達と葬られた過去

 其の部屋で俺達が目にした物は複数の青緑色のグニャグニャした謎の物体だった。歪な形をしているので大凡の大きさになるが、其々が三メーラはあり、柔らかい部分と硬い部分が入り混じっている様に見えて不気味だった。しかし俺にはそれが龍が此処まで厳重に隠す必要がある物には見えなかった。

 「如何思う?正直言って俺は拍子抜けしているんだが・・・・・」

 「ウーン、確かにお兄ちゃんの言う通りね。私は何か世界規模の危険な物があると思っていたわ」

 「カリーナ、それはまだ分かりませんわ。炎鳥の王女として多くの知識を与えられている私にも此れが何か分かりませんもの。つまり未知の物だと言えますわ」

 「よし魔法を使ってしら・・・・・・・・」

 「・・・・龍なんだ・・・・・・・・・・・・・・・・」

 今までに聞いた事の無い暗い声でポツリと零された言葉を耳にして、ゾクリとした俺達は声の主であるシグルトに一斉に視線を向けた。其処には今にも卒倒しそうな顔のシグルトがガタガタと震えていた。

 「龍だと?何を言っているんだシグルト?大丈夫か?」

 「・・・・・目の前にある此れは龍だった物なんだ。龍の僕には分かるんだ。分かるんだよ」

 シグルトの絶叫に俺達は愕然として謎の物体を見直した。しかし何度見ても俺にはそれが龍とは思えなかった。龍の原形などどこにも見受けられない上に、抑々俺には此れが元は生物だったなどとは認めたくなかった。

 「・・・・・本当に此れが元は龍だったのか?龍だとしたら何故こんな事になった?」

 「お兄ちゃん・・・・・・・・・・」

 呆然と立ち尽くす俺の手を不安そうな声を出した香織がギュッと握ってきた。動揺に震える手を強く握り返し、視線を合わせて俺が一緒だと声を掛けて暫くすると香織の手の震えが治まった。俺が安堵してホッと一息ついた後いきなり顔を赤くした香織からそっと視線を逸らして周りを見ると、シグルトがメルボルクスに優しく声を掛けられているのが見えた。フレイの方は動揺したみたいだが自分だけの力で立ち直ってしまっていた。其の姿に俺と香織は普段あまり感じられない生きた時間の違いを感じさせられていた。

 「ほう、如何やらもう落ち着いた様だのう?落ち着いたのなら話をさせて貰いたいのう」

 ヴィーギルの落ち着いた声にハッとして姿勢を正すと一礼して声を出した。

 「見苦しい所をお見せしました。もう大丈夫です。此れが何なのか説明して貰えますか」

 「構わんよ、むしろ動揺せずに冷静だったら話すのを止めていたかも知れんしのう。フゥ、まずは大昔の一匹の龍の話からさせて貰おうかのう。其の龍は月に行こうとした。始めは己が翼で飛んで行こうとしてのう。だが一定の高さまで行ったらそれ以上は飛べない事に気づかされたそうでのう。フゥ、其処で止めて置けば良いのに其の龍は諦めずに次は転移しようとしてのう」

 其処まで聞いた俺はまさか嘘だろと否定しながらも自然と引きつる顔と流れ出る冷や汗、そしてハアハアと呼吸困難になった様な息切れと眩暈に襲われていた。それは後にあの時香織と手を繋いでいなければ確実に卒倒したと思わされる程、酷い状態だった。

 「・・・・・・・結果は目の前にあるのう。その時の事を見ていて狂乱した龍の話が纏められて記録として残されておる。転移したと思ってすぐに戻って来たが、其の時には既に半分の原形が崩れていた。悲鳴を上げて泣きながら助けようとしたが何をしても干渉出来ず、その後目の前の状態になるまで少しずつ崩れていって喉が崩れるまでは呻き声が響き渡っていたそうでのう」

 周囲の皆がゴクリと息を呑む音が俺の耳に聞こえた。しかしその時の俺は自分の心臓がドクドクと鼓動して、音が大きく響いている様に感じ、周りを気にする余裕も無かった。

 「儂がお主の事を詳しく聞いた理由の一つは此れでのう。お主上に行こうとして良く無事だったのう。本来ならああなるのに異世界人とは凄いのう」

 最後の一言に込められた感嘆を煩わしく感じながら、気づかない内に地雷原を突破していたと知らされる気分を無理やり体験させられていた。

 「はあはあ・・・・・・はあはあ・・・・・・目の前の此奴らはもう如何にもならないのか?」

 「お主とて分かっていよう。何とか出来るのなら何とかしているのう。触れる事は出来るがそれ以外の干渉は儂らには出来なかった・・・・傷一つつけられ無くてのう」

 「・・・・俺が調べても構わないか?」

 「全ての話が終わるまで待って欲しいのう。お主も気づいていると思うが此処には複数の元は龍だった物があるでのう」

 「・・・・・・・・月に行こうとしたのは一匹だけと考えて良いんだな?」

 「当然だのう。こんな事が起きて次がある訳ないのう。他のは全てある龍人の仕業でのう」

 「・・・・龍人だと?此れを俺と同じ契約者がやったと言うのか?」

 「その通りだ。だからあの文書が届けられてからお前を此処に入れて話すか如何かでかなりもめた。かつて此処に龍人を入れて悲劇が訪れたからな。ヴィーギルにお前の事を全て話して賛成して貰い、他の三匹の反対を押し切って連れて来たのだ」

 突然会話に割り込んできたメルボルクスに驚いていると、目の前の一つに視線を固定して怒気と殺気と深い嘆きを発しながら告げた。

 「その中の一匹は私の父親の伯父だ。私の子供の頃に可愛がって貰った思い出が沢山ある」

 「何・・だと・・・・」

 絶句して立ち尽くす俺の耳にシグルトの今にも消えそうな小さな小さな声が届いた。

 「・・・父さん・・・・・そんな事始めて聞いたんだ。・・・母様は知っているの?」

 「・・・ああ知っている。正直言ってシグルトが契約したと聞いた時は複雑な思いがした。契約者のお前が異世界の人間だから耐えられたと言っても過言ではない。私にとって龍人は愉快な存在では無い」

 途中から俺に視線を向けてかけてきた言葉に、何と言って良いか分からず眉を顰めていると、メルボルクスが軽く微笑みながら告げてきた。

 「お前が契約した事にやましい事は無いだろう。だから胸を張っていろ。昨日の交渉の時もシグルトの意見を踏まえて考えただろう。私情に走る事もないから安心しろ。まあ大叔父の事を抜きにして考えても個人的にお前の存在が気に障ると言う大前提があるがな。ククククク」

 「・・・はは・・この野郎・・・心配した俺の気持ちを返しやがれ」

 「フッ、お前に心配される程おちぶれる心算はないぞ」

 俺達は睨み合ってニヤリと笑い合ってから一瞬で真顔に戻った。

 「何があった」

 「始まりは契約者の契約相手の龍が病気になった事だ。病気の名は生吸病だ」

 「何所かで聞いた気がするな」

 「何所かでって・・・お兄ちゃん、契約する前にシグルトが話した五千年前の契約者の事よ。確か三千二百年程生きた研究者だと聞いたと思うわ」

 「シグルトから聞いたのならそう聞いているはずだ。だが其れが真実の全てではない。奴は我ら龍達が集団で襲って殺したのだ。そして研究成果ごと闇に葬ったはずだった。だが昨日の文書の中に其の研究資料としか思えない物が存在した」

 「成る程、其れで昨日の騒動になるのか・・・・詳しい話をして貰えるんだよな」

 「その為に此処に来たのだ。だが此れからの話は特に他言しないで欲しい」

 厳しい視線と威圧で念押してくるメルボルクスに皆が頷くと平淡な声で話が始まった。

 「生吸病とは徐々に魔力が減っていって回復しなくなる病気で当時は原因不明の不治の病だった。病の龍と共に里に滞在した契約者も、鬼気迫る表情で必死に治療法を研究したのだが、原因すら分からないまま時だけが過ぎていった。そして時が経つにつれて病にかかった龍の鱗がとうとう原形を保てなくなってグニャリと歪んだのだ。其れを見た龍の一匹が呟いた。目の前のこの状態に似ていると・・・・・其れが悲劇の幕開けになった」

 「儂は一番若かったが当時も五龍星でのう。あの時のこの場の事は良く覚えているのう。其れを見た奴は震えておったのう。其の時は恐怖や動揺で震えていると思ったのだが、その後の行動で嫌と言う程気づかされたのう。奴は此の光景を見て歓喜に震えていたのだ」

 ヴィーギルの最後の言葉にドロドロとした長年の怨嗟の感情が籠っているのが感じられて、ゾッとした俺達は気圧されて後ずっていた。それに目の前の此れを見て歓喜に震えられると言うのも俺達には理解出来なかった。

 「・・・奴は一通り調べてから新しい治療法が何通りか浮かんだと言って走り去っていってのう。そしてその後すぐに生吸病の原因を特定して見せたのう。あの時は儂も見せたのは正解だったと思ったのう」

 「生吸病の原因は小さな寄生生物だった。寄生生物は魔力を糧としていて寄生した生物から吸収するのだが、吸収する魔力は生み出された生魔力だけでは無くもっと根源的な魔力も吸収するのだ。そして根源魔力とは魂や肉体を作っている魔力の事だ」

 「・・・・・・・はあ?ちょっと待てよ。魂は兎も角、肉体が魔力で出来ているとでも言うのか?冗談だろ・・・・」

 「・・でもお兄ちゃん、混沌獣の時に死体が光になったよね」

 「其れは・・・・・・・」

 香織の言葉に否定の言葉を思いつけななった俺に追い打ちをかける様にメルボルクスの平淡な言葉がかけられた。

 「我には混沌獣については分からないが残念な事に目の前に動かぬ証拠がある。此れは肉体の根源魔力を奪われて姿を保てなくなった状態なのだ。龍や人の場合はお腹の中で赤子が成長する過程で母体から形を創り保つために根源魔力が肉体の元になる物に練り込まれるらしい。この時に与えられた根源魔力の違いに依って姿形が龍や人になるのだ。我ら龍も含めて魔力を持つ存在の姿形を創り保つのは根源魔力なんだ」

 「おい待て、じゃあ此処にあるのは・・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・お前が今考えている通りの姿形を与えられる前に戻った原初物質だ。青緑色なのは一度龍になったからに過ぎないし、次に与えられる根源魔力に依っては・・・・・・」

 隣にいた香織が真っ蒼な顔で腰を抜かして倒れそうになったので咄嗟に抱きかかえてそっと地面に座らせた。そしてフレイに香織の事を頼んでから俺は態度を改めて質問した。

 「何故こんな事になったのか話してくれ」

 「根源魔力を奪われた以上取り戻さないと助からないと考えた奴は、寄生生物の吸収する能力に目を付け、鬼気迫る表情をしながらも龍に気づかれない様に別の治療法を研究している様に見せかけた。そして水面下で寄生生物の改良を始め、恐ろしい程の速度で改良を終わらせてしまった」

 「其れから悪夢が始まってのう。何と奴は契約相手が失った分の根源魔力を別の龍から奪って与えようとしてのう」

 「そんな行為は可能だとしても許されるはずが無いだろ・・・」

 俺は其の発想に寒気を感じて鳥肌を立てながら、かすれる声を出した。

 「真面に考えればその通りだ。だが奴は気づかれない内に契約相手の父親を治療に手を貸して欲しいと言って呼んで根源魔力を奪うと治療に使った。・・・・・しかし理由は不明だが再利用出来た根源魔力は抜き取った根源魔力の一割以下だったそうだ」

 其処で一度言葉を切ったメルボルクスはギリギリと歯ぎしりの音を響かせてから吐き捨てる様に告げた。

 「一匹では足りない事に気付いた奴は一匹ずつ別の場所に龍を呼び出して不意を突いて根源魔力を奪っていったんだ」

 「・・・・儂らが奪われた後の龍を発見して事態に気づいた時には此処にいる殆どの者達が犠牲になった後でのう。病気の龍が居た場所に儂らが飛んで行くと奴は奪った根源魔力で治療を成功させたと言って嬉しそうに喜んでいてのう」

 俺には最後の言葉と同時にヴィーギルの全身からどす黒いものが発されるのが見えた様な気がした。

 「奴は集まった皆に抜け抜けとこう言い放ったそうだ。治療は無事に成功しました。だが其れよりもすばらしいのは根源魔力を使えばこの様に好きな姿形の生物を創造出来るし、姿形を決める事が出来るのならいずれ老化も無くせるでしょう。見てくださいよ此の姿を・・・・・・」

 「其処に居たのは多頭龍とでも言うべき歪な龍でのう。ああなったのは多分複数の龍の根源魔力を入れられた所為だと思うが、男の精神が真面では無かった所為かも知れないのう」

 苦悶に満ちた顔をして首を頻りに振っている姿から思い出したくも無い過去の光景が浮かんでいるのが窺えた。

 「フゥ、此処からは儂の記憶を魔法で空間に映像として見せよう。強く心に焼きついた物は見せられるからのう」

 ヴィーギルはそう言って無言で魔法を使った。


 「何故だ。何故こんな事をした。自分の契約相手をそんな姿にして何とも思わないのか」

 「何を言うのかと思えばくだらない事を・・・・あのまま死ぬよりマシなのは分かり切っているでしょう。それに私も巻き添えになって死ぬのは御免です」

 「・・・・巻き添えだと?お前が三千二百年生きているのは契約したからだろうが。唯の人間ならとっくに死んでいるのが当たり前なのにそう言うのか?」

 「私は本来なら死んでいる。だから生きる事を諦めろとでも言うのですか?だとしたらふざけるなと言わせて貰いますよ。私はまだまだまだまだまだまだ生きて研究を続けたいのです。何より今私はこの世界の根幹をなす一つの事実に気付いたばかりなのですよ。此のままでは死んでも死にきれないでは無いですか」

 映像の中の男は怒りに震える龍達に囲まれる中で目を血走らせて一線を越えてしまった者にしか浮かべられない狂気に染まった満面の笑みを浮かべて声高に己の主張を叫び続けていた。

 「良いですか。生魔力ではない根源魔力と言うべきものが発見されたのですよ。其れに貴方達龍は愚かにも気づいていなかった様ですが、根源魔力が抜けた後に残る物体は次に入れる根源魔力に依って何にでも変化する万能素材なのです。根源魔力と万能素材、此の二つを使い熟せる様になれば自由自在に好きな物が創造出来るのです。ふはははははは、まさに神の領域ではないですか」

 「お前が神だと・・・・・・・寝言は寝て言え此の狂人が・・・・・・」

 「狂人?違いますよ、私はいずれ神になる存在です。根源魔力の使い方についても解明するあてがあります。分かりますか?天狐ですよ。私は常々何故天狐は姿を変化させられるのかと思っていたのです。たぶん本能的に根源魔力に干渉して変化しているのでしょう。天狐を捕らえて研究すれば其れが分かるはずです」

 「・・・・・・・・もう良い。此れ以上お前の御託は聞きたくない。五龍星として皆に告げる。此奴を生かして置く訳にはいかない。失った者達とあの様な姿にされた者の為、そして此れからの未来の為に殺せ」

 先頭にいた龍が命令すると周囲の龍達が一斉に行動して火炎のブレスを放った。

 「なかなかのブレス攻撃ですが無駄ですよ。やりなさい」

 男がそう言うとジッとしていた多頭龍が動き出し全ての口からブレスを放った。ブレスとブレスがぶつかり合って拮抗するのを見て龍達が目を見開き動揺していた。そして僅かな連携の乱れを突いた多頭龍のブレスが打ち勝ってしまった。ブレスが龍達に直撃して絶叫が響き渡り、それに気を良くした男が大袈裟な身振りで歓喜の声を上げた。

 「ふはははははは、素晴らしい。生吸病を何とかする為に新しい根源魔力を入れただけなのに此処までの力が出るのか。やはり根源魔力は素晴らしいな。研究すればどれ程の可能性がある事やら・・・クククははははは」

 「此の狂人がーーーーーーー。無事な者は全員魔法攻撃だ。自分が使える最強の魔法を使え。・・・疾く死ね狂人」

 龍達が次々と魔法を放ち始めた。火の火炎演舞、水の水糸包糸、地の水晶爆弾、風の真空乱舞、雷の雷壁封鎖、光の天光落下、闇の圧殺闇布、極光の一撃と同じ龍が持つ凶悪な威力の魔法が容赦なく次々と放たれた。一撃一撃は主を殺した時の極光の一撃には劣るものの、大勢の龍達が一か所に集中して放った魔法は、さすが五幻種の頂点に立つ龍だと思える恐るべき力だった。莫大な力が渦を巻いて蓄積され、防御していた男達を覆い隠した。そして暫くして大爆発を起こした後には何も無かった。

 「ふう・・終わった様だ・・・・ガハ・・ガァーーー・・」

 「死ぬかと・・思いましたが・・私は何とか生きていますよ」

 ボロボロの男が突然命令していた龍の背に現れ、其の背に触れた。すると龍はもがき苦しみ始めて呻き声を上げた。

 「ガハ・・・・馬鹿な・・・あれで生きていられるはずが・・・・」

 「ええ、確かに此の通り致命傷は負っていますよ。ふふふふふ」

 男の体には向こう側が見える大穴が開いていて、あれでは心臓など存在しないのは一目瞭然だった。しかしそれ以外はあれ程の大爆発に巻き込まれたはずなのに肌が焼けている様にも見えず、むしろ無傷の様な感じがして違和感を感じさせられる姿だった。

 「流石に此のままだと生き続けるのは不可能なので今貴方から根源魔力を貰っている所です。それで私は助かると言う訳です」

 「ふざけるなよ。龍が見えない以上死んだのだろう?なら契約者のお前が契約相手の龍を失って生きて行けるはずが無い」

 「ふふふ、根源魔力は素晴らしいとだけ言って置きましょう。さあ無駄話は終わりです。大人しく私の糧となってください」

 「があああああああああ、あああ、時空絶砕封印を・・・あああああ」

 「何をする心算か分かりませんが攻撃したら貴方も無事にはすみませんよ」

 「何をやって・・いる五龍星。早くしろ・私・・ごとやれ。どうせ・・助か・らん」

 四匹の龍が悲愴な視線を交わし、四方に飛んで魔法を使い始めた。

 「時空よ、我が意に従い断絶させよ」

 「時空よ、我が意に従い歪曲せよ」

 「時空よ、我が意に従い裂けよ」

 「時空よ、我が意に従い砕けよ」

 「時空の狭間よ、無限の虚無よ、対象を砕き其の内に封印せよ。時空絶砕封印」

 五龍星達の厳かな声が重なって響き、古代魔法が放たれた。まず最初に対象が居る空間が断絶して内部と外部に分けられ内から外へ干渉出来なくなった。次に内部の空間が歪曲して安定を失い、更に空間が裂けて漆黒の入り口が開いた。しかしその頃には中の龍は根源魔力を奪われて姿を保てなくなってしまっていた。

 「残念でしたね。もう手遅れですよ。根源魔力のおかげでこの通り傷も無くなりました」

 「・・・・・・・貴様はもう喋るな」

 「さっさと消えろ」

 「我が友の仇をとらせて貰う」

 「未来永劫苦しみ続けるが良い」

 男の声に地の底から響く様な怨嗟の籠った声を返した龍達は、冷たい視線で睨みつけてその時が来るのを今か今かと待っていた。そしてピシリギシリと空間が軋む音が響き、内部の空間が砕け崩壊し始めた。

 「何です・・此れは・・・・」

 そう言う男の足もひび割れが入った陶器の様に細かく砕け散った。

 「ぐああああああああーーーーーー」

 血は出ていないが痛みはある様で男は身も凍る様な叫びを上げていた。

 「貴様は全身を細かく砕かれ狭間にまき散らされる。意識がすり減って消える其の時までもがき苦しみ、死んでいくが良い」

 「ククククック、私は死なない。必ず生き続けて研究し・・・・・」

 男の言葉の途中で顔が砕け声も聞こえなくなった。そして裂けた空間に砕けた男は呑みこまれて行った。


 映像が終わって静寂が訪れても俺達唖然として声を出せなかった。そんな中、ヴィーギルの声が寒々しく響いた。

 「映像で魔法を使っていた四匹の内の一匹が儂でのう。そして映像で根源魔力を奪われたのが・・・・・」

 言葉を切ったヴィーギルがメルボルクスに視線を向けたので言いたい事が痛い程理解出来た。重たい沈黙が訪れる中で俺は自らの考えを纏めてから口を開いた。

 「目の前の龍達は簡単に変化してしまう不安定な状態だと思って良いですか?」

 「・・・・根源魔力を入れれば変化するが、それ以外なら何をしても傷一つつかないのう。本来映像の時の魔法で男の傍にいた龍も砕けるはずだったからのう」

 「・・・・触れて調べても良いですか?」

 その言葉にビクリと体を震わせるヴィーギルを見て俺は香織に嘘を吐くと燃える炎を出させた。

 「俺はこの金の炎に奴と同じ事をしないと誓おう。俺は目の前の龍を助けられないか調べたいだけだ」

 俺がやった事の意味を知って頷いたヴィーギルの前を通って其れにそっと触れて見た。

 「柔らかくも硬くも無い何とも言えない手触りだな。ただ此れが元は龍とは思えないな・・・・・」

 何とも言えない微妙な気分になりながらも俺は精密探査魔法を使って調べてみた。すると目の前の物がいかに常識から外れた物かが良く分かった。此れは生きても死んでもいない曖昧な状態で固定されているのだ。しかも何らかの形を与えられるまで、ありとあらゆる法則を無視して存在出来るみたいだ。そして俺は調べているうちに何個かの事実に気づかされた。慌てて他のも調べたが全てが同じ結果だった。

 「全ての根源魔力が奪われた訳じゃ無いのか?微々たるものだがまだ残っている。色がついているのは其の所為だな」

 俺の独白を聞いたメルボルクスとヴィーギルが目の色を変えて詰め寄って来た。

 「助けられるのか」

 「皆は助かるのかのう」

 「・・・・・・・・嘘は吐きたくないので事実だけを言いますが、姿形を保てないのは根源魔力が大量に奪われて保つだけの力が無くなったからです。逆に言えば量が少なくとも保てるだけの力があれば良いんです」

 「そうか、強化能力だな」

 「そうです。でも残された量は微々たるもので俺の強化にも限界があります。今ある量の百倍は残っていないと姿形を維持できません」

 「・・・・・結局不可能と言う事かのう」

 「はい、根源魔力の量を百倍に増やすか普通は不可能な限界を超えた強化をするかしないと如何にもなりません」

 ヴィーギルは肩を落としたがメルボルクスは俺の言外の言葉に気づいて動揺していた。そしてそんなメルボルクスに気付いたシグルトが口を開こうとしたので俺は素早く無機質な声で遮った。

 「姿形を失うのは大変な事だ。人も龍も炎鳥も、皆死んだとしても姿形を失ったりしないで死体が残るだろう」

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 言おうとした言葉を失って見つめて来るシグルトに俺は首を振って答えた。親子そろって俯く姿に苦笑した俺はわざと明るい声を出して話し掛けた。

 「そう落ち込むな。つまり何らかの方法で根源魔力を増やすか、俺が限界を超えた強化をしても問題無い様になれば良いんだ。今日明日で如何にかなる事はないが俺達にはまだ時間があるだろう」

 「ふう、そうだな。焦りは禁物だな」

 「父さん・・・・・うん、此れから皆で助ける手段を見つけるんだ」

 顔を上げた二匹の様子を見て安堵してからヴィーギルに毅然と話し掛けた。

 「五龍星に渡された文書の返還と根源魔力などの資料を渡して欲しい。俺は此処にいる龍達を助ける心算だ」

 「・・・・・・それ以外の目的に使わないと誓えるかのう?」

 「根源魔力が危険なのは認識している。香織に関わらない限りにおいて誓おう。香織に関係するのなら状況次第だ。だが奴の様に他者を踏みにじる事はしないと誓おう。香織に兄として相応しくないと怒られるからな」

 俺を見定める様に見つめてきたヴィーギルは厳しい声を出した。

 「何か隠している様に見えるのう」

 「・・・・よく分かるな。はあ、さっき調べた時に気付いたんだが、異世界人の俺達には肉体の姿を保つ為の根源魔力が無いんだよ。魂の方はまだ調べていないが無い可能性が高いな。まあ俺達の世界では魔法が無いから当然と言えば当然だな。上に行こうとして無事だったのも其の所為かも知れないな」

 ギョッとした皆と納得して頷いている香織に苦笑してから俺は真剣な顔で告げた。

 「そして一つもしかすると可能かも知れないと思いついた事がある。だが其の内容は思いつきだし、シグルトに話しても他の者に話す心算はない」

 「此の状況で話さないとはのう」

 俺とヴィーギルの間に火花が飛び散りそうな睨み合いが発生した。そして俺がギィッと視線に力を込めるとヴィーギルがついに視線を逸らした。

 「フゥ、そんな力を発してまで威圧するのを聞き出すのは無理そうだのう。分かった、資料を置いてある場所まで移動するとしようかのう」

 ヴィーギルの言葉で俺はまた力を発してしまっていた事に気づかされた。ヴィーギルが逃げる様に・・・と言うか逃げているのだろうが・・・部屋を出て行くのを見た皆の視線が突き刺さって痛かった。

 十月に入りましたがあまり状況が変わらないので4、5日ぐらいのペースで投稿しようと思います。申し訳ありませんがご了承ください。

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