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契約者達と龍との交渉

 シグルトの家に直接転移した俺達はメルボルクスとシルフレーナとメリクルクスとザインさんが話し合っている所に乱入してしまった。皆が俺達の突然の登場に唖然としていたが、我に返ったメルボルクスが焦りを浮かべて話しかけてきた。

 「何があった?まだ里に帰って来るには早いだろう。まさか戦いで何かあったのか?怪我でもしたんじゃないだろうな」

 「父さん、僕はこの通り無事なんだ。ただ敵は殲滅したんだけど色々と状況が変わって急ぎで交渉したい事が出来たんだ」

 シグルトの落ち着いた言葉に何かを感じたのかメルボルクスは真剣な顔になった。

 「話を聞こう」

 「・・・・・・・・・・と言う訳で敵は殲滅したんだけど新たに黒い契約石と混沌獣の脅威が現れたんだ。今まであった事は此れで終わりだけど状況は思った以上に不味いんだ」

 「・・・・・・・ギルド、ゼロンと契約融合、契約石を使った巨砲、上に転移しようとした事、新しい国、主、黒い契約石と混沌獣・・・・・僅かな間によくもまあ此処まで沢山の事が起きるものだな。しかしお前はよく生きていたな・・・お前に何かあったらシグルトがどうなると思っている」

 「戦いは大変だったけど契約者だからそうそう死ぬ事はない。それに俺も安全には配慮しているから心配されなくても大丈夫だ。目的を果たすまで死ぬ心算はないぞ」

 「そうでは無いのだが・・・・・・・」

 呆れた事を隠そうともしないメルボルクスは俺に不可思議なものを見る様な視線を向けてからフッと鼻で哂った。そして態度を変えるとシグルトに優しく告げた。

 「シグルト、辛くなったら何時でも言うのだぞ。我が何所にでも飛んで行くからな」

 「父さん、僕の事を心配してくれるのは嬉しいけど、皆と一緒に行動するのはむしろ楽しいんだ。龍の里に居た時より毎日が充実しているし、特に今度ロベールが王になるから今からどんな国になるのかワクワクしているんだ」

 「そうか・・・・・・・・それは良かったな。・・・・シグルトが辛くなければ良いんだ」

 楽しそうな声の返事を聞いたメルボルクスはどんよりとした雰囲気を出し、シグルトに話し掛けながらも気づかれない様に俺を射殺しそうな視線で睨み付けてきた。シグルト以外は其れに気づいていたが、事情を考えると仕方ないなと俺はおろか香織ですら生暖かい視線をメルボルクスに向けるだけだった。そして沢山の生暖かい視線に晒されたメルボルクスが怯んでいる内にシグルトは次の行動に移っていた。

 「ロベール、説明は僕がしたけど後は王になる者が交渉するべきだと思うんだ」

 唯一何も気づいていないシグルトが俺の後ろに行って背中を押して前に立たせると、メルボルクスは其れを見て忌々しそうな顔をした後、一瞬で五龍星に相応しい威厳のある顔になった。

 「まず最初に言って置く。お前が王になると言うのなら我も五龍星として厳格に対応しなければならない。今後は人と龍の集団同士の交渉になる事を常に意識しておけ」

 その声にズシンとした重みを感じた俺は暫く目を瞑って絶対に失敗は出来ないと思って気持ちを引き締めてから話し始めた。

 「単刀直入に言うと、今はまず建国に協力して欲しい。そして俺が王になった時点で龍との同盟を結びたいと思っている」

 「何故我らが建国に手を貸さなければならない?其れに同盟だと?正気か?」

 「勿論正気です。未知の敵と戦う為には必要だし、結んでおかないと何らかの理由で戦いになる可能性が残ってしまう。俺個人は龍と戦いたいとは思いませんが、王になったら立場が許さない事もあるでしょう。だからその様な可能性を今から摘んでおきたいと思ってます」

 「・・・・・・まずは協力の内容を説明しろ。協力とはどの様な物を考えている。先に言って置くが里に多数の人間を入れる心算はないぞ」

 「里に入る可能性が有るのは俺達の仲間と俺が定めた使者だけです。俺が求めているのはむしろ沢山の龍が里から出て来て新しい国で生活する事です」

 「ふん、我らは里の生活に満足している。どうせお前の目的は今食糧を持って行っている様に我らを扱き使おうと言うのだろう?確かに龍になれた者達もいるが未だに恐れられてもいるのだぞ。必要以上に関わって要らぬ面倒は御免だ。何より我ら龍は根本的に人間の暮らしなど如何でも良いのだと言う事を分かっているか?」

 「・・・・シグルトに人を殺す時の感情を聞いてある程度は理解している心算です。ですが俺は敵の事を知れば知るほどヤバい感じがして、此のままでは不味い事になると考えて危機感を嫌なほど感じています。嘘を言っても仕方ないのでハッキリ言いますが、龍には混沌獣などの契約石関連の事に対処する戦力として国内の主要な町と国境に駐留して貰いたいのです」

 メルボルクスは俺の言葉に目を細めて此方を窺う様に見つめてきた。

 「混沌獣などと戦うのは良いし、町の人間を守るのもまあ良いだろう。だが何故国境に?我らを人の戦争に使う心算か?」

 「契約石が関わっていて俺達だけの手におえない場合は援護を要請するかも知れません。でも今の最大の目的は普通じゃない敵の侵入を防ぐためだと考えてください。ハッキリ言って普通の兵士を配置しても防ぐことは出来ないでしょう。まあ此の創りかえる前の赤帝国を狙っている奴らに対しての示威行為と言う側面も無いとは言いませんが」

 「創りかえるだと・・・成る程、敵の侵入を我らが防いでいる間に敵の影響を受けない国に創りかえるのだな」

 「はい、その通りです。敵の影響を排除した新しい国に皆で創りかえます。其の為にまずは敵に関係している国内のギルドを全て潰す予定ですが、ギルドを潰すとランカーの戦力が低下して大討伐の時に困るので町に駐留している龍にはギルドを潰すだけでなく月が変わる時に協力して貰いたいのです」

 ジッと考え込んだメルボルクスは俺達一人一人を見た後シグルトに厳しい声で尋ねた。

 「龍の一員としてお前はこの提案をどう考えている。先程お前は新しい国に期待している様な発言をしたが、龍にとって新しい国は良い物になると思っているのか?」

 「・・・良い物になるのかは分からないんだ。でもロベールが王になる国は今までの国とは違う物になるのは確実なんだ。だから僕が言えるのは沢山の新しい可能性があると言う事だけなんだ。そして僕は其れに期待しているんだ」

 メルボルクスはシグルトが強い視線で自分を見た事に頷くと意を決したのか、強い意志の籠った声を響かせた。

 「敵を倒すのに必要なら我らは協力しよう。ただ延々と大討伐に協力する事は出来ないぞ」

 「新しいギルドが再建されるまで協力してくれれば後は何とかします。其れに魔狼や炎鳥にも交渉してみる心算です」

 「そうか・・・ただ協力はするが駐留となると長い間里に戻れないから会合で話し合う必要がある。混沌獣と黒い契約石などの事もあるから今から緊急の会合を開く事にする。だが同盟については期待しないで欲しい。龍人が王だとしても人と同盟を結ぶなど現状では賛成されるとは思えない」

 「駄目ですか・・・・・まあ協力さえして貰えれば同盟の方は今すぐでなくても良いでしょう。でもシグルトに身内と争わせたくないので交渉は粘り強く続けさせて貰います」

 そう言いながらも俺は未来で同盟を結ぶのなら龍を駐留させる時の説明で人々を安心させられるにと思って内心でため息を吐いていた。そんな俺に見定めようとするメルボルクスの厳しい視線と威圧が向けられた。

 「此れから会合に行くがその前に尋ねさせて貰おう。お前の目的を忘れてはいないな?それとお前が王になる必要は本当にあるのか?」

 俺は聞いた瞬間に湧き上がった激情と共に視線と威圧を跳ね除けてメルボルクスを逆に睨んでから自分でも驚く様な冷たい声を出した。

 「俺が本来の目的を一時でも忘れると思うのか?冗談でも笑えないぞ。そう言う質問は俺が頼んだ物を手に入れてから言ってくれ。次に王になるのは現状や関わった人を見捨てられなかったのもあるが、俺としても現状を考えると得る物があると思ったからだ。一度敵対した以上、敵が契約者の俺達を放って置く事はないはずだ。しかも大半の町にある人々の生活に密接に関わったギルドが敵だと判明したから安全な場所は限られてしまった。此れでは妹の安全を確保するのが難しいから敵を潰して安全な場所を作るしかない訳だが、本気でギルドを潰そうと思ったら王になって人々の生活を保障しながらやるしかないだろ。いくら俺にとって最重要なのは妹の安全だとしても他の人々の生活を壊して恨みを買いたい訳じゃ無い」

 「その様子だと権力などに惑わされた訳では無い様だな。纏っている雰囲気が変わっていたので気になったが本質は変わっていないみたいで安心したぞ」

 「・・・・俺の雰囲気は変わったか?自分では分からないんだがな・・・。まあ良い。俺の本音は力を得る為に人体実験や死者の魂まで使う様なヤバい敵は妹にどんな悍ましい事をするか分かった者じゃない。妹に何かあったりしたらと考えただけで・・・ククククク・・此処なら余計な事を考えずに未来永劫退場して貰えば良いだけだ。俺の国に奴らの居場所は無い。ククククク」

 自然と零した笑い声に何故か俺以外の一同が見てはいけない物を見てしまった様な顔をして顔を背けていた。

 「・・・・・皆は戦いの後で疲れているから此のまま此処でゆっくり休んでいてくれ。特にお前はかなり精神が疲弊しているみたいだから兎に角ゆっくり休め、良いなゆっくり休むんだぞ。此処は龍の里だから安全だ」

 「・・・・・・分かりました。帰って来るのは明日で良いと残してきた皆にも言われていますから此処でゆっくり休ませて貰います」

 メルボルクスが必死な顔をして何度もゆっくり休めと言うので訝しみながらも休むと言うと、俺の答えに安堵して頷いたメルボルクスはシルフレーナさんに目配せしてから去っていった。


 「此れからはロベールと呼ぶべきかしら?」

 「そうですね。王になるのでその方が良いと思います。妹もカリーナと呼んでください」

 「分かったわ。すぐに休める様に準備するから此処で待っていてくれるかしら」

 「いえ、急がなくても良いです。休む前にザインさんに聞きたい事が何個かありますから」

 「何じゃ、何を聞きたいのじゃ?」

 「此れです」

 そう言って俺は厳重に保管していたギルドの文書を取り出してザインさんに見せた。

 「此れは研究資料なのじゃろうな。だが此れが如何したのじゃ」

 「ギルドの追っ手のゼロンから逃げていたフェルミーが手に入れた物で手に入れてから敵の追跡が厳しくなったそうです。だから何か重要な事が書かれていないかと考えて皆で見たのですが分かりませんでした。長く生きているザインさんなら何か分かりませんか」

 「ふむ、少し時間を貰うのじゃ」

 そう言ったザインさんは真剣な顔をして一枚一枚時間をかけて丁寧に読み始めた。時間が掛かりそうなので俺はシルフレーナやメリクルクスに話し掛けてみた。

 「そう言えば皆は集まって此処で何を話していたんだ?」

 「アッお兄ちゃん、それは私も気になっていたわ。メリクルクスまでいるのだから何かあったんじゃないの?」

 俺達の言葉にシルフレーナさんの雰囲気がソワソワと落ち着かなくなった。そしてメリクルクスはその様子を見て困ったなと呟いてから言葉を選んで話し始めた。

 「まあ一言で言えば幼馴染として宥めていたんだ」

 「メリクルクス、黙りなさい」

 「かか・・母様?」

 いきなり顔を真っ赤に染めたシルフレーナさんが叫ぶと、驚いたシグルトが疑念の籠った声を出した。シグルトに見つめられたシルフレーナさんは其の視線から逃げながらも気づかれない様にメリクルクスに喋ったら殺すと殺気を飛ばしていた。

 「ああ成る程、もしかして何時もこうなんですか?」

 「前日が一番酷いんだよ。当日は平静を装っているけどね」

 「うわーー、其れは何と言えば良いのかな?お兄ちゃん如何するの?」

 「今はまだ如何にも出来ないよ。其れより他人事みたいな口調だけどカリーナも同じ立場だぞ」

 「えええーーー、フレイもそうなの?そう言えばフレイのお母さんとは会って無かったわね」

 「ままま、待ってください。私の母様は大丈夫ですわ」

 「ははは、俺が言っているのは母親ではなくて父親の方だ」

 「うわ、王様か・・・・・この前の態度を見ると確かに我慢してそうだよね」

 「・・・・否定出来ないのが悔しいですわね」

 「ねえ、皆が何を話しているのか僕には分からないんだ。仲間外れにしないで僕にも説明して欲しいんだ」

 シグルトの言葉に如何答えるか迷っているとシルフレーナさんからなりふり構わない威圧が放たれた。一瞬で重苦しい雰囲気になった皆は様子を窺う視線をシルフレーナさんに向けてから見なければ良かったと後悔する破目になった。其処には俺達を如何料理するか考えているのを隠そうとしない冷たい目をしたシルフレーナさんが居た。俺達はまさにまな板の鯉だった。

 「ロベール、先程の貴男の言葉は知っていた者の言葉です。何故知っているのですか?」

 「ウッ、それは・・・・・・・」

 俺が冷たい声の詰問に詰まって冷や汗を掻いているとシルフレーナさんの目が段々とつりあがっていくのが分かった。其れに伴って殺気が高まっていくのを感じた俺は、身の危険を感じてついメリクルクスに縋る様な視線を向けてしまった。目聡くその事に気づいたシルフレーナさんが恐ろしい程美しい冷たい笑みを浮かべた。

 「うふふふふふふふ、そう、そうなのね。まさか幼馴染が裏切り者だとは思わなかったわ。如何やら裏切り者がどうなるのか忘れてしまったようね。・・・・何時喋ったの?」

 「・・・・・・・・・天狐の里からの帰り道に偶然会ったと言っただろ。その時に少し話した・・・・・だだだ、だが裏切ってはいないぞ。本当だ。ただ龍人になったのだから龍の生態について知って置いた方が良いと思っただけなんだ」

 真っ蒼な顔で話すメリクルクスにシルフレーナさんが一歩一歩踏み締める様に近づいた。そして恐怖のあまり腰を抜かして全身を震わせたメリクルクスが覚悟を決めて目を瞑り、惨劇が訪れる寸前でザインさんの驚愕の絶叫が辺りに響き渡った。

 「何故じゃーーーーーー。何故此れが未だに存在しているのじゃーーーーーー」

 皆が動きを止めて声のした方を見ると、其処には死人の様な顔で血走らせた目を見開きガクガクと震え、今にも口から泡を噴いて倒れ込みそうになったザインさんがいた。

 「おい、ザインさん大丈夫か?何があった。何を見つけたんだ」

 その様子にただ事ではないと呼びかけた俺の声に、体をビクつかせたザインさんは何故か俺から距離を取って警戒する様に身構えて対峙した。

 「メリクルクス、此の文書を五龍星に届けるのじゃ。ロベールがギルドに関わる文書だと言っていたと告げる事も忘れてはならんのじゃ」

 「おい、如何言う事だ。何勝手な事をしている。止めろ。そして今すぐ説明しろ」

 突然の行動に俺が厳しい視線で睨み付けてもザインさんは顔を強張らせるだけで何も語ろうとはしなかった。そして困惑して動かないメリクルクスに話し掛けた。

 「メリクルクス、早くするのじゃ。全ての責任は儂が命を懸けて取るのじゃ。じゃから頼むのじゃ」

 異常なほど必死に懇願するザインさんにとうとうメリクルクスが行動した。無言で文書を受け取ると俺達を一瞥してからこの場を走り去っていった。香織が追おうとしたが俺は手を取って止めてから押し殺した声を出した。

 「・・・・・・・・・説明はして貰え無いんですか?」

 「出来ないのじゃ。此れは五龍星全員の同意が無いと語れないのじゃ」

 「・・・・あれは俺を信じて渡して貰った物です。返して貰えるのでしょうね」

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 「其れすら答えられないのですか?・・・・俺では無く龍のシグルトだけに話す事なら可能ですか?」

 「・・・・・・・・・・・・・・・」

 無言で歯を食い縛るザインさんに此れ以上の質問は無意味だと感じた俺は、愕然としているシルフレーナさんに話し掛けた。

 「今日は此れで休ませて貰います。すぐに取り返したい気持ちもありますが、五龍星の中にはメルボルクスも居ますから此処は我慢して説明して貰えるのを待ちます。ただ今後の其方の対応次第では此方も対応を考えなくてはいけないのは・・・・・・」

 最後まで言わずに俺は何とも言えない気持ちを抱えて香織の手を引きその場を後にした。泣きそうな顔をして無言で付いて来るシグルトを見て穏便に終わって欲しいと心底思った。


 俺達は重たい雰囲気の中で朝食を食べていた。そんな状況では味も美味しく感じるはずも無く、心底ウンザリしていると昨日出たきり帰ってこなかったメルボルクスが疲れ果てた姿で現れた。

 「父さん、あれからどうなったんだ。説明して欲しいんだ」

 シグルトが真っ先に声をかけたのだがメルボルクスは答えずに強張った表情で俺に話し掛けてきた。

 「食べ終わったら話がある。ついて来て欲しい」

 「皆と一緒で良いんだよな」

 「・・・・・ああ、此処にいる者だけなら構わない」

 メルボルクスはそう言うと自分は食べもせずに俺達が食べ終わるのを無言で待ち続けた。その姿を見て俺達は急いで食べるとすぐに移動を開始した。移動して暫くすると目的地が分かったのかシグルトが緊張しながらメルボルクスに話し掛けた。

 「父さん、この先は封禁の間なんだ。まさか・・・・・・」

 「そうだ、此れから話す事は封禁の間で話さなければならない様な事だ」

 シグルトが緊張してゴクリと喉を鳴らす音を聞いた俺は視線で問いかけた。するとシグルトは周囲を気にしながら小さな声で話し始めた。

 「封禁の間は複数の龍玉で維持された特別な空間なんだ。色々な物が封印されていて危険だから近づいては駄目だと言われていて、五龍星が証として一つずつ持っている特殊な龍玉で扉を開けて中に入ると聞いた事があるんだ」

 「その通りだ。封禁の間を使うのは何かを封印する時と封印指定された情報を扱う時だ」

 メルボルクスの押し殺した低い声に鳥肌が立った俺達は無言になって歩き続けた。すると神聖さと禍々しさを感じる白と黒の入り混じった扉が見えた。扉の前には他の五龍星が揃っていて俺達が到着すると其々が龍玉を手にして扉に掲げた。何時の間にかメルボルクスも掲げていた五つの龍玉から放たれた光が扉に当たって扉が音もたてずに開かれた。

 「さて儂の名はヴィーギルと言ってのう。五龍星の中で一番の年寄りじゃて。お主達にはメルボルクスと共に儂について来て貰うからのう。他の五龍星は予定通りにこの場に留まって誰も来ない様に見張り、何人たりとも通すでないぞ。通ろうとする者はいかなる理由でも例外なく処分せよ」

 俺達には穏やかな声で話していたヴィーギルは、一転して共にいた五龍星には目を細めて苛烈な意思を見せてから冷厳と命じていた。五龍星は皆対等と聞いていたが震えながら了承する三匹を見て、俺は考えを改めてヴィーギルに対して警戒を強めた。その後ジッと立って待っていた俺達は視線で付いて来る様に促されて警戒しながら後ろを歩いてついて行くと、苦笑したヴィーギルが話し掛けてきた。

 「警戒をする必要は無いのう。儂は龍の中では一応最強と言う事になっているが、それでもお主には遠く及ばないしのう。其れに儂は後八百年もすれば隠居の身じゃしのう」

 「・・・・・・ますます警戒したくなりました。長く生きている最強の龍なら俺の知らない何らかの対抗手段を持っているかも知れません。例えば封禁の間にある封印された物を使うとかあり得そうで怖いですね。此処の中の知識をシグルトは持っていませんから」

 「・・・・・・お主良く言えば慎重なのだろうが悪く言えば臆病と言えるのう。それにしても強い力を手に入れて浮かれている様にも慢心している様にも見えんのう。王に成り上がるのなら得られる権力などを考えてそれ相応の反応があるのじゃがのう」

 「相応の反応と言われても俺には分からないな。俺は目的を達成して妹を守ってのんびり暮らせれば其れで良いんだよ。まあ余力で周りの知り合いの人達も守るけどな」

 肩を竦めて苦笑ながら話す俺にヴィーギルは鋭い言葉を突き付けた。

 「お主の目的には龍玉が必要だのう。もし儂が用意するから王になるのを止めろと言ったら如何するかのう」

 「・・・・・・少し前の俺なら周りの人に迷惑をかけないのなら止めても良いと答えただろうな。王にならなくても手は貸せるし、目的を達成するのは早い方が良いからな。だが俺にはすでに王になるものとして命じた責任があるから簡単に止める訳にはいかないな。それに目的の方は何があっても必ず達成すると決めている」

 「目的を優先するかと思ったが、そう答えるとはのう。さて、妹さんは今の答えを聞いて如何思っているのかのう」

 「お兄ちゃんがそう言うなら其れで良いと思うわ」

 「目的の達成が遅くなっても良いのかね?寄り道していて上手くいくのかのう?」

 「目的なんて知らないわ。でも愚問ね、お兄ちゃんがそうすると言った以上そうするの。お兄ちゃん一人の力で無理なら私達の力も使って何としてもそうするわ」

 「・・・本当に兄の意思を絶対としているのう。さて兄のお主は目的と妹と国ならどちらを取るのかのう」

 「考えるまでも無い。俺が優先するのは常に妹だ。目的を達成しても妹が無事でなければ意味が無いだろ。国の方は俺以外の人もいるし、俺が居なくても何とかなる国にする心算だ」

 「本当に聞いていた通りだのう。・・・・此れで良しとするしかないかのう?」

 ジロジロと俺達を見定め様とするヴィーギルの視線を感じながら相手の思惑を色々考えていると、聞き流せない言葉が放たれた。

 「しかし異世界の人間の反応はやはり普通とは違って図り辛いのう」

 「ナッ・・・・・・」

 俺は口から出そうになった驚愕の叫びを押し殺しながら身構えて、此方の様子を窺うヴィーギルをジッと見つめた。その間に香織達も後ろで何時でも拘束出来る様に動いていた。一触即発の雰囲気の中でヴィーギルはニヤリと笑っていた。

 「メルボルクスから聞いても半信半疑だったのだが、其の様子なら異世界人と言うのは本当の様だのう」

 「父さん、何で喋ったんだ」

 シグルトの怒りの籠った声にメルボルクスは顔を歪めて歯を食い縛って耐えていた。

 「シグルボルトよ、そう父を責めるでない。儂が直哉や香織について知っている事を全て話す様に強要したのだ。此処から先でお主達が見聞きする事はメルボルクスが秘密を語らざるを得ない程の物でのう」

 「メルボルクスの事は信用しているからヴィーギルの言う通りなのだろう。だが昨日の文書の事もあるし、不愉快だとは言わせて貰うぞ。・・・それで俺達の事を知っているのは五龍星だけか?」

 「いや、儂だけだのう。そして儂も他の者に話す心算は無い。メルボルクスがシルフレーナと共に戦うと発言したからのう。シルフレーナは強い、二匹で主を殺した実力は本物だからのう。此のまま儂が隠居したらシルフレーナが五龍星になるのは確実だのう」

 「・・・・・・はあ、其れならメルボルクスにヴィーギルの事は任せる」

 「ああ、問題が起きたら我が責任をとる。勝手に喋ってすまなかった」

 「気にしなくて良い。この先で納得のいく説明があるんだろ」

 「・・・・・・・ああ、昔の龍達が力尽くで闇に葬った事実がある」

 メルボルクスはそう言って前を向くと陰鬱な雰囲気を出して黙り込んだ。

 「ようやく着いたのう。此の扉を開ければ後戻りは出来んのう。お前達は先程の会話で教えても良いと判断されたが覚悟は良いかのう」

 「ああ、鬼が出るか蛇が出るかは知らないが此処まで来た以上俺は前に進む。それに知らないでおいて敵と戦う時の判断を誤ると不味いからな」

 「お兄ちゃんが行く以上私も行くわ」

 「僕も此処で知っておかないと父さんとの関係にわだかまりが出来てしまいそうなんだ」

 「私も此処まで厳重に隠された情報に敵が関わって要るのは見過ごせませんわ」

 「・・・・・・そうか、知らなければ良かったと思っても責任はとらんからのう」

 ヴィーギルを先頭に俺達は部屋の中に入って其れを見る事になった。

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