表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/194

契約者達と黒い契約石と混沌獣

 俺達が光が向かう方角に移動していると、香織が真剣な顔をして尋ねて来た。

 「ねえ、お兄ちゃんは何でリグレス公爵に譲ったの?あんな怪我までして戦う必要があったの?」

 「・・・・・なあ香織、俺達は所詮、異世界人なんだよ。俺達にとって赤帝国は母国でも何でもないんだ。滅びると言っても他の皆と違って思い入れが無いんだ」

 ハッとした香織に頷いてから重たい口を開いた。

 「リグレス公爵と目を合わせた時にその事を思い知ったよ。俺は新しい国の事を思って戦っていた。でもリグレス公爵達にとっては自分の母国、赤帝国の最後の戦いでもあったんだ」

 「・・・・・そっか、新しい国がどれだけ良い国になっても失う国の代わりにはならないよね・・・・」

 「・・・・香織、俺は皆に決断を後悔させない国を創るぞ。香織も其の心算で居てくれるか?」

 「うん、お兄ちゃん。絶対に失敗は出来ないね」

 俺と香織が見つめ合って頷いているとフレイの声が聞こえてきた。

 「お二人とも私達の事を忘れていませんか?」

 素早く頭上を見るとフレイの白い視線が俺達に降り注いできた。そしてフレイの横で苦笑していたシグルトが表情を引き締めて注意してきた。

 「二人もすでに気づいていると思うけど、気を引き締めないと不味い事態なんだ。死んだ主の所にも光が生まれているんだ」

 シグルトの厳しい視線の先には空に浮かんだ俺の極光の一撃が眩しく輝いていて、其処から下に光が集まっているのが見えた。

 「やっぱ、あれもこっちに来ると思うか?」

 「来ないはずが無いんだ。僕の考えでは光は魂だと思っているんだ。だとすると報告された向かう先に有る黒い契約石の様な物はどう考えても真面な物じゃ無いんだ」

 「・・・・・・殲滅したのは間違いだったかな?」

 「いえ、あの時点の判断としては間違ってはいませんでしたし、主を殺してしまったのは不幸な偶然だと断言出来ますわ」

 「兎に角、急ごうお兄ちゃん。近づいて分かったけど腐臭の様な臭いが漂って来ているわ」

 「そうだな。周りに人もいないし速度を速めるぞ」

 俺達は音速を出して移動を始めた。


 飛んで来た光を吸収し始めた黒い契約石に私達は危険を感じて同時攻撃して破壊しようとした。しかし黒い契約石は傷一つつかず、私とアーヌは其れを見て動揺していた。

 「クッ、あれは一体何なのです?私とアーヌの力でも壊せないとは・・・」

 「・・・・・大きくなっている・・」

 アーヌの声にジッと見つめると、ドクンドクンと脈打ちながら光を取り込んで大きくなっていくのが分かった。その姿は黒い卵の様に見えて生きて成長している様に感じ、段々と内包される力が加速度的に強大になって行くのが感じられた。始めは不気味で悍ましい雰囲気を発していただけで大した力は感じなかったのだが、僅かな時間の間に竜の契約者の私と同じ位の力が感じられる様になっていた。

 「・・・破壊出来ないのなら障壁を張りましょう」

 私とアーヌが黒い卵の周りに障壁を張ったが飛んでくる光は障壁をすり抜けてしまった。

 「・・・障壁が意味をなさないのなら・・・此れなら如何です」

 今度は地の魔法で土壁を作って囲ったのだが光は此れもすり抜けてしまった。

 「・・・・光を直接攻撃・・・・」

 「無駄ですわ。それは魂か生命と言うべき物で実体が無いだけでなく、魂などに干渉出来ない力ではどれ程強大な力でも意味を成しませんわ」

 「魂・・・其れが本当なら私には何も出来ない・・・・でもタマミズキ、そう言うからには魔法に詳しい天狐の貴女なら何か手段を持っているのでしょう」

 私がタマミズキの声に振り返って尋ねると、顔を限界まで歪めたタマミズキが重苦しい声で吐き捨てる様に告げた。

 「天狐の魔法では死者の魂には干渉出来ない・・・・。出来る可能性があるのは私が知る限りロベールとカリーナの二人だけよ」

 「・・・・・・・・・・・・・」

 話した後、手を力一杯握り締めて立ち尽くす姿に私が何も言えずにいると、ルードルが駆け寄って来て口を挟んだ。

 「なら主達に伝えるべきだろう。主に報告したのか?していないのなら僕が行くぞ」

 「其れには及ばないわ。弟子のルミーに連絡して呼びに行く様に言ったから順調に行っていれば今頃此方に向かっているはずよ」

 「其れなら主が来るまで待っていれば・・・・・・如何やらのんびり待っている訳にもいかない様だ」

 ルードルが一瞬で警戒態勢になったのを見た私は、何時の間にか五メーラを超えて土壁を破壊していた黒い卵を緊張の面持ちで眺めた。ピシピシと音が鳴ったと思ったら黒い卵の表面がひび割れて、其処から黒い粘液の様な物が流れ落ちた。途端に腐敗臭の様な臭いが周囲に漂って顔を顰めていると、今度はボコボコと音がしてウネウネと黒い粘液が集まり姿を変えた。

 「・・・・・顔は獅子、体は虎、手足は狼、尻尾は狐、翼は龍、節操が無いにも程があるわ」

 「生命を冒涜している・・・・・・」

 「合成魔獣・・・いや混沌獣とでも言うべきかしら・・・・・こんな物を生み出して何をしたいのか分からないわ」

 「・・・主が嫌がりそうな姿だな」

 其々が嫌な雰囲気を振り払おうとして感想を述べていたが、私達は皆敵の悍ましさに呑まれてジットリと全身に嫌な汗を掻いていた。

 「来るぞ。散開しろ」

 ルードルの声に反応して左へ跳ぶと私達の居た場所に混沌獣が吐いた黒い粘液が当たって、シュウシュウと音をたてて地面を腐敗させていた。

 「気を付けて、混沌獣の吐いた物には腐敗させる力があるわ」

 私が注意を呼び掛けている間にルードルが魔狼ならではの俊敏な動きで後ろから混沌獣に接近して行った。そして爪が当たると思った時、突然尻尾が五本に増えてルードルに襲い掛かった。

 「ナッ、此れしきで如何にかなると思うなよ」

 ルードルが素早く目標を変えて尻尾を爪で切り裂くと、其処から黒い粘液が飛び散った。咄嗟の事にも慌てずに素早く退避したルードルだったが、攻撃した爪とその周辺は流石にかわせずに粘液を受けてしまった。

 「ガァァァ、おのれ・・・・・・・」

 悲鳴を押し殺したルードルが自分の傷口を見て目を細めると、その周辺の肉事抉り取って苦しそうな声で告げた。

 「グッ、黒い粘液は・・・体に付着すると・・侵食してくる様だ。良いか・・接近戦は挑むな・・・。悪いが暫く治療に専念させて貰うぞ」

 脂汗を流して後ろに下がって行くルードルを見てから混沌獣を見ると、魂を吸収して体が一回り大きくなって威圧感も数段上がっていた。しかもルードルが傷付けたはずの尻尾も治っていて、俊敏に跳びかかって来る姿は先程のルードルを思わせるものだった。

 「此れは参りましたわ・・・・ヨッと・・素早い上に十中八九魂が飛んで来ている限り攻撃しても無駄ですわ」

 混沌獣の攻撃を避けながら話すタマミズキの声に戦慄の響きを感じた私は咄嗟に声を出していた。

 「一気に全てを消し飛ばせば良いでしょう。うわ・・・其れなら再生出来ないのでは?」

 「ヨッと・・・・・・後ろの卵がある以上期待出来ないわ」

 お互いに辛うじて攻撃を避けながら話しているが、此のままではいずれ追い詰められる事は確定だった。

 「期待出来なくても試してみましょう。最悪でも一休みぐらいは出来るでしょう」

 「・・・・そうね、でも執拗に攻撃を受けている状況では大きな魔法は放てないわよ」

 「私とアーヌが暫くの間、攻撃を引き受けます。その間にお願いします」

 「分かりましたわ。では私は後ろに下がりますわ」

 「速度重視の魔法を叩き込んで足を止めるわ。アーヌも合わせて攻撃して」

 私が牽制の光球を出せるだけ出して攻撃を始めると、アーヌも光のブレスを放った。そして混沌獣に初めの光球が当たった時私は一瞬ポカンとしてしまった。何と威力の無い唯の光球の魔法が混沌獣の体を抉る事に成功していたのだ。

 「・・・・まさか其れだけの威圧感を放っていて見かけ倒しでは無いでしょうね」

 私が思わず呟いたのには理由があった。私の光球は混沌獣に次々と当たって顔や体を抉り、アーヌのブレス攻撃に至っては混沌獣の半身を吹き飛ばしてしまっていた。

 「魂は今も飛んで来ているけど再生はしていないみたいだし、タマミズキの取り越し苦労だったかしら?」

 「・・・貴女戦闘経験が足りなさ過ぎますわ。準備は出来ましたから今から取って置きの古代魔法を使いますわ。その結果を見て判断なさいな」

 私に厳しい視線を向けて呆れた声を出すタマミズキは歌う様に滑らかに言葉を響かせた。

 「天雷よ、意思を持つ白き裁きの雷よ、古よりの盟約に従い天より降りたまえ。我は盟約を結びし天狐の血族である。天雷降臨」

 私の見ている前で天から巨大な白い雷が降って来た。轟音が鳴り響きゴロゴロバチバチと音がする中、直撃した混沌獣が跡形も無く消し飛んで行った。その後天雷は深く地面を抉って其の一部が意思を持っている様に卵に向かって行き、其のまま呑みこんでしまった。ジッとその光景を見ていた私の耳にギョッとさせられる声が聞こえて来た。

 「天水よ、全てを呑みこみ浄化する意思を持つ聖なる水よ、古よりの盟約に従い天より降り注ぎたまえ。我は盟約を結びし天狐の血族である。天水降臨」

 今度は天から大量の水が降ってきて白い雷ごと全てを包んで呑みこんでしまった。天水からバチバチと白い放電が起きて、二つの古代魔法が合わさってその威力が桁違いにはね上がったのが、戦慄に震える私の体の反応で理解させられた。

 「何を考えてい・・・・・・・・・」

 私が振り向いて見たのは息を乱し、ガクガクと震えながら必死に魔法を使っているタマミズキだった。

 「・・・・・・・・・・如何して」

 「・・・初めに言った通り魂を傷つける事は・・はあ・・出来ないのですわ。・・・調べて分かったのですがあの混沌獣は・・・はあ・・・集められ侵食された魂の力で出来ています。だから・・倒すには核を潰して魂を散らさなければならないのですが・・・核は未だに卵の中ですわ。はあはあ、ひびが入っているので何とかならないかと思って攻撃と浄化を試みましたが無駄の様ですわ」

 「そんな・・・・でも無駄なら何故今も無理をして魔法を使っていますの?」

 「あっちの空から来る物が見えませんか?はあはあ、私はあれが来る前に卵の中の核を破壊するか浄化するかして何とかしたかったのですが・・・・」

 タマミズキに言われて空を見ると其処には大きな光が此方に向かって移動して来ていた。

 「・・・・・・・・・・・・」

 「・・・大きい・・・其れに強い力を感じる・・・あれが取り込まれたら手におえない・・・・」

 驚愕のあまり無言になった私の心にアーヌの声がヒヤリと突き刺さった。そして私が対応策を考え付く前に時間が経ってしまい、私達が見ている前で光が魔法の中に入って行った。途端に心臓を掴まれた様な重圧に晒され、タマミズキの魔法が冗談の様にアッサリと弾け飛んだ。

 「ヒィ・・・・・・・」

 私は光を取り込んで激しく脈打つ卵を見て悲鳴を上げて後ずさっていた。全力で逃げろと本能は叫んでいたが私の足は恐怖で地面に縫いとめられた様に動けなかった。そんな私の目の前で卵が禍々しい漆黒の光を放って飛び散った。中から現れたのは姿こそ先程の混沌獣と同じだったが、存在感と悍ましい雰囲気が段違いで此れこそが完成体と言える混沌獣だった。

 「参ったわね。ねえルードル治療したばかりの所で悪いけど逃げられるかしら?」

 「この中で僕が一番速度が速いけど・・・あれから逃げるのは無理だな」

 「そう、ならやるわよ」

 タマミズキのアッサリした物言いに唖然とした私が動けないでいる内に二匹は攻撃していた。

 「深遠なる闇よ、疾く我が影より出でて、絶対なる鎖となりて全てを束縛せよ。闇影絶鎖」

 「聖なる水よ、千変万化の力にて我が敵を束縛するに相応しい姿と成れ。万化の束縛」

 ルードルの影から闇の鎖が混沌獣の体に巻きつけられた。そしてタマミズキの放った水が変化して手枷、足枷、首輪になって混沌獣に装着された。

 「グルルルル」

 唸り声を上げた混沌獣が煩わしそうに体を動かした。すると魔法を使って拘束していたはずの二匹の方が引きずられそうになって冷や汗を流して必死に抗っていた。

 「・・ちょっと・・・冗談にならないわよ」

 「クッ、元々倒せるとは思っていなかったが一時の拘束すら無理だと言うのか」

 焦る二匹の姿を見てアーヌが混沌獣の顔に向かってブレスを放った。しかしブレスは直撃したのにはじかれて消し飛ばされてしまった。私は其れを見てはじかれ方に疑問を抱いて光球や地の矢で攻撃して見て疑念を確信に変えた。

 「魔法が体に当たる前に何かにはじかれているわ。此の混沌獣には魔法が効かないとしか思えない・・・」

 「・・・・そう言う事・・・・私達の拘束魔法も混沌獣に完全に掛かっていないのね」

 「があああーーーーーーーー」

 タマミズキが呟いた時、ついに咆哮を上げて混沌獣が拘束の魔法を破って此方に跳びかかって来た。混沌獣の動きは私の目には殆ど追えず、気づいた時には爪に切り裂かれる寸前だった。かわせない事を悟った私が呆然として立ち尽くしていると、突然混沌獣が横に吹っ飛んで行った。


 「皆無事か?とんでもない事になっているが、あれが何か説明出来るか?」

 俺が蹴り飛ばした何かを指さして尋ねると、皆が俺達の登場に驚いている中でタマミズキだけが平淡な声で質問に答えた。

 「あれは・・・・・・・・・・ですわ」

 タマミズキに今まであった事を聞いた俺は少し考えてから皆に指示を出した。

 「シグルトはこの場を隔離するのと俺の足場を作ってくれ。フレイは消耗している皆を後ろに下げてその護衛だ。そしてカリーナは金の炎で俺の援護をしてくれ」

 シグルト達が行動に移ろうとした時タマミズキが口を挟んで来た。

 「私も援護なら出来ますわ」

 顔を強張らせてきつい視線向けてくるタマミズキに、俺は違和感を感じながらものんびり話す時間が無いので簡潔に告げた。

 「カリーナが居れば問題無い」

 俺の返事にタマミズキは唇を噛むと険しい表情で皆と共に後ろに下がって行った。

 「うふふふ、流石私のお兄ちゃん。私が居ればタマミズキなんていらないとハッキリ言ったのは良い事だよ。いたたた・・・」

 この場に一人残った香織が妖しい笑いと共におかしな事を言ったので一撃入れて大人しくさせてから告げた。

 「分かっているとは思うがあの混沌獣は主より強い。魔法が効かない様だから俺が接近戦で切り刻む。カリーナは飛び散った黒い粘液だけを燃やしてくれ」

 「其れは良いけどお兄ちゃん、集められた魂を侵食している何かを燃やしてもまた取り込まれてしまうわ。・・・・この場合・・・・」

 「核を破壊して解放した後、金の炎で浄化する。此れは決定事項だ」

 俺が断固とした声を出して告げると香織は黙って頷いてくれた。

 「ロベール、隔離と足場は終わったんだ」

 「分かった、シグルトは其のまま維持してくれ。じゃあ始めるぞ」

 俺は吹っ飛んで立ちあがったばかりの混沌獣に向かって剣を抜いて駆け寄った。俺の接近に気づいた混沌獣が唸り声を上げて跳びかかって来た。お互いの速度が音速の数倍に達していたので交差は一瞬だった。俺の剣が混沌獣の爪を切り裂き黒い粘液が飛び散った時には、既に後ろまで駆け抜けて尻尾を斬る体勢に入っていた。

 「がああああああーーーー」

 遅れて混沌獣が叫ぶ中、俺は尻尾の一つを容赦なく斬り捨てた。更なる悲鳴を上げた混沌獣の残りの四つの尻尾の毛がブワッと逆立って針の様になって飛んで来た。

 「うお、危ないな・・・・」

 後ろに跳んで距離を開けた俺は毛が突き刺さった大地が黒く染まるのを見て息を呑んで様子を見守った。

 「・・此れが侵食か・・・・大地から無魔力が失われていっている様に感じるな。此のまま戦うと周辺全てが死の大地になるぞ」

 斬った感触としては俺と此の魔金銀の剣なら混沌獣は倒せない相手では無かった。しかし核を見つけるまで切り刻むとなると・・・・・。予想より強力な侵食の力に苦い表情で如何するか考えていると、周辺全ての大地が金の炎に包まれた。

 「お兄ちゃん、私が大地の方は何とかするわ。気にしないで戦って」

 金の炎が侵食した大地を燃やしてアッサリと元の色に戻すのを見た俺は、香織の力を過少評価していた事に気づかされた。

 「カリーナ、本当にそっちは任せた。俺は斬る事だけに集中する。シグルトやるぞ」

 金の炎を嫌った混沌獣が翼を動かして空へ飛んで逃げようとしているのを見た俺はシグルトに作って貰った空中の足場に飛び乗った。

 「良い感じの弾力だ。強度も問題無さそうだし此れなら俺の望む戦い方が出来るな」

 そう呟いて俺はニヤリと笑うと弾力を利用して力一杯跳躍した。弾丸の様に跳んだ俺はすれ違い様に混沌獣の翼を斬り飛ばした。

 「がああああああーーーーーーー」

 悲鳴を背に空中で半回転した俺は片翼を失い体勢を崩した混沌獣の方に向き直るとシグルトの作った足場に足から突っ込んだ。弾力のある足場は沈み込むと反動と風の魔法で俺を撃ち出した。更なる加速をした俺はすれ違い様に剣を混沌獣の背に深く突き立て、速力を使って力任せに引き裂いた。黒い粘液が辺り一面に飛び散ったが俺はその時には既にその場に居ず、地面に落ちた黒い粘液は金の炎に焼き尽くされていた。

 「如何した抵抗しないのか?この程度の速度ならまだ反撃出来るはずだ」

 足場に身を沈めながら疑念を口にして跳躍すると、混沌獣の尻尾が一本切り離されて飛んで来た。

 「そうか、俺が直進しか出来ないと思ったな。シグルト」

 俺は驚きながらも回転してシグルトが作った足場を使って地面に向けて跳躍した。そしてすぐに半回転して今度は斜め上に跳躍してすれ違い様に尻尾を斬りつけた。其のまま混沌獣の真上に到達して回転すると俺は足場を使って下に跳躍した。脇を切り裂かれた混沌獣は悲鳴を上げながらも四肢に力を込めて跳躍した。

 「ナッ、何所に行く心算だ?」

 俺が意表を突かれて次の行動に移るのが遅れている間に混沌獣は香織に向かって爪を振るっていた。

 「カリーナ、避けろーー」

 「慌てなくても大丈夫だよ、お兄ちゃん。私も何時までも守られているだけの弱い妹じゃないんだから」

 慌てる俺に微笑んだ香織は素早く短杖を取り出すと魔法を使った。

 「金の炎よ私の望みを叶えたまえ、私に触れし者は許されし者のみ、許しを得ずに触りし者に断罪を与えよ。心象拒絶」

 香織の声が響くと纏った金の炎の色が濃くなり短杖に集まった金の炎の輝きが強くなった。その後すぐに混沌獣が香織に攻撃したが、触れた瞬間に爪ごと右前足を一瞬で燃やし尽くされていた。金の炎は其れでも収まらずに体の方まで燃やし尽くそうとしていたが、混沌獣が咆哮を上げて体に黒い何かを纏うと表面が少し燃えただけで弾かれてしまった。

 「あれ?おかしいわね?私の心象拒絶が弾かれるはずが無いんだけど・・・」

 疑念を口にした香織がハッと何かに気付いた顔をして短杖の先を混沌獣に向けると其処から集まっていた金の炎が迸った。しかし金の炎は黒い何かとぶつかり今度も同じ様に弾かれてしまった。

 「そう言う事ね・・・お兄ちゃん、あの黒いのは侵食された魂だと思うわ。表面しか燃やせずに弾かれるのがその確たる証拠よ。お兄ちゃんが魂の解放を願っていて、私が魂を傷つけてはいけないと考えているのが原因だわ」

 「分かった。カリーナは距離を取って再び援護してくれ。もう二度とカリーナに攻撃はさせない」

 そう言った俺は後ろから跳躍して混沌獣の左の後ろ足と前足をすれ違い様に撫で斬りにした。すると前と後ろの足を失った混沌獣は悲鳴を上げて金の炎が燃え盛る大地に倒れ込んだ。

 「此れでもう動けないだろ。カリーナを襲った事を後悔させてやる」

 俺が混沌獣の正面の足場に着地して香織を後ろにしながら顔に向かって跳躍しようとした時だった。突然鳥肌の立つ悍ましい黒い魔力が混沌獣の全身から放たれた。すると混沌獣の失った部分が見る見るうちに元通りになってしまった。

 「・・・大した再生力だな。良いだろう、俺がその再生力を上回る速度で切り刻んでやる。シグルト、何度も跳躍して加速するぞ」

 シグルトに大声で指示した俺は次々と足場の弾力を利用して跳躍し続けた。そして俺の跳躍が二十を超えた時には音速の百倍近くの速度に到達して大気を切り裂き暴風を纏っていた。

 「行くぞ。此れが俺が考えた最速の剣舞陣だ。抵抗出来るのならして見るんだな」

 俺は何度も跳躍しながら斬って斬って斬って斬りまくった。瞬く間に混沌獣の四肢、体、顔、尻尾、翼などのありとあらゆる場所が俺の剣で滅多斬りにされていった。しかし傷だらけになった混沌獣は黒い粘液をまき散らしながらも悍ましい死の気配のする黒い矢の魔法で反撃してきた。俺は纏った暴風と張った障壁で次々と放たれる黒い矢を全て吹き飛ばしていたが、途中で死の気配がするのは死者の魂から生み出された死魔力と呼べそうな物で、その源がドロドロとした死者の生への執着だと気づいてしまいゾッとする破目になった。

 「はあ、ようやく魔法を使うのを止めたか・・・。跳躍回数が四十を超えてからは俺の速度に対応出来ず、見えていない様だったかったから当然だな。しかし魂らしき黒い物を纏った体は一瞬で再生してしまう上に一部の強度が他の部分と段違いだな。チィ、十中八九あの場所に核が有るんだろうが・・・・・」

 舌打ちした俺はその後も暫く攻撃を続けて魔法も試してみたのだが、生魔力と死魔力は反発するらしく、体の再生力と俺の与える被害は拮抗してしまい、埒が明かなかった。

 「・・・・上級魔法を強化すれば何とかなりそうなんだが・・・極光の一撃の事もあるし・・此処は矢張り速度を限界まで上げてから一撃の勝負を挑むしかないか・・」

 チラリと空で輝く光を見た俺は覚悟を決めると攻撃を最低限にして速度を速め始めた。

 「ロベール、これ以上の速度だと足場を的確に作るのは無理なんだ」

 「分かった、じゃあ最後はカリーナを背にする位置に作ってくれ。先程から混沌獣も力を蓄えているみたいだ」

 シグルトが足場を作り俺が着地するのと同時に、混沌獣が咆哮を上げて死魔力で禍々しい黒い光線を生み出して此方に放った。一見すると俺に向かって飛んで来ている様に見えるが、混沌獣に俺の動きは見えていないから此の攻撃は後ろにいる香織に向けられた物だった。

 「此の野郎、ヤッパリ俺がカリーナの方に攻撃が行かない様にしていたのを分かっていたな。此処に攻撃すれば俺が受け止めると思ったんだろう。ああ、正解だ・・・だがこの代償は高くつくぞ」

 一度ならず二度までも香織を攻撃された俺は怒り心頭で自分の中のタガが外れるのが分かった。すぐに膨大な魔力が全身から溢れだして止められない状態になり、自分でも気づかない中に溢れる魔力を当たり前の様に身に纏って雄叫びをあげて跳躍していた。

 「うおおおおおおおおお、この程度の攻撃で俺を如何にか出来ると思うなよ」

 魔力を纏わせた剣を前に突き出した体勢で、弾丸の様に回転しながら黒い光線に突撃した俺は、一瞬の拮抗の後、圧倒的な速度の力で強引に押し切った。黒い光線を真っ二つに切り裂いて暴風と衝撃をまき散らしながら突き進むと、すぐに混沌獣の体が見えてきた。剣を力一杯握り締めて剣先に更なる魔力を集めてぶつかった俺は、混沌獣の体の中を抉りながら圧倒的な速度で突き進んで、再生する間も与えずに核と思われる物の所に到達した。其処には悍ましく禍々しい死魔力を幾重も纏った黒い契約石があり、俺の剣の魔力とぶつかってバチバチと音を響かせて激しく反発していた。激しい反発に依って移動が止まった俺は、周囲の黒い粘液が再生しようと近づいて来るのを横目に見てギョッとする破目になった。

 「クッ、馬鹿な・・・此処までやって破壊出来ないはず・・・・うおおおおおおおおおおおおお」

 俺は全身から溢れだしていた魔力を力尽くで無理やり束ねて剣に込めると、雄叫びと共に激しく反発する死魔力に叩きつけた。俺の魔力が死魔力を圧倒し始めてピシピシと音が鳴りようやく黒い契約石にヒビが入り始めた。

 「はあはあ、この地で戦い眠りし死者達よ。・・・・・・こんな物に捕らわれずに安らかに眠れ」

 息を切らしながら此処に捕らわれている魂達を感じた俺は、意識せずに口から零れた言葉の続きを声に出してから、雄叫びと共に最後の力を振り絞った。

 「うおおおおおおおおおーーーーーーー砕けろーーーーー」

 俺の魔力がついに死魔力を吹き飛ばし、黒い契約石が目の前で音をたてて砕け散った。

 「はあはあ、やった・・・。此れで終わりだな」

 何となく魂が解放されたのを感じた俺が安堵していると、核を失って形を維持出来なくなった混沌獣が一瞬で黒い粘液に変わってしまった。

 「ナッ、消えるんじゃないの・・・・・・・」

 言葉の途中で黒い粘液に呑みこまれた俺は、其のまま地面に落ちてしまった。そして香織の金の炎が黒い粘液を焼き尽くすまで捕らわれる事になった・・・・・。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ