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契約者と魔狼の長

 契約石がもう如何にも成らない程に危険で、最悪な物だと解ってから一日半が過ぎたが、未だ五龍星の会合は終わらない様だ。メルボルクスも会合に行って帰ってこないままだ。俺達の昨日一日は、シグルトの家でフレイシャーには異世界になる地球の常識と、現代の常識について話して聞かせるだけで終わった。のんびりした一日を過ごし、今日も広場で寛ぎ、嫌な気持ちが薄れていたのだが、目の前の魔狼の長の所為で台無しだった。

 「おい、聞いているのかガキ。長である俺を、無礼にも斯様な時に呼び出したのだぞ。大人しく拝聴するべきだろうが」

 俺が考え事をしているのが気に入らない長が、苛立った声を出しているが不愉快なのは俺の方である。

 「おいガレオス、俺は話の出来る奴を連れて来いと言ったんだ。ギャーギャー煩い奴を連れて来いと言った覚えはないぞ」

 後ろに控えているガレオスを睨むと、顔を逸らし無視を決め込みやがった。俺は何時か報復する事を決め、煩い長に視線を向けた。

 「長よ、先程から喚いたり、怒鳴ったり、恫喝したり、挑発までして揺さぶって、譲歩を引き出したいのだろうが無駄だ。お前はその目で、俺を冷静に観察しているのが隠せてない。演技を学んで出直して来い」

 「チィ、嫌なガキだな。何でお前みたいなガキが今現れるんだよ。いいか、我らの仲間は今も捕らわれているんだぞ。長として何もしない訳には行かない訳だ。抑々非常事態に何もしない長に誰が従うと思っているんだ」

 「子供が助かるだけじゃ駄目なのか?失われた生命力を如何にかして治療出来るのは俺だけだぞ」

 「今捕らわれてる家族は納得しない上に、抑々人間が治せるなら魔狼に出来ないはずは無いと言う意見が主流だ」

 俺は五龍星の館に行く途中の広場で、ザインさんと話している所に声を掛けられた意味に気づき、ザインさんに隔離空間を作って貰い、契約石の情報を伝えた。

 「魔狼は精神や魂を治せるのか?詳しくは言わないが俺は特殊能力を使って治しているんだぞ」

 「まて、魂に直接干渉出来ると言うのか?特殊能力を使っても無理に決まっている。それは半ば神の領域とされている事だぞ」

 長が驚愕して、俺と共にいる者達に視線で問いかけた。

 「驚くのは分かるけど、直哉なら出来るんだ」

 「私は自分が見た以上、否定しませんわ」

 「一度こやつの力を感じれば可能じゃと言われても驚かんじゃろ。ほれ其処の魔狼は、確かこやつの力を感じた事があったじゃろ。どうじゃ」

 皆の問いかける視線に晒されて、顔を強張らせたガレオスが重い口を開いた。

 「フェルニル様の前で、この様な事を言うのは如何かと思うのですが、私が今までに感じた最大の力は、確かに其処の人間の力です。あの時我ら魔狼の前で、子供を治療したのも確かに此の人間です」

 長は俺の前で深く考え込んでしまった。六半クーラ程経った時に、長が覚悟した目を向けてきた。

 「我は魔狼の長フェルニルだ。我と戦いその力を見せて貰いたい。魔狼は一番強い者が長になる種だ。新しい長を決める時も血統ではなく、決闘で長を倒した者が長になるのだ。今我は歴代でも三位以内に入る強さと言われ、二番目に強い魔狼との間に、絶対的な力の差があると認められている。その我を圧倒する力があるのなら、我は全力で仲間を抑えよう」

 聞いた瞬間またかと思った。このファーレノールに来てから龍、炎鳥百羽と戦い今度は魔狼の長だ。俺に五幻種を制覇しろとでも言うのだろうか。目的の達成と香織の安全さえ確保出来れば、それでだけで良いのにと思い、イライラが募った。

 「先に言って置くが、俺は妹の香織の安全と、自分の目的が果たせれば其れで良いんだ。何故戦う必要があるんだよ。良いかよく聞けよ。子供を治したいのはお前達で、俺は対価として計画の変更を求めている。此れは香織の安全の為だが、必須の事じゃないし、駄目なら駄目で他の方法を考える。俺が戦う理由が無い」

 「戦う理由が必要なら・・・・そうだな我らで香織とやらの安全を脅かすと言ったら如何する」

 言葉の意味を理解した瞬間に俺は、思考が怒りで染まり、全ての躊躇を捨てていた。

 「良いだろう、一度躾け直してやる。此の俺に向かって香織に手を出すと言ったんだ、死んでも後悔するなよ」

 我を失いかけた俺の中から自然と魔力が湧き上がり、何倍にもなった魔力が隔離空間に充満して、空間が軋んでギシギシと嫌な音が響いていた。其の音に我に返って、少しの理性を取り戻した俺は、空間が壊れない様に魔力を抑え話しかけた。

 「さあ早くやろうか。香織に手を出すのが、どれ程罪深い事なのか分かったら、半殺しで許してやる」

 俺の変わり様に度肝を抜かれたのか、フェルニルはピクリとも反応しなかった。俺は強化した拳を無造作に振るい、衝撃波を飛ばした。直撃を受けてのけ反ったフェルニルはやっと反応した。

 「まま、待て、お前変わり過ぎだろう。冷静さはどこに行った?」

 「何を言っている?俺は十分冷静で、今も思考は普通だ」

 俺の言葉に何を思ったのか、皆の顔に諦めの色が混じった。特にシグルトは頭を振ってフェルニルを睨むと、ガレオスに淡々と告げた。

 「直哉の逆鱗に触れるなんて、死にたいと言っているとしか思えないんだ。龍の里で魔狼の長が死んだら問題になるから、ガレオスは確りありのままの証言をして欲しいんだ。こんなくだらない理由で龍と戦いたくはないだろう?」

 すでに長の命が無い物の様に話すシグルトに、フェルニルが怒りの声を出した。

 「く、我は魔狼の長だぞ。殺されたりする物か」

 「戦えば分かるんだ。僕は直哉に理性が残っている事を祈っておくんだ」

 シグルトに促されたフェルニルが、侮られた怒りと共に音速を超える速度で飛びかかってきた。しかし俺は爪の攻撃を腕を出してアッサリと受け止め、がら空きの右の腹を蹴り飛ばした。ズドッと鈍い音がして、フェルニルは来た時の数倍の速度で飛んで行ったが、空中で咆哮を放って衝撃波を飛ばしてきた。すぐに拳を振るい、同じ衝撃波で相殺して、着地したフェルニルに昨日一人で訓練して使える様になった、普通の人間の火魔法を強化して使った。マッチの火ぐらいの火を出す魔法で、強化して精々火炎球になってくれれば良いと思っていたのだが、俺の予想に反して何と太陽のフレアの様な火が飛んで行った。

 「何だと、ウォーーー 何だこの魔法は・・・。くそ我の毛が燃えて無くなっている。直撃していたら死んでいたな・・・」

 フェルニルが叫び、必死にかわすのを見ながら、想像と大きく違う魔法に動揺していた俺は、立ち尽くしてしまい致命的な隙を晒した。

 「闇よ、我が前に集い敵を貫け、闇刃乱舞」

 フェルニルの前から数百の闇色の刃が飛んできた。動揺して立ち尽くしていた俺はハッと我に返ったが、すでに今からではかわす事が出来ないと悟り、有りっ丈の魔力で体を強化した上に能力で強化して、防御態勢をとった。

 「ウギャーーー痛いーーー血が出たーーーー」

 俺の体中の皮に軽く刺さっただけだが、何百もの刃が刺さった所為で、顔を庇った腕などは流れた血で真っ赤になった。全身を刺される経験なんてした事が無いので、叫び声を上げてしまったが、傷がすぐに塞がるのを見て大げさに騒いだ事に羞恥を覚えた。しかし一つだけ言い訳させて欲しい、ゲームならいざ知らず、現実で数百の刃が飛んできたら、普通に怖いし体も竦むのだと心の中で思った。

 「・・・・・お前は本当に人間か?今の魔法は単体用だが、その威力は屈指の魔法なのだぞ。龍とて生身で受けたら深く突き刺さり、重症は免れないのだぞ」

 「いや凄く痛かったし、こんなに血が出ているだろう。強化したから無事だっただけだ」

 「お前は分かっていない様だから言ってやるが、どれだけ強化しても肉体には限界がある。例えば我ら魔狼がどれだけ強化しても、龍の強靭な体を超える事は出来ない。強大な生命力と強靭な体を持つのは、龍が最強と言われる大きな要因の一つだ。お前の体は龍のそれを超えている事は明白で、我としては人間ではなく、新種の謎の生命体と言わざるを得ない」

 あまりの言われ様に俺は救いを求めて周りを見渡した。

 「すまんがお主、先程のは儂でも言葉が無いのじゃ。長く生きた儂が言える事は、他の龍人なら重体で、虫の息か最悪死んでいるのが普通じゃ。そのじゃな・・・・・」

 「私としては貴男の妹が普通である事を祈るだけですわ」

 「直哉は直哉だから其れで良いんだ。多分だけど・・・・・・」

 皆の言葉が心に突き刺さり、泣きそうになってしまった。何より謎の生命体とは何だ酷過ぎる。俺の中の何かがプツリと切れる音が、頭の中で響いた。

 「・・・もう良い。俺は謎の生命体らしいからな、人間的な良心が無くても仕方ないよな。ふふふふふ・・・ククククク」

 心に生まれた負の感情を発しながら、不気味に笑う俺を見て、皆が後ずさって俺から距離を取った。

 「さあフェルニル、戦いを続けようか。覚悟しろよ」

 強化された体で全力疾走し、一瞬で距離を縮めるとまずは顎を殴った。ズドンと重い音が響いた初めの一撃で、意識を半分飛ばしている長に、俺は容赦なく腹や背中を中心に数百発殴り続けた。一撃一撃の度にズドンズドンと響いていた音は、最後の方になるとズドドドドドドドと連なって轟音に変わっていた。その時点でフェルニルは意識が無くなっていたのに、俺はさらに尻尾をつかんで容赦なく投げ飛ばしていた。まさにサンドバックになり、ぼろぼろになって横たわる長を見た時、その息が止まりそうになっているのに気付いて、サーと血の気が引いて不味いと思い、即座に治療したのだが、周りの俺を見る目は危険生物を見る目だった。

 「此の事は香織に報告しない訳にはいかないんだ。言い訳を考えて置くべきなんだ」

 「貴男・・・・何だか殴っている時、嬉しそうに見えたのですが・・・・・・」

 白く冷たい視線が皆から向けられた。正直に言って香織の事を言われた事、異世界に来た事、此れからの未来の事の不安などがあって、ストレスが溜まっていたのが少しスッキリしたのは秘密だ。俺は顔に出ない様に注意して言った。

 「気のせいだ。そんな事は無い」

 まだ疑われている様だが無視した。

 「長はもう少し言葉に配慮するべきだったのじゃ。儂も若い時は口を滑らせて酷い目にあったのじゃ。しかし哀れな・・・・・・」

 「さてガレオス、子供を抱えた魔狼達は親で良いのか」

 「そうだ」

 「長は当分目覚めない、先に子供を治療するから渡してくれ」

 「待て、長との話は如何なる。我らに決定権は無いのだ」

 「この状態で先の話を反故にしたら、魔狼がどうなるか分からない程、長も馬鹿じゃないだろ。問題無いから早く治療するぞ。遅くなって手遅れになっても知らないぞ」

 その言葉と同時に、一匹の親が子供を渡して来たので素早く治療すると、次々と子供が渡された。全ての子供の治療を終えて、俺は魔狼達に声を掛けた。

 「何かあったら俺に知らせろ、出来る限りの事はする。さて話が変わるが、俺の妹の香織はとても兄に素直な良い妹なんだ。香織が血を流すなど論外で、髪の毛一本傷ついただけで分かるな・・・・」

 俺が長を一瞥して告げると、魔狼達は冷や汗をかきながら大きく何度も頷いた。

 「物分りが良くて助かる。親の皆様は里に帰ったら、香織の事を周りの皆様に教えて欲しい。報酬として此れ位は問題無いでしょう。そしてガレオスは、其処で眠っている長によく言い聞かせてくれるよな?」

 親達はすぐに頷いたが、ガレオスは渋い顔をして唸っていた。

 「話を出来る奴を連れてくるはずだったのに、戦いまで挑む長を連れてきた責任をとるべきだと思うんだがな」

 ジトーーーと睨むと、嫌々ながらガレオスは頷いた。色々言いたい事がある顔をしているが、俺は無視して皆で一度五龍星の館に行く事にした。そしてこの場に残るザインさんに別れの挨拶をして向かった。


 館にたどり着いて、初めに魔狼の親と子供、そして眠ったままの長を客間に置いて、俺達とガレオスだけで、五龍星の会合が行われている部屋に向かった。部屋に近づくと話声が聞こえてきた。

 「契約石は放って置く事が出来る物では無い。魔狼と共に戦うのも良いかも知れない」

 「だが復讐心に駆られ、やり過ぎる可能性が高いでしょう。巻き添えで龍まで恨みを買う事はないでしょう」

 「儂は大戦を避けたかったが・・・無理だろうのう」

 「戦うなら準備と、何より里の防備をしなければいけないのでは?」

 「我としては息子の契約者に人間の国に行って貰って、詳しい調査してからにしたいのだが」

 「だが魔狼と共闘するには今動くべきでは?」

 「魔狼は多分すぐには動かないと思いますよ」

 俺の突然の言葉に、皆の窺う様な視線が集まった。

 「その言葉は何所まで信用出来るのだ」

 メルボルクスの言葉に直接答えず、俺はガレオスに説明させた。五龍星の俺を見る目が話と共に段々変わっていく。

 「ははははは、そうかそうか、小僧は人間の皮を被った謎の生命体だったのか。ははははははは」

 心底愉快そうに笑うメルボルクスは、この場で俺が反論しないのを良い事に笑い続けた。シグルトは俺の胸の内を推し量ったのか、笑う父親を見て頭を振っていた。

 「一応報告に来ただけだから、俺は此れで失礼する」

 「待って貰いたいのう」

 部屋から出ようとする俺に、五龍星の中で一番年を取った龍が声を掛けてきた。

 「今儂達の話し合いで、契約者殿に人間の国に行って調査をして欲しいと言う意見があるのだがのう。要請すれば行ってくれる心算はあるかのう」

 「俺は今日の夜、一度家に帰る心算です。そして次は妹の香織が一緒に居ると思います。俺は行っても良いですが、全ては香織次第になるでしょう。二日後には戻る心算ですので、その時にメルボルクス殿と話して結論を出すのではいけないでしょうか」

 「儂は二日ぐらいなら問題無いと思うが如何かのう」

 「魔狼が動かないのなら大丈夫でしょう」

 「ではメルボルクスに後は任せる事にするかのう」

 「了解した。我が責任を持とう」

 俺達は一礼してから、ガレオスを置いて館の入り口に向かった。


 向かう途中俺達は長と遭遇した。俺は一瞬警戒するが長はもう過去の事として気にしていない様だ。

 「先程は無様な姿を見せてしまったな。改めて名乗ろう我が魔狼の長フェルニルだ。フェルと呼んでくれ」

 「態度がいきなり変わったな。何を考えている?」

 シグルトやフレイシャーも別人を見る目つきだ。

 「ああ、あれは対外用の長としての態度なんだ。力が強いから長をしているが、我はまだ千六百年を超えた程度で、若すぎるから舐められない様にしているんだよ」

 「うわ、其れは確かに若いんだ。一番若い五龍星でも二千七百歳は超えているんだ」

 「炎鳥でも王になるには、最低二千五百歳以上が好ましいとされていますわ」

 千年以上生きていて若いと言う者達の考えが、俺には理解出来なかった。理解するには千年生きてからに成りそうだ。僅か十七年でも、生きて培った常識は、俺の中で深く根付いている様で、簡単には変えられない事を突き付けられた。このような時に認識を改めて行かないと、香織を守る時に判断を誤る事になるだろう。気を引き締め直した。

 「やはり若いと問題があるのか?」

 質問に顔を歪めると、フェルはため息を付きながら告げた。

 「二番目の魔狼と力の差がある事は話しただろ。そいつが長の座に執着していてね。力で敵わないから、事ある事に若い事を理由にして攻撃してくるんだ。今回の事でも若く臆病風に吹かれたのか、若造が長だから舐められて襲われた、若く経験が無いから対処出来ないなどと、言いたい放題言っているんだよ」

 如何やら此奴も苦労している様だと思い、少し同情してしまった。

 「成る程な。そいつは今何をしているんだ」

 「一応里の警備をしているよ。おかしな事をしない様に、父上と側近に見張らせているけどね。正直個人としては、今戦うのは得策じゃないと思っていたんだ。あいつが襲われた家族を抱き込んでから押され気味だったんだ。龍との交渉で時間を稼いで対策をしていた時、子供が助かった報告が伝わったんだよ。好機だと思って子供を見捨てるのかと言って、あいつを黙らせて此処に来たんだ」

 「此のまま大人しくするのか、そいつは」

 「まず無理だから力で抑える心算だよ。君に完敗したから、今まで出来なかった事が出来る様になったんだよ。子供達の親が、長が放つ魔法を痛いで済まし、一方的に殴り倒した君の姿を見せ付けられたから、もう要求を呑むしかないだろ。我の強さは本当に魔狼数十匹と互角に戦える程なんだよ。長が戦いにならない相手と戦ったら、自分達がどうなるか考えない奴はいないよ。滅びを回避する為にと言ったら皆納得するし、君が恨まれても君ならサクッと返り討ちに出来るから問題は無いし、もし勢い余って処分しても問題にはしないから安心して良いよ」

 俺は顔が引きつるのを抑えながら、頭の中に貴様を処分してやろうかと言う考えが出てくるのを抑えられなかった。此奴も苦労しているのだと同情した、過去の自分を忘れる事にして、危険存在リストに入れる事にした。

 「分かっていないんだろうが、二日後から妹の香織もフレイシャーと契約して一緒に行動するんだが、もしそいつが香織を傷つけたら勿論原因を作った者も同罪だからな。ははははははは」

 笑う俺を見たフェルの動揺が伝わってくる。いい気味だ。人を利用しようとするからこんな目に合うのだ。

 「ままま、まあ此方も見張っているから大丈夫だよ」

 「香織の髪の毛が傷ついたら、其方の毛もむしろうと思っていたんだ。お互いにそんな事態はないほうが良いもんな」

 殺伐とした会話にシグルトとフレイシャーは居心地が悪そうだ。

 「真面目な話をしよう。今回の事で稼げた時間は、黒の月の終わりまでが限界だよ。其れまでに何か進展が無いと、魔狼は戦いを始めざるを得ない」

 黒の月の終わりまでの時間で出来る事を考えた。まず此方の一年は六か月で、今は黒の月蒼の四日だったはずだ。ちなみに昨日は赤の四日だ。おかしいと思っても、信仰の言葉で納得して欲しい。地球換算で一月半以上はあるようだが、転移魔法を使え無いので、移動時間が町から町でも数日掛けなければ行けないのだ。町の中の調査を考えると近場の町三つが精々になるし、契約石の事は機密情報だろうし、探るとなれば時間は多ければ多い程良いだろう。俺は諜報員の訓練などしていないのだ。

 「もう少し如何にか成らないか?」

 「成果の報告次第だよとしか言えないな」

 俺は考えた事を話してもう一度問いかけたが難しいとの答えだった。

 「ねえ直哉、香織と話すと言う話は如何なったんだい?」

 「香織は素直に俺の言う事を聞く妹だから、俺が行く場所には付いて来るはずだ。まだ契約が終わっていないから保留しただけだ」

 「フェル様は五龍星の方々と話し合い、直哉は帰る準備があるでしょう。通路で長話などするものではありませんわ」

 フレイシャーの声を聞き、其々の目的を思い出して、お互いのやるべき行動を始めた。


 ファーレノール産の果実や美味しいお水を土産として確保した俺は、シグルトが両親と別れの言葉を交わし、戻って来るまでの時間をのんびり寛いでいた。しかし今俺はとんでもない事に気づいてしまった。

 「なあ、フレイシャーは百五十ミーラはあるよな」

 「何を今更当たり前の事を言っているのです?」

 この世界で見た生物は龍、炎鳥、魔狼などだが、皆大きい者は五メーラを超えていた。だから俺はフレイシャーを小さいと認識していた。だが家に連れて行って良い生き物では無いだろう。香織はともかく両親に合わせたら何を言われるか分かるだろう。勿論説教に決まっている。契約したら香織と共にいる事になる。学校は如何する?行くとしたら電車は?シグルトはまだ本当に小さいので姿を隠すだけで良いからと、その事を真剣に考えて無かった自分に失望した。

 「言い難いんだが。俺の世界だと大き過ぎるんだ。何とか成らないか?」

 「小さくなれと言うのですか?」

 「成れるのか?」

 俺は後で後悔する事になるとも知らず、素晴らしい希望を見つけたと喜んだ。

 「五幻種は体の大きさを変える事が出来ますわ。天狐などは人化出来ますわ。けどまず小さくは成りませんわ」

 「其処を何とかお願い出来ませんか?この通りお願いします」

 頭を下げる俺を見てフレイシャーは条件を告げた。

 「小さい間は食事も少なくなりますが、元の大きさに戻る時に、食べて無かった分まで食べる事になるのですわ。その時の食事の世話をしてくれるのなら小さく成りましょう」

 「何だ其れだけで良いのか?大した事ないな?もっとヤバい事があると思ったが其れで良いなら任せてくれ。満足するまで食べさせてやるから」

 「確りと聞きましたから違えないで下さいね」

 大きさの問題が解決する事に気を取られ、俺は何故此処まで念を押すのか考えもしなかった。

 「くくくくくくく・・・・」

 突然俺を嘲る様な笑声が響いた。声の発生源のメルボルクスを睨んで、詰問する様に声を出した。

 「何が可笑しいんだ」

 「小僧も時がくれば分かるさ。っくくく・・・」

 なお笑うメルボルクスを無視して、俺はフレイシャーに小さくなる様に指示した。頷いたフレイシャーの体が発光しながら体が縮み始め、僅かな間に二十ミーラに成った。

 「おおーー、凄いな。此れは異世界に来たと実感出来るな」

 「今の内に精々感動しているが良い」

 一々人の感動を台無しにする龍だ。白い視線を向けてもニヤニヤと笑っている。此奴を喜ばせる様な事が、何所に有るのか分からず、俺は少し不安になってきた。

 「父さん、これ以上直哉を笑うと僕は怒るんだ」

 「そうね、少し人が悪いかしら」

 妻と子供から非難され、流石のメルボルクスも大人しくなった。

 「シグルトの事を宜しくお願いします」

 「我からも頼もう」

 子を思う親の真剣な声に、俺は態度を改めて話した。

 「確りと受け賜りました。シグルト、フレイシャー行こう」

 すぐにシグルトが空間転移魔法を使い、俺達は地球に向かった。

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