契約者達と商連合国との戦い五
岩の上に立って敵の指揮官らしき男と視線を合わせながら俺は心の中で深く安堵していた。ルードル達が居るから負ける事など無いと思っていたし、ましてリグレス公爵が討たれる寸前になるとは考えても居なかった。本隊の状況を見て他の部隊の作戦は上手く行っているのか、皆は無事なのかと色々考えてしまい背筋が寒くなってしまったが、沢山の視線と男の視線が向けられている今は、その事を態度には出さない様にして落ち着いた声を意識して出した。
「俺の名は龍人ロベール、此の軍の総指揮を執っている。貴殿が先程言っていた総司令官の首とは俺の物だと告げて置こう。貴殿の名を伺っても良いか」
「私は此の軍の総司令官のモルガンだ。一つ聞きたい私は先程まで追っていた部隊に総司令官が居ると思っていたのだが、貴公が総司令官なのは本当か?貴公は龍人と言った以上契約者なのだろう?」
「疑念は分からなくもないが本当だ。俺は巨砲の迎撃をしていて今合流した所だ。合流前に貴殿が追っていたのは俺がいない間の指揮を頼んだリグレス公爵だ。だが今俺が此処にいる以上総指揮権は俺にある。今一度名乗らせて貰おう。俺は龍人ロベール、新しく生まれる国の王になる者だ。故に俺以上の指揮権を持つ者は存在しない」
愕然とした敵の顔が至る所に見られた。特にモルガンの顔は一瞬で厳しい物に変わっていた。
「・・・・待て皇帝では無く王だと言うのか?・・・・まさか今私達が戦っているのは赤帝国軍ではないのか?そして何より貴公は契約者では無いのか?」
「俺が契約者なのも王になるのも本当だ。帝都が消し飛んでガタガタになった赤帝国を立て直すのではなく、この機会に悪い部分を変えて新しい国に作り直そうと考えている。戦いの前に皆には此の事を伝えて受け入れて貰ったから此処に居る軍は新しい国の軍と言って良いかも知れないな」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
言われた事が受け入れられないのか呆然として立ち尽くすモルガンに俺は総司令官なら知っているかと思って尋ねた。
「此方も聞きたい事がある。そっちに逃げた五大神官は今如何している?それと商連合国は今後も契約石を使う心算なのか答えて欲しい」
俺が厳しい視線で睨み付けながら尋ねると、モルガンは軽く笑ってからアッサリと口を開いた。
「五大神官は契約石にされて龍殺巨砲を撃つために使われた。その時点で力を搾り取られて生きてはいないだろうが、龍殺巨砲が消し飛んだ以上確かめる方法はない。それと八商家は利益が有る限り契約石を使い続けるだろう。奴らは利益さえ得られれば他は如何でも良いと考える者達だ」
「そうか・・・・・・其方はまだ何か聞きたい事はあるか?」
モルガンの言葉を心に刻んでから重苦しい気分で尋ねた俺にモルガンは首を振った。そして無言で合わせた視線がぶつかり合いお互いの意思を確認した俺は剣を手にして告げた。
「では話しは此処までにしよう。俺達の目的は敵の殲滅だから降伏の呼び掛けは行わない。死にたくない者は俺を殺すが良い。全軍に告げる。俺がこの場に来た以上負けは無い、致命傷を負わない様に冷静に距離を取って敵を包囲しろ」
俺の指示に味方は敵から距離を取って包囲する位置に移動した。
「無事な近衛騎兵は集合しろ。予定通り目の前に現れた敵の総司令官の首を取るぞ」
無事な敵は総司令官の元に集まって隊列を整えていた。
「カリーナは・・・・・・」
「お兄ちゃん、私も戦うわ。下がっていろとは言わせないわ」
香織は俺の言葉を遮って鞭を手にすると厳しい視線と口調で告げて来たが、俺は言葉を詰まらせながらも色々な説得の言葉を考えていた。しかし俺を見る香織がその事を鋭く察したのか無表情になっていくのを見て説得は無理だと結論せざるを得なかった。俺は深いため息と共に指示した。
「・・・・・・・・はあーーー、分かった。なら俺達で四方を包囲して殲滅する。フレイは空を飛んで後ろに、シグルトは右に、カリーナは左に行ってくれ。俺は此のまま正面から接近する。後悪いが総司令官は俺の手で討つからその心算でいてくれ」
「うん、お兄ちゃん任せて」
「分かりましたわ」
「分かったけどロベールも無理はしないで欲しいんだ。僕が前に言った事は本当だから辛かったら全部僕がやるんだ」
俺の指示に笑顔を浮かべた香織に苦笑してから気を引き締めると表情を厳しくして告げた。
「シグルトありがとう。でも今回は王になる者として堂々と受けて立つ心算だ。此処で戦え無ければ今後も戦えないだろう」
俺が岩から飛び降りると背後で皆も移動を開始したみたいだ。其れに勇気づけられた俺は敵に大声で告げた。
「俺は俺を受け入れてくれた皆と共に創る国の為にお前達全員を全力で殺す。龍人の力を冥土の土産にするが良い」
俺が自身を強化して膨大な魔力をまき散らしながら敵に向かって歩き始めると、其れを見た敵の十数人が先走って突撃して来た。
「うおおおおおおおお、お前の首を取れば終わりだ」
「契約者の力は誰も正確には知らない。話に聞いただけの力に怯むと思うなよ」
俺は突撃してきた先頭の男に向かって跳躍すると、剣を上段から振り下ろした。ブオンと風切り音を響かせた剣は人も馬も一撃で真っ二つに切り裂いた。血をまき散らしながら左右に分かれて倒れる姿に敵が息を呑むのが分かった。
「まず一人、次は誰だ?」
俺が殺気を込めて周囲を見回すと、馬が悲鳴を上げて急停止していた。敵が困惑して必死に馬を走らせようとしていたが馬はピクリとも動かなかった。そんな敵の一人に跳躍して近づくと冷たい声で告げた。
「馬は俺の力を感じて怯えているだけだ。それと動かない馬に気を取られ過ぎだぞ」
俺の声にハッとして視線を向けた敵は俺がすぐ傍にいる事に驚愕していた。そんな敵の顔を俺は容赦なく蹴り飛ばした。悲鳴を上げる暇も無く馬上から吹っ飛んで行き、グシャと音がしそうな感じで地面に叩きつけられた敵は首がおかしな方向に曲がっていて生きてはいない事は明らかだった。主の居なくなった馬が悲鳴を上げて逃走するに至って他の馬も暴れ始めた。
「クソ、大人しくしろ。俺を振り落す心算か?」
「馬は使えない、仕方ない降りるぞ」
そんな敵の声を耳に入れながら俺は剣を無造作に全力で横向きに振るい、その剣は大気を引き裂き真空斬と呼んでみたくなるカマイタチを生んで敵に飛んでいった。そして馬から降りた者達と馬上に留まろうとした者達で明暗が分かれた。真空斬は斜め上に放たれて馬上の者達に襲い掛かり、上半身と下半身を真っ二つに引き裂いた。ずり落ちた上半身が地面に落ちた音で馬は全て走り去ってしまった。
「さて残りは六人だな。ボーっとしていても容赦はしないぞ」
何も出来ずに半数以上を失った敵は恐怖を顔に宿して立ち尽くしていたが、俺の声に自棄になった様に武器を構えて包囲すると同時に攻撃してきた。その連携は流石精兵と思える物だったが、俺は避けず防御もせず、その場に立って攻撃を受けた。敵の剣や槍が体に容赦なく直撃したが俺は痛みも感じず、傷一つ負わなかった。
「・・・馬鹿な・・・・・」
「・・・・化け物・・・・・・」
「首に当たったのに・・・・・・・」
蒼白な顔で後ずさる者、恐怖に顔を歪める者、理解出来ない化け物を見る目で見る者、勝てないと理解して絶望する者、五人が負の感情に捕らわれて動けない中、一人だけ諦めずにあがく敵兵の男がいた。
「此れで一緒に消し飛んで貰うぞ」
男が出した物を見た俺は流石にギョッとさせられた。男の手にある物は光を放っている契約石だったのだ。
「お前奴らの関係者なのか?」
「ハッ、奴らとやらが何を指すのか知らないが、俺は龍殺巨砲の調整者の一人と友人だっただけだ。友人からもしもの時に使う様に言われて魔獣の入った契約石を貰ったんだよ。お前はさっき巨砲を迎撃したと言ったはずだ。友人の形見になってしまった此の契約石で友人の仇を取らせて貰う」
暗い憎悪の目つきで睨み付けてくる男に一瞬動揺してしまったが、グッと歯を食い縛って告げた。
「その憎悪は俺が受け取るべきもので確かに受け取った。だが一つだけ告げる。お前が感じている痛みを商連合国の策略で傷つき死んでいった、この国の犠牲者の残された家族も感じているんだ」
俺が強い視線を向けると男の暗い目に揺らぎが見えた。
「俺は・・・・・・・」
男が何かを言いかけたがその時契約石が眩い光を放って爆発した。俺の周囲二十メーラ程が光に包まれたのが感じられ、周りにいた敵兵達は跡形も無く消し飛んでしまった。
「グッ、流石に痛いな。ひりひりする」
爆発の威力は古代魔法に匹敵する威力で手足や顔に火傷をしたが、龍人の俺は負傷してもすぐに治癒していった。ただ光が消えるまで延々と焼かれるのは常人なら経験しない痛みで精神的につらかった。
「ようやく終わったか。お前の憎悪を確かに受け取らせて貰った。他者を自分の意思で害して始めて憎悪された事を此の心に刻んで置く」
もう消滅して此処にいない男に告げて、感傷を心の中に封じると敵の総司令官がいる方に歩き始めた。
その頃別の場所で戦っていた香織は段々と心が重たくなる様に感じていた。
「何度やっても無駄よ。私の金の炎は全てを呑みこむわ。貴男達の攻撃は私に触れる事さえ出来ないわ」
「・・・・・・本当にお前は契約者なのか?契約者だとしても人間のはずだ。炎鳥と違って人間が炎を纏えば焼け死ぬはずだろう?」
「そうね、普通なら焼け死ぬでしょうね。例え炎鳥と契約しても炎に対する絶対的な耐性なんて手に入らないもの。でもねこの金の炎は色々と条件を付けられるのよ。私が無事なのは私を燃やさないと言う条件を付けているからなの」
「クッ、この化け物がーーーーーー」
「俺の剣は風の魔剣だ。そんな炎なんか吹き飛ばして見せる。うおおおおおおお」
二人の敵兵が私に左右から斬りかかってきた。私は数メーラ程後ろに跳んだ後、金の炎を纏った鞭を振るった。右にいた敵兵の腕に当たった鞭はすぐに炎を敵兵に燃え移らせた。
「あああああーーーーーーーーー」
叫びを上げた男はすぐに声も出せなくなって燃え尽きてしまった。
「貰った、死ね」
もう一人の敵兵がすぐ傍まで近づいて風の魔剣を振り下ろしてきたが私は慌てずにその場に立っていた。男の剣が私の頭から一直線に通り抜けて地面に叩きつけられて暴風が巻き起こった。
「きゃあ、もう危うくスカートが捲れる所だったわ」
スカートを手で押さえて敵兵を睨み付けると私の横に剣を振り下ろした敵兵は茫然としていた。
「蜃気楼と言って理解出来るかしら?まあ簡単に言うと私の居場所を誤認させたの。タマミズキに騙されてから私も出来ないかと考えたけれど、もうちょっと工夫が必要みたいね」
そう言った私は纏っていた金の炎を五メーラの範囲に拡大した。敵兵も魔剣も一瞬で金の炎に呑みこまれて消滅していき、周りを包囲していた敵が範囲を拡大した金の炎に警戒して悲鳴を上げて後退して行った。幾度も繰り返された人が燃え尽きる光景に、私は敵に気づかれない様にしながらも眉を顰めてしまった。そして深いため息を吐いて風で乱れた髪を整えていると自然と言葉が零れていた。
「はあ、何度も同じことを繰り返していると流石にウンザリしてくるわ。本当ならチマチマやらないで一気にやるのが簡単で精神的にも負担が少ないのだけど、間違って総司令官まで殺してしまったらお兄ちゃんに怒られるしホント困ったわ」
殺人が思った以上に自分の心の負担になっているのを自覚して、気分転換に周囲を見回すと其処には敵兵を容赦なく蹂躙するシグルトとフレイの姿があった。
「シグルトのあれは雷撃かしら?当たった人がビクビク痙攣して死んで行っているわね。・・・うわ今、息がある倒れている人間の喉を躊躇い無く爪で掻っ切ったわね。フレイは・・・・・高空を飛んで炎を放って敵の足元を溶岩に変えているわね。・・・・・私も人の事は言えないけど・・・あれじゃあ死ぬまで地獄でしょうに・・・・・しかし本当に全く躊躇してないわね」
シグルトはまだ地上近くを飛んで爪でも攻撃しているから敵は辛うじて反撃出来ている様だが、フレイは常に高空を飛んでいるので反撃手段自体が殆ど無いようで敵の顔には絶望が浮かんでいた。無抵抗で炎の海と溶岩に沈んでいく敵の心が折れてしまっているのが感じられた。
「・・・・心理的負担が違うとは聞いていたけど・・・あの戦い方を見ると本当に私達が人を殺すのを嫌っていたから配慮してくれていただけのようね。・・・あれは後で確り教育しないといけない・・・はあーー、でもシグルトとフレイが私達の為に多くの敵を受け持とうとしているのは気迫から伝わってくるわ。私もお兄ちゃんと同じ道を歩く覚悟を決めたのなら、今は心を殺してあのように振る舞うべきでしょうね」
周囲を見て気分を新たにした私は炎を抑えると鞭を握り締めて敵兵の密集している所に跳び込んだ。
「恨みは無いけどお兄ちゃんの望みの為に死んで貰うわ」
躊躇を捨てた私は一言告げると体を回転させて鞭を振り回した。そして鞭を当てられた敵が燃えるのを確認する前に別の場所に跳び込んだ。
「ぎゃあああああああ」
「熱い、助けて・・・・・・」
遅れて背後で悲鳴が上がったが私は振り向かずに次々と場所を変えて鞭を振るい続けた。人に燃え移った金の炎が一面に広がって行くのに多くの時間は掛からなかった・・・・・。
「何だ此れは・・・・・・・・。あれが契約者の力だと言うなら過去に契約者を倒したと書いてある資料は全部嘘だな。捨て身の爆発以外では傷一つ付けられないのでは倒せるはずが無い」
「うおおおおおおおおーーー」
「無駄だ。何度やっても唯の槍では俺は傷付かない。・・・・苦しまずに逝け」
ロベールが突き出された槍を左手で無雑作に掴んで右手の剣を振るうとまた一人部下の命が消えた。
「私の全魔力を込めた火炎球をくらいなさい」
「其れも一度受けたから俺には無駄だと分かっているだろう。其れに二度受けてやる心算はない」
左手に掴んでいた槍をロベールは投げ付けた。槍は衝撃波を生みながら魔法を放とうとした部下に直撃し、その頭部を吹き飛ばしてから、私の右横を飛んでいって衝撃だけで膝をつかせていた。そして立ちあがろうとした私の耳には、火炎球が制御を失って周りの部下を巻き込んで爆発する轟音が響いていて聞きこえ無いはずなのに、微かにロベールの足音が聞こえた様な気がした。
「クッ、唯歩いているロベールの足を止める事さえ出来ないのか?」
今も一歩一歩淡々と近づいてくるロベールを止めようと、近衛騎兵が役に立たない馬を降りて決死の覚悟で戦ってはいるのだが、抵抗も空しく一方的に斬り殺されていた。殆どの部下を剣の一振りで殺していくロベールは既に数百は斬り殺しているはずなのに、疲れを見せる事も無く一定の速度を変えずに淡々と歩いて近づいてきていた。感情を碌に見せずに淡々と近づく姿は不気味で私の心に重圧をかけていた。冷や汗が流れて震えそうになるのを気力を振り絞って押し殺した私は周囲を見回して呟いた。
「女の契約者の方も人が変わった様に戦い始めてからは此方が一方的に蹂躙されているし、龍や炎鳥の方は一人でも多くの人間を殺そうとしている様にしか見えない。此処までやられると笑しか出ないな、は、は、は」
一人この場に立って渇いた笑い声を出した私は、死んで行った近衛騎兵の者達を思い槍を握り締めて敵が来るのを静かにジッと待っていた。
「後は貴殿だけだぞ。モルガン総司令官」
「・・・・・確かに私以外は全滅した様だな」
あれだけ喧騒が響いていた戦場に恐ろしい程の静けさが満ちて、私達の声だけが辺りに響いていた。
「貴公は其の血塗られた剣を持ってどんな国を創るのだ。・・・・我らには初めから勝ち目など無かった。今此処で行われた事は戦いなどではない・・・あれは・・・あれは・・・・」
感情を高ぶらせた私にロベールは血で赤く染まった剣を握り締めて構えてから硬質な声で語った。
「貴殿の言おうとしている事は理解している。俺は皆に殲滅しろと命じたし、持っている力の強大さを考えれば虐殺と言われても否定出来ないし、する心算も無い。貴殿らの残された家族や友人達から恨まれる事も分かっている。其れでも殲滅する事にしたのは俺を信じてついて来てくれる皆と目指す未来に、たどり着ける道で一番マシな物だと考えたからだ」
「この惨状がマシだと言うのか?周りを良く見て見ろ。屍の山ではないか。何より貴殿の味方とて此の惨状に怯えているではないか」
「強い力に怯えるのは仕方が無い。仲間の皆に求めるのは一つだけで炎に誓った事を思い出して俺を信じて欲しいと願うだけだ。此の惨状は・・・・・」
「ロベール、後は私が契約者以外を代表して話そう。我らは怯えても拒絶はしない。私が此処に来たのがその証明になるはずだ」
「ナッ、リグレス公爵、危険です下がってください」
ロベールが後ろを振り向いて忠告していたが、其れを無視して近づいて来る男に焦りを浮かべていた。
「・・・・先程逃げていた者だな」
「そうだ。私は戦えない訳では無いがどちらかと言うと武官と言うより文官の方だからな。さて確かに此の光景は凄惨なものだが商連合国がした事を考えれば自業自得だと私は思うが?殲滅したのは侵略軍の者だけで此方の様に一般人の者達まで犠牲になった訳ではないし、何よりあのような強大な力を放つ巨砲を使うのなら強大な力に晒される覚悟はして置け」
目の前の男の表情は一見すると平静に見えたが、一言一言から滲み出てきて感じられる物は冷厳さと押し殺されて圧縮された怒り、そして薄らとした冷たい殺気が漂っていた。
「ロベール、この男と戦う権利を譲ってくれないか。ロベールが王になる者として自らの手で決着をつけたいのは分かるが、私も機会があれば皇妹を娶り公爵位を持つ者として滅びゆく赤帝国の最後のけじめをつけたいと思っていたのだ。私が戦う機会は無いと半ば諦めていたのだが目の前に機会がある以上我慢出来そうにない。頼むこの通りだ」
頭を下げた公爵と視線を合わせたロベールは、暫くすると一歩下がって硬い表情で告げていた。
「リグレス公爵に死なれたら新しい国は維持出来ません。致命傷だけは絶対に負わない様にしてください」
「気を付けるが私より相手の方が強いから怪我はするだろう。戦いが終わったら治療してくれ」
公爵が話を終えて此方を向くと剣を抜いて構えた。その姿は一流の使い手には見えず、其れを見た私は槍を持った自分が負ける事は無いと確信していた。
私がロベールに譲られて一歩踏み出すとモルガンが声を出した。
「この戦いは其方の勝ちだ。此処で要らぬ危険を冒す必要は無いのでは?」
「其れは大きなお世話だ」
私は視線を厳しくするとモルガンの左に回り込む様に動いて隙を窺った。モルガンはすぐに槍を構えて私の居る方に向きを変えたが、その時にはすでに魔法が完成して水の矢を放っていた。
「その程度の魔法では無駄だ」
モルガンは槍に魔力を込めて槍で水の矢に突き刺さして四散させると、その間に距離を縮めていた私に慌てて槍を引き戻して連続して突いてきた。私は素早い槍の連撃を掻い潜ろうと左右にかわして攻撃の切れ目を探していたが、流れる様な連撃に隙は見つけられなかった。
「クッ、流石に私とは戦いの技量が違っているな」
一端距離を置いて仕切り直そうとした私にモルガンは踏み込んでくると一気に勝負を決めにきた。今までとは比べものにならない速度の槍が繰り出されて私の心臓を正確に貫こうとした。ヒヤリとしながら必死にかわそうとしたが槍は私の左肩に突き刺さり、魔力が炸裂して肉が抉られた。
「グゥァァァー」
激痛が走り悲鳴を漏らした私は気づかない内に剣を取り落としていた右手で槍を掴むと一気に引き抜いた。傷口から大量の血が流れて腕を伝って地面が赤く染まったが気にも留めずに大声を出した。
「来るな、私の戦いは終わっていない。大丈夫だ勝機はまだある」
私の声で近づいて来ようとしたロベールに気づいたモルガンは、止めを刺すのを中断してから後ろに下がって身構えた。私は落とした剣を取ってゆっくりと立ちあがると剣を構えた。
「はあはあ、水を差してしまったな。はあはあ、だが次で決めさせて貰う」
「戦う以上手加減はしない。苦しまない様に一撃で止めを刺してやろう」
剣を上段に構えた私は正面から全力て走って近づいた。何の捻りも無い私の無謀な行動に驚いた顔をしながらもモルガンは先程と同じ様に正確に心臓を狙ってきた。其れを見た私は剣を槍に向かって振り下ろして軌道を変える事に成功した。
「グゥァァァーーーーーーーー」
軌道を変えた槍がわき腹に突き刺さって肉を抉られた私は恥も外聞も無く叫び声を上げると、振り下ろした剣をモルガンに向けて体ごと突っ込んで行った。体に突き刺さっていた槍が背中の方まで突き出たのが分かったが、痛み事無視して近づいて行った。後少しで剣が刺さる所でモルガンは驚愕しながらも槍を手放し後ろに跳躍しようとしていた。
「させるか、水の矢」
私が執念で放った水の矢は跳躍しようとしていたモルガンの腿に突き刺さった。モルガンが体勢を崩したのを見た私は最後の力を振り絞って体に刺さった槍を無理やり排除すると、剣を手に突っ込んで胸の近くに突き刺した。
「ガハ、まだこの程度で死ねない。うおおおおおおお」
叫びを上げたモルガンが私の顔を殴ってきた。力が残っていない私は避ける事も出来ずに吹っ飛ばされて、地面に転がり起き上がる事も出来なかった。
「ちょっと待て、何をしている?生きてるだろうな?おい死ぬなよ。ミーミルちゃんに父親が死んだと俺に報告させる心算か」
ロベールの焦り声が聞こえたと思ったら私に魔法が掛けられ、痛みが引いて行くのが分かった。横目でモルガンの方を見ると其処には力尽きた様に倒れている瀕死のモルガンがいた。
「如何やら私は此処までの様だな。しかし契約者とはふざけた存在だな・・・私より重傷だったはずの公爵の傷が見る見るうちに治っていくとは・・・・・・」
「此れは契約者と言うより俺の得た能力の力だよ。俺以外の契約者には同じ事は出来ない。・・・・・・敵だから治療は出来ないが何か言い残す事はあるか?」
「・・・フッ、では介錯を頼みたい」
「・・・・・・・・・・俺にか?」
「そうだ。助からない以上、部下達と共に死にたい」
視線でロベールが未だに起き上がれない私に尋ねてきたので頷くと、顔を歪めながら剣を手にモルガンの元に向かった。
「・・・・抵抗出来ない人間を斬りたく無いんだがな」
「そうか・・・・なら一矢報いた事になりそうだ。向こうで皆に自慢出来る」
「そうか・・・・・・・・」
ロベールが剣を振り下ろしモルガンに止めを刺すと、目を瞑り黙祷していた。
「お兄ちゃん大丈夫?」
「ああ、問題無い。其れに此れで戦いも終わっ・・・・・・・・・・」
言葉の途中で絶句するロベールに何事かと思って視線を辿ると、其処には死体が分解されて光に変わっていくモルガンの姿があった。そして光は一か所に集まると何処かに飛んで行ってしまった。唖然と見ていると別の光が私の目に入り他の死んだ者達も光になっているのが分かった。
「・・・・・今のは・・・魂か?魔力か?それとも・・・・・」
険しい表情で考え込むロベールを見ていると、フェルミー殿が焦った表情で肩を揺らしながら駆け込んで来た。
「ロロロ、ロベール良かった此処に居たのですね。お師匠様が此方に来る途中におかしな物を発見しました。黒い契約石の様な物でお師匠様は卵の様にも感じると言っていました。今お師匠様達が見張っていますが、手におえない可能性が高いのですぐに来て欲しいと・・・・・」
「・・・・・・其れはどっちの方角にある」
「あっちです」
フェルミー殿が指した方角は先程光が飛んで行った方角だった。一瞬で顔色が変わったロベールが矢継ぎ早に指示を出した。
「フェルミーはリグレス公爵の事を頼む。怪我人でまだ完治していないから其の心算で行動してくれ。リグレス公爵は治ったらバルクラント卿達と共にこの場に待機してください。カリーナ、シグルト、フレイは一緒に向かってもう一仕事だ」
「うん、お兄ちゃん早く行こう。なんか嫌な予感がするわ」
「僕もするんだ。メルフェリさん達が心配なんだ」
「そうですね、急ぎましょう。ルードルやタマミズキも異変に気づいて向かっているはずですわ」
「行くぞ」
指示を出し終えたロベールが一言告げて移動を始めた。
読者の皆様、何時も読んで頂きありがとうございます。今回主人公を活躍させようとしたのですが、そうすると人を虐殺する場面を詳しく書くことになります。何通りか書いて没にした場面は書いていて自分は気分が良くありませんでした。自分が読んでいる時は気にしていなかったのですが・・・。 初めて書いているので匙加減が分からなく、読者の皆様を不快にしていないか不安になっています。
読者の皆様のご意見やご感想をお待ちしています。必ず返信しますので如何か皆様お願いいたします。




