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契約者達と商連合国との戦い四

 「モルガン様、右翼から撤退してきた者達を後方に送って治療をさせていますが、真面に動ける者は二千が良い処だと思われます。それと悪い知らせがあります。如何やら援軍に向かった騎馬隊が壊滅したらしいのです」

 「前方の部隊から撤退してきた者の報告に依りますと、突如変身した者達が現れたと驚いていたら数千人が狂乱して敵味方関係なく襲って来たそうです。其れと撤退した時に竜を見たと言う兵士達がいました」

 「左翼は敵と交戦中の様です。火が見えたとの事で何らかの罠にかかって足止めされている可能性が否定できません。此方に合流出来る可能性は低いと思われます」

 部下達の悪い報告に頭を痛めていると、伝令が駆け込んで来た。

 「申し上げます。魔法と思われる光が見え、狂乱していた者達が全滅した様です。それと敵の騎兵が此方に向かって来ています」

 「敵の数と此処までどれ位で来るか分かるか?」

 「敵の騎兵は数千はいます。四半クーラ程で戦いになると思われます」

 「そうか・・・此処までだな・・・・まさか一度の攻撃を跳ね返す事すら出来ないとはな・・・・」

 私は敵陣が良く見える場所に移動すると命令を告げた。

 「殿に本隊から歩兵を中心に五割を置いて、二割を動ける二千と合流させて負傷者と共に撤退させろ。残った三割は私が直接指揮する近衛騎兵になるが私と共に敵の本隊に向かって突撃する」

 「お待ちください。モルガン様は撤退するべきです」

 「いや、敵の勢いが凄まじいのは此処からでも良く分かる。殿だけでは満足に撤退出来ないだろう。私が敵の本隊に突撃して総司令官に迫れば敵も其方を優先するはずだ。そうすれば殿に残った者達と左翼の者達も逃げられるかもしれない」

 「モルガン様・・・・・・・・」

 部下が余りにもしんみりした声を出すので私は笑いながら告げた。

 「ははは、死ぬと決まった訳ではないぞ。此処から見ると敵の本隊は歩兵が中心になっているし、人数も五千か六千が良い処だろう。近衛騎兵、全てで突撃出来れば敵の総司令官を撃破出来る可能性は十分にある。さあ時間は限られている皆準備にかかってくれ」

 「ハッ、了解しました」

 敬礼して去って行く部下達を見届けてから自分の馬の元に向かい、馬に乗って指揮する近衛騎兵隊の元に向かうと、其処には既に出撃が伝わっていたらしく、整列した近衛騎兵の姿があった。

 「敵の騎兵が殿と戦い始めたら迂回して敵本隊に突撃する。目的は撤退する味方の援護と敵の総司令官の首だ。取れれば勝ちだが取れなければ死は免れん。死にたく無い者は去っても構わんぞ」

 一人も逃げない部下を見て、此れなら本当に首をとれる可能性もあるかも知れないと心の中で考えてから決意の籠った重たい声を出した。

 「では皆、待機場所に行くぞ」

 私の声にしたがって粛々とした移動が始まった。


 「クローズ様、もうすぐ敵と接触します。如何やら敵は撤退の準備をしているみたいです」

 「・・・・・思ったより人数が多いので逃げる敵はベルス達に任せる事にします。ただ敵の総司令官は逃さない様に気を付けてください。私達の任務は総司令官を討つ事です」

 「了解しています。此処まで来て逃がしたら大失態です。団長がいない今こそ一致団結して力を示さねばならないでしょう」

 「その通りです。先程と同じ様に魔法攻撃をした後、そこから敵陣を突破して総司令官を狙います。・・・攻撃を開始してください」

 私の合図で雨の様な魔法の矢が放たれた。大半が障壁に阻まれたが二割ほどが敵陣に直撃して敵兵の悲鳴が響いた。そして敵陣の中央にいた兵士が我先にと後方に逃げるのを見て、私は予定通りのはずなのに違和感を感じていた。

 「此のまま予定通りに突撃しますが、先程何故か守るだけで敵の反撃が来なかったので警戒してください。何か企んでいるかもしれません」

 私が皆に注意を呼び掛けている間に敵との距離が近づいて敵兵の顔が見える様になった。その顔は我先にと逃げているのに恐怖している様には見えず、むしろ覚悟を決めた者だけが持つ雰囲気を感じた。

 「強弓構え、放て」

 不味いと頭の中に警鐘が鳴った時には敵の指揮官の声がして眼前に矢が迫っていた。通常の矢と違い長い上に太い矢が通常の二倍以上の速度で殺到してきた。

 「全員かわしなさい」

 大声で皆に怒鳴りながらも冷静な部分では近距離で放たれているし、速度も速いから回避する事は不可能だと理解していた。だが其れでも僅かな時間で必死に身を捻った私は、左腕を射抜かれたものの何とか致命傷を避ける事に成功していた。

 「グッ、総員矢の飛んで来た方に魔法攻撃をしてください。その後は突撃して強弓を潰しますよ」

 痛みに叫びそうになるのを我慢して指示を出すと、無事だった者が一斉に魔法を放った。魔法の着弾も確認せずに馬を全力で走らせると、其処には次の矢を放とうとしている強弓兵がいた。

 「やらせません」

 此のままでは間に合わないと悟った私は持っていた槍を投げ付けた。槍が狙い誤らず敵兵の腹に突き刺さったのを見た私は剣を抜き、馬上から跳躍して横で唖然とした敵兵に斬りかかった。敵兵はハッとして強弓で受け止めようとしたが、強弓とはいえ弓で剣を受け止められるはずも無く、私の剣が強弓ごと敵兵を斬り捨てた。

 「クローズ様、負傷しているのにあまり無茶をしないでください。見ていて冷や冷やしましたよ」

 「状況が許せば大人しくしていますよ。其れより半数は乱戦に持ち込みなさい、残りは周囲を警戒していてください。接近戦が出来ない強弓兵を助けに来るはずです。・・・何人やられたか分かりますか?」

 「一割半程だと思われます」

 「・・・・・失態ですね。それにこの状況では仲間が生きていてもすぐ助ける事は不可能です・・・」

 私が傷の応急手当をしながら自責の念に駆られていると遠くから大声で報告を受けた。

 「敵の陣から騎馬隊が離脱しました。向かっている方向は此方の本隊です」

 「なっ・・・後方に居る者達は今すぐ追ってください。敵を行かせてはいけません」

 私の命令に一部が反転して追おうとすると、すぐに敵兵達が邪魔をしようと動き始めた。逃げていたはずの敵兵が何時の間にか反転していて追撃部隊を左右から挟むように攻撃していた。

 「攻撃を受けている味方を魔法で援護してください。・・・・強弓兵はまだ殲滅出来ないのですか」

 「もう暫くかかるでしょう。敵は倒されない様に逃げ回りながら強弓で射掛けて来て、明らかに持久戦を仕掛けて来ています」

 「クッ、敵の目的は私達を足止めして騎馬隊を本隊に送る事ですね。・・負傷さえしていなければ自ら追ったのですが・・・・・」

 ジリジリと焦れながら味方の動きを見ていると、ようやく邪魔をする敵を突破して追撃に移った様だ。此れで如何にかなると安堵したのも束の間、追撃部隊の前に新たな敵と思われる部隊が現れていた。しかし現れた部隊は、此方の部隊に遭遇した事に動揺している様に見えたので、私は反射的に命令していた。

 「其のまま突っ込みなさい、敵が動揺している内に突破するのです」

 「其処の部隊、味方なら今すぐ目の前の騎馬隊の足止めをしろ。そいつらは総司令官の近衛騎兵を追っているのだ。此の命令は総司令官のものだと思って間違いない」

 お互いに大声で同時に指示を出したのだが、動揺していた敵の部隊の位置は既に進路上にあり、其の所為でお互い同時に動き始めても、敵の足止めの準備の方が先に調ってしまった。敵に進路を遮られて行軍が止まり、突破したはずの部隊に追いつかれて挟撃される事になった追撃部隊は一気に殲滅の危機に陥っていた。そしてその間に敵の騎馬隊は悠々と本隊の方に向かってしまった。今更追っても、もはや追い付けそうになかった。

 「強弓兵の殲滅が終わりました」

 「そうですか・・なら今すぐ挟撃されている味方の救出に向かいましょう。あの騎馬隊に総司令官が居たみたいですから任務は失敗ですが、せめて味方と合流して此処の敵兵だけでも確実に殲滅しましょう」

 「了解しました。ですがもうすぐ撤退の準備をしていた部隊の撤退が終わります。この部隊もその後撤退するのでは?その後なら・・・・・」

 「いや、其れは無いでしょう。私達が自由になれば当然本隊の所に向かった敵を追撃する事になります。そうしたら今挟撃を受けている味方の様に敵を挟撃出来る様になってしまうでしょう。敵もその事は十分に分かっているはずだから私達をすぐには自由にしないでしょう。リグレス様達の事は気になりますが、今は挟撃されている味方を助ける事から始めますよ」

 「ハッ、了解しました」

 槍を取って馬に乗り、馬首を返して皆で突撃しようとした時だった。突然前から強弓の矢が飛んで来た。

 「クッ、誰です」

 矢を何とかかわして誰何の声を上げると一人の男が話し掛けて来た。

 「私は総司令官から殿の部隊を任されている者だ。貴公が其方の指揮官で間違いないな」

 「そうです、私が指揮官です」

 「提案がある。味方が完全に撤退するまで大人しくしていて貰え無いだろうか?要求を受け入れて貰えるのなら今包囲されている其方の仲間を無事にお返ししよう」

 敵の指揮官の言葉に色々考えたが最終的に騎士の誇りを汚す事は出来ないと考えて返答した。

 「・・・・・・・ふう、本来なら要求を受け入れて仲間を助けるのが最上ですが、貴男が求める対価を本当の意味では支払えないので拒否させて貰いましょう」

 「・・・・如何言う意味だ?」

 「貴男の求める事は仲間の無事なのでしょう?だが森に撤退して逃げた所で無駄なのですよ。森の中では既に別の部隊が退路を断っていて一人たりとも逃れる事が出来ない様になっています。其れに抑々私達のこの戦いの目的は侵略者の殲滅です」

 「・・・・・だが森の中で分散して逃げれば全てが捕らえられる事は無いはずだ」

 蒼白な顔で震える声を絞り出す男に首を振って淡々と答えた。

 「森の中の部隊には天狐が共にいます。私には如何するのか分かりませんが、一人も逃がさないと断言していました。貴男達商連合国は天狐を契約石にしたと聞いてしますし、自業自得としか言えませんね」

 「・・・・・・・・・・・・・・」

 「動揺している貴男には悪いですが此処で決着を付けさせて貰います。敵の指揮官とは私が戦いますから、皆は包囲された味方と合流して敵を殲滅してください」

 「ハッ、了解しました。でも無茶はしないでくださいよ」

 「分かっています。早く行ってください」

 合流しようとする部下と阻止しようとする敵の間で戦いが始まったのを見た私は、指揮官の男に馬首を向けて駆けだした。馬の駆ける音に男が我に返って強弓を構えて矢を放とうとするのを見て、私は風の魔法で手のひらに乗る位の小さな竜巻を創りだした。男が放った矢に小竜巻をぶつけて受け止めると、何とか弾き飛ばす事に成功した。もっとも大きく弾き飛ばせた訳では無いので回転した矢の矢羽が頬を掠っていって掠り傷を負ってしまった。

 「まだだ、この必殺の矢を受けるが良い」

 男の矢の鏃が光って魔力が集まるのを感じた私は、時間を稼ぐために小竜巻を男に向かって放ってから剣に魔力を限界以上込め始めた。その間に男が放った矢は小竜巻を貫いて消し飛ばし、大した時間も稼げずに私に一直線に飛んできた。

 「クッ、当たってくださいよ」

 私が祈りながら投げた剣は回転しながら飛んでいき、何とか矢にぶつかった。予定より近くでぶつかった剣から雷が溢れて矢と共に爆発を起こして消し飛ぶ中、私は致命傷を負わない程度に爆発を避けながらも速度を殆ど落とさずに其の右横を突っ切って行く事に成功した。熱と雷に焼かれ火傷を負って痺れが走ったが、右手に強く握った槍だけは意地でも手放さなかった。ボロボロの私は慌てて距離を取ろうとする男の姿を近くに見て告げた。

 「此れで終わりです」

 距離を取られる前に近づく事に成功した私は残る力を振り絞って男の胸を槍で突き刺した。自分の胸に刺さった槍を見て目を見開き吐血した男は倒れると咳き込みながら最後の言葉を口にした。

 「・・まだ・・死ねない・・・皆・・伝え・・撤退・・・危険・・・・・・」

 「・・・・・・・・・・・」

 無言で男が息を引き取るのを見届けると、私は怪我の手当てをして仲間の元に向かった。


 「なあ、本当に此処に居るだけで良いのか?部隊を分けて敵を探したり、包囲網を作るのが普通だろ?」

 「敵は必ず此処に来ますから動く必要はありませんわ。先程話した通りに敵が此処に来たのだから嘘では無いと分かったはずでしょう?」

 「其れは聞いたし分かっているけどジッと待っているだけでは不安になるわよ。唯でさえ貴女は詳細を話してくれないのに、隠せない程機嫌が悪いのでは何か不味い事があるのかと思うのは当然でしょう」

 セルフィーヌの指摘に私は顔を歪めると、深呼吸してから冷静な口調を心掛けて話した。

 「主を殺した魔法を見て天狐として色々思う事があったのです。この作戦には関係ありませんから気にしないでください」

 私の言外の拒絶にベルスが肩を竦め、目を細めて確認してきた。

 「作戦に支障は出ないんだな?」

 「勿論ですわ。私もやるべき事を忘れてはいませんわ」

 「そうか、なら良い。だが敵を待っているだけで良いと言った訳は説明してくれないか?此の周辺以外の森の中が薄く霧に覆われている事とも関係しているんだろう?」

 「ええ、あれは・・・如何やら大勢のお客さんが来たみたいですわ。皆さん歓迎の準備をしてくださるかしら」

 私の言葉にベルスやセルフィーヌが素早く兵士達に指示して体制を整えた。するとすぐに緊張した雰囲気の男達が現れた。

 「お前達は何者だ?」

 「何者も何も敵以外の選択があるのですか?」

 首を傾げながら返答した私に、男達は厳しい表情になって武器を構えた。

 「・・・・チィ、一応確かめただけだが最悪の返答だな。此処は俺達が受け持つから負傷兵と付添は散開して逃げろ。あと既に退路が断たれて敵がいる以上何が起きてもおかしくない注意をおろそかにするなよ。早く行け」

 男の指示に従って後方にいた者達が素早く散開して必死の表情で逃げ出して行った。其れを見て一部の味方が追おうとしたが私は反論を許さない断固とした声を出して止めた。

 「追う必要はありませんわ。今は目の前の敵に集中しなさい」

 「・・・・・・追わないのか?」

 「ええ、必要ありませんもの。其れより今の私は機嫌が悪いので気を付けてくださいね。ふふふふ、しかも私達の目的は殲滅ですから必死に抵抗しないとアッサリと死んでしまいますわよ」

 笑いながら私は素早く数百の回転する水の矢を展開すると一斉に放った。私が放った回転する水の矢は敵の障壁を紙切れの様に突き破ると、かわす機会も与えずにザクザクザクザクと敵兵に次々と突き刺さり、回転に依って抉られた血肉が周囲に降り注いだ。一瞬で周囲が赤く染まり、断末魔と絶叫が響く阿鼻叫喚の地獄が生まれて敵はおろか味方まで凍り付いた様に動かなかった。

 「・・・・・おおお、お前は何者だ?」

 「あら貴男は生きていましたのね?此の耳と尻尾が見えませんか?」

 おかしな事に男は今気づいたみたいで耳を見てギョッとして後ずさっていた。

 「・・・まさか・・・・・天狐・・・・」

 「正解ですわ。さてベルスもセルフィーヌも何時まで呆けているのですか?後ろからお客さんが戻って来ましたから、皆を指揮して相手をしてくださるかしら」

 「あ、ああ、分かった」

 「・・・分かりましたわ」

 動揺を隠せない二人が後ろを振り向いて構えると其処には先程逃げたはずの者達が唖然とした顔をして立っていた。

 「おいおい、本当に戻って来たのか?」

 「・・・・・恐ろしい力ですわね」

 「おい、何をやっている何故戻って来た。早く逃げろ」

 ベルスとセルフィーヌが驚愕して呟くのと同時に男が怒鳴り声を上げ、其れを聞いて逃げようと踵を返そうとした敵兵に私は薄らと微笑みながら冷たい口調で告げた。

 「何度逃げても無駄ですわよ。此の周囲を漂う霧は私の水の魔法で、方向感覚を狂わせて必ず此処に来るようになっていますの。だから私を殺すか魔法を打ち破らない限り一生此処から出る事は出来ませんわ」

 「嘘だ。そんな馬鹿な話があってたまるか。兎に角お前達はもう一度逃げろ。残りは全力で目の前にいる者達を攻撃するんだ。良いな」

 男の決意の籠った指示に敵兵が行動を開始した。瞬く間に乱戦が始まり、私の元にも敵兵が殺到してきた。私は素早く小太刀を抜くと姿を消してから敵兵に正面から近寄って其の首をはねた。

 「何所に行った?全員背中合わせになれ。周囲を警戒しろ」

 「無駄ですわよ。私は今も皆の目の前に居るのですから」

 私が近くにいる兵士から斬り捨てて行くと、見えない敵から斬られる恐怖に敵兵達は顔を恐怖に引きつらせて武器を所構わず振り回す者達と目に見えるベルスやセルフィーヌ達に斬りかかる者に分かれた。

 「おい、セルフィーヌ後ろは任せたぞ」

 「ええ、任されたわ。でもタマミズキは一人で姿を隠すなんて卑怯だわ。おかげで私達の方に敵兵が殺到してきているわ」

 「文句を言わずに集中しろ、正面に斬りこむぞ」

 ベルスの声にセルフィーヌが素早く後ろに跳躍した。

 「ベルス左に斬りこむわ」

 セルフィーヌが素早く左に跳んで敵兵を撫で斬りにした時には、ベルスが共に軽く右に跳躍してから一歩後ろに下がって背中を守っていた。

 「左に向きを変えるぞ」

 向きを変えたベルスに合わせてセルフィーヌも素早く左に体の向きを変えていた。

 「あらあら、此れは此れは」

 背中合わせで敵兵と舞う様に戦う二人の息は驚くほどピッタリで、私に比翼連理を思い起こさせていた。そんな二人を見て気分が良くなった私の目に今にも斬られそうな味方の兵士が見えた。素早く雷の矢を飛ばして敵兵を倒すと私は大声を出した。

 「其処の兵士、前に出過ぎですわ。後退して周りと連携しなさい。死にますわよ」

 私の叱責に兵士は慌てて後退して行った。その事にホッとしていると今まで所構わず武器を振り回していた者達が私の方に向かって一斉に武器を振るって来た。如何やら私の大声で位置が分かってしまった様だ。

 「はあ、仕方ありませんわね」

 私はため息と共に小太刀をしまうと姿を隠す事も止めた。すると私の姿を見つけた敵兵達は喜色満面になって我先にと私の首や胸に斬りかかってきた。苦笑した私は人の姿から狐の姿に変身して攻撃をかわすと、攻撃が空ぶってふらつく敵兵の足元を素早く駆け抜けて振り向き、その背に素早く雷の矢を叩き込んだ。

 「ぎゃあああああああーーーーーーー」

 敵兵の絶叫が響く中、逃げたはずの者達がまた戻って来た。

 「あら、お帰りなさい」

 ニッコリと満面の笑みを浮かべて出迎えの挨拶をしたのだが、帰って来た者達は狐に話し掛けられて顔を引きつらせて彫像の様に凍り付いてしまった。

 「・・・・・・・・・馬鹿な・・・本当に出られないと言うのか?」

 「ええ、霧に触れたら方向感覚が狂いますわ。この魔法は里の防衛にも使われていますし、私が一匹で使っているとはいえ簡単に破られる様な物ではありませんわ」

 私が人の姿に戻って小太刀を再び抜いて構えると、ハッと我に返った敵兵が私に向かって身構えていた。しかし小刻みに震えている所を見ると、とても平常心を保てて居るとは思えなかった。

 「先に言って置きますが命乞いなどはしないでくださいね。商連合国は天狐を襲って契約石にしたのですから其の報いは受けて貰いますわ。私は此れでも天狐の女王の姉なんですのよ」

 私の言葉に自棄になった敵兵が雄叫びを上げて突撃してきた。

 「うおおおおおおーーーー。殺される前に何としても殺してやる」

 「こんな所で死んで堪るか。死ぬのはお前だ。うおおおおおおーーーー」

 「全員で一度にかかれば無傷ではいられまい」

 私は速度重視で威力の無い雷を数千作って敵兵に放った。其の一撃一撃は大した威力は無いので、敵兵も傷一つ負わなかったが、数が多かったので軽度の麻痺が起こって動きがギクシャクして転倒する者が続出した。

 「残念ですが経験と工夫が足りませんわ。ただ近づいて来ても的にしかなりませんわよ」

 「そうか、今後の教訓にさせて貰おう」

 男の声が響いたと思ったら死角から剣が突き出された。しかし剣は私の体をすり抜けて空を切っていた。

 「な・・・・・・・」

 「其れは幻影ですわ。私はまだ狐の姿のままですし、何より貴男に今後はありませんわよ」

 幻影があった処の足元に狐の姿の私を見つけて唖然とする男に跳びかかると爪で首を切り裂いた。

 「ガハ、おのれ・・・騙し・・た・・・・・・」

 「ええ、私は天狐ですが善狐ではなく悪狐ですから、正々堂々と戦うなどあり得ませんわよ」

 吐血した男は目を見開くと其のまま絶命してしまった。

 「さて転んでいる皆さんとお帰りになった皆さんは、もうそろそろ覚悟を決める事が出来ましたか?生き延びる為には私を殺すしかありませんわよ。全力で挑んで来てくださいね」

 私は今度こそ人の姿に戻って小太刀を抜いてニッコリと微笑みかけたのだが、敵の皆さんはビクついて後ずさるだけだった。

 「・・・・来ないのなら此方から行きますわよ」

 私は怯える敵兵を容赦なく殲滅にかかった。


 「モルガン様、敵の本隊が見えました。如何攻めますか?」

 「敵も馬鹿では無いから犠牲を覚悟して此の勢いのまま突撃するしかないだろう。もたもたしていては散っている部隊が戻ってくるはずだ。そうなれば我らに勝ち目はあるまい」

 「了解しました。全員モルガン様を中心に突撃陣形をとれ、我らの力でモルガン様を敵の総司令官の元まで送り届けるのだ。良いな」

 「おう」

 決意の籠った声が響き渡り、アッと言う間に私を中心に突撃陣形が作られた。そして口を挟む間も無く限界まで速度を出した突撃が始まった。

 「魔法を放って迎撃しろ。矢も放てるだけ放ってしまえ。敵の速度を落とすのだ」

 「怯むな、速度を維持して突撃しろ。時間をかけずに突破するのだ」

 敵から放たれる魔法や矢を障壁で受け止め、犠牲を出しながらも突き進んだ近衛騎兵隊は、其のまま敵の歩兵が防御陣形を作って待ち構えている所にお構いなしに突撃した。そして敵と接触した近衛騎兵隊の先陣は敵を槍で攻撃した後止まらずに馬ごと敵兵に突っ込んで行った。馬にはねられて吹き飛ばされる者や、ぶつかった衝撃で落馬する者達を大勢出し、進路上にある敵も味方も踏みつけながら近衛騎兵隊は速度を落とさずに突き進んで行った。その姿は修羅を思わせる程苛烈で敵の歩兵は悲鳴を上げて逃げ出す者が続出していた。

 「逃げるな、何としても此処で敵を止めろ。リグレスの元に行かせるな」

 「リグレス公爵は後退しろ。此処は私達が引き受ける」

 敵の声が聞こえて其方を見ると明らかに兵士達とは違う身なりの男達が三人居た。そして二人がその場に残り一人が周囲に守られながら後退して行くのを目にした私は大声で叫んだ。

 「あっちだ、あっちに敵の指揮官と総司令官らしき者達がいる。逃がすな、総司令官の首を取って勝利をこの手に掴むのだ。全員あの場に向かって突撃しろ」

 私の声にしたがって近衛騎兵隊が突撃を開始した。

 「壁になって押し止めろ、リグレス公爵が逃げる時間を稼げれば其れで良い」

 「ハッ、皆ガルマスト様の護衛部隊の意地を見せるのだ」

 お互いの部隊が激突して凄まじい音が響いていたが、此の敵の部隊は近衛騎兵隊の突撃をボロボロになりながらも跳ね返して見せた。

 「クッ、流石に総司令官の護衛部隊と言うべきか・・・・だが二度は防げまい。もう一度突撃しろ」

 「・・・仕方ない弓を放て、致命傷さえ負わせなければ味方に当たっても構わん。かわせない味方は腕で受け止めろ。腕なら後で治療して貰えるから問題無い」

 敵も味方もその言葉にギョッとして動きが止まった間に本当に矢が放たれた。

 「ふざけんなーーーーー、治れば良いってもんじゃ無いだろがーーーー」

 「おいおいおい、敵は正気なのか?」

 「ぐわああああーーーーー」

 「危ないだろがーーーーー」

 容赦なく降り注ぐ矢に敵も味方も関係なく悲鳴と罵声が飛んでいた。

 「クッ、この状況で矢を放つとは・・・・・・。だが其れよりも問題は・・・・・」

 矢を受けて次々と倒れる味方を見ながらも私は別の事で焦りを感じていた。こうしている間にも敵の総司令官は後方に逃げているのだ。此のままでは逃げられるのも時間の問題だった。

 「モルガン様、これ以上矢で消耗する前に我らが血路を開きます。全員突撃だ、矢には構わず突破する事だけを考えろ」

 私の周りに集まった近衛騎兵の者達が決死の突撃を始めた。前にいる者達が盾にした体や馬に矢が何本も突き刺さり、行動出来なくなった者が次々と脱落していった。

 「・・・・・すまん。必ず敵の総司令官の首を取ってみせる。皆の犠牲を無駄にはしない」

 誰にも聞こえない小さな声で呟き、決意を新たにして歯を食いしばって必死の思いで突撃を続け、ついに敵陣の突破に成功した私は我慢できずに大声で叫んでいた。

 「進め進め、もう邪魔者はいない。犠牲になった者の為にも総司令官の首を必ず取るぞ」

 必死に馬を駆る私の目に逃げて行く敵の総司令官が居る部隊が見えた。其の部隊は如何多く見積もっても三百ぐらいしかいない様に見えた。私と共にいる近衛騎兵隊は数を減らしたとは言え七百人以上はいる。追い付けば勝てると確信した私が獰猛な笑みを浮かべた時、突然一メーラぐらいの岩が次々と進路上に落ちて来た。衝撃で地面が揺れて馬が暴れて振り落とされる者が続出して動きが止まってしまった。

 「此れからと言う時に何が・・・・・・・」

 私が怒りの声を上げながら周囲を見回すと突然の出来事に驚いた皆は動きを止めて様子を窺っていた。其の所為で戦いが中断されて恐ろしい程の静寂が生まれていて、私は其の雰囲気に呑まれて自然と黙り込んでしまった。暫くすると誰が始まりだったのか分からないが、自然と皆が落ちて来た岩の一つに視線を向けていた。私も皆の視線に促される様に視線を向けると、其処には少年と少女、そして龍と炎鳥が何時の間にか立っていた。私と少年の視線が合わさった時、私は少年から目を逸らす事が出来なくなっていた。

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