契約者達と商連合国との戦い三
メルフェリが狂化兵士達と戦っている頃、別の場所で敵の左翼との戦いが始まろうとしていた。
「第一部隊、第二部隊は私と共に此処で敵の進路を妨害します。第三部隊、第四部隊はガルトラント卿とロベルト殿に従って所定の位置で待機して、時期を見てから其々の判断で敵を強襲してください」
「了解した。しかしニルスト殿、儂が指揮して良いのか?第三部隊は騎乗猫の部隊でこの中では最大戦力だろう」
「ガルトラント卿の方が騎乗しての戦いは上ですからお任せします。其れにガルトラント卿は暴れたいのではありませんか?」
「フッ、確かにその通りだ。ではお言葉に甘えさせて貰おう」
軽く笑ったガルトラント卿とロベルト殿は、其々の待機場所に向かって去って行き、暫くすると伝令がやってきて報告してきた。
「ベルス様から受け取った凍った樹液は全て仕掛け終えました」
「そうか、一緒にいる魔法兵には敵の動きを見計らって行動する様に言ってくれ。作戦通りになっていたら私は敵と交戦していて指示を出す余裕は無いはずだ」
「了解しました」
伝令が帰って行くのを見届けた私はジッと敵が来るのを待ち続けた。そして六半クーラ程経った時、敵の行軍する音が聞こえてきた。
「第一部隊は槍を構えて密集して壁と成れ、第二部隊は弓を構えて近づいて来た敵に射掛けろ、矢の心配はしなくて良いから徹底的に放て」
私の指示通りに皆が動いていると、敵の前衛が大盾を持って近づいて来た。
「な・・・敵の前衛が全員大盾を持っているだと・・・仕方ない。攻撃魔法を使える者は何でもいいから大盾を持っている敵を魔法で攻撃しろ。弓兵は大盾持ちを潰した後、攻撃を開始しろ」
大声を上げて指示を変更した私は自分も得意な光の魔法で攻撃を始めた。
「司令、敵の攻撃はまだありません」
「そうか、遠目に弓が見えたから大盾を前面に出したのは正解だったな。だが敵もすぐに対応するはずだ。俺の予想では十中八九敵は魔法攻撃を選択すると考えている。其れに対する準備は出来ているな」
「はい、障壁と迎撃の準備は整っています。其れと事後報告になりますがランカーと傭兵に敵の部隊を迂回して先行し、本隊の方の援護をする様に指示しました」
「なに?あれも此の状況では貴重な戦力になるんだぞ」
「其れは分かっていますが一部の者達は得体が知れません。なに、右側が不自然に開いているとはいえ、必ず罠が有ると決まった訳では無いでしょう。実際に罠が無ければ本隊に向かっている敵を捕捉して挟撃攻撃する事も可能でしょう。そうなれば本体に向かった敵は短時間で殲滅出来ると思われます」
「・・・・・まあ、良いだろう。その建前で今回は目を瞑ってやる。俺も奴らの一部には嫌な感じがしているからな」
俺達が小声で話し合っていると、突如爆音が響き渡った。ハッとして音源に視線を向けると大盾兵に向かって魔法が降り注いでいた。障壁が全て防ぐはずだったのだが、極細の光線が障壁を切り刻んで運の悪い大盾兵に直撃したのを見た俺はすぐに大声を上げた。
「チィ、すぐに迎撃しろ、障壁を破れる者が敵にいるから注意するんだ」
俺の言葉にすぐに雨の様な弓矢と攻撃魔法が敵陣に放たれた。
「ぎゃあああああーーーーーー」
敵の反撃に晒されて断末魔や呻き声をあげる第一部隊の兵士に、顔を顰めた私は後手に回った事を悟らざるを得なかった。お互いに魔法で攻撃しているのだが敵兵が大盾を持っている事と敵には弓の攻撃がある所為で、此方の攻撃で倒される敵兵の数が明らかに少ない上に普通の盾では弓を完璧に防げず負傷者が続出していた。そして何より致命的なのは作戦の為に魔法兵を割いているので、障壁が満足な物では無い事だった。
「クッ、魔法兵が少ないとは言え此処まで被害に差が出るのは敵の指揮官が優秀な所為だな。・・・・迂回しようとしている敵までいるし・・・・仕方ない作戦を早めるとしよう。第二部隊は弓を放って迂回しようとしている奴らを牽制しろ。第一部隊は負傷兵を後方に下げつつ、予定通り隊列を保って少しずつ後退するんだ」
私の指示に従ってジリジリと後退していると、敵は勢いづいて進軍してきて距離が段々近づいて来ていた。
「残りの距離は百メーラだ。此のまま接近戦を挑んで一気に撃破するぞ」
敵の声が此方にまで聞こえて来て一部の兵士に動揺が走ったのを見た私は反射的に大声を出していた。
「私達の方が総数は多いのだから動揺する必要は無い。兎に角敵を近づけさせるな此のまま奴らを此処で足止めしているだけで、此の戦いは私達の勝利だ。全体の作戦は上手く行っているのを思い出せ」
ハッとした兵士達が動揺を治めたのを見て崩れるのは防げたとホッとしたのも束の間、慌てた様子の伝令が駆け込んで来た。
「弓で攻撃して二割は倒しましたが、残念ながら残りには突破されました」
「・・・八割か・・・・・なら追う必要は無い。もうすぐ敵が予定の地点に到達する、第二部隊は半数を後方の警戒と敵の包囲に当てて、半数を第一部隊の援護に回してくれ」
「了解しました」
伝令を見送ってから私は敵の位置を確かめていた。私達が三百メーラ後退した所為で敵の現在の位置が、私達が初めに居た場所になっていた。
「第二部隊の半数を援護に回したから第一部隊は何としても此処で踏み止まるのだ。私も出るぞ、皆此処が正念場だと心得ろ」
第二部隊の半数を合流させた所為で一時的に勢いを取り戻した私達は向かって来る敵兵を押し止める事に成功した。そして今か今かと待っていると、視界の隅で火が燃え上がるのが確認された。左右から発生した火は瞬く間に凍った樹液に沿って燃え移り、敵の中央に向かって走って予定通りに火の壁で敵を分断した。
「敵は罠にかかって分断された。全員突撃しろ、今までやられた借りを返すぞ。皆、私に続け」
「おおおおおおおおおーーーーーー」
真っ先に敵に向かって走り出した私に皆が雄叫びを上げてついて来た。今まで後退する私達を攻めていた敵は突然の変化について来られず戸惑い混乱しているみたいで、然したる抵抗も無く近寄る事が出来た。剣を振るい敵兵に斬りかかると、斬られそうになった敵兵はハッと我に返って大盾で剣を受け止めた。
「大人しく斬られていれば良い物を・・・・」
呟きながら二撃目を放った私と必死に防ぐ敵兵の大盾がガキンとぶつかる音が響き渡り力比べになった。
「父上の後を継がねばならない私は此処で不甲斐無い戦いを見せる訳にはいかないのだ」
叫ぶ様に告げた私は剣に魔力を込めて風圧で敵を弾き飛ばすと、大盾を取り落としてふらつく敵兵の頭上に跳躍して渾身の一撃を放った。避ける事が出来ないと悟った敵兵は頭上を槍で防御したが、私の唸りをあげた剣が槍を圧し折り、其のまま唖然とする敵兵の左肩を切り裂いた。
「グッ、おのれ・・・・・まだ・・・・・・・」
剣を受けた敵兵は何かを言おうとしたまま地面に倒れて事切れた。周りを見回すと他の者達も交戦を始めたみたいで怒声や罵声と絶叫や悲鳴が響き渡り混沌とした様子の乱戦になっていた。
「おのれ、次は俺が相手だ」
「囲め、囲んで倒すぞ」
「包囲はお断りです。光の矢」
私の元に次々と敵兵が現れたが、後ろに後退しながら魔法を放ち、囲まれない様に牽制して一対一の状況を作ってから剣で撫で斬りにしていった。
「・・・・・ガハッ・・・」
剣を受け血を吐いて倒れる十何人目かの敵兵を見てから、周囲を見ると此方が優勢に戦っているのが分かった。其れを見た私は近づいて来ようとした周りの敵を魔法で牽制しながら血に塗れた剣を掲げて大声を出した。
「勇敢なるバルクラントの兵士よ、今この場に居られない者達の分まで戦い、敵兵を一人残らず殲滅するのだ。そして敵兵よ、新しき王が創る国の礎となるがいい」
私の声に味方の士気が高まり、敵は動揺して顔色が変わった。劣勢に立たされていた敵兵達は降伏する事が頭に過っていたはずだ。しかし殲滅と聞いた敵兵達は蒼白な顔をして逃げ道を探す様な仕草をしていた。だが既に後方を警戒している第二部隊の半数に依って包囲は完了しているし、敵兵達の後ろは火の壁で、まさに背水の陣ならぬ背火の陣になっていた。もっとも右往左往している敵兵の姿からは、決死の覚悟で戦う気概は見られなかった。その後半クーラ程で敵の殲滅が完了した。
唖然と目の前の火の壁を見つめていると、向こう側から断末魔が聞こえてきた。それですぐに敵の意図を察した俺は大声で命じた。
「やられたな・・・。敵が来るぞ。全員火の壁を背にして隊列を整えろ」
「司令、分断された者達は如何するのです?」
「・・・・無事を祈るしかない。其れより今は自分の心配をしろ。他の者の心配が出来る程余裕はないぞ」
今も聞こえてくる断末魔に拳を握りながら重苦しい声で告げていると敵の部隊が現れた。現れた部隊を見た俺は眉を顰めて舌打ちしてから大声を上げた。
「よりによって騎乗猫だと・・・・チィ、弓と魔法で迎撃しろ、近づけるなよ」
無駄になると思いながら命じた命令はやはり無駄になった。雨の様に降り注ぐ矢を俊敏に飛び跳ねる騎乗猫の部隊は速度を緩めもせずにアッサリとかわし弾き飛ばしていた。流石に魔法は全てかわせなかった様だが障壁に防がれて有効な被害を与える事は出来なかった。
「あの激しい騎乗猫の動きに振り落される者もいない以上敵は精兵だな・・・・。密集して敵に槍を向けろ」
俺の指示で数千の兵士が槍を向けると敵の速度が目に見えて落ちた。
「流石に突っ込んでは来ないか。魔法兵は障壁で魔法を防ぐ準備をしておけ。隊列を乱す為に魔法で攻撃してくるはずだ」
敵は予想通りに魔法で攻撃してきたが何故か左右に攻撃して中央には攻撃してこなかった。俺が訝しく思っていると一人の敵兵が恐ろしい速度で突っ込んで来た。
「何だと?正気か?槍が有るのが見えていないのか?」
俺が敵の行動を理解出来ずに独り言を呟いて見ていると、敵兵は槍が当たる少し前で跳躍した。
「・・・・・・・はあ・・・・そんな・・馬鹿な・・・・・・」
俺は己が目で見た事が受け入れられずに呆けてしまった。なんと敵は三十メーラ以上跳躍して槍を飛び越え、空で何かをばら撒き、更に高くから着地したのにも関わらず何事も無かった様に平然としていた。陣地の中に現れた男は槍を構えて近くの兵士を突き殺すと大声で名乗りを上げた。
「儂の名はベルグス・ガルトラントだ。儂の治める地を土足で踏み荒らした報いと死んでいった者達と儂の怒りを受けて貰おうか」
どす黒い怒りの気配が漂う男の言葉が終わるのと同時に周囲の彼方此方で悲鳴が起きた。傷を負ってのた打ち回る者が続出して隊列がガタガタになったのを見た俺は反射的に叫んでいた。
「隊列を整えろ沢山の敵に入られたらお終いだぞ」
「ほう、お前が指揮官か。まずはお前に儂の怒りを受け取って貰おうか」
ガルトラントと名乗った男と目が合って、俺の背筋に冷たい汗が流れた。
「司令を守れ。敵は所詮一人だ包囲すれば必ず勝て・・・・・」
「ほう、儂を包囲すると言うのか?良いだろうやれるものならやってみるが良い。巨砲なんぞに頼っている弱兵ごときに負けはせんぞ」
敵の言葉を遮って告げた儂は騎乗猫と共に跳躍した。着地点に居た敵兵を踏み潰して殺すと近くにいた敵兵を槍で突き殺した。
「貴様ーーーーーー」
怒声と共に近くの敵兵が槍を突いて来たが儂は素早く槍を引き抜くと再び跳躍していた。
「遅いわ。そんな事では儂を包囲する事など夢のまた夢だぞ」
儂がまた一人槍で突き殺していると、背後で喧騒が起こった。如何やらようやく味方が辿りついたみたいだ。
「ベルグス様、ご無事ですか」
「儂は無事だ。そんな事よりこの場を任せて良いな。儂はあそこにいる敵の指揮官の首を取ってくる」
「ちょ、お待ち・・・・・・」
儂は護衛の言葉が終わらない内に司令官の方に跳躍して移動していた。背後で儂について来ようとした護衛達と立ち塞がった敵の間で怒声が飛び交っていた。
「さあ、邪魔者はいなくなったぞ。始めるとしようか」
「チィ、俺は指揮は兎も角、戦いは得意じゃ・・・・ないんだよ」
敵の男は言葉の途中で不意打ちを仕掛けてきた。儂が仰け反ってかわすと舌打ちして距離をとった。
「チィ・・・・やはり当たらないか・・・・参ったな。勝ち目がなさそうだ」
「先に言って置くが見逃す心算は欠片も無いぞ」
儂が目を細めて見つめると男は体を震わせた。そんな男に対して容赦なく儂は槍を突いていた。しかし儂の槍は男の鎧に掠っただけでかわされてしまった。素早く二撃目、三撃目と槍を繰り出したが男は全てかわしただけでなく確りと儂に反撃してきた。
「・・・・・戦いが苦手だと言う割には良くかわすではないか」
「其れはこっちの言葉だ。俺は鎧に掠る事もあるって言うのに・火の矢・あんたは掠らせもしないだろうが」
「火の矢、魔法で不意打ちしたのは良い手だが、始めに不意打ちを受けているから警戒済みだ」
お互いの魔法がぶつかり合って相殺され、儂の言葉を聞いた男は苦笑いを浮かべていた。
「参ったな。俺は勝ち目の無い戦いはしない主義なんだよ。だから・・・・・・」
男の話している途中で火の壁の向こうに居るニルストの声が聞こえて来た。声を聞いた男の顔色が一瞬で変わった。
「・・・・殲滅だと・・・・」
「いかにもその通りだ。今儂らを指揮している新しい国の王になる予定の契約者が国を創る時に手を出されると困ると言って徹底的に叩く事に決めたのだ。だからこの地に踏み込んだ者達は一人も生きて返す心算は無い。お前も切り札を隠していないで使った方が身のためだぞ」
「・・・・・其処まで気づかれていたのか。其れに契約者と言ったか・・・・。そうか龍殺巨砲を破壊して主まで殺したのはそいつの仕業だな」
「その通りだ。今頃此方に合流しようとしているはずだ」
「・・・・なら早く済ませないと逃げる事さえ出来なくなりそうだな。死んで貰うぞ」
そう言った男の腕に魔力が集まるのが分かり、儂は咄嗟に騎乗猫ごと右に跳んだ。儂が居た所を凄まじい速度で槍が通過していき、大気が焦げ付いた匂いを運んで来た。
「良く避けたな。だが何度もかわせるかな?」
「無理だろうな。だが切り札を持っているのは儂も同じでな。使わせて貰おう」
儂の持っていた槍が風を纏い唸りを上げていた。
「奇しくも儂の槍は風の魔槍で速度自慢なのだ。どちらの槍が早いか勝負するとしようか」
「・・・・・・・・・・・・」
男が無言で槍を構えたのを見て儂も槍を構えた。途端にお互いの闘気がぶつかり合い重苦しい重圧が漂い始めた。集中していたお互いの耳に誰かの声が聞こえたのを合図にお互いが行動を開始した。男の槍が大気を焦がして飛んできて、儂の槍が風で大気を引き裂きながら突き進んだ。槍が交差した時、儂の魔槍の風が男の槍に当たって僅かに軌道を逸らしていた。其れがお互いの明暗を分ける事になった。儂の槍は男の胸に突き刺さったが、男の槍は左肩の近くの鎧に刺さり薄皮を傷付けただけで止まっていた。
「ゴホゴホ、・・俺の負け・・の様だな」
「速度は互角だった。本来なら相打ちになっていたはずだ」
「命をかけた・・・戦いの勝負は・・結果が全てだ・・・」
其れだけ言うと男は息を引き取った。儂は一瞬だけ黙祷すると皆に聞こえる様に大声を出した。
「敵の指揮官は儂が討ち取った。残りの敵兵を殲滅しろ」
儂の言葉に敵が悲鳴と共に崩れて味方が歓声を上げて敵に突撃していった。
第四部隊の俺達は草むらに寝転がってジッと潜んでいた。其れなりの時間が経ちまだ敵は来ないのかと思い始めた頃に大勢の足音が聞こえて来た。
「敵が来たみたいだ。皆出番だぞ」
「ロベルト様、やっとですか。皆待ち草臥れましたよ。帝都から此処まで来て戦えなかったら笑えません」
「やる気が有るのは良い事だが無理はするなよ。・・・・では此れから奇襲するぞ、皆付いて来い」
俺は皆に命じると先頭に立って草むらから飛び出し、目の前を移動中の敵に横から突撃して斬りかかると、不意を突かれて唖然とした顔の敵が抵抗も出来ずに地面に倒れた。俺が次の敵に斬りかかってようやく敵は自分達が襲撃されている事に気づいた。
「ててて、敵襲だ。警戒しろ、伏兵が潜んでいるぞ」
敵の叫びが響いた時には既に他の者達も飛び出して斬りかかっていた。
「帝都の恨みを思い知りやがれ」
「知るか、俺は雇われただけなんだよ」
「俺の家は新築だったんだぞ。消し飛ばしやがって」
「ははは、不運な奴だな、笑えるぜ」
怒りの声を上げながら斬りつける味方と其れを嘲笑う敵は、次々とぶつかり合い忽ち断末魔が響き渡る乱戦が始まった。予想以上に奇襲が上手く行った所為で、特に手応えも無く五人目を斬り捨てた俺の耳に味方の声が聞こえた。
「敵は正規軍の兵士ではなさそうだし、大した事ない様だな。此れなら時間をかけずに殲滅出来るだろ」
「いやそうでもないぞ。一部の奴らが異様に強くて既に二桁以上返り討ちになったみたいだ。ほらあっちを見て見ろよ」
俺がその声に慌てて其方を見ると其処には数人で数十人を圧倒する者達がいた。
「おいおいおい、何だあれは・・・・・・ロベール程ではないが明らかに普通じゃないだろうが・・・・」
「隙あり、死ねーーーー」
俺が不味いと思って移動しようとしたら敵兵が叫びと共に斬りかかってきた。
「邪魔をするな」
俺は素早く左に跳んでかわすと攻撃してきた腕を斬り飛ばした。武器ごと右腕が地面に落ちて、血をまき散らしながらのた打ち回る男に止めを刺した時、咆哮が聞こえてきた。咆哮が聞こえた場所を見ると、剣が胸に突き刺さっていて明らかに即死したはずの敵兵が熊の様な姿に変身している所だった。
「・・・・そう言う事か・・・・ロベールから聞いてはいたが殺しても復活するのを実際に見るのは嫌な気分だな。おい、此方まで一度引け。向かって行っても無駄死にするぞ」
俺の指示に真っ蒼な顔をした兵士達が撤退しようとしたが、剣を引き抜いた敵の動きは凄まじい物だった。動いたと思った時には味方の兵士の隣に立って、首を掴んで持ち上げて圧し折っていた。そして其のまま死んだ兵士を投げ飛ばすと近くに居たものから手当たり次第に拳を振るって撲殺し始めた。
「ひいいい、くくく来るな」
「おおおおのれ、くくく来るなら来やがれ、この化け物が」
「こここ、こんな化け物に殺されてたまるかよ」
逃げようとする者、抵抗しようとする者、動こうと思っても恐怖で動けない者など色々な者が居たが、皆凄まじい速度と力で一方的に殴られて絶命していった。
「おい、其処までにして貰おうか。熊野郎」
俺は味方の血肉で赤く染まった大地に足を踏み入れ押し殺した声を出した。散々味方を殴って虐殺した熊野郎は俺の声に反応して赤く染まった拳を向けてきた。
「戦争して殺し合いをしている身だから虐殺だとかいう心算はねえよ。だがなそれでも表に立たずに裏でコソコソしている奴らに好き勝手されるのは不愉快なんだよ。味方を殺した落とし前はつけて貰うぞ」
俺が殺気を出して睨みつけると熊野郎は問答無用で殴り掛ってきた。後方に跳んで避けようとしたが熊野郎の右拳は容赦なく腹に直撃した。吐きそうになるのを我慢した俺はニヤリと笑うと持っていた剣を熊野郎の右腕に突き刺した。
「一撃で殺せなくて驚いたか熊野郎、俺の服は特別製なんだよ」
剣を刺されて怒りの声を上げて左腕を振るおうとする熊野郎に一言告げた俺は剣に全ての魔力を込めた。途端にバリバリと音を鳴り響かせながら雷が生まれた。
「があああああああーーーーーーー」
体内に雷が流れた熊野郎が絶叫を上げるのを見ながら、俺は賭けが上手く行った事にホッとしていた。熊野郎の力は本来、俺如きでは勝てない強さだったが、しかし俺には異様に丈夫な服と強化された雷の剣があった。だから俺は腹で受け止め剣を刺し、雷を流して倒す事にしたのだ。顔などを殴られれば終わりだし、剣が刺さらなくても終わりだし、雷が効かなくても終わりで、更に言うと今の俺は熊野郎の拳が腹に接触した状態なので、当たり前の事だが俺にも雷は流れてきていた。服が防いでくれなければ俺も目の前にいる焦げた匂いを発している熊野郎と同じ目に遭うのだ。考えただけで冷や汗が流れて止まらなかった。
「熊野郎は俺が倒した。態勢を整えろ」
声を出さなくなった熊野郎が絶命しているのを確かめた俺の言葉に、ハッと我に返った味方が慌てて行動を始めたが、遅い上に蒼い顔をしていて怖じ気付いているのが誰の目にも明らかだった。一方敵の方も熊野郎を倒した俺を見て恐怖に震えて化け物を見る様な視線を向けてきていた。お互いに相手の様子を窺い合い、こう着状態になってしまって如何するかと考えていると、数人の敵が俺に近づいて来た。
「我らが相手になろう。お前とて無傷ではあるまい」
顔色を変えない様にしたが、内心では焦っていた。確かに拳の衝撃を全て防げた訳ではないのだ。今も本当は立っているのも辛い状況だった。
「確かに無傷とは言わないが、まだ俺は戦えるぞ」
「お前が戦えても他はそうではあるまい。何よりお前とて一度に我ら全員を相手に出来るのかな」
痛い所を突かれた俺は不覚にも一瞬言葉に詰まってしまった。其れを見た敵は俺を牽制しながら背後に告げた。
「この場は我らに任せてお前達は本隊の方に行け、敵が本隊に迫っている様だ」
「な、俺が黙って行かせると思うのか」
「行かせるとも」
咆哮を上げて一人が虎の様な姿に変身して此方を威圧してきた。
「早く本隊の元に行け。行かないのなら貴様等も殺すぞ」
虎野郎に睨まれた敵が恐怖に駆られて我先にと走り去るのを見て、今なら此方も撤退出来ると考えた俺は声を出した。
「おい、すぐにニルストの所に行って合流しろ。そして此処で起こった事を報告しろ。早くしないか、此れは命令だ」
すぐに動こうとしない兵士達を怒鳴りつけると、慌てて走り去って行った。其れを見ながら俺は虎野郎を睨みつけて牽制していた。
「牽制せずとも追う心算はないぞ。我らはお前を此処で倒すのが最善だと考えている。我らの攻撃を受けられるお前の服は明らかにおかしいからな。どうやって手に入れたか話して貰おうか」
「雇い主から贈られただけだぞ。雇い主はガルーンで巨砲を迎撃したと言えば分かるよな」
俺が時間稼ぎの為にした返答に虎野郎の雰囲気がガラリと変わった。
「其れは良い事を聞かせて貰った。お前は殺すのではなく生け捕りにして情報を引き出させて貰おう」
「主が悲しむから其れを許す心算はないな」
突然響いた声に振り向くと何時の間にかルードルが居た。
「何で此処に居る?リグレス公爵は如何した?」
「フェルミーが此奴らの魔力に気づいたので状況確認と討伐する様に言われている。だからこの場は我に任せるが良い」
そう言ったルードルは一瞬でその場から消えると、俺が気づいた時には敵一人の首をはね飛ばしていた。はねられた敵は咆哮を上げると変身して首をくっ付けてしまった。
「・・・・・主達から聞いてはいたが首をはねても復活するのを見せられると異常なのが良く分かるな。面倒だが仕方がない、復活出来なくなるまで切り刻むとしようか」
それから俺の目の前で起きた事は圧倒的だった。ルードルが跳躍する度に敵の誰かが爪で切られていき、手や足そして首などがはね飛ばされていった。敵も必死に反撃しようとするのだが速度が違い過ぎて、攻撃した時にはもう其処に居ないので攻撃は空しく空を切るだけだった。更に恐ろしい事に徐々に速度が速くなっていき、途中から俺の目にはもう何が何だか分からなくなってしまった。唯一分かるのは敵が切り刻まれていく姿だけだった。
「おのれ・・・・何故魔狼が戦争に介入してくるのだ」
「主の為に決まっている。しかし虎の様な姿の君の再生能力はかなり強いみたいだね。君以外は此処までやれば皆死んでいるのに・・・・・」
「当然だな。他の者と違って複数の魔獣を融合しているからその分再生能力も強いはずだ。もっとも実証出来たのは今が初めてだが・・・・」
「首をはねても心臓を抉っても死なないのは其の所為か・・・・・。なら仕方ない。魔狼の力を見せるとしよう」
ルードルの爪が漆黒に染まった。離れている俺でも本能的に拒否感が湧くのが止められ無かった。自分の体が何時の間にか震えている事に気づいた時、ルードルが動いた。漆黒の爪で攻撃して敵に掠らせると途端に敵が苦しみ始めた。
「があああ・・・ああ・・・何をした・・・力が抜けて・・・・・」
「魔狼が生まれながらに持っている力の一つの漆黒の爪は、傷つけた相手が自分より弱いと無条件で力を封じる事が出来る。だから魔狼の長は最強の力の持ち主がなるのだ」
「・・・・・何故だ?力が封じられたとしても・・・何故体が崩壊していくのだ」
「・・・魔獣と融合して拒絶反応が起きないはずがない。今の状態が本来の状態で、それを魔獣と融合して得た再生能力で誤魔化していたのだろう」
「・・・・・ははははは・・・・何だ其れは・・・力を封じられれば終わりだと言うのか?」
「君の状態が其れを証明している。主に報告して力を封じる方法を作れば簡単に対処出来そうだな」
「・・・こんな終わり方など・・・認めない・・・・・・」
俺の見ている前で敵は体を崩壊させ呆気なく事切れてしまった。
「力を封じれば勝てるとか、俺の苦労を返して欲しいぜ」
気が抜けた俺は体の痛みに倒れ込んでしまった。
「・・・負傷しているのか?お前が死ぬと主が困るからそう言う事は早く言ってくれ。はあ、今治療してやる」
呆れた顔をしたルードルに治療された俺は此れからの事を尋ねた。
「此処にいた奴らで終わりだと思うが一応ニルストやガルトラントの部隊の様子も見て来る事になっている。そう言えばお前は何故一人でいるのだ?」
今までの事を説明した俺にルードルは首を振ると、付いて来いと言ってニルスト達の居る方に歩き始めた。
九月中は執筆時間が安定しない可能性が高くなり、確実な次話の投稿日を決められません。依って次話の投稿をした日から六日後ぐらいまでに投稿しようと考えています。申し訳ありませんがご了承ください。




