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契約者達と商連合国との戦い二

 「如何やら敵は動く気が無い様だな。フェルミー殿に今の内に集合魔法の準備をする様に言ってくれ」

 「ハッ、了解しました」

 私の言葉に伝令が速歩で去って行くのを見届けていると、バルクラント卿とメルクラント卿がやって来た。

 「如何した何かあったのか?」

 「いや、敵は如何やら巨砲で攻撃するまで動きそうにないから、今後の事も考えてニルストに任せてきた」

 「私もリグトンに任せてあるから問題無い。其れに今回歩兵を指揮して騎乗しない私はリグトン達の突撃についていけないからな」

 「其れなら良いのだが。其れより二人は如何思う?私は敵の士気が低い様に見えるのだが」

 私が敵の方を見ながら尋ねると二人は頷いて同意の声をあげた。

 「うむ、確かに儂の目にも士気が高い様には見えない。何より儂らを見て動揺しているのが隠せていないな」

 「其れは仕方なかろう。私達の総数が敵より多い上に、どうせ敵は此処まで早く援軍が来るとは思っても見なかったのだろう」

 「それもそうだが敵の兵力は如何見ても二万弱しかいない様に見えるし、やはり巨砲の力と私達が内乱で力を落としているのを前提にした戦力と見て間違いなさそうだな」

 「兵数が少ないのは侵攻に気づかれない様にする為でもあったのだろうが、儂らが兵力を落とさずに此処に居る以上、既に計画は破綻しているはずなのだがな。儂なら一度撤退する事も視野に入れて置くのだが敵の指揮官は何を考えているのだろうな?」

 「巨砲の力にかけているのだろう。巨砲がガルーンを消滅させれば勝敗は分からなくなるからな」

 「ふん、忌々しいがその場合は我らの負けだ。補給が真面に出来なくなれば戦えないぞ」

 私達が話をしている所にベルグスとロベルトがやって来た。

 「普通ならベルグスの言う通りなのだろうが、補給物資の大半はロベール達の空間にしまわれているし、何より敵には悪いがガルーンが落ちる事などないな」

 「そうですね。ロベール達が残った以上あちらは問題無いでしょう。むしろ俺達がどれだけ敵を倒せるかが問題だと思います。一応クローズが騎士団を率いて何時でも動ける様に待機しているし、ベルスの方はタマミズキと共に迂回して既に森の中に無事に入りました」

 「ならロベルト、敵の退路は断ったと思って良いのだな。敵の士気が低いから巨砲が潰されたらすぐに逃げる可能性が高そうだと考えていたのだ。だから撃退では無く殲滅を目的にしている我らには退路を断つのが必須になりそうだ」

 「ああ、ベルスと共に儂の娘のセルフィーヌも付いて行ったし、何よりタマミズキ殿が森に魔法をかけると言っていたから大丈夫のはずだ。はあーー、セルフィーヌの奴は立場も考えずに危険な場所に行くなど誰に似たのか・・・・」

 ため息と共に吐かれた言葉に聞いていた皆はお前だろと言う顔をしていた。奥方のミルフィ殿はメイベルとも仲が良く、とてもおとなしい人物なのは国中に知れ渡っているのだ。何とも言えない雰囲気になった時、北の方角が光ったのが見えた。

 「始まったな。ルードル殿、メルフェリ殿、アレーヌ殿、皆を守る障壁を張って貰えるか」

 大声を出した私に其々が了解の返事を返してきた。そしてすぐに障壁が張られ、暫くすると此処に居ても感じられる強大な力が放たれた。激しい光と轟音が響いてぶつかり合ったみたいだと私が理解した時には衝撃波と暴風が此処まで飛んできていて音をたてて障壁にぶつかっていた。

 「派手にやっているみたいだな。此処は十キーラは離れていると思うんだけどな」

 「ガルーンに被害は出ていないのだろうな?」

 「其処ら辺は気にしなくていいだろ。カリーナが守ると言った以上、人が傷つくと気に病むロベールの為に頑張るさ」

 ロベルトがアッサリとした口調で言った理由にベルグスが顔を顰めていると、今までより激しい衝撃波が障壁にぶつかって軋む様な音が響いた。

 「おい、此の障壁は大丈夫なんだろうな?」

 「バルクラント卿の心配のし過ぎだろう。此方にもメルフェリ殿と言う契約者が張って居るのだから余波ぐらいは如何とでもなるはずだ」

 「あの・・・そう言ってくれるメルクラント卿には悪いのですが、かなりギリギリの状況ですからなるべく固まっていてくださいね」

 「・・・・・・待て十キーラ離れている此処がギリギリならガルーンはどうなるんだ」

 「安心しろ、主が守っているのだ問題無い。抑々主と我らでは持っている力が違い過ぎるから障壁の強度が全く違うのだ」

 「・・・そうか、砦を失って更にガルーンまで失ったら死んで逝った者達に会わせる顔がないからな・・・・」

 ホッとした様子のベルグスを見ていた私にルードル殿の鋭い声が聞こえた。

 「丘の方に向かって光が移動を開始した。如何やら攻撃を制したまま続きに丘を攻撃するみたいだ。・・・・お前達に言って置くが、主達に此処までさせたのだから裏切るなよ」

 鋭い視線で一瞥された私達は身を正すと丘が消えて行く光景を遠目に確認していた。

 「よし此れで向こうは片付いたな。ロベルト此方も動くぞ。フェルミー殿に合図をしてくれ」

 「・・・・おいおいおい、何やっているんだ?あっちは不味いだろ。俺は不確定領域に攻撃したら駄目だと教えたよな?何考えていやがるんだ?・・・・あの馬鹿はあとでお仕置き確定だな」

 ロベルトがロベールに対して罵りの声を上げたのを聞いた私は驚きと共に事態の推移を見守った。移動する光に向かって山から怖気の走る主と思われる者が飛んできた。其処から先の出来事は私の理解の範疇を超えていた。私に分かるのは主が抵抗も出来ずに殺されて、今凄まじいと言う言葉すら生易しいと思える力が空に浮いて存在していると言う事だけだ。周りの皆も恐怖を通り越してポカンと口を開けて呆けているだけだった。

 「・・・・ハッ、正気に戻れ。俺達のやるべき事を思い出せ」

 ロベルトの言葉に皆がハッとして我に返るとざわざわと喧騒が起こった。

 「お前達、今は口では無く体を動かせ。何故か主まで殺したあの馬鹿は後で俺がしめておく。敵は衝撃波を真面に防げる障壁が無かった所為で被害を受けて呆けたままだ。今が殲滅の好機だぞ。まさかとは思うが何もせずに突っ立ったままでロベール達と合流する心算じゃないだろうな」

 ギョッとした顔をする兵達に私も声をかける事にした。

 「私はロベールとカリーナが殺しを嫌っていた事を知っている。だがロベールは丘を攻撃して敵を殲滅した。何の為にそんな事をしたのか思い出して欲しい。そしてロベールが私達に求めた物を思い出して欲しい。強い力は確かに怖い、私も空にある力に冷や汗を掻いている所だ。しかしあの力は私達に向けられる事は無いと炎を見た皆は確信出来るはずだ。二人がやるべき事をやったのだから私達もやるべき事をしよう」

 私の言葉で喧騒が静まったのでロベルトに目配せをした。するとすぐにロベルトがフェルミー殿に合図を送った。そして暫くするとフェルミー殿を居る場所で魔力が高まるのが感じられた。


 「合図が来ました」

 「分かりました。今から集合魔法を使います。魔法兵の皆さんは私に魔力を贈る事を想像してください」

 「了解しました」

 返事と共に皆から私の方に魔力が近寄って来るのが見えた。

 「爆炎球」

 私が頭上に爆炎球を作ると私と球に魔力の線が繋がっているのが見えた。私は近寄ってきていた皆の魔力を一つ一つ丁寧に爆炎球につないで行った。すると爆炎球の大きさが一回りずつ大きくなっていき、大きくなるにつれて制御が段々難しくなって行くのが感じられた。

 「クッ、流石に此れだけ大勢の魔法兵の魔力を使うのは大変だわ。限界を見誤ったら私でも危ないわね。其処の魔法兵苦しいのは分かるけどもう少し頑張りなさい。そっちの魔法兵は頑張り過ぎよ、もう少し贈る魔力を抑えなさい。貴男は・・・・・」

 魔力を視認出来る私だから気づけた事だけど、集合魔法を使う時は贈る魔力の量にバラつきがある程制御が難しくなるのだ。

 「まだ大丈夫そうね。此のまま続けるわよ」

 「お待ちください。もうすでに五メーラを超えています。放つべきではありませんか」

 「そうね私以外の感覚で使っている魔法師なら放つべきでしょうね。でも私は他の者より高い力で集合魔法を使えるから魔法女王と呼ばれているのよ。契約者の弟子である私を信じなさい」

 毅然とした態度で告げた私に意見を言った魔法兵はたじろいでいた。目を白黒させている所を見ると私がお師匠様といる時の姿を知っているのだろう。ただ言わせて貰うとお師匠様と話す時の私は、一緒に過ごした昔の子供の頃の言動になっているだけなのだ。此の所の自分の言動に苦笑している間に爆炎球は八メーラを超えようとしていた。

 「八メーラを超えたら放つわ。後少しよ、頑張りなさい」

 「はあはあ、了解しました」

 息を切らす魔法兵達を叱咤して爆炎球を完成させた私は素早く敵の倒れている右翼の密集地帯に叩き込んだ。未だに事態について行けずに呆けたままの敵は避けようともせずに爆炎に呑みこまれていった。


 「何事だ、状況を説明しろ」

 身近に起きた爆音に我に返った私は大声を出した。そして暫くすると伝令が駆け込んできた。

 「・・・・・モルガン様、爆炎球をと思われる物が右翼に叩き込まれました。推定被害は千五百程だと思われます」

 「何だと?報告は正確にしろ。爆音が一度しかしなかった以上一撃のはずだ。一撃で千五百もやられたと言うのか?」

 「報告では八メーラを超えていたと聞いています。其れに衝撃波に一番晒されたのが右翼だったので倒れていた者もあり避けられ無かったとの事です」

 「なっ・・・・・・」

 一瞬未だ空にある力の事を考えた私は新たな轟音に後ろを振り向いた。するとそこには森の木々に向かって魔法砲の質量弾が叩き込まれていた。砲撃を受けた木々が倒れる音と振動が響き渡った。

 「退路を断つ心算か・・・全員敵が攻めて来るぞ。迎撃の準備をしろ」

 私の命令に従って本陣の兵士達が陣形を整えて居ると、右翼の一部の兵士が森に向かって逃げるのが目に入った。

 「聞け、一度で良いから敵の攻撃を弾き返して被害を与えるのだ。何もしないで逃げたら一方的に狩られる獲物に成り果てるぞ。死にたくなければ反撃しろ」

 私の怒鳴り声に逃げる味方を見て動揺していた兵士達が落ち着きを取り戻した。しかしホッとする間も無く敵の騎馬隊が突撃してくるのが目に映った。

 「歩兵は槍を構えろ。魔法兵は騎馬隊の前に魔法を放って足を止めろ。右翼には負傷兵を後方に移す様に言え。左翼は突撃してくる敵の横に回り込め」

 一通りの指示を終えた私の目に敵と交戦する右翼の味方が押される姿が見えた。

 「騎馬隊を右翼の援護に向かわせろ。右翼は此方まで下がって再編する様に言え」

 伝令が飛び出して行き、騎馬隊が右翼に向かうのが見えた。

 「モルガン様、龍殺巨砲が敗れた以上この戦いは・・・・・」

 「分かっている。我らの前に現れた敵が私達より多かった時点で作戦の失敗は確定的だった。ただ其れでも龍さえ現れなければと思ってしまうな。あの時龍が現れなければ脱走兵も出ず、傭兵などの集まりが悪い事もなかったはずだ。そうすれば手元に互角の兵力があり、もう少し真面に抗えたはずなのだがな・・・・。兎に角今は引く機会を逃さない様に戦うしかあるまい」

 部下が頷くのを見た私はその時を静かに待つ事にした。


 「リグトン様、右翼にいた大半の者は我らが討ち取るか撤退しました。撤退している者達を追おうとしたのですが、如何やら騎馬隊が此方に近づいている様です」

 「そうか、なら騎馬隊に向かって突撃する」

 「其れはでは此方の被害も多くなります。敵の目的は撤退する者の援護と思われますから一度引くのが良いと思います」

 「・・・・・此度の戦の目的は殲滅だし、此処で敵の騎馬隊を壊滅させれば大きな手柄になるだろう。私は今回の戦で手柄をたててガルマスト様の助命を願い出たいのだ」

 私の言葉に皆がハッとして見つめて来た。

 「ガルマスト様は既に諦めている様だが私は違う。確かに帝都の消滅はガルマスト様にも非が有るだろう。だが帝都の住民は救助されて生きているし、責任は死んだべサイルと逃げた五大神官にもあるのは明白だ。其処をついて何とか命だけでも助ける事は出来ないかとずっと思っていた。私はガルマスト様に忠誠を誓った・・・・僅かでも可能性があるのならかけてみたいのだ」

 「了解しました」

 私の言葉を聞いた皆は素早く隊列を整えると無言で見つめてきた。

 「敵の騎馬隊に向かって突撃する。必ず壊滅させるのだ」

 「おおおおおおおおーーーーー」

 皆が槍を掲げて雄叫びを上げてから私と共に突撃し始めた。雄叫びを上げて突撃する私達に敵もすぐに気づいた様で其方に向かって返す様に雄叫びを上げて突撃してきた。先頭を走っていた私は真っ先に敵に向かって力一杯槍を突いた。私の槍が敵の右肩に突き刺さり、敵の槍が私の顔の横を掠った。すぐに槍を引き抜いた私は肩を刺されて呻き声を上げて落馬する敵を見届けてから周りを見回した。

 「状況は五分か・・・・ただ一度の突撃でお互いに三割も落馬するとは敵も弱くは無い様だな」

 呟きを漏らした私に新たな敵兵達が現れた。囲まれない様に素早く一人の兵に馬首を向けると突撃していった。

 「私の命は此処でくれてやる訳にはいかんのだ。うおおおおおおおお」

 叫んだ私は素早く槍を突き出した。敵兵はいきなり突撃してくるとは思っていなかったのか、唖然としたまま私の槍に首を刺されて絶命した。槍を抜き其のまま横を駆けて行くと他の敵兵が怒声を上げて追ってきた。

 「貴様、待て仲間の仇をとらせて貰うぞ」

 「貰った死ね」

 私の左に併走してきた敵が槍を突いてきた。馬上で仰け反ってかわした私は槍を右手から左手に持ち変えると敵に向かって反撃した。

 「死ぬのはお前だ」

 私の槍が敵のわき腹に突き刺さり、敵は堪らずに落馬した。

 「うおおおおおおおおーーーー」

 後ろから叫びが聞こえ振り向くと後ろを走って追って来ていた敵が怒りに目を血走らせて突撃してきた。攻撃して速度が落ちた私の背中に素早く槍を突き出してくるのを見て、迎撃が間に合わずに刺される事を悟った私は咄嗟に持っていた槍を後ろの敵に投げ付けた。

 「この程度で止まると思うなよ」

 敵は飛んでくる槍をかわそうともせずに前進して腹に直撃したが、当たったのが刃ではなかったので気にもせずに其のまま突撃してきた。敵の気迫に背筋がヒヤリとしたが、貴重な刹那の時間が得られた私は槍が体に当たる前に馬上から宙に跳んだ。

 「何・・・・・・・・」

 下級の風の魔法で補助をして普通より高く跳んだ私は空中で剣を抜いた。

 「私は死ねんのだ。うおおおおおおおおおおーーーー」

 私は叫び声を上げて未だに驚愕している敵の頭上に容赦なく剣を振り下ろした。剣が敵を切り裂いて返り血を浴びた私は全身を真っ赤に染めていた。地に降り投げた槍を拾うと己が馬に乗り周囲を見回した。するとそこには驚愕と動揺、そして恐怖に引きつった顔が並んでいた。

 「如何した、死にたい者から掛かって来い。・・・・・・来ないのか?なら私から行かせて貰おう。私にはまだまだ首級が足らんのだ」

 馬首を新しい敵に向けながら何故か私を見て攻撃の手を緩めてしまっている味方に向けて大声を上げた。

 「何を止まっている。敵を殲滅するのだ。声をあげろ」

 「おおお・・・・・・」

 「声が小さいぞ。私を怒らせたいのか?」

 「うおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーー」

 「そうだ、それで良い。敵は一人も逃すなよ。良いな」

 私の声に配下の騎士達が我先にとはじかれた様に敵に向かっていった。戦いの後で人伝に聞いた話だが此の時の私は敵の返り血を浴びて全身が真っ赤になっていた上に、今は死ねないとの思いと敵を一人でも多く討たねばならないとの思いから重厚な殺気が漂っていたそうだ。その姿は味方ですらも鬼を思わせる程で、私に恐怖した敵は赤き戦鬼が出たと総司令官に報告したそうだ。


 「良いですね、狙うのは敵の総司令官ですよ。前方にいる槍を構えている歩兵の部隊は突破します。各自攻撃魔法を用意しなさい」

 「お待ちくださいクローズ様。敵の左翼が回り込んで横から攻撃しようとしています。前方の敵を突破しようとしている内に攻撃を受けます」

 「そっちは歩兵部隊が何とかしますよ。私達は敵の本陣を強襲するのが任務です」

 私の断固とした言葉に皆が黙ったのを見届けてから大声を上げた。

 「総員、敵の中央に向かって魔法を放ちなさい。その後其処に向かって突撃して突破しますよ」

 私の命に従って火の矢、風の矢、闇の矢などの各属性の矢が放たれた。敵の歩兵の絶叫が響く中を突っ切って行こうとしたのだが、進行方向に火炎球が飛んで来た。私は即座に馬を引き止まって避けたのだが、何人かは其のまま突っ込んで行ってしまい、火に焼かれて断末魔が響いた。

 「此処は通せないぜ。これ以上商連合国の戦力を失う訳には行かないんだよ。じゃないと次の戦いが出来なくなってしまう」

 そう言ったと思った瞬間に男は私の目の前に移動していた。

 「なっ・・・・・」

 驚きの声が出た時には既に私に向かって男の攻撃が振るわれていた。反射的に馬から落馬すると敵の攻撃が私の左腕を浅く斬った。

 「良く避けたな。だが此れで終わりだ」

 男の次の攻撃に地面に倒れていた私は今度こそ避けられないと悟り、死ぬ前にミリステアに言いたい事があったなと思いながら攻撃を見ていた。しかし私の目の前で敵の攻撃は障壁に受け止められていた。

 「ルミーが混じった魔力が見えると言ったから来たけど・・・・如何やら正解だったみたいね。貴方達の相手は私がするわ。アーヌやりなさい」

 すぐに竜が光のブレスを口からだして敵の腕を消し飛ばした。しかし敵は咆哮を上げて変身すると失った腕をアッサリと再生していた。

 「この程度の傷など我らには掠り傷に過ぎんわ。しかし期待外れだった臆病者の契約者が現れた所で果たして我らを倒せるかな?今も周囲にいる人間を殺さない様に力を抑えているのだろう。ククククク」

 その笑い声を合図に次々と咆哮が上がり十数人の人が一斉に変身してメルフェリ殿達の周りを包囲した。両腕が緑の鱗に覆われた姿に変わった男と違って他の者達は羽をはやして黄色い肌になっていた。此の突然の事態に敵も味方も凍り付いた様に動かなかった。特に敵は仲間のはずの存在が変身するのを見て混乱しているのが良く分かった。

 「期待外れとは如何言う意味かしら・・・。貴方達は私が知らない何かを知っているのかしら?」

 「契約者の歴史でも調べるんだな。お前も契約者だろ。ククククック」

 男達の嘲笑が響く中、今まで敵に気づかれない様に治療されていた私の腕が完全に治ったのを見て、メルフェリ殿が小声で話しかけてきた。

 「貴男は今すぐ皆を連れて総指揮官の元に向かいなさい。私が道を作るわ」

 「・・・・・此処に居ても足手纏いになりそうだからお言葉に甘えさせて貰います」

 私が素早く馬に乗ると敵が気づいて襲おうとしてきたが、竜が威嚇攻撃して一歩も近づかせ無かった。

 「今よ。走りなさい」

 声と同時に数百の光球が飛んで行き、進路上にいた敵兵が跡形も無く消し飛ばされていった。

 「全員全力で駆けますよ。突破が最優先です」

 私が馬を走らせると皆も遅れずについて来てくれた。

 「待て、逃げられると思うなよ」

 男の声が聞こえてすぐに後ろから爆音が響いた。如何やら後ろから魔法攻撃を受けている俺達をメルフェリ殿達が迎撃して防いでくれているみたいだ。その事に心の中で一言お礼を言ってから、我に返って立ち塞がろうとする敵を蹴散らして一気に駆け抜けた。


 「逃がしたか・・・・。しかし驚いたぞ。お前は二百年前の時には人を殺すのが嫌で逃げたはずだよな。何で今更表舞台に出てきやがった?チッ、仕方ないな・・・おい竜の契約者が動いたと報告して置け」

 「待ちなさい。アーヌ」

 アーヌがすぐにブレスで攻撃したけど、別の男が身代わりになって攻撃を受け、一人が飛行して悠々と離脱していった。

 「残念だったな。今まで通り大人しくして居ればもしもの時まで見逃されていただろうに・・・・・・」

 「・・・・・先程から貴男は何を言っているの?私が誰に見逃されていたと言うの?何より貴男は何所に報告したのかしら?やはりギルド本部なの?」

 私の言葉に男が目を細めて此方を窺っているのが感じられた。

 「お喋りが過ぎた様だ。契約者は使い道があるらしいから殺したくはなかったんだがな。あの方にお叱りを受けるが殺させて貰おう」

 羽の生えた敵が空を飛び、私とアーヌに向かって一斉に水球を放ってきた。咄嗟に光の矢で全てを迎撃すると水は弾け飛んで周囲に飛び散り、私や周囲の敵兵達に降りかかった。濡れた私達を見てニヤリと笑った男達は次々と水球を放ってきた。

 「無駄だと言うのが分からないの?馬鹿の一つ覚えみたいに水球を使い続けて・・・」

 「そうだねえ、既に此方の手勢の何人かは竜に殺されてしまっているのに同じ攻撃を続ける何ておかしいよねえ。ククククク」

 男の言う通り私とアーヌは連携して数人の敵を殺していた。今また一人アーヌが殺してついに十人を下回ったのに嘲笑う姿は何かあると警戒させるには十分で、私は敵を倒すのをアーヌに任せてずっと警戒し続けていた。

 「貴男は何を考え・・・・・・」

 私が男を詰問しようとした時、突然叫び声が響き渡った。慌てて周りを見回すと叫び声を出した兵士達が凄まじい身体能力を発揮しながら無差別攻撃を行っていた。

 「・・・・何をしたの。原因はさっきの水球ね」

 「ああそうだぜ。水球に融合した魔獣が生み出す狂化する液体を混ぜたのさ。さしずめ狂化水とでも呼んでくれ。お前も浴びたから狂化されないかと期待していたんだが、如何やら契約者には聞かないみたいだな。チィ、詰まらん。契約者が無差別に暴れ回る姿が見たかったのにな」

 私が残念そうな男の声に苛立っている間にも兵士達は暴れ回り、ついに私にも襲い掛かってきた。私は後ろに跳んで距離をあけてから素早く光球を放って迎撃したのだが、血走った目をした兵士は光球を避けようともせずに直進して来た。光球の直撃を受けて肩から血をまき散らして右腕を失う大怪我をした兵士は、悲鳴も上げず、表情も変えず、無言でそのまま左の拳を叩きつけてきた。意表を突かれて腹に直撃を受けてしまい、息が詰まって動きが止まってしまった私に兵士は容赦なく蹴りを放った。拳と同じ場所を蹴られた私は、大きく吹き飛ばされて地面に叩きつけられると、その攻撃の威力に吐血する破目になった。

 「ゴホ、ゴホ、・・・・普通の兵士が此処までの力を・・・ゴホ・・・」

 「如何だ、この狂化は素晴らしいだろ。痛みも感じず人間が持っている身体能力を限界まで引き出せるんだぜ。まあ代わりに頭の方は駄目になっちまうがな。ククククク、ハハハハハ」

 耳障りな男の笑い声を聞いて苛立ちながら立ち上がろうとした私に突然影がかかった。慌てて原因を確かめると傍に手足から血を流して立つ兵士がいた。しかも既にその腕を私の顔に向かって振りかぶっていた。

 「クッ、冗談じゃないわ」

 慌てて地面を転がって必死の思いで避けた私の横の地面に兵士の拳が突き刺さった。地面を揺らして陥没させたのを見て驚いていた私は、兵士の拳が原型を留めていないのを見てぞっと鳥肌を立てて動きを止めてしまった。兵士が腕を動かすと私の顔にも兵士の血肉が飛び散った。ギョッとして我に返り、慌てて顔を拭って立ち上がると、アーヌが私の危機に駆けつけ兵士にブレス攻撃をしているところだった。兵士が消し飛ばされるのを見届けた私が視線を厳しくして男を睨みつけると、男はニヤニヤと笑いながら話し掛けてきた。

 「まあ力は上がっても所詮は唯の人間で、契約者と違って肉体強度が低いのが欠点の一つなんだ。ククク、でも今回みたいに数で補って最初から捨て駒として考えれば全然気にならないぜ」

 男の言葉に私はすっと目を細めると周りを見回した。そして狂化されずに無事だった兵士達も本隊の方に逃げ出したらしく、周囲に残っているのは私とアーヌと男達と狂化された兵士達だけなのを確認して静かな重々しい声を出して尋ねた。

 「一応聞いておくわ。狂化された兵士は元に戻るのかしら」

 「狂った人間が戻る訳無いだろ。純粋な魔法では無い以上、対抗魔力も聞かないから下手な希望は持たない方が良いぜ」

 「・・・・・そう・・・なら心置きなく全力が出せるわ。私はね、細かい力の調節が苦手なのよ。だから一定以上の強い力を使う時は全力を出すしかないの。地獄で私を怒らせた事を後悔なさい」

 「残念だけど後悔するのはお前の方だ。何故俺が狂化している人間に襲われないのか分かるか?俺の魔獣の力は回復と存在感の有無なんだよ。俺の存在感を減らして、お前の存在感を増やすとどうなると思う?」

 男の言葉が終わると今まで無差別に襲っていた兵士達が全員、目を血走らせて私に向かって来た。

 「此れで終わりだな。歴史では契約者を殺すのは数の力と決まっているんだよ」

 「アーヌ、少しだけ私を守って」

 アーヌがすぐに傍に来て敵と地面をブレスで攻撃した。しかし十数人が消し飛び、土煙が上がっただけで数千を超える兵士の数の前には焼け石に水だった。狂う前に強かったのか数十体が音速を超える速度で突っ込んで来た。アーヌが私の前に立って強靭な竜の体で受け止めている間に素早く口を開いた。

 「光よ、我を中心として集まり、我を守る盾にして矛になれ」

 私とアーヌの周りに光の盾が生まれてすぐ、音速の体当たりを受け止めていたアーヌが自分と相手の血にまみれて倒れ込む姿を見た。一瞬ヒヤリとしたが、自分で怪我を治療する姿を見てホッと安堵する事が出来た。安全な光の盾に守られてやっと余裕が出来た私がゆっくりと周囲を見回すと、狂化兵士達が光の盾に向かって無駄な攻撃を繰り返していた。光の盾は攻撃の為の力を溜めているので、とても高温になっていてジュッと焼ける音がして攻撃する者達が次々と焼け死んでいくのを見る破目になった。

 「見ているだけでぞっとする光景ね。アーヌ怪我は大丈夫?私の為にごめんなさい」

 「竜だもの此れ位すぐに治るし、メルを守るのは私の役目よ。謝らないで」

 「・・・そうね、ありがとう」

 「・・・・力が溜まったみたい・・矛に変わるわ」

 アーヌの声と同時に蓄えられた力が一瞬で解放された。盾から放射状に光が走り、僅か数秒で消えた。しかしその結果は凄まじく、数千はいたはずの狂化された兵士達は跡形も無く消え去っていた。空を飛んでいた者達も消えているので全滅させたと思ったのだが一人だけ虫の息で存在しているのが確認出来た。

 「良く生きていたわね。全滅させたと思ったんだけど・・・・」

 「・・・・俺の力は・・・回復・・・だからな・・・。だがどうやら・・・此処までの様だ。まさか・・・戦いを拒否して逃げた契約者に・・・殺されるとはな。如何だ人を殺した気分は?」

 「・・・・最後まで嫌な奴ね。思っていたのとは違ったとだけ言って置くわ。お喋りな貴男が喋った事から過去の出来事を調べ直してみるわ。さよなら」

 私の放った光球が男を容赦なく消し飛ばした。

 「・・・・・アーヌ、色々やる事が出来たわ。ついて来てくれる?」

 「・・・・・・・・・・」

 無言で私を見つめて頷くアーヌに笑いかけるとミリー達の所に向かった。

 次話の投稿は6日までの間の出来た時に投稿します。申し訳ありませんがご了承ください。

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