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契約者達と商連合国との戦い

 日が昇るのと同時に行動を始めた俺達は素早く朝食を食べて町の入り口に向かった。其処には既に戦う準備を整えた騎士達と兵士達が静かに整列していた。その顔は皆やる気に満ちていて士気の高さが窺えた。

 「現在の最新の情報では敵の本隊が森の入り口で隊列を整えているのが確認されている。敵もやはり今日決戦する心算らしい。皆はこのまま東に向かって行軍して敵軍から五百メーラ程離れて対峙し、フェルミーが魔法兵と共に集合魔法の準備を行うのを援護してくれ。俺達は敵がガルーンに対して行う砲撃を迎撃してから合流する。其れまではリグレス公爵を中心にして行動して欲しい。何か質問のある者はいるか?」

 「ロベール様、何故わざわざ敵の砲撃を迎撃するのです?我らの方から先制攻撃してしまった方が簡単に破壊出来るのでは?」

 メルクラント卿の元で騎士団長を務めているリグトンさんが疑念を顔に浮かべて話しかけてきた。

 「確かにそうだよな・・・・・」

 「ガルーンも危険に晒されないしそっちの方が安全だよな」

 他にも同じ様に思っていた者達が大勢居たようでざわざわと小声で同意する声が上がった。

 「皆が疑念に思っている様なので説明しよう。如何やら敵は手加減していて、その所為でガルーンが消滅しなかったと思っている様なのだ。俺の考えは単純明快で巨砲などいくら作っても無駄だと敵に知らしめたいだけだ。全力を出した巨砲を潰して勝利しないと、敵は巨砲が力を発揮すれば勝てると勘違いして、第二第三の巨砲を作って戦いを挑んでくる可能性がある。此れから時間をかけて新しい国の基礎を作らなければならない時に、一々敵が攻めて来たら面倒な事になるだろう」

 俺の説明に成る程と納得の声が上がったのだが、リグトンさんやクローズさんなどの騎士団の指揮官は顔を強張らせていた。リグレス公爵達も俺の決断がどんな物なのかを理解したみたいで愕然としていた。

 「この戦いの目的は敵の撃破では無いのですね・・・・」

 「リグトンさんの考えている通り、この戦いの目的は殲滅です。俺は少なくとも敵の半数以上に死んでもらう心算です」

 俺の言葉に皆がギョッとして凍りつく中で意識して淡々とした声を出して告げた。

 「ガルトラントの砦が消滅している可能性が高い以上、この戦いで敵の戦力を殲滅して敵の戦意を挫かないと今後の防衛が難しくなります。考えたくはありませんが半端に勝利して戦意を挫けないで撤退を許したら、今度は他国と手を組んで攻めて来て、バルクラントとガルトラントで同時防衛を強いられる事も考えられます。現にバルクラントの国境が怪しくなっているのでしょう」

 俺がバルクラント卿の方を見るとそこには苦々しい顔をしている親子がいた。

 「忌々しいがその通りだ」

 「国境に増援の兵士を向かわせたが此処で手間取ると動く可能性が高いだろう」

 「俺の考えも同じです。今俺達は他国から弱った美味しい獲物だと思われていて、其れを覆す為に必要なのは短期決戦での圧倒的な勝利だと考えています。皆もよく聞いて欲しい」

 俺の毅然とした呼びかけに皆が緊張した面持ちで、静まり返って次の言葉を待っていた。

 「俺達は弱った獲物などでは断じてないはずだ。この戦いでその事を示し、この国に土足で踏み入った事を死ぬほど後悔させるのだ。降伏する者まで討てとは言わないが、逃げる者達は国境を超えるまで追い続けて二度とこの国に入りたくないと思わせるのだ。それが傷ついたこの国を新しく生まれ変わらせる貴重な時間を作る事になる。皆昨日の誓いを覚えているな、俺は必ず成し遂げて見せる。だからこの戦いに皆の命を懸けてくれ」

 皆が強い意志の籠った俺の言葉に息を呑んだ後、一人の叫びを切っ掛けとして沢山の雄叫びが響き渡った。

 「うおおおおおおおおーーーーーーーー」

 「やるぞおおおおーーーーーーーーー」

 雄叫びを上げる皆からリグレス公爵に視線を移して目配せすると頷いたリグレス公爵が前に出て大声を上げた。

 「では此れより進軍を開始する。皆予定通りに動け」

 リグレス公爵の言葉に叫ぶのを止めた皆は整然と進軍を始めた。一クーラ程経って皆が見えなくなった事を確認した俺は無意識にホッと一息ついていた。

 「お兄ちゃん大丈夫?顔色が良くないよ」

 「・・・・・大丈夫だ」

 「とてもそうは見えませんわ。ロベールの事だから戦いで死ぬ人間の事を考えてしまったのでしょう」

 「・・・敵は兎も角、味方は大丈夫なんだ。ルードルとタマミズキに契約者のメルフェリ達も一緒に行ったんだから悪い様にはならないんだ」

 「ああ、分かってはいるんだ。しかし其れでも死者が出ない訳では無いだろう。誰かの家族の命を預かっているのだから当然なんだろうが、想像しただけで不安と罪悪感で押し潰されそうだ」

 周りを気にしながら消えてしまいそうな声で最後の言葉を口にすると、香織が手を握って真剣な顔で告げてきた。

 「私達は一蓮托生だから良い事も悪い事も皆で背負うんだよ。一人で抱え込んじゃ駄目なんだから」

 「全くなんだ。ロベールはすぐ一人で抱え込もうとするから僕は大変なんだ」

 「この戦争で私達は沢山の人を死なせ、沢山の敵兵を殺すでしょうが、その功罪は皆で分かち合う物ですわよ。・・・クスクス、しかしロベールは戦いの事ばかり考えていますが、親への言い訳は考えているのですか?」

 フレイの言葉の意味が分からなかった俺が首を傾げると苦笑されてしまった。

 「良いですか。ご両親に敵を傷つける事は話しましたが、王になるなどとは言っていませんわよね。二人ともどの様に話す心算なのですか?」

 「・・・・・・・・・・・俺さあ、今度王になるんだとか言ったら怒られるかな?」

 「お父さんなら・・・・・いや、多分二人とも呆れ返った後、何をやっていると怒られるわね」

 「はあーーーーー、まいったね。戦いの前に嫌な事に気づかされた。でもフレイありがとな、気が逸れたおかげで大分楽になったよ」

 少しだけ笑った俺は香織と親にどう説明するか話し合いながら敵が動く時を待った。


 「カルロン様、敵軍が前方五百メーラ程の所に姿を見せて我が軍と対峙しました。まだ敵は待機しているだけで攻める姿勢を見せていませんが、モルガン様はまだ暫く攻撃出来ないのなら作戦を変更しなければならないと言っていました」

 「一クーラ半とちょっとで攻撃出来ますから少しだけ耐える様に言ってください。一クーラ半とちょっとぐらいなら戦いになっても耐えるのは可能でしょう」

 「一クーラ半と少しですね。確実に伝えますがもし攻撃が無い場合は此方は連絡だけして自由に動きます」

 「心配せずとも大丈夫です。今度は全力で放つので力を溜めるのに時間がかかるから言っているだけです。調整は殆ど終わっています」

 「了解しました。その事をモルガン様に伝えておきます」

 やって来た伝令が踵を返して戻って行くのを見届けた私に調整を行っていた部下が足早に近寄って来た。

 「カルロン様、残った大神官の契約石三つを全て組み込みました。其の所為で今までにない程攻撃力は上がりましたが、一度撃ったら暫く撃てませんよ。正直言って暴発しないだけで確実に龍殺巨砲自体に影響が出ます」

 「・・・・・構いません。今はガルーンを跡形も無く消し飛ばす事が優先です。龍殺巨砲に敵がいない事を証明しなければ今後に差し障ります」

 「・・・・了解しました。では私は最終調整に向かいます」

 部下が足早に去って行くのを見届けた私は苛立ち、舌打ちしてから呟いた。

 「チィ、何を不安そうな顔をしているのです。私が設計した龍殺巨砲が負けるなどありえません」

 ガルーンが健在なのを見た部下達は私の顔色を窺って口にはしないだけで、皆何処か不安そうな雰囲気を出して私をイラつかせていた。遠くに見えるガルーンの町を忌々しく思いながら睨みつけていると、部下の声が聞こえてきた。

 「最終調整終了、此れより起動します」

 起動された龍殺巨砲は初めこそ何時もと同じ様に音を響かせていたが段々と音が激しくなっていった。

 「第三段階突破、更に上がります。・・・・・第四段階突破しました」

 すでに音はゴゴゴゴゴゴゴゴゴとしか聞こえず大気が鳴動しているのが感じられ、冷や汗が自然と流れてガクガクと震える者が続出した。

 「第五段階突破しました・・・・・・更に上昇しています」

 鼓膜が破れそうな音と衝撃が走り、立っていられずに地に倒れ伏す者が続出して皆の悲鳴が上がった。沢山の悲鳴が響く中、龍殺巨砲の前に砲身から溢れた光が集まってドンドン大きくなり、ついに目を焼くほどの輝きになった。そんな状況でも必死に龍殺巨砲の方を見ていた私の目の前で突然砲身が歪むのが目に映った。バキバキ、ピシピシと破滅的な音が鳴り響く中で部下の絶叫が響いた。

 「第七段階突破しました。砲身、これ以上持ちません。発射します」

 部下の叫びと共に今までに見た事も無い、優に五百メーラは超えている大光球が放たれた。放たれた大光球は私ですら思っても見なかった程の力をまき散らし、その余波だけで森の木々が消滅して大地が溶岩の様に赤くなり、まさに自然を破壊しつくして地形を変えながら進んでいた。其れを目にした私は神話や伝説に語られた力を自分が生み出した事に一人歓喜に打ち震えていた。しかしそんな私の横で大光球を放った後の歪んだ砲身が耐えきれずに、不快な轟音と共に弾け飛んで破片が周囲に飛び散った。幸い私には直撃しなかったが部下の中には破片に直撃して潰された者が続出して周囲に呻き声が響き渡った。それでハッと我に返った私は一番気になる事を声に出した。

 「きちんとガルーンに向かっているか」

 「向かっています」

 私の大声に怒鳴り返すように部下が叫んだ。その報告に此れで勝ったと思った時、突然私の体が大気に押さえつけられるみたいな暴風に晒された。突然の事に対応も出来ずに吹き飛ばされ、地面に叩きつけられて苦痛に顔を歪め、呻き声を上げながら顔を上げた時、私は己が目を疑う光景を見る破目になった。


 音を拾っていたフレイが真っ先に気づいてはじかれた様に鋭い叫びを上げた。

 「敵が動き始めましたわ」

 「すぐに迎撃準備を始める。カリーナ、フレイ、シグルト、ガルーンは任せたぞ」

 「うん、お兄ちゃんはガルーンの事は気にしないで良いわ」

 香織の返事に頷き返してから俺は町の外壁の上に立った。此れから行うのは未だ一度も行った事の無い上級魔法の全力強化だ。未知の行いに対する緊張に一度目を瞑ってからその手を前に向けた。

 「極光の輝きよ天から舞い落ちろ」

 俺の声に天から一ミーラにも満たない光の粒が雪の様に目の前に降ってきた。俺が手を向けた前方で光の粒が天高くまで降り積もり、光の壁の様になったその光景はとても幻想的で美しかったが、俺は見とれる事も無く素早く強化を始めた。そして俺が強化しながら敵の攻撃を待っていると、ついに敵が攻撃を放って前に見た時の比では無い大光球が飛んで来た。其れを見た俺は待ってましたとばかりに素早く口を開いて声を出した。

 「我と我が守りし者達の脅威を消し飛ばせ」

 俺の声に今では壁の様に見える強化された光の粒が一斉に前進を始め、一定距離に近づいた脅威になりそうな物を目標に、光の粒が次々と壁から高速で離脱して飛んでいった。一つの粒が木にいた魔獣に当たって消滅させたのを皮切りに次々と着弾していき、周囲に炸裂音と眩い輝きと衝撃波が広がった。その光景は追尾弾による絨毯爆撃を思い起こさせる有様だった。

 「おいおいおい、此れでも使う魔法は注意して選んだ心算だったんだがな・・・・・」

 魔獣などと一緒にその周辺が次々と巻き添えで消滅するのを見て、自分が引きつった顔になっているのを自覚しながらも、今更後には引けない俺は魔力を込め続けた。天からは次々と新しい光の粒が舞い降り続け、強化が終わった物から次々と前進して行った。その光の粒の総数は億を超えて最前列から続く光の壁の長さはついに一キーラを超えようとしていた。そして一キーラを超えた時ついに初めの衝撃波がガルーンに向かってきた。俺の魔法が魔獣を消し飛ばした時の衝撃波なのでヒヤリとしていると、香織が横に来てアッサリと障壁で受け止めていた。

 「此れ位なら私だけでも問題無いわ」

 次々と来る衝撃波を危な気なく受け止める姿を見て大丈夫そうだなと思い、再び前を向くとついに敵が放った大光球と俺が放った光の壁の距離が一定距離まで近づいた所だった。一つ二つ三つと光の粒が飛んで行きバンバンバンバンと大音響と共にぶつかり、大光球がその度に衝撃と共に少しずつ削られて行くのが見えた。しかし流石は大光球と言うべきか大光球がまき散らす圧倒的な力に晒されて余波だけで光の粒が消し飛ばされる様子も見られた。そして大光球は攻撃を受けても止まらずに此方に向かって速度を落とさずに飛んで来ていた。だが俺はその光景を見ても予定通りだと考えて不敵な笑みを浮かべていた。

 「カリーナ、私も力を使いますわ」

 フレイの声と共に新しい障壁が張られてすぐに、今までとは比べ物にならない衝撃波が何度も障壁にぶつかっていた。巨大な力のぶつかり合いで生まれた衝撃波だけあって普通の人には防げそうにない威力だとふと思い、敵の方を見て見ると暴風に晒されて空高く吹き飛ばされる人が何人も見て取れた。

 「・・・・・・なあ、あいつらは馬鹿なのか?大きな力を振るうのなら、余波を防いで身を守る手段ぐらいは用意しないと駄目だろ」

 「たぶん初めて手に入れた強大な力だから、其れがぶつかり合ったら如何なるか何て想像していなかっただけなんだ」

 「ああ成る程、お兄ちゃんの存在を知らなかった敵は自分達だけが一方的に攻撃出来ると思っていたのね」

 俺達が唖然としながら言葉を交わしていた間に俺と敵の力がぶつかり合う湿地帯では、ぶつかり合う力に依って生まれた衝撃波と熱で全てが吹き飛んだ上に焼け、更地や焦土とすらいえない生き物の住めそうにない地獄に成り果てていた。未だに何とか生き延びている強い力を持つであろう魔獣が魔法を使って必死に抵抗しているのが見えたが、まさに焼け石に水としか思えなかった。そして目論見通りに俺の魔法が徐々に単体で強大な力を持つだけの大光球を億を超える圧倒的な数の力で包み込もうとしているのが見えた。

 「シグルトも障壁を張ってくれ。もうそろそろ爆発しそうだ」

 「分かったんだ」

 シグルトの返事を聞いた俺は数十万発の光の粒に削られて今にも爆発しそうな歪な形になった大光球を見てその時を待った。そして止まる事無く此方に飛んで来ていた大光球がついに壁の前面にぶつかり、俺の予定通りに光の粒の中に完全に入ったのを確認して、すぐに最後の仕上げにかかった。俺が制御して待機させていた光の粒の待機を解くと、途端にバババババババババーンと凄まじい炸裂音が響き渡ってすぐにズゥゥゥゥーーーンと重たい爆発音がした。すぐに太陽が新たに現れた様な輝きが目に入り、其の光が全てを呑みこみながら広がって行こうとした。しかし俺の予定通りに広がろうとする光を光の粒が包み込み延々とぶつかり続けて爆発を相殺して押し止めていた。

 「グッ、消耗が激しくなって結構大変だけど速度を速めれば力の強化は此のままで良さそうだな」

 俺が更に魔力を込めると光の粒が降る速度が速まり供給が速まった。俺がこの魔法を使う事にした理由の一つはこの様に魔力が続く限り延々と光の粒を生み出せる事だった。

 「ロベールの魔法で包まれている所為で思った程の衝撃波は来ていないんだ。此れならガルーンは問題無いんだ」

 「クスクスクス、むしろ敵の方が悲惨みたいですわよ。私の拾った声から判断すると暴風に晒されて絶叫していますわ。まあでも一人だけ自分の身も仲間の身も気にせずに、大光球の様子を見て絶叫しているおかしな人もいるみたいですけれど・・・・」

 呆れた声で話すフレイの声を耳に入れながら俺は周囲を見回した。

 「敵の大光球の方はもう包んでしまったから問題無いけど・・・・・思ったより派手にやってしまったな。一応予定の範囲内とはいえ後でガルトラント卿から怒られそうだな。・・・弁償とか無いよな?」

 「お兄ちゃんが王になれば問題無いわよ。確か国土は全て皇帝の物で貴族も皇帝の代わりに治めているだけだったはずだよ」

 「嫌に詳しいんだな。何時帝国の法に詳しくなったんだ?」

 俺の疑問に何故か焦りを浮かべて答えない香織に一抹の不安を感じたが、今は追及出来る気分ではなかった。強い魔法は沢山あり、中には今回の攻撃を一瞬で消し飛ばせる物もあったのだが、自分の治める国土を必要以上に傷つける王など皆に認められないと考えて、周囲の被害をなるべく少なくする事を考えてこの魔法を使ったのだ。しかし俺の魔法と敵の攻撃が通った場所は何も無くなり、更に周辺数キーラ程が暴風と衝撃波で吹っ飛んでいる有様を見ると、予定の範囲内だから良いだろとは口が裂けても言えないし思えなかった。

 「オッ、如何やらようやく敵の攻撃が消滅した様だな。此れで一安心だな」

 「そうだねお兄ちゃん、ガルーンに被害が無くて私も安心したわ」

 香織と声を交わして安堵していたのだが、その間に敵の攻撃を消滅させて前進速度が速まった俺の魔法がついに丘の近くに到達していた。

 「お兄ちゃん・・・・・」

 「俺は大丈夫だ。王になると言った時に覚悟は済ませている。殲滅しろと皆に命じた俺が此処で手心を加える事は出来ない」

 泣きそうな顔の香織が心配そうに声を震わせて俺を呼んだが、俺はその言葉を遮る様に返事を返していた。そしてついに俺の見ている前で攻撃が始まった。光の粒が高速で飛んで行き次々と爆発が起きて真っ先に巨砲が消滅した。其れから先は悲惨だった。敵には防ぐ事の出来ない光の粒が必死に逃げようとする敵や倒れたままの敵に飛んで行き、一人また一人と消滅させていった。更にその巻き添えで最後には丘も消滅してしまった。

 「ロベール、もう終わったんだ。もう良いんだ・・・・・」

 歯を食い縛って全てを見届けた俺はシグルトの声に反応して反射的に魔力を絶った。するとすぐに光の粒が空から降って来なくなった。

 「よし此れで終わりだな。此処まで徹底的にやれば二度と巨砲が作られる事はないだろ。さて早く皆と合流しないとな。さあ行こう」

 意識して明るい声を出して皆に心配かけない様に取り繕った俺が、香織達の方を振り向いて話し掛けたのだが何故か皆は俺の言葉に答えずに唖然と前を見続けていた。何かあったのかと思って振り向くとそこには信じられない光景があった。

 「はああああああ、嘘だろ?何でまだ光の粒が残っているんだよ」

 本来なら光の粒は魔力の供給を絶ったらすぐに消えて行くはずなのだ。動揺する俺にシグルトが真っ蒼な顔で震える声を出した。

 「・・・・・・考えられる事は一つしかないんだ。強化された所為で魔力の供給が無くても存在出来る様になったんだ」

 「・・・・・・・冗談だろ・・・・今目の前にある光の粒の総数は億を余裕で超えているんだぞ。いや待て魔法の制御は如何なっている?」

 冷や汗を掻きながら慌てて制御しようとしたが、魔力を絶った時に制御の大半も出来なくなっていた。

 「多少の進行方向を決めるくらいしか出来ない・・・・・・後は最後の時のままだ」

 「・・・・・・今北東に向かっているんだけど東に変える事は出来るかい?」

 「其処まで大きくは変えられない」

 「何時まで持つか分かりますか?」

 「・・・・ハッキリとは分からないけど安定しているから一日以上持つ可能性が高い」

 「お兄ちゃん、私達が魔法で攻撃したらどうなるの?」

 「一斉に爆発する。先程大光球を包み込んだ時は制御下にあったから順番にぶつかって行ったんだ。でも今は違うから大爆発が起きる事になる。正直言って此処で爆発する事は考えたくない」

 俺達が話す間にも前進を続けていた光の粒が丘を過ぎて先にある草原に近づいていた。そして俺達の見ている前で草原に住んで居る魔獣と思われるものに対して攻撃が始まった。すぐに次々と爆発が起きて草原を破壊して進む光景に動揺して真っ蒼になって震えているとシグルトのか細い声が耳に入った。

 「あの・・その・・言い難いんだけど・・・此のままの進行方向に山があるのは見えるかな?」

 「ああ、山と言うか山脈と言った方がよさそうだが・・・それが如何かしたのか?」

 嫌な予感がしながらも何とか答えた俺にフレイの平淡な声が響いた。

 「あそこの山は不確定領域で主が居るのですわ」

 「・・・はあ・・・・ななな、何だと?」

 一瞬言われた事が分からなくて呆けてしまったが、理解した俺は混乱してしまった。

 「おおおおおい、確か不確定領域には大規模な魔法攻撃をしてはいけないんじゃなかったか?」

 「その通りなんだ。でも現在その真っ最中で更に悪い事に進む速度も速まっているみたいなんだ」

 攻撃して総数が減った所為か確かにシグルトの言う様に速度が二倍以上速まっていた。ヤバいヤバいヤバいと焦りながらも状況を正しく認識した俺はシグルトに素早く尋ねた。

 「予想進行路に人がいる可能性はあるか?」

 「危険な不確定領域がある所為で村などは存在しないんだ。人がいたとしても真面でない山賊や盗賊や密猟者などの犯罪者だと思うんだ」

 その返答にホッとする間も無く、フレイが重苦しい声で告げてきた。

 「フェルミーさんと雑談した時にこの辺りの事を聞いたのですが、あの山は一応商連合国の領土になっていて、そこにいる主は空を飛べてとても強いのだそうですわ。あの山は資源が豊富で欲に駆られた商人達が五十年前に資源を得ようとして軍を派遣したそうですが全滅したそうです。そして其れからあの山は魔の山と呼ばれているそうですわ」

 「でもさあフレイ、お兄ちゃんなら主に勝てるんでしょう?」

 「勝てると思いますが周囲の被害はこの程度ではすみませんわよ」

 フレイはこの程度と言っているが既に十数キーラも破壊されていて、此のままだと更にガルーンから山まで直線距離にして百キーラ以上が、横幅一キーラ弱の壁の前進で何も無くなってしまうのだ。破壊神と言われても文句は言えない事態だった。魔力の供給を絶てばすぐに消えると言う知識はなんだったんだと叫びそうになりながら、自分が放った魔法なので皆が気づいていない事を知っている俺はため息を吐くと重たい口を開いた。

 「はあーーー、皆が主の事を気にする必要は無いよ。なぜならあの魔法で主は確実に死ぬからだ。其れより俺が知りたいのは主が一方的に殺されたら俺は普通の人達に何て言われるのかな?」

 「確実に死ぬ?・・・・・ハッキリ言って五幻種でも化け物呼ばわりされると思うんだ」

 「そうですわね。龍ならいざ知らず炎鳥や天狐や魔狼ではお近づきになりたくない危険生物でしょうか?」

 「は、は、は、・・・・・ヤッパリそうだよな・・・・」

 俺の口から自然と渇いた笑い声があふれ出た。

 「お兄ちゃん、如何やらあちらも動いたみたいだよ」

 香織の声に視線を向けるとついに俺の魔法が不確定領域に到達したみたいで、山から何かが飛び立つのが見えた。何かなどと言って現実逃避してみたけど、怖気の走る雰囲気をまき散らして近づいて来るその姿は主以外には考えられなかった。

 「があああああああああーーーー、不遜な人間どもよ我にたてついた事を後悔するが良い」

 咆哮と共に頭の中に怒声が届けられた。黒い体躯の羽の生えた獅子の様な姿の主は、空を飛びながら魔法で複数の大竜巻を作って俺の魔法にぶつけてきた。何もかもを巻き込んで進んでくる複数の大竜巻に即座に光の粒が反応して次々と飛んで行きぶつかっていって巻き込まれた物事全ての大竜巻を消滅させた。其れでも未だに億以上ある光の粒は魔法を放った主に向かって一斉に空を高速で飛んで行き、高速で飛び迎撃する主と空中で激しくぶつかっていた。初めは魔法で迎撃していた主だが光の粒が余りにも多くて全てを迎撃出来ないと悟ると、今度は自由自在に空を飛びまわりながら何とかかわして此方に来ようとしていた。しかし俺の魔法は一度かわしても追尾するので魔法で迎撃したもの以外は全く数が減らなかった。そのまま暫く見ているとついに主は圧倒的な数に追い詰められて上下左右全てを囲まれていた。其れでも魔法で防御する主を見て俺は感嘆と共に呟いていた。

 「へえー、強いと言われるだけあってまだ抵抗出来るんだな。まあ囲まれた以上すぐに無駄になるだろうけど」

 「貴様ーーー、聞こえているぞ。この魔法を破ったら真っ先に引き裂いてやる」

 「まあ、頑張ってくれ」

 俺の言葉に文句を言おうとしたのだろうが、その時ついに光の粒子が主の防御を破って直撃したみたいだ。

 「ぐあああああああああーーーー」

 主の悲鳴が頭に響き、怒りの唸り声が聞こえた。

 「おのれーーーー、だがまだ我には能力がある」

 主は怒りの声と共に力を振り絞って自分の周囲にあった光の粒を暴風で吹き飛ばすと、すぐに水晶の様な物で体を覆った。

 「動けなくなる欠点があるとはいえ、この強固な障壁を破る事など誰にも出来まい。全てを受け切った後で貴様を八つ裂きにしてくれるわ」

 「・・・お前それは最悪の手段だぞ」

 俺の見ている前で光の粒が次々と障壁にぶつかって行った。しかし障壁はびくともしなかった。

 「如何だ、貴様の攻撃などこの障壁の前には無駄なのだ」

 「一つ良い事を教えてやる。お前が受けている魔法は龍の間では極光の一撃とも言われている」

 「・・・なに?どこが一撃だと言うのだ?」

 俺の言葉にハッとしたシグルトが俺を問い詰めてきた。

 「一撃の方まで魔法に組み込まれているの」

 「・・・・・敵の攻撃が俺の予想以上だった時の事を考えて一応組み込んでいた」

 其れで確実に死ぬのかと呟いてガックリとするシグルトの姿に驚いた香織が話し掛けて来た。

 「お兄ちゃん、何の事なの」

 「龍は不得意な属性が無いけど時空魔法しか古代魔法を使えない。其の所為でブレスや強靭な肉体を駆使した攻撃を使う傾向が高い。だが龍とて魔法の威力を高めなかった訳じゃ無いんだ。各属性の魔法を何個か改良して古代魔法に劣らない威力の魔法を創り、秘匿しているんだ」

 「な、そんな話始めて聞きましたわよ」

 「創ったけど龍は強いから使う機会が滅多に無かったんだよ。其れに全ての龍が使える訳でもないし、俺も使えるのは半分ぐらいだしな。ほら始まるぞ、ガルーンを守る障壁を張り直したら良く見ておけよ」

 視線を向けた空には今までと違い、規則正しく動く光の粒があった。第一群が主の障壁にぶつかった。しかし今までの様に消滅する事も無く障壁に吸着し、吸着した光の粒は周囲に漂っている無魔力を吸収して力を蓄え始めた。光の粒の輝きが激しくなると第二群が其れを抑え込む様に吸着して包み込み、第一群と同じ様に無魔力を吸収して輝き始めた。後はそれの繰り返しだ。最後の群が輝く頃には遠目にも半径一キーラは超えているのが分かる巨大な球体が生まれていて、その力は誰の目にもヤバいとしか言えない物に成り果てていた。

 「おいおいおいおい、自分でやっといて何だがあんなにヤバい魔法だ何て思ってなかったぞ。俺の得た知識と違いすぎるだろうが」

 「・・・・・・あそこまでヤバい力を発揮する魔法は龍にはないから原因は強化に決まっているんだ。たぶん取り込んだ無魔力も強化された所為なんだ。消えなかった事と言い、一度強化能力はきちんと調べるべきだと思うんだ」

 俺とシグルトは冷や汗を掻きながらも辛うじて口を開いて話しも出来るが、香織とフレイは絶句して顔面を蒼白にして目を見開いていた。遠く離れているはずなのに大気が熱されて気温が五度は上昇し、激しい雷鳴が鳴り響く時の様な雰囲気がする中、主の絶叫が響き渡って力の解放が始まったのが分かった。

 「うおおおおおおお、何だ此れは・・・・・・・・・ああああああ・・・・・」

 主の叫び共に感じられる力が一気に膨れ上がり、更に冷や汗を掻いた俺は第一群が蓄えて解放した力が予想を遥かに超えている事に気づいた。そしてすぐに俺はあの中で第二群に遮られて外に出る事の出来ない力が内側に向かって殺到しているのを思い浮かべてぞっとしていた。この魔法は第二群が限界を迎えて力を解放しても第三群が同じ事をするから内へ内へと力が圧縮されてより悲惨になる殲滅魔法で、連鎖的に解放されていく力で強大な一撃を作るから極光の一撃と言うそうだ。

 「ははははは、使う俺も大概だがこんな限度知らずの殲滅魔法を作った龍は何を考えていたんだろうな。これ魔力が続く限り無限に光の粒を増やせるだろう?」

 「ははははは、龍として言わせて貰うけど普通は魔力が残っていても限界があるんだ。ロベールが言う様に魔法は使えないし、こんな威力は絶対に出せないんだ」

 俺達が渇いた笑い声を出して現実逃避している間に最後の群以外は力を解放したみたいだ。感じる力はやってしまったとしか言えない規模で、主の方は完全に沈黙しているからもはや生きてはいないだろう。

 「はあ、一応終わったな。何事も計画通りにはいかない物だな」

 「・・・・・残念だけどまだ一波瀾ありそうなんだ」

 シグルトの言葉にギョッとして球体を見ると上の方から直径五メーラはある光の柱が飛び出していた。如何やら力を内部に封じる事に失敗したみたいだ。

 「まさか・・・爆発したりしないよな?」

 「幸い安定はしているんだ。むしろ封じたままだった方が危なかったかも知れない、今外に出ている力だけを見ても桁外れで、最後の群が一度に全て崩壊して力が溢れていたらと考えただけでもぞっとするんだ」

 力が溢れた時に発生した衝撃波が障壁にぶつかる音を聞きながら、此れは暫く様子を見ないといけなくなったと思い苦笑が零れた。

 次話の投稿は31日か1日を予定しています。申し訳ありませんがご了承ください。

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